No.826630

レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話

リューガさん

ある場所で、キャラは少なくて何ぼというアドバイスをいただきました。
 そういえば、かの黒沢明さんも4人ぐらいで動かす話が一番作りやすかったという話を聞いたことがあります。
 ……まあ、こんなにヒーローが必要になるスイッチアの歴史が不幸だったという事です。
 真志総理や中倉一尉の描写は、昔のゴジラシリーズを思い出しながら考えました。
 でも、最近子供向けでこういう描写ってみませんね。

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2016-01-24 17:13:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:403   閲覧ユーザー数:403

 自らの星をスイッチアと称するチェ連人。

 チェ連人を認めず、地の底、深海や空の上で隠れ住んでいた地底竜、海中樹、天上人の三種族。

 彼らは自らの星を奪い合う歴史に、踏み込もうとしていた。

 そんな彼らも、地球人と魔界ルルディ、女神ボルケーナの仲裁により、和解の席にやって来た、はずだった。

 

 チェ連人も三種族も、互いを許し合うことはなかった。

 地球人とチェ連人、すなわち人を認めることのなかった三種族。

 そんな彼らの主観では。

 ルルディ騎士団が使う、液体のように垂れ下がる魔法火に包まれたかと思ったら、今度はその火が燃え上がり、解放されたように感じた。

 だが、解放されたわけではなかった。

 足首から下は動かない。未だに拘束されたまま。

 そしてまた、ボルケーニウムによる人間の姿が与えられていた。

 今度は天上人の輝く姿も、地中竜の鉄の羽も、海中樹の宝石もない。

 再び押し着せのスーツを着た、完全な人間の姿だ。

 三種族は、横にいる互いを見合った。

 小学校で理科の授業を受けた者なら、昆虫標本を思わせる光景だ。

 彼らは整列したように一方に並び、同じ方向を向いている。

 消えずに残った炎は彼らの後で整い、椅子の形になっていた。

「どうぞ、お座りください」

 周りを取り囲むのは、魔法火を燃え盛る姿のまま固形化し、鎧とするルルディ騎士団。

 一人一人が持つ長い槍も、戦斧も、すべて同じ炎で作られている。

 その正面にいる一人、死神を思わせる大鎌を持った男の騎士に勧められた。

 

 標本と騎士団の間には、自衛隊が作った檻があった。

 ホームセンターで売るっている太い鉄パイプを、ボルトで固定するクランプと呼ばれる道具でつなぎ合わせた、簡素なもの。

 その中にパイプイスが並び、数人の男女が手足を手錠で戒められて座っている。

 内二人は、マルマロス・イストリア書記長と、ヴラフォス・エピコス中将・チェ連極限地師団長。

 二人を含め、誰も腰に銃をつけていない。

 そして議会などで見せる覇気を知る者なら驚くだろう、皆が精も渾も尽き果てた様子で顔を伏せていた。

 

 ルルディ騎士団のすぐ後ろに、どこからか引っ張ってきた大きな工具箱の上で、どっかっと腰を下ろした前藤 真志内閣総理大臣がいた。

 今は、灰色のダッフルコートを着ている。

 彼の後には、大勢の人間がいた。

 まず、魔術学園生徒会が、ほぼ全員。

 いないのは達美。

「クミ、あっちに行ってようね」

 生徒会の後では生徒会長のユニバース・ニューマンが、困り果てていた。

 ユニは努めて明るい表情で、息子のクミに語りかけるが。

「イヤー! 」

 クミは副会長、石元 巌の太い腕をしっかりつかんで離さない。

 実は、石元 巌は35歳。

 しかも、日本の異能力産業をトップとして牽引する、石元グループの総裁だったりする。

 そしてユニは、そこの御屋敷のメイドさん。

 そんな縁もあり、クミはたくましい巌にあこがれ、とてもなついていた。

 

 結局、2人でクミを別室に連れ出すことにした。

 

