No.823366

リリカル東方恋姫外伝 GetBackers編

 今年はじめの投稿で~す。

 今年もよろしk――


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2016-01-06 16:37:36 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3842   閲覧ユーザー数:3782

 

 東京都新宿区。

 季節は九月末の秋。

 すこし寒気を感じる季節で、北郷一刀は上機嫌で繁華街を歩いていた。

 

「いや~人様のために働くのってすがすがしーな~。おかげで懐も厚いし、やっぱ日常が一番。平和が安全に儲かる♪ うんうん♪」

 

 今になって悟ったよ、という顔で頷き、懐に入れている財布の重みに笑みをこぼしていた。

 なぜ、彼がこんなにも、幸福気分なのか?

 通常、彼が受ける依頼は大抵、世界を救えという勇者か救世主ほどの重たぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい内容ばかり。

 それが、ここ最近の依頼は、新宿のホテルのレストランの臨時コックをはじめ、新宿のファッションブランド店の新作ブランドの展示のデザイナー、新宿の人気アイドル事務所のカメラマンなどなど、

 しかも、連日で新宿の有名店などの仕事をほとんどやって。

 そのおかげか、新宿の高級店の仕事ばかりなので収入金がとんでもない額となっていた。

 もはや、財布も口座も有頂天状態の有様。これを本家の何でも屋が知れば、冷酷無情の皮を被って獣のごとく一刀の幸せを蹂躙するだろう。むしろ、懐目当てで、集るに違いない(そして強制的に奢らせられる)。

 こうやって、まじめに働いたほうがいいな、と、一刀はこれまでの過激な仕事を振り返って反省するのだった。

 

「久々にあそこに顔をだしてみるか」

 

 この世界に着てから、行き着けの店になった喫茶店『Honky Tonk』。

 そこを諸点にしてる裏家業の二人組みの顔を思い出しながら、一刀はHonky Tonkへ向かった。

 

 

 

 

 

 Honky Tonk玄関口

 

 万事屋の仕事が長引いて、三日ぶりのHonky Tonkのドアを景気のいい顔で開いた。

 

「やっほーッ。蛮、銀次。元気にしてt――」

 

 

 

 

「「種馬狩りだぁぁああああああ!!!」」

 

 

 

 最初に目にしたのは、サングラスをしたウニ頭のマダオと、おつむが足りなさそうな金髪のアホの青年が、欲まみれの瞳で鎖を掲げで一刀に飛び交ってきた光景だった。

 

「――っへ?」

 

 

 

 

 

 奪還屋。

 

 

 裏家業の一種で依頼人が望むモノを相手から奪い還す職業である。

 

 その奪還屋家業で、二人の男性営む奪還屋『Get Backers(通称GB)』に、ある依頼が届いた。

 依頼人はとある工学技術専門の企業の重役(二十歳後半の巨乳美熟女)。なんでも、会社の企業秘密のデータがライバル企業に盗まれてしまい、四日後の夜には、そのデータが必要だということ。そのため期限は四日後の夜10時まで。それまでに研究所にあるデータをコピーされ別の場所に持って行かれる前に奪還、及び破棄することだった。

 また、そのデータがあるのは、ライバル企業の要である技術研究所の隔離サーバーである所長の個人サーバーに保存されており、研究所も強固な防衛システムが置かれ、強靭な警備員が配置されてるとか。

 GBはそんな情報にものともせず早速、データを奪還すべく研究所へ乗り込んだが、あえなく失敗。何度も、侵入しようとするがことごとく失敗し、期限である四日後の10時まであと8時間を過ぎようとしていた。

 

 

 

「ようするに、研究所のガードが固すぎて、さらに時間が少ないから、奪還屋の手伝えと?」

「そういうこと、そういうこと。カズピーって、人並み以上に電子機器に詳しいし、万事屋だからいろいろとスキルあるでしょう~♪」

 

 2,5頭身のデフォルメとなって両手に扇子を振りながら一刀をカズピーと呼ぶのは『天野銀次』。

 GBの片方の一人ある。

 

「データを取り出すには直接、そこの所長の個人サイバーに入らないいけねーからな。そんな知識と技術をもってるのはアイツとお前だけなんでな♪ ちょっくら俺たちの手伝ってくれない? 」

 

 と、ニヤリと一刀を巻き込み満々のウニのような髪の毛を尖らすタバコくさい男がGBの片方『美堂蛮』。

 同じくGBの片割れの男である。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そんなコンビに一刀は無言で二人をジーと見つめ、返答をしない。

 なぜなら、これまで彼らGBの仕事に関わると碌なことがなかった。

 道具を勝手に持ち出したり(しかも、使って騒動を起こしたり)、ヤクザの囮にされたり、毒見されたり、黒装束の医者の相手をさせれたりと酷い目に合わされてきた。

 とくに一番酷いのは、万事屋をボランティアとワザと勘違いして、助っ人料金を払わないという強制労働。

 こんな傍若無人な扱いに、さすがの一刀も我慢できないため、無言を貫き、仕事をだめにしようとした。

 その一方で、銀二と蛮はこのままでは、依頼が時間切れにしまうと焦り、(とくに蛮が)プライドを捨てて、一刀に前で土下座をする。

 

「おねがいします! 今回の依頼を達成しないと、今年の冬も越せないんです! 」

「この依頼をなくすと、俺たちに正月が来ないんです! だから協力してください! おねがいします!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 数秒、無言が続くも、この哀れな二人に、一刀は折れた。

 

「はぁ…わかった。どうせ、NOって言っても、駄々をこねられて、俺の貴重な時間を無駄に潰されそうだし…」

「わーい!ありがとうカズピー♪」

「いやー持つべき友はいいもんだ♪ なにせタダで、手伝ってくれるんだからなーなぁ、銀次」

「そうだねー。やっぱ万事屋はいい人だねー蛮ちゃん^^」

「よかったですねー蛮さん。銀二さん♪」

 

 ワザとらしい物言いで助っ人料金を踏み倒そうと考える銀二と蛮。そんな二人の思惑に気づかず、Honky Tonkのアルバイトである水城夏美は共に喜んだ。

 もっとも、一刀は青筋を浮かべていた。

 

「喜んでいるとこわるけいど、おまえら、いいかげんこの鎖ほどけ!」

 

 逃げないよう、先ほどから鎖でグルグル巻かれて、椅子に縛りつけられていたからだ。

 

 

 数分後。

 拘束から開放された一刀はテーブルカウンターで、ノートパソコンを開いて高速でキーボーを叩いていた。

 

「マスターコーヒー頂戴」

「はいよ。いつも、尻拭いご苦労様」

 

 と、一刀に同情するのはHonky Tonk のマスター『王波児(ワン・ポール)』

 彼の作るコーヒーは一刀のお気に入りであった。

 ポールはコーヒーを入れ、テーブルに置いた。

 

「いいよ別に…。馬鹿とアホと、あとマダオ類の厄介ごとは馴れてしますから…」

「ほんま苦労人だなーおまえ…そんな人にはピザ奢ってやるよ」

「…ありがとう」

「あぁ~カズピーだけずるぃ~!」

「俺たちにもピザ奢れよポール!」

「だったら、一刀みたく、金払え!」

 

 蛮と銀次がえこひいきと騒ぐも、一刀はもくもくと作業を続ける。

 そんな彼に、夏実が興味を持ち、パソコンの画面を覗くと、画面にはいろいろな画像や情報、数字が表示されたり消えたりとしていた。

 

