―――最初は爺さんの剣技を真似ただけだった。友達が上級生に苛められていて、近くにあった箒を振り回して叩きのめした。大怪我をさせて…。
―――先生に怒られた。助けた友達にも距離を置かれた。親に怒られ、入院している上級生の所へ謝らせに行かされた。人じゃない物を見る様な眼で見られた。
―――どうしてだろう?そればかりが、頭を過ぎる。自分は正しいと思った事をした、そう感じているのに皆は…世界はそれを認めてくれない。
―――正義とは何だろう?『正しき義』とは誰にとっての物なのだろう?ただ言える事があるなら、
――― ……今日この日をもって僕に…俺にとってそれはとても“くだらない”物となった。
―――数日して爺さんに呼ばれ、道場へと赴いた。また叱られると思ったが、もう心が揺さぶられる事はない。ある意味、自分の行動が悪かったと諦めているのかもしれない。道場に入ると明りは点いていなかったが窓から入る月の光が、奥に胡坐をかき瞑想を行っている爺さんを幻想的に照らしていた。俺の目には抜き身の刀にも見えた。
―――爺さんは俺を自分の前に座らせると、俺を見据えて怒る訳でもなく「どうして喧嘩に箒を、武器を用いた?」と訊いてきた。確かに拳を使えば良かったのに、俺は近くにあった箒を…武器を手に取った。…どうしてだっけ?
―――「安心したからか?勝てないと思ったからか?それとも…今回のように相手を打ちのめしたかったからか?」と尋ねる。俺は違うと叫ぶ。しかし、それだけ。実際に俺はどうして武器を取ったのかは解らない。ただ…。そう、ただ……。
―――「…助けたかった。本当にそれだけだった」っと、嗚咽交じりに言葉にしていく。助ける方法なんてどうでも良かった。自分は確実な方法がそれだと思い実行した。「だが、力加減が分からなかった…じゃろ?」爺さんが心を読むかのように話す。そして、
――――「一刀、ワシはな別に刀真[とうま]や一菜[かずな]さん、お前の父や母のように暴力を振るうなとは言わん。寧ろ、やれ…殺り合え。その分、男は強くなれる。力がじゃないぞ?ここが…だ」っと、自分の胸を叩く。その顔は曇りなく限りなく裏の無い笑みであった。しかし、「じゃが…」すぐに厳しい顔つきになる。
―――「武器を持ちやり合うなら、ワシは容赦なくお前をシバク。武器を持つのはそれだけに“覚悟と鍛錬”が必要だ。そうでなければ、それはただの“殺す剣”だ。赤の他人ならどうでもいいが、身内が振るう事は許さん。だから一刀…」っと、爺さんが俺を見据える。俺は足が竦み、その眼から逃れる事は出来なかった。同時に逃げる気も無かった。
―――「貴様に選択権をやろう。自分の生き方に悔いぬよう、ワシの下で剣を習い強くなるか。それとも、自分の信念を潰してでもこの世界の『正義』従い生きるか?」っと訊いてくるが、今の自分には到底理解の出来るものではなかった。でも、理解できる事もある。
―――「爺さんの言う事は解んない。でも、自分が選ばなければならない選択肢は判るよ。……爺さん」
―――爺さんが笑っている。スッゲーカッコよく見えて、俺もあんな風になれたらと思って目標にした。
―――「俺に武術を教えてくれ、師匠」―――
―――8年前の夏、星の綺麗な夜。俺事、北郷 一刀はこの日、天衣無縫流の門下生となり、その3年後に師範代に上り詰めた神童となる。
―――あと、やり合えの“やり”が“殺り”になっている事はスルーでいいよね?
