No.820780

Another Cord:Nines  番外編 = クリスマス篇 =

Blazさん

前後編になったクリスマス篇。
取りあえずこれでモミの木集めとかは終わりです。
次に短いパーティー編を書く…かな?

2015-12-25 15:57:27 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:622   閲覧ユーザー数:604

 

「Snow Night クリスマスの夜にあなたと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次にこなたが気が付いたのは体に伝わる暖かい熱だった。

芯まで伝わる暖かさは風邪で生じるものではなく、外側からやんわりと伝わり冷えた体を溶かす優しいものだ。

このまま眠っていたいと思ったが、それも束の間。彼女の意識は段々と外側へと向かい浮き上がり体の感覚が取り戻されていく。

 

―――もう少し眠っていたかったな

 

彼女の願望は悲しくも自分には勝てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ………」

 

まだ頭の中が白くなっている。

寝ぼけた状態でイマイチ自分の状況や状態がつかめなかったが、段々と周囲から伝わる熱や物の感触で理解し始めた。

 

「…あれ」

 

目蓋を開けると目の上に黒いなにかが乗せられ、そこからは暖かい熱気が伝わってくる。

逆に下からは柔らかい感触。それも自分がよく居眠りなどをする時に良く感じるものだ。

 

 

「………ッ」

 

頭を動かそうとすると、頭痛のように痛く重い感覚に押しつぶされ、言葉にできない程のふらつきに歯を強く噛みしめる。

体が重く頭もだるい。まだまともに動かせる状態ではないようだ。

 

 

ここは何処で自分はどうなっている。少しずつだが回転し始めた頭の中でこなたは考える。

そして自分が覚えている最後の記憶、そこからどうなったのかと。

 

「―――確か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん。どうやら気が付いたようじゃのう」

 

何処かから聞こえる声に首をわずかに動かす。

高い音を鳴らし歩いて来る足音はヒールの類かと考えどうやら若い女性だと推測する。

 

「…アンタ誰?ココは?」

 

「カッカッカッ…助けた恩人に「アンタ」か。どうやら元気はあるようじゃ」

 

年寄りのような口調で話す女性はこなたの直ぐ近くに立つと額に乗せていたタオルをずらし、生暖かい手を置いて体温を測る。といっても正確なまでは分からないのであくまで大よそだ。

同時に垂れ下がっている手を取り、脈を測り体調を確認すると小さく「ふむ…」と呟き独り言のように進めた。

 

「脈も良し、熱も下がったか。まぁあ奴の作った薬じゃからの。それに四時間も爆睡しておれば下がるのも当然か」

 

四時間も眠っていたのかと、自分の睡眠時間に驚くこなたはまだ少し暖かかったタオルを取られ、天井から斥す明々とした光に目を細める。

しっかりと開かない目の片隅には小さく人影が見え、立ち姿から彼女が先ほどから自分に話していた相手だと直ぐに理解する。

やがてその女性が自分の真上に顔を寄せて影を作ると細めていた目を開きこなたは直視する。

 

 

 

 

 

 

最初にハッキリと見えた、あまりに大きなモノ(・・)に。

 

 

「……………。」

 

「…ん?なんじゃ、どうかしたのか?」

 

「…………………。」

 

 

目線を追い、一体どこを見ているのかと思うとどうやらこなたが自分の胸部を直視し苛立っている事に気づき、それに面白さを感じた女性はわざとらしく自分の胸を掴み挑発する。

 

「ははん…さてはお主、コレが羨ましいのか?」

 

「……………。」←すごく苛立った顔で青筋を立てている。

 

「ほれほれ、ワシのでよければ触っても良いぞ?ワシは女子(おなご)でも(おのこ)でも好きじゃからな。触られただけでひーこら言わんし、むしろ歓迎じゃぞ?」

 

「…喧嘩売ってる?」

 

「なんじゃ、気づいてなかったのか」

 

「………今すぐアンタを殴りとば―――」

 

 

 

 

 

 

 

「ストップこなた。それと光子さんもやめてください…」

 

