No.829128 英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク 改訂版soranoさん 2016-02-07 00:07:08 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:749 閲覧ユーザー数:696 |
~夕方・トラッド平原道~
「おや?お前さんたちは……」
ルーク達が街道を歩いていると男性の声が聞こえ、立ち止まると東方の武闘家風に見える大柄な男性がルーク達に近づいてきた。
「あら、大きな人。まるでクマさんみたいね。」
「ほう、お前までリベールに来ているとはな。」
「ジ、ジン!?何でお前までリベールに……」
男性の身体の大きさにレンは目を丸くし、見覚えがあるバダックは意外そうな表情をし、ルークは驚き
「あれっ……!?」
「エルモの帰りに会った……」
エステルとティータは目を丸くした。
「はは、あの時は道案内してくれてありがとよ。しかし、また街道で会うとはなかなか縁があるじゃないか。」
「あは、そうかもね。そういえば、おじさんもエルモで温泉に入ってたのかしら?」
「その通りだが……おじさんはやめてくれよ。」
「フッ、既に30なのだから立派な”おじさん”ではないのか?」
「確かにそうだよな~。」
エステルの言葉を疲れた表情で否定する男性の言葉を聞いたバダックとルークはそれぞれ口元に笑みを浮かべた。
「そりゃないですぜ、バダックの旦那………って、何で旦那までリベールに来ているんだ!?しかもルークも一緒になって……」
男性は溜息を吐いた後自分にとって見覚えがありすぎるバダックに気付いて驚いて声を上げた後ルークに視線を向けた。
「よ、ジン。久しぶりだな。」
視線を向けられたルークは片手を上げて挨拶し
「フッ、”彼”に頼まれてこのリベールを訪れたと言えば、お前ならわかるのではないか?」
バダックは静かな笑みを浮かべて答えた。
「!!なるほど。ハハ、旦那がいるんだったら、俺の出る幕はないと思うんですがね。」
「謙遜する事はない。俺の取り柄は”武”だけだ。長年遊撃士をしているお前と比べれば、俺はまだまだ経験不足だ。」
「いや~、旦那ほどの人にそんな事を言ってもらえるなんて、遊撃士として光栄ですぜ。」
バダックの答えを聞いた男性は目の前にいる自分の故郷にとって心強き存在がリベールに来た理由を察すると苦笑いをした。
(”彼”??)
(うふふ、何だか気になる言葉が一杯ね。)
(もしかしてバダックさんと同じカルバードの遊撃士なのかな……?)
二人の会話を聞いていたエステル、レン、ヨシュアは小声で相談し合っていた。
「おっと、そっちの赤毛のアンちゃんと菫色のお嬢ちゃんはどうやら初対面のようだな。特にアンちゃんは顔色が悪そうだが、大丈夫かい?」
「え……………」
「…………………」
男性の言葉を聞いたエステル達が振り向くと、そこには表情を青ざめたアガットが黙り込んでいた。
「うわ……なにその顔色!?」
「ア、アガットさん……!?」
「まさか、毒でも受けたのか!?」
「るせえ……大丈夫だって言ってる………かはっ………」
アガットは焦点の合ってない目で答えた後地面に倒れて意識を失った!
「きゃあ……!?」
「ど、どうしちゃったの!?」
「おい、マジでどうしたんだよ!?」
「……ちょっと待って!」
慌てているエステルやティータ、ルークを制したヨシュアはアガットのまぶたを開いた。
「む、これは………」
「かなりまずいんじゃないかしら。」
瞳孔が開き始めているアガットの目を見たバダックは唸り、レンは真剣な表情で考え込み始めた。
「ええ………恐らくですが、あの時の弾に強烈な毒を仕込まれていたんだと思います。」
「ど、毒!?」
「あいつら……!」
ヨシュアの説明を聞いたエステルは驚き、ルークは唇を噛みしめた。
「ふむ、間違いなさそうだな。瞳孔が拡大してるということは植物性の神経毒かもしれんぞ。」
「その可能性が高いと思います。断言はできないけど……このままだと危険かもしれない。」
「そ、そんな……!」
ジンとヨシュアの会話から自分を助けてくれた恩人が死ぬかもしれない事にティータは表情を青ざめさせた。
「レン!とりあえず持っている解毒薬や傷薬で応急処置をしておくぞ!」
「わかったわ!」
そしてルークとレンは自分達が持っている傷薬や解毒薬で応急処置を始めた。
「と、とにかく急いで治療できる場所に運ばなきゃ!ティータ、このあたりで治療できる場所ってある!?」
「ちゅ、中央工房……!4階に医務室があるのっ!」
「ふむ……だったらそこに案内してくれ。俺がその若いのを運ぼう。」
「え……いいの!?」
