No.843107

真恋姫無双~年老いて萌将伝~ 七

今回の書き溜めはここまでとなっております

2016-04-18 23:03:22 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:3937   閲覧ユーザー数:2865

 

結果から言えば、軍事演習は一人の大馬鹿者のせいで惨憺たるものとなってしまった。

幕舎で思いつき、月の号令によって恋の部隊に合流してすぐに北郷が繰り出した奥義とは、人間砲弾。

恋の方天画戟によって投げ飛ばされた北郷は、一直線に孫呉の牙門旗に飛んでいく。

決まったか、と見ていた誰もが思った。

しかし、孫呉もさるもの。それを見越したように牙門旗は北郷を躱す。

雪蓮は「この戦の中で一番ありえないことは何だ」と聞く冥琳に、「さぁ。御遣いでも飛んでくることじゃない?」と答えたそうだ。

冥琳からその報告を聞いた蓮華はすぐさま牙門旗を動かす準備を始めたと聞く。

そして、その狙い通りに、北郷を躱した。

後々聞いたら北郷は着地のことを考えていなかったらしく、幕舎に突っ込んだが、天幕が緩衝材となって事なきを得たそうだ。

だが、話はここで終わらない。

牙門旗を再度、地面に固定したその時だった。

そこをめがけてまっすぐに飛んでくる閃光があった。

牙門旗をへし折ったのは方天画戟。

恋は北郷を投げ飛ばし、それが躱されるのを見た後で、あてるつもりで投擲したと言っていた。

そして見事に命中させたのだ。

横紙破りもいいところの大技を命中させ、規則上、董卓軍の勝利となった。

ちなみに、その命中があと一刻遅かったら、董卓軍の陣中に明命と思春が到着していたそうで、ぎりぎりの勝負だったそうだ。

つまり、月の決断が少しでも遅ければ。

呉軍が混乱したときの蓮華の激があとすこし早かったのなら、勝負はわからなかった。

 

ついでにいうと、その後の試合はもっとひどく、開始早々春蘭が剣撃一閃。

御遣いが帰還したあの日に見せた例の技で、蜀の牙門旗を切り倒し、食らわされたほうからはもちろん大顰蹙だった。

加えて、最終試合も…

「まさか最終的には武器の投擲し合いで決着とは…ひどいものでした…」

「あれ笑っちゃったよね。でも凪もノリノリで気弾連発してたじゃん。」

「あ、あれは…!」

 

結局、北郷の大横紙破りのせいで規則なんてあってないようなひどい試合となってしまったが、如何せん戦場に飛び交う技がド派手なもので、民や観客受けは頗るよかった。

 

「最初は文句たれてた孫策も観客にまわった途端ヤジるわ笑うわで忙しかったっていってたし、なんかわかんないけど満足してたんだろ?

 だったら、ま。いいじゃない?」

 

恋に投げ飛ばされて宙を舞う北郷の姿は、実際に戦場にいて恋に突っ込んでくる雪蓮の上を超えていったという。

その姿を雪蓮はじめ孫呉の兵は口をあんぐりと開け、観客として見ていた蜀軍の面々をして爆笑せしめ、ただ一人北郷という存在を隠そうと躍起になった華琳はこめかみを抑えたという。

試合には勝ったが、勝負には負けた。

それもたった一人の男の、とんでもない独断のせいで。

それこそ、かの覇王でも頭が痛くなるというものだ。

 

「相変わらず突拍子もないことをすると、華琳様も怒っていらっしゃいましたよ…」

「え~、でも蒲公英的にはあれ最高だったと思うよ?

 まさか孫呉の方があそこまで読めてて避けるなんて想像してなかったけど、それでもやっぱり、まさかだよ。

 月まで引っ張りだして主役の場から引き釣りおろした人が、まさか…飛ぶなんて…」

 

その場面を思い出し蒲公英は口元を抑え肩を震わせる。

 

「俺もまさか読まれてるとは思わなかったよ。人間砲弾。そりゃ原作者も監修に入るってもんだ。」

「おっしゃっている意味はわかりませんが、もう二度とあのような無茶はやめてください!」

 

いつものように凪にお小言を頂戴しながら、警邏を続ける三人。

ちなみに、今は三国合同のお祭り事は殆ど終わり、残すは互いの交流期間としての自由時間みたいなものらしい。

そして、そんななか、魏延との一件で妙に懐かれてしまい、北郷は現在凪と蒲公英とともに警邏にあたっていた。

 

「あんな無茶はさすがにもうしないし、する機会もないんじゃないかな?」

「…!またそのように呑気なことを!

