今まで謎に包まれていた黄巾党
連合軍は黄巾党の詳細情報を入手しようと何度も斥候を放つが、誰一人情報を持ち帰る事が出来ず、陣に戻ってくるのも半数以下という有様だった。
このままでは連合軍と黄巾党の戦いは膠着すると思われたその時、黄巾党から脱出と偽って降伏してきた張三姉妹がもたらした情報でようやく黄巾党の実態を掴む事に成功。
この機を逃してはならんと、連合軍大将を務める曹操は全軍に出陣命令を下す。今まで小競り合いだけの戦いで鬱憤が溜まっていた曹操軍、孫策軍は弓(弦)から放たれた矢の如く吶喊する。特に曹操軍からは鬼気迫る雰囲気すら感じられていた
なぜ曹操軍が鬼気迫る戦いをしているのか……その理由は君主・曹操にあった。一度軍議が終了して陣に戻った直後の呼び出し、他人から試された事、そしてなにより『北郷一刀に女が抱きついていた事』がなぜか曹操をイラつかせていた
曹操軍の将達も、なぜ自分達の主があそこまで怒っているのか解らなかった。軍議に出席していた諸葛亮と龐統は試された出来事か?と推測するも、それだけだけでここまで怒るとは考え難い。ならば主君の機嫌が悪いのはなんなのか……それを考える前にまずは目の前の獣を駆逐し、少しでも機嫌を直してもらうのが先決だった
この怒れる主君を止められる人物は……曹操陣営では1人しか居ない、その人物は留守を守っているためこの場には居ない。ならば自分達が静めるしかない、これ以上機嫌を損ねたらどんな罰を受けるか……曹操軍の将兵は死に物狂いで黄巾党に攻勢を強めていた
曹操軍に負けるかと言わんばかりに孫策軍も君主・孫策自ら愛刀『南海覇王』を手に持ち縦横無尽に暴れ回っている。一刀の考えでは涼州軍も当初は攻め込み、敵陣を蹴散らす腹積もりでいたのだが、曹操軍・孫策軍の暴れっぷりを目の当たりにして急遽作戦を変更。ここは兵力を失わずに済む曹操・孫策軍の露払い、撃ち漏らした黄巾兵の掃討に乗り出した
涼州軍の将兵は一刀の指揮に従い、忠実に命令を実行する。加入当初は馬超に告白した及川のオマケ扱いの一刀だったが、指揮能力・内政向上に手腕を発揮した事で人民、兵達の心を掴んでいた。そして何より……苦労してばかりの一刀の事は城内では周知の事実。そんな一刀の心労を和らげるためにも、自分達が頑張らなければと……曹操軍とは別の理由だが、涼州軍の兵達は曹操軍に負けず劣らず奮起していた
黄巾兵は逃げ場は無いと察知したのか、破れかぶれの突撃を涼州軍に仕掛ける。もちろんそんな攻撃は一刀には通じず、万が一を想定して編成した遊撃隊を向かわせ、ほとんどの黄巾兵は返り討ちに仕留める。一部の攻勢を潜り抜けた黄巾兵が後方に控えていた張三姉妹を発見し、その身を奪おうと襲い掛かる
襲い掛かる兵士は10人程度、対する張三姉妹を護る者はたった1人。黄巾兵はニタニタした笑みを浮かべながら奪還が成功すると確信する
しかし、そんな黄巾兵の暴挙を一刀が見逃すハズがない。祖父から譲り受けた蜻蛉切を手に取り、黄巾兵目掛けて一閃。一刀が武器を手に取った瞬間、僅かに怯んだ隙を見逃さなかったのだ。腕は衰えているが雑兵如きに遅れは取らない
進入してきた黄巾兵をすべて排除したのを確認してから一刀は蜻蛉切をゆっくりと地に下ろす。そんな一刀の姿を間近で見ていた張三姉妹はポカーンと口を空けて固まっていた
「片付いたか……天和達怪我は無い?」
「ちぃは大丈夫よ、姉さんと人和は?」
「う、うん。お姉ちゃんは大丈夫だけど」
「私も問題なし。それにしても……あなた本当に”あの一刀さん?”」
「あのってのが引っかかるけど、俺は北郷一刀だって人和も確認しただろ?」
「人和が言いたいのはそういう事じゃないのよ」
「私も人和ちゃんが言いたい事解るよ。以前の一刀じゃ考えられないもの」
「作戦の立案、軍の総指揮、雑兵とはいえ10人を一瞬で片付ける武勇、どれを見ても以前の一刀さんからは想像出来ない姿だもの」