「俺が運んでも構わんが?」
男性の申し出を聞いたエステルは驚き、バダックは目を丸くして言った。
「ハハ、少しは俺にも出番を下さいよ、旦那。―――見ての通り、俺はこのガタイだ。重い荷物運びなら任せておきな。それに……どうやら同業者のようだしな。」
「同業者って……」
「やっぱりおじさんも遊撃士なのかしら?」
男性の話を聞いたエステルは目の前の男性が遊撃士である事に気付いて目を丸くし、レンは尋ねた。
「だからおじさんはやめてくれよな……ジン・ヴァセック――――そこのバダックの旦那と同じ、共和国のギルドに所属している。よろしくな、リベールの遊撃士さんたち。」
こうして男性―――ジンの協力によってアガットを中央工房に運んだエステル達はアガットを診てもらい、ルーク達はキリカに事情を説明した。
~夜・遊撃士協会・ツァイス支部~
「そう、ラッセル博士の奪還は失敗した上、アガットは負傷してしまったのね。」
報告を聞き終えたキリカは取り乱す事や慌てる事もなく冷静な様子で頷いた。
「―――ごめんなさい。レンに責任があるわ。博士が大好きなティータの性格からして、家にジッとして待っていられない事なんて簡単に予想できたのに……こんな事ならお兄様達について行って、屋上へ続く階段を見張っておけばよかったわ。」
「その件に関しては俺にも責任がある。祖父が攫われた事によって、孫娘―――”家族”がどういう気持ちを抱えていたかを考えていなかったからな……」
「いえ、二人は緊急事態でありながらも、咄嗟に判断してよく動いてくれました。それにギルドの方でティータを保護しておけば、こんな事にはならなかったでしょうし。―――むしろ、そんな事があったにも関わらず肝心な時に動かず、呑気に温泉につかっていたジンの方が責められるべきです。全く、よくそれでA級が務まるわね?」
自分達の否を認め、謝罪するレンとバダックの言葉を聞いたキリカは二人を責める所か逆に慰めた後ジンを見つめ
「あら、その人、A級なんだ。」
「ああ、”不動”の異名で有名だぜ。」
ジンがA級である事に目を丸くしているレンにルークは説明した。
「お、おいおい。さすがにそれは仕方ねえだろ……市内の騒ぎはエルモ村にまで伝わらなかったんだからな。」
一方キリカの責められるような視線で見つめられたジンは疲れた表情で答えた。
「バダックさんのように真っ直ぐツァイス市に向かって来ていたら、アガット達と合流して、ラッセル博士の奪還に向かえたのではなくて?」
「グッ。痛い所を突きやがるな……」
(あ、相変わらず容赦ねえ……)
キリカに指摘され、唸っているジンの様子をルークは冷や汗をかいて見つめていた。そこにエステル達がギルドに入って来た。
「おお、お前さんたちか。」
「あ、ジンさん!それにバダックさんも!まだ居てくれたんだ。」
ジンとバダックの姿を見て、明るい表情をしたエステルはヨシュアとティータと共にルーク達に近づいた。
「ジンさん、さっきはアガットを運んでくれてありがとね。それにバダックさんも。急な出来事だったのに、あたしたちに手伝ってくれて、本当にありがと。」
「お世話になりました。」
「はは、気にするな。これも同業者のよしみだぜ。」
「ああ。それに俺はそれ程大した事はしていない。」
新人達に感謝された熟練の遊撃士達はそれぞれ謙遜した様子で答えた。
「それで……アガットの容態はどう?」
「それが………」
エステル達はアガットの容態が極めて危険な状況であり、治療するには『ゼムリア苔』という材料が必要な事を説明した。
「ふむ、思った以上に危険な状態だな。」
事情を聞き終えたジンは真剣な表情で頷き
「そんな毒を混ぜた弾丸をティータに放つなんて……許せないわ。」
「ああ、最低の連中だな。」
「大人気ないにもほどがあるな。」
怒気を纏っているレンの言葉にルークとバダックはそれぞれ不愉快そうな表情で頷いた。
「確かに『ゼムリア苔』なら以前、教会の依頼で採取が行われたわ。ちょっと待って。」
そしてキリカは背後にある戸棚の中にある報告書を束ねているバインダーを取り出して調べ始め、目的の報告書を見つけた。
「……あった。カルデア鍾乳洞の北西区画、洞窟湖のほとりで採取したそうよ。」
「鍾乳洞の北西……洞窟湖ね。」
「忘れないように手帳にメモをしておこう。」
キリカの話を聞いたヨシュアは手帳を取り出して目的地をメモした。
「ただ、鍾乳洞の魔獣はかなり手強いと聞いているわ。前に採取した時はベテラン遊撃士4人でチームを組んで探索したから。」
「ベ、べテラン四人!?」
「あの鍾乳洞は入った事はねえが……まさかそんなに手強い魔獣がいるとはな。」
キリカの口から出た予想外の話を聞いたエステルは驚き、ルークは目を丸くした。