こなたが右手でストレートを叩き込もうとした刹那、女性の後ろからやめてくれと静止を求めるディアーリーズの声がし、彼の声を聴いたこなたは痛みとだるさを顧みずに声の方へと振り向いた。

 

「ッ!ウル…!」

 

「こなた、具合はどう?」

 

「え、ああ…もう平気…」

 

そっか。と簡潔に答えるとディアーリーズは面白そうに笑う光子と呼ばれた女性のもとに近づき、その顔に頭を抱える。

 

「なんじゃ、もう来たのか」

 

「来ましたよ。Blazさんからあなたの事を聞いて直ぐに…」

 

「ふふん…蒼坊も面白くない事を言う。ワシは別にこの娘っ子をどうこうする気はないのじゃがのぅ」

 

「嘘をつかないでください。顔が言ってますよ」

 

「んお、そうか。次からは気を付けて堂々とせんとなぁ…んふふふふ…」

 

明らかに反省の色がゼロの彼女にため息を吐くディアーリーズは兎も角こなたが起きたので連れていくと言い出すが、話を聞いてなかったのか光子はこう言いだした。

 

「お。なら、ディア坊。お前さんが相手でもワシは構わんぞ?童顔(わらべがお)のお前さんはワシ好みじゃからのぅ…今から八時間ぐらいはみっちりと」

 

「お断りします!そういうのもう間に合ってるというか有り余ってて困ってるんですから!!」

 

「よし。ならそ奴らも連れてこい。ワシは多人数もバッチこいじゃ」

 

「―――――。」

 

 

 

「………で、ウル。あの女、何者?」

 

「あーっとそれは…」

 

苦笑するディアーリーズに、光子は口元を上げて言う。

それは先ほどの挑発的な顔ではない、真面目と言える顔つきだ。

 

「―――――まあ。まずはその娘っ子に色々話さねばなるまいて。のう、ディア坊?」

 

「あはははは…」

 

「………?」

 

そもそも彼女は誰か。最も初歩的な事を思い浮かべたこなたは手招きをして付いて来いという彼女の後を歩き、その部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 研究室 =

 

散乱する資料の数々。実験用と思われるデスクの上には大量の物が散らかっており、何がどれなのか。一体なんなのかと分からなくさせる。

その中にある大量のモニターが接続されているデスクに光子は足を組んで二人の前に腰を下ろし、改まってこなたに自己紹介をする。

 

「では改まって。ワシの名は『浅上光子(あさがみみつこ)』この研究所に住むただ一人の研究員じゃ。ま、気軽に「博士」と呼んでくれると助かるがの」

 

プラチナブロンドの長髪にエメラルドの瞳を持った光子は目のやり場に困るようなスタイルの見せ方で名乗り、こなたの隣に立つディアーリーズの顔を見て遊んでいる。どうやら彼の性格を知って面白くなったのか、色気を使って遊んでるようで二人の反応を見たこなたはイラついた声で彼女に問う。

 

「で。ここ何処よ。研究所?私らはずっと山に居たってのに―――」

 

「んむ。ここはその山の中にある研究所じゃ」

 

「…は!?」

 

「カッカッカッカッカッ。まぁ、まずはお前さんの覚えている事を思い返すことじゃな」

 

「………えっと…」

 

 

モミの木を取りに向かった自分たち。しかし、山脈の狂った霊脈と寒さのダブルアタックに自身が倒れ、そこで意識を失った。

大体はこんな感じだったと思い出すこなたはその後に一体どうなったのかと思い、頭を抱えたが、意識が既に暗転していまっていたせいで何も分からなかった。

こなたの顔が分からないと言っているのを察し、光子は二人に近くの椅子に腰を下ろさせると独り言のような話し始めた。

 

「お前さんが倒れた後、ワシがお前さんら一団を見つけてな。んで、狼どもを追っ払いここに連れて来たっちゅーワケじゃよ」

 

「はぁ…」

 

