No.835826

Another Cord:Nines = 九番目の熾天使達 = 番外編・参 ディアリーズ×BB編

Blazさん

今回はBB篇のマコトルート。
マコトだから書きやすかった。

そして一言。
…約束は守ったよ?

2016-03-06 18:08:52 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:697   閲覧ユーザー数:574

マコトルート (エンディング)

 

 

 

 

 

 

 

 

正夢。

睡眠中、夢で見た出来事が現実となってしまう幻象のことを言う。

現実で彼らがその夢と同じことを行っているなど、当人たちは気づきはしないが夢で見た自分自身にとっては不可解な幻象でしかない。

 

 

言うなれば正夢とは一種の未来予測。

あらゆるファクターが集い、それが脳内で情報処理されたことによって起こること。人間が失ってしまった能力を活用した元来の能力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま…マコト…今日は…」

 

「ん? 今日はスパーリング練習だって言ったじゃん」

 

「い、いや言ったけど…!」

 

「んふふふ…これくらいで根を上げるなんて…旅団のディアーリーズ君が聞いて呆れるよ…?」

 

「それとこれとは話が違うっ…!!」

 

「なら、それをそろそろ証明してみなよ…♪」

 

「へっ…あ…ちょっまっ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で――――――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ!?」

 

次の瞬間。反射的に意識が覚醒し、全身がバネのように飛び上がる。

一瞬だけVの字になって跳ねた体は、その後に力が抜けて地面へと叩きつけられる。重力に引っ張られるというよりは脱力で落ちていくと言った方が正しいだろう。

 

「はー…はー…はー…」

 

白いシャツだけを曝け出し、まるで今まで呼吸も無しに素潜りをしていたかのように肩で息をする。

実際そうなるような事があったのだが、その時には殆ど霧のように霧散していっていた。

所詮は夢だ。単なる夢だ。自分にそう言い聞かせ、ゆっくりと気分を落ち着かせる。

 

「………夢か…」

 

 

寝汗がびっしりと吹き出たシャツをばたばたと動かして中に新鮮な風を通す。外は熱風渦巻く夏の日差しが差し込んでいるが、朝なだけにまだマシな方だろう。

 

兎にも角にも、朝の熱い日差しに汗をかいたディアーリーズはほっと胸を撫で下ろして安堵した。

 

 

 

 

「…朝から変な夢だった…覚えてないけど…」

 

具体的に何がどうだったのかは覚えていないが、兎も角全身に汗が染み出るほど嫌な夢であったというのは確かだ。

薄い毛布を取ると、足やももがあった場所は湿気ている。

 

「うわ…あとで除菌しないと…」

 

除菌スプレーが部屋の中にあったなと思い、探すのを後に回した彼はベッドから起き上がると先ずはシャワーでも浴びようと思い部屋を出ようとする。

しかしそれよりも先にドアが開き、廊下から同居人が顔を覗き込んだ。

 

 

 

「あ。起きてる…ってどうしたの、その汗!?」

 

「マコト…おはよう…」

 

苦節あって同居することとなった、リスの亜人種のマコト=ナナヤ。天真爛漫な顔は今は驚いた顔をしており、その頭にはピンと立つ耳と伸びたリスのしっぽがある。

 

「いやぁ…今朝変な夢見てたからか…お陰で寝汗がびっしり…」

 

「うわぁ…後で換気とかしないとね…」

 

「ついでに除菌もね…」

 

苦笑した二人が笑い合うこと約数秒。そうしているだけでは何も始まらないので、二人は話題を切り替える。

 

「…で。マコトは朝のトレーニング?」

 

「うん。今日は天気いいし、ジョグ(ジョギングのこと)でもしようかなって」

 

「ふーん…」

 

「一緒に行く? 折り返しは公園だけど」

 

公園の位置を頭の中で思い出し、どうするかと考えるディアだが嫌な寝汗を振り払いたいだけなのか直ぐに返事を出す。

 

「なら…つき合おうかな」

 

「オッケー。じゃ、外で待ってるから」

 

「うん。着替えたらすぐに」

 