「……参考までに聞きたいんだけど、天和達が過ごしたって俺ってどんな感じだった?」
以前の一刀の印象……これは三者迷う素振りを見せず即答する
「女好きかな」
「種馬ね」
「甘い言葉で魏の人達を誑かしてた軟派種馬野郎ね」
上から天和、地和、人和の順番だったが、一番まともに聞こえるのが女好きって……どんな事をしていたのか、詳しく掘り下げたくなくなる一刀であった
「でも……曹操さんから絶大な信頼を得てたよ。女好きで有名だった曹操さんが唯一愛した男の子だもん」
「妥協を許さない曹操様に扱き使われたけど、それに応えて結果を出し続けていたのは確かね。本人は天の国の知識を活用してるだけであって、俺自身は平凡な学生だよっていうのが口癖だった」
(あの完璧人間である曹操に寄り添い、魏の将達に愛されて覇道を支えた……か。確かにこの時代には無い知識や考え方を導入したら覇権に大きく近づく……でも、この時代の人間は保守的が大半、曹操に拾われたのが転機だったのかもしれないな)
「北郷様、曹操軍及び孫策軍が敵中央を突破しました、そのまま砦に立て篭もる黄巾党を包囲するとの連絡が入りました」
「速いな、流石曹操軍、孫策軍と言うべきか。我が軍の損害はどうだ」
「重傷者が何人か出てしまいましたが、命に別状はありません。怪我人はすぐに医師の下に運び、治療を受けております。動ける者は約8割かと」
「8割か……予想以上に奴らの抵抗が激しかったか。怪我人には無理すな、今はゆっくり休めと伝えろ。それと、明命をここに呼んでくれ」
「はっ!」
「一刀、これからどう動くの?」
「曹孫軍と連動して砦の包囲に参加する。念の為にもう一度聞いておくけど、あそこに残っているのは勝手に集まってきた賊だけか?」
「私達の護衛をしてくれてた人達はこっそりと故郷に返しているから、あそこに居るのは野盗の集まりよ」
「確かに太平要術は奴らに渡されたけど、お姉ちゃん達は以前と違って、太平要術の書を悪用したりしてないもん」
「そうそう、ちょっと一刀を探す為に利用させてもらっただけよ」
(それをだけと言っていいものか解らないけど、思った以上に三姉妹は逞しいな。扇動もしてないって言うし、このまま匿い続けても悪影響にはならないだろう)
「一刀さん、お呼びですかー?」
「疲れてるところを呼び出して悪いね、明命に重要な任務を任せたいんだ」
「解りました!お任せ下さい!」
「待て待て!まだ何も言ってないから!」
まだ何も言ってないのだが、明命はやる気満々の表情で本陣を飛び出そうとするのを慌てて引き止める。
「すみません、重要な任務と聞いて、つい先走ってしまいました!」
「明命を追いかけるのも楽じゃないんだから、ちゃんと聞いてから動いてくれ。明命にはこれから奴らが立て篭もる砦に潜伏してもらう、連合軍が砦に攻め入れば、きっと火攻めを行うハズだ。曹操、孫策軍が火を持ちいらなければ、俺たちが火攻めを行う。火の手が上がったらこの本に火を付けて焼き払って欲しい。それと、すべて焼けるのを確認してから引き上げてくれ、少しでも持ち去られるのを防ぎたい」
一刀が明命に託したのは、曹操が探し求めている太平要術の書。書の危険性を誰よりも知っている天和達は、書を一刀に渡し処分する機会を委ねていたのだ。曹操軍も見つけ次第処分する考えを見せているが、会って間もない勢力を信頼するのは危険と判断し、一刀達で処分すると心に決めていた
「任務の詳細は解りました、砦の見取り図などないでしょうか。流石に前情報無しで進入すると、発見される可能性が高くなってしまいます」
「その辺りの考慮してるよ、これが人和に砦内を教えてもらって書いた見取り図だ」
一刀が懐から出して明命に見せたのは、連合軍が総攻撃を開始する前に、人和に砦内の様子を逐一教えて貰いながら一刀が製作した見取り図だ。そこには大部屋小部屋はもちろんの事、配置されている人数も詳細に書き込まれていた。
