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五龍奇譚 第一章~白き龍は約束を果たす~ 第1話 転校生~双龍帰還す~

剣の杜さん

伝奇要素を取り入れたアクション作品です。今後投稿する、いくつかの話とクロスオーバーもする予定です。

2016-04-10 18:19:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:391   閲覧ユーザー数:391

 

4月15日(土)

 

「編入は許可されたみたいだが、その髪の色はどうにかなんねぇのか?」

 

椅子に腰掛けた30代半ばくらいの男性教師が困った顔で、青年を見る。

 

「すいません、先生。一応、自分の髪は地毛なので…」

 

青年も困った顔でそう返すと、その男性教師は溜息を一つ吐き、表情を緩めた。校則では髪を染めることを禁止している。

仮に彼の髪の色を周囲と合わせるようにするならば、染める必要が出てきてしまう。そうなれば教師が校則違反を勧めたことになる。

 

「まぁ、それなら仕方ないか。お前は、たちの悪い不良どもとは何か違うようだしな。俺は3-C、つまりお前が入るクラスの担任の景山雄也だ。一年だけだがよろしくな」

 

人懐っこい笑みを浮かべると、景山は手を差し出してくる。握手の意だろう。

青年はしばらくあっけに取られたが、同じように笑みを返すとその手をしっかりと握った。

 

「こちらこそ。剣杜龍真、一年間お世話になります」

 

 

第1話  転校生~双龍帰還す~

 

 

今は朝のHR前の時間。登校してきた生徒たちが、思い思いに自分の時間を過ごしている。騒々しく騒ぐもの、宿題のチェックをしているものそれぞれだ。

多くのものは、友人との会話に時間を使っているが、その中で1人ぽつんと座っている者がいた。

ポニーテールにして結い上げている艶やかな黒髪、やや童顔ながらも瞳も大きく整った顔立ちと、間違いなく美人なのだが、彼女には欠けているものがある。

それは、生気とでも言えばいいのだろうか。彼女の顔には疲労の色が濃くでており、ふだん魅力的であるはずのその瞳もどこか虚ろだった。

 

「悠里、大丈夫?」

 

すぐ前からかけられた声に、彼女は俯いていた顔を上げた。その視線の先には、心配そうな目で自分を見ている中学校からの大親友の姿があった。

ふちなしの眼鏡をかけた、栗色のショートカットの女子は自身の席である隣からイスをよせて座ると、彼女――悠里の顔を覗き込んだ。

 

「う、うん、大丈夫。そんなに心配しなくても大丈夫だよ、春奈」

 

無理に笑顔を作って、悠里は親友――春奈にそう返すが、彼女はその表情を崩そうとはしない。何かを確かめるように悠里から目をそらさない。

 

「無理やり笑おうとする人間が、大丈夫なわけないでしょうが…」

「あう……」

「もう、無理しないほうがいいわよ」

 

ため息をひとつついて悠里に諌めるように声をかけると彼女は、

 

「うん、ありがと、春奈。そうだ、お願いしてたの、何かわかった?」

 

お礼を言って、少し声を潜めて悠里は春奈に尋ねた。その言葉に、春奈の表情が真剣なものに代わった。彼女は数日前に悠里からある探し物を頼まれていた。

 

「うん、分かったっていうか、思い出したんだけどね。ほら、春日神社の近くの旧商店街のはずれに骨董品店あったの覚えていない?」

 

春奈の言葉に、頭の中で地図を描いて思い出していく。該当するお店には心当たりがあった。彼女が家が近くだから、子供の頃からよく通っていた旧商店街の中でも、とりわけ古い佇まいをしていたお店だ。

ただ、その骨董品店は、

 

「え…と、5年位前からずっと閉まっていたお店?」

 

そう、5年近く店を開けているところを見た記憶がない。帰り道に近くを通るので、時々様子を見に行ったことがあるのだから間違いない。

 

「そう、あそこ」

「え…? でも、あそことどうかかわりがあるの?」

 

悠里は自分の身に降りかかっていることを解決する手段と、骨董店とのつながりが見えずに困惑する。だが、春奈の表情は至極まじめなものでからかっているわけではないことは一目瞭然だった。

