「では、次は月ちゃんお願いしますー」
「はいっ♪」
嬉しそうに、元気よく返事をする月。
月は自分の使命を『詠が如何に一刀のことが好きなのか』を皆に分かってもらうことだと思っている。
これも詠ちゃんのため!と張り切っているのだ。
「月ぇ~…」
そんな様子の月に、詠はどうしても不安が拭いきれない。
「詠ちゃんは、ご主人様のことが大好きなんです!」
「ギャー!!ちょっと月!いきなりなに言ってんの!?」
開戦直後の奇襲に、さしもの名軍師も仰天する。
「本当は私と同じくらい…うぅん、私なんかよりずっとご主人様のことが好きなのに、いつも私に遠慮して一歩下がっちゃうんだよね?」
「そんなことない!ボクは月のことが一番大切で、月が…アイツのこと好きなのは知ってるから、だからボクは…」
「嘘。私知ってるよ。詠ちゃん、一人でご主人様のお部屋をお掃除するとき、ご主人様の服、ギュってしてるよね?」
「ちょおっ!!?」
月の爆弾発言投下で、詠の顔も爆発寸前だ。
「私もたまにやるんだけど、ご主人様の服をギュってするとご主人様の匂いがして、ご主人様にギュってしてもらってる気持ちになれるんだよね」
「ご主人様に…」「ギュッ…」
月に幸せそうな語りに、思わず翠と蓮華が息を飲む。
「あれは……違う…そう、違うのよ!あいつ、いつもあの服だから洗った方がいいんじゃないかなぁ~って、臭いを確かめてただけなのよ!」
「やっぱ嗅いでんじゃねぇかよ」
「うぐぅ……」
小夜叉のツッコミに弁解の口が止まる。
「詠ちゃんが私のこと大切にしてくれるのは分かってるよ。でも、そのせいで詠ちゃんが自分の気持ちを抑えちゃうのはイヤ。詠ちゃんの幸せは、私の幸せなんだよ?」
「月…」
嬉しいやら恥ずかしいやら、もはや完全に涙目の詠。
「美しき友情なのです…詠ちゃんは思春ちゃんと似た型のようですね~。それに、軍師特有のムッツリが加わった感じでしょうか~」
と、風はいい感じをいい感じでまとめる。
「さて、お次は柘榴さんと松葉さんにお話を伺いましょう」
「っす~」「ん」
「お二人には、美空さんと愛菜ちゃんのことをお聞きしたいのですが~?」
「柘榴…松葉…アンタたち、分かってんでしょうね…?」
溢れる殺気を隠すことなく、厳しい目つきで二人を威嚇する。
が、二人も名うての武将。
どこ吹く風とばかりに受け流す。
「御大将は、つんでれ…」
「間違いないっす!」
「ふんっ!」
不機嫌そうに顔を背けるが、以前に美空自身も剣丞から言われていたこともあり、これに特別異議は無いようだ。
「ただ、御大将は他の人よりデレが薄いように思うっす」
「甘え方を知らない。だからツンツン」
「うっさいわねっ!」
「御大将は感情が大きい。怒りも悲しみも、愛も憎も、深い」
「もしかしたら、甘え方が分からないあまり、スケベさんの首を絞めて殺りそうになってたり…」
「なんでアンタが知ってんのよ!?」
声を出してすぐにハッとなる、が時既に遅し。
「え~~……」
「さすがに、引く…」
「う、うるさいうるさいうるさいっ!アンタたち、洛陽の城壁に吊るしてやるからねっ!!」
捨て台詞を残すと、脱兎の如く部屋を飛び出した。
「あーあっす」
「起伏、激しい」
「ちょ、ちょっと…あれは大丈夫なのか?」
さすがに翠が心配する。
「あぁ、大丈夫っす」
「…寝たら忘れる」
「いや…さすがに、それは……」
思春も冷や汗を一筋垂らす。
「では、愛菜ちゃんはどうでしょうか?」
「愛菜は…」
「……どやぁ?」
事の成り行きが全く分からなかったので、足をプラプラさせながらも、珍しく大人しく座っていた愛菜が、話が自分に及んで首を傾げる。
「…子ども」
「あー……いるわよね~。素直になれない子どもって」
「でも、そういうお子さんも可愛いですよね」
松葉の答えに雪蓮は苦笑い、月は少々焦点がずれているが、満面の笑み。
「愛菜ちゃん。剣丞さんの事はどう思っていますか~?」
風が愛菜に尋ねてみる。
「スケベ殿は美空さまの良人なのです。空さまの恩人でもあるので、この越後きっての義侠人樋口愛菜も一目置いておるのです。どやぁ?
