第八話「来ない春、イタズラ妖精はメンマがお好き」
タダオとリアスが共にレヌール城のオバケ退治をした翌日、タダオとパパスはサンタローズの村に帰って来た。
「ピッ?ピッピピィ~~ッ!!」
「タ、タダオ……、それは……どうしたの?」
「アルカパで友だちになったタマモや。タマモ、この二人はワイの友だちのピエールとスラリンや、仲ようするんやで」
「コンコン」(分かったわ)
サンタローズの家に帰ってさっそく、ピエールとスラリンにタマモを紹介するが二人共タマモを見て怯えている。
まあ、当然であろう。魔物の中では最弱に位置するスライムの前に居るのは……
「タダオ!そ、そいつは魔物だよ!地獄の殺し屋って呼ばれているキラーフォックスだよ!」
「ピイピイピィ~~~」
「そうなんか?」
「コン?…コンコン」(え?…うん、そうだけど)
問い掛けられたタマモはそうだよと頷き返す。
「ふ~~ん。で、それがどないしたんや?スラリンたちだって魔物やろ、なら仲間やないか」
「ピイ?」
「タダオ……、ぷっ!あはは、そうだよね、僕等は皆タダオの友達なんだった。よろしくねタマモ、僕はスラリン」
「ピイピィ……ピエール」
「おっ!ピエール、しゃべれる様になったんか?」
「うん、僕と一緒に言葉の練習をしてるんだ。もっとも、まだ自分の名前だけしか話せないけどね」
「コ、コンコンコンッ!」(ちょ、ちょっと私にも教えてよ。私もタダオとお喋りしたい!)
「勿論だよ、皆で頑張ろう」
「ワイがみんなの言葉がわかればいいんやけどな」
そんなタダオ達の会話を聞きながらパパスとバークは複雑な気持ちでいた。
魔物達と心を通わすタダオ、その姿に嘗てのマーサがどうしても重なるのだから……。
本来ならば既に春は訪れている筈だと言うのにサンタローズ…いや、どの国も未だ冬の寒さの中にあった。
そんなある日、村のあちこちで妙な事件が頻発した。
事件と言うよりどちらかと言うと子供のイタズラっぽいのだ。
もちろんタダオはそんな事はしないと村の皆は解っているので疑われなかったが、だからこそ犯人は解らないままであった。
「坊っちゃん、少しお使いを頼まれてくれませんか?」
「おつかい?ええで」
パパスは朝から調べ物があると部屋に籠りっきりなのでタダオはそんな父の邪魔をしない様に部屋から降りて来るとバークからお使いを頼まれた。
「すみませんね、実はまな板が見当たらないもので捜している最中なんですよ。酒場に頼んでおいたグランバニアの地酒が届いていますので受け取って来ていただけますか」
「了解や!いってきます」
タダオが元気よく飛び出して行くとタマモ達もその後を付いて行く。
暖炉で暖かかった家の中から外に出ると途端に寒くなる。
焚き火で暖を取っている人、震えながらも畑仕事をしてる人、皆この寒さに震えていた。
「いつになったら春が来るんかな?はよ来んかな」
「ほんとに変だよね」
「ピィ~~」
「コン…コ~~ン」(寒い…タダオ、抱っこ)
「なんや、さむいんかタマモ。甘えんぼさんやな」
寒そうに足元に擦り寄って来るタマモをタダオは抱きしめてやる。
そんなタマモをピエールとスラリンは羨ましそうに見上げるが仕方が無いと諦めて着いて行く。
スライム族は環境に適応しやすい為、この寒さにもすっかりと慣れているのだ。
「お~~、あったかさんや♪」
「コンコン、コ~~ン♪」(えへへ、タダオもあったか~い♪)
そんな彼等が酒場のある宿屋に向かっている途中に見慣れない一人の青年が居た。
紫色のマントを身に付け、長い黒髪は根元で纏め、頭には赤いバンダナを付けていた。
青年はタダオを見つけると優しく微笑みながら近づくとしゃがみ込んで目の高さを同じにする。
「よっ!坊主、今日は」
「こ、こんにちはや…」
「そのキラーフォックスやスライム達は坊主の友達か」
「そ、そうやで!タマモたちはワイの友だちや、わるい魔物やないで!」
「ははは、安心せい。こんなに綺麗な眼をしてるんだ。悪い魔物じゃない事は一目で解るわい」
青年はそう笑いながらタダオの腕に抱かれているタマモの頭を撫でてやり、タマモも別に抵抗せずに大人しく撫でられている。
「コ、コン?」(何故だろ、この人タダオと同じ匂いがする?)
