第五話「オバケ退治にレヌール城へ」
~アルカパ~
サンタローズから半日ほど歩いた所にアルカパの町はあった。
元々、アルカパとサンタローズは「レヌール」という小国に属していたがレヌール王家は後継者を得る事が出来ずに断絶、王家は滅びレヌール城も今は廃城となり訪れる者は無いと言う。
それにより、現在アルカパとサンタローズは大国「ラインハット」に併合されている。
そしてタダオ達は漸くアルカパへと辿り着いた。
「ただいまー、やっと帰って来たわ」
リアスは元気に叫びながらアルカパの町の門を駆け抜け、門番をしている男はそんなリアスに笑顔で話しかける。
「お帰り、リアスちゃん。薬は手に入ったかい?」
「ええ、これでパパもすぐに元気になるわ」
「それは良かった。さあ、早く薬を持って行っておあげ」
「うん、じゃーねー」
リアスは実家でもあるこの町一番の宿屋へと駆けて行き、マミヤとパパスにタダオも後に続く。
「全く、リアスったら。少し急ぎ過ぎよ」
「はははは、いいじゃないか。それだけダンカンの事が心配だったんだろう」
「お帰り、マミヤさん。それにアンタは…パパスさんじゃないか。久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだな。シーよ」
「父ちゃーーん、はようしてや」
何時の間にか先に進んでいたタダオが飛び跳ねながらパパスを急かしている。
そんなタダオにパパスは微笑ましそうに笑いながら答えてやる。
「分かった分かった、そう急かすな。ではな、シー」
門番をしているシーに挨拶を済ませるとパパスとタダオはマミヤに連れられて宿屋へと入って行き、ダンカンが寝ている寝室に案内される。
「ダンカン、久しいな。具合はどうだ?」
「おお、パパスじゃないか。何時帰って来たんだ?ゴホゴホッ」
「起きずともよい。マミヤ、早くダンカンに薬を」
「ありがとうパパスさん。さあアンタ、薬だよ」
ダンカンは薬を飲ませてもらうと楽になったのか、顔色も若干良くなって来た。
「もう大丈夫だろう。タダオ、私達は少し話があるからお前は町でも歩いて来なさい。リアスちゃん、タダオの案内を頼めるかい?」
「ええ、任せておじ様。行こう、タダオ」
「うん。たのむでリアス姉ちゃん」
そうして二人は町へと出かけて行く。
パパスと一緒にいろんな所を渡り歩いて来たタダオだが、立ち寄るのは小さな村や町ばかりであった為、アルカパはタダオには初めての大きな町であった。
リアスと一緒に色んな店などを覗いたりしていると何処からか小さな悲鳴みたいな声が聞こえて来たので、その声の方に向かってみると、池の中にある小島で、二人の子供が小さな動物を苛めていた。
「ほらほら、もっとちゃんと鳴いてみろよ」
『キュ~ン……、コ~~ン』
「違うだろ、猫ならニャーンて鳴かなきゃダメだろ」
『ギャンッ!コン、コ~~ン…』
小さな動物は怪我をしているのか抵抗も出来ずに蹲り、力無く呻き声を上げているが、それでも子供達は構わずに面白がって苛め続けている。
「アイツら……、なんちゅー事をしとるんや」
「あいつ達は近所でも有名な悪ガキよ」
「こらーーっ!弱いものいじめはやめんかいっ!」
「な、何だよお前は。コイツは俺達が見つけたんだ、どうしようと俺達の勝手だろ」
「そうだそうだ、邪魔するなよ。それに面白いだろ、コイツ鳴き声がへん……」
タダオはすぐさま駆け出して苛めを止めさせようとするが子供達は耳を貸さずに苛めを続けようとしていた。
だが、タダオの後ろから近づいて来るリアスの姿を見つけると、とたんにオロオロとしだした。
「鳴き声が……何だって?」
「げえーーーっ!リ、リアスーー!」
「乙女に向かって「げえーーーっ!」とは何よ!」
「ばびろにあっ!」
リアスの拳から繰り出される“星屑で革命”な拳を受け、いじめっ子兄は吹き飛んだ後、頭から地面に叩き付けられた。
「さあ、その猫さん放してやるんや」
「嫌だね」
「どうしても嫌なの?」
「ぐっ……、い…嫌だ…」
いじめっ子兄弟は猫?を放せというタダオとリアスにあくまでも嫌だと言って譲らない。
正直、リアスが怖い事は怖いのだが男としての最後の意地が勝っている様だ。
彼等の足元には木に紐で繋がれた猫?が辛そうに蹲っている。
猫?と表記してるのはその動物の尻尾が九本に分かれているからだ。