そういってマコトは振り返って、彼に自分の三分の二ほどある尻尾を向けると下の階に降りていく。足音が遠退いていくのを耳にしたディアはカーテンを開けて新鮮な空気を部屋に取り込むと、寝間着から着替えてジャージ姿になる。

そして、必要品だけをポケットに入れると、後は何もないかと確認して部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めはひょんなことからだった。

連合階層都市イカルガから始まった旅団の介入戦は最終的に第十三階層都市カグツチに再び戻り、そこで行われた激戦に参加。幾つもの勢力が交わる大混乱の中、多くの犠牲を払い事態の終息へと向かった。

 

勿論、事件の終息は彼らだけの功績ではない。組織に異を持つ者たちと共に戦い、そして共に生き残ったのだ。彼女らの助けが無ければできなかったことも数多くある。

 

そんな中、ディアーリーズは一人の少女と意気投合する。

それがマコトだ。始めこそ、顔見知り、味方というだけの意識であったが、次第に明るい性格の彼女と人当たりが良い彼の相性が良かったのか関係が築き上げられていき、最終的に互いに背中を任せる間柄、そして一人の友人となっていた。

 

 

その後。事件終息と共にそれぞれの元に帰れる…筈だったのだが、拗れた事態が未だ尾を引いていたので、一部の面々は元の場所に帰れるに帰れない状態となってしまう。

そこで旅団は今回の事件介入の後始末を手伝うこととなり協力者たちを一時的に保護。ほとぼりが冷めるまでと、メンバーたちが事態の解決を目的に動いていた。

そんな保護対象の一人がマコトであり、彼女と意気投合しているという事で護衛の任務も兼ねてディアが同居していたと言うが、実際は他にも理由があったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よし。行くかな」

 

スポーツ用の靴を履いたディアはカカトを整えると、日差しが照り付ける外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が住んでいるアヴァロン南部は高い気温に対し、湿度が平均的という土地で冬場でも十度を下回らないのが普通だ。

大陸から離れた諸島や列島が多く点在し、個人所有の島も所々にあるのも特徴の一つで、そこがリゾート地になったりすることもある。

 

その中で比較的に大きな島があり、そこに二人は住んでいた。

 

 

 

「ジョグなのに速くない!?」

 

「ディアが遅いだけ~! 先に行っちゃうよー!」

 

夏の暑い日差しが照り付け、青い海が反射している。光は透き通って海面を映して美しい景色にしており、その中を泳ぐ魚たちの姿を晒してくれている。

それに匹敵するほどに空も青く、朝だというのに雲もひとつもないので直接朝日を地面に送ってくれるが、それだけに外も熱い。

 

朝から元気に走るマコトに追いつこうと、必死になるディアはジョギングコースの公園まで全力疾走し、朝の寝汗は何処に行ったのか代わりに照り付ける太陽の日差しに肌を熱せられて冷たい汗を全身から噴き出していた。

 

マコトも似たようなものではあるが、彼女の場合は尻尾の所為で余計に熱く汗を吹き出しているが、それに比例してか元気も有り余っている。

手を振りながらディアに自分の居場所を教えつつ、自分はトップをキープする彼女に、体力には自信のある彼も何故かマコトの足には追いつけず、最終的には終始先頭を奪われっぱなしで折り返し地点の公園までたどり着いてしまった。

 

 

 

 

「暑っ…息が上がるな…」

 

「おつかれさーん♪ いい汗かけたでしょ?」

 

「いい汗っていうより、水分が蒸発する…」

 

膝に手を突くディアと腰に手を置くマコト。体力的に彼が勝っているかと思ったが、どうやら亜人種であるが故か体力は彼女に軍配があがったようだ。

何故そこまで体力に違いがあるのかは二人にも分からないが、あれだけ熱い場所を走ったというのに元気な彼女に、ディアは純粋に尊敬と羨ましさを感じていた。

 

「なんでそこまで元気なの…」

 

「んー? 結構楽しい…いや、好きだからかな?」

 

「…それ理由にあんまりなってない…」

 

「そうかな? 慣れると楽しいよ?」

 

「灼熱の日の下で焼けそうになるけどね…」

 