それから5年後、少年は青年となり今、剣を振るう。
真・恋姫†無双~物語は俺が書く~
第9幕「朋友と競う事。それ、成長の促進なり[前篇]」
――――タッタッタッタッ。
青年、北郷 一刀は現在進行形で戦場をかけていた。途中途中で黄巾党の雑兵どもが、一刀を殺そうと自分の得物を振るうが空しくも当たる事はなく、逆に…。
――――プスッ。バキッ。ドスッ。
一人は首に針を射され、また一人は顎を打ち抜かれ、ある者は足に苦無を撃ち込まれる。しかし、一刀は止まらずただ前に進む。
狙うは大将のみ。大将を討てば相手の士気も落ちるのは通りである為に、一刀はそのまま、雑兵は自分から相手にしようとせずに進む。勿論、来る者は拒まずで死なない程度に相手はする。
「しかし、大将は何処にいんだよ?無駄に走り回りたくなんかないぜ…」
〈陣形も何も有ったものじゃないですからね。小心者ならば、敵が多く集まっている所ですし戦闘好きならば、戦場を駆けているでしょう。今回は後者のようですね?〉
一時的に息を整える為に、速度を落としながら進み悪胆を吐き捨てる。朔も現状況を分析し、自分のマスターを補佐する。
現状況では此方が圧倒的に有利であり、別段大将を始末…捕らえる必要性も無いが情報を得る為に探していた。
しかし、一向に見つかる気配が無く一刀もしょうがなく、作戦を探索から黄巾党の撃退に切り替えようとする。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「オ~ヨヨッ~!」
〈………マイスター?〉
「………何も言うなッ!」
とても小さな声、常人なら聞き逃しそうなほど小さかったが既に、常人の枠を飛び出している一人と一つ。更に言えばこの状況、もう一度や二度ではなかった。一刀は諦めたように振り返る。
視界には黄巾党のシンボルである、黄色い布を付けていない為に敵として攻撃されている黒髪の常備スキル“不幸EX”を持つ美少年。
「くそっ、こいつ…なんで当たんないだよッ!?」
「や、やめて~」
弱腰になりながらギリギリで敵の攻撃を避ける『野上良』こと『夜葉』がいた。
一刀は呆れ気味な眼で夜葉を見つめ、そして…
「よし、次行くぜ!」
〈そうですね、放っておいても問題ないでしょ!〉
夜葉が戦場に巻き込まれているのは今に初まった事ではない。しかもその度に助けようとした一刀の方が被害を受け、更に夜葉に至っては無傷とは言えはしないが一刀よりは被害はなかった。その理由も知っている一刀たちは夜葉を見捨てることにした。
しかし、世界は優しくはない。
「あ、痛い。…あっ、一刀!?助けて~~」
「んぁ?あんなところにも獲物が居るぜっ!?」
夜葉が尻もちを着いた際に一刀たちの存在に気づき、そして大声で名前を呼んだせいで、敵が一刀たちの方に向かい始めた。
「ちっ!夜葉の奴…覚えていろ。朔、“あれ”を使う!補助を頼む」
〈しょうがないですね~。甘えん坊のマイスターは〉
夜葉の行動に悪胆を吐きつつ、確りと助け出そうするマスターをからかいながらも“ある事”の補助を行う。
一刀の前の方から敵が3人。近づくに連れて6人、8人、15人と増えていく。しかし、恐れることなく一刀も突き進む。その躰には無数の“朔夜”と同じ蒼色の静電気を奔る。
「(50m、35、28…)」
頭の中で敵との距離を測り、左腕を首に巻きつける。
〈25、17、10m〉
朔も敵との距離を計算し、一刀とタイミングを合わせようとする。そして、敵との距離が5mになった。
「今だッ!」
〈仰るまでも有りませんッ!〉
一刀が敵を凪ぐかの如く、左腕を思いっきり振るい同時に“朔夜”が蒼く輝く。そして二人は同時にこう叫んだ。
「〈―――発動〔ライジング〕、稲妻の氣〔ライトニング・オーラ〕―――〉」
刹那の出来事であった。近くにいた者何が起こったかすら理解できなかったが、遠くにいた者はしっかりと見ていた。
