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ALO~妖精郷の黄昏・UW決戦編~ 第38-1話 好きを伝えて、愛を知って

本郷 刃さん

これが実質的なUW決戦編の第1話になります。
ここから一時の間はユーアリメインでイチャラブ風味に微シリアス在りです。
ではどうぞ・・・。

2016-04-03 13:55:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8298   閲覧ユーザー数:7653

 

 

第38-1話 好きを伝えて、愛を知って

 

 

 

 

 

 

 

ユージオSide

 

「キリト…」

 

2年以上もの間、僕を助けて、強くして、手伝ってくれていた親友が自分の世界に帰っていった。

寂しいという気持ちは当然あるけど、また会えるということは分かっている。

それに、いまは目的を果たした達成感とやってきたことへの疲労感で一杯だった。

そのせいか、力が抜けてしまって座り込んでしまう。

 

「ユージオ、大丈夫ですか?」

「うん。緊張が解けただけだから、大丈夫だよ」

 

多分、アリスはチェデルキンとの戦いの時の怪我のことを言っているんだろうけど、

僕としては怪我よりもいままでの蓄積されてきたことの方が大きかったんだと思う。

 

「さて、わしもやらなければならないことが多い。

 ベルクーリ、ファナティオ、二度手間ですまないのじゃが、カセドラルにいる他の整合騎士達を全員ここに連れてきてくれ。

 全員に施されている『敬神(パイエティ)モジュール』と術の解除、記憶の返還を行い、ここにある剣を元に戻すからの」

「「はっ!」」

 

ベルクーリさんとファナティオさんは階下に戻っていき、僕とアリスだけがこの場に残された。

カーディナルさんは傍に来ると僕とアリスの額に手を置いて、神聖術のようなものを施した。

すると、いままで強制力でもあったような思考が楽になって、そこに自分が居ると思えるようになった。

 

「お主らには既にほとんどの強制がない、キリトの影響を最も受けてきたお主らだからこそ、それを取り払うに値する。

 以後、自分自身の為に生きよ。それと、これがお主らの記憶じゃ」

 

天井の絵に埋め込まれている水晶が2つだけ浮かんで僕とアリスの前にそれぞれ降りてきた。

それは僕達の胸に触れると光となって溶け込んでいき、僕は…。

 

 

 

『おはよ、ユージオ、アリス! それじゃ、今日の分の天職も頑張ろうぜ』

『ユージオ、そんなにへっぴり腰だとアリスに笑われるぞ』

『もしも俺達で天職を終わらせられたらお前はどうしたい? 俺は剣士になる!』

『僕もだって? なら、剣士になったらどっちが強くなるか勝負だな』

『果ての山脈を探検? 面白そうだな、行こうぜ!』

『なんで、アリスはなにもしてないじゃないか! 一緒に行ったのは俺達も同じだろう!』

『離せよ! アリスを助けないと、おい! アリスを返せ!』

『くそっ、ちくしょおぉぉぉっ!!!』

『……あぁ、そうだ、俺は……悪いな、ユージオ…俺はここまでだ……また、な…』

 

 

 

思い、出した。キリトは旅の剣士じゃない、彼は、僕の親友は、幼馴染だったじゃないか!

 

「ユー、ジオ……あぁ、ユージオ…!」

「アリス…全部、思い出せたのかい?」

「う、んっ…でもわたし、ユージオにも、キリトにも、みんなにも、酷いこと、を…!」

「大丈夫、アリスだけのせいじゃない。

 僕が弱くて情けなかったのもだし、アドミニストレータが好き勝手にやったことだし、それを止められなかった人達もいる。

 誰かだけのせいじゃない、みんなに大なり小なり責任があるんだ。自分だけを責めないで」

 

全てを思い出していままでの辛かったことや悲しかったことが、

忘れさせられていたとはいえ自分が行ってきたことへの罪悪感から、アリスが泣き出してしまった。

慰めようと優しく抱き締めたら、彼女の方から強く抱き返してきた。

驚いたけど、アリスが帰ってきたんだと思ったらやっぱり喜びの方が圧倒的に大きくて嬉しい。

 