「じゃが、お前さんは風邪をひいて体調が不安定だったからのぉ。アナッ子が薬を飲ませ、ワシが作った医療カプセルの中に一時間。昏睡状態に近いままで爆睡しておった。

んで、一時間したら殆ど大丈夫じゃったからあそこに移して寝かせていたっちゅーワケじゃよ。アレ存外にエネルギーを食うからの」

 

「………。」

 

「という訳じゃ。分かったか?」

 

「………取り合えず」

 

光子は自分たちの恩人ともいえるような人物で、お陰で早く体調が回復したという事。

これがこなたの理解した事だったが、直後に生じた疑問が頭を過り知らぬまに自身で口にする。

 

「…アレ。ならここって山脈の中…」

 

「うむ。しかし、ワシの研究所の中は安全じゃし、混在する霊脈の影響は皆無じゃ」

 

「…それ、僕もさっき聞いて疑問だったんですけど、どういうことなんですか?なんだかBlazさんや刃さんは納得してましたけど…」

 

「……お前ら、本当に魔導師の類か?特にディア坊はずっと起きてたじゃろ。何も感じんかったのか」

 

「…まぁ違和感程度しか」

 

「…ま、仕方なかろう。恐らくクライシスの坊主が話さなかったんじゃろうし」

 

「え゛…団長の事…」

 

 

 

 

「なんじゃい。あ奴言わなかったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワシは元旅団メンバーじゃぞ?研究チームのな」

 

 

「「え!?」」

 

 

声をそろえて驚く二人に、本当に知らなかったのかと逆に関心する光子は、自分の記憶を思い返しながら語り始めた。

 

「元っと言うが、実際は短い間じゃった…三十年ぐらいじゃったかの?あ奴の組織は元はネクストACを主力としたものが基礎というのは知っておるか?」

 

「はい。今でもリンクスのメンバーは居ますから…」

 

「そ。ワシも元はその関係で参加しての。ネクストの修理とリンクスに合わせた機体のチューン、そして装備の整備と調整。それがワシの役割じゃった」

 

現在二十人を超した旅団中枢メンバー。その中でACネクストを操るのは団長であるクライシスを含む数名。

しかし今はUnknownがコジマ粒子を使い暴れるので封印処置を取られてしまっている。なので使用したいのなら絶対にクライシスからの直接の許可が必要となっている。

現在ではコジマ粒子を搭載していないACの採用も検討されており、既に採用試験も始まっているという。

 

「じゃがアン坊がコジマ粒子で暴れるからのぉ…案の定、クライシスの坊主が封印を決定しワシはそれを最後に旅団を辞めた。ま、その時はネクスト専門で参加しておったからの。やることも無し…ワシは一人ぶらり旅というワケで様々な世界を旅した。

そんで流れ流れてココに来たっちゅーワケじゃよ。

分かったかの?」

 

取りあえずは、と面食らった顔をしていたディアーリーズは未だに信じられないという表情で我を取り戻す。

真意定かではないので帰還して本人に聞けばわかる事だが、どうして真実味のある言葉にそうなのかと納得してしまう。それでも聞くまでは納得しないと自分に言い聞かせ一先ずは口を閉じる。

 

「で。話は戻るけど、ココが安全…っていうか気分が悪くならないってどういう事よ?」

 

「それは簡単じゃ。ワシの研究所は火口の近くにあるからの。他の場所よりも霊脈の流れは混ざり合ってないんじゃよ」

 

「…それって、この火山に集まる霊脈だけだからって事ですか?」

 

「おう。物分かりが速くていいの。ますますお前さんが欲しくなったわディア坊」

 

「あ…はい、どうも…」

 

 

光子の話を簡単に言うと

山脈にはそれぞれの霊脈の種類が存在し、火口から離れた場所に行けば行くほど様々な山からの霊脈が集まり混ざり込む。

具体的な例題としてAの山とBの山があるとしよう。

どちらも山の中心部である火口に向かい霊脈のエネルギーは集中しそれが一つの莫大なエネルギーとなる。しかしそれまでの道のりでAの山とBの山は一部が繋がっているのでそのどちらもが融合せず混ざり合った状態で火口へと向かうため、空気中などから魔力を集めて使う魔導師たちにとっては居心地はかなり良くない場所となる。