 だいたい隊長はいつだってそういって自重してくださった試しがないじゃないですか!」

「そこはほら、俺と言う人間の一つの特徴ということで…」

「なりません!そういって…もう二度と…

 二度とあのような思いはしたくないんですから…!」

 

今回の一件について軽口を叩く北郷に対して、えらく感情的になる凪。

凪はおそらく彼に起きたことを、いまだどこか、彼に無茶を押し付けた自分のせいに思いっているのかもしれない。

だからこそ、もう二度と、あのような別れ方をしたくないからこそ、声を荒らげて北郷に抗議する。

 

そんな様子をみて、ふと、蒲公英はちいさな疑問を投げかけた。

 

「ところでさ、凪とおじさんって、なんでそんなに仲いいの?」

 

その一言に、二人は言い争いをやめ、蒲公英に向き直る。

 

「いや、そんな『なんて当たり前な事を聞くんだろう』みたいな顔で見ないでってば。

 二人の性格からして、全っっ然仲良くなりそうもないじゃん。

 こういっちゃなんだけど、おじさんはちょっと蒲公英寄りの性格してるし、凪は焔耶よりの性格でしょ?

 だったら、蒲公英たちみたいになりそうなもんだけど、そうでもないし。

 そんなに仲良さそうにしてるのって、なんでなのかなって思っただけなんだけど…」

 

蒲公英のそんな疑問に、さも当然だろうといった表情で、北郷は返す。

 

「あれ、華琳から俺の話はみんなの前でしたって聞いたけど、その中でそんな話なかった?」

「そういえば、あの時はそんな話は出ませんでしたね。でもあの一件はあくまで私と隊長の個人的なことですから…」

 

北郷は小声でそんなことを確認して納得の表情を浮かべた。

 

「それもそうか。そんなに大した話じゃないからな。」

「ちょ、ちょっと。そっちで完結しないでってば。蒲公英にも聞かせてよ!」

「べつに、そんな面白い話でもないけど聞きたいなら話してやれば?」

「や、やめてください!恥ずかしいです!」

「きーきーたーいー!ねぇ、おじさんお願い!」

「ん~…凪がこういってる手前俺から話すわけにも…」

「ねぇ凪ちゃん!凪様!お願いします!」

 

蒲公英が興味をひいたそれは、しかし彼ら二人にとっては語る程でもないことなのだろう。

気を抜けばあっという間に話題が終わって次の話に行ってしまいそうになるのを、蒲公英は必死につなぎとめ食らいつく。

 

「お~ね~が~い!ね、このとおりだから!」

「わかったから…そんな面白い話じゃないけどそれでいいなら今晩にでも話してあげるから…」

 