「話したいことはたくさんあるけど、いまはこれだけ……おかえり、アリス」

「っ、うんっ! ただいま、ユージオ!」

 

涙を流して、それでも見せてくれた笑顔に、改めてやり遂げたんだと実感できた。

そんな僕達だけど、ふと視線を感じたからそっちを見ればカーディナルさんがニヤニヤしていた。

アリスの顔が真っ赤になって慌てて僕も顔の熱が上がるのがわかるけど、キリトで慣れたから慌てない。

まぁ、さすがに身体は離すけど距離はあまり空けない。

 

「すまぬな、2人とも。だが先にやらなければならないことを済ませよう」

「い、いえ/// それで、済ませたいこととは…?」

 

うん、確かにやっておかないといけないことは多そうだし、時間はあるんだから自重だ。

 

「それはな、“整合騎士化の解術”じゃ」

「なっ!?」「か、可能なのですか!?」

「うむ。実際には普通に年を重ねられるようにし、アドミニストレータに施された諸々の術式を解術するだけじゃからな」

 

簡単なことだと言ってのけるカーディナルさんに改めて彼女も最高司祭なんだと実感した。

それならアリスと一緒に生きていける、そう思ったけど同時に考えたのはダーク・テリトリーのことだ。

確かにアリスや他の整合騎士達が元に戻れるのは良いことだと思う。

ただそれは人界の大幅な戦力低下に繋がることになる。

本来、超えることのできない境界である領域を超えて、ゴブリン達は故郷の洞窟にまで来ていた。

それはつまり、人界に危機が迫っているんじゃないかということだ。

案の定、アリスは表情を驚きから喜びへ、そして真剣な面持ちへと変えていった。

 

「それほどまでの恩情、有難く存じ上げます……ですが、その申し出は辞退させていただきます」

「理由を聞かせてもらっても良いかの?」

「……攻め込まれてこそいないものの、ダークテリトリーは未だに人界にとって大きな脅威です。

 そんな中で整合騎士から元の人に戻るのは戦力の低下に繋がります。

 少しでも戦力が必要ないま、その申し出をお受けするわけにはいきません」

 

やっぱり、アリスならそう言うと思った。

彼女は優しく、それでいて芯が強く、勇敢な女性だから、自分のことよりも他の人の事を優先するって予想できた。

それにいますぐに行わなくてもいいはずだし。

 

「なるほど、お主の意思は嬉しく、有難くも思う。

 じゃが、お主を救うために命を懸けて戦ってきたユージオとキリトの思いを無碍にするのか?」

「あ、いえ、それは……「そんなことはありません」ユージオ?」

「確かに僕とキリトは命を懸けてやってきましたが、それはアリスを救うという僕の我儘でした。

 そして、アリスを救えた今、彼女は自分の意思で決められるようになりました。

 なら、僕は彼女の意思を尊重します……きっと、キリトもそう言うと思います」

「……ふっ、キリトと共に在ったことで成長したということか。よくぞ言った、ユージオ」

 

キリトが教えてくれたことは間違いなく僕の糧になった、彼には本当に感謝してもしきれないな。

でも、アリスにもカーディナルさんにも悪いけど、僕には望みがある。

 

「カーディナルさん。もしよろしければ、叶えていただきたいことがあります」

「なんじゃ、お主の頼みであれば可能な限り叶えよう。申してみよ」

「僕をアリスと同じ整合騎士にしてほしいんです」

「ユ、ユージオ、あなた何を言って…」

「お主、正気か?」

 

僕の耳を疑うような言葉に2人共驚いているけど、カーディナルさんはどこか納得しているような感じだ。

とにかく、僕の意思を聞いてもらわないとね。

 

「整合騎士化、シンセサイズといってもアドミニストレータが行ったようなものではなく、いまのアリスと同じ状態にしてほしいんです。

 自分で言うのも微妙ですけど、僕の実力は整合騎士としても通用すると思います。

 整合騎士として動ければ色々とやれることもありますし、もしもの時に権限として周りを動かすこともできます。

 アリスの言うように、これからのダークテリトリーとのことを考えれば、良い方法だと思いますが」

「ふむ………では、もう1つの本音を聞いてもよいかの?」

「整合騎士になったらアリスと同じ時間を過ごせますし、なにより彼女を守りやすくなりますからね。

 みんなを守りたいのも本音ですけど、どっちかというとこっちが本音です」

「な、なな…//////」

「キリトと思考が同じじゃな(笑)」

 