公園の中に入ると、だだっ広くひろがっている平地には朝からだというのに人気がある。まだ早い時間なので子どもは居ないが、代わりに年寄りや体格のいい男女などがジョギングしていたりと活気があった。元からスポーツに活用するため作られた公園なので遊具もなく、ベンチと蛇口程度しかないが、頭から水を被ったりするのには十分だ。

 

 

「はぁ…」

 

強い日差しが背中に当たるが、頭が冷水で冷やされているお陰で幾分かはマシな状態だ。十分髪の毛に冷水を被らせたディアは余計な水分を振り落として立ち上がる。場所取りで確保したベンチには持ってきていたタオルが置かれており、まだ少し雫が落ちているので軽く頭を掻いて更に飛ばしていくと残りは全て少し汗が含まれたタオルで拭き取っていく。

 

髪が痛むだ何だと言われたこともあるが、全身たっぷりとにじみ出た汗に耐えきれなくなった彼には今すぐそれを流したいだけで十分だ。

 

 

「熱いなぁ…」

 

最高気温は三十度。これでもまだマシな方ではあるが、流石に彼も暑さには堪えるらしくタオルで拭き取った額にはまた新しく汗がにじみ出ようとしていた。

 

「最高気温三十度。最低気温も十五度だって」

 

「ええ…昨日二十三度だったのに…」

 

「常夏の島だからねぇ…熱いのは当然でしょ」

 

近くの自動販売機で買って来た飲料水のペットボトルを渡して蓋を開ける。

さきほど買って来たばかりだからか、周りには水分がついていて持っているだけでも冷たく気持ちいい。

余程汗をかいたのか、マコトは一回の飲みで半分ほどの量を飲み干してしまい、その水は全て彼女の汗がかかれた火照った体に流れていく。

 

「ぷはぁ…水が美味しいねぇ…」

 

「今から全部飲むと、帰りがもたないよ?」

 

「だいじょーぶ! 帰りはダッシュで行けば、熱いの長く当たらずに済むから!」

 

「…それ、逆効果だと思うけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

一先ずは体を休めようとディアはタオルを置いていたベンチに腰を下ろし、背もたれに深くもたれる。日陰にあるベンチが冷たく、腰を落ち着けると全身に灯った熱さが全身から抜けていき茹でられたように熱が上っていく。

 

「夏だねぇ…」

 

「うん。今年は一段と暑い…」

 

隣に座るマコトは尻尾が邪魔になってしまっているので横向きにベンチに座っていて、現在は彼とは全く別方向を向いて喋っている。

だが彼女も流石に暑さに堪えたのか、ぐったりとした体勢で自然に来るだろう風を待っている。今の様な熱い日は自分たちで対策を持ってこない限りは風だけが頼りで、特に二人はタオルと少しの所持金等以外は全て自宅に置いて来てしまっている。

 

「ディアぁ…今何時~?」

 

「まだ朝の九時だよ」

 

「九時だっていうのに可笑しいぐらい暑いよぉ…」

 

「例年より高い気温…けど、三日前よりはマシだと思うけど…」

 

「あーそれは納得…だって三十五度だったもんね…」

 

そんな日にそこで用事をしていたディアは、帰ってくると全身汗まみれで死にかけていた。

当然、暑さ対策に水を多めに持って行っていたがそれでも足りず、体内の水分が蒸発していたという。

マコトはその時の彼の姿に驚くと共に戦慄していた。

まさか彼でもそこまでの状態になってしまうとは、と。

 

 

「…神獣サラマンダ…だっけ。この大陸の守護してるの」

 

「うん。いくら精霊の楽園だからって、流石にこれはキツイ…」

 

「確か気分次第で気温変化するって…」

 

「それ場合によっちゃアタシたち全員蒸し焼きにも出来るって事ですよねぇ…」

 

「そこまでしないとは思うけど…流石にそうなりそうで…」

 

 

間をあけて長いため息をつく二人。

朝だというのにあまりの暑さに参ってしまい、次第に休憩していたハズが脱力して動けなくなっていく。

このままでは二人夜までこの状態かもしれないと思っていたマコトは、仕方ないとばかりに話しを持ちだす。

 