「ところで、さっきからなにやってるんですか?」

「ターゲットの研究所にハッキングして、研究所の見取り図と設置された防犯、あと職員の個人情報とターゲットの周りの情報云々を盗んでるとこ」

「へぇ。すいごいですねぇ~」

「この時代に、ネットにできないことなんてあまりないよ夏美ちゃん」

「おい、サラッと流してるけどそれ犯罪なんだけど?」

「まるで、MAKUBEXみたいだね~」

「いや、さすがに、専門には負けるよ。あいつなら孤立してる個人サイバーにも侵入できるし…――よっ、完了」

 

 画面上に研究所の見取り図と所長のスケジュールなどが出される。

 

「もう、集めたか! 早い! さすが、早漏れの種馬は早くて助かるぜ!」

「夏実ちゃんがいる前でセクハラ発言すんな。あと、早漏れじゃない」

 

 ちなみに、夏美はなんのことか理解できず首をかしげていた。

 

「最初と途中までのセキュリティーはこっちで対策できるけど、ターゲットの研究室に入るのはターゲットの網膜と指紋が必要みたいだな」

「なんとかならないの?」

「これはなんとも…本人と接触して採取すれば、あるいは…」

 

 どうやって採取するか、腕を組んで考える一刀。

 蛮と銀次も同じく知恵を絞り考えていると、夏実がとある項目に反応を示した。

 

「あれ、これって…?」

「どうしたの夏実ちゃん?」

「ターゲットさん、今夜パーティーに出席するみたいなんですけど、そのパーティーで演奏する人のリストの中に知ってる名前が…」

 

 夏実がとある項目に指をさすと、一刀と蛮と銀次とポールも画面を覗く。

 その項目は所長のスケジュールに入っていた今夜行われるとある県知事のホームパーティーの一覧そして、特別ゲストとして演奏してくれる音楽家が……、

 

 

 

 

 時刻は夜の八時ごろ。

 

 とある県知事の自宅のパーティー会場にて、多くの企業家や資本家など金持ちな人たちが主催者である県知事と世間話などをしていた。

 ターゲットである所長も社交場として参加していた。

 そんな豪華な場所で、美しいバイオリンの音色が流れる。春風と感じる暖かな旋律に招待客たちは音の出何処に視線を向けた。そこには彼な少女――音羽マドカが愛器ストラディバリウスを楽しげに弾いていた。

 彼女の演奏に、邪な気持ちで参加していた所長や招待客たちは心を清められたように清清しい気分に彼女の音色の虜となった。

 そして、演奏は無事終わり、彼女に拍手が送られた。

 

「今夜、演奏はいかがでしたしょうか?」

「いやー最高だった。さすがは天才バイオニスト。惚れ惚れしそうな演奏だよ」

「うっふふふ、ありがとうございます♪」

 

 可愛らしくマドカの微笑み所長は虜になっていた。

 実はこの所長、大の美少女好きで何人もの女子高生と援助交際していた。それも、研究所で私情で製作したクスリを少女たちに処方してエロ同人誌的(陵辱系)なことをしている畜生でもあった。

 

「どうだろう? 今夜、私の部屋で演奏してくれないk――」

 

 そのあと薬で眠らせてと、ふしだらな性欲を胸に仕舞いこみ、いつもの手でナンパする所長の手がマドカに肩に触ろうとした時、横から所長の手を掴み、強く握り締めながら持ち上げた。

 

「ぐっ!?」

「すみませんが、うちのお嬢様に火遊びを教えないでください」

 

 掴んだのは執事服を身にまとった男性だった。男性は鋭い眼光で所長を睨み、彼の肝を縮ませた。

 所長は彼がマドカの執事だと思い込み、腕を払いのけ、焦りながら退散する。

 残された二人は周りに気づかれず、誰もいない県知事の自宅の控え室へと静かに移動した。

 

 

 

 

 

「たっく、あの蛇野郎と種馬野郎…俺だけでなく、マドカまで巻き込みやがって」

「うっふふ、いいじゃないですかぁ。なんかスパイ映画みたいでおもしろいです♪」

 

 そう言ってマドカは、ネクタイを弄る男性――冬木士度に微笑む。

 この二人、蛮と銀次の元依頼人と同業であり、マドカと士度は恋人同士なのである。

 さて、なんでこの二人がパーティーに出席してるというと、実はこのパーティーの主催件会場の主である県知事がマドカの遠い親戚であり、天才バイオリストのマドカにパーティーの演奏者として参加してほしいと事前に頼んだのだ。盲目でモノの本質を見抜く優しいマドカは彼が純粋に招待客を楽しませるために頼んでいると理解し、これを承諾。特別ゲストして参加したのだ。むろん、恋人兼居候兼過保護の士度もマドカのお目付け役に変装して影ながら彼女を見守っていた。

 

 そんなパーティーの一時間前のこと。

 控え室で士度の隣でバイオリンの最終調整をしてところ突然、一刀が出現し……

 

『マドカちゃん、士度、ちょっと仕事手伝ってくれない?』

 

 と、仕事の協力をお気楽に頼みに来たのである。

 最初は士度が反対したが、いろいろと仮があるゲットバッカーズの仕事と、スパイ染みた役割にマドカがやる気間満々だった。

 結果、同業者で蛮を犬猿する士度も協力する羽目に。

 

「では、こちらの仕事もしましょうか…」

「あぁ」

 

 一刀が置いていったタブレット状のパネル二枚とつながったパソコンを起動させた。

 そして、マドカは両目から一刀に渡されたコンタクトレンズを外し、一枚のパネル画面に置く。

 士度は所長の手を掴んだ特殊なスプレーで塗り固めた手をパネル画面に置く。

 すると、二枚のパネルがコンタクトレンズ型カメラに撮影された所長の網膜と、士度の手にあった所長の手の指紋がパソコンへ送られ、誤差修正され、編集されたデータが別の所へと転送される。

 

 

 

 

「来た来た来たっと」

 

 一刀がもっているスマートホンの画面が受信中から受信完了へと表示された。

 

「よっし、最後の門を開ける鍵は揃った」

「そんじゃーいくぜ!」

「おー!」

 

 軽自動車スバル・360から蛮と銀次が降り、一刀は車から出る。

 眼前にはとある研究所のコンクリートの高い壁と二人の警備員が番をする門だった。

 そして、門へとあるく一刀たちは三人とも白衣を着ており、蛮と銀次は牛乳瓶の底のようなグルグル渦巻きの眼鏡を掛けていた。

 

「失礼。どちらさまでしょうか?」

 

 見慣れない三人に、警備員が呼び止めた。

 

「どうも、今月から研修に来た研修生です」

「はい、これID!」

 

 偽造IDを取り出し、警備員に渡した。

 警備員は三枚のIDを電子機器でスキャンすると、画面上に三人の戸籍がデータベースにあった。

 むろん、一刀がハッキングしたさい改竄された戸籍である。

 

「オーケーです。どうぞ」

「はいよ」

「仕事ご苦労様」

「がんばってね~」

 

 一刀たちは難無く出入り口を通過した。

 

 

 研究所内:通路

 

 通路に設置されたカメラ類はすべて一刀によって過去の映像を繰り返されるようにされ、一刀たちは難無く通った。

 そして、職員にも会わず、スムーズに目的の部屋に到着する。

 

「あとはマドカちゃんたちが送ってくれたデータを扉に繋いでっと…」

 

 所長の網膜と指紋のデータと開錠専用のプログラムが入ったスマートホンを扉の横に設置された電子ロックとケーブルに繋ぎ合わせると電子ロックがピーと鳴り、扉が開いた。

 

