休日と呼べない休日から一月ほど経ったころ――。
陳留・城内
【兵】「申し上げます!近隣の邑にて、暴動が起きているとのことです!」
臨時で軍議を行っている最中に兵が飛び込んできた。
【華琳】「わかったわ。すぐに向かいましょうか」
【薫】「っていうか、また?」
近頃になって、頻発する各地での暴動。
俺達も対処はしているが、それにしてもここ最近ではこれで5件目。
【華琳】「すぐに秋蘭を……って秋蘭はまだ戻っていなかったわね…」
秋蘭も前回の騒ぎでその鎮圧に向かい、今はまだ戻っていなかった。
【桂花】「では、他のものを向かわせましょう。」
【華琳】「そうね…。春蘭と季衣。それと薫も向かってくれるかしら?」
【薫】「私!?」
華琳が指名すると、それほど意外だったのか薫は素っ頓狂な声をあげる。
【華琳】「二人の手綱を握ってほしいのよ」
【薫】「すっごい不安…」
【一刀】「俺も向かおうか?」
薫が本当に不安げな顔をしているので、おもわずそう口にした。
【華琳】「いえ、一刀は次に備えて待機しておいて」
【一刀】「了解。けど、次?」
【華琳】「これだけの暴動。元を断たないうちは必ず次があるでしょうね」
【一刀】「なるほど」
たしかに華琳の言うとおり、どれだけ鎮圧しても騒ぎは静まるどころかどんどん大きくなっている。
だが、元といっても、何処で誰が、または何が元凶なのかも分かっていないのだから、手のうちようがない。
いや、本当は……
【薫】「それじゃ、二人呼んで、準備してくる~」
薫が手を振りながら広間から出て行く。
【一刀】「がんばれよ~」
【薫】「あいよ」
声をかけてみるが、薫は気だるそうに答える。
【一刀】「大丈夫かな…」
【桂花】「あんたよりは全然ましよ」
桂花は相変わらずの毒舌っぷりである。何か嫌われることでもしんだろうか…
【一刀】「………………」
【華琳】「ふふふ。まぁ、賊の鎮圧程度、薫なら大丈夫でしょう」
それの何が可笑しかったのか、華琳は微笑みながら口にした。
【一刀】「ずいぶん信頼してるんだな。まだ、それほど出会いから日は経ってないだろう?」
【華琳】「あら、妬いてるの?男の嫉妬はみっともないだけよ。それに、出会いからの時間で言えば、あなたも同じでしょう。」
【一刀】「ま、そうなんだけどな」
嫉妬というよりは、驚きに近かったのが本音だったんだけどな。
【桂花】「華琳様、私も持ち場へ戻ります。」
【華琳】「えぇ、お願い。」
【一刀】「なら、俺も戻るか…。」
桂花も自分の仕事に戻り、俺もいつまでもここにいても仕方ない。
そう思い、踵を返した。
【華琳】「一刀」
【一刀】「うん?」
突然華琳が俺を呼び止める。
【華琳】「これから先のこと…あなたは知っているの…?」
【一刀】「………………………………………」
言うべきか、どうしても迷ってしまう。
【一刀】「…あぁ、知っているよ」
少し長めに間をおいて、俺は知っていると告げた。
【華琳】「そう…」
それだけ聞いて、華琳は何も言わなくなった。
俺の知っている歴史。華琳たちには天の知識として伝わっている。
だが、俺はその内容まで言ってしまっていいんだろうか…。
それは歴史を改変することにつながるわけで…。
【一刀】「かり―――」
【華琳】「一刀」
俺が声を出そうとした時に、華琳が先に俺を呼んだ。
【華琳】「その知識は…私達にはだまっていなさい」
【一刀】「華琳…………。でも、いいのか?」
【華琳】「それを知っていようと、知らずにいようと、私のやることに変わりは無いわ。」
【一刀】「…ははは。それもそうだな。」
こういうところは、本当に尊敬できるものがある。
俺と歳もそれほど違わないのに、華琳が遠くに感じる。
ここにいるようになって、この子から教えられることがあまりにも多い。
だからかもしれない。最近になって、この子の考える未来を見てみたい。
一緒に歩いてみたいと思うようになってしまった。
【一刀】「それじゃ、俺も戻るよ」
【華琳】「えぇ」
俺は、今度こそ広間をでて、警備に戻った。
【華琳】「さて、行きましょうか…」
【季衣】「あ、見えてきましたよ、春蘭様!」
【春蘭】「ふむ、数はそれなりのようだな」
【薫】「ん~…」
暴動を起こしていた賊を追ってきた私達は、賊の砦を発見し、その少し遠方で待機していた。
敵もこちらに気づいたのか、妙に雰囲気が殺気立っている。
【季衣】「ん?薫、どうしたの?」
【薫】「いや、どうやって攻めてやろうかなって」
【春蘭】「何を言っている。そんなもの正面から蹴散らしてやればいいだけだろう」
【薫】「ちっちゃいけど、一応攻城戦だよ?そんなに簡単じゃないって」