「…ディア」

 

「…なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっとさ。スパー手伝って」

 

「スパー?」

 

 

 

「スパーリング。略してスパー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬。その言葉に戦慄と何かを感じてしまう。

 

 

 

 

 

「―――――。」

 

「…どうかした?」

 

「…いや。それで?」

 

「それでって…どうせ暑いし、もうこうなったら暑さ妥協して体動かそ。でないと二人、ここで蒸されることになるし」

 

だったらいっそのこと体を動かしてしまおうという謎の理由に、ディアも最初は嫌だと思っていたが、段々と暑さに対する対抗策が無くなって来たので、悪あがきというか状態悪化にしか思えない彼女の考えが正しく思えて来た。

 

「…蒸されるより自分で蒸せってことか…ま、動かした方が幾分かマシかな…」

 

暑い日であるからこそではないが、このまま動かなければ堕落してしまう。それだけは避けたいということだろう。

どの道その場に座り込んでいれば他人の迷惑もあり、いつまでそこに止まっているか自分たちでも分かったものではないのだから。

 

 

「わかった。けど少し涼しい場所でやろう。でないと、本当に体力無くなっちゃうから」

 

「オッケー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

彼らがスパーリングで汗を流している間になぜ二人が同居しているかを話そう。

事件後に一部旅団に関係した面々はほとぼりが冷めるまで保護下に置かれることとなり、一か所に固めず複数の場所に散らばった。

それでは襲撃時に戦力が分散されてしまい、非効率的だと思われていたが、いずれも旅団の影響がある世界なので特筆した問題でもなかった。

 

蒼の継承者であるノエル=ヴァーミリオンは支配人やkaitoと共に管理外世界を統治する「騎士団」の本拠「アルカディア」に。

 

ツバキ=ヤヨイは蒼崎夜深とokakaと共に冬木の町に。

 

そして、残るマコトはアヴァロンの世界に。

 

 

今はまだ管理局にアヴァロンの実態が報告されていないので比較的安全な場所と言える。

その中でも治安が良く、隠れやすいという事で島が数多く点在する南部に居るのだという。もっとも、実はマコトとディアの要望でもあったようで、判断を下したクライシスもそこは黙認したと言う。

ちなみに基本二人が護衛して、彼女の場合はもう一人はBlazなのだが当人が二人の様子を見て殆ど彼に任せっきりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ…!」

 

「っと!」

 

日陰が多い森林の中で互いの拳を交える二人はまるでボクシングのように動き、俊敏な足で攻防を続ける。

拳が迫り来ればそれを紙一重で回避し、逆に反撃が来ればそれを腕で防ぐ。

ステップだけの軽快な動きだが拳のスピードはそれよりも速く、そして正確だ。顔などに当たればタダで済まないのは確実だが、あくまで練習であり本気の殴り合いではないわけなので寸前で止められる。

 

 

「ほっ!」

 

「むっ!?」

 

しかしそれでなければ後は普通の試合と同じ。容赦のない連撃がディアを襲うが、彼はそれを読み切って避けていく。

だがその攻撃全てがフェイクであり、マコトが狙った本命の一撃への布石だった。

 

 

「貰ったッ!」

 

「なっ…しっ―――」

 

攻撃を防がれた腕が下げられたと同時にその後ろからもう一撃が迫りくる。

それはマコトのような亜人種でなければ絶対に撃てない一撃で、誰でも出来ることではないが、彼女だけに出来る奇襲であり切り札。

彼女が得意とする攻撃だ。

 

自分の長い尻尾。それを活かした一撃は誰もが初見で回避することができない。いわば初見殺しの攻撃。回避できるとすれば、それは何度もその攻撃を受けたりしたことのある人間でなければいけないだろう。

 

 

(これでとっ―――)

 

獲った。マコトは本命の一撃が彼へと向かった事でそう確信する。

いくらディアであっても始めての尻尾からの奇襲攻撃には対応も遅れるだろう。

良くてガード。悪くて当たりが浅い程度。

つまり、どの道当たる必中の技。

 

 

