No.838822

英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク 改訂版

soranoさん

第86話

2016-03-24 00:02:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:834   閲覧ユーザー数:790

 

~リベール・エレボニア国境付近~

 

エステル達が到着する少し前、ハーケン門の内側では王国軍が集結しており、外側ではエレボニアの”蒸気機関”による戦車とエレボニア兵達の大軍が国境に集結しており、そしてそれぞれの軍を率いる将であるモルガン将軍とエレボニア正規軍”第三機甲師団”を率いる将である隻眼の将校―――ゼクス・ヴァンダール中将が2人の護衛兵を控えさせて、ある程度の距離をとって対峙していた。

「説明してもらおうか!ゼクス・ヴァンダール中将!何故、このような場所に帝国軍の師団がやって来る!?締結されたばかりの不戦条約、よもや忘れたとは言わさんぞ!?」

「モルガン将軍……。説明していただきたいのはむしろこちらの方です。」

「なに……!?」

逆に訊ね返してきたゼクス中将の質問の意味がわからなかったモルガン将軍は驚きの表情で声を上げた。

「先日より、帝国南部の街で導力器が働かなくなるという異常現象が続いている状態です。そしてそれは、謎の巨大構造物が貴国の湖上に現れてからという確かな報告が届けられています。これは一体どういう事ですかな?」

「……どういう事も何も今、お主が言った通りだ。我々も、突然現れた災厄に混乱しきっている状態にある。」

「どうやらその様ですな。そしてその災厄が帝国領土を侵しているのも事実。ならば、我々がここにいる理由も理解して頂けると思うのですが。」

「おぬしら……我らの弱味に付け込むつもりか?」

エレボニア帝国の狙いを察したモルガン将軍は静かな表情で問いかけた。

 

「そのつもりはないと一応、言っておきましょう。異常現象に乗じて怪しげな犯罪組織が王国内で跋扈(ばっこ)しているとも聞いています。不戦条約を結んだ同盟国として何とか力になれないか……。帝国政府としてはそのような意向のようです。」

「戯言を……。ならばその戦車は何だ!?蒸気によって動く戦車などわしは今まで聞いたことがない!どうしてそんな代物をこの状況で都合よく連れてきた!?」

「それは……軍事機密と申し上げておく。だが、この戦車があればこそ市民たちの不安を和らげられるし、帰国の窮状を救うことも適かないましょう。どうかご理解いただけませんか?」

「くっ……」

そしてゼクス中将の正論に反論できないモルガン将軍が唇を噛みしめたその時

「……お気遣いとても嬉しく思います。」

「!?」

聞き覚えのある声を聞いたモルガン将軍が驚いて振り返ると、エステル達と共にいつもの学生服ではなく、貴族の服を着たクローゼがモルガン将軍達の背後から現れ、クローゼはモルガンの横に並んだ!

 

「な……!」

クローゼ達の登場にモルガン将軍は信じられない表情をした後クローゼに小声で話しかけた。

(ひ、姫様!?どうしてここに!?しかも王子殿下まで姫様と共に……)

(私は祖母上からクローディアの身に危険が迫った時、その対処をする為に共にここに来たのだ。)

(モルガン将軍、ご苦労様です。どうかこの場の交渉は私に任せていただけませんか?)

(で、ですが……。それにどうしておぬしらまでいるのだ!?)

レイスとクローゼの話を聞いたモルガン将軍はエステル達に視線を向けた。

(一応、クローゼの護衛なの。)

(それと、いざという時には仲裁をさせてもらうつもりです。)

(むむ……)

エステルとヨシュアの話を聞いたモルガン将軍は何も返せず、唸った。

(未熟な私に交渉役は務まらないかもしれませんが……。ですが、王太女としての務めを果たすべき時だと思うのです。どうか……お願いします。)

( ……分かり申した。ですが、いつ牙を剥くか判らぬ軍勢の前です。いざという時はすぐに門に逃れる準備をして下され。)

(……分かりました。)

モルガン将軍を下がらせたクローゼは前に出てゼクス中将と対峙した。

 

「どうやら交渉相手が変わったようですな。見ればやんごとなき身分のお方とお見受けいたすが……」

「お初お目にかかります。わたくしの名は、クローディア・フォン・アウスレーゼ。リベール女王アリシアの孫女にして先日、次期女王に指名された者です」

「!!こ、これは失礼いたした!自分の名は、ゼクス・ヴァンダール。エレボニア帝国軍、第3師団を任されている者です。」

クローゼがリベールの王女であるとわかったゼクス中将は驚いた後、敬礼をして自己紹介をした。

「あなたが……御勇名は耳にしております。」

(あのオジサン、有名なの?)