 

「これ、おじいちゃんから聞いた話なんだけど、そこの店主の人って、代々拝み屋をやってるらしいの」

「拝み屋?」

 

聞きなれない単語に、悠里は眉をひそめた。それに答えるように、春奈は言葉を続けていく。

 

「そう、拝み屋。簡単に言っちゃえば、荒事や、今悠里の身の回りで起こっていることなんかも解決してくれる何でも屋みたいなもの。

 これもおじいちゃんが聞かせてくれた話なんだけど、龍杜市って昔からおかしな出来事が多かったらしいの。それこそ、昔話に出てくるような妖怪がでたこともあったらしいんだ。

 そういうのを退治するための一族がこの街にいて、そのうちの一部が拝み屋をやっているらしいの。それで、その中の1つがあの骨董品店の店主なんだって」

「うそ…。そんな話聞いたことなかった」

「そりゃそうよ。ごく一部の人間を伝言役として、間接的にしか依頼を受けなかったから、ほとんど知られていないらしいわよ」

 

そういって、そんな話を知っている祖父に内心驚きながらも春奈はどこか得意げな表情を浮かべる。だが、話の途中であることを思い出し、すぐにもとの真剣な表情に戻した。

 

「そうなんだ…。でも、さ。あのお店、ずっと閉まってるよね。お掃除している人は時々見かけるけど、店主って感じの人みたことないよ?」

 

再び悠里がこれまでの記憶を思い出していく。店の前を掃除しているシルバーブロンドの髪に和装というどこかちぐはぐなイメージの人を見かけたことはあったが、店主かと言われると首をかしげるイメージだった。

 

「そこなんだけどね、実は昨日通りかかったら、いつも明かりのついていないお店のほうがあかるかったんだ。確定したわけじゃないけど、店主が帰ってきたってことじゃないかな」

「だけど、それは時々見るお掃除している人なんじゃないの?」

「違うと思うわよ。5年近く明かりのついていかったのよ。それが、急に変わるってことは何か変化があったってことでしょ? 可能性は高くないけど、ゼロとはいえないわ」

 

春奈は強い口調でそういいきった。しかし、悠里の表情は優れない。可能性はゼロではないかもしれないが、ゼロであるかもしれないのだ。それに根本的な問題がある。

 

「でも、その人たちが本当に依頼を受けてくれるのかな…? 私たち高校生だし、お金がないってわかったら受けてくれないんじゃ…」

 

そう言って、目を伏せる。それを見た春奈はやれやれと肩をすくめた。やると決めたら即実行が信条の春奈からすると、悠里のこういったところはもどかしく感じてしまう。

 

「全く、剣道部のエース、『神速の女王』も竹刀を置くとこれなんだから…」

 

そう、この目の前の少女、和泉悠里は女子剣道部の主将でもあり、全国でも『神速の女王』という字を与えられるほどの腕前を持っているのだ。

しかし、どうも竹刀をおき、道場という場所から離れると、人一倍恥ずかしがりで気弱な女性になってしまう。ちなみに一部の男性陣は、『それがいい』らしい。

 

「そ、それとこれとは……」

「もう、とにかく行くだけ行ってみよう? きっと、行かないよりかはマシだから!」

「う…、うん」

 

悠里は春奈の強い押しに、まだ不安は残るものの、とりあえず頷いて返した。と、それがまるで合図だったかのように、HR開始のチャイムが流れてくる。

そのメロディとともに、喋っていた生徒や遅刻寸前ギリギリで入ってきた生徒などが次々と自分の席へと着いて行く。もちろん春奈も例外ではなく、

 

「んじゃ、今日の放課後、部活が終わった後に行ってみよう。詳しいことは授業後に…」

 

そう言って、自分の席へと急いで戻っていった。

 

「ハァ……」

 

悠里はまた沈んだ表情に戻り、溜息を吐く。

 

(春奈はああ言っていたけど、こんなこと誰も信じてくれないよね…)

 