―――かに思われたが。

 

 

「…アレ?」

 

刹那。尻尾は空を切り、空しく日陰の中を空回りした。

絶対必中だと思われていた技が当たらなかったことに驚いたマコトは、今まで当たっていた攻撃が外れたことで頭が真っ白になる。勝利を確信し過ぎたことで予想が外れてしまい、その先、その時どうするかという処置を考えてなかったのだ。

勿論。こうなってしまえば相手にとってどうなるかは分かり切ったこと。

 

一瞬だが絶好の隙でしかない。

 

 

 

「―――獲ったよ。マコト」

 

「あ…」

 

気が付けば、ディアは彼女の後ろを取って発勁の構えで首筋に据えていた。

もしこれが実戦なら、彼女は負けていただろうと宣告しているかのように言うと、止まっていた呼吸を再開するように深く短い息を吐いた。

 

「ふぅっ…」

 

「嘘…マジで…?」

 

「…マジで」

 

尻尾の攻撃に確かにディアは怯んでしまっていたが、それで動きが止まるほど彼も馬鹿ではない。無意識と意識が半々の状態で体を動かし、尻尾よりも更に低く重心を下げて回り込んだのだ。これならギリギリの距離で尻尾を回避して後ろに回り込めると。

 

 

 

「………うっそだぁ~…」

 

「ホントのホント。マコト、途中から攻撃の手が緩んでたから、絶対になにかあるって分かったよ?」

 

悔しい声を上げて落胆する彼女に、構えを解いたディアは自分の目から見えたことを元にアドバイスを渡す。

スパーリングなので互いに互いの技術を高めることが目的だ。弱点や欠点があればそこを教え、補うのもまたスパーリングの一つでもある。

 

「僕もまさか尻尾が来るとは思ってなかったけど、途中から攻撃の手が緩んでたら誰だって警戒はする。そうなってしまったら攻撃を読まれたり分析する暇を与えたりしてしまうから、あんまりよくはないよ」

 

「うーん…」

 

「けど、マコトの尻尾の攻撃はよかったよ。アレなら手数と不規則性で確実に攻撃が入るか隙が出来ると思うし。あとは、そこをどう隠すかが問題だけど」

 

「それは分かるけど、アタシそういうの苦手かなぁ…結構無意識っていうか…」

 

「そこはあんまり深く考えない方が良いよ。尻尾はあくまで奇襲とかの攻撃とかだけにして、もし隙があるのならその場で出したりって。出し惜しみなしっていうよりもその場の思いつきっていうのも意表を突くのには十分有効なんだ」

 

「なるほどね…それならできそうかも」

 

一通りだが自分からの視点を元にアドバイスを渡したディアは、ふむふむと考え込む彼女の姿を見て小さく笑う。馬鹿にしているわけではないが、その前向きな姿勢に思わず和んでいたのだ。

 

「よっしゃあ! じゃあもう一戦…」

 

「待った。そろそろ帰って朝ごはんにしよ。でないと、体が持たないよ」

 

そういえば、と思い出した彼女の反応に肩を落とすディア。

もう直ぐ十時になるというのに、未だ朝食を食べていなかったことをすっかりと忘れていたらしく段々と全身からの声に耳を傾けるようになる。

腹から鳴り響く虫の音は同時に腹の中が空っぽであることを知らせており、さすってみると空腹が痛みのように襲い掛かって来た。

 

「うっ…確かに…」

 

「結構夢中でやってたからね…お腹も空いたし、ご飯とシャワーの為に戻ろう」

 

「だねぇ…お腹減ったぁ…」

 

次第に空腹が現実になっていくと体が脱力していくマコトは、もう動けないと言った様子でディアの背中に抱き着く。

どうやら空腹と先ほどのスパーで体力を殆ど使ったようで全身からの汗を垂れ流したまま、まるで服のようにへばりついた。

 

「ちょっ…マコト離れて…汗びちゃびちゃだから」

 

「だってぇ~」

 

「いやだってじゃなくて…」

 

「お腹減ったぁ~」

 

「分かったから!」

 