「まっ、ざっとこんなもんだ」

「おぉおおおおお!!」

「すごーい!まるでミッション○ッシュブルみたいだ~!」

 

 一刀の手際のよさに、手を叩いて拍手する蛮と銀次。

 三人は部屋に入り、一刀は壁側に置かれたディスクのパソコンを起動させた。

 

「これだな。あとは俺がやっとくから、おまえらはそこで黙ってまっててくれ」

「「はーい」」

 

 元気良く返事をする奪還屋。一刀はパソコンにUSBを差込み、目的のデータを探しながらキーボーを叩く。

 

「よっしゃー! ここまでくればもう依頼達成当然! 銀次、寿司の注文しとけ! 今夜は無礼講だ!」

「わーい、お寿司~♪」

(まったく、現金なコンビ…)

 

 そう思いながら目的を探す一刀。後ろでは蛮は高級寿司や焼肉を思い浮かべながらハシャギ、銀次は受話器を片手に寿司の出前をとっていた。

 そこで、一刀があることに気づいた。

 

「……銀次君、その電話機、どこにあったのかな?」

「この机の上だけど?」

 

 銀次がもっているディスクからケーブルが伸びる受話器。

 その受話器から微かに「だれですかあなた!?所長室でなにを…!だれか警備員を――」と受付女らしき女性の声が。

 さきほどまでお祭り気分であった蛮も、ことの現状を察した。

 

「銀次ィィイイイイ! そいつは内線電話だ!?外にはつながらねぇぇえぞ!!」

「えぇぇええええええ!! それじゃぁ、出前がとれないの!?」

「アッホォォオオオオオ! それどころじゃねだろうがッ!」

 

 未だ理解できてない銀次に蛮が彼の頭をハリセンでスパーン!!と叩いた。

 数秒後、研究所内に警報が鳴り響き、一刀が所長のパソコンで研究所内の監視カメラをハッキングし、施設内を映し出すと、屈強な警備員たちが廊下を走っていた。

 しかも、全員、一刀たちがいる所長室の方角に向かって。

 

「ヤバッ!? ターゲットがいない部屋で電話回線をつかったら、異変に気づいて警備員がこっちに来たぁッ!?」

「一刀! データの移し替えはまだか!?」

「このサーバーにあるデータ量が多すぎて、絞るにも目的のデータを探すもの、転送するま五、三分くらいかかりそう! でも、一分くらいで係員が!?」

「チッ、しょうがねぇ!一刀はそのまま作業を続けてくれ!銀次、足止めすんぞ!」

「了解ッ」

 

 蛮と銀次は部屋から廊下に出ると警備員たちと鉢合わせとなった。

 

「いたぞ!」

「侵入者だ!」

 

 警備員たちは蛮と銀次に向かって襲い掛かる。

 

――が、

 

「オッラー!」

「ビリっと、いくよぉぉぉ!!」

 

 ゲットバッカーズを舐めてはいけない。

 

 裏家業を生きる二人はただの人間ではない

 

 美堂蛮は握力が200㎏という怪力の持ち主で、格闘センスがずば抜けた戦いの申し子。

 天野銀次は電気ウナギのように体内で電気を自在に発することができる人間発電所。

 

 多くの修羅場をくぐりぬけたこの二人に、ただの警備員など赤子同然であった。

 蛮の握力に骨や間接を砕かされ、銀次の放電で感電され、圧倒的な実力によって、廊下が警備員たちの屍(気絶してるだけ)で埋まっていく。

 

 頼もしい(が、ヤクザの相手やギャグ時には戦闘力が子供以下に激変するけど)門番二人に守られながら、一刀はデータの採取と消去に勤しむ。

 ふと、すこい開いた引き出しに気づく。

 気になって片手で引き出しを開いてみるとそこには請求書のようなモノがあった。

 

「……なー蛮、銀次…。ちょっと仕事中悪いんだけど…今、いい話と悪い話があって…どっちから聞きたい?」

「はぁ、こんな忙しいときにないいってんだよ! そもそも悪い話なんかいるかッ!」

「この仕事で重大なことでもか?」

「なら手短に!」

「とりあえず、いい話からおねがいね!」

「はいよ。いい話っていうのは、あと三十秒でデータの移し替えができるってこと」

「そりゃー、よかったよかった…なッ!」

 

 警備員の頭を壁に叩きつける蛮。

 圧勝であるのだが警備員の数が多く手が離せない状況であった。銀次も同じく、放電のし過ぎでそろそろ体力が限界にきていた。

 

「で、悪い話は?」

「どうやら、ターゲット。今夜のパーティーに出かける前にデーターをディスクとかの端末にコピーしたらしくて、運び屋に安全な場所までその端末を運んでいるみたい」

「………なっぃいいいいい!?」

 

 数十秒ほど間を空けて蛮が叫んだ。

 今回の依頼は目的のデータを別の場所に移す前に奪還すること。

 それが早速、依頼達成条件失敗になってしまった。

 そればかりか…、

 

「ついでに、運び屋は知り合いのほうだ」

「………NOォォオオオオオオ!?」

 

 今度は銀次がムンクの叫びのように絶望した顔で絶叫する。

 知人で運び屋。二つの単語で誰を指してるいのか嫌でも分かった。

 

「どうするの蛮ちゃん!?これはまずいよ!現状でもまずいけど、もっとまずいことが現在進行中だよ!これはもう依頼失敗だよ!逃げようよ!」

「あきらめるな銀次! 俺たちは成功率ほぼ100%の奪還屋! どんな奴が相手だろうかならず奪い返す!一刀!ここまで来たら最後まで付き合ってもらうぞ!」

「ハイハイ。こっちだって、無理やりでも仕事はきっちりやり通す性質さ!」

 

 一刀はほかにできることをしようと、研究所のサーバーを弄り続ける。

 念のための別件と保険作りも兼ねて。

 

「よし!一刀がデータを移し替えたら、あの運び屋を追いかけるぞ!」

「わかった! ところで、蛮ちゃん…」

「なんだ銀次?」

「さっきから俺たちぶっ倒してるって相手、ここのガードマンじゃないぽくない?なんか 護り屋の人たちみたいなスーツを着た人が増えてきるような気が…」

 

 たしかに、と蛮も頷く。先ほどから倒してる男たちは研究所の警備員らしき男がいれば、SPのような男たちもまぎれて、廊下に倒れていた。

 

 全員倒したと思った蛮と銀次はまさかと思うと、廊下の角から気配を感じ視線を向けると廊下の角から…、

 

「………(ニヤリ)」

 

 ターミネーター風の顔に火傷の後があるサングラスの大男が拳をボキボキと鳴らし、ニヤリと笑っていた。

 

「「な、なんでアンデットがここにぃぃいいいいいい!?」」

 

 大男は菱木竜童。通称「アンデット」。

 屈強な護り屋であり、GBとは何度も敵対してきたある意味GBにとって天敵な男である。

 ちなみ、ただの人間だか、異名通りの不死身っぷりである。

 

「あっ、運び屋の請求書と同じく護り屋の請求書が……」

「用意周到すぎるよ、ここの所長さん!?」

 

 二枚重ねになっていた請求書に気づいた一刀。

 予測してたのかと、銀次はこの場に居合い所長にツッコミを入れた。

 

「ウッォオオオオオオオ!!!」

 

 菱木竜童が大声上げながら蛮たちに襲い掛かる。

 どこからダッダンダンダダンというBGMが流れてきそうな彼の威圧に負けた蛮と銀次は狭い廊下にあっちらこちらと同じところを往復して逃げ続けた。

 