いわば二つの霊脈のエネルギーが水と油のように混ざり合わずそのまま存在しているので集めた魔力が異なり、体に異変を起こすこととなる。

それが原因でこなたは倒れたのだ。

 

「じゃが、一つの火口に向かえば向かうほど霊脈の種類は絞られていき最終的にはこうして一つの霊脈のエネルギーだけが集まるということになる」

 

「なら火口付近にあるこの施設は…」

 

「ん。ま、お前さんらにとって悪影響は先ずないじゃろ」

 

 

確かに、言われてみればと手を握るディアーリーズは集まる魔力が綺麗な色をしているのに気づき上っている時よりも気分が言いと独り言のように呟いた。

 

「ここは霊脈の近く。故に魔力の純度は極めて高い。極少量の魔力でも威力は馬鹿にならんからな」

 

「逆に気分良すぎて気持ち悪いわ…」

 

「そこは慣れじゃ。それに、お前さんらもそろそろ行った方が良いぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 研究所内 温室区画 =

 

研究所の中にある温室区画には様々な植物が存在し中には寒い地では絶対に育たない温暖地でしか無い植物も更に区画を切り分けられて専用の部屋で育てられている。

だが今回はそこに用はなく、Blazは大剣を使ってモミの木を一本、一撃で切り倒した。

 

 

「うぉぉらぁッ!!!」

 

音と共に皮がはがれ倒れていくモミの木は三階建ての建物ほどの大きさで、それを必死な顔で刃が受け止め、その後ゆっくりと地面に下す。

近くに置いていたリフトにのせると軽く息を吐いて手を払う。

 

「っと…重いけど…これで終わりっと」

 

「しっかしデケェな…どんだけなんだよコレ」

 

「火山の中だからそこそこ暖かいし、土も栄養分が高いから雑草も生えにくいし木にとっては良い場所だな」

 

しっかりとしたモミの木はアナスタシアが叩くと音を出す。葉も育っていて腐っている個所は殆どない。また木そのものも大きく、切られた跡の丸太は彼ら三人が座っても余裕のあるほどだ。

 

「雑草連中は寒さでもしぶとそうだかなとは思ってたが…殆どねぇな」

 

殆ど地面がむき出しではあるが、そのお陰もあってなのか木々は普段彼らが見るものよりも数回り大きいものが殆どで自分たちが小さくなったのではと錯覚してしまいそうになる。

また木の形も良いものが多いのでジョーカーは木の上で寝ており、今は殆ど枯れているが桜の木の下では蒼牙が柔らかい地面に腰を下ろして眠っていた。

 

「逆にこんなに雑草がないっていうのも違和感がありますよね」

 

「あたしも同感だ。慣れるのは難しいよ…」

 

「慣れる慣れないは別に関係ないと思うぜ。アイツ、そんな事眼中にないと思うからよ」

 

「…どういうことですか?」

 

「簡単な話だ。ココはアイツが空気の正常化とか変な薬作るために作った部屋だからな。効率重視。余計なのはいらねぇってだけさ」

 

彼女が科学者などであるならそれは当然の事か、と刃は納得する。

研究のためにこの部屋を作ったのなら確かに極力効率の悪いものなどは排除するはず。

その証拠に余計に栄養分を奪い、成長する雑草の類は殆ど見当たらず目を凝らして探さねば見つからないくらいだ。

 

「兎も角。これで仕事はしまいだが…」

 

後はディアーリーズたちが戻ってくるだけで、アナスタシアもここには少し用事があったらしいがどうやら直ぐに終えられたようで、もって来たポーチの横にはいくつかの小さな魔法瓶らしきのもがぶら下がっている。

二人も特に用事はなく仕事だけだったので直ぐに帰りたいと考えていたのだが、肝心のディアーリーズとこなたの姿が見当たらず何処に居るのかと気になっていた。

 

「あの二人、どうしたんでしょうね?」

 

「そこら迷ってるんじゃないの?ここ広いし…」

 