1週間前から自分に起き始めた無気味な現象のことを考える。

考えるたびに酷く気が滅入ってしまい、忘れなければならないと思っても頭から離れないくらいにその現象が続いているのだ。

こんなことがずっと続けば気が狂ってしまう、それは分かっている。しかし、彼女の身の回りでそれをどうこう出来る人間はいなかった。

いや、そのことを話したとしても、結局一笑されて奇異の目で見られるだけで、どうにかしようと動く人間は誰1人としていないだろう。

 

(本当に…、どうすればいいんだろう。もし、茉里やお母さんにまで何か起こったら…)

 

自分だけではなく家族にまでその現象が襲い掛かる、そんな怖い考えがまるで泡のように浮かび上がってくる。しかし、すぐにその考えを追い出す。

 

(ううん、絶対何とかなる。諦めなければ絶対方法は見つかるから。銀くんもいつも言ってたじゃない)

 

マイナス思考になりそうなところをプラス思考に切り替える。『銀くん』彼女の中の特別な人物。昔、家でもある道場であった銀色の髪をした男の子。本人は名前を教えてくれなかったから彼女は勝手に『銀くん』と呼んでいた。

そんな彼の口癖が「諦めなければ道はある」だ。真っ直ぐに前を向いて何かに抗うかのような視線でそういうのだ。その時の彼を思いだし、負けるもんかと悠里は俯いていた顔を上げた。

 

「ちぃ~~~っす、みんなおはよう~っ」

 

ちょうど、それと同じタイミングで担任の景山正志が入ってきた。

いつもどおり、手櫛でとかしたような髪に、スーツを軽く着崩したような教師らしくない格好が特徴的であり、ちなみに性格もその服装に準じている。

年配の教師からは、生徒より生徒らしいとも言われていたりする愉快な教師だ。景山は出席簿を教壇の上に置き、全員の顔を見回す。

 

「実は、今日から転校生がこのクラスに入ってくる。今年は受験とかで忙しいかも知れんが、一年間仲良くしてやって欲しい。

んで、自己紹介は彼本人からやってもらう。入って来い」

『おおおおおおぉぉぉぉっ!!』

 

景山の一言にクラス中が沸きあがった。受験一辺倒になる一年の最初に、それとは異なる刺激が舞い込んできたのだ。沸かずにはいられないのだろう。

 

(彼? 男の人って事だよね…)

 

悠里が、転校生がどんな人なのか想像する。

周りの生徒たちも同じらしく、男子はあからさまに悔しそうに、女子はどこか期待の篭った目で転校生が入ってくるのを待つ。

そして、その当人が教室の中へと足を踏み入れた。

その、瞬間にざわついていた教室内が静まり返った。入ってきたのは、身長170後半程、中肉中背くらいの少し体格がいいくらいの青年だった。

では、何故静まり返っているのか。それには2つ理由がある。1つは髪の色である。入ってきた青年の髪の色は、一般的な同年代の日本人の髪の色とは全く異なり、銀色とも取れる白髪だった。

その髪は首筋の後ろの方で束ね、ストレートに流しており、髪全体もすっきりとした形になっている。まるで映画の主役の陰陽師がブレザーを着ているようにすら見える。

2つ目はその顔立ちだった。顎のラインなどは細く、瞳はやや大きく切れ長、どこか中性的な顔、有体に言ってしまえば優男。

そのはずなのに、なぜか男らしさを感じさせる凛とした顔立ち、その顔立ちに男女問わず一瞬見とれてしまっていたのだ。

それは、悠里も例外ではなかった。

 

「剣杜龍真です。しばらくの間ですがよろしくお願いします」

 

そう言って、龍真は頭を下げる。低いがとおりのいい声が教室に染み渡っていく。女子の何人かはこの声が、とどめになった。

その様子を見ながら、景山は楽しげに指示を出す。

 

「んじゃ、席の方は…、廊下側の一番後ろの席に行ってくれ」

「はい」

 

クラスの視線が、景山の指定した席へと向いていく。そこは、悠里の隣の席だった。

そのことに、男子も女子もそれぞれ思惑は違うが、がっかりとした表情を見せた。だが、そうでない者も若干1名いた。

 