いつ終わるかも分からないダークテリトリーとの戦い、今日か明日か明後日か、

それとも五日後か一週間後か十日後か、または一月後か半年後か一年後か、はたまた数年後か十年後か数十年後か。

それならアリスと同じ存在になって、戦いが終わったら元に戻してもらえたらいいかなと思う。

アリスと一緒なら別に元に戻れなくても構わないけどさ。

 

「ふっ、よかろう。正気な上に本気のようじゃからな。アリスよ、好いた男がここまでお主を想っての言動じゃ、どうする?」

「……いつか、2人で騎士のお役目から(いとま)をいただいてよろしいのでしょうか…?」

「当然じゃ、2人揃って生き残れるように生きてくれ」

 

カーディナルさんの言葉を噛みしめるように瞳を閉じたアリスは僅かの後に瞳を開いて、頷いた。

その時に僕の手をぎゅっと握りしめてきたのは嬉しかった。

 

 

 

 

ベルクーリさんとファナティオさんが全ての整合騎士を引き連れてこの『神界の間』に戻ってきた。

なかには封印処置をとらされて眠りにつかされていた騎士もいたらしくて、

いまの状況に混乱しながらもシンセシス・ワンであるベルクーリさんをはじめ、

最若手のシンセシス・サーティワンであるエルドリエさんまでの全員が揃ったということだ。

最早教会への思いの欠片もない僕だけど、この光景を見られたことには素直に感動した。

 

カーディナルさんは既に事情を知っているメンバーにも改めてこれまでの公理教会の歴史、そして実態と真実を明らかにしていった。

絶句する者、呆然とする者、憤慨する者、後悔する者、涙する者、

反応はそれぞれだけど一様に自分達のやってきたことへ不信感が募りだしたのがわかる。

 

「奴を止めることができなかったわしの責任じゃ。すまなかった」

 

そこでアドミニストレータのことも話し、カーディナルさんが止めることができなかったこと謝罪したことには、

僕だけじゃなくてこの場に居る全員が驚いた。だけど、それに一番早く反応したのは整合騎士長であるベルクーリさんだった。

 

「カーディナル様、謝罪をするべきなのは騎士長を務めている俺も同じです。

 皆を纏める立場の俺が、疑問を持っていたにも関わらず命令に従っていたのは甘えからにない」

「では、副騎士長であった私もまた同様にございます。いまの立場に甘えていたのは私自身の弱さに他なりません」

「「「「「「「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」」」」」」」

 

ベルクーリさんに続いてファナティオさん、そしてアリスも含めて全ての騎士達が片膝を付いて頭を下げた。

そうか、これがキリトの言っていた騎士の姿なのか。

 

 

 

両者の謝罪が終わるとカーディナルさんは僕とアリスに話したように、

“整合騎士化”の解術と記憶の返還、剣にされた人達の蘇生を説明した。

まずは記憶の返還が行われて、皆が大切なモノを失ったこと、自分の行動に後悔するなどしていたけど、立ち止まるわけにはいかない。

 

カーディナルさんは神聖術で全ての剣の結晶を大広間に運び、そこで全ての人に戻した。

中にはデュソルバートさんの奥さん、エルドリエさんのお母さんも居て、誰もが再会に喜びの涙を流していた。

そのため2人には何度もお礼を言われて、キリトと再会できた時には彼にも礼をしなくてはと息巻いていた。

 

次に“整合騎士化”の解術については全員が保留・延期という判断をとった。

アリスと同じ考え、あるいはアリスの考えに感化されてダークテリトリーとの戦いに備えて騎士の状態でいる者、

これからのことを考えて長くはないけど少しの間だけ騎士でいる者が多い。

一方で教会のために生まれてこれからどうすればいいのかが分からない2人、

見習いであるリネルとフィゼルはやりたいことを見つけるまで見習いだけど騎士として過ごすとのこと。

とはいえ年齢凍結はされていないそうだから成長次第ということだと思う。

 

