双子物語67話
【雪乃】
ごはんを満喫して次の講義まで時間があるので少し大学内を散歩していると
一瞬建物の裏を通る姿を見かけた私は少し興味が湧いて追いかけるように
その場所から覗くように見ると、木陰が広がっている中ある一点だけ日の当たりが
集中している場所があってそこには小さく綺麗なお人形さん…みたいな人が
満足そうに寝転がっているのを見た。
とても気持ちよく、暖かそうだった。季節はそろそろ夏に入る頃だろうか。
寝ている人は体は子供のように小さく、それに似合うようなフリフリした服で
着飾っていた。
そしてその人は私の通ってるサークルの部長さんだったりする。
「嘉手納先輩?」
「むにゃ?」
「そんなとこで寝て、風邪引きますよ」
「だいじょおぶ、だいじょおぶ。私、体丈夫だから」
そういう問題だろうか?と首を傾げながら先輩の隣に腰をかけると、
まだうとうとしている先輩は私の体の方に傾いてきて、その瞬間先輩の匂いが
感じられた。ふわっとしたような花のような香り。
「あぁ…これ私の趣味じゃないからね…」
「これ?」
「この服」
「そうなんですか…」
似合ってるけど、そう聞くと誰が選んでいるのかすごく気になってくる。
よほど先輩のことを知っている人なのだろうかとか。好きなんだろうかとか
頭の中で色々想像してしまうわけで。
私がそういう風に考えてる時、先輩は少しボ~ッとしながら私に聞いてきた。
「ねぇ、妹ちゃん。ほんとに美沙のことは気にならないの?」
「前もそれ聞いてましたよね」
「そうだったっけ…」
「どうしてそんなに気になるんです?」
逆に今度は私がそれだけ黒田先輩のことを気にしてるのか聞いてみると
先輩は少しの間だけ口を閉じて考えた後、自分の着ているものを指して微笑んでいた。
「これ、美沙が選んだものなんよ」
「へ~、意外」
「でしょ。彼女こういうの好きなんだろうけど自分だと似合わないから着ないんだと思う。
で、こんなナリをした私がいたからちょうどよかったんでしょう」
「そうでしたか」
「私も彼女と似たようなとこがあるから何となくわかるんだよね…」
まだ知り合ったばかりのせいか、どの辺が似てるのかピンとこなかったけれど
それを聞いて思ったことをつい訊ねてしまう。
「似てると思うなら、先輩が黒田先輩と付き合うっていう発想はないんですか?」
「おっ、ドンドン押してくるね、妹ちゃん!」
「あ、すみません」
「いやいや、遠慮しない姿勢は好きだから大丈夫。あのね…中には似てるからこそ
付き合えない。付き合っても上手くいかない関係というのもあるのだよ」
「そういうものですか…」
「そだよ~」
笑いながら答える先輩。こういう感覚は人によって違うのだし、正解もないのだから
仕方ないけれど。どこか私の中で納得がいかない部分があった。
でもそこは今考えることじゃない。
「それにね、私も黒田ちゃんが来るまではそうだったけど、黒田ちゃんもね明らかに
君がここに来てから変わったのがわかるんだ…」
「え?」
変わったとはどういうことだろうか。などと首を捻るように考えてはみても
答えなど見つかるわけもない。
「キミを見るまでは大学の生活を楽しんでいないように見えた。もっと言えばどうして
創作のサークルに来たのだろうという疑問が出るほど。唯一彼女は私を人形みたいに
服を着せることが楽しみのようだった」
一気に話して少しだけ間を空けると再び先輩から話始めた。
「私もやる気のない子たちと活動していて時間だけが過ぎていたから気持ちが何となく
わかるのよね。
その頃の黒田ちゃんと同じで楽しみを持てずにいたのを黒田ちゃんが来てから
無頓着だった服装とか勉強と創作以外のことを私に教えてくれて。
知らなかった世界を見せてくれて自分が今まで見ていた世界の色がすっかり
変わったような気がするよ。」
目を輝かせて可愛い顔をしてそういう風に言う先輩が眩しく見えた。
「そして黒田ちゃんがキミを見てから輝き始めるところまで私が感じていたことがそのまま、似ていたよ。見ている限りではね」
