No.836809

ロイヤルガーデン if ~非・御子神ハルルコ√~ 『マチネ』

DTKさん

DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。

今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。

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2016-03-11 23:46:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2276   閲覧ユーザー数:2065

 

 

 

 

 

気まぐれに学園にも行ってみた。

神狗郎も、あの娘も、私に対する態度は以前と変わらなかった。

でも……ダメだった。

以前と変わった二人の間の空気に、耐えられなかった。

 

前のように引きこもってみた。

ベッドの上に寝転がりながら、日がな一日ゲームと洒落込んだ。

でも…やっぱりダメだった。

以前と違い、部屋の外に広がる眩い世界を知ってしまったから。

部屋で一人腐っている自分に、耐えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々と試した結果、今日も幾度目かの別荘に訪れていた。

 

「おう、ハルか」

 

豪快な先客の声。

どこかそれを期待していた私がいた。

 

「またサボりか」

「人聞きの悪いことを言うわね」

 

実際その通りなんだけど。

いつものようにシャワーを借りるわよ、と言って踵を返す。

 

「ん……おう、そうじゃ」

 

いつもこのタイミングで、さも今思い出したかのように神狗郎の事を聞いてくる。

もうすっかり慣れたもので、こちらとしても身構えることが出来る。

 

 

 

「月宮神狗郎くんは、元気かね」

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

私の頭には、熱いお湯がかかっていた。

シャワーみたいだ。

 

「バレてた……のね」

 

当然と言えば当然。

お爺さまは世界に冠たる御子神グループの総帥。

私はその孫娘。

そして、神狗郎はその孫に寄り付いた男。

私たちがなんと説明しようと、お爺さまはあらゆる情報網を駆使して、神狗郎の裏を取ったに違いない。

エルガンディアがどれだけ強固な情報統制を敷いたか知らないけど、お爺さまがその上を行った。

結果、その過程で神狗郎の『正体』に至ったのだろう。

 

「話すしか、ないわよね」

 

お爺さまが自分からこの事を吹聴するとは思えないけど…

シャワーを浴びながら、そう決心したのだった。

 

 

…………

……

 

 

リビングでは、相変わらずお爺さまが書類仕事に勤しんでいる。

今までは邪魔しちゃ悪いと思って近寄らなかったけど、今日は近くのスツールに腰を下ろす。

お爺さまは手を止めない/目を留めない。

だから私も、正面に広がるオーシャンビューを見ながら、

 

「……ねぇ、お爺さま。月宮神狗郎くんって、覚えてる?」

 

そう、切り出した。

 

「ん?……おぉ、もちろん覚えておるぞぃ。ハルが小さい頃に執心しておった子役じゃろ?会うたび、耳にタコが出来るほど聞かされたもんじゃ」

 

お爺さまが少し困ったように笑う。

 

「……そうだったかしら?」

 

惚けてみるけど、それは本当。

誰かに、彼の活躍を伝えたかった。

そのとき一番身近に居たのがお爺さまだったから、結果として一番神狗郎の話をしたのもお爺さまだった。

 

「まぁいいわ。私にとってその神狗郎くんが、最初の友達だったの」

「……ハルが小さい頃は、御子神が最も忙しい時期であった。それを理由にハルに寂しい思いをさせてしまった事は、儂の人生最大の汚点じゃ」

「いいのよ。おかげで私は、神狗郎くんに出会えた」

 

もし私に普通に友達がいたら?

あんなに夢中にテレビを見なかったかもしれない。

もしそうなら、神狗郎のことなんか目に留まらなかったかもしれない。

どっちが良かったかなんて、今は分からない。

 

「でもその後、神狗郎くんは突然、テレビから姿を消した」

「うむ……色々と、あったらしいの…」

 

多分、この辺りの事情もお爺さまは知っているのだろう。

 

「えぇ。マネジメントをしていたご両親が事故で亡くなり、事務所の人間にお金を持ち逃げされ、残されたのは世間のことなど何も知らない子供が一人。彼は演じることしか出来ない人間だった。雀の涙程度のギャラで小さな舞台に立ちながら、糊口はバイトで凌いだそうよ」

「…………」

「そしてその男の子は、最近になって突然、私の前に現れた。異国の皇子『陽』として」

 

核心に触れる。

 

本人ではないけど。お爺さまのブラフかもしれないけど。

私はバラした。神狗郎の秘密を。

 

 

…………

……

 

 

「……最初は、奇妙な一致じゃった」

 

重い沈黙を破ったのは、お爺さま。

いつのまにか、書類の手は止まっていた。

 

「ハルが昔好きじゃった子役と、恋人だと連れてきた者の名前が同じ。異国の皇子と言うておったが、一応と身辺調査してみたら…」

 

お爺さまは一度言葉を切り、目を閉じる。

ショッキングだったのか。それとも怒りを鎮めているのか。

 

「んまぁ、ともかくじゃ。調査の結果、ハルが連れてきた『陽皇子』と月宮神狗郎くんが、同一人物だと発覚したわけじゃ」

「やっぱりバレてたのね。エルガンディアは自分たちのセキュリティを過信しすぎたようね」

「神狗郎くんにどんな事情があるにせよ、彼自身は良き人間のようじゃし、ハルも好いとるようじゃから、大人しく成り行きを見守っておったのじゃが……」

 

今度は言葉を濁す。

こちらを窺うような空気。

そこまで、バレちゃってるのね…

 

「えぇ、そうよ。私は神狗郎が好き。想いの長さも、深さも、強さも、誰にも負けてないつもり………だけど、選ばれたのは私じゃなかった。

 それが……この物語のエピローグよ」

 

そう。所詮、私の物語は悲劇/喜劇でしかなかった。

 

「ハルは…それでいいのか?」

 

良いわけない。良いわけ、ないけど…

 

「儂が言うのもなんじゃが、人の心はいくらでも移ろうものじゃ。ハルがアタックし続ければ、よもや…ということだって無いとは限らん」

 

分かってる。分かってるけど……

 

 

 

 

 

怖い――――

 

 

 

 

 

「ハルが望むのなら、御子神の力を使っても構わん。なぁに、相手は大きいかも知れんが、その位でへこたれる御子神ではないわい。おぉそうじゃ!