そのあと、僕は敢えてカーディナルさんと共に『元老院』にいき、元老達の最後を見届けた。

アドミニストレータの術を解くことはできたそうだけど、全員が罪の意識に耐えられなくなり、

完全に精神が崩壊しそうになったので彼女が自ら役目を果たした。

死んで、消える直前に穏やかな表情を浮かべた元老達の姿に、僕はもう怒りが湧かなかった。

なんとなくだけど、キリトが彼らを気にしていたことが解った気がした。

 

修道士に修道女、他にも様々な場所に配置されていた人達への処置も行われたあと、

喜びも悲しみも入り混じったけど、未来に進むためにささやかな宴が催された。

食べて、飲み、話して、歌って、踊って、誰もが疲れて眠って、静かに宴は終わっていった。

 

 

 

僕はアリスと共に彼女の部屋の寝台で夜通し話しだした。

会えなかった時間の僕の想いと思い出と経験、特に忘れたはずのキリトとの再会からは色濃いことばかりだったっけ。

 

「まさかキリトが他の世界の住人だとは思わなかったよ。でも、いまは納得かな」

「本当、キリトのお蔭ね。わたしとユージオが再会できたのも…」

 

アリスが浮かべるのは儚そうな微笑みばかり。なんとかしないと…。

 

「アリス、話して。キミの、辛かったことも、悲しかったことも、全部」

「っ、だめよ…。いま話したら、あなたにも酷いこと、言っちゃいそう…」

「構わない。アリスの思いを知りたいし、一緒に背負いたい。誰にも聞こえやしないから、どれだけ叫んでも大丈夫だから」

「あ…わ、わたし……わたし、は…っ!!」

 

アリスも辛かったことや悲しかったこと、その全てを吐き出してきた。

 

最初は眠れない日が続いて、何度もカセドラルから逃げ出そうとし、処罰を受けて泣き、

寂しくて悲しくて辛くて、訓練で成果を出せば故郷に行けると言われてそこからは一生懸命頑張り、

でもその先には全てを忘れる絶望が待っていて、泣き喚くしかできなかったと。

それを思い出したことで今度は自分が同じ境遇の人に行ってきたことが重なり、罪の意識に苛まれると。

既にアドミニストレータもチェデルキンも死に、当たれる存在はない。

泣き、叫び、喚いて、怒って、だけど力の篭っていない拳で僕の胸を叩いて、徐々にその波が落ち着いていく。

 

「ごめんなさい……ありがとう、ユージオ…」

「どういたしまして。これから、少しずつでいいから2人で進んでいこう。だから、いまは眠って。大丈夫、僕は傍にいるから」

 

泣き疲れて、力が抜けていくアリスをベッドに寝かせる。

 

「おやすみ、アリス。良い夢を」

「う、ん……おやすみ、なさい…。ユージオ……だいすき…」

 

それを最後に寝入ってしまったアリスに僕は顔が紅くなるのが止まらない。

でもここで言わなかったら再会するだろうキリトに笑われそうだから、ちゃんと言う。

 

「僕も大好きだよ、アリス」

 

強いアリス、弱いアリス、どちらも大切なアリス。今度は守り抜く、そう心に誓う。

この日を境にアドミニストレータによる公理教会の支配は終わりを迎え、

カーディナルさんによる新たな統制が行われていくことになる。

 

 

 

「では、良いかの?」

「はい。いつでもどうぞ」

 

カーディナルさんの掌が片膝をつく僕の額に触れると、身体の内側の様々な場所に熱が集まっていくのがわかる。

全身を光が包み、徐々に薄れていくと収まった。身体がやけに軽く感じるのは気のせいじゃないはず。

与えられていた白に近い水色と青色の服に着込み、僕はカーディナルさんからシンセサイズを受けた。

 