「ぎゃっぁーーーー!? 一刀ォォオオーッ!おまえも手伝ってくれー!」

「えぇ~俺の仕事は電子機器関係じゃ、なかったのかー?」

「おねがいしますー! この人、俺たちの攻撃効かないんです! もう十二の試練みたく対抗できちゃったみだいで、倒す自信がねーんです! 僕たちまだ、ロストしたくないんですよ~! おねげ~しましゅ~!」

「ハァ、しょうがないないー」

 

 やれやれと首を振るう一刀。

 ちょうど作業が終えたので、パソコンに挿入したUSBを抜き取ると、ディスクに置かれたガラス製灰皿を持って、菱木竜童に向けて投げた。

 灰皿は菱木竜童の頭に直撃し、彼の石頭で粉々に割れた。

 すると、壁側に追い込んだ蛮たちから、部屋にいる一刀へ視線を変えた。

 一刀はかもーんと、手招きする。

 

「こっちだぞ、デカブツ」

「ウッォオオオオオ!」

 

 目標を変更し一刀を殺そうと所長室に入る菱木竜童。

 一刀は動かず、足元から赤い電流が流れたが猛進してる怪物は気づいていない。

 そして、ターミネーターの親戚らしき大男が一刀に触れようとしたそのとき、足元の床がガラガラと陥没し崩れた。

 

「ワァァァァァァ!!??」

 

 奈落に落とされるように菱木竜童が落ちる。

 何度も床を砕いて落ちる男が響き続けて、次第に落下の音と雄たけびが消えていく。

 

「倒せないないながら、即退場させればいいんだよ。もうちょっと考えれば思いつく策だぞ?」

「あーそうだなぁ…よく考えてみれば、その手があったな」

「カズピーの錬金術って、ほんと便利」

 

 まるで奈落まであるかと思える穴を覗き込む蛮と銀次。

 もはや視覚では菱木竜童の影すら見えない。

 

「にしても、深いなー。どこまで落としたんだ?」

「地下にある非公式の兵器開発室まで、落としたけど?」

「えっ?非公式?」

「兵器開発室?」

 

 さらっと物騒な単語を流した一刀に、二人は目を丸くする。

 銀次が手を上げて一刀に質問をする。

 

「あの~、非公式の兵開発室っていったい…」

「詳しいことは、運び屋を追いかける時に。ほら、いくぞ」

 

 そして、一刀たちは研究所から脱出した。

 

 

 

 

 研究所から五キロ先放たれた浜辺沿いの道路

 

 

 そこに一台の大型トレーナーが走っていた。

 

「それにしても、たかがディスク一枚のために、ここまで厳重にする必要あったのかしら?」

「そんだけ重要なデータってことだ。俺たちはただ運ぶだけでいいんだ」

 

 助手席で手に持った小型ケースを見つめながら不思議がる褐色の女性は工藤卑弥呼で、運転しながら答える厳つい中年男性は馬車號造である。

 その後ろ席には男にしてすこし細く刃と印象できる黒衣の男性――赤屍蔵人が言う。

 

「そうですよぉ。クライアントを詮索など信頼が疑われますからねー」

「クライアントごと殺しかけない、あなたがいう?」

 

 この三人は運び屋。郵便や引っ越しなどの表の運送屋ではなく、依頼人から危険な品を届ける裏家業の一つだ。

 そして、卑弥呼が持っている小型のケースにはGBが狙っていたデータ、そのコピーが入ったディスクである。

 

「……おや?」

「どうしたの赤屍?」

「クスッ、今回も楽しい仕事になりそうです」

 

 何かを察知し、小さく笑いを零す赤屍。

 そのとき、真横のすこし高い茂みから一台の軽自動車が飛び降りてきた。

 

「「見つけたぁあああ!!」」

 

 その軽自動車ことスバル360に乗るのは美堂蛮と天野銀次のGBだ!

 車はそのままトレーラーの背後へあらっぽく着地し、トレーラーを追いかける!

 

「げっ、またあいつらなの!」

「このまま振り切るぞ!!」

 

 嫌な顔をする卑弥呼と、アクセルをさらに踏み込む馬車。

 自分たちは運び屋。後ろで追いかけるのは裏家業で何度も敵対したことがある奪還屋。

 狙いが依頼のディスクだと卑弥呼たちはすぐに理解した。

 トレーラーは加速し、スバル360との距離を伸ばす。

 

「蛮ちゃん、このままだと引き下がれちゃうよ!」

「うんなもんわかってる!そのために、あいつを先にいかせたんだろうが!」

 

 トレーラーと軽自動車のカーレスとなりつつなる道路。

 先頭を走るトレーラーがカーブに差し掛かったそのとき、カーブ時点に巨大な影があった。

 

「カッモーン♪」

 

 銅色のロボット――バスターバロン。

 そして、その肩に乗るのが一刀であった。

 

「やばっ、先回りされたわ!?」

「えぇぇいッ!このまま突っ込むぞ!!!」

 

 突破しようとする馬車は、ブレーキをかけるところか、アクセル全開でトレーラーを走らせバスターバロンに特攻する。

 バスターバロンは巨大な手で加速するトレーラーを受け止めるも、大型トレーラーの馬力に押され後退。両足を踏ん張りると足裏からコンクリートの破片や土がめくりあがり地面に溝が出来上がる。

 

「うぉおおおおおお!!男のロマンが相手でも負けるかぁぁあああ!!」

 

 馬車の怒鳴り声に近い叫びに答えるかのように、トレーラーは男のロマンを引き越そうと前へ前へと進む。

 けれど、徐々に遅くなりつつあった。そればかりか後ろから馬鹿(蛮)の声が聞こえてくる。

 このままではまずい、卑弥呼はそう思い自身の武器である毒香水で一刀に勝負を挑もうと扉を開けようとする。

 

「お先に失礼します」

 

 が、いつのまにか赤屍がトレーラーから出ていた。それもバスターバロンの腕の上に。

 

「ゲッ、ジャッカル!?」 

 

 一刀が赤屍の顔を見て嫌な顔をした。

 赤屍はクスッ、と、微笑し一本の医療メスを握り締めると――

 

 シュパパパパパパパパパパ!!!

 

 巨躯であるバスターバロンをバラバラに切断した。

 バスターバロンの肩に乗っていたい一刀は足場を失い真横の浜辺に落ちようとする。

 が、眼前に赤屍が空中に漂うバスターバロンに破片を足場として渡り、一刀に近づいてきた。

 

「ちッ!!」

 

 一刀が舌打ちすると、赤屍は追撃とばかりにメスを振るおうとする。

 しかし、メス振り終わる前に一刀がメスを持った腕富もう片方の腕を掴み、さらに片足の裏を彼の胴体に密着させると、そのまま空中で巴投げを行った。

 一刀が浜辺に着地すると同時に、赤屍は行きよいにまかせたのか浜辺を越え、水しぶきを上げて浅瀬の海へ落とされた。

 

「――ッ!?」

 

 一刀は右腹を手で押さえる。右腹には一本のメスが刺さっていた。赤屍を投げたその時、彼が刹那にメスを投げたのだろう。

 一刀が右腹に刺さっていたメスを抜き取り、錬鍛術で傷を塞ぐと、赤屍が何もなかったように海からゆっくり上がってきた。しかも、海中に落ちたはずなのに黒衣は濡れはいない。

 停まったトレーラーの窓から卑弥呼が確認をした。

 

「どうする卑弥呼?」

「ここはあいつにまかせるわ。いいわね赤屍!!」

 

 卑弥呼が叫ぶと、赤屍は微笑みながら手を振って合図する。

 トレーラーは赤屍を置いて先へ進む。その後ろからスバル360が走る。

 

