No.824295

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・二話

月千一夜さん

改訂版、一章の二話です
よろしくお願いします

2016-01-10 23:23:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2420   閲覧ユーザー数:2188

助けたいと思った

手を差し伸べてあげたいと思った

 

自分はいつだって、助けられてばかりだったから

差し伸べられてばかりだったから

 

だから、今度は・・・

 

 

『妾が・・・』

 

今度は、助けてあげたいと

 

そう思ったから・・・

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 第二話【似ているから】

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「“記憶喪失”?」

 

 

質素な造りの部屋の中

銀髪の女性の声が響く

その声に対し、目の前にいる青髪の女性は頷いていた

 

 

「そうですねぇ・・・現状、そう考えるのが一番でしょう

本人も、“一刀”という名前以外は覚えていないようですし」

 

「うぅむ、そうか・・・」

 

 

その言葉に、銀髪の女性は腕を組み溜め息を吐きだす

それから窓の向こう・・・青空を見つめ、フッと苦笑を浮かべた

 

 

「記憶喪失・・・か

しかし、本当にそれだけなのだろうか?」

 

「と、いうと?」

 

「お前も、聞いていただろう?

アイツが言ったことを・・・」

 

 

言われ、彼女は思いだす

あの時・・・彼が呟いた言葉を

 

 

 

 

 

『“怒る”って・・・なんだ?』

 

 

 

 

 

「なったことがないから、よくわからないが

記憶喪失とは、あそこまで酷くなるようなものなのか?

あれでは、記憶どころか・・・」

 

「“感情”までもが、消えてしまっておるようじゃ・・・」

 

「“祭”・・・」

 

 

ふいに、響いてきた声

2人が向けた視線の先・・・一人の妙齢の女性が、部屋の入口に立っていた

その手には、食料の入った袋が持たれている

 

 

「あやつの“眼”を見た時・・・儂は思わず身震いしてしまった

光りのない、その瞳を見た瞬間にな」

 

 

そう言われ、銀髪の女性は眉を顰める

彼女もそうだったからだ

あの時・・・彼の瞳を見た瞬間

彼女もまた、知らずのうちに身震いしていたのだ

 

 

「そうだな・・・あんな目は、初めて見た」

 

「うむ」

 

 

頷き、女性は部屋の中へと入ってくる

それから食料の入った袋を机の上に置き、フッと微笑みを浮かべた

 

 

「とりあえず、買い物ついでに“白蘭”のもとへ行ってきた

そこで聞いた話じゃが、どうやら近いうちにまた“華佗”がここへ来るようじゃ

詳しくは、その時にでも聞けばよいじゃろう」

 

「華佗さんが?」

 

 

“うむ”と、女性は頷く

それを見て、青髪の女性はしばらく顎に手を当て・・・ふぅと息を吐きだした

 

 

「まぁ、“美羽様”も懐いちゃってますからねぇ・・・仕方ありません

しばらくは、ここで様子をみましょう」

 

「そういえば、美羽は何処へ行ったのじゃ?」

 

「ああ、美羽様なら・・・」

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「どうじゃ、一刀

気持よいかえ?」

 

「・・・?」

 

 

日の光りが差し込む部屋の中

少女の言葉に、一刀は答えることなくいつものように首を傾げていた

そんな彼の様子に、少女は苦笑したのち再び手を動かす

 

現在、美羽は一刀の髪を櫛で梳かしていた

一刀の髪はとても長く、しばらく眠っていたためにボサボサのまま

それを見て彼女は、このままでは勿体ないと思ったのだ

そうして思いついたのが、髪を梳くということだった

普段からやってもらっているから、自分にだってできるはず

そう思い、彼女は部屋にあった櫛を使い彼の髪を梳き始めたのだ

 

 

 

「うむ、こんなもんじゃろう♪」

 

「・・・」

 

 