 各国の外交官、閣僚もいる。

 いくつもキラキラ輝く、銀色の稲穂のようにも見えるもの。

 それを持つには、駐在武官たちだ。

 駐在武官とは、在外公館に駐在して軍事に関する情報交換や情報収集を担当する軍人たち。

 今は自衛隊から借りた防弾チョッキとヘルメット、予備兵器である銃剣のついた64式小銃が頼りだ。

 その銃剣が、銀の稲穂の正体だ。

「かわいいですね。息子さんですか? 」

 事情を知らない駐在武官の一人が、ユニと巌を見てにこやかに言った。

「いや、そういうわけではないのですが……」

 巌はそう言いながらも、満足そうだった。

 

 駐在武官にはもう、糊のきいた軍服、ドレススーツも、たくさんの徽章も関係なかった。

 全て脱ぎ捨てられ、壁沿いに山積みになった。

 その横には、エピコスワインの大きな木箱、大量のイスやテーブルもまとめられている。

 とてつもなく大きなパーティーの舞台裏、そのなれの果てだ。

 

 そこは、広い四方をコンクリートに囲まれた空間。

 冷たい空気だ。人の息は白くなる。

 窓は無く、壁にドアと地球人が設置したLED灯光器が並ぶ。

「ここは、フセン市の市役所です。

 この掩蔽壕なら落ち着いて話し合えるかと思い、お借りしました」

 真志総理が言うとおり、この市役所は山の要塞を建設する際に出た土砂を積み上げ、作られた人工の山の中にある。

 彼の声は、歯を食いしばって跳びかかりたい衝動を抑えているようだ。

 

「下等なお前達と話すことなど、ない! 」

 海中樹の一人が叫んだ。

 三種族の中から、次々に賛同の声が上がる。

 しかし次に彼らがしたことは、辺りを見回し、誰かを探すことだった。

 

「ボルケーナ様ならいませんよ。

 我々からの依頼で、この街の様子を惑星全土に中継してくれています」

 真志はそう言って、一方の壁を指さした。

「お話したいことがあるなら、私が承りましょう」

 そこには壁いっぱいに、大きなボルケーニウムのディスプレーが2枚、立てかけてあった。

 右の一枚からはここの様子が映し出され、声まで出ている。

 もう一枚は巨大なCの形をしたヤンフス大陸と、海を挟んで星の反対側にある、海中樹の諸島が映し出された世界地図だ。

 気象情報や昼と夜などの情報もリアルタイムで表示されている。

 世界地図の前には、赤いつなぎを着た女性の技師が一人だけ、チェックしていた。

 長いまっすぐな黒髪を、首の後ろで縛ってひとまとめにしている。

「ココナッタ村、良し! ハサハンミ町、良し! 」

 右のライブ映像と同じものが、左の世界地図で読み上げられた地域に送られているのだ。

 

「われらを見くびるな! ボルケーナ様! お顔をお見せください! 」

 白いスーツを着せられた、天上人が技師に呼びかけた。

 技師は振り向きもせず、億劫そうに返す。

「ボルケーナ様なら2時間前まで山の空港に居ましたよ」

 だが、その天上人は食い下がった。

「ボルケーニウム技師は、ほとんどいない! 霊力伝導性はオリハルコン以上だが、人の爪で傷がつくほど脆く、本体から離れればすぐ土に返る!

 オリハルコンなど、他の超物質と入れ替えるメリットは全くない! 」

 そう言われると技師は、イラついた様子でその天上人へ向いた。

「達美の地球以外ではね」

 救いを求める視線には、親の仇でも見るかのような視線が返ってきた。

 だぶついたつなぎを、強引に押し上げる胸と腰。

 シャープな顎と鼻筋の通った顔立ちに縁なしメガネという組み合わせは、精悍なイメージを感じさせる。

「今回の問題は、この星と地球から始まったんでしょ。まず地球人に言うべきじゃないですか? 」

 そう言って、チェックに戻るボルケーナ人間態。

 

 その一言に、何人かの三種族は完全に心が折れた。

 少しづつ、平衡感覚を失ったかのように席について行った。

 