「けど、あっちには光子さんが居るんですよ?迷う事は絶対に―――」

 

話し合っていると部屋の扉が開き、ようやく来たかと三人がそろって振り向くが、入って来たのはブランカだけで二人の姿は何処にも見当たらず思わず呆けた声をアナスタシアが出してしまう。

 

「へ?」

 

「ブランカだけ…?」

 

「あの二人が居ないって…どういう事?」

 

しかしブランカが何か口に加えているのに気づき、手に取ってみると二つに折られた一枚の紙に何か書かれていた。

 

「…手紙…?」

 

「なんて書いてんだ」

 

「…あ、光子さんから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 御免。二人は後でちゃんと送るから、先に帰っててちょ。私はちょっとこの子らに欲j…用事ができたので。んじゃ        by光子 =

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

「ええっと…」

 

「…ああ、そういえばBlazさん言ってましたね…」

 

「ああ…」

 

 

浅上光子の性格はズボラで自分に正直。そして

 

 

 

 

両方ともバッチ来い。との事。

 

 

 

 

「あの二人好みだったのか…」

 

「ディアの野郎はともかくあのチビを食うとは…変な趣味してんな」

 

「いや、突っ込むところそこですか」

 

当然、手紙通り二人が光子に捕まっていたので(本当なら抜け出せるはずだが)Blazたちが割って入り救出。ディアーリーズは彼女のお気に入りだったのか頑なに離さなかったが強引に引き離し、一応は事なきを得た。

だが諦めが悪いのか一旦ラウンジに集まってくれと言い渡され、警戒心が高いままの二人を連れて一旦言われた通りにラウンジに向かった。

 

 

「…って、三人とも分かってて救わなかったんですか!!」

 

「お前はともかくチビまでも範囲だったのは意外だったけどな」

 

「危うく一線超えさせられそうだったわよ、この馬鹿ッ!!」

 

「まぁ光子さんがどんな人間が好みなのかは私たちもまだわかり切ってませんから…」

 

「濃厚だったね…」

 

「変な事言わないでくださいッ!!」

 

道中、ブランカに慰められるこなたと白い目でディアーリーズを見る蒼牙が居たが、そこまで入り込むのは野暮だとBlazが言った事で必死に弁明する彼を無視し歩いていた。

 

 

 

 

 

= ラウンジ =

 

 

光子が仮眠や徹夜の時に使うラウンジに集まった彼らの前にあったのは研究室同様に散乱した資料の数々。更に散らかった彼女の服も所々にあり、男三人はある意味で目のやり場に困り果てていた。

着替えた服なのかそれとも洗濯した後なのか。もはや見分けが付かないような状態で堂々と置かれており、彼女のあまりにズボラな性格がそこに体現されていたとディアーリーズは改めて知った。

 

「…色々と酷いですね」

 

「アイツ別に下着見られても平気なタチしてるからな。見る方は嫌だけどよ」

 

「それに研究資料に足跡ついてますし…いいんでしょうかね?」

 

「別にいいんじゃねぇか?アイツの研究は大抵試行錯誤が続くからな。そこらのモンは失敗作なんだろ、どうせ」

 

「失敗作…」

 

本当にそうなのかと思うこなたとアナスタシアは足元にあった資料の一枚を拾うと、そこに書かれていた内容に見覚えを感じた。

 

「…あれ、コジマ粒子がどうのって書いてる…」

 

「こっちは人の体と…機械…義手技術?」

 

そのほかに大気中の魔力を充填しエネルギーに変えるブースター

同様にプライマルアーマーのような全周囲防御波シールドの生成機関

果てはコジマ粒子を浄化し且つその浄化された粒子をエネルギーにして運用するという新型機関のラフプラン(ただし面倒だったのか文章が途中で投げられている)

そしてプロトタイプ・ネクストである「アレサ」の改良プラン。しかしこちらは根本からでないと不可能と書かれ中止されている。

 

「アイツ、光子の奴は機械工学だけじゃなくてバイオニクスとかも知識持ってるからな。かじった程度だって言ってたが魔術も持ってるらしいけど」

 