それからしばらくして、美羽は満足げに頷きながら言った

一刀の髪は先ほどまでとは見違えるほどに、サラサラと綺麗に整えられている

彼はそんな自身の髪を、不思議そうに触っていた

 

 

「しかし、一刀は髪が長いのう」

 

 

呟き、美羽は一刀の髪に触れる

一刀はその瞬間僅かに目を細めるが、美羽は気付かずに彼の髪を触っていた

 

 

「いったい、どれほどの間伸ばしていたのじゃ?」

 

「・・・?」

 

 

美羽の問いかけ

一刀は、それに答えることが出来ない

“無理もない”

そう思い、美羽は“すまん”と苦笑しながら謝った

つい先ほど、彼女は共に住む女性・・・“七乃”から、彼についての話を聞いていたからだ

 

“記憶喪失”

 

彼女は、そうじゃないかと言っていた

美羽はその名を、何となくだがしっていた

だがしかし、実際になった人を見たことはない

 

彼・・・一刀に会うまでは

 

 

 

「一刀よ・・・どうじゃ?

何か、思い出せそうかえ?」

 

「・・・」

 

 

その一言に、彼は首を横に振った

そもそも、美羽が何を言ったのかよくわかっていないようだ

彼はそれを示すかのように、すぐに小さな声で呟く

 

 

「思い出すって・・・何を?」

 

「・・・っ!」

 

 

その言葉に、美羽は大きく体を震わせた

だがすぐに、首をブンブンと振り笑顔を見せる

 

 

「だ、大丈夫なのじゃ!

すぐに、すぐに良くなるのじゃ!」

 

 

言って、彼女は彼の頭を撫でる

 

“似ている”

 

彼の頭を撫でながら、彼女は思う

“自分”と似ているのだ

あの日・・・“全てを失った日”

何もできないまま、ただ誰かに頼り生きてきた

“何もできなかった自分”と

彼女は、そう思ったのだ

だからなのかもしれない

一刀のことを見た時に、彼女は他人のようには思えなかったのだ

 

 

「大丈夫じゃ」

 

 

呟き、彼女はそっと彼の体を抱きしめる

その行動に彼は一瞬目を見開いたが、またすぐにいつもの無表情に戻った

 

 

「今度は、妾が助ける番じゃ」

 

 

そんな中、聴こえたのは美羽の声

優しく、温かな声

その声を聞き、彼はハッと・・・再び目を見開いた

視線の先

彼女の長く美しい“金色の髪”が、フワリと揺れていた

 

 

「ぁ・・・」

 

 

無意識のうちに、漏れ出たのは“彼”の声だった

一刀はそっと、その髪に触れる

 

瞬間・・・

 

 

 

 

『恨んでやるから・・・』

 

 

 

 

 

 

「ぅ・・・」

 

 

声が、聴こえた

 

美羽のじゃない

自分のでもない

誰のかもわからない

 

だけど・・・“聞いたことのある声”

 

 

「■■・・・」

 

 

それが誰の声だったのかを思い出し・・・彼は、また“忘れた”

 

その姿も

その声も

自分がたった今呟いた“名前”も

 

 

彼は・・・全て忘れてしまったのだ

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

『違うよ・・・』

 

 

頭の中、声が響いた

その声が誰の者かと考えて・・・彼はすぐに思いだす

 

この声は■■のものだ、と

 

 

『思い出すんじゃない・・・それじゃ、違うんだよ』

 

 

瞬間、彼の目の前に一人の少年が見えた

あの夢の中

最後に出会った少年の姿が・・・

 

 

『まだ、“足りていない”からね』

 

 

足りていない?

いったい・・・何が

 

 

『大丈夫

言ったろ・・・繋がってるって

今は確かに、バラバラかもしれない』

 

 

“けど・・・”

光りが、溢れ出した

彼の目の前に

そして、少年の体の周りに

 

 

 

『きっと、また会える

だから・・・今は、信じてくれ』

 

 

 

その瞬間、辺りは真っ白になっていく

それと合わせるよう、消えていく少年の体

 

“待って!”