 それでも、地中竜から人間に姿を変えられた一人、春風 優太郎は抵抗を続けた。

 つい先ほど、ボルケーナが操る4足歩行の浮かぶ装甲車、マークスレイに負けた男だ。

「人間には実現できぬ! 岩盤を打ち抜く力! 」

 体力は前よりも落ちている。

「天空をゆく、大いなる翼! 翼の内から放つ炎で、音よりも早く飛べる! 」

 生体で作られたジェットエンジンも、元の姿を取り戻すことはできない。

「すべてを焼き尽くす炎! 」

 口から出るのは、もはや文句だけだ。

「すべて人間より優れている! なぜ、人間と話し合わねばならないのだ!? 人間に我らの問題にかかわる資格などないのだ!! 」

 それでも、無我夢中で足の戒めを引きちぎろうとする。

「ふざけるな! 我々は高貴な存在なのだ! 」

 

 この時ボルケーナ人間態は、「高貴って、神である私のおもちゃであるってこと? 」と言ってやろうと思った。

 だが、三種族がさらにパニックになりそうなのでやめた。

 

「おやめください。無理に抵抗せれば、新たな戒めを受けることになりますよ」

 騎士が一人だけ優太郎に話しかけ、近づく。

 先ほどと同じ、恐怖も怒りも感じていない声。

 その両手には、魔法火が連なった鎖を持っている。

 完全になめられていると、優太郎は悟った。

 もはや、足が千切れてもいい! とばかりに、足を激しく動かす!

 

「なら、仕方がありません」

 進み出た騎士の手の上で、何本もの鎖がひとりでに動きだした。

 やはりヘビのように床を滑ると、優太郎の足から、椅子に縛り付けながら体を登ってくる。

「やめろ! 」

 優太郎の心からの恐怖の叫びだった。

 決死の抵抗もむなしく、火の重さと硬さ。超常の力で椅子につかされる。

 叫びは鎖が空いた口を横切り、猿ぐつわとなるまで続いた。

「うぐっ! うぐっ! 」

 鎖に食いついてあがる唸り声。

 絶息しそうな泣き声に変わり、どこまでも響いていった。

 

 その様子を見ていた真志総理は、恐怖で神経がざわざわしてくるのを感じた。

 それでも、なさねばならぬことは考えていたから、立ち上がる。

「日本国内閣総理大臣、前藤 真志です。まずは、ちょっとしたカミングアウトを」

 そう言って、ダッフルコートの前を開き始めた。

 だが、彼の手には先ほど瓦礫を持った時にできた傷をかばう包帯が巻かれ、動かしにくい。

「おーい。腹を出させてくれ」

 すぐに「はい」と答え、コートのボタンを外したのは、3人いる公的秘書の一人だった。

「わたしは以前、フリーのジャーナリストをしていましてね、世界中で起こる戦場などで取材をしていました」

 真志総理が話す間も、秘書は慣れない手つきで背広、シャツもめくりあげ、腹をださせる。

「実は私も、異能力者なのです」

 真志総理の痩せた腹には、不自然なへこみがあった。

 腹全体が、不健康な痩せ方をしている。

「もう20年以上前になりますか。ユーゴスラビア紛争と言うのがありました。

 ユーゴスラビアと言う国家があって、国際的位置から『七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家』を持っていました。

 昔はチェ連と同じ社会主義国家のソビエト連邦と言う大国がありました。

 ユーゴスラビアはそのソビエト連邦の影響を受けつつ、距離置きつつ、独自の発展を遂げていきました。

 ですが、その後ソビエト連邦が崩壊しました。

 ユーゴスラビアにも、それまで不満を押さえこまれていた民族主義者が独立紛争を起こし始めたのです」

 次は振り向いて、背中を見せた。

 運よく背骨はそれていたが、そこにも痛々しいへこみがあった。 

「防弾チョッキは着ていましたが、一度弾が当たって古くなっていました。そこに銃撃されたのです。背中から前に貫通し、胃腸は衝撃でぼろぼろに、全て摘出することになりました」