「うふふ、こういう時こそレン達の出番ね。」
「そうだな。」
「二人とも手伝ってくれるんだ!」
「兄さんとレンがいれば、僕達も大分助かるね。」
レンとルークの加勢を知ったエステルとヨシュアは明るい表情をした。
「ふむ、だったら俺も……」
その時ジンがエステル達に話しかけようとしたその時
「というわけでさっきの事件では役に立たなかったその男を連れていきなさい。」
「ガクッ………って、おい!勝手に話を進めるんじゃない。」
キリカに答えを先に言われて肩を落とした後振り返ってキリカを睨んだ。
「あら。付き合うつもりではないの?」
「いや、それはそうだが……ああもう、お前ときたら相変わらずな性格しやがって!」
「そんなに誉めないで。」
「誉めとらん、誉めとらん!」
ジンとキリカの掛け合いをエステル達は脱力して見つめていた。
「え、えっと……要するにジンさんも『ゼムリア苔』の採取に手伝ってくれるの?」
「あ、ああ。これも何かの縁だろうさ。明日には王都に向かうからそれまでしか付き合えんがな。」
「それで充分!すっごく助かっちゃうわ!」
「よろしくお願いします。」
ジンの申し出を聞いたエステルとヨシュアはそれぞれ明るい表情をした。
「バダックさん、疲れている所を申し訳ないのですが、できれば貴方にも彼女達を手伝って欲しいのですが。」
「ああ、別に構わん。俺もジンと同じで明日には王都に向かう事になっているからな。先程の件で役に立たなかった代わりに彼女達を手伝おう。」
「え……本当にいいの!?ありがとう、バダックさん!」
「ありがとうございます。」
キリカの依頼に頷いたバダックの答えを聞いたエステルとヨシュアは心強い味方が更に増えた事に喜んだ。
「おい、俺の時とは態度がえらく違わねえか?」
その時、キリカのバダックへの態度が気になったジンはキリカに尋ねたが
「当然でしょう?温泉にゆっくりつかって呑気に旅の疲れを癒していた貴方と違って、バダックさんはリベールに到着したばかりなのにアガット達とラッセル博士の救出に向かってくれたんだから。」
「うぐっ。」
キリカに図星を突かれ、黙り込んだ。
「あ、あの、お姉ちゃん、お兄ちゃん……わたしも……行っちゃダメ?」
その時考え込んでいたティータが不安そうな表情で尋ね
「フウ………ティータなら言いだすんじゃないかと思ったわ。」
ティータの申し出を聞いたレンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「わかってるの……足手まといだってことは……でも……でもね。アガットさん、わたしをかばってあんな事になっちゃったのに……何にもしてあげられないなんてわたし……いやだよう……」
「ティータ………」
悲しそうな表情をしているティータを見たエステルが辛そうな表情をしたその時
「ティータ、と言ったな。本当にアガットの為に自分は何もできないと思ったのか?」
バダックが静かな口調で問いかけた。
「バダック……?」
バダックの問いかけを聞いたルークは首を傾げ
「え………」
ティータは呆けた。
「人にはそれぞれの役割というものがある。勿論、薬の材料となる原料を自らが取りに行く事も重要だが……その間のアガットの看病を誰がする?もし、アガット以外に急患が出れば医者はそちらの治療に移らねばならないのだぞ?」
「あ…………………わかりました。わたし、おねえちゃん達が『ゼムリア苔』を取ってくるまでアガットさんの看病をします!」
バダックの話を聞いて呆けたティータはすぐに気を取り直し、真剣な表情で頷き
「フッ、賢い子だな。」
「えへへ……」
静かな笑みを浮かべたバダックに頭を撫でられたティータは嬉しそうな表情をした。
「え、えっと、おねえちゃん、おにいちゃん。さっきは困らせる事を言って、ごめんね?」
「ううん、気にしなくて大丈夫よ!」
「できるだけ急いで採取してくるから、ティータはアガットさんの看病をお願いするよ。」
妹分を早く元気付ける為にエステルとヨシュアは迅速な行動に移る事を心の中で決めた。
「―――ルーク、念の為に貴方はティータの護衛に移って貰えないかしら?バダックさんが予想したようにラッセル博士を攫った連中が博士を自分達の思い通りに働いてもらう為に、彼女も誘拐する危険性も充分考えられるわ。」
「わかった。レン、俺の代わりにエステル達のサポートをしっかり頼むぞ。」
「はーい。」
こうしてエステル達は『ゼムリア苔』を採取する為に鍾乳洞に向かい、ルークはアガットを看病するティータの護衛を開始した………
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第13話