一刀が腕を振るった瞬間、雷が落ちたかのように光り輝き、近くにいた者はその衝撃で吹き飛んでいた。一刀の周りでは光の代わりに砂塵が舞い上がり、一刀の姿を隠していた。しかし、その砂塵の中で蒼白い光が走っているのは誰の目にも映っていた。
砂塵が晴れ、その中から現れたのは静電気により髪が逆立ち、淡くて蒼い光に覆われている一刀が仁王立ちして“朔夜”を敵に向けていた。そして猛禽類を想わせるように口を三日月のように釣りあげてこう宣言した。
「絶滅タイム〔時間〕だ」
まぁ、知っての通りのハッタリでは有るが、敵にとってはとても危険極まりない男として映っているのだろう……次々と背を見せ逃げ始めた。それを切っ掛けに一刀も更に煽るように、敵に飛びかかった。
一刀が異次元“亜門”から様々な物を取り出し、投擲し始めた。
常人どころか、英雄[武将]クラスですら飛べるかわからないほどの跳躍力で飛び上がり、両手で3本ずつ指の間に苦無を取り、
「俺はコイツを……ブチ込むッ!!」
地上で逃げ惑う敵に向かい、投擲する。
「うぎゃっ!??」
時に千本[針]を目標も定めず乱射し、
「もっと、強くッ!!」
「うわぁ~!?たすけて~んヴラッ~っ!?」
空中で逆さになりながら時として釵〔さい〕を投げ、
「角度を変えてッ!!!」
「あぁぁぁッ!?かあちゃ~ん!!?」
更に傍から見ると狂者にしか見えない笑みを浮かべながら、手裏剣・棒手裏剣を、
「更に強く……」
「オ~ヨヨ~ッ!??一刀、僕もいるよぉぉぉぉ!!!?」
追加と言わんばかりに鎖鎌・投げ分銅。
「ブチ込むッ!!!!!!」
「ぶらぁぁぁ!私が戦うのは愛の為!いずれまみえる殿方の為、私は果てなき戦いに身を投じるのよぉん!」
「ぐはぁぁぁぁっ!きもいいぃぃぃぃぃ!」
「うふふっ。キモチイイだなんて、大胆ねぇ」
「一文字、多い!?」
更にリベリ○ン・ケル○ロス・ネヴ○ン・ベオ○ルフ…ext。
「ぬぅはっはっはっ!弱い弱いぞッ!?最近の若者は腰に力が篭もってないな!?」
「これが俗世間で言う『ゲート・オブ・バビ○ン』!?」(作者より:有りだと思います、じゃなくて、似たようなもんです)
苦無・千本・釵〔さい〕………中には投げられる武器では無い物も有ったが、そんな事お構い無しに敵に躊躇なく投擲する。確りと刃を潰しているので打ち所が悪くない限り、死にはしないであろう……骨折などはともかく。その敵…黄巾党はと言うと。
一刀が放った投擲により、黄巾党の大半が倒れたがその光景は正に死屍累々……。その中にはあの投擲を切り抜ける事が出来た幸運な者と、ボディビルダーの真似ている筋骨隆々の漢女2人。そして目を回しながらも、生き残った夜葉が立っていた。
その状況を見た一刀は嬉しそうに笑みを零していた。
「よしっ!何とかうまくいってんな。朔の補助の御蔭で継続時間が長いし、制御が効くから力加減もバッチリだ。……変なのがいるがな」
〈と、当然です!その為に私が居るのです。べ、別にそれが私の役目であって、貴方を助ける為じゃないんだから!!……変なのが居ますが〉
一刀の問いにツンデレ風味に返答する朔は素なのか、それとも演技なのかは解らないが一刀は気にしていなかった。
「……くっそ!?何なんだよ、あいつ…。こんな奴が居るなんて聞いてねぇよ!!」
そんな中、あの投擲の中で生き残った黄巾党が一刀から逃げようとして、その横で目を回している夜葉が視界に入った。
「こうなりゃ、コイツを人質にとって!!」
そう答えを出した後の黄巾党の動きは速く、すぐに夜葉の腕を取ろうと掴みかかろうとした。それに気付いた貂蝉、卑弥呼が目で追えない速さで近づこうとしたが間に合いそうもない。
一刀も気づいて…いや、この黄巾党の行動は予想していながら敢えて動こうとせず、この状況を見守る。なぜなら一刀は夜葉が“何故、戦場にいながら軽傷で生還出来るのか?”という、理由を知っているからである。
黄巾党が夜葉の腕を掴む。そして、引き寄せようとした。
―――ガスッ!!