春蘭はさっきからずっとこの調子で放っておいたらすぐにでも突撃していきそうだ。
季衣にしてもそれをいさめるどころか、むしろノリノリでついて行くから困る。
指名された時に桂花が妙にニヤニヤしていたのが少しわかった気がする。
【薫】「ん~、それじゃ、まぁとりあえず銅鑼ならしちゃおっか」
【兵】「よ。よろしいのですか?」
【薫】「うんうん。あ、その前に――」
地図をだして、ある場所を指差し、その兵にそこを示す。
【薫】「この辺に小隊2つほど隠れさせといて」
【兵】「このような場所にですか?」
【薫】「そうそう。お願いね」
不思議そうに兵は頷いて、その場を去っていった。
【季衣】「こんな場所に兵送っちゃったら、数で負けちゃうんじゃない?」
【薫】「大丈夫だから。ほら、季衣も準備して。春蘭いっちゃうよ?」
【季衣】「あ!じゃあ、後でね、薫!」
去っていく季衣に手を振り返して見送る。
それと同時くらいに銅鑼が大きな音を立てて鳴り響く。
すると…
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
【薫】「へ?」
突然、敵砦内から、雄たけびが聞こえ、砦の中央扉が開いた。
それを確認するときには、すでに賊達が雄たけびをあげながらこちらへ突撃してきていた。
【薫】「手間は省けたけど……もう少し軍師っぽくさせてよねぇ…」
どうやって敵をおびき出そうか考えていた最中の出来事で、思わず呆けてしまった。
【薫】「まぁ、いいか。右翼の許緒はそのまま正面から突撃。左翼の夏候惇は左前方へ展開しつつ、敵を押し上げて。」
前線へ向かった二人に伝令を飛ばす。
やがて伝令が二人の下へたどり着き、指示を伝える。
それからの動きはさすがなもので、兵の動き、陣の展開。
それらは私の想像以上に的確ですばやいものだった。
おそらく、数では賊のほうが勝っているのだろうが、それは問題にはならなかった。
【薫】「って言ってもまぁ、挟撃するだけでひるんでるみたいだし…無理に隠す必要もなかったかな…」
しばらく戦況の把握に努めるが、どうみてもこちらが押されているようには見えない。
敵はそれなりの数があったはずだが、兵の質、将の才、それらが圧倒的に違い、もはや戦とも呼べぬものになっていた。
【春蘭】「はぁぁっ!!!」
剛剣を降り、敵を次々に蹴散らす。
薫からの指示は、敵を左から叩けというものだった。
それくらいの事、普段頭が弱いとされる春蘭であろうと、戦となれば話しは別で実にたやすいことだった。
【春蘭】「押せ押せーーー!!敵はひるんでいるぞ!この期に一気に押し切るのだ!!」
兵達に檄を飛ばし、自らに襲い来る賊は切り捨てる。
【兵】『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
その修羅の働きに呼応し、兵達もその力を出す。
一人が二人を倒せば、兵力は2倍差であろうと負けない。
ましてや敵の士気は下がる一方。ならば、そんな賊など敵ではない。
【季衣】「てやぁぁぁぁあっ!!」
巨大な鉄球を操り、敵を屠る。
時には一人を一撃で。時には数人をも巻き込んで。
螺旋の軌道を描き、鉄球は人海を泳ぐように舞い飛び、その後には敵だったものが打ち伏せられる。
【季衣】「でえええい!!」
賊は既に逃げ腰になりつつある。だが、薫からの指示は、「決して逃がすな。」だった。
【季衣】「いくよーー!!ボク達でぜんぶやっつけるんだっ!!!」
【兵】『おおおおおおおおおお!!!!』
【薫】「ふたりとも張り切ってるなぁ~…」
少し小高いところに移動し、戦場を把握する。
正面から少し右にかけて展開する季衣。
左から季衣にあわせて挟撃するように展開する春蘭。
こうなると、当然ながら、逃げる方向は二つ。
後ろか、右である。
【薫】「じゃ、そろそろ奥に伏せといた兵に合図送ってもらえる?」
【兵】「はっ」
こちらからの合図が飛ぶと、今度は賊軍の後方から兵の雄たけび。
旗印は『司馬』。
【薫】「さて、それじゃ、伝令。」
そういうと、伝令兵は私の近くへと来た。
【薫】「夏候惇、許緒両名は、これから賊の追撃は行わず、砦の占拠に向かうように。それから、2陣のほうにも合図送っといて」」
兵は短く返事を返し、その場を去る。
こうでもしないとあの二人の場合は地の果てまで追いかけそうで怖い。
【薫】「私も動くか。よっと!」
馬に乗り、次の場所へと移動する。
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カヲルソラ6話
そろそろ本格的に黄巾編へ入っていきます。