(『隻眼のゼクス』……帝国でも5本の指に入る名将だ。)

(ん?”ヴァンダール”?どこかで聞き覚えがある名前だな……)

(確かミュラー少佐のファミリーネームも”ヴァンダール”だったはずよ。……その事から考えるとミュラー少佐はゼクス中将の縁者でしょうね。)

エステルの疑問にヨシュアは静かに答え、首を傾げているフレンに指摘したアーシアは真剣な表情で考え込んだ。

 

「しかし以前、殿下のお姿を写真で拝見したことがあるのですが……。お髪(ぐし)をお切りになられたのですな?」

「恥ずかしながら……立太女の儀を済ませたばかりの身。身に余る重責に立ち向かうための小娘の決意の表れとお考えください。」

「いや、しかしそのお姿もとても良く似合ってらっしゃる。改めて……王太女殿下におかれましては誠におめでとうございます。」

「ありがとうございます、中将。」

「して……王太女殿下がどうしてこのような場所に?モルガン将軍と同じように我々に抗議するおつもりですか?」

「いえ……そのつもりはありません。帝国南部の方々もさぞかし不安な思いをなされている事でしょう。夜の闇、寒さ、情報の途絶……。どれも不安をかき立てるのに充分すぎる出来事でしょうから。」

「………………………………」

クローゼの話をゼクス中将は口を挟むことなく黙って聞き続けていた。

「で、ですが……」

「目下、わたくしたちはこの異常現象を解決する方法を最優先で模索しております。また、件(くだん)の犯罪組織についても自力で対処できている状況です。不戦条約によって培われた友情に無用な亀裂を入れないためにも……。どうか、わたくしたちにしばしの時間を頂けないでしょうか?」

「…………むむ………………」

そしてクローゼの正論に返せないゼクス中将が唸ったその時

「……残念だが、それはそちらの事情でしかない。」

ゼクス中将の背後から、エステル達にとって見覚えのある金髪の青年がクローゼのように軍装を身に纏い、ミュラー少佐を引き連れて現れた!

 

「……皇子……」

「ここは私が引き受けよう。下がっていたまえ、中将。」

「は……」

ゼクス中将を下がらせた青年は前に出てクローゼ達と対峙した。

「……へっ……」

「ハアッ!?」

「まさか……」

「冗談だろ……」

「もしかして……オリビエ……?」

「うふふ、ようやく”正体”を現したわね。」

「フン、胡散臭い男とは思っていたがまさか皇族だったとはな。」

青年の顔を見たエステルとルーク、シェラザードとアガットは信じられない表情をし、ソフィは首を傾げ、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、リオンは鼻を鳴らして青年を見つめた。

 

「お初にお目にかかる。クローディア姫殿下。エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールという。」

「!!!(皇帝の一子って……お、皇子様ってこと~!?シェラ姉、知ってたの!?)」

(し、知るわけないじゃない!てっきり帝国から派遣された諜報員だと思ってたわよ……)

(まさか皇族が身分を隠して自らリベールに訪れていたとはな……フッ、お前やメリルともいい勝負をしているな?)

(いや、それ以前に俺やナタリアは旅の時も身分を隠していなかったから、勝負とかそういう問題じゃないっつーの。)

青年―――エレボニアの皇子であるオリヴァルト皇子の名乗りを聞いたエステルはシェラザードに尋ね、尋ねられたシェラザードは信じられない表情で答え、バダックに視線を向けられたルークは疲れた表情で答えた。

「オリヴァルト皇子……名前だけは存じていましたが。」

「フフ、皇子とはいってもしがなき庶子でしかないのでね。公式の場で出ることも少ないから顔を知らなくても不思議はない。そかし、そうは言っても少しばかりショックではあるな。縁が無かったとはいえ、かつての縁談相手の顔くらいご存じかと思ったのだかね。」

「!?(あ、あんですって~!?)」

(そうか……大佐が進めていた話か。)

オリヴァルト皇子の口から驚愕の話が出るとエステルは驚き、ヨシュアはクーデター事件の事を思い出した。

 

「そうでしたか……。存じなかった事とはいえ本当に申し訳ありません。」

「まあ、女王陛下の与(あずか)り知らぬところで進められていた話とは聞いている。その事は別に気にしていないが……。だが……今回の事態は見過ごせないな。」

「……あ…………」

「クローディア姫。今、帝国本土でどのような噂が囁(ささや)かれているかご存じかな?」

「……いえ、寡聞にして……」

「ならば、教えてあげよう。彼方に見えるあの巨大構造物……あれが王国軍が開発した新兵器という噂だ。」

「!!!」

「『リベール軍が導力を止めてしまう画期的な新兵器を実用化したそうだ。彼らはそれを使って10年前の復讐を企てているらしい』―――こんな噂がまことしやかに流れているのだよ。」