「始まりでありながら終わりを示す数“0(ゼロ)”、整合騎士であり整合騎士に非ず。

 お主に与えるのはゼロ、ユージオ・シンセシス・ゼロ」

「ユージオ・シンセシス・ゼロ、承りました!」

 

僕は大切なモノを守るために、整合騎士になった。

 

 

 

 

「2人共、一度帰郷してくるといい」

「「帰郷、ですか?」」

 

昼食の後、カーディナルさんの言葉に僕とアリスは揃って首を傾げた。

いきなりどうしてと思ったけど、その疑問は直後に解消された。

 

「ユージオはそもそもアリスを取り戻すためにキリトとこの地を訪れたではないか。

 それ待っておる家族らもいる、それを忘れておらぬか?」

「もちろん覚えていますけど、さすがに整合騎士になったばかりなのに急すぎませんか?」

 

整合騎士であり、しかしそうではない存在とはいえ、対外的には整合騎士に変わりない。

それをいきなりセントラル・カセドラルから離すのはどうなのだろうか?

 

「逆じゃ。いつ戦いになるかも分からぬが、いますぐ攻めてくるということはなかろう。

 ならば早い内に故郷に顔を出しておいた方が良い、お主らに死ぬ気はなくとも戦いで命は消える。

 安心しろ、同時ではないが他の者達も順次一時帰郷を行う」

「そういうことなら、一度帰郷させてもらいます。家族にも会いたいですし、なによりもアリスをみんなに会わせてあげたいですから」

「わたしもユージオと帰りたいです。みんなに、会いたい…」

 

アリスも同意してくれた、というよりかは彼女自身がそうしたかったのかもしれない。

まぁ彼女が言いやすいように誘導したんだけどね。

 

「決まりじゃな。では明日には出発してもらうが、アリスの飛竜で行くか?」

「……いえ、もしよければ馬と馬車を用意してもらえませんか?

 僕とアリスが整合騎士であることは時が来るまで隠そうと思うんです。

 僕達が整合騎士であることを知れば、全員でなくとも接し方が変わってしまうかもしれませんから」

「なるほどの。心得た、馬を二頭と馬車を用意しよう。それと『青薔薇の剣』と『金木犀の剣』、騎士の鎧も持ってゆけ。

 道中や帰郷中に何も起こらないとも限らんからな」

「「ありがとうございます」」

 

ルーリッドの村へ帰郷かぁ。楽しみのようなそうでないような、そこは村に着いてみないと分からないかな。

その時、カーディナルさんがもう一度僕に声を掛けてきた。

 

「飛竜をお主にも与えるから竜舎に来い」

 

え? 飛竜? 僕に? 隣ではアリスが良かったわね、と喜んでいるけど早々に与えられていいものなんだろうか…?

いいや、考えても仕方がなさそうだし。

 

 

 

竜舎に着くとそこには色々な飛竜が居た。

見たことがあるのはデュソルバートさんの飛竜でアリスも自分の飛竜を紹介してくれた、名前は『雨縁(あまより)』っていうらしい。

乗り手のいない飛竜の居る場所へ行くと既にカーディナルさんが居て、彼女の前には二頭の飛竜が別々の敷居の奥で佇んでいた。

一頭は水色に近い薄い青色、もう一頭は澄んだ漆黒、それぞれの外見でどちらが僕に与えられる予定か判断できた。

 

「カーディナルさん。もしかしてこの竜が…?」

「うむ。隣のはあ奴に与える予定だが、この雌の飛竜をお主にと思っての」

 

どうやらこの薄い青色の飛竜は雌らしく、他に聞いてみるとベルクーリさんの飛竜と同じくらいの年齢とのこと。

これまでの間に担い手が現れなかったが、カーディナルさんは僕ならもしかしたらと思ったという。

敷居の奥でこちらを見ている飛竜を見つめ返す、よし。

彼女を信用し、僕は木の敷居を跨いで中へ入る。

 

「ユージオ…」「ほぉ、大胆なことを…」

 