終いには北郷の服の裾を掴み恥も外聞もなく食い下がる蒲公英に対して、二人は折れるしかなかった。

~~~~~~

 

その夜。

北郷隊御用達の酒場では、警邏隊の古株と、三羽烏、蒲公英、そして北郷一刀があつまり大シャギをしていた。

 

「最初はひどいもんやったで~!

 凪は堅物やしたいちょ~は適当やし、いっつも言い争いしとったな!」

「そうなのー、おかげで沙和たちはいっつも仲裁にはいってばっかりだったの~!」

「嘘をいうな!お前たちだってサボってばかりいたではないか!」

「…ん?サボる…って、何?」

「ははっ。なんかそれも懐かしいな。」

「せやな、ちょうど、そんな感じやってんな~。」

「も~、わかんないよ!早く教えてってば!」

「わかったわかった。ほんとにそんな感じだったんだよ…」

 

………

…………………

 

「全然サボってねぇよ!」

 

凪が見回り中、気弾で通りに大穴をあけたその翌日だっただろうか。

朝一番、詰め所にきて早々の北郷はそんなことをいいつつ持ち場についた。

しかし、そもそも朝一番という言葉自体がすでに嘘であり、太陽はそろそろ頂に届かんとするそんなような時間に、この挨拶である。

当然、隊長補佐として赴任した新任の三羽烏は訝しげな表情をもって、自らの所属する部隊の一番偉いその人を迎えた。

 

「すみません、隊長。まずもってサボって…?という言葉の意味がよくわかりませんし、そもそもなぜこの時間に隊長がこうしていらっしゃるのか、それも理解いたしかねます。」

 

三人を代表して口を開いたのは、真面目が服を着て歩いているとも形容される楽進こと凪だ。

 

「ん?あぁ、サボるって伝わらないのか。あ~…なんていうんだろうこれ。

 え~…あ!そうそう、怠けるとかそういう…って何を説明してるんだろうね俺は。」

 

そういってそそくさと仕事につこうとする北郷を取り囲み皆が皆、口々に彼を詰問する。

 

「警邏隊の仕事がちょ~と自由がきく、いうてもさすがにちょ~っと遅すぎるんと違う?」

「沙和達の隊長さんなんだから、もうちょっとしっかりしてくれてもいいの!」

「目上の方に対してこういうことを言うのははばかられるのですが、隊長がそのようでは他に示しがつきません!」

 

そんなとき、三人の言葉を聞いているのかいないのかパッと見はわからない男は、木簡を広げ整理にかかった手を止め、困ったように頭を掻きながら、決まって三人にこういうのであった。

 

「ごめんね、みんな。でもこれが俺の仕事だからさ。」

………

…………………

 

「そうですよ。隊長は最初いっつもそればっかりでした。

 だから私は言い返しましたよ。隊をまとめ、率いることが隊長の仕事ではないのですか、と!」

 

だいぶ酔いが回ってきたのか、北郷の腕に取り付いたまま凪はまくし立てる。

 

「もっとしっかり話してくれれば最初から何事もなかったんです!」

「だから、悪かったって何度も謝っただろ?あのときは俺だって、こんな大所帯任されていっぱいいっぱいだったんだから。」

………

…………………

 

当時の北郷の働きぶりは、というと決して褒められたものではなかっただろう。

やれ季衣の買い物を手伝うといっては街を走り回り、流琉の荷物を山のように積み上げて運んだり、春蘭秋蘭に荷物のように引きずられたり、桂花に蹴られなじられせっつかれこそこそとその後をついてまわったり。

時には華琳のお供をしていたり。

それを勤務時間が割り当てられている最中にやるというのだから、それは誰がどうみたって…

 

「隊長!隊長がそれでは示しが付かないと言っているではないですか!」

 

例えばそれが凪でなくてもこういう。

 

「いや、たしかに遅れたのは俺の見込みが甘かったわけだから申し訳ないのだけど…」

 

明らかにご立腹の凪を前に、それでも食い下がる北郷であったが、多勢に無勢。

 

「でも先程まで隊長が女性をつれて歩いているところを目撃している隊員は多いのです!

 これでは隊員たちの士気に関わりますし、何より隊としての規律が乱れます!」

「それに関してはいちおう業務内…」

「またまた~。流石にその言い訳は苦しいで隊長。」

「信じてってば!」

「無~理~な~の~!」

 

すでに北郷の言葉は言い訳にしか聞こえないような状態だった。

取り付く島もないとはまさにこのこと。