「そ、そんな……。誤解です!わたくしたちはそんな……」

オリヴァルト皇子の話を聞いたクローゼは反論しようとしたが

「ならば……誤解である事を証明できるかね?」

「……っ……」

オリヴァルト皇子の指摘に対する反論ができず、唇を噛みしめた。

 

「出来ないのであればこちらもそれなりの対応をさせてもらうしかないわけだ。それどころか、噂の通りならば不戦条約を隠れ蓑にした重大な背信とすら言えるだろう。フフ……正当防衛もやむをえまいと思わないかね?」

「いい加減にしなさいよ!」

そしてオリヴァルト皇子が不敵な笑みを浮かべて問いかけたその時ついに我慢ができなくなったエステルが前に出てオリヴァルト皇子を睨んだ。

「エステル……!」

「お、お姉ちゃん!?」

「うふふ、さすがはエステル♪期待を裏切らない展開ね♪」

「何でお前はそんな呑気でいられるんだよ……」

エステルの行動にヨシュアとティータが驚いている中、小悪魔な笑みを浮かべてエステルを見つめているレンにルークは疲れた表情で指摘した。

 

「さっきから聞いてれば勝手なことをペラペラと!オリビエだってこっちの事情は大体分かってるんでしょ!?どうしてそんな意地悪なことばかり言うわけ!?」

「エ、エステルさん……」

エレボニアの皇子に真っ向から歯向かっているエステルをクローゼは心配そうな表情で見つめていた。

「おや……何だね君は?私のことを知っているようだが、どこかのパーティで会ったかな?」

「へっ……」

しかしオリヴァルト皇子が自分の事を知らない様子でいる風に答えるとエステルは呆けた表情をした。

「いや、貴族にしてはいささか品位に欠けるな……。ふむ、どこからどう見ても庶民の娘でしかないようだ。で、何者なのだね?」

「……上等じゃない。あくまでシラを切るわけね。そっちがそのつもりならあたしだって考えがあるわよ?」

「ほう……?」

怒りを抑えた様子で語ったエステルの答えが気になったオリヴァルト皇子は興味ありげな様子でエステルを見つめた。

 

「あたしの名前はエステル・ブライト!リベール遊撃士協会に所属するA級遊撃士よ!あくまで中立の立場からこの問題に介入させてもらうわ!」

「エステルさん……」

「ほう……遊撃士だったのか。(A級遊撃士といえば大陸でも有数の遊撃士じゃないか。フフ……エステル君もやるものじゃないか。)それで、中立の立場からというがこの状況で何をするつもりかね?」

エステルの行動にクローゼが驚いている中オリヴァルト皇子は内心感心しながら不敵な笑みを浮かべてエステルに問いかけた。

「あの浮遊都市がリベールの兵器じゃないことをここではっきりと宣言するわ!『支える籠手』の紋章に賭けて!」

「ほう……大きく出たものだ。確かに遊撃士協会の発言には無視できぬ影響力があるが……。果たしてその宣言にどれだけの根拠があるのかね?」

「根拠も何も、あたし達がこの目で見てきたことだもの。浮遊都市を出現させたのは今もリベールで暗躍している”身喰らう蛇”という結社よ。あたし達は、王国軍として彼らの陰謀を止めるために戦ってきた。何だったら、詳細な報告書を帝国政府に提出したっていいわ。」

「ふむ……。そのように言われては少々考えざるをえないが……。どうやら肝心な事が抜け落ちているのではないかな?」

「え……」

堂々と語ったエステルだったがオリヴァルト皇子の指摘の言葉を聞くと呆けた。

 

「仮にその結社とやらが犯人だったとして……この異常現象を止める方法が果たして君たちにあるのかね?」

「そ、それは……」

「ないのであれば、我々としてもてをこまねいているつもりはない。幸い、蒸気戦車に搭載しているのは火薬式の大砲でね。あの浮遊都市を落とすにはもってこいだとは思わないかね?」

「じょ、冗談でしょ!?大砲なんかで、あの巨大な都市を落とせるはずないじゃない!」

「フフ……やってみなくてはわかるまい。いずれにせよ……一つ、確実に言えることがある。君達には、我々の善意と正義を退けるだけの根拠も実力もないということだ。」

「くっ……」

「………………………………。ならば……証明すれば宜しいのですね?」

オリヴァルト皇子の正論に対する反論ができないエステルが唸ったその時、クローゼが静かに進み出て尋ねた。

 

「ほう……?」

「この状況にあってあの浮遊都市を何とかする可能性を提示できれば……。わたくし達にしばしの猶予を頂けるのですね?」

「ふむ……そうだな。一時的ではあるがそうせざるを得ないだろう。」

(お、皇子……!?)

