No.845947

紙の月 7話 前編

長くなったので前編後編に分割

前にも言ったかもしれないけどだいたい起承転結の起は終わったかも

2016-05-04 12:53:11 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:360   閲覧ユーザー数:360

 この日、デーキスは一人で都市の外を歩いていた。自身の拠点にしている廃墟へ戻る途中だったが、その両手は割れた木の板や木片で一杯だった。壊れた電子回路や機械なら、ハルの所で物資と交換できるが、デーキスの持っている木片は凡そ不必要な物だ。

その途中で偶然ケン・アラナルドと出会った。

「やあ、デーキス。随分重そうじゃないか。手伝うよ」

他のセーヴァ達と違い、アラナルドは友好的でそれに理知的だった。初めて会った時も、デーキスに親身に接してくれた者の一人で、デーキスも彼を信用していた。

ただ、ウォルターが彼を嫌っているため、話をする機会があまりなかった。こうして彼と話すのは久しぶりだ。

「助かったよケン。ありがとう」

「一人みたいだけど、ウォルターはいないのかい?」

「ウォルターは今、ハル……一人でどこかに行ってるよ。アテが外れた、とか言って」

 雑談をしながらアラナルドと一緒に廃墟へと向かう。ウォルターはデーキスの超能力が役に立たなかったため拗ねてしまっていた。

 ついこの前、デーキスはやっと自分の意志で超能力を使えるようになった。自由に自分の周囲に放電現象を引き起こすという能力で、デーキスが試した結果、手で触れた物にも電気を流せることが出来ると分かった。

 ウォルターはデーキスのこの力を、機械を動かす電力に使おうと実行したのだが……

「まだ力の加減が上手くいかないんだ。おかげでウォルターが集めた貴重な機械を全部ダメにしたんだ……」

「いや、能力を自由に使えるようになっただけでも凄いさ。僕だって、最初は上手く行かなかったんだから」

 また、その時分かったことだがデーキスは電気を操れるが、彼自身には電気に対する抵抗はないようだ。直接触れて電気を流そうとした時、感電してしまい危ない目にあった。

「実際そんなものだよ。炎を操れる超能力を使えても、特別熱に強いわけじゃない。」

「そっか、やっぱり普通の人と変わらないよね……あ、ここだよ。ぼくとウォルターが生活している廃墟は。今はウォルターもいないし、入っても大丈夫だと思うよ」

 廃墟は元々、四階建てくらいの小さなビルだった建物で、窓や入り口のガラス部分は全てなくなっているが、経年による劣化は比較的少ないため、デーキスとウォルターはこの廃墟で寝泊まりをしていた。

 デーキスたちの他にも、この廃墟を拠点にしているセーヴァが何人かおり、デーキスたちが戻ってきた時も、部屋の隅で寝ている者がいた。

「食べ物や水は他の場所に隠してるんだ。こんな場所じゃあ、何時盗られるか分かったものじゃないから」

 セーヴァ達の生活に必要な物は、全てリーダーであるフライシュハッカーから支給されている。しかし、その量は必要最低限の分しかないため、それ以外は都市から廃棄される残飯やゴミの中から見つけるか、他の者から奪うしかない。

 フライシュハッカーの目があるため、一応は他者から奪うことは禁止されているが、誰も見てないところでは、当然のように盗まれる。なので皆、食料や水はどこかに隠している。

「この荷物はどうするんだい?」

「それは上に持って行くんだ。もうちょっと我慢してくれる?」

 アラナルドを廃墟の最上階に案内する。最上階は天井が殆どなく、他のセーヴァたちも立ち入ることが少なかった。その最上階で、デーキスはある物を作っていた。

「デーキス、これは一体何?」

 床には歪な木の板が置かれてあった。

「ペーパームーンって言うんだ。木で作ったお月様。これを作るのに木材を集めていたんだ」

 元々、劇場であった廃墟で見つけたものを、デーキスが再現した代物だ。見つけた方はスタークウェザーに壊されてしまったので、それ以来少しずつ材料を集め、記憶を頼りに再現したのだ。

「どうして、わざわざこんな物を作ってるんだい?」

「えーと……ウォルターにも聞かれたけど、セーヴァは月が水色っぽく見えるよね……?」

 セーヴァの特徴の一つに、月が緑青色に見えることが挙げられる。その理由は、月の周囲の空間に漂う『クオリア』と呼ばれる原子が、変質しているのを色として認識しているからだという。

「でも、ペーパームーンは他の人が見てるのと同じで黄色に見えるよね? だからさ、ウォルターはどうでもいいって言ってたけど、超能力者のセーヴァも普通の人も変わらないって思うんだよ。今まで普通に学校に行って、友達と遊んで、家に帰って……でも、セーヴァになったらどこかに連れて行かれて……いきなりみんな変わって……!」

「デーキス……」

 アラナルドが何かを言いかけた時、頭痛か耳鳴りのような物を感じた。デーキスも顔を歪めていることから同じように感じているようだ。

「デーキス、君も感じたのか?」

「うん……フライシュハッカーが集合をかけてるみたい……」

 セーヴァ達のリーダーであるフライシュハッカーが、どこかに行った他のセーヴァたちを集める時、常に自分の側にいるセーヴァの一人に、テレパシーを送らせて集合をかける。こうして、時間も手間もかけず、すぐに統率性のない子どものセーヴァを集めているのだ。最も、他のセーヴァたちからしてみれば、貴重な食料が貰えるかもしれないという理由があって集まっているだけなのだけれども。