僕は飛竜の前で止まり、彼女の綺麗な白い瞳を見つめる。

警戒しているのはわかる、人とは違った威圧が全身を襲うけどこれに逃げるような神経は学院辺りに置いてきた。

彼女は見定めるかのように僕を見回し、僕自身はキリトから学んだ意識の切り替えを行って戦闘時の意識を出す。

それを察したのか微動した飛竜だけど、攻撃の意思が無いことに気付き続けて見てくる……そして…。

 

「クルルゥ…」

 

飛竜は優しげな鳴き声で鳴き、僕の顔に自身の顔を擦り寄せてきた。

僕を認めてくれたと理解できて、同時にホッとした。さすがの僕でも丸腰で飛竜の目前は怯むよ。

でもそんな彼女もこれからは僕の友達、または相棒だ。

 

「彼女に名前は?」

「ない、担い手の騎士が名付けるのが習わしだ。お前がつけるのだ」

「初めて見た時からよさそうな名前が思い浮かんだ。キミの名は『氷華(ひょうか)』」

「クルゥッ!」

 

彼女の容姿が第一印象、次に瞳に映った綺麗な冷たさ、

『青薔薇の剣』と『武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)』と繋がりのある、女性のような名前でそう名付けた。

それに気に入ってくれたみたいだね。

 

「やはりお主はキリトと同じでやってのけてくれる」

「凄いわ、ユージオ。この飛竜はいままで誰も乗せようとしなかったのに」

 

なんでも暴れたりはしないけれど人を乗せようとせず、

触られるのも嫌がるらしくアリスと世話係の人だけは触ることができていたらしい。

少しの間、氷華を撫でておく。

村から帰ったら氷華に乗る訓練もしないといけないと思いつつ、いまは飛竜との交流を楽しむ。

 

 

 

 

その後、明日から故郷へ帰るための準備をしようとアリスと2人で部屋に戻ろうと歩いていると、見慣れた人達と会った。

 

「お、ユージオにアリス嬢ちゃんじゃねぇか」

「ベルクーリさん。それにファナティオさん、デュソルバートさん、エルドリエさんも」

 

何処かに向かうのか鎧姿の4人が廊下の角から出てきた。

 

「小父様達はこれからどちらに?」

「今日は離れるわけじゃないが、俺達は全員ここに残って軍備の再編をすることになった。

 現在の騎士達と戦闘可能な人員の強化と補充が主だな」

「一先ずは軍備の強化からだが、ダークテリトリーの戦力を考えて早くに人員補充の為の選抜試合を行う予定になる」

 

そうか、ベルクーリさんやファナティオさんは騎士長と副騎士長としての務めを優先するのか。

デュソルバートさんもエルドリエさんもだ、僕達だけ良いのだろうか…?

 

「2人にはそのような顔をしないでほしい。カーディナル様には我から頼んだのだ」

「デュソルバート殿が?」

「ああ。記憶を無くし、言いなりでしかなかったとはいえ我が騎士アリスをユージオと家族、故郷から引き離した」

「デュソルバートさん、それは…」

「貴殿が既に我を恨んでいないことは解っている。だが、こうでもせずにはいられんのだ」

 

記憶を取り戻したことで彼もまた奥さんとの絆を引き裂かれたことを思い出したんだよね。

なら、僕とアリスのことを気にしないというのは難しいのかもしれない。

 

「解りました。お言葉に甘えさせていただきます」

「ありがとうございます、デュソルバート殿」

 

アリスは元々誰かを恨むような娘じゃない。

僕に関しては都合のいい言い分になるけど彼が本当はそんな人じゃなくて、

黒幕の言いなりにさせられていて、それに僕が弱かったのが原因なんだ。

それでもデュソルバートさんが気にするのなら、受け入れるのが最善だ。

 

「アリス嬢ちゃんもユージオも、故郷で心身共に休めてこい。

 お前さん達の疲れは俺達の比じゃないはずだ。戦いに備える為にもゆっくりしてきな」

 

ベルクーリさんはそう言ってファナティオさん達を連れだって行った。

ただ僕はすれ違い様にある1人の人が気になった、僕達と会っても話さなかった人、

ただしくは僕とアリスを見て戸惑った様子を見せたあの人。

 