 

彼は、手を伸ばす

しかし、その手は虚しく空を切った

 

 

 

『俺も・・・信じてるから』

 

 

 

最後・・・彼の視界が、光で覆われる直前

聞こえた声

 

その声を最後に、彼は自身の意識を手離していった

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「ん・・・?」

 

「お、目を覚ましたようだな」

 

 

目を開けた瞬間、聞こえた声

彼はモゾモゾと寝台から体を起こし、視線をそちらへとうつした

 

そこには・・・美羽を含む、四人の女性の姿があった

彼は状況がわからないのか、無表情のまま首を傾げる

 

 

「今は夕方・・・お主は先ほど、美羽に抱かれたまま眠っていたのじゃよ

恐らく、疲れていたのじゃろう」

 

 

言いながら、彼を見て笑うのは妙齢の女性だ

彼女はそのまま、彼の頭をポンと撫でた

 

 

「儂は“祭”という

お主は、一刀でよかったんじゃよな?」

 

「・・・多分」

 

 

その言葉に“そうかそうか”と、祭は大声で笑っていた

 

 

「私は“夕”と、そう呼んでくれ」

 

 

次に彼の傍に歩み寄ったのは、銀髪の女性だ

彼女は名乗ると、軽く笑って見せた

が、彼は無表情のままだ

“仕方ないよな”と、彼女は苦笑していた

 

 

「私は美羽様のお世話をしています、七乃といいます~」

 

 

そんな彼女の横から、スッと現れたのは青髪の女性だった

七乃と名のった彼女は、そのまま彼の手を取りニッコリと微笑む

 

 

「さて、とりあえず一刀さん

貴方は、何も覚えていないんですね?」

 

「・・・?」

 

「・・・あ~、はい

これは私たちが思ってるよりも酷いかもしれませんね~」

 

「そうじゃのう

尚更、華佗に診せるべきじゃろう」

 

「うむ

その通りだ」

 

 

“ですよね~”と、七乃は苦笑を浮かべる

それから彼女はコホンと咳払いを一つし、彼のことをビッと指さした

そのことに一瞬驚く彼だが、そのようなこと気にせずに彼女は話をはじめた

 

 

「華佗さんが来るまで、ひとまず一刀さんのことは私たちが保護します」

 

「・・・?」

 

「あ、えっと・・・ようするに、一緒にここで暮らしましょうということです」

 

「?」

 

「いや、そこで私を見られてもな」

 

 

七乃の言葉

一刀は意味がよくわからないのか、無表情のまま夕を見つめた

そんな彼に対し、夕は苦笑いを浮かべている

 

 

「大丈夫じゃ!

一刀が元気になるまで、妾達が面倒を見るのじゃ!」

 

 

そんな空気の中、笑顔のまま一刀に抱きついたのは美羽だった

その光景に、祭たちは笑顔を浮かべる

ただ一人・・・“一刀”だけは、無表情のままだった

 

 

「■■・・・」

 

 

そのまま、ポツリと呟いた言葉

彼は、それをすぐに忘れ・・・スッと窓を見つめた

 

青かった空は、すでに朱色に染まっている

その空を見つめたまま、彼は再び声を漏らした

 

 

「行かなくちゃ・・・」

 

“何処に?”

 

呟いた瞬間に、彼はそう疑問に思う

だがしかし、答えは出てこない

ただ漠然と・・・行かなくてはと、そう思ったのだ

 

 

「待ってる・・・?」

 

 

“誰が?”

 

そこまで考えて、彼は思考を止めた

無駄なことだと、そう思ったのだろうか

本人も無自覚のうちに、考えることを止めていたのだ

 

『大丈夫』

 

その瞬間・・・彼は、聞き覚えのある声に目を細めた

 

“大丈夫”

 

その言葉に、確かな安心感を抱きながら・・・


 
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