「銀次!おまえのライバルだからここは変わってくない――って、なんで、そのまま通り過ぎる!?」

 

 軽自動車は停まらずトレーラーの後を追う。

 窓から顔を出した銀次が…

 

「ごめんね~なんか画面越しに見てる人たちがはカズピーと赤羽さんのバトルご希望だから、今回はカズピーに譲るよ~」

「死んだら、葬式あげてやかっら、いそぎよく逝ってこーい」

「コラーッ!!戻ってこ~いッ!!あと不吉なこというなッ!!」

 

 と、叫ぶも軽自動車は一刀を置いて行く。

 浜辺に残されたのは種馬と戦闘凶の二人という奇妙な組み合わせであった。

 

「フフフ、あなたとは一度、戦ってみたかったと前々から思っていましたけど、こうして機会ができるとはうれしいかぎりです」

「あ~この状況、やらないと駄目ぽい?」

 

 眼前の黒衣は微笑みながら殺る気満々。似ていないが、本心からして『オラ、わくわくするゾ』状態であろう。

 一刀は四次元棺を浜辺に置くと、手元に核金5枚を転送させた。

 

「武装錬金シルバースキン、ニアデスハピネス、モーターギア、キラーレイビース、ジョノサイドサーカス」

 

 一刀が身体が銅色のシルバースキンに包まれ、周囲には黒色火薬の黒蝶が100匹に、銅色の歯車が二枚、一対の犬型オートマター(自動人形)、5×3のミサイルポットが1000台展開された。

 もはや一個大隊を超える物量を目の前にして赤屍は「大盤振る舞いですねぇ~」と暢気に笑みを絶やさない。

 

「貴方のそのおもちゃで、私をどこまで、たのしませてくれますかねぇ?」

「誤解が生まれそうな、言い方しないでくれません?知り合いの鬼畜メガネ仙人とどこかかぶりそうで悪寒がすんですよ…(汗)」

「クッス、これは失礼。なにせ、こんなしゃべりかたなものでしてねぇ」

 

 シュン!!

 

 バッキ!

 

 赤屍が腕を振った刹那、一刀が何かを握り締めた。

 それは一刀に握り壊した四本のメスが。

 

「開始の鐘が鳴ってないのに、不意打ちはNGですよドクター?」

「ちょっとした挨拶代わりですよ。こちらが先に仕掛けてので次はそちらからどうぞ」

「そう、だったら遠慮なく!」

 

 キュィィィィィン!!

 ドッカン!ドッカン!!

 ワッォーン!!ワォォウ!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 チャクラが空を切る!

 黒蝶が爆ぜる!

 機械仕掛けの軍用犬が牙をむく!

 大量のミサイルが飛ぶ!

 

 激戦の戦場と化した浜辺で圧倒的な物量の壁が赤屍に襲い掛かるが――

 

「懐かしい。あの頃を思い出します」

 

 かつての記憶(戦場)に浸りながら、瞬間移動と見違えるそうな、残像が残すほどの速度で大量のミサイルと爆破を躱しつづける。

 さらに、高速で回転するモーターギアと噛み付こうとする キラーレイビースは握り締めた拳の隙間から出した四本のメスでスライスされた。

 

「赤い射手(ブラッディ・サジタリアス)」

 

 超高速で投擲された数本のメスが一刀に襲う。相手を磔にする技だ。

 だが、一刀はあえて逃げず、手刀ですべてのメスを叩き落した。籠手以上のシルバースキンの強固な手刀でメスが砕けた。

 

(ギリギリ見切れるな……パピヨン、お前の技借りるぞ)

 

 ミサイルの弾幕が一直線に発射続ける最中。

 残りの黒蝶36匹が、赤屍の上空から彼めがけピンポイントで飛来し――

 

「こっぱ微塵に爆死しろ!‘‘黒死の蝶``!!」

 

 

 ドッゴーーーン!!!

 

 

 同時爆発する。

 数十秒も続く爆炎の火柱は浜辺を真っ黒に焦がす。その間、浜辺に赤屍が居らず、移動した様子がなかった。

 

「消し炭になった…わけもないか」

 

 あの赤屍がこれで‘‘死ぬ``とはありえない。

 一刀が周囲を警戒するも彼の気配が感じられない。

 となれば――

 

――クスッ

 

「後ろ!!」

 

 キンッ!!

 

 足元から聞こえた死神の笑い声。

 一刀は反射神経まかせに手刀(気で強化・表面に魔法障壁展開)で払うと、間一髪、一刀の影から出現したメスを横に振るっていた。赤屍のメスと一刀のシルバースキンが衝突し甲高い金属がぶつかる音が鳴った。

 

 赤い闇(ブラッディ・ダークネス)。

 

 相手の影から出現し奇襲することができる赤屍の初見殺しの移動法だ。

 赤屍は一刀の影から出ると、後ろに飛び跳ねて距離を置き、さらに追撃する。

 

「赤い暴風(ブラッディ・ハリケーン)」

 

 一刀の周りに大量のメスが取り囲み、一斉に襲い掛かる。

 しかし、シルバースキンの完全防御というべき金属化と瞬間再生という鎧に大量のメスが刃こぼれして浜辺に落ちる。

 

「ふむ…硬い…そして早い修復スピード。今まで出会った中でやっかいなものですね。おかげで刃が下の肌に届きません」

「最強の防護服は伊達じゃない。もう、降参するか?」

「いえいえ、その程度、問題ありません」

 

 そう言って、赤屍が片腕を天に掲げると、

 

「赤い雨(ブラッディ・レイン)」

 

 腕から大量のナイフが天へと昇る。

 その技を一刀は知っている。赤屍がもつ経験則によって相手の動きを先読みし、上空から大量のメスを降り注ぐ刃の雨。

 どれほど注意しても必ず相手の頭上にかならず降らす絶対必中の攻撃に、回避などできるわけがない。

 ならば、

 

「シルバースキンが死の雨なんか通じるか!!」

 

 避けられないなら被弾覚悟で突っ込むだけ。

 一刀は赤屍に向かって走ると、頭上より大量のメスが降り注ぎ周囲に展開されたジェノサイドサーカスの被弾し爆発する。

 しかし、一刀は恐れず前へと走る。この身に纏っているのは最強の防護服。死の雨などものともせず、雨が傘に跳ねるように弾く。

 一刀自身、死の雨など恐怖を感じない。感じないが――

 

「……クス」

「ッ!?」

 

 恐怖と畏怖とは違ったゾックとした魂を抜き取られたような感覚が、彼の笑みから感じた。

 一刀は神経を鋭く、恐怖をセンサー代わりに自身の居合いに張った。少しでも赤屍の攻撃に反応するためだ。

 

「ザケルガ!」

「赤い盾(ブラッディ・シールド)」

 

 一刀が右手から高密度の電撃がビーム状に一直線に放たれる。

 赤屍は眼前に円状に並べたメスの盾を五個、展開する。

 

 金色の雷撃とメスの盾は互いにぶつかり合い消滅した。

 

「まだまだぁ!!」

 

 その隙に一刀の右手に愛用の木刀‘‘一騎当千``が転送された。

 対して赤屍は左右の手の指と指の間に四本ずつメスを生み出し、一刀が振り回す木刀の連撃に対してメスの連撃で応戦する。

 

「ハァァァ!!」

 

 一刀はごり押しに木刀を平行に横に大降りにする。地元名物の示現流の太刀筋。

 その斬撃は鉄さえ一刀両断する。

 

「………」

 

 もちろん、その隙を赤屍は見逃さず大降りの瞬間、左右のメスで一刀のシルバースキンに刃を走らせた。

 そして木刀が当たる瞬間、赤い闇でその場から消えた空振り。一刀の真横へ数メートル離れた。

 

 一刀は追撃しようと動こうとしたそのとき!