「アリス、僕は用事を思い出したから先に戻って準備をしておいて。僕はこの身と剣と鎧だけど、アリスは荷造りが必要でしょ?」

「え、でも…」

「大丈夫、なるべく早く戻るよ」

「……うん、わかったわ。部屋で先に準備をしておくわね」

 

用事が気になるのか少し間があったけど、アリスは先に戻ってくれた。

そして僕は彼らの後を追い、あの人に話しかけた。

 

 

 

「それで話しとは、もしかしなくとも騎士アリス様のことかな?」

「はい、エルドリエさん」

 

僕が呼びかけたのは彼だ。

エルドリエさんはアリスから直接指導を受けていたようだし、彼女のことを師と呼んで慕っていた。

それが弟子としての師匠への尊敬なのか、それともファナティオさんがベルクーリさんに抱く慕情なのか。

それをハッキリさせた上で僕の口から言わないといけないと思ったんだ。

 

「単刀直入に言います。僕はアリスに好意の想いを伝え、アリスも明確じゃないけれどそれに近いことは伝えてくれました」

「そう、か……いや、やはりというべきか…」

 

中庭で話しているけれど、エルドリエさんは傍にある椅子に腰をおろした。

 

「一月とはいえ私はアリス様に教えを受け、尊敬している。しかし私はあのような笑みを浮かべるアリス様を見たことがない。

 ベルクーリ様や他の騎士様にも聞いてみたが皆様同じだった。

 ユージオ、キミと戦った果ての変化であり、そこに踏み込む余地などない」

 

僕は立ったまま話しを聞き続ける。整合騎士になってもアリスはアリスなんだと思っていたけど、

他の整合騎士達から見てアリスには自然の笑みはなかったんだ。

それは多分、みんな記憶を思い出して術を解かれたから感じられるようになったんだと思う。

 

「正直、私がアリス様に持っている思いがどういったものなのかは私自身でも解らない。

 純粋に教えを受けた者としての尊敬か、それともキミのような恋慕の情か、あるいは同じ騎士としての友愛か…。

 私の出自は先の剣術大会や調べで知っていると思うが、私自身は元々父のような民を守る役目を担いたかったのだ。

 その為に力を磨き、整合騎士になった……結果はどうあれ、私はこれまで力の為に生きてきた。

 解らないのだよ、恋というものが。だから、我が師アリス様への思いも正確には解らないのさ」

 

キリトが自分の正体を明かした時に聞いた、彼も元々は力の為に生きてきたって。

でも、恋人のアスナさんに出会って、恋や愛を知ったって言っていた。もしかしたら彼も……それでも僕は…。

 

「僕はアリスから答えを貰います」

「それでいい、私に遠慮などキミはしないと思っていた」

 

笑みを浮かべたエルドリエさんは椅子から立ち上がり、僕の肩に軽く手を置いてから去って行った。

去り際に見えた彼の顔にさっきまでの戸惑いや翳りはなかった。

 

 

 

 

与えられた自室に戻ったあと、アリスの部屋を訪ねてみれば荷造りはほぼ終わっていた。

村に出てもおかしくない服を選び、着替えを詰めたくらいだという。

剣や鎧は明日の出発時に僕と纏めて馬車に載せるからね。

 

夕食が終わって、それぞれが動き出した。

僕とアリスのように自室に向かう人達もいるけれど、ベルクーリさん達を始めとした何人かの騎士は修道士や騎士見習いの訓練へ、

他の騎士も各方面への警戒としてカセドラルから飛竜に乗って移動していったらしい。

僕達も明日にはルーリッドの村に帰る為に朝早くから出ないといけない。

アリスに挨拶をして自分の部屋に入ろうとしたところで彼女に手を引かれて、止められた。

 

「あの、話をしたいの…///」

 

アリスの部屋に連行されました。

 

彼女の部屋に入るとベッドに座らせられて、そのアリスも僕の隣に座ったまま口を閉ざしてしまった。

こういう時はどうすればいいのかな? 声をかけた方がいいのか、それとも話してくるのを待った方がいいのか。

ん、そういえばアリス、震えてる? 頬を少しだけ紅く染めて、膝の上で手を握り締めて、全体的に震えている。

固く閉じている唇が偶に開きそうになっているけど、なにかに躊躇してからまた閉じる。

 