「ピイ?」
(この人の目、タダオとそっくり……。いや、全く同じだ。何で?)
タマモ達も目の前の青年の違和感に…否、"違和感の無さ"に驚いていた。
そしてタダオを見るその目の寂しさ、そして哀しさにも。
青年はタダオの腰にある道具袋を見つめ、其処から淡い光が零れているのを確認すると笑いながら語りかける。
「坊主、何か綺麗な宝玉を持っとるな」
「何や、これはダメやで!……兄ちゃんひょっとしてドロボウか?」
「わはははは!そんな訳あるかい。俺も同じ様な宝玉を持っとるからな、ほれ」
タダオは袋を隠すようにしながらゆっくりと後ずさっていくが青年は自分の袋から黄金色に輝く宝玉を取りだした。
「わ、ホンマや。ワイのと同じでキレイやな」
そう言いながらタダオは袋から自分の宝玉を取り出す。
並べて見比べようとすると青年の宝玉が日の光を受けて光り、タダオ達は目を眩ませ一瞬目を閉じると躓いたのかタダオはよろけて倒れそうになり、それを青年が支える。
「大丈夫か坊主?」
「う、うん、へいきや」
青年は立ち上がりながら宝玉を自分の袋にしまい込み、タダオも自分の袋に入れた。
青年はそんなタダオの頭に手を乗せ、少し乱暴に撫で付ける。
「わ、わっ!なんや兄ちゃん、ちょっと痛いで」
「男ならそれ位の事、我慢せんかい!……坊主、父ちゃん好きか?」
「当たり前やないかい!ワイの父ちゃんは世界一の父ちゃんなんやで!」
「そうか……、だったらその父ちゃんに誇れる男になれ!負けるな!挫けるな!何があっても前に進め!……いいな」
「お、おう。分かったで、兄ちゃん!」
タダオはそう叫び、青年が差し出していた拳に自分の拳をぶつける。
青年はそんなタダオを見て優しそうに、そしてやはり哀しそうに微笑んだ。
「さ、お使いの途中だろ、早く行きな」
「そうやった!じゃあ、あんがとな兄ちゃん!」
青年に背を向け駆け出すタダオ、その後をタマモ達が付いて行く。
ふと、タマモが青年を振り向いてみると…
「まだまだガキのタダオを頼むな、『タマモ、ピエール、スラリン』」
そう小さな声で呟いていた。
「コン?コンコンコン」(あれ?ねえ、アイツに私達の名前教えたっけ)
「ピイ?ピイピイ」
「村の人達に聞いてたんじゃないかな?(でも何であんなに何もかもがタダオと同じだったんだろう?)」
歩き続けていると宿屋の近くの民家の前で女性が何かを捜している感じでウロウロしていた。
「おばちゃん、どうかしたんか?」
「ああ、タダオくんかい。いえね、仕舞ってあったメンマの壺が無くなっていて代わりにゴールドが置いてあったんだよ。おじいさんが何時もみたいに摘み食いしたのかと思ったけどさすがにあの量は食べられないしね、せっかく食べ頃だったのに」
女性がそんな風に溜息を吐いていると家の奥から「ワシャ、摘み食いなどしておらぬと言うておるのに」とおじいさんの呟きが聞こえて来た。
「じゃあ、ワイおつかいの途中やからもう行くな」
「じゃあね、タダオくん」
酒場は宿屋の地下にあり、タダオは挨拶をしながら入って来る。
魔物のタマモ達はこの村ではすっかり顔馴染みの為、今更怖がる面々は居らず他所の旅人が居ない限りは店の中に入って来ても文句は出なかった。
「おや、タダオくんどうしたんだい?」
「おつかいに来たんや、酒場におりるな」
「立派だな、タダオくんは。それに比べて、ブツブツ……」
「どうかしたんか、おっちゃん?」
「ああ、誰か宿帳に落書きしている奴が居てね、昨日も誰も泊まっていない筈なのに宿帳の名簿に「セイ」と書かれてるんだ。妙な事にゴールドまで置かれていてね。何だか気味が悪いよ」