別に愛菜がどうこう思ってるわけじゃないんだからね!」
「おぉ~」
愛菜の物言いに風がパチパチと拍手を送る。
釣られて何人かも手を叩く。
「これぞ、つんでれ…愛菜ちゃんの今後の成長に期待しましょ~」
「どやっ!」
期待、という言葉にだけ反応してドヤ顔になる愛菜。
「それでは最後に、各務さんにお話をお伺いしましょー」
「はい」
一人の女性が所作優雅に立ち上がると、
「皆さまご機嫌麗しゅう存じます。お嬢の下、森家の副将を務めております、各務元正と申します。お歴々の方々におかれましては、お引き立てのほど、よろしくお願い致します」
滑らかに一度お辞儀をする。
ほぅ、と誰かが感嘆の息を漏らす。
その楚々とした立ち振る舞いは、礼法を修めているとはこういうことだ、と体現しているような女性だ。
「おい、各務よ」
一方、礼って旨いのか?とばかりの態度の小夜叉。
「オレに今まで連中みてぇな甘っちょろい話なんざ、ありゃしねぇよな?」
「甘っ…!」
思春がギロリと睨むが、小夜叉には通じない。
「だいたいなんでオレが…つんでれ?の集まりに呼ばれたんだって話だ」
「さぁ…そればかりは剣丞さまの御心のみぞ知る、ということでしょうけれど…」
各務は困ったように、はにかんだ。
「チッ…ったく、帰ぇるぞ」
一応、義理を立てて付き合っていた小夜叉だが、これ以上は付き合いきれんと立ち上がる。
「一つだけ…」
「あ?」
「一つだけ、お話できることが御座います」
「んなっ!?」
目を見開き驚愕の表情。
「んだ各務テメェ!オレぁ知らねぇぞ!?」
「いえ、お嬢はご存知のはずですよ?私は先代からの又聞きですが」
「ぁんだと…?」
母の名を出され、それがハッタリではないことを知る。
母の名を騙ってまで座興をする人物でない事は、小夜叉が一番良く知っていた。
しかし、目を瞬かせて考えを巡らすが、心当たりはないようだ。
「それは先代、お嬢、そして剣丞さまの三人でいらっしゃった時のことでした」
「…?」
どの時だ?あの鬼の巣か?それともこっちの……と小夜叉は記憶を総ざらいする。
基本的に、その三人でいる時は鬼の巣を潰しに行ってる時だからだ。
「先代が戯れに、剣丞さまを小夜叉の婿にというお話になり…」
「あっ!」
小夜叉もようやく合点がいったようだ。
「以前に剣丞さまを良人に、との段では照れなど微塵も見せなかったお嬢ですが、祝言を上げるという段になった途端、女を見せ始めたそうで…」
「テメェ!やめろ各務ィ!」
「先代は私に笑いながら話してくれました。まったく、クソガキが色気づきやがって!テメェは生娘か!?……生娘か!わっはっはっ、と…」
ドゴーーンと音を立てて、戦国側の机が消し飛ぶ。
「コロスっ!」
小夜叉が、文字通り夜叉の顔をして各務に襲い掛かる。
手には人間無骨が握られていた。
「お嬢とガチも久しぶりですね…」
各務は冷静に微笑むと、
「かかってこいやオラァア゛ア゛ア゛!!ナメてっとテメェの首が消し飛ぶぜや!」
一瞬で豹変した各務は、どこから取り出したのか、大身の刀で小夜叉の一撃を受け止める。
その風圧で各務たちの机も大破した。
「止めんか!小夜叉!各務!」
小夜叉の動きをすんでで察し、愛菜を救出した壬月は二人を大喝する。
が、殺り合いを始めた二人に届こうはずもない。
「これは新しい型ですね~。やんでれ、というものがあるとお兄さんに聞きましたが、小夜叉ちゃんの場合は、殺るでれ、とでも名付けましょうかー」
「そんな事はどうでもいいですから!風さま、早くこちらへ!」
何事も無いように話をまとめる風を、避難誘導をしている凪が促す。
「朝まで生討論、そろそろお別れのお時間ですー。今日は、つんでれについてのお話でした~」
閉会の言葉の後ろには開会を告げた音ではなく、激しく鳴り渡る剣戟が鳴り響いていた。
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どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、73本目です。
募集をかけていた幕間の唯一のリクエストです。
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