「アリス」

「っ、は、はい…///」

「無理しなくてもいいんだよ? キミが言いたい時でいいから。

 いますぐでもいいし、待つことくらい出来るし、なんなら明日でも「だ、駄目、今日話すの///!」あ、うん…」

 

アリスにとってはどうしても話しておきたいことらしい。

だから僕は彼女が落ち着けるようにと思い、自分の手を重ねるとビクッとしたあとで僕の肩に頭を預けてきた。

少しだけ、と言ったアリスが言葉にし出すのを静かに待つ。

 

「ありがとう、もう大丈夫よ。それとね、ユージオにどうしても聞いてほしいの」

「うん、聞くよ」

 

アリスが言いたいことを聞き届ける。

 

「私、ユージオが言ってくれた“好き”に対して、答えをだしてなかった///

 貴方やキリトのことも解らなかった整合騎士の時、それに昨日の夜の眠る時にも、どっちも私自身を思って伝えてくれた///

 だからね、私もユージオに伝えないといけないと思うから///」

「アリス、キミは…」

「ごめんなさい。どうしても気になって、立ち聞きしてしまったの…」

 

やっぱり、僕とエルドリエさんの話を聞いていたのか。

こんなに都合良くアリスが答えてくれると思ってなにか違和感を覚えたけど。

 

「聞いちゃったことは気にしないでいいよ。聞こえるような場所で話したのは僕達なんだから。

 でも、無理にいま答えようとしなくてもいいんだよ? 無理してないかい?」

「いいえ、無理はしていないわ。むしろ、話が聞けて決心がつきました」

 

僕の問いかけにも淀むことなくしっかりと応じてから、深呼吸をした。

 

「好き、大好きです、ユージオ/// 1人の女性として、男性の貴方のことが好きです//////」

 

真っ赤になりながらも僕に告白をしてくれたアリス。そっか、伝えてもらえるって、こんなにも嬉しいものなんだ。

彼女を優しく、だけど逃がさないようギュッと抱き締める。

 

「1人の男として、アリスのことが大好きだ/// 僕と結婚を前提にした交際をしてほしい//////」

「けっこ//////!? え、あ、う、は、はい//////! ふ、ふつつかものですが、よろしくおねがいします//////!!」

 

あぁもぉ、照れるけど可愛いなぁ/// キリトの気持ちが解っちゃったよ。

抱き締めながらも顔だけ離してから、その瑞々しい唇に口づける。

 

「ん…///」

「んぅ、ちゅっ…///」

「ふっ、アリス…///」

「はぁ、ユージオ…///」

 

そのあとも口づけを繰り返して、僕達はお互いを止めることなく、

 

「愛したい///」「愛して///」

 

その先へと踏み込んだ。

 

 

 

すぅすぅと可愛い寝息をたてながら眠るアリスの頭を優しく撫でる。

さらさらな髪を梳くと絡むことなく、むしろ滑らかといえるから女の子の髪は凄いなと思う。

お互いに生まれたままの姿で、アリスは僕に抱きつきながら眠っている。

 

「ありがとう、僕の気持ちに応えてくれて。愛してる、アリス」

「わたし、も…」

 

彼女が返答した、のではなく寝言だったらしい。

昨夜と似たような状況に笑みが浮かんで、でもそれが嬉しい。

僕も眠ろう、明日から忙しいから。

 

もう1人、キミにまた会えたら伝えるよ、親友…。

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はやくユージオとアリスをイチャイチャさせたかったんだ、反省も後悔もしていない(キリッ

 

まぁそういうわけでユージオは原作のように整合騎士になりましたがNo.0ということです。

 

次話は2人の帰郷でありユージオの軌跡を見て回ることになります、ナチュラルイチャイチャにできたらいいw

 

企画参加型アバターはまだまだ受け付けております、詳細についてはプロローグのあとがきをご覧ください。

 

ではまた次回で・・・。

 

 

 

 


 
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