「そうなんか。変ないたずらっ子やな」
受付の親父に手を振り、タダオは酒場のある地下へと降りて行く。
まだ昼間の為、さすがに客は居らず酒場のマスターは準備に追われているのかあくせくと動き回っていた。
「マスター、おつかいに来たで。父ちゃんのお酒をちょうだいや」
「おお、いらっしゃいタダオくん。…それがね、どう言う訳かパパスさんに頼まれたお酒が見当たらないんだよ。カウンターの上に置いておいた筈なのに無くなってるんだよ、代わりにゴールドが置かれてるし」
そしてマスターは「そのくせ微妙に足りないんだよな」などとぶつぶつ言いながらカウンターの下や調理場などを捜し回っているがなかなか見つからないらしい。
タダオはカウンターに寄り掛かりながらマスターがお酒を見つけるのを待っていると、何やらポリポリという音と、グビグビと飲み物を飲む音が聞こえて来たので振り向いてみると、客席でテーブルに置いた壺からメンマを食べながらコップにお酒を注ぎ、飲み干して行く半透明の女性が居た。
何と言うか、見た目14~5歳の少女が醸し出す雰囲気では無く、現実世界であればすぐさまお縄頂戴だ。
『うむ!このメンマの絶妙な漬かり具合、さぞかし名のある人物の手によるものであろう。更にこのグランバニアの地酒!喉越しの爽やかさ、清々しい香り、身体全体に行きわたるまろやかな味。ああ、何と素晴らしきコラボレーション!』
「……、なあ姉ちゃん、何しとるんや?それにそのお酒、ひょっとしてワイの父ちゃんのお酒やないんか?」
『うぉうっ!な、何と!坊やは私の姿が見えるのか?』
半透明の女性…否、少女は突然声をかけられ驚き、その声の主を見ると魔物を連れた少年である事にまた驚いた。
「まる見えや、でも何かレヌール城の王さま達みたいに透きとおってるな。姉ちゃんも幽霊さんか?」
『いや、違うぞ。私は妖精の村の長「シオン」様に仕える妖精族の戦士「セイ」だ』
「ワイはタダオ、そしてワイの友だちのタマモにピエールとスラリンや」
『おお、魔物と分け隔てなく友達になれるとは、タダオ殿は中々の御仁ですな』
「で、その戦士さまが何でドロボウさんなんかしてるんや?あっ!ひょっとしてさいきん村の中でイタズラしてるのは姉ちゃんやな」
『ち、違うぞ、あれはイタズラでは無い。我等妖精族は人間族には見えづらいらしくてな、こうやって私の存在を知ってもらおうとしてたんだ。断じてイタズラでは無いぞ。ちゃんとゴールドも払ってあるし』
「でもこのお酒、父ちゃんが楽しみにしてたんやけどな」
タダオはすっかりと空になってしまった酒瓶を寂しそうに抱える。
『ぐっ…そ、それは申し訳ない。そうだ、それよりもこうして知り合えたのも何かの縁、私の話を聞いてはくれまいか?』
「べつにええけど」
『かたじけない!では…、たしか村の端に地下室がある家があったな』
「ワイの家や」
『おお、丁度いい。タダオ殿達はその地下室で待っていてくれ、私もすぐに行く』
「わかったで、はよ来てな。マスター、ワイ帰るな」
タダオは空き瓶をテーブルに置くとマスターに挨拶をして酒場を後にした。
「ああ、すまないねタダオくん。私はもう少し捜してみるよ」
『すまぬな、マスターよ。これは少ないが追加の代金だ』
セイもそう言ってゴールドをカウンターの上に置き、店を出て行った。
「ありゃ?またゴールドが置いてある。何なんだ一体?」
タダオが家に帰ろうと教会の前を通りかかるとシスターが何やら赤い顔をして話しかけて来る。
「タダオくん、先ほどこの前で男の人と話をされてましたが一体あの方はどなたですか?」