(ふわわわ……、と、隣の席だよ~)

 

悠里は緊張でパニックに陥っていた。なんせ、クラス全員の視線を受けている彼が、自分の隣の席にくるのだ。

もちろん、悠里自身も彼のその雰囲気に目を奪われているのだから、景山が言っている事が耳に入ってなくても仕方がない。

 

「うお~い和泉ぃ~~、俺の言った事聞いてたか~~」

 

呼びかけても何の反応もしない悠里に、景山が情けない声を上げる。

 

「え…、あ……」

 

戸惑ってしまって、何もいえない悠里を見て景山は溜息を1つ吐くと、

 

「龍真の教科書類がちょっとした手違いで、今日の放課後に着くことになっちまってるんだ。それで今日の所は、お前のを貸すっつ~か、見せてやって欲しいんだが…」

「あ…、はい。分かりました!」

 

はっとしてそう返事を返すが、次にそれがどういう状態になるのか考えてしまい、一気に頬が紅潮していく。周りの生徒たち―主に女子―は羨ましそうに悠里の方を見ている。

 

「それじゃ、お願いします」

 

龍真はそう言った後に、机を悠里の方に寄せてきた。

 

(はわ、はわわわわわわ……。え、えとえと…、こう言う場合どう返事すれば良いんだっけ…?)

 

一気にパニック状態陥る悠里。挙句の果てにでた台詞が、

 

「ふ、不束者ですがお願いします」

 

思い切りずれていた。三つ指突いていればそれはそれで絵になったかもしれない。龍真はきょとんとした表情を一瞬取ったが、すぐにやわらかい笑みを返してきた。

 

「お~い、そこ。いきなりラブコメやってるところ悪いけど、授業始めるぞ」

 

景山がニヤニヤと笑みを浮かべて、龍真と悠里に声を掛けた。

龍真は冗談と分かっているから、これといった反応は示さなかったが、悠里の方はシューっと音を立てるほどの早さでみるみる間に赤くなっていく。

この瞬間、女子は龍真の笑みに対して「天使の微笑」と心の中で賛美し、男子たちは悠里の龍真に対する反応に一斉に心の中で叫び声を上げていた。

これが後々このクラスにおける伝説の一戦『男と女、愛のガチンコバトル』を引き起こすこととなるのだが、それはまた別の話である。

とにかく、男子は悲しみで、女子は歓喜で身の入らない授業が始まった。

 

 

そして、本日の授業終了後――

 

「さて、いろいろ聞かせてもらいましょうか、転校生君!」

 

龍真と悠里の席の前に、春奈が『バン!』という効果音を背負わんばかりの勢いで現れた。その目は、獲物を目の前にした肉食獣のものに他ならない。

佐伯春奈、新聞部部長『龍杜の青いストーカー』『歩く盗聴器』『ペン先のヒットマン』との異名をとるまでの人物。

ネタの為に野球部の部室に4日間隠れていただの、盗撮をしている人間の逆盗撮をやっただの、その異名にまつわる伝説は絶えることが無い。

 

「まず1つ目、なんて呼んで欲しい?」

 

龍真の意志を聞かずにまくし立てるように、質問を始めた。

 

「は、春奈。いきなりは失礼だよ!」

 

その、春奈の態度に悠里が注意をする。ただ、注意すべき所はそこじゃない。しかし、春奈はチッチッチッと指を振ると言った。

 

「なぁ~~にが失礼なのよ、悠里。あたしは、高校生活最後の年に転校してきた彼が少しでもみんなと仲良くできるようにやってるのよ。

つまり彼のことを皆に知ってもらう為に、こうやって質問してあげているの。

決して、『3-Cに銀髪の美形天使舞い降りる、何処よりも早く彼の情報を掲載!!』なんて記事で新入部員や、部数を伸ばそうなんて考えていないから」

 

この台詞を聞いた瞬間、クラスの全員が「本音しっかり言ってるやん」と、心の中でツッコミを入れ、

 

「そう…なの?じゃあ、いいかなぁ」

 