この動物…否、この魔物の名は「キラーフォックス」それも、最も獰猛で知られる「キラーフォックス・ナイン」である。
本来なら大人達がそんな恐ろしい魔物を町に入れる事を許す筈もなかったのだが本来「キラーフォックス」はこの地方と言うよりこの大陸には住んでいない魔物なので大人達もそれと気づかずにいたらしい。
「じゃあ、どうやったら放してくれるんや」
「そうだな……、じゃあ噂のレヌール城のオバケを倒したらこの猫はお前達にやるよ」
「レヌール城のオバケ?それって何や、リアス姉ちゃん」
「此処から少し離れた所にある古いお城で、もうずっと昔から誰も居ない筈なのに夜になるとお城から灯りが漏れ出して気味の悪い笑い声なんかが聞こえて来るのよ」
「そ、そっか…。とにかく、そのオバケを倒して来たら猫さんはワイらがもらうで」
「よし、約束だ。オバケ退治が出来たらこの猫はお前達の物だ」
「決まりね!タダオ、さっそく今夜出かけるわよ」
「おう!と、その前に……ホイミ」
タダオは辛そうにしているキラーフォックスに近づくと回復呪文(ホイミ)を唱えてその体に付けられた傷を癒して行く。
「キュゥ?……コ~ン」
「もうちょっとのしんぼうやで。すぐに助けに来てやるからな」
「コン…コン、コン」
キラーフォックスはタダオの言う事が分かったのか、しきりに頷きながらその尻尾をパタパタと振っていた。
「タダオ、あんた魔法が使えたのね」
「まだホイミだけやけどな」
「とにかく、オバケ退治がすんだらその猫は私達の物になるんだからね。もし、また苛めて傷が増えてたらタダじゃ済まさないわよ」
「わ、分ったよ」
「じゃあタダオ行くわよ。ちゃんと準備しておかなきゃ」
「了解や」
それからタダオとリアスは武器屋へと行き、戦力の強化を計った。
タダオは新たにブーメランを、リアスには茨の鞭を買い、防具も革の鎧に革のドレスを購入。
それらはばれない様に宿屋の裏に置いてある樽の中に隠しておいた。
準備は万端、後は夜になるのを待つだけなので体力を温存する為にゆっくり休んでおこうと宿屋の中に入るとパパスは帰る準備をしていた。
「戻ったか、タダオ。ダンカンの見舞いも済んだ事だしサンタローズに帰るぞ」
「え…ちょ、ちょっと待ってや父ちゃん」
「ん?どうしたタダオ」
「今から帰るんか?」
「ああ、今からなら夜になる前に帰り着けるだろうからな」
「そ、そんな…猫さんが…」
「タダオ……」
今帰ったらレヌール城のオバケ退治は出来ず、猫を助けるという約束が果たせない。二人共、どうしようかと悩んでいるとそこに助けの声が聞こえて来た。
「ちょっとパパスさん。そんなに急いで帰る事もないだろう、一日位泊って行きなよ」
「そ、そうよおじ様!私ももう少しタダオと遊びたいわ」
「ワイもリアス姉ちゃんともう少し一緒にいたいで!」
「そ、そうか。ならば少し甘えさせてもらうとするか」
「わーーい。(何とかたすかったな、リアス姉ちゃん)」
「今日は一緒に寝ましょうね、タダオ。(危ない所だったわ。ママには感謝ね)」
両手を繋ぎ、飛び跳ねながら喜ぶ二人をパパスとマミアは微笑ましそうに見つめている。
まあ、傍から見ると仲の良い二人が一緒に居られる事を喜び合っている様にしか見えないのだから。
だからこそ………
「これで家の宿屋も将来は安泰だね。タダオ君なら良い婿になれるよ、ねえパパスさん」
「マミヤはそんな風にタダオの事を狙っていたのか……」
「あら、当たり前じゃないか。ほほほほほほほ」
幸か不幸か、そんな大人達の会話は子供達の耳には届かなかった。
そして、大人達も眠りについた深夜、リアスは隣に寝ているタダオを起こし家から抜け出して行く。
念の為、パパスが寝ている所も覗いて見たがぐっすりとよく寝ていた。
それでも「マーサよ、私達のタダオは真直ぐに成長しているぞ」と、寝言を言った時には黙って行く事に罪悪感もあったが猫を助ける為だと自分達に言い聞かし、隠してあった武器と防具を身に付けてレヌール城へと歩き出した。
「見えて来たわ、あれがレヌール城よ」
「うっわ~~。うすきみ悪い城やなぁ」
タダオとリアスの視線の先に佇むのは、嘗ては壮観な白亜の宮殿で在ったであろうレヌール城。
しかし現在はその外見に当時の面影を残すのみで、暗雲に包まれ時折雷鳴が轟く怪しげな城と化していた。
「さあ、今更逃げるだなんて言う選択肢は無いからね。覚悟を決めなさい」