 テレパシーを受けたデーキスとアラナルドがほら貝塔に着くと、既に多くのセーヴァが集まっていた。

 集まっていることはいるが、みな雑談をしていたりじゃれあっていたりと、取り留めも何もなかった。フライシュハッカーの姿も見えず、まだ集会は始まっていないようだ。

「何だ、デーキス。そんな奴と一緒なのか?」

 先に着いていたウォルターが、二人を見つけて刺々しく言った。

「酷い言い方じゃないか。僕がデーキスと一緒にいる事の何が悪いんだ」

「けっ、オレはお前みたいないい子ぶった奴が大嫌いなんだよ。デーキスを子分にでもするつもりなんだろうが、お前の考えなんかお見通しだぜ」

「一方的に人を悪者みたいに言うなんて、そんな態度を両親は何も言わなかったのか!」

「何だと……!?」

 デーキスが口喧嘩を始めている二人の前に、どうしたらいいのか狼狽えていると、先程まで騒がしかった周りが静かになっていたことに気がついた。

 どうやらフライシュハッカーが姿を見せたので、騒がしい他のセーヴァたちも静かになったようだ。遠目に彼らしき、白い髪をした少年が見えた。

 その変化に二人も気づいたみたいで、喧嘩をやめて彼に注目した。

「みんなよく集まってきてくれた。今回は大事な話があるから、もっと近く僕の周囲に集まってくれ」

 のろのろとフライシュハッカーに近いセーヴァたちが動き始め、つられて他のセーヴァたちも動き始めた。彼の言葉が聞こえなかったデーキスたちも、彼らについて行き、フライシュハッカーが中心になる形に集まった。

「皆、よく集まってくれた。今回集まって貰ったのは、とても大切な話があるからだ」

 先程よりも近くでフライシュハッカーが見えるが、デーキスは彼を見るたびに奇妙な違和感を感じていた。その原因はまだわからないままだ。

「先日は都市の中にいるアンチの連中、大人たちと連絡を取りに行っていたが、どうやら内部争いのような物が起きてるみたいなんだよ。愚かなことにね……」

 隣りにいたウォルターが、興味ないとばかりにあくびをした。他のセーヴァたちも恐らく同じだろう。彼らが聞きたいのは食料を貰えるかどうかであり、大人たちの争いなど、どうでもいい事だからだ。

フライシュハッカーが話を続ける。

「ここまでなら、僕達には全く関係ない話だけど、その内部争いをおこした連中が、ここにいるセーヴァを取り込んでいたとなれば話は別だ」

 周囲の空気が張り詰めるのをデーキスは感じた。少し後にざわめきが起こる。

「みんな驚いてるようだけど、その当事者が一緒になって驚いてるのは随分と滑稽だね。そうだろカフ、クラウト?」

 フライシュハッカーの口から、聞いたことのある名前が出てきたことにデーキスは驚いた。

 カフとクラウト。超能力を使う双子の悪童。二人共念動力で物を自在に動かす力を持ち、その力でデーキスもひどい目にあった。

「隠れてないで出てこいよ。そこにいるのは分かっている」

 フライシュハッカーが指をさすと、そこにいたセーヴァたちが一斉に身を引いた。その先にあの双子がフライシュハッカーを睨みつけるようにして座っていた。

 同一人物のようにそっくりだが唯一、前髪だけを鏡写しの様に左右反対に切り上げている。それが二人を見分ける目印。だが、どっちがカフでどっちがクラウトなのかデーキスはまだおぼえていない。

「大方、自分たちが優遇されるとでも言われたからアンチの裏切り者どもに加担したんだろう。自分たちが利用されると知らずに、幼稚な奴らだ……」

「い……言いがかりは止めろ! 僕たちは何も知らないぞ!」

「証拠はあるのか!」

 双子の反論をフライシュハッカーは鼻で笑うと、誰かを呼ぶように手招きをした。

 すると、襤褸の布切れを纏ったみすぼらしい少年がパタパタとフライシュハッカーに駆け寄ってきた。年はデーキスよりも幼く、8歳か9歳くらいだろうか

「彼は僕の親友の『ニコ』だ。当然だが彼も超能力が使えるんだけどね、彼は『他人の過去が視える』んだよ」

 フライシュハッカーが馴れ馴れしく、ニコと言う名の少年と肩を組む。一方で、ニコは一瞬ビクリと肩を震わせた後、その小さな身体をさらに縮こませる。まるでフライシュハッカーを怖がっているようだ。

「ニコ、あの双子を見てくれよ。何が視える?」

 おずおずと顔を上げると、ニコは双子の顔をじっと見た。少しの間、双子を見つめていたニコは、フライシュハッカーにそっと耳打ちをした。

「へえ、あいつらがアンチの男と話をしてるが視えたって? しかも、その男の顔が僕の言っていたアンチの内部争いに関わっていた物だって……」

「嘘つくな! そんな奴の言うことなんか信じられるか!」

 双子の怒鳴り声に、ニコは身体を震わせる。

「信じるよ。彼には嘘をつく必要が無い」

「そいつがその連中と付き合ってるんじゃないのか? それで、僕らを利用して……」

「それも、ありえないね。だって言っただろう? 彼は僕の親友だって……」

 フライシュハッカーがニコを離すと、一歩前に出て双子を睨みつけた。

「僕を裏切ろうとした罪は重いぞ。どうなるか、僕自身が教えてやろう」

 途端に周囲のセーヴァがフライシュハッカーと双子たちから離れる。

「デーキス、お前はまだ見たことなかったな。始まるぜ、フライシュハッカーの公開処刑が……」

 セーヴァになってから日の浅いデーキスに、ウォルターが囁いた

 


 
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