自分だって空腹なんだ、と言い返してマコトを引っぺがそうとするが気力もなくして動けないからか体重がかかって中々剥がれない。

 

「………。」

 

「ディア~おんぶー…」

 

「僕はお母さん!?」

 

「もしくはおとーさーん…」

 

「ダメだって! 僕も疲れてヘトヘトなんだから!」

 

「え~…」

 

ぶーたれるマコトに呆れながらも立たせようとするが、当人は甘えて動こうとしない。

まるで駄々をこねる妹に兄が頑張っているような光景となっているが、ディアは彼女の兄ではないしマコトは長女だ。

こうなってしまってはと苦戦していたディアは最後の手段とばかりにある事を言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――じゃ。もう二度と特性のマロンパフェ。作らないよ」

 

「な―――」

 

彼が作ったマロンたっぷりのパフェはマコトの好物で、それを餌に無理やり立たせようとする。それには彼女も反応して目を見開くが、直ぐに慌てて反論に出る。

 

「そ、それとコレとは話が―――」

 

「違わない。ここでいつまでもぐーたらするんなら、その分体力を温存出来るんだし、食べる必要も減る。そうなればパフェだって…」

 

「そ、そんなぁ!!?」

 

完全にディアに乗せられ初めたマコトは次第に焦りを見えて背中から離れていく。

 

「それは無いよ!? 人間確かに毎日食べなくても生きていけるけど、そうしないと栄養失調っていうかスタミナ回復なんて出来ないって…!!」

 

「けど、動くことはできるはずだよ?」

 

「動くこと出来るけど直ぐに倒れるって!!」

 

「なら。ちゃんと歩くこと。そうしたら…ね?」

 

「うぐぐ…」

 

いつの間にか乗せられていたと今更気付いた彼女は最後は折れてしまったようで、がっくりと肩を落とし彼のいう事を素直に聞き入れた。

そうしなければ大好物のマロンどころか食事すら食べれなくなると、彼が本当には思ってなかった事を考えて。

一方で上手く乗せたディアは、勝者の余裕ということで上機嫌になってその場を後にする。

勿論、頭の中では二人分の朝の食事のメニューを考えており、しっかりと今日一日の献立の計画し始めていた。

 

 

「ホラ。マコト行くよ」

 

「…はーい」

 

落ち込んでしまったマコトは朝とは反対に彼の後ろをついて歩き、のらりくらりと幽霊かゾンビのように後ろをついて回る。もはやそう言った類の人間なのかと思われるところだが、日差しが強いので熱中症一歩手前なのではと見られることもあったようで、中には大丈夫なのかと気遣う声もちらほらと聞こえていたが、彼ら二人には届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んっ」

 

 

特にマコトには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に戻った二人は汗ばんだ靴や短い靴下を脱ぎ棄て洗濯機の中に放り込む。

家事に手馴れているディアは寝間着と来ていたジャージもその中に入れて、まとめて洗濯しようとスイッチを入れていた。後は洗剤やらなんやらを入れれば蓋を占めるだけ。

その前に、彼はリビングにいるはずのマコトに先にシャワーを浴びるかと声をかける。

 

 

「っと、マコトーシャワーどうするー?」

 

「え…ああ…先に入ってー」

 

「…じゃ。お言葉に甘えて…」

 

距離が遠く聞こえてなかった所為なのか、歯切れの悪い返事が返ってきて少し首をかしげたが返事は確かに聞いたので、ディアは先に風呂場へと入った。

浴室の扉を閉めると朝の寝汗と動きでかいた汗を纏めて洗い流そうとシャワーを使い、少し上からの熱湯を体いっぱい浴びて洗い流す。

熱湯なので始めこそ熱く感じたが、次第に汗が流れていくと気持ちよくなり始める。風呂場であるからこそ熱湯を浴びると気分がよくなっていき自然と彼は鼻歌を歌い始めた。

 

 

「~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

が。これが災いしてか、周りの声が聞こえなくなっていくのには気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…」

 

火照る

 

「っ…」

 

火照る

 

「………ッ」

 

 

体が火照る。

 

 

「―――――ふぅ」

 

 

全身にかゆみのような感覚が走り、冷たい扇風機の風に当たっているというのに、まるで体の中でマグマが煮えたぎっているかのように体が熱い。

その所為で呼吸もままならず息も少し苦しい。

熱ではないかと思うが額を触っても体温計で測っても平温を保っている。

なのに、何故ここまで体が火照ってしまっているのだろうか。

 

 

 

 

「…熱中症かな」

 

それにしてはさっきかえってから直ぐに冷蔵庫で冷やされた麦茶を飲んでいるので考えにくい。では、感覚的に熱だと気づいてない?