「に、逃げるつもりなんてないけど、きみ悪い事には変わりあらへんで」
「グダグダ言わない。ちゃっちゃっと進みなさい」
「へ~~い」
そして二人は城の正門から入ろうとするが、巨大な上に要所要所が錆びついているらしくその扉は開かない。
何処か他に入る場所が無いかと探し回る内に、城の裏側に上へと登れる鉄梯子を見つけた。
「とりあえず、入れそうな場所は此処しか無い様ね」
「やな。じゃあ、レディーファーストでリア…《バゴムッ!!》…ワイが先に登らせていただきます。いてて…」
リアスに拳骨を受けた頭を擦りながらタダオは梯子を登って行き、リアスもその後に続く。
登り終えた先にはアーチ状の門らしき場所、その先には城の中へと招き入れる様に扉が開いていた。
「あそこから入れるわね、行くわよタダオ」
「な~んか、嫌なよかんがするんやけどな」
周りを警戒しながら進み、扉から城の中に入ろうとした瞬間、突如門らしき場所のアーチ状の部分から鉄格子が降りて来て二人は閉じ込められてしまった。
「…嫌なよかんはしとったんや」
「い、今更言っても仕方ないでしょ。こうなったら先に進むしかないわ」
「せやな。城の中からならほかに出口があるかもしれん。オバケを倒してからさがそうな」
「その意気よ」
半開きの扉を開いて中に入ると其処には幾つかの棺桶が並び、おどろおどろしい雰囲気の中、二人は身を寄せ合いながら進んで行く。
そして目の前に下の階に降りる階段が見えて来た時、タダオはすぐ隣に居た筈のリアスの気配が消えている事に気が付いた。
「あ、あれ?リ、リアス姉ちゃん?どこや?い、いたずらは無しやで……。ひょっとしてオバケにさらわれたんかっ!?」
リアスが傍に居ない=オバケに攫われた。
この図式が頭を過ぎった時、タダオはさっきまでの怯えは消え去り、リアスを探し出す為に全力で駆け出し、階段を駆け下りて行く。
下の階に降りると石像が並ぶ先に明かりが漏れて来る扉を見つけ、再び駆け出す。
すると石像の中の一体が突如動き出し、タダオの行く手を遮る様に通路を塞いだ。
「じゃまやーーーっ!どかんかーーーいっ!」
タダオの攻撃
会心の一撃
動く石像をやっつけた。
リアスを心配する事から発揮した火事場の馬鹿力か、強敵である筈の動く石像を一撃で倒した上、それに気付かずにいるタダオだった。
扉を開くと、其処は城の屋上の一角で庭園みたいな場所に墓が二つあった。
タダオはその墓に近づいてみると墓石には「タダオのはか」と書かれており、もう一つの墓石を見ると「リアスのはか」と書かれていた。
「「リアスのはか」って……、たいへんやーーっ!リ、リアス姉ちゃーーん!」
タダオは大慌てで墓石を力一杯に押すと墓石はゆっくりとずれて行き、中からリアスが出て来た。
「リアス姉ちゃん、無事やったんやな。良かったーー!」
安心したタダオは泣きながらリアスに抱き付いたが、リアスは何も言わずにその手をそっと離させるとゆっくりと立ち上がる。
「リ、リアス姉ちゃん?」
その体から湧きあがる怪しげな雰囲気に少し怯えながらもタダオはリアスの名を呼んでみた。
「ふ、ふふふ……ふふふふふふ………あははは………」
「ど、どうしたんやリアス姉ちゃん。ちょっと怖いで…」
「あはははははははは、あーーっはっはっはっはっはっはっ!」
リアスの笑い声はその黒いオーラと共に激しさを増し、そして………
「この私を墓の中に押し込むなんていい度胸してるじゃない、あんの腐れ悪霊共!………、跡形も無く滅ぼして上げるわ!」
遂にリアスの怒りは頂点に達し、別世界の彼女の様にその体から滅びの魔力が湧き上がった。
「ほんぎゃあーーーーっ!?」
ついでにタダオの恐怖も頂点に達した。
=冒険の書に記録します=
《次回予告》
猫さんを助ける為にオバケ退治にやって来たレヌール城。
でも此処には猫さんよりもっと困ってる人達が居たんや。
待っててな王様たち、ワイらが絶対に助けたるからな。
次回・第六話「廃城の戦い」
「王様も王妃様もワイらが助けたるで」
(`・ω・)ちなみに、いじめっ子兄のイメージは焼き鳥さん(笑)でお願いします。
それとモブキャラの名前は考えるのが面倒なのでA・B・Cから取っています。
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