 そう言って、服を着付け直してもらう。

「一命を取り留め、日本に帰ると、年老いた両親にもう海外へ行かないでくれ、と泣いて頼まれました。

 その後は国内でできる仕事を探したのです。

 そんなこともあり、この仕事を決めました」

 服が治ると、ツールボックスに座りなおした。

「この傷は不思議な傷なのです。何か嫌なことが起こりそうになると、痛みで教えてくれるのです。

 ですが、今は痛んでいません。あなた達は、脅威ではなく、友達になれるという事なのでしょうか」

 だが、スイッチア側からは何の反応もない。

「次は、あなた方のことを聴きたい。質問も受け付けますよ」

 

 真志総理は待った。

 しかし、聞こえるのは息を殺して泣く声と、ボルケーナの確認の声ばかりだ。

 彼にとって、こんなことは初めてだった。

 腹の傷と両親、そして総理への道の話は、地球では必ず人が耳を傾けてくれる。

 まず自分たちに興味を持ってもらい、お互い質問しあう。

 そんな中で、話しやすい精神状態に持っていくつもりだったのだが……。

(だが考えてみれば、私の腹レベルの傷など珍しくないのかもしれないな。

 だったら、誰も知らない物になら、興味をひかれるか? 例えば……)

「ボルケーナさん。改めて説明していただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか? 」

 真志総理の態度は、ツールボックスに座ったまま上半身だけを向けて話す、きわめて砕けた態度だった。

 それを見ただけで、三種族からどよめきが起こる。

 中には卒倒しそうなものもいる。

 イスに固定されていなければ、そうなっただろう。

 

「どうぞ」

 ボルケーナ人間態からの返事は、きわめて平坦だった。

 だが、その心の中には恨みの炎がめらめらと燃えているように感じられた。

「ありがとうございます。

 あなたが今、操作しているのは惑星規模の放送ネットワークですね」

「そうです。

 もうちょっと詳しく説明すると」

 世界地図に点滅する{ハサハンミ町}と書かれたアイコンを押した。

 小さなウインドウが開く。

 その端を一回押すと、ウインドウはディスプレー一杯に広がった。

 シェルターの天井付近を、ボルケーナの小さな分身である赤い宝石・マジックボイスが飛びまわっている。

 このマジックボイスが撮影した映像が、惑星中に送られている。

 

 世界地図だったディスプレーに映されたのは、ある住宅地のライブ映像だった。

 かなり高い位置から見下ろしている。

 碁盤の目の様に細かく区割りされた平野に、質素な住まいが車一台分の庭と共にならんでいる。

 その家の陰や道路から、小さな光が無数に飛びかかってくる!

「撮影と配信に使っているのは、私の分身の怪獣です。

 今撃ってきているのは、ハサハンミ町の地域防衛隊。

 装甲車両は無いです。

 武器は自動車に積んだ約60ミリ無反動砲や、約40ミリ自動グレネードランチャー。

 手にはボルボロス自動小銃。

 全部で59人。

 心配は、ご無用です」

 

 ライブ映像が揺れた。

 同時に、地滑りのような大きな音がする。

 一瞬空が写り、赤く、丸い物を映して止まった。

 丸い物には、大きな割れ目があった。

 割れ目のふちには、細長い突起がならぶ。

 

 丸い物は、ゴツゴツした岩のような皮膚で覆われた、怪獣の頭だった。

 割れ目は乱食い歯が並ぶ、巨大な口だ。

 その上についた、人間のような二つの目。

 その片方が、ウインクした。

 怪獣の自撮り。

 

「そこのあなた! ボルケーニウムは土に還るのが弱点だと言いましたね?! 」

 初めてボルケーナが、三種族の個人を指さした。

「は! はい! あの時の無礼は恥じ入るばかりで――」

 あの時の天上人は、怖さのあまり余計にしゃべっていく。

 ボルケーナは、その言葉にかぶせるように、大声で説明していく。

「わたしはそれを弱点だとは思っていません!!

 なぜならボルケーニウムの性質は、土に還る事と、土に埋まった天然資源をボルケーニウムに変えることだからです!!