一刀が間違えて描いた所、記憶と誤差がある部分はすぐに人和が指摘したうえで修正しているので、これさえ覚えれば完璧なのだ
「人数の詳細については、多少変動はあるかもしれないけど、残っている奴らに能力の高い者は居ないわ。だから私達が指示した持ち場から動かないはずよ」
「でも、いま黄巾党を支配している馬元義達3人なら配置を変えたりしそうだと思いますけど」
「それについても、既に手を打ってあるわ。馬元義、張曼成、趙弘は私達を担ぎ上げて黄巾党をここまで大きな勢力にまで仕立て上げた。それを奴らは自分達の力だと思ってるみたいだけど、私達にいい所を見せて近づきたいって思う人が大勢居た、そしてその連中が暴れてたからここまで大きくなったのよ」
「ちぃ達は可愛いんだから、躾のなってない獣が暴れだしちゃうのは当然よね」
「そうだよね~お姉ちゃんは”ただ捕らえられていた”だけだもんね~悪い事なんて何もしてないも~ん」
「その私達が”ここの護りを頑張る人はカッコイイ”と言えば……馬元義達の移動命令と、私達の励まし、どっちを選ぶかなんて答え合わせするだけ時間の無駄よ」
堂々で開き直るのもどうかと思うが、確かに三姉妹は何か唆したわけでもなく、手を出したわけでもない。連中が勝手に暴走しただけ、自分達は関係無いと言い張ってるのだ。天和と地和はそれを素で言っていて、人和は計算していたと違いはある。
人によっては、無自覚でも連中を制御する事が出来ないなら同罪よっと言いそうだが
「お三方とも凄いです!そんな簡単に黄巾党の人心を手玉に取るなんて尊敬します!それに、こんな風に策を仕込む事が出来るのは一刀さんだけだったので、味方で心強いです!」
明命は純粋に人和を凄いと思っていた。天和や地和の無自覚で掌握する事も凄いともちろん思っているが、ここまで内部に手回しをする手練手管にビックリしていたのだ
「この程度なら私じゃなくても、軍師と呼ばれる人達ならあっさりやり遂げるわよ。涼州軍にも軍師は居るんでしょ?」
人和の問いかけに、一刀と明命はサっと顔を背ける。確かに軍師の職に就いてる一刀が居るため、軍師は居る事には居るのだ……人和の想像しているそうな軍師は在籍していない。人和は先程、軍を指揮する一刀の姿を見ていたが、一刀の事は都督(軍司令官)だと思っており、軍師は別に存在するだろうと考えての発言だったのだが……
一刀と明命が気まずそうに顔をそっぽに向けたのを見て、まさか……と何かを察したようだ
「もしかして……涼州軍に……軍師って居ないの?」
人和の言い当てられ、一刀と明命の顔からは汗がダラダラ出ていた。もはやその表情が答えだと言っているように
「え?ここって荀彧さん、郭嘉さん、程昱さんみたいな人達いないの?」
「郭嘉は孫策陣営に居るから仕方ないけど、誰か1人ぐらいなら居るんじゃないの?一刀も未来から来たんだし、その辺りの力量も知ってるハズだもん」
「そうだよね~能力を知ってて、女の子が多いこの大陸で、一刀が口説きに行かないハズがないもんね!」
「一刀さん……正直に答えて下さい。涼州軍の”軍師”は誰ですか」
「……俺です」
「嘘!?なんで一刀が軍師やってるの!?郭嘉、諸葛亮、龐統は取られてるみたいだけど、他にも候補なんていっぱいいるじゃない!あんたバカなの!?」
グサ!と一刀の心に何かが刺さったような音が聞こえると同時に、一刀は膝から崩れ落ちた。確かに三國志をやり込んでた一刀にとって、ここは憧れたの存在に出会える世界。それこそ曹操に負けず劣らずの人材コレクターになってもおかしくはないのだが……
涼州の内政面を任し、目的の人物を捜しに行く余裕など……一刀にはないのだ
「ちょっと待って、涼州軍の主な人物を言ってもらえるかしら」
一刀は涼州軍の主力である、及川 翠 鶸 蒼 蒲公英 明命 香風 華侖 シャオの名を上げる。曹操の下で、荀彧、郭嘉、程昱の3軍師の実力を肌で感じていた人和はこの答えに驚愕した。