 

 パッリン!!

 

 なんと完全防御のシルバースキンが、鋏で切られたようにバラバラになった。

 

「どうして切れたか?驚いた顔は……していませんね」

 

 一刀は赤屍を睨み付ける。

 頻繁に使用してる武装だ。これでも生真面目である一刀にとって特性と弱点を見直していて当然だ。

 シルバースキンの切れ端をみると、攻撃時に金属化されて構成されるはずの六角形のチップに傷がなかった。

 

「えぇ、あなたの考えてるとおり、ただ切ったのではなく、切れ目ごと切断しただけ。服を構成しているチップに直接でなくチップ同士の接続部分を刃をなぞって切れば、修復関係なく中身に届きますし、服もバラせます」

「……あんたが初めてだよ、シルバースキンをこんな風に攻略した人は…だったら、シルバースキン・リバース!」

 

 切られた筈のシルバースキンが複数の帯となって赤屍を包み込み、赤屍は裏返しになったシルバースキンにその身を拘束された。

 

「ふむ、強固な鎧は堅牢な拘束となりゆる…なかなかの応用技です…」

「考えたのは俺じゃないけど…おまえに言わせれば、猿知恵だろぉ、こんなもん?」

「えぇ、無論です」

 

 涼しげに答える赤屍。すると上空から大量のメスが彼の頭上から降ってきた。さきほど放った赤い雨の残りだろう。メスの雨は的確にシルバースキンの接合部分だけ突き刺さり、切断する。

 そして、シルバースキンはバラバラの切れ端となって地面へ落ちた

 

「弱点がわかった最強など、最弱同然です」

 

 にこやかに笑う赤屍に一刀は苦笑して思う。

 

 

――やりにくい。

 

 

 この差は手持ちの武器の威力でも、ましてや異能な能力でもない。

 ただ純粋な技量と相手を先読みするこができる経験という戦闘力だ。

 

 ましてや経験による経験則は同レベルといって過言ではない。

 技量に関して適材適所に使い分け、強力な殺傷能力で相手を必ず葬るバランス的で一撃必殺なタイプだ。

 もっとも、違う点をいえば、互いの性格だろうか。

 

「ただでさえ悪質な存在なのに戦闘と殺戮のプロフェッショなるに加えて、頭が良くって戦闘狂い。その上、殺しが趣味の殺人鬼。俺みたいな異質な貧弱一般人にとっては天敵だよ、あんた」

「ほめていただき、感謝します」

「ほめてない、ほめてない」

「クスッ。…これでも私、あなたのこと認めているんですよ?同種同族して」

「………」

「私もあなたも所詮、世界の理から背いた愚者であり、神を呪った咎人。非情な現実から絶望を抱き、世界の枠を超え、己の欲求のため物語の登場人物として役を演じ、登場人物たちの輪に入る。まさに、羊の牧場という世界で、羊たちにまぎれた羊の皮を被った狼といったところでしょう。狼は羊を食らう。世界にいる狼を一匹残らず食らい尽くす。紅く濡らした口と牙から真っ赤な羊たちを垂れ流して…」

 

 一刀の視界で赤屍の手から大量の血が流れ落ちる幻想が見える。

 そらばかりか、周囲の背景が徐々に――

 

「ほら、こうして私たちが合間見えてるだけです世界が変わってきますよ。私たちが知っている地獄と私たちが浴びてきた紅い色がね」

 

 夜だった空が昼の暗い曇天へと変わり、あたり一面が血のような赤黒くなり、足元には骨や血肉と化した屍たちが大量に横たわる。鉄と血と焼ける人の匂いがする。痛みに絶えられず悲鳴やうめき声を挙げる人の声が聞こえる。殺せ殺せと狂いそうになる気配が感じる

 動かぬはすの屍たちが一刀と赤屍に纏わりつき、呪言のような声で囁きながら助けと憎しみをぶつける。

 

 まさに地獄だ。これが人の罪と業だろう。

 その上で二人は立っていた。

 

「……で、それがどうした?」

「…はい??」

 

 が、興味なさそうな一刀の声に地獄は静寂になった。

 一刀が木刀を振るうと屍たちは吹き飛ばされ、血生臭い狂気の世界がガラスのように壊れさり、現実の浜辺へと戻った。

 

「悲劇とか暗い過去とか後悔は、ぬらりひょんの孫みたいに背中に背負って百鬼夜行させておけばいいんだ。この場所、この時、この瞬間、俺は、過去と共に今の次へ存在し続ける。己の魂と願いのために」

 

 ギンギラギンに輝くも筋を通した強い瞳。

 一刀はさらに告げる。

 

「お前が俺が似てるのは気に食わないけど、こうして目の前の視界が、聞こえてくる音が、肌から感じる感触が、俺たちがいる場所が、幻想でも黒歴史でも過去でも絶望だらけの未来でもない、俺が知る現実だ。」

「…フッフフフフ、本気にさせようとした挑発でしたが、どうやら、あなたの強さを垣間見ることができそうですねぇ、うれしい誤算です」

 

 笑いが止まらなくなりそうになる赤屍。

 不敵な笑みで一刀に言う。

 

「同じレールを進み、枝分かれした白と黒。分かれた白の分岐点はどういったものなのか非常に興味があります。その答えが殺し合いの中にあること願いましょう」

「フン、勝手に悟ってろ。ただし、その頃にはぶっ倒れているかもな!」

 

 羽織っていた白のコートを脱ぎ捨て、両拳を脇に寄せ三回、息を整える。

 

「…北郷流七禍破王拳、武曲の型」

 

 一刀の両腕から顔、体中に赤い血管のような、もしくは刺青らしい筋が浮かび上がり、蒸気らしき湯気を放っていた。

 そればかりか両腕がまるで水銀でコーティングされたように、赤い光沢が浜辺の月光で鈍く光る。

 

「肉体がまるでルビーのように紅く染められている…?それも身体から水蒸気らしきものを放出……もしや、肉体の血の循環を操作しているのですか?」

「あぁ、これが我が祖父から受け継がれた秘技のひとつ。気で血を強化し、血をニトロ並みのエネルギーに変換、その爆発的なエネルギーで身体能力を飛躍アップさせる強化術を超える転身の禁術。殺戮形態だ」

 

 生命エネルギーとされる気。そして、生体エネルギーとされる血。その二つを同時に融合させ莫大なエネルギーを生産する強化術である。さらに、エネルギーに絶えられるよう肉体も変化しており、その強度は鋼以上。人を殴れば鈍器、手刀で切れば刃物。まさに、全身が凶器化されるのだ。

 

「この肉体はもはや人ではない。ひとつの武器であり、必勝と生存のための一体の修羅の化身なり。修羅の敗北は死。そのため一切合財躊躇なし!全身全霊を使い切り、勝ちつづける所存!」

「クク…ククク…、うれしいですねぇ。まさか、私と違った血の使い方をする方がいるとは…それも、あなたの本気がみれるとは。相手の土俵で勝負するあなたのフェプレイ精神、好きですよ私」

 

 赤屍は右手を握り締め…

 

「赤い剣(ブラッディ・ソード)」

 

 赤屍の血を触媒とした赤い西洋剣が出現した。

 次元、空間、魂・魂のない霊体させ斬る万能の剣にして赤屍蔵人の最強の矛である。

 

「これは、丁寧且つ、じっくりと楽しまないといけませんね!」

 

 数メートル離れた距離から一気に距離を詰め、死の剣を振るう。

 対して、一刀は鋼鉄と化した赤い拳で打ち合い応戦する。

 赤い死の刃と赤い修羅の拳が交じり合い、火花を散らす。

 

「血が強化されれば血流も鉄並みだ」

「まさに筋金入りということですか!」

 

 何度も打ち合いをし、お互い一旦、距離を置くと止めとばかり赤屍が縦に死の剣を振るう。

 

「奥義…」

 

 一刀は狙ったかのように右腕をくの字に曲げ構えた。

 カウンター技と思える右腕に赤き龍らしき存在が腕に取り巻く。

 

 放つのは最強の一撃。

 

 それは躯に流れる血に潜む赤き龍を解き放つ究極の衝撃。

 

 相手を殺すため鉄鎖琢磨に磨かれた凶器。

 

 修羅の道を極めんとした伝家の宝刀。

 

 一刀がその名を叫ぶ!