 お恥ずかしながら、どうやって動いているかは私にも誰も分からなかったのですが!!

 ちなみに、今回の惑星全領域双方向報道は日本政府の依頼によるもので、1日に6400万円です!! 」

 ウインクした肉食恐竜怪獣態は、再び土砂崩れのような音を上げ、今度は空を映した。

 そこにあったのは、青空でも星空でもなかった。

 三日前に消え去ったはずの、灰色の成層圏エーロゾル。

 それが中心に輝く赤い光を浴びて、輝いている。

「二酸化流黄ガスも、例外ではありませんよ」

 赤い光から、同じ色の触手が何本も伸びる。

 触手の先は分裂を繰り返し、エーロゾルの雲を突き進む。

 ボルケーナ分身体が中心に居るのだ。

「成層圏に、8億トンありました。

 今自撮りした怪獣は全長50メートルの肉食恐竜型で体重2万トンぐらいだから、4万匹分になりますね」

 

 ディスプレーの中で成層圏エーロゾルはボルケーニウムに還られていく。

 触手を伝い、中心に集められる。

 やがて、成層圏エーロゾルはすっかり消え去り、星空が広がった。

 その中心に居るのは、巨大な翼をもった何か。

 ケーン! 一声鳴くと、それは羽ばたいた。

 鋭いくちばし。後頭部から伸びたトサカ。蝙蝠のような被膜に覆われた翼。

 真っ赤な翼竜だ。

 翼竜とは、恐竜時代に空を支配した爬虫類。

 今、ネックレスのように胸に下げるのは、ディスプレー。

 その羽が空気をとらえ、滑るように降下する。

 その先には、地域防衛隊!

「大丈夫。殺しはしません」

 地上をかすめた翼竜怪獣。

 それだけで突風が吹き、木々は揺らめき、土煙が舞う。

 その瞬間、銃火が激しく吹き荒れた!

 だが、翼竜怪獣は自撮り怪獣の頭上を悠々とかすめて飛び去った。

 去る瞬間、その硬そうなくちばしをグニャリと曲げた。

 突風の下で銃声が止むのを見て、満足して笑ったのだ。

 そして、はるかな山なみの彼方へ去っていく。

「先ほど、私の分身怪獣は4万匹と言いましたが、それではとても足りません。

 ヤンフス大陸の面積は約1兆5億平方キロ。

 それを4万で割っても、375万平方キロに1匹。

 地球で言えば欧州連合や、インドと同じくらいの広さに一匹なんですが、こちらではどうですか? 」

 真志総理は、この説明で天文学的という意味を再確認した。

 一瞬気が遠くなりかけたが、何とか耐え凌ぎ、スイッチア側に目を向ける。

 ……何も起こらない。

 彼らはただ、ディスプレーを見ているだけだった。

「ですから、この星みんなの協力が欲しいのです!

 ここで何が起こったかを皆で知り、皆で一斉に考える。

 それが成功に近づく道だと考えます! 」

 ボルケーナは、語気を強め、怒りをにじませながらそう言い切った。

 そして、足をわざとらしく踏み鳴らしながらディスプレーに向きなおる。

 

 真志総理は、この光景にこそ気が遠くなった。

 しかし、日本の最終決定をする者として、気持ちを切り替えなければならない。

(もう一度。質問をしてみよう)

「あの、火山から放たれたガスは8億トンとおっしゃいましたが、それは今どこに保管されているのですか?