一部聞いた事の無い名の将の特徴も教えてもらったが……すべて武のみの将軍型しか居ない。多少内政面を手伝える将は居るみたいだが、智謀の士が1人も居ないのだから
「呆れた……そんなんでよく国を維持出来るわね」
「一刀さんを舐めないで下さい!一刀さんは凄いんですよ!」
明命は聞かれてもいないのに、女好きの友人の暴走、翠にいきなりの告白、溜まりに溜まった書類の処理、孫家の三女の来襲、三女と翠の衝突の緩和、朝廷の使者である大将軍に対する対応、民から上がってくる陳情や民の生活を直に見るために街の視察。財政予算組みや、今回の遠征にかかる費用の捻出、兵馬の兵糧や薬などの調達、その他諸々
の出来事を包み隠さずすべて三姉妹に伝える。
これを聞いた三姉妹は誰も声を出す事が出来なかった……かつて自分達を保護した完璧t人間、曹操ですらここまで働いていなかったいうのに、一刀はずっと1人でやっているのだ……
「最初は大変だったけど、今じゃ慣れたもんだよ。民の笑顔を見れば疲れも吹っ飛んでいくからな」
度重なる負荷を1人で背負いすぎたために……一刀はどこか感覚が麻痺しているのかもしれない。そしてこれ以上放置すれば……必ず壊れると三姉妹は確信する
「長話しちゃったな、明命は地図に印を付けた場所に潜んでくれ。人数は多少増減があるかもしれない、それを念頭に置いて行動してくれ。それと、くれぐれも曹操軍にだけは見つかるな」
「了解です!では、行ってきます!」
「俺も少し戦況を観察してくる、すぐ戻ってくるからここで待っていてくれ」
一刀は幕舎の外に護衛を数名配置し、戦況を見極めるために戦場に身を投じる。
明命も固まっている三姉妹に一礼し、明命は音を立てずに素早く幕舎を飛び出し黄巾党の立て篭もる砦に走り出す。
三姉妹が硬直から解けたのは、一刀と明命が出て行ってからしばらくたってからだった
「あはは……一刀の生活凄かったね」
「凄いなんてものじゃないわよ!このまま働いてたら確実に一刀倒れるわよ!」
「ちぃ姉さんの言う通りね、以前の一刀さんは良く仕事をサボってたけど、ここに居る一刀さんは真面目すぎ。一刀さんの性格もあるかもしれないけど、一刀さんを支える人材が居ないのが一番の問題ね」
「え~と、そうしたらお姉ちゃんとちぃちゃんが民の娯楽になるように公演しよっか」
「つまりみんなちぃの魅力で虜にすればいいんでしょ?そんなの簡単よ!」
「天和姉さんとちぃ姉さんが公演なら、私は一刀さんの補佐に入るわ。これでも事務所経営で書類を捌いていた自負があるから」
なんとか一刀の負担を減らそうと、姉妹で役割を割り振り動く事が決定した。やっと会う事が出来た一刀を疲労の蓄積なんて理由で失うわけにはいかないのだ。
曹操、孫策軍と連携して砦を包囲する涼州軍の面々は一度全員集合していた。一刀が総攻撃開始前に、砦を包囲したら一度全員集まれと指示を出していたからだ。理由はその時になったら話すとしか聞かされてない諸将は何事だろうかと、疑問を浮かべていた。そんな疑問を浮かべている諸将の輪にひょっこり一刀が現れる
「みんなお疲れ、怪我は負ってないか?」
「心配性やな~かずぴー!ここに居るみんなは武で鳴らす猛者だらけや、みんなピンピンしてるで」
一刀は及川の言葉に『そうだな……』と同意する形で、この場に集まった諸将を見渡す。その時に、ピンピンってなんかエロくない?とバカ発言する及川を無視するのはいつもの流れ。そして放置プレイを喰らっても喜べる辺り、洗練された変態さんの及川だった
「お兄ちゃん、なんでシャン達を集めたの?」
「そうだぜ、このままじゃあ曹操軍や孫策軍の連中に手柄を全部持っていかれちまうよ」
この場に控えているのは、脳筋と呼べる猪武者ばかり。戦いの続きをしたいと体がウズウズしているのだろう。少しは落ち着いて欲しいと、一刀は苦笑いを浮かべるも、暴れだす前に話しを進めだす