と言う悠里の台詞に、「オイオイ、ホンマそれでええんかい」と、さらにツッコミを入れていた。もちろん、声に出して突っ込む者は誰もいない。

なにせ、校内の、教員を含めた大半の人間が彼女に何らかの弱点を握られている。うかつな口答えは社会的抹殺に繋がりかねないのだ。

ただ、それだけというわけでもない。みんな、龍真のことに個人差はあるものの興味があるのだ。一方龍真は、これといって嫌な顔もせず、

 

「俺の方も、当り障りのないものなら、よろこんで答えさせてもらうよ」

 

と言った。これをきいて、春奈の眼鏡の奥の目がキュピィーーーンと鋭い輝きを放つ。

 

「言ったわね、『答える』って言ったわね!それじゃ、まずさっきの質問の答えは?」

「ふむ………」

「ホント、なんでもいいわよ。例えば、女子限定で『ご主人様♪』とか、男子限定で『首領(ドン)』とか…」

「い、いや。俺は普通に呼んでもらえれば構わないよ」

 

さすがに、そう言う趣味は持っていない龍真は、その提案を断った。だがそれに対して、春奈は不満の声を上げる。

 

「えぇ~~~、ちょっと考えてみなよ。例えば、悠里が『ご主人様♪』とか想像してみなさいよ。すっごく、萌えるわよ」

「「確かに萌える」」

 

クラスの男子全員+αは春奈の台詞に、ウンウンと頷く。

中には、明瞭な画像として想像してしまった者がいるのだろう、鼻血を噴いて崩れ落ちる者さえもいた。

 

「そう言う問題じゃなくて……。まぁ、俺のことは名前で龍真で呼んでくれれば構わないよ。名字だと『ツルギモリ』で語呂が悪いしね」

「う~ん、じゃそれでいっか。皆も分かった~~?」

 

その声にクラスメートたちは各々了解の意思を示していく。

 

「うし、んじゃ2つ目。龍真君の趣味って何?」

「趣味…か。いくつかあるけど、あえて言うなら釣りだな」

「なかなか渋いわね」

 

春奈は素早くメモ帳を取り出すと、早速情報を書き込み始めた。これにツッコミを入れないのはお約束だ。誰もが自分の身は惜しいのだ。

 

「それじゃ、次。今までやってきたスポーツとかってある?」

「う~ん、剣道をはじめとした武道全般かな」

「おお、良かったじゃない、悠里。彼と相性バッチリかもよ~~」

 

春奈がからかい口調で悠里を茶化すと、彼女は一気に赤くなり俯いてしまう。

 

「な、なんて初々しい。も・・・萌えッ」

 

誰かが、何か呟いたようだが、それは3人には聞こえなかったらしく、春奈の質問は悠里が

 

「もうそろそろ、部活だから…」

 

といって、教室から出て行くまで続いたという。

 

 

 

 

 

いくら季節は春とはいえ、7時近くにもなれば日は暮れ、薄暗くなってくる。校舎内に建てられている武道館の入り口の明かりのもとで春奈は人を待っていた。

 

「またせてごめんね、春奈」

 

待っていたのは悠里。ブレザーに着替えた悠里は、剣道場の前で待っていた春奈に声を掛けた。

 

「あ~、あたしも今来たばっかりだから、気にしなくていいわよ」

 

手をひらひらと振って、春奈は気楽に返す。

 

「ねぇ、春奈。今からいくそのお店って何時までやっているか知ってるの?」

「確か、昨日行った時間が、7時半くらいだったから問題は無いわよ」

「うん……」

 

悠里は、頷くとそのまま不安そうに顔を俯かせた。そんな悠里を元気付かせようと春奈は声を張り上げる。

 

「絶対大丈夫だって。骨董品店なんだから、雰囲気もそれっぽいし!」

 

苦しい言葉だったが、それでも悠里の顔には僅かに笑みが戻った。その笑みを見て、春奈の気分もわずかではあるものの軽くなる。

情報を持ってきた彼女自身、自信があまりないのだ。それでもすがらなければならない状況。だからこそ――、

 

(あたしは、あたしの出来ることで悠里を守らなくちゃ)

 

春奈は勇気付けるように、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 
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