 また、移送方法は? 」

 真志総理の質問に、ボルケーナは一瞬肩を震わせた。

 それでも、画面を切り替えた。

「移送にはスイッチアの太陽を利用しました。

 恒星は、高いエネルギーを持つ量子を放ちます」

 ボルケーナ人間態は振り向くと、手にボルケーニウムを集め、円盤状に固めた。

 まず、右手に持った真ん中がへこんだ凹面鏡のような物を示した。

「これがボルケーニウムミラー。

 量子の振動をそろえ、一点に集中させることでスイッチアへのポルタを作ります」

 左手に持つのは、平らな円盤。

「これがボルケーニウムフィルター。

 通した量子を超小型ブラックホールに変えます。

 変えた超小型ブラックホールはポルタを通してスイッチアの成層圏まで送り、火山ガスを吸い取ります」

「ハイ! 質問! 」

 総理の隣にいた男が手を上げた。

 真志総理のコートを脱がせた公的秘書だった。

「ミラーとフィルターとおっしゃいましたが、それでは光を通さないと思うのですが」

 そう、ボルケーナが示した物は、赤くて丸い板だ。

 それに対する答えは。

「もし100%光を通したら、スイッチアは焼け焦げますよ」

 説明を続けます。と言って、ミラーとフィルターは皮膚に戻した。

「回収したガスは、スイッチアの低軌道衛星として固めて置いてあります。

 怪獣はここから降下させています」

 灰色のモコモコした丸い物が、暗黒の空間に漂っているのが映し出された。

 

 真志総理は、再びスイッチア側を見た。

 変わらず、驚愕と不安が詰まった目でディスプレーを見ている。

(もしや……)

 彼の頭に、恐ろしい想像がよぎった。

(考える、質問する、意見する、だけではない。泣く、怒る、気が狂う。

 いずれを選べばいいのかも分からない、と考えているのではないか? )

 その時、魔術学園生徒会の方から、赤いガス状の物が流れてきた。

 ガス状の何かは、未だ黙して語らないマルマロス・イストリア書記長と、ヴラフォス・エピコス中将の頭を包み込んだ。

「おい! テレパシーで頭をのぞいても証拠とはならないぞ! テレパシスト以外の人間には証明できないから! 」

 真志総理の言葉に、落ち着いた声が返ってきた。

 そこにいたのは、金色の髪を頭の後ろできつく団子にしている、赤い瞳の小柄な女子高生だった。

 その透き通るような白い手から、あの赤いガスはわいていた。

「わたしはティッシー・泉井。これはテレパシーではありません。

 どんなわずかな可能性でも一つだけ100%に変える能力、スカラーブースターと言います」

 今までうつむいていたマルマロス書記長の黒い顔が勢いよく上がり、口を開き始めた。

「すると……あなた方が練習もなく、いっぺんで異能力による作戦を成功させたのは……」

 書記長の生気のない声に、ティッシーは自信たっぷりに答えた。

「そう、私のおかげです」

 

「地球人は……なぜ……軍隊ではなく……」

 顔をしかめさせ、喉からしぼりだすようにして、エピコス中将が話し出した。

「PP社と言う、民間企業に戦争を行わせるのですか……」

 やっと出た質問だ。真志総理が答える。

「我々としても、最も責任をともなう行為を彼らに押し付ける事に対して、心を痛めています。

 ですが、これはあなた方にとっても大変不愉快な話なのですが、人間と言う種族は、もともと異能力を使いにくい種族らしく、他の使いやすい種族からもっとも劣った種族と差別されやすいのです。

 しかも、私たちの地球は戦争が平均より多いらしく、その国家の評判はどこもどん底です。

 そのため、可能な限り中立な民間企業に任せた方がよい、という結論に達しました」

 

 マルマロス書記長も、質問を始めた。エピコス中将と同じ顔で。

「異世界に召喚される戦士が……、ほとんど子供なのは……、どうしてだと思いますか」

 真志総理は、それにもよどみなく答えた。

 何度も行い、行われた物を見て、慣れていたからだ。

「子供の方が力が弱く、言うことを利かせやすいからですよ。私も紛争地帯で兵士として使われているのを見ました」

 真志総理の顔が、うんざりした感情で歪む。

「子供でなくては使えない異能力もあるらしいですよ。そういうわけで英雄視されるのも理由でしょう。

 困ったことに、こちらが大人を交渉役として派遣しても全く話を聞かず、結局それ相応の能力と実績を持った子供を交渉役としなければならない事があるのです」

 静かな怒りが炎となって、口から噴出されたような声だ。

 