「はっ…?」
「あらぁん?」
「いいオノコがいたのぅ…///」
『……気安く、触ってんじゃねぇよぉ。この野郎!!』
最初は夜葉を人質にしようとした、黄巾党の声。次に驚いた貂蝉に頬を桃色に染めた卑弥呼。そして、最後が………腕を引いた敵の顔面に正拳を叩きつけている夜葉だった。
「いっつぁ!!?……この野郎、人が変わったみたいに強くなった?」
黄巾党が殴られた鼻を押さえながら、後ず去りし夜葉を睨みつけて、
『あぁん?なんだ、その眼は?やんのかよ?』
……物凄い速さで逸らした。
「………やっぱこうなったか」
〈なりましたね~〉
一刀は呆れたような発言に、朔が同意する。今、一刀の目に映っている夜葉は何時ものノホホンとした雰囲気はなく、その逆で髪を逆立って赤いメッシュが入り、何故か赤くて長い布を首に巻いていた。そして、その顔は野性的、若しくは極悪そうな笑いを浮かべ、黒から赤玉に変化した瞳を煌めかせ夜葉は右親指を立て自分を指し、左腕を後ろへと伸ばす。
『俺!』
そのまま、姿勢を低くして右腕を後ろへ。左腕を前へ出し、奇妙な構えを取るそして。
『参上!!』
大声でそう宣告した。
その構えから腰に付いている四本の棒を組み合わせる。そして、夜葉…紅がその棒に紅い氣を注ぎ込むと先端から深紅の刀身が現せた。そしてその組み合わせた棒を肩に担ぐ。
『天我連邪[でん・が・つ・しゃ]、剱[つるぎ]形態…。夜葉の願いで殺しはしないが……骨の一、二本は覚悟しろ』
連結槍・天我連邪[剱]を振り下ろし、極悪な笑みを浮かべる。その躯には深紅の氣<クリムゾン・オーラ>を身に纏い、まるで紅い鬼を幻視させる。そして一歩ずつ敵に近づくと敵も合わせるように後退りする。それに業を煮したのか、紅が天我連邪[剱]を振り回し敵に突出する。掛け声は勿論あれであった。
『俺に前振りはねぇ!最初から最後まで最骨頂!一刀が言う、“黒いますく”ってやつだぜ!!』
《紅…。それをいうなら“くらいまっくす”のはずだよ?》
『いくぜ、いくぜ!いくぜっ!!』
心の中で夜葉が突っ込みを入れるが、もはや耳に入ってはいなかった。
「元気だな、紅[くれない]の奴」
〈ヤンチャ盛りなんですよ〉
一刀は暖かな眼で夜葉…基、紅と呼んだ青年を見守る。
―――解離性同一性障害。トラウマから自分を護ろうと自己防衛の為に、違う自分を作る事であり、一刀がこれを……“紅”を知ったのは暴徒を黄巾党と呼ぶ前の、戦の中であった。
戦っている時に夜葉を見つけ近寄った際に、足元に転がっている暴徒を見つけた。しかし、どれも過労時で生きているというだけで生き地獄と言っていい。しかし、何より信じられないのはこの中にいながら平然としていた夜葉が居る事だ。いつもならこんな状況にいたら気絶するか、助け起こすはずなのに今の夜葉は平然と空を見つめていた……野上一族の宝具、“連結槍・天我連邪”を血に染めて。
一刀も不審に思い、呼びかける。しかし、帰ってきた返答はいつもの夜葉を感じさせない物で有った。
『なんだ、てめーは?』
夜葉より野太い声で礼節も知らない口調。それが一刀と夜葉を“戦闘から護る人格”、『深紅の鬼』こと紅との出会いであった。
「敵でなくて良かったと思うよ」
〈随分な弱気な発言ですね?あの時、戦闘になっても軽くあしらっていたではないですか〉
『あしらわれてねぇ!!!』
一刀の弱音に朔が反発する。その発言に30m以上離れているはずの紅が反論する。勿論、余所見しながらも敵を相手にしている。……気のせいか、峰で叩いているはずなのに血が吹き出ているように見える。きっと、紅の氣が飛び散っているからだろう。
その反論している紅に朔がワザとらしく謝罪する。