「にしては…随分と書かれているものがぶっ飛んでるというかなんというか…」

 

「下手すりゃ数年先を行く技術も稀に生まれる」

 

適当にソファに腰かけたBlazの言葉に普通に関心の声を出す。

確かに殆どラフプランや原案段階で投げられたものが殆どだが、一部のものは設計、完成一歩手前の物もあり、先ほどの魔力を利用した新型ブースターも試作段階のものが既にロールアウトしている。

 

「あんな性格して凄い人なんですね…」

 

「ああ。あんな性格でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その”あんな性格”の女に助けられた馬鹿モンらは何処のどいつじゃっかたの?」

 

また服を着替えたのか、夏服のような短パンとシャツ二枚の服装でやってきた光子は意地の悪そうな顔で言い、その視線をディアーリーズとこなたの二人に差し向ける。

事実、確かにあのままヴォルフたちに襲われていたら全滅ないし壊滅は免れなかっただろう。それには誰もぐうの音も言えず、光子は勝ち誇った顔で「カッカッカッ」と笑い声をあげた。

 

「………で。呼び出した用はなんだよ」

 

「ん。実はお前さんらに渡したいものがあっての」

 

「…渡したいもの?」

 

んむ、と頷くと光子はディアーリーズ、こなた、刃の三人に小さなペンダントを渡す。

銀色のチェーンに透明の小さな球体が収まったもので、受け取った三人は不思議そうに眺めると一体何なのかと訊ねる。

 

「…これって…?」

 

「金属加工をしただけじゃよ。ワシは詳しくは知らん」

 

「はぁ…?」

 

「知りたいのならヴァレリアの奴にでも聞くことじゃ。あ奴の方が知識はあるし、何より専門じゃからの」

 

「ヴァレリア…さん?」

 

「南の諸島に住む魔術専門の科学者だ。隠居してくたばったかと思ってたが、まだ生きてたか」

 

頭を掻きながら説明するBlazは呆れた様子で答え、同意見だったのか光子も頷いて話を進める。

 

「んむ。あ奴ああ見えてしぶとさだけは常人をぶち抜いてるからの。もう百年くらいは生きてても不思議じゃぜ」

 

「全くだ」

 

二人の話からどうやら老年の人物らしいというのを理解した三人は、それでも話についていけないので二人に詳しい説明を求め挙手する。

 

「ええっと…Blazさん、その人って一体…」

 

「さっきも言ったが魔術を専門に研究してる爺さんだ。研究資料つってあちこち回ってたけど、最近になって遂に年になったらしくてな。自分から南の島に隠居する、なんて言い出したんだよ」

 

「けど、あの人って研究好きだから多分隠居してもやる事同じじゃないか」

 

「その結果がコレじゃよ。ちゅかお前さんと同じ研究してもおらんかったか、あ奴」

 

「あ。そういえば」

 

「説明のハズが雑談になってますよ…」

 

話が脱線し始めたのでディアーリーズが仲介し、おっとと小声でぼやいた光子は間を置くと話を纏めて彼らに答えた。

 

「―――兎も角じゃ。ワシはあ奴からそのペンダントに使う金属の加工を頼まれただけでの。何をどうするのかはなーにも知らん。聞きたいのであれば本人に聞けい」

 

自分はただそうしてくれと頼まれたと答えた光子に、仕方なしと納得したディアーリーズと刃。しかしこなたはそれに納得するもののどうして知らないのかと非難し、彼女の眉を少しだけ寄せさせ、遠まわしではるあが喧嘩を売っていた。

 

「一応、ワシも魔術の心得はあるが宝石だけじゃ。あとの事は知らんし、これにどんなのが組み込まれているかも解らん。お前さんが言っておるのは小学生に高校の勉強を理解しろと言っているのと同じじゃよ、こなッ子」

 

「アンタよくそれで魔術使えてるわね…」

 

「こういうのは感覚で覚えるタチじゃからな」

 

開き直った光子に苛立つこなたは強化の魔術で拳を作るが、ディアーリーズがそれを必死に制し一触即発の空気を止めようとした。

 