クローゼの問いかけに答えたオリヴァルト皇子の答えに驚いたゼクス中将は慌てた様子でオリヴァルト皇子を見つめた。

(落ち着け、中将。不戦条約を結んだ相手に当然の礼儀というものだろう。それに証明できれば、だ。)

(……は………)

ゼクス中将を納得させたオリヴァルト皇子は再びクローゼを見つめた。

「それでは……。君たちが可能性を提示できたら一時的に撤退することを約束しよう。『黄金の軍馬』の紋章と皇族たる私の名に賭けてね。」

そしてオリヴァル皇子が宣言したその時!

「その言葉、しかと聞きましたぞ。」

突然、聞き覚えのある男性の声がどこからか聞こえて来た。

 

「い、今の声は……!」

「ひょっとして……!」

「嘘だろ……!?」

「うふふ、この絶妙なタイミング……なるほど………――――”そういう事”ね。王子様はもしかして知っていたのじゃないかしら?」

「さて、どうだろうね?」

男性の声を聞いたエステルやシェラザード、ルークが驚いている中、事情を全て察したレンに視線を向けられたレイスは口元に笑みを浮かべて答えを誤魔化した。

「ああ……間違いない。」

「おいおい、マジかよ!」

「……父さん。」

ジンは確信を持った表情で頷き、アガットは信じられない表情をし、ヨシュアが口元に笑みを浮かべて呟いたその時上空からアルセイユが降りてきて着陸した!

 

「これが現時点で我々が提示できる可能性です。どうぞじっくりとご覧あれ。」

「父さん……!」

「カ、カシウス・ブライト!?」

アルセイユの甲板にいるカシウスを見たエステルが明るい表情をしている中、ゼクス中将は信じられない表情で声を上げた。

「ゼクス少将、久しぶりですな。おっと……今では中将でしたか?」

「そんな事はどうでもいい。ど、どうしてこんな所に……。それよりもその船は何なのだ!?どうしてこの状況で空を飛ぶことができる!?」

「それは国家機密と申し上げておきましょう。貴国がどうして蒸気戦車を保有しているのかと同じようにね。」

「ぐっ……」

「ふむ……。これが噂の”アルセイユ”か。そして貴公が、かの有名なカシウス・ブライト准将なのか?」

カシウスの正論に反論できないゼクス中将が苦々しい表情で黙り込んでいる中、オリヴァルト皇子は興味ありげな様子でカシウスに問いかけた。

 

「お初にお目にかかります、殿下。何やらどこかでお会いした事があるような気もいたしますが……」

「奇遇だな、准将。私もちょうど同じ事を感じていたところでね。」

「それはそれは……」

「まったく……」

カシウスとオリヴァルト皇子、互いの顔を見つめた二人はそれぞれ口元に笑みを浮かべた後笑い始めた。

「「ハッハッハッハッハッ!」」

「フン……なるほどな。この騒動も全てあの二人による大掛かりな茶番だったという事か。」

「え……一体何の為なの?」

二人の様子を見て状況を悟り、呆れた表情で呟いたリオンの言葉を聞いたソフィは不思議そうな表情でリオンに訊ねたが

「知るか、そんな下らん事。」

リオンは興味なさげな様子でソフィの疑問に答えなかった。

 

「お、皇子!」

「クローディア姫、エステル君。私も誇り高きエレボニア皇族だ。先ほどの約束は守らせてもらおう。すぐにでも、この付近から帝国軍の全部隊を撤退させる。」

ゼクス中将が声を上げたにも関わらずオリヴァルト皇子は無視してクローゼとエステルを見つめて答えた。

「オリビエ……」

「……感謝いたします。」

オリヴァルトの答えを聞いたエステル皇子は明るい表情をし、クローディアは微笑んで答えた。

「ふむ……しかし、そうだな……。可能性を示されただけでは我が帝国市民も納得すまい。ここは一つ、私自身がアルセイユに乗せてもらって視察するというのはどうだろう?」

「お、皇子ッ!?」

「ふむ、皇子自らの視察とあらば帝国政府も納得しましょう。如何です、クローディア殿下?」

そして更なるオリヴァルト皇子の提案にゼクス中将が驚いている中、カシウスはクローゼに訊ね

「勿論、願ってもないことです。リベールとエレボニアの友情もさらに固く結ばれる事でしょう。歓迎いたします。オリヴァルト皇子殿下。」

クローゼは優し気な微笑みを浮かべてオリヴァルト皇子の同行の許可を出す答えを口にした………

 

 

 

 


 
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