女所帯でよくやっている方だと言われる魏の中ではよくやっている北郷だったが、やはり多勢に無勢といえよう。

だが、そんな状態をみて、何故か北郷は安堵の息を漏らす。

 

「でも、まぁみんながそんな感じなら、俺の仕事の成果も多少出てるってことか?

 みんなが、ちゃんとみんなの仕事ができてるようだしね。

 さぁ、それじゃあ遅れた分取り戻すために今日も働きますか。」

「あ、隊長ってば露骨に話題を逸らしたの!」

「強引やな、ほんま。」

「そう言うなって、ほら行くぞ!」

「あ、お待ち下さい隊長!まだほかにも…」

………

…………………

 

「思い返せば、私たちは、注意を促され、口頭で叱られたり、小さい罰を受けることはありましたが、謹慎や罷免といった重大な処罰をされることはありませんでした。」

 

酔いも少しおさまったのか、宴会場から先程までの熱は引いてきていた。

 

「私達だけじゃないの。警邏隊の先輩方もそうだったはずなの。」

 

沙和のその言葉に、皆誰と話に頷く。

 

「そうでさぁ!俺たちはたしかにちょっと減俸くらったりしたけど。

 あの曹操様の下でだれも首が飛んでねぇんでさぁ!」

「ははぁ~っん?蒲公英ちょっとわかっちゃったかも!」

………

…………………

 

そんなことが続いていったある日のことだった。

 

「さすがにこれ以上は見過ごせない。」

 

遂に凪の怒りが爆発した。

確かに北郷は警邏隊長として隊に出て、陣頭指揮もこなしている。

しかし、なにか大きな事が起きるときまって、出動が遅れがちになる。

かくいう今日も、隊員が流れの商人と揉め事を起こし、ちょっとした流血沙汰があったばかりだというのに、早番にこなかったのである。

それでは、どうしても隊員に示しが付かないではないか。

隊長補佐としては、これはすでに見過ごせない所まで来ている、と判断した。

 

「今日という今日は華琳様に直談判しなければならない!」

 

凪はその日ちょうど予定されていた朝議に先んじて華琳に報告するため、沙和と真桜をつれて大股で広間に向かっていた。

凪に追従する二人も自分たちがサボっていることもおおい手前あまり強い態度では出られないにしても、彼のあまりの態度に思うところはあった。

そのため、三人であれも報告しよう、これはどうだ、とやいやい北郷のこれまでの所業を論っていたのだが…

もう少しで広間につこうというところだった。

 

比較的に早く来たつもりであった三人の耳に、聞き慣れた声が届いた。

 

「なんや?この声…」

「あぁ、広間から隊長の声が…」

 

すでにいるならこれ幸い、と思ったのだろうか。凪はそのまま広間に入っていこうとしたが、それを沙和が急いで静止し、扉の裏側に身を潜め、耳をそばだてる。

 

「しっ!ちょっと!こんな面白そうなこと見逃せないの!」

「こら、沙和やめ…」

「凪ちゃん静かにするの!真桜ちゃんもこっちきて!」

「おうともさ!」

 

そんな沙和に同調し、真桜も身を潜めた。

本来彼女たちを諌め、盗み聞きなどさせないであろう凪も、今度ばかりはそのあまりの間の良さにつられ、二人の話の内容が気になったのだろう。

隊長が一体どんなことを話しているのか。

どんなふうに叱られているのだろうかと。

そんな期待もあったかもしれない。

三人は、はやる気持ちを抑えて、息を潜め広間の様子を伺った。

そこにいたのは、我が国の長たる華琳と、地に頭は伏しているものの、普段見せないような真剣な声色で何かを懇願する北郷だった。

 

「頼むから、もう少し様子を見てくれ。この通りだから。」

 

地に頭を擦り付け、必死に何かをこう北郷。

 

「そうは言ってももうこれで何度目かわからないのよ?

 それなのにあなたはまだ機会をよこせと、そういいたいの?」

 

苛立っているのか、しきりに足を組み替え指は所在無げに動いているが、しかし華琳の表情はしぐさの示すそれとは違っているように見える。

 

「そうだ。警邏隊はまだ本格的に動き出したばっかりだから。

 もうすこし経過を見守ってほしいんだ。やっと訓練の方も調子がわかってきた。

 隊長補佐もようやく回り始めた。

 警邏隊は、これからなんだ。」

 

そんな様子に目もくれず、額を地につけ、北郷は言った。

 

「それはもう何度も聞いたわ。確かにあなたの言うとおり検挙率も犯罪件数も減少傾向にあります。

 でもそれをもって今回の件を見過ごすことはできないわ。