「こなたッ…」

 

「………。」

 

「残念じゃがワシを殴り飛ばしても理解できるわけではない。科学もそうじゃ、拳で解明できれば人類は宇宙どころかボイドの果てを飛ぶこともじゃし苦心している次元航行など片手でできてしまう。科学も魔術も、開拓し研究するということでは同じなのじゃて」

 

「それは…」

 

まぁ一理ある、と内心で納得したこなたはそれ以上は何も言えず、結局光子の考えに押し負けてしまった。

しかしそんな彼女の不服そうな顔を見かねたのか、白衣のポケットの中に入れていたあるものを手渡す。

 

「…ま、ワシもまだまだ未熟じゃ。それだけは勘弁してくれい。代わりにお前さんにだけワシからのプレゼントを渡すのでの」

 

「プレゼント…?」

 

取り出したのは小さなルービックキューブのようなもので、よく見る一面の色柄がそれぞれ違う状態で手に取って弄ってみれば普通に回して遊ぶこともできる。

こんなものが渡したいものかと、からかっていると思い睨むが渡した本人はそうではないと断じ、彼女にも分かるように説明した。

 

「それは余計な魔力だったりを吸い取る物での。ヴァレリアの奴が余分に置いて行ったものじゃ。この辺りだけでじゃなくてもそういう場所では効果があるはずじゃぜ」

 

「へぇ…」

 

「ただし見た目通りちんまいのでな。吸える魔力に限りがあるから、定期的にガス抜きせんと………吹っ飛ぶぞ」

 

「なんで!?」

 

「さての。本人の弁じゃ。自分でそうなったんじゃろ。ガス抜きは面の真ん中に青色がある所を押せば出てくる。使うにしても場所は選ぶのじゃぞ」

 

突然爆発すると言われ誰もがそれに驚き、その原因となるであろうキューブに目を集める。だが、しっかりと管理すれば問題はないと補足を言う光子の顔が見なかった慌てたようなものだったのでどうやら本当らしいと信じ、不安ながらも手元に置くことに決めた。

 

「使う時はどうするのよ」

 

「それは問題ない。勝手に吸うからの」

 

曰く、所持者の魔力を調べ、それにあったものは吸わず異なったものだけを吸い取る、いわば魔力などの空気清浄機というのがそのアイテムらしい。

似たようなものを作れそうな気もするが、本人が他意はないと言い張るので取りあえずはと受け取ったこなたはキューブを腰のあたりに付ける。他のところだと当たって痛そうだからだトカ。

 

 

 

 

「おお。それとBlaz。お前さんに頼みがある」

 

「あん?」

 

「これを竜坊に渡してもらいたいでの」

 

そう言って彼女が投げたのは一つのメモリステックを受け取ると一体何のデータか、と目で訊ね、言わずとも分かっていたのか直ぐに答える。

 

「中身はあ奴にしか分からんものじゃ。余計な詮索はせんほうが身のためじゃぞ?」

 

「…なんで俺だよ」

 

「お前さんの方がなんでも受けてくれそうじゃから」

 

「ヴォルフどもに食われてしまえ」

 

「じゃが断る」

 

 

 

モミの木も手に入れた。要件も済んだ。あとは帰るだけ。

だが外は吹雪なのではないかと言う不安要素は残っている(室内にしか窓がないので)のでまた極寒の中を行くしかないのかと気だるそうにしていたBlazだったが、それを見て何を思いついたのか光子が彼らに提案をする。

 

「外は吹雪も止んでおる。じゃがそれでは逆に彼奴ら(ヴォルフ)に見つかってしまうじゃうろて」

 

「そん時はそん時だ。こちとら仮面ライダーとリア充付きだからな」

 

「それ僕ですか」

 

 

「カッカッカッ、じゃがそんなのめんどくさかろうて」

 

「…光子さん。なにか提案でも?」

 

「んむ。お前さんらに丁度使ってもらいたいものがの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光子の言う通り、外は一面の青空と雪景色がだけが広がり吹雪は止んでいた。