〈あら~、ゴメンナサイ。頭が悪いから耳も顔も悪いものだと……あぁ、別にヨルハさんの事では無いので、“ヨルハさん”は気にしないでください。“ヨ・ル・ハ・さん”は!!〉
『くそっ~~~!!愚策[gu“saku”]の分際で人を小馬鹿にしやがって!!』
〈誰が愚策ですか!?人の名前すら覚えれない脳味噌しか持っていない、鬼もどきが!??〉
〈『なにを~~~!!!!?』〉
「お前ら……うるせいよ」
《みんな仲良くしようよ……》
朔と紅は相性が悪いらしく、二人揃えばこうやって喧嘩ばかりして最終的に一刀と夜葉が仲裁に入る。
主に夜葉がだが…。
そして、話題を変えるように一刀が紅にこの場を任せると言い残し背を見せる。後ろから「『言われるまでもねぇ!!』」という声が聞こえたので後ろを振り向かず紅とは別の方向へと走り出す。
〈いいんですか、あんな奴に任せてきて?鬼もどきはどうでもいいですが、ヨルハさんに若し何かあったらヒカリさんになんと言えば……〉
「不吉な事言うなよ。…唯でさえ不幸体質なんだからな、それに紅が居るし“それ以外も憑いて…基、居る”から大丈夫だ、っと!」
―――ガスッ!
「ガッ!?」
何だかんだ言ってはいるものの、遠回しに紅の事も心配している朔に苦笑を覚えつつ説得する。それと同時に確りと周りに気を配り、襲ってくる敵に“朔夜”で首に峰打ちにする。
〈そうですか。……所でマイスター、『無駄に走り回りたくなんかない』のでは?〉
朔も自分の心境を読まれている気がしたのか、話を逸らすと共に自分のマスター行先を訊く。
朔はこの先から氣を放つ者がいるのを二人居る事を感じていた。
一つは微弱ながら悪質な氣。そしてもう一つはそれと比べ物に成らないほどの強力尚且つ、上質で綺麗な氣。一刀よりの氣の量は遙かに多いであろう。
この戦いで朔が確認している氣の使い手は貂蝉、卑弥呼、一刀、夜葉(紅)、そして華陀の五人。貂蝉、卑弥呼、夜葉の氣は一刀の後ろから感じる為にこの先にいる事は無いだろう。そして、華陀の氣は先ほど記憶した為に、後者の氣を放っているのは彼であろう。
なら、残りの氣は?
決まっている。黄巾党の中にも氣の使い手が居る事を差す。尚、朔の氣の探索並びに察知能力は一級品である。その能力を使い、味方の兵の中にもいないかと探索したが残念ながら引っ掛からなかった。
結果、最後の微弱な氣は敵の者となる。もし、一刀がこれに気づかずに向かっているなら。
〈(正直な話、今のマイスターを氣の使い手と戦わせたくはないですね。負けるとは思えないですが、万が一っという事も有りますしもう少し調整……ではなく、調ky…でもなく、修行させた方が)〉
なにか違う気がするが、これでも一刀の事を考えている為に違う方へ向かうように指示するが。
「朔、解ってる。この先に氣の使い手が居るんだろ?」
朔は一瞬震えた。ここ最近氣を修得し、驚くほどの早さで成長していたがこれほど離れた者の氣を感じ取る事が出来るとは、思いにも寄らなかった。
一刀は朔を見ずに先を見つめたまま走り、その顔は先の店で見た決意の顔だった。視線を逸らさずに言葉を続ける。
「朔…。確かに“今”の俺が倒さなくても、俺じゃない“誰か”そいつを倒すだろう。……でもその“誰か”が来るまでに何人もの人が死ぬ」
―――これ(この世界)を夢と笑っていたくせに―――
「華琳が言っていた……」
―――『貴方達はもう一人じゃない、魏という仲間がいる。覚えておきなさい!!』―――
―――虫の良い話だな―――
「敵なんかどうなろうが、知った事かよ…。俺は…」
―――でも……悪くねぇなぁ……―――
「その“誰か”になって死ぬかもしれない奴らを、救うんだよっ!」
「―――仲間っていうのを(は)!!!―――」