 

「龍破・大紅蓮拳(りゅうは・だいぐれんけん)」

 

 

 

 ドッゴン!!

 

 

 

 赤い龍と化した鉄血の崩拳が最凶最悪の赤い血の精養軒を打ち砕き、赤屍の胴体へ直撃。

 衝撃と化した赤い血の龍はそのまま赤屍に貫通し、超越者を後方へ吹き飛ばした。

 

 赤屍はそのまま浜辺に落下し、仰向けに倒れた。

 

「……なるほど、血流と血で鋼鉄並みの高度と化せえた拳を、血の循環エネルギーを爆発させた火薬で放つストレートパンチ…まさに紅い弾丸そのもの…。銃は剣より強し…とういうことですか…」

 

 クククク、笑う赤屍。自身の死がイメージできないため、貫通したはずの胴体は無傷だった。しかし死なない彼でも、‘‘大切な血``を使いすぎた上、一刀の攻撃衝で確実にダメージを与えられた。

 その証拠、彼は体を動かせなかった。

 

「………ふぅ」

 

 一息、息を漏らす一刀は武曲の型を解除し、元の姿に戻った。

 相手はあの赤屍なので普通は用心するのだが、もう大丈夫だろう。

 なにせあれだけ満足な顔をしているのだ。これで強襲するほど彼は無粋ではない。

 

「さてと、一様、俺も追いますか」

 

 蛮と銀次が心配なので、浜辺を後にする一刀。

 すると、赤屍が口を開く。

 

「…最後の一言…あなたの先にはいったいどういうものがあるのか、教えてくれません?」

「…さぁな。でも、分からないからこそ進む価値があるんだ。もう俺は歩みを止めないよ」

 

 そう言って一刀は手を振って「じゃぁな」と赤屍と別れた

 

「なるほど…。クククククッ、その行動、果たしてどういう結末なるのか楽しみです」

 

 残されたか赤屍は一刀の歩む道に興味を抱きながら笑うのだった。

 

 

 

 とある工場の扉の前。

 そこには、まさく悪徳社長と思わせる露骨なスーツ姿の老人がいた。

 

 彼こそは依頼人の会社の社長であり、そして、GBが取り返そうとしたデータを盗んだ所長の取引相手でもあった。

 

 今回に依頼についてネタバラシしておこう。

 腕時計をみながら相手を待ち続けるこの社長の企業。その裏では兵器などを開発する死の商人でありました。

 また、一刀たちが入った研究所も極秘の兵器開発工場を兼ねており、その所長は社長とグルであり、これまで戦車や生物兵器など多くの武器を国外へ販売してきたのだ。

 そして、今回GBに依頼されたデータ。それは近作において最新モデルの兵器――自律型ウィルスである。このウィルスはどんな兵器であれ、電子型であれば戦車やミサイルに自動で侵入しいつでも操作可能という機能をもった新型のウィルスソフトである。もしも、過激テロリストに渡れば、世界が大戦禍となるかもしれない。

 そんな恐ろしいウィルスの開発に気づいた者がたい。

 入社当時から企業の裏で兵器開発をしてたことを最近になって知った企業の重役でGBの頼人の女性だ。

 彼女は悪魔のようなウィルスを処分しようと、GBに嘘をついて依頼したのだった。

 しかし、部下の動きは社長には筒抜けであった。

 

「遅れてすまないねー社長」

 

 社長の前に一台の車が止まる。乗っていたのは県知事のパーティーに出席してた仲間の所長であった。

 

「いや~かわいい子をかわいがろうとしたんですがフラれてしまってねぇ」

「ふん、いい年こいて、パーティーでナンパしてんるんだか…おっ?」

 

 一台のトレーラーが二人の前に近づき、停まった。

 依頼していた運び屋のトレーラーである。

 補助席からケースを持った卑弥呼がドアを開けて降りた。

 

「時間ぴったりだな」

「ほら、依頼された届け物よ」

 

 卑弥呼がケースを所長に渡す。

 社長は本物なのか疑うが「本物よ」と卑弥呼が言うので納得した。

 

「ごくろう。報酬は指定された口座に振り込んである。これから所長と二人で最終チェックがあるから、帰ってくれ……と、いいたいところが、ちょっとした追加注文を頼みたい」

「あらなにかしら?厄介のだったら料金が高くなるけど?」

「なーに、ただ遠い海辺か森林に運んで欲しいだけさ」

 

 そう言って視線を工場の扉を向けると、重たい鉄の扉が開き、中から――

 

「わしらの邪魔した奪還屋を雇った本人をな」

 

 卍の形をしたモヒカン五人に縄で縛られたいスーツ姿の女性だった。

 彼女こそGBに依頼した依頼人である。

 依頼人の女性は社長を睨み叫んだ。

 

「私は人のため、会社のために働いたのに、人を不幸にする兵器開発してたなんてゆるせません!」

「そんなもん一銭の得にもならん。おい、連れて行け」

「ひっしゃー!おまかせあれ!」

「卍一家にぬかりなし!」

「テメェらには一家がお世話になったが今回は仕事優先だから、敵討ちはしねーけど…」

「しかし、変な真似したら、どうなるかわかってんだろうな?」

「はいはい。わかりました」

 

 興味なさそうに卑弥呼はトレーラーに乗り込み、卍一家と依頼人の女性はトレーラーの後ろに乗り込んだ。

 社長と所長以外が乗り込んだ後、トレーラーは動き出し工場を後にした。

 

 

 工場の中。

 そこは企業と研究所が開発した兵器を隠すための倉庫にもなっていた。

 多くの戦車や電子機器の自動ガトリンガンが置かれている。

 所長はウィルスを大型PCに挿入し、起動実験のため、ウィルスを倉庫に置かれていた電子型の戦車へウィルスを感染させた。

 所長の後ろで社長が見守る中、PCを操作する所長。

 すると、ウィルスが戦車のプログラムを支配した。

 

「成功だ…」

「やったぞ!これこそ最強の兵器だ!」

 

 社長が歓喜に震える。このウィルスを戦場を望むテロリストや、被害にあった国に売り込めば…と、考えていると異変が起きた。

 ウィルスに感染した戦車の車体がガタガタと揺れ始め、所長のPC画面もパチパチと点滅する。

 

「な、なにが起きてる!?」

「馬鹿な!?プログラムが高速で書き換えられている!?」

 

 戦車の大砲と機関銃が自動で慌てる社長と所長をロックオンする。

 

「まって!私は敵じゃない!オイ、なんとかしろ!」

「できません!?こちらのコマンドを受け付けません!」

 

 操作不能となったウィルス。社長と所長は逃げ出そうとするも戦車は弾丸を込めるはじめ――

 

 

「「ぎゃっぁあああああああああああああああああああああああ!?!?」」

 

 

 

 大砲と機関銃により社長と所長の体が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ジャスト一分!