これなら一気に麓に下れると、Blazたちは直ぐに出立し、彼女の研究所を後にした。若干二人はもう二度と来たくない、と内心で呟きその内の一人を光子が魔眼の如く見ていたのを二度と振り向かずに。

 

 

しかしその出立直前…

 

 

 

「ふむ…刃坊」

 

「あ、はい…(刃坊…)」

 

唐突に呼び止められた刃は振り向いて彼女の話に耳を傾けるが、直後に胸下で腕を組んだまま沈黙し、しばらく彼の立ち姿をじっと見つめる。

一体なんなのかと思い、訊ねようとするが僅かな差で光子が再び口を重く開く。

 

「………お前、ワシと…」

 

「え…?」

 

「…いや、思い違いかの」

 

直ぐに目をそらしてぼやいた言葉に、刃は過去の記憶を漁りながら切り返す。

話し方と視線から何か思い出していると気づいたのだ。

 

「…?もしかして前にお会いしたことが?」

 

「いや。多分見間違いじゃろうて」

 

だがそう断言し先ほどまでの自分を否定した光子。一方の刃は口では大人しく納得するものの過去に出会っていた事がないかと覚えている限り記憶を掘り返していた。

どうやら彼女が見間違えるほど自分に似た人物が居たのか、それとも本当に自分と会っていたが忘れているようだ。

しかし。もういいぞ、と興味を亡くしたかのような言い方で話を済ませた彼女にこれ以上言うのは野暮だと思い、刃もそれ以上何も言う事はできなかった。

 

「…では、失礼します」

 

「…うん。気を付けて帰るのじゃぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――仮面ライダー」

 

間違いではなかった。と確信を得た光子はぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

快晴の空の下で雪の中を疾走する。冷たい冬の風が体を突き抜けていくが今では着ている服装が熱すぎることもあり丁度いい体温に保たせてくれるので気分は段々と高揚していく。

表面に積もった雪は音と共にかき分けられ彼らの通った後にはヴォルフたちの足跡と擦ったような跡が残る。

まだ若く力のある赤兎とジョーカーの二体が口にしっかりと縄を加え、木を運ぶための大型のそりを引きつつも背にそれぞれの相棒を乗せる。

 

「二体で軽々とは凄いものですね!」

 

「赤兎もジョーカーも若いからな。力は有り余ってるんだろうな!」

 

 

「ぐるるっ…!」

 

「………。」

 

「…本当に有り余ってそうだ」

 

苦笑して自分の足元の危険を感じる刃はいつか振り落とされない様にと、しっかりと赤兎の背に手を置く。

その隣ではアナスタシアがエースの背に跨り共に雪の山を駆けおりている。

足並みは揃っていないが、先頭を登りの時と同じくキングが駆けその後ろにジャック。そして同列にクイーンとエースが駆けているという状態だ。

 

「山の天気は変わりやすいっていうけど、これならいけそうだな!」

 

「てかお前四体も居るんだからちっとは手伝えっての!!」

 

「エースはやりたそうだったけど拒否されたし、あとのみんなは「面倒」って…」

 

空の様子を見て言うアナスタシアに手が空いているならと言うが本人もしたいのは山々、しかし彼らの所為でありお陰でもあるので贅沢も言えず、アナスタシアは敷かれた状態のため手助けする事はできなかった。

 

「………。にしても…」

 

「…ん?」

 

「あの二人、どこまで行ってんだ?」

 

「あの速さだから…そろそろ麓じゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりに乗って…ね。つかディアの奴、大丈夫かよ。アイツ、ソリにまで引っ張られていたぞ」

 

「…生きてるんじゃないですか?」

 

光子から渡されたソリに乗って先に下山したこなたとディアーリーズ。

しかし彼の方のソリには何故かターボエンジンが搭載され、自動的に起動する仕組みとなっており、最高時速は五百キロという驚異のスピードを叩き出す。

それを知っててか蒼牙はタイミングを見て離脱しており、結局ディアーリーズは制御も失ったソリでジングルベルと晴天の宇宙を