朔は溜息を着きながら、しょうがないと言わんばかりに承諾する。しかし、別に呆れているようには一刀は感じれなかった。
〈…………分かりました。ですが、負けそうになったら引き上げてください。貴方が、仲間を大事に想うように。私にとってもマイスターは替えようの無いお方なのですから〉
「あぁ!」
互いの想いを語り合いながら一刀は更に速度を上げ、戦場を駆ける。それは正に駿馬の如く。その速さは一刀の心を顕しているかのように。
しかし、朔はこの後起こる出来事に自分の軽い返答に後悔する事となる。
「ここか!?」
厭な氣を辿り着いた先は……地獄であった。
足元を見れば、魏の鎧…手甲が付いている手“だけ”が転がっていた。啖呵を飲み、頭を上げる。
―――頭が、手が、腕が、足が脚が太腿が、二の腕が、胴体が腰が目玉が耳が鼻が髪が肺が腸が………血が…血?……血だ………血ッ!?
突如襲いかかる嘔吐に苦しむが、すぐに治まる。顔を上げる一刀の顔は怒りの形相でその眼に今の光景を焼き付ける。一刀とて何度もこういう場に居やわせようとも慣れぬものがあった。
それ以上に…余りにも酷い殺し方に、身体のそこから何かが込み上がって…いや、“這い上がって”来るのを感じる。それに呼応するかのように身に纏う氣が大きく、そして膨らむ。同時に……。
―――バチッ。バチッ、バリッ!
ほんの刹那。瞬きするほどの時間では有ったが、朔のみは気づいた。漆黒と言っても過言ではないほどの、“黒い稲妻”が奔った事に。
〈…マイスター、落ち着きなさい。氣が乱れていますよ?このままでは“稲妻の氣”が解除されます〉
それが、何を意味をするのかを知りながら何も見なかったように朔は振舞う。一刀もそれに気付いていないようで生返事で返し、感情を押し殺す。そして、後ろから何かが近づいてくる事に感づいた。瞬時に踵を返し、振り向くアクションと共に“朔夜”抜刀する。
初めに視界に入るは銀色の閃。それを反射行動[オート・アクション]により“朔夜”で弾く…が。
「(重いッ!?春蘭に及びはしないが、なんて撃だよッ!!?)…けど、図に乗んな!!」
すぐに体勢を立て直し反撃に出ようとしたが、本能が叫ぶ。
―――避けろと。
本能に従いバックステップで距離を取る。氣で強化している為にその跳躍力は半端ではなく、一気に10m近くは跳んだ。同時にだった、ドスンっという音が聞こえたのは。
さっきまで自分が居た所を見れば、黄巾党“らしき”者が拳を振り落とし地面を陥没させている。………春蘭がやった時と比べれば、遙かに劣るがそれでも喰らえば強化した一刀でも“怯む”であろう。
「チッ、外しちまったか…。怯んだ後に“そこら辺に散らばっている残骸みたい”にしてやろうと思ったのだがな」
その言葉に一刀が敵を怒りの眼差しで見つめると共に、纏っている氣が弾け飛び敵に向かう。それを軽く避け、驚いたように一刀を見つめる。
「へぇ~!氣っていうのは人それぞれの“型がある”って聴くが、手前のは飛散型?それとも投擲型?クックックッ……面白くなって」
「―――黙れ―――」
敵が一刀の気に付いて語り、強敵と戦える事に歓喜していたが、一刀の一言で押し黙ってしまう。
朔はどうしようかと迷っていた。朔が心配していたのは正にこれであった。
確かに一刀は強くなっていたが、それは飽くまで戦闘能力である。しかし、氣を扱う…コントロールするのは飽くまで『心』である。それこそ、敵に自分のペース配分を崩されるようだと氣は長くは続かない。こういうときに紅が居れば、敵のペースを崩して此方のノリを良くしてくれるのだが、無い物を強請ってもしょうがない。
〈マイスター、ここは撤退を。理由は言わずとも解りますね?〉
一刀もバカではない、自分の状態は理解していた。しかし、それでいいのかと自問する。
