誰が言ったのだったか、
その言葉を聞いた時、多分不知火は意識朦朧としていたか、もしくは寝る寸前だったか、それ以外のことは全く覚えていない。そもそもそれを誰かの口から聴いたのかもわからない。ただ、情報としてひどく不鮮明に脳裏に焼き付いているだけだった。
その言葉自体には嫌なところもないし、多分好意的な言葉なのだろう。だから、それが頭をよぎっても不機嫌になることもない。ただ、誰が言ったのかがわからないことだけが、少しだけ不満である、といえる。
最も発言者である可能性が高そうな陽炎も、黒潮も舞風も、知らない様子だった。その通りだね、と笑顔で応えてくれたが、どうも彼女達の様子からは、それが彼女達のうちの誰かのオリジナルの言葉であるという風には見えなかった。であれば誰がそんな言葉をくれたのだろうか?
それはもう永久にわからないだろう、と半ば諦めている。ただ名も知れぬ顔もわからぬ誰かからの贈り物。そんな風に考えることに決めている。
何故急にそんなことを思い立ったのか。このしんしんと降る雪を一人で眺めていて、少しだけ寒くなったせいかもしれない。
静かで、穏やかで、真っ白で、綺麗な雪景色。でも、心まで停止しそうな静寂。
もう戻ろう。
火に当たって、温かい物でも飲もう。ああ、甘酒、飲みたいな。
***
こう寒いと、体を動かさないとやってられないなぁ。でも、外は雪雪雪。いつもなら誰かしら駆け回って遊んでたり、雪合戦してたり、賑やかなはずなのに、今日は何だってこんなにも静かなんだろう。静かと言えば、あたしの部屋も、いつにも増して静かだ。都合により、今朝、黒潮が荷物を持って他の部屋に移ったから。あーあ、狭い部屋のはずなのに、二人部屋に一人は広すぎる。何でなんだろう。十分に動き回るスペースもないのにね……。
さてさて、そろそろ会議は終わったのかなぁ。今日ここに残ってる人で、陽炎くらいしか相手してくれそうな人がいないんだけどなぁ。陽炎が忙しいのは知ってるし、あまり迷惑かけちゃいけないってのもわかるんだけど、こちとらそうもいかない事情があるからね、仕方ない。よし、行ってみよう。
そうと決まれば、着替え着替え! それ、ワン・ツー! よいしょっと! よし、布団から脱出成功。さっすがあたし!
えーと、会議は本部棟でやってるはずだけど、まずはそこから行ってみようかな。あ〜、傘持ってた方がいいかな?
それにしても降るなぁ。こんなの初めてだよね。
***
毎日毎日刻々と事態は変わるのに、何で同じことをこう何度も何度も繰り返さなきゃならないのかしら。
あーあー、もういくら説明してもわかりっこないのに。何でそうまでしてうちに干渉してくるのかしらね。そうまでしてイニシアチブ取りたいって? それで、私らが従順に従うと、本気で思ってるのかしらねぇ。やり方がまずくて反感買いまくってるのにすら気づいてないのに?
もううんざり通り越して笑えてくるわ。一層のこと大声で笑い飛ばしてやろうかしら! 笑って笑って、それから……、ふざけんな! って一喝! ……って、ダメか。さすがに司令の前ではねぇ……。
ま、いいか。どうやら私も切れそうになってたのが顔に出てたみたいだし、この際お役御免にしてもらおう。あとは大人な対応のできる皆さんに始末つけてもらえばいい。うん。そう考えたら、だいぶすっきりしたわね。世界ってすばらしい! よくできてる!
ああ、ちゃんと埋め合わせはさせてもらうわよ。別の形で。うん。そのへんはちゃんとしてるから。こう見えても責任を知る一番艦、陽炎型のネームシップだしね。
そうと決まれば帰ろう帰ろう。帰って温かいお風呂でゆっくりして、それから……って、何これ。めっちゃ降ってる……。あーあー、なんだかなぁ。
***
「あれ〜」
「おうおう、図ったように集まってきよったな」
「黒潮、何をしてるのですか?」
「見ての通りや」
「何これ? ストーブと、鍋? 何で屋外で?」
「この雪を見てたらなぁ。何故かやりたくなった。これじゃ、答えになってへん?」
「ふむ。まぁ、わかる」
「おおきに。さすがは陽炎や。ほら、あったまってるで」
「……甘酒ですか?」
「そ。ええやろ。雪見酒。まぁまだ昼やから、形だけ」
「いただきます。さすがは黒潮です」
「不知火も今日はえらく素直やな」
「不知火はいつも素直です」
「いつも素直、というか……、いや、なんでもないなんでもない。あたしも甘酒もらおっと!」
「陽炎もおつかれさん。ほれ」
「ああ、ありがとう」
「うん、あったまる」
「な、ええやろ?」
「うん」
「そうですね」
「よし、体温まったから雪合戦しよう!」
「「「それは却下!」」」
「えー」
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#陽炎型版深夜の真剣創作60分一本勝負
*開催日時→1月16日の23時〜0時 *お題→「雪」
珍しい大雪の日のちょっとした一コマを切り取りたかった。