それも皆無だ。

なにせ自分のことは自分が良く知っているというではないか。

 

それなのに、この感覚は何だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(熱い…熱いし…息苦しいし………それに…)

 

 

意識が朦朧としている。

いや、思考はハッキリとしているし自分がなにでどういう事なのかとテストしても問題はない。

 

問題はひとつ。

考えが離れないのだ。

そして、ニオイが忘れられない。

 

 

 

彼のにおい。汗ばんだ肌と元からの体臭が混ざり合ったニオイが、それ匂いを持つ本人の顔が。

 

 

 

「ッ…」

 

 

 

朦朧とする。全身の熱がより熱く燃え上がるようになっていき、思考を鈍らせていく。

このままではいけないと自分自身がそう言っているのに、本能というべき感覚がそうはさせまいと阻んでしまう。

 

どちらを優先するべきか。どちらが正しいのか。

 

迷えば迷うほど頭の中が白く、そして熱に犯されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…そっか―――」

 

 

答えは導かれた。

実に単純なことだったのだ。

マコトはその答えに順じて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから先は二人のセリフのみをお楽しみ下さい

 

                        By言峰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアー入ってるー?」

 

「うん。もう少し待って、今体を洗うから―――」

 

「あ。よかった」

 

 

 

「…え。ちょっマコトなにしてるの?」

 

「………」

 

「え、なんで、なんで答えないの?」

 

「………」

 

「え、ちょっなんで服脱いで…っていうかなんで入ってきてるの!?」

 

 

 

 

「ディア…」

 

「…はい」

 

 

 

「アタシ…もう我慢できないの…」

 

「え。なんで…っていうかどういう事…」

 

「もう無理…限界…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディア。もう一度…スパーリングをしてくれない?」

 

「ちょっまっ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後の事のイメージSEは「ブッピガン!」とガトリング音とビームマグナムでお楽しみ下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。あんな汚らわしいことは放って置いて。ここからはこの私レイチェルが軽く事情を話してあげるから、感謝しなさい?

といっても、話す事は一つだけよ。誰にとは言わないから、自覚のある者は自覚しても構わないわ。

 

 

まず。作者であるBlazがある注文を受けたわ。

といっても条件のようなものね。

 

 

用件は二つ。

 

BLAZBLUEゲーム中で取り上げられたモテメガネ禁止。

 

そして、とあるセリフとそれに準ずる事の禁止。

 

 

そう。この二つだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に『スパーリング』がダメ

 

なんて一言も言っても聞いてもないわよね?」

 

 

「ハッピーエンドは人それぞれ。ま、どこぞの漫画のような状態であると認識してくれたまえ諸君」

 

 

「全く…着地点を分かっていたとしても、次はもう少し厳密にしなさい?」

 

 

「…難しい話だな」

 

 

 

 

オマケ。

三人娘のその後(マコトルート篇)

 

 

ツバキ

現在冬木市に滞在。ほとぼりが冷めるまではそこに居るそうな。

ちなみに現地で桜と知り合う。

だからといって黒く…なるのかな?

護衛は蒼崎とokaka

 

 

ノエル

管理外の世界を統治する組織のあるアルカディアへ。

本人の希望から支配人たちと一緒に活動をしたり彼らの手伝いをしている。

ちなみに料理が壊滅的な為、支配人を師匠に現在修行中。

護衛は支配人とkaito

 

 

 

マコト

アヴァロン南部に滞在。

現在はディアと同居中。

護衛はディアーリーズとBlaz

 

 

 

 

 

 

 

 

発情期あんどスパーリングなう

 

 


 
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