―――皆がこんなに殺されて逃げるのか?―――
―――ベストコンディションじゃない、ここは一度撤退して―――
―――そんな物、ここで整えればいい―――
―――……でも―――
―――お前が撤退すれば、また誰かが死ぬぞ?―――
辺りを見渡す。大地は赤く染まり、赤い肉が散らばる。
―――また、死骸が増えその増えた分だけ、悲しむ者が居る。こいつらだって愛するもの為に戦った―――
―――…………―――
―――俺はこの場で立て直せば良いと言っている。死ねと言いているんじゃない、出来ない事なのか?何の為にここにいる?何故強さを求めた?その剣は飾りか!?―――
―――…ち…違う……違うッ!―――
―――そうだ!俺は出来る!その為の力!その為の剣!その為に俺は―――
「そう、その為に―――護る為にここにいる」
〈マイスター?〉
突然、暴走しかけていた荒々しい氣が収まり、何時もの正常の状態に戻る。その状況を飲み込めない、朔に一刀が無表情で一刀が話しかける。
「朔、撤退はしない。このまま、けりを付ける。手伝ってくれ」
その言葉にはどれほどの重みと決意が込めれているかを、感じてしまっている。だから、朔には断るという選択肢など無かった。
〈しょうがないですね。本当に小十郎に似ておられます〉
再び剣を構える一刀に対して、先ほどまで殺気と狂気に満ち溢れていた敵。しかし、今の敵からは闘争心すら感じられず不思議に思っていた矢先。
―――チッ!使えねぇ、駒だぜ―――
何処からか、若い男の声が聞こえた。そして……。
――ドカッ!!
敵の頭が飛んだ。
一刀の方に飛んでくる。その軌道には居ない為に避けない。厭、避ける……動く事が出来ない。思考が追い付いていない訳ではないが敵が居た場所に、新たな敵が現れた為に視線を逸らす訳にはいかなかった。
頭が落ちた音が聞こえる。その音に反応して新しい敵が不気味に笑う。
敵を見据える。歳は自分と同じくらいのチビ。道士と言われる者がいる様な服に耳にピアス、白髪に近い栗色の短髪。そして端整な顔立ちに額には、なんかしらのペイントが施されていた。
その敵がこちらと目を合わせる、同時に敵意をむき出しにしてこう言ってきた。
「久しいな…北郷 一刀」
「!?なんで俺の名前を…?ふっ、俺もやっと売れてきたって事か」
敵は未知数の為に、余裕があるように見せるが余り効果が有るようにも言えない。それと一緒に一刀は物凄い頭痛に襲わる。
「(……ッ!?なんだよ、こんなときに!!俺は今からこいつと………“左慈”と決着を!!)………って、なんでこいつの名を?左慈?」
その名を発した途端、身体から力が抜けおちる。朔が大声で敵に、左慈になにか罵倒の様な事を言っているが聞こえない。
〈マイスター!!?そこのチビ道士!何をしてくれやがったんですか!?唯でさえ、よわっちい人なんですよ!これ以上弱体化させてから勝って嬉しんですか!?身体だけじゃなく、心までチビですねッ!!?貴方なんか、キモロン毛の于吉に掘られてしまえばいいんです!!!!〉
「ちょっと待て!俺じゃないし、そこまで言われる筋合いはないぞっ!それと、朔っ!俺はチビじゃない、平均身長だ!!!」
何か言い争うが、今の一刀には何も聴こえ無ければなにも見えない。
実際には“観“えているが、今の場所では無い。一刀の目にはテレビの砂嵐のような光景が見えている。そこからなにか見え始める。
「(何だよ、あれ?)」
徐々に砂嵐が治まる。そして、何処かの神殿が見える。更にもう一つ……大事そうに飾られている鏡が……。
……続く。
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