 

 

 

 

 

 

 パッリーン!

 

 

 

 

「「……あれ?」」

 

 まるで、なにかが割れるように意識を戻した社長と社長。

 先ほどの死が夢であったのか、データーを入れたばかりのPCがカチカチと動いていた。

 

 

 

 

「いい悪夢見れたか?」

「あなたたち、いつのまに!?」

 

 同じ頃、トレーラーに乗せられたはずの依頼人の女性はどこかの森林でしりもちをついていた。

 目の前にはデーターの奪還と偽って依頼したGBの蛮と銀次。

 そして、自分を拘束してはずの卍一家が黒こげになって倒れていた。

 

 そう、彼女と社長と所長は蛮に幻を見せられていたのだ。

 

 彼ら持つ蛇眼は一分間だけ悪夢(夢)を見せることができるのだ。

 トレーラーと卑弥呼は彼らである。

 状況は乗り込めない依頼人であったが、ウィルスを社長の手に渡ったことに後悔をするのだが、

 

「安心しろ。手はもう打ってあるぜ」

 

 蛮がそういうと、いつのまにか一刀が現れた。

 しかも、ニヤリと笑って。

 

 

 

 

 場所を工場内に戻そう。

 社長と所長は依頼人と同じく未だ困惑していた。

 

「今のはなんだったんだ?」

「…ん?なっ!?」

 

 所長がPCの画面を見て驚きのあまり叫んだ。

 なぜなら、

 

「たたたたた、大変です!?社の裏データが大量に全国ネットで流されています!?」

「なっなんだと!?」

「こ、これは私が開発したウィルスじゃない!?極秘データを詰め込んだ時限式のウィルスです!?起動すれば蓄積されたデータをネット上にばら撒けるように細工されるッ!?」

「ええぇい!止めろ!こいつを壊してでも止めるんだ!!」

 

 PCを操作する所長だが、もうはや手遅れ。

 

 拡散された極秘データーは完全に流出され、社長は絶望に口をあんぐりと開け膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、本物の卑弥呼と馬車というと……、

 

「…やられたな…」

「あの種馬が用意周到だったてこと、忘れてたわ」

 

 一刀が仕掛けた罠(大砲、槍、土砂崩れ、エトセトラエトセトラ…)でボロボロになったトレーラーごと、10メートル深い落とし穴に落とされていた。

 

 

 

 

 後日、流出された汚職や違法な兵器開発などの裏データによって企業と研究所は警察に摘発され、中心角であった企業の社長と研究所の所長は逮捕。企業は倒産、研究所は閉鎖された(ちなみに依頼人の女性は情聴取だけとらだけ、今は自分の会社を作ろうとあちらこちらと駆け巡っていた)。

 

 

 新聞に大きく書かれた記事をポールが読んでいた。

 

「へぇ~有名なホワイト企業の裏に死のマーケットねぇ。厄介なごとにならなくってよかったじゃねーか蛮」

「まったく、とんでもねぇー依頼だったぜ。おい、もしかして、はじめっからこれが狙いで、一刀もおめぇの差し金か?」

「あら、なんのことかしら?」

 

 蛮の隣に座っている露出が高い金髪の巨乳女性は記憶にございませんと言う。

 彼女はHEVN(ヘヴン)。仲介屋で、今回のGBの依頼も彼女が持ってきたものだ。

 

「ところで、今回の要である主人公君はどうして机にうつ伏せになって固まってるのかしら?」

 

 店の奥で、銀次と夏美に見守られながら、一刀がうめき声を上げて苦しんでいた。

 

「なんでも、あの黒医者を本家の秘術を使ってノックダウンさせたのはいいが、術の反動で全身筋肉中で動けないんだと」

「痛い…痛い…腕が…腰が…全身神経が~!?」

「大丈夫、カズピー?」

「辛そうですねぇ」

「うめき声聞いてるだけで、痛々しいな」

 

 なんせ強化されたといえまだ未熟な身体。ガラス瓶に爆竹を入れて爆破させたようなものだ。

 その痛みは全身神経がむき出しになったところに針を1000本突き刺さり、その上に横綱がドスンと落とされたような激痛であった。

 

「たく、武芸の才能ねぇーのに無理しやがって」

「あれ?一刀君って、武闘派じゃなかったの?」

「あぁ、酒の席で聞いたんだが、こいつの実家は強い道場の長男のボンボンで、親も結構強いらいんだけど、その武芸の才能がまるっきり継いでないらいしいぞ」

「信じられないわねー。あれだけ強いのに」

「努力と執念で会得したんだと。いってみれりゃー血筋を超える異質ってところだな、こいつ」

「よ、余計なお世話だ…」

 

 そんなとき、喫茶店のドアが開くと黒衣の男が入ってきた。

 むろん、

 

「なにやら楽しそうですねぇ」

「「げっ!?赤屍蔵人(赤屍さん)!?」」

 

 ニコニコと笑う赤屍。

 一刀は痛み絶えながら身構え、銀次はビビッて一刀の後ろに隠れた。

 蛮は立ち上がり、赤屍にメンチを切る。

 

「オイ!ヤブ医者、今日はいったい何のようだ!?」

「まさか、昨日の報復!?」

「いえいえ。ただのお使いですよ。それに昨日は北郷さんとの楽しい時間でしたので不満なんてありません」

「誤解されそうだからいいかげん、やめて。ヘヴンさんも鵜呑みにしない」

 

 あんたたちそんな関係? と小悪魔的に笑うヘヴン。

 赤屍は笑いながら一刀に向かって近づく。

 

「クス、雑談はこれくらにして。今回は北郷さんにお届けものです。ハイ、これ」

 

 そういって一枚の紙を一刀に渡した赤屍。

 一刀はその紙を見た瞬間、一刀が紙を持ったまま石化した。

 一刀の異変に蛮たちが一刀が持った紙を覗いてみると、そこには「領収書」と書かれた文字と0がいっぱいの数字が…。

 

「あなたが仕掛けたトラップの被害で破壊された道路や馬車さんの車体の修理代等々の請求書、たしかに届けましたよ」

「さ、最近の儲けは…こういうオチかよ…チクショウォォォォオオオオ!!」

 

 石像のまま涙を流す一刀。夏美は苦笑し、ポールとヘヴンはご愁傷様とばかり手を合わせた。

 で、蛮と銀次というと……、

 

「さてと、仕事の宣言にでもいくっか…」

「あっ、蛮ちゃんまって~」

 

 被害が合わないうちに逃げようとしていた。

 

「まってぇぇぇぇ!連帯責任で三分の二はお前らが払えぇぇぇ!」

 

 これには復活した一刀は鬼の形相で二人を追いかけて店から出た。

 痛み?

 絶望と怒りでもう感じない。

 

 

 店の外から三人の鬼ごっこの様子が聞こえてくる。

 そんな楽しげ?な様子に夏美とヘヴンが微笑む。

 ふと、ポールがこの場に赤屍がいないことを気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、私と貴方の違いは輪の中で弱肉強食関係なく平等に接するか接しないか。そんなささやかな主観だったかもしれませんねぇ…」

 

 

 背後で騒ぐ奪還屋と万事屋を背にし、超越者は笑みを浮かべただ前を歩くのであった。

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 


 
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