 信賞必罰をもってけじめをつけなければならないことくらい、わかっているでしょう?」

「わかってる。わかってるからこうしてる。」

「はぁ…毎度毎度、よくそう頭を下げられるわね。

 まぁ、私としては、筋の通った解決を見せてさえくれればよいのだけれど。

 それで、今度もまた、あなたの監督不行き届き、として処理したらいいのかしら?」

「それでかまわない。件の隊員には俺からしっかりいって聞かせるから。」

「…わかりました。では、そのように処理しましょう。」

 

やれやれ、と肩をすくめる華琳の顔には、しかし楽しげな表情が浮かんでいた。

しかし、それをいつもの威厳ある表情へと戻すまで。

北郷は額を床から一度も離すことはなかった。

 

二人の話はそれで終わったのか。

遂に顔をあげ立ち上がる北郷に、華琳は続けて問う。

 

「まったく…。それで?あなたにはもうひく俸給はないわよ?」

「え゛…。それほんとう?」

「それはそうよ…あなたね、今までこんなことが何件あったと思っているの?

 しかたないから、またどこかの隊の下働きでもなんでもしてもらって相応の罰とさせることになりそうね。」

「どうかそれでよろしくお願いします。」

「そろそろ、私も呆れて言葉もなくなってくるわよ?

 私は一体何のためにあなたに高い禄を食ませているのかわからなくなるわ…

 あなたがそんなことだから部下にうるさく言われるのではないの?」

「でも、まぁ、俺がだらしないのは確かだし…それに…これが高い給料もらって隊長なんて名前は背負ってる理由だからなぁ。」

「へぇ…それは一体どういう意味なのかしら?聞かせてもらえる?」

「だって、俺は隊長なんだろ?上に立つ人間なんだから…」

………

…………………

 

「あの言葉、今でも忘れられません。」

「せやなぁ…ほかのこともいろいろあったけど、あれがきっかけやった、っておもうわ。」

「だよね~。」

「なになに!ねぇ聞かせてよ!なんて言ったの?ねぇなんて言ったの!?」

………

…………………

 

その話を隠れて聞いていた三人は、声もなく顔を見合わせていた。

 

「知らんかったなぁ…」

「ぜんぜん、知らなかったの…」

 

もしかしたら、自分たちもなにかやらかした時、こうやってかばってもらっていたのかもしれない。

思えば、警邏隊の仕事はけっして気楽だ、とはいえないけれど、それでも自由のきくものだった。

やりたいようにやれる。

それは、偏に統治する華琳の度量の広さだと思っていた。

しかし、そうである。この国は称えるべきを称え、罰するべきを罰する国だ。

三人は、そんな気風に惹かれてここに流れ着いたのだから。

 

「隊長…そういうことだったのですか…」

………

…………………

 

「凪達が俺にだいぶやさしくなったのは、それ以降だったよ。」

 

ついにほぼ全員が轟沈し、介抱も一段落ついたあと、夜風にあたりながら北郷は話す。

 

「やっぱ、おじさんキザだね。もちろん、褒め言葉として受け取って欲しいんだけどさ。」

 

一人、話が気になって酒の量が控えめだった蒲公英がその相手をしていた。

 

「聞かれてたって知ったときは恥ずかしかったけど。

 でもそれ以降、凪たちはより一層献身的に働いてくれたよ。」

「そりゃねぇ。だって、あんなこと言われたら蒲公英だってそうしちゃうよ。

 そうか~、そんなことがあったら、そりゃ焔耶と蒲公英みたいな関係じゃなくなるよね。

 話してくれて、ほんとうにありがとうございました。」

「ははっ。まぁ、気が済んだならよかった。すこしはおもてなしできたかな?」

 

微笑むその笑顔に、少女はドキリとしつつも。

それを酒のせいにして、昔話と酒宴はこれにてお開き、と相成った。

………

…………………

 

その一件以来は、すでに皆も知るところであろう。

以後、数年かかって大陸一と称された警邏隊は、徐々に力と、民の信頼をえて大きくなっていた。

後に、警邏仮面として持て囃される男のかっこつけは、すでにこの時から始まっていたのかもしれない。

警邏隊を率いた男は、その男は、王たる少女の問いにこう答えたという。

 

「だって、俺は隊『長』なんだろ?

 上に立つ人間なんだから、部下のために頭下げるのが仕事じゃないのか?」

 

 

 
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