嬉しそうに言いながらも時折、寂しそうにしている先輩を見ていると少し胸の辺りが
ズキッとなってかける言葉も見つけられずにいた。
「今ではあれだけ輝いて男女共に見惚れられてるあんな出来た子でも以前の彼女の方が
良いというのだからどれだけ魅力的か、会ってみたかったな~」
そういえば先輩はもう4年。最後の年だから叶ちゃんに会うことはできないのか…。
何か当たり前のように私のいる大学に叶ちゃんが来るって決めつけてはいることに
自分に対して苦笑してしまう。
でも確かに先輩と過去の話をして会えてるのは姉、幼馴染、黒田先輩くらいしか
会っていないことになる。
すごい興味深そうに聞いていた先輩には話のほとんどの人と会えないことになる。
それは少し寂しいことかもしれなかった。
そういう気持ちもあってか、私の口から言葉が漏れるように出てきた。
「じゃあ、来ますか?」
「え?」
「今度の夏。私たちのとこに」
言ってから気付いた。先輩は4年、忙しいはずなのをわかって聞くのは失礼だったか。
そんな考えに反して先輩はすごく嬉しそうにその話に食いついてきた。
「いいの!?」
「え、えぇ、先輩が良ければ」
「もちろん行くよー!お話に出てくるみんなが来るんだよね!?」
「はい」
叶ちゃんには一年早かったけれど、せっかくの機会だしいいか。
そんなゆるい気持ちのまま先輩に返事をした。
***
ということがあったのを電話で叶ちゃんに報告をした後に夏休みの話を持ちかける。
ああいうことがあったから断られるかもしれないとこれまでに私の中であまり
感じられなかった緊張が押し寄せるようにきていた。
「ということで、今年の夏。一緒にいられるかな…」
「・・・」
前ならすぐに返事が来るところだけど、私の方からおあずけしておいてこの話を
持ちかけるのはさすがに勝手が過ぎたかなと少し落ち込んでいると…。
「わかりました」
思っていたのと違う反応が返ってきた。
「いいの?」
「もちろん!そうなんですけど、まだ私…自分のことをちゃんとできているか心配で…」
「大丈夫だよ、メールからも叶ちゃんのがんばりがわかるから。
そうだ、ご褒美みたいなものだと思ってくれれば」
「わかりました、そう思うことにします!」
力強く、嬉しそうに言う叶ちゃんの言葉に私のモヤモヤしていた気持ちが一気に
晴れていった。そして電話が終わった後もその言葉がずっと残っていて
私はしばらくニヤついていたのを彩菜にからかわれたりしたのだった。
その次の日、先輩と約束していた時間を確認して大学へと向かい。
今度は私があのひなたぼっこしていた場所に座って待っていた。
本当にここはあったかい、少しうとうとしていたら今度は逆に耳元で誰かに
囁かれてびっくりして起きると嘉手納先輩がいたずらっぽい笑みを浮かべて
ぽんぽんと私の頭を軽く叩いた。
「こないだのおかえし」
「もう~…」
と困ったような風に言いつつも、嘉手納先輩の柔らかい手が触れると何か落ち着く
というか穏やかに気持ちになれた。高校生の時、勝手わからなかった私に同じことを
してくれた黒田先輩にされたときも同じような気持ちになれた。
恋とは違うけれどどこか安心させてくれる人たち。私の中ではそういう感じの認識で、
どっちの方が大事とかそういうの関係なく同じくらい大切な人に思えるのだった。
「あの、みんなと連絡を取って大丈夫でしたよ」
私があまり見せないような微笑をすると嘉手納先輩は満足そうに頷いて。
「そっか、それは楽しみだなぁ」
「私もです」
自然と二人は笑みを浮かべて笑いながら話をしていた。
先輩にとっては大学生で最初で最後の私たちと過ごす夏休みがもう少しで
始まろうとしていた。
続。
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夏休みの約束を取り付けるお話。地味にこれまで人に囲まれながらも孤独に生きてきた二人の話がメインになっています。体には恵まれてないけど周りの人に恵まれた雪乃とは逆な感じですね。
嘉手納先輩の詳細をまだ投稿していないので近いうちに載せたいなぁと思っています(絵付き)