「さあ?ワイも見た事ない兄ちゃんやったからな。だれかは分からんで」
「それは残念ですね。お話がしたかったんですが何処に行かれたのでしょう?」
シスターと別れて家に着くとバークにお酒が見つからないでいると伝えた。
「そうですか、本当に最近は妙な事が続きますね。でも幸いに先ほど旦那様にお客様が来て、滅多に手に入らないルラフェンの地酒を持って来て下さったので旦那様も大層喜んでいましたよ。マスターには後で然程急がないと私が伝えておきましょう」
「そのお客さんってまだおるんか?」
「いえ、坊っちゃまが帰って来る少し前にお帰りになりました。でもどうかしたのでしょうかね、凄く寂しそうで哀しそうな顔をしてらっしゃいました」
そんなバークの言葉を聞きながらスラリンはさっき出会った青年の事を思い返していた。
(もしかしてさっきのあの人なのかな?あの人の目も凄く寂しそうで哀しそうだった。誰なんだろう?)
「バーク、ワイちょっと地下室におるな」
「地下室ですか?寒いですから風邪を引かない様に気を付けて下さいね」
「だいじょうぶや、タマモを抱いとればあったかやからな」
タダオはタマモを抱き抱えるとスリスリと頬擦りをする。
タマモは行き成りの事に少し驚いたが、それでも嬉しそうに自分もタダオに頬擦りをし返す。
「コ、コンコンコン♪」(もう、タダオったら~。えへへ♪)
地下室に降りると何時の間に先回りしたのか既にセイがタダオ達を待っていた。
「なんや、姉ちゃんえらい早いな」
「はっはっはっ、これ位の事朝飯前。ではタダオ殿よ、これから我等の妖精界に来て下され。詳しい話は其処でいたしましょう」
「でもな、かってにどこかに行くと父ちゃんに怒られるんや。そしたらまたお尻ペンペンや」
「それでしたら心配は要りませぬ。~@*#$+~」
セイが妖精の言葉なのか、聞き慣れない呪文を唱えると何処からともなく光の階段が降りて来た。
「この“妖精の道”を通れば人間界と妖精界の時間の差は無くなります。つまり妖精界でどれだけ時間を過ごしても今と同じ時間に人間界に帰って来れます」
「そっか、なら安心やな。じゃあ、みんなで行こか」
「コンコン」(うん、行こう)
「ピッピィーー!」
「うん、今度は僕も着いて行くよ」
そうしてタダオ達はセイの後を追って、光の階段を昇って行った。
其処でタダオはまた新たな闘いに身を投じる事となる。
妖精の国に、そして世界に春を呼び戻す為に。
=冒険の書に記録します=
《次回予告》
セイ姉ちゃんに連れられてワイは妖精の村にやって来たんや。
そこで村を治めているシオンさまに会って事情を聞いたんやけど、何でも春を呼ぶフルートが盗まれたらしいんや。
そんなん、イタズラじゃすまされんで。そんな奴はワイがお仕置きしたる!
でも、寒いな。何かええ服ないんかな?
次回・第九話「取り戻せ!春風のフルート。タダオの装備はぬいぐるみ?」
ワイは男の子やで、こんなん恥ずかしいわ!
(`・ω・)セイの服装は恋姫†無双と同じです、無理に変更しても何ですしね。
前書きにも書いた様にタマモのセリフには同時通訳を入れて行きます。
ピエール?…彼はいいでしょう。(オイ
セイに無銭飲食などをさせるのも何ですし、一応ゴールドを置いておく事にしました。
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リュカ=タダオ(GS美神・横島忠夫)
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