 なんなら神狗郎くんを御子神で身請けしたらどうじゃ?芸能プロダクションをやっとる知り合いもおるし、御子神出資のドラマや映画に出すことも…」

「いい加減にしてっ!!」

 

胸の奥の方から感情が突いて出た。

テーブルに拳を叩きつけながら立ち上がる。

 

「私だって諦めたくない!でも怖いの!他人の幸せを妬むようになるのが怖い。友達を蹴落としてまで想い人を奪おうと考えてしまう自分が怖い。

 何より…そこまでしても、神狗郎に振り向いてもらえないかもしれないのが、怖い……」

「ハル……」

「お金で買えないものなんか無いって、思ってた。でも、神狗郎たちを見て分かったの。人の心はお金じゃ買えない。

 例え神狗郎の身請けをしても、それは身体だけ。そんなの……虚しすぎるわ」

 

そう、人の心はお金じゃ買えない。

御子神の名を使うことで/捨てることで、神狗郎と結ばれるなら……

それは今日まで、何度も夢想したこと……

 

「……ゴメンなさい。今日はもう、帰るわ」

 

お爺さまの方は見られず、下を向きながら踵を返す。

別荘の扉を閉める時、後ろで何か壊れるような音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

いつも

 

「あら。今日もまたサボりですか?」

 

いつも私が学園に帰るタイミングで、この女が現れる。

いつも腹の立つ言葉を並べ立てて去っていく。

嫌がらせとしか思えない。

構ってる余裕は無い。

今日も黙って横を通り過ぎようとする。

 

「……泣いて、いるのですか?」

「アンタ何様なのっ!!?」

 

気が付くと私は灯花の胸倉を掴んでいた。

多分初めて、灯花の顔を間近で見る。

ビックリするほど綺麗で、私が凄んでいるのに眉一つ動かさない。

 

「私はただ、正直に物を言ったまでですよ。今のハルルコさんは泣いているように、私からは見えます」

「だったら何だっていうの!!?」

 

自分の声は悲鳴のようだった。

そう。私はきっと泣いている。

涙が出てないだけで。

 

「ですから、私が慰めて差し上げようかと。友達として」

「ふざけんじゃないわよ!アンタに…アンタに私の何が分かるっていうの!?」

「分かりますよ」

「え……」

 

熱くなった私の頭に、冷静な言葉がやけに素直に入ってくる。

 

「大事な人が振り向いてくれない痛みも、側に居る大切な人に思いを打ち明けられない苦しみも、私は充分、分かっています」

「ッ――――」

 

強い、強い瞳に、思わず私は目を逸らす。

本物の瞳だった。

現実を受け入れながらも、諦めない炎の宿った。

今の私とは、月と太陽ほどかけ離れた目。

()は、灯花(太陽)を直視できない。

 

それを羨ましいと思う反面、同時にイライラとしてくる。

そのせいか、心の奥に溜まった澱が、ふと口から零れた。

 

「……別にアンタのことを、友達と思ったことなんか…一度も、無いわ」

「…………そうですか」

「あ」

 

灯花は驚くほど自然に私の腕を解くと、滑らかに乱れた襟元を正し、

 

「それでは、ごきげんよう」

 

いつもどおりの微笑を湛えて、去っていった。

 

「私……なんで、あんな…」

 

口元を押さえても、零れてしまった言の葉はもう戻せない。

小さくなる灯花の背中を、私は見えなくなるまで眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

「あっれ~、ハルハルじゃん」

 

何も考えてない陽気な声が聞こえる。

どうやら私は寮の中まで歩いてきたようだ。

 

「…なによ、なつき」

 

猫耳スピーカー、龍城寺なつき。

普段は楽しい娘だけど、こういうときに一番会いたくない人種だ。

 

「も~授業サボっちゃダメだよ~。せっかく最近は真人間になってきてるんだからさー」

「余計なお世話よ。どうせ私は、元々真人間じゃないんだから」

 

逆、なのかも。

こういうとき、無神経ななつきと話してると、少し心が軽くなる。

いつもの自分でいられ…

 

「まぁ……その、しんくんが…だから、来づらいかもしれないけど、さ」

 

…前言撤回。

 

「でもやっぱさ、ハルハルがいないと教室が寂しいんだよね!最近は、あかりんも休みがちだし…」

「え――」

 

今、なんて?

 

「やっぱいつものメンバーが一番っていうか…にゃはは、うん…なんか、そう思うんだよね~あたしは」

「…んて」

「うん?」

「今、なんて言った?」

「あ、あちゃぱー…恥ずかしいにゃあ。その、いつものメンバーが一番…」

「そうじゃなくって!灯花が、どうしてるって!?」

「え、あ、あかりん?いや、最近早退とかお休みが多くて、あんまり体調が良くないみたい…」

「…仕事に行ってるんじゃ」

「お仕事?ううん、そんな話は聞いてないけど…」

「……あの女っ」

「あ、ちょっとハルハルー!どこ行くのさー!?」

 

なつきの声を背中に受けながら、私はエレベーターホールへと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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