「俺がこの場にみんなを集めたのは2つの理由があるんだ。1つ目は、明命に極秘の任務を与えている。これは曹操軍にバレないようにする必要がある」
「ん?バレないようにするのは曹操軍だけでいいのか?」
「孫策軍の総大将である孫策、軍師である周瑜、郭嘉と一刀殿は懇意にしていると聞く、ならば孫策軍にバレても問題ないと踏んだのでしょう」
「確かに雪蓮姉様なら面白がって見逃してくれるかも、ダメそうならシャオから頼めばいい事だしね!」
「星とシャオの言う通りだ。孫策さんなら面白がって見逃してくれると思うが、曹操はそう上手くいかないからね。だから情報は漏れないように黙ってたんだ、明命が動き出すその時までね」
「そんで、その任務の内容は教えてもらえるのか?」
「曹操軍が黄巾党を狩り続けている理由は覚えているか?」
「あぁ、屋敷から盗み出された太平なんちゃらって書を探してるんだろ?」
「そう、あの書はこの世に存在してはならない物、妖書と呼ぶべきかな?曹操もそれが俗物に渡った時の恐ろしさを理解しているから封印していたんだ。そして張三姉妹を説明するために、各陣営の首脳を集めた軍議を行い、見つけ次第確実に処分するように閣議が決定したんだ。そしてその書は俺たちの手にある」
「なるほど……かずぴーは秘密裏に太平要術の書を処分したい、太平要術の書が存在すれば、また同じような騒動が起きるわけや。そしてその書を処分するために、明命ちゃんを使っとるんやろ?」
前にも思ったが、なんでここまで推理出来るなら勉強を叩き込んで、強制的に俺の補佐に就けるか?涼州に帰ったら検討してみるか?
「及川に補足を入れると、明命は既に砦に潜入して合図を待っている状況だ。その合図とは、連合軍が砦に火を放つ事だ。火の勢いに乗じて確実に書を焼き払うんだ」
「それは解ったけど、シャオ達は何をすればいいの?」
「明命とは別に間者も砦内に潜伏させてる、俺が合図を送れば城門を開く手筈になっている。開いたらすぐに砦内に進入し、各地に火を放って欲しい。敵兵との戦闘は後回しで大丈夫だ」
一刀の説明に納得したのか、控えている諸将は静かに頷く。実際に書を見た事が無い翠達はなぜここまで太平要術の書を怖れるのか解らないが、一刀の雰囲気で相当ヤバイ品物だと云うのは察する事が出来た
「質問が無いようだから2つ目の内容に移らせてもらう。2つ目は曹操軍の攻城戦の仕方を目に焼き付けろ。戦術、用兵等盗める所はどんどん盗むんだ。そうしないと……曹操軍との戦力差は開き続く一方になる」
一刀が太平要術の書より恐れる存在、上党の壺関攻略後から共闘している曹操軍の強さだ。味方であれば心強い存在だが、敵に回せばこれほど恐ろしい存在はいないだろう。
しかも、曹操軍はまだ戦力を隠し持ってる素振りを見せている。今のうちから曹操軍の研究を重ねないと勝ち目はほぼ無いと見ている
「曹操軍が強大なのは知っているけどよ、そんなすぐに敵対するわけじゃないんだし、焦りすぎじゃないか?」
「馬超殿、油断は禁物、万事備えあれば憂いなしですぞ。特に野心の塊である曹操殿相手に楽観視するのはいささか危険すぎる。何か大陸が乱れるきっかけが起これば、かの者は必ず牙を剥くでしょう」
楽観視する翠の意見を星は真っ向から否定する。星も曹操という人物を甘く見ることはない、むしろ一刀同様に曹操の事を警戒しているのだ。
涼州軍は孫策軍、大将軍の公孫讃とも親しく付き合ってる。いざとなっても大丈夫だろうと、翠同様の考えを持っていた香風やシャオも、一刀と星の言葉を聞いて考えを改める。そして理解した、曹操軍は必ず自分達を潰しに侵略してくるのだと……
「そうだよな……盟主である私がこんなに楽観視した態度してたらダメだよな。盟主ならばいついかなる時でも、外敵に備えて行動しないといけないのに……」