 ゴゴゴ ゴゴゴゴゴ

 

 突然、三種族の背後から重い鉄のこすれる音が響いた。

 そこには、市役所の掩蔽壕へ小型飛行機や戦車などを余裕で迎え入れる、巨大なシャッターがある。

 必死の形相で数人の自衛官が開けている。

 その向こうには、巨大な鉄の塊、10式戦車があった。

 魔法火の台に載せられた三種族は、戦車同士の隙間からさらに向こうを見た。

 まず、高い塀に囲まれた、市役所周りの広大な広場。

 ここには普段なら市民の憩いの場。子供向けの滑り台などの遊具もある。

 だが今のような場合は、貴重な市民の避難所になるはずだった。

 それが、いるのは自衛隊だけ。

 チェ連人達は、地球人を信じることはできなかったのだ。

 そして、広場の向こうは、真っ赤だった。

 フセン市が、燃えていた。

 市役所と同時期に作られた掩蔽壕状の建物も、歴史を感じさせる漆喰づくりのアパートも、石積みの高い塔を持つ城も、夕方の空の下で燃えていた。

 しかも、その火を放ったのは地域防衛隊。

 普段は他の仕事をしながら、有事の際は武器を持って戦う、地元の有志達。

 

「陸上自衛隊 東部方面隊 第1師団第1戦車大隊A中隊隊長。中倉 和彦一等陸尉です。

 総理! そしてこの星の御歴々! 報告をよろしいでしょうか!? 」

 地球人にとっては未知の存在である、三種族からの好奇や侮蔑の視線を受けても、全くひるむこともなく駆け込んでくる。

 三種族は自分たちの横を行く異能力が何もない人間に、自分達よりも多くの試練に打ち勝ってきた、英雄の雰囲気を感じた。

「総理はここです! 」

 真志総理が手をあげると、そこへ和彦一尉は走り寄った。

 そして直立不動の姿勢で敬礼し、報告を始めた。

「総理! 我が戦車中隊と、第34普通科連隊第1中隊は、レイドリフト・メタトロンの指導を受けつつ宇宙人居住区を偵察しておりましたが―」

 次の瞬間、彼は何かに気づき、後ろを振り向いた。

 そして、牢屋の中に座るチェ連高官達を見つけると。

 

 ガン!

 

 騎士たちを押しのけ、思い切り、その牢屋を蹴飛ばした。

「な、中倉君!? 」

 真志総理が狼狽した。そして、あのことに思い当たった。

 彼女なら、一人の人間に危険な行動をとらせることも、できるのではないか、と思ったのだ。

「泉井君!? 」

振り返った先には、あの色の白い少女が。彼女もうろたえていた。

「わたし、何もしていません! 」

 

 和彦一尉は、腰からP220 9mm拳銃を引き抜くと、檻の外から中の人間たちに銃を向けた。

「お前ら! 俺たちを担ごうってんじゃないだろうな!? 」

 すかさず、騎士や真志総理のSP達が飛び出した。

 SPが防弾繊維の入ったかばんで、銃口をふさぐ。

「やめろ! 交渉相手を殺す気か!? 」

 SPに止められ、和彦一尉も少し頭を冷やし、銃を戻した。

 だがこんな乱闘騒ぎでも、チェ連人の反応はうつろだ。

 それにさらに苛立った和彦一尉は、一気にまくしたてた。

「チェ連からの情報提供に基づき、宇宙人居住区に行きました。

 ですがそこにいた宇宙帝国軍は、装備も取り上げられ、すっかり戦意をなくしていた。

 そもそも宇宙帝国自体、とっくの昔に内戦で崩壊していたから、おかしいと思ったんです」

 我慢しきれず、和彦一尉はチェ連人に向き合った。

「その後この星に来たのは、ここに取り残された異星人を救うため、家族が送り込んだネゴシエーターや、国交を樹立するための外交官だった!

 あんたらは戦う意思も、能力もない彼らを、あの劣悪な環境に押し込めていた!

 武装ゲリラなんか、いなかったんだよ! 」

 


 
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