「せやせや、翠ちゃんは能天気な面が強すぎるで、ホンマに。そんな所も翠ちゃんの魅力やけどな」
魅力の単語を聞いて、顔を茹蛸みたく真っ赤にしている翠と、無駄に良い笑顔でサムズアップしている及川、良い雰囲気に割って入るシャオの夫婦漫才が始まるが、これまた触れずにスルーする一刀。
いつもの明るい一刀と違い、若干切羽詰ったようにピリピリした感じを出していた
「お兄ちゃん、顔が怖いよ?力抜いて……ね?」
香風が大丈夫、落ち着いて?と一刀の手をぎゅっと握る。普段はぬぼ~としている香風だが、一刀の心の変化を見抜いての行動だった
一刀は香風の行動に驚いた表情を浮かべるが、香風が握ってくれている手から温もりを感じ、焦る心を落ち着かせる事が出来た
「ありがとな、香風のお陰でなんとか落ち着けたよ」
「ん、お兄ちゃんがいつも通りに戻ってシャンも安心した」
一刀はお礼にと、香風の頭をぽんぽんと軽く当ててからゆっくりと撫で始める
「それにしても一刀、なんで険しい表情をしてたの?」
「それは……なんでもない、少し考えすぎてただけ」
一刀の悩み……それは曹操軍との涼州軍の戦力、実力差を肌で感じていたのだ。張三姉妹をこちらで保護するためとはいえ、曹操本人に吹っかけてしまった以上、将来的の敵対は免れない。黙って滅ぼされるわけにはいかない、ならば戦って勝つしかないのだが……
どんなに頭を捻っても、曹操・伏龍・鳳雛を相手に勝利をもぎ取るビジョンが見えてこないのだ
「本当に……なんとかしないとな」
「ん?いま何か言ったか?」
小声で呟くように言った一言は翠達には聞こえなかったようで、何も言ってないとその場を誤魔化す。これ以上不安を煽ってもいい結果に繋がらない判断したのだ。
「さて、曹操軍と孫策軍がいい感じで砦を攻撃してるし……そろそろだな。お前達、手筈通りに狼煙を上げろ!」
「御意!」
「翠達もさっき言った通りに進軍してくれ、俺たちの目的は太平要術の書を焼却処分にする事と、明命を含む潜入している味方の救出だ、それだけは忘れないでくれ」
「「「「おう!!」」」」
翠を先頭に及川、香風、シャオは一刀の策略通り開かれた砦内に侵攻、襲い掛かってくる黄巾兵の相手は兵士に任せ、所構わず火を放ち続ける。
砦の外からは連合軍の激しい攻勢、砦内からは激しい業火、これにはかろうじて戦っていた黄巾兵は戦意喪失、蜘蛛の子を散らすように逃げ出しはじめた。
曹操、孫策連合軍は後顧の憂いを断つために、逃げ延びようとする黄巾党すべてを討つまで……攻撃の手を休める事はなかった……
こうして、中国史最大級と言われる農民反乱、黄巾党は大陸から姿を消した
しかし、黄巾党の出現は漢王朝の衰退を象徴する出来事であり、群雄割拠の時代へと続く幕開けでもあるのだ
一刀は1つ目の山場を乗り越えた事に安堵するも、新たな戦いに備え動き出す
11話目で黄巾党終らせることが出来ました、前作は旅編が長すぎて黄巾党に入るのがかなり後になってましたが今回のはここで終了です。
台本形式の名前を外してみたんですけど、名前有りと無しどっちが解りやすいかな?
もし名前あった方がよければ付け足しますー
一刀の苦労を感じ取って人和が一刀の補佐、天和と地和が治安維持などに力を注ぐようになりますので、次回の12話から一刀の苦労は軽減されます!やったね一刀!
将の配置も結構固まってきたのですが……どうしても前作と配置が被っちゃうので悩みどころです……一刀陣営に恋姫キャラを配置しすぎて困ってるだけなんですけどね!
さて、次回は連合軍は解散し涼州へ帰還を果たします
次回タイトル 馬三姉妹VS張三姉妹
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2週間ぶりになっちゃいましたが、黄巾党編終了です
12話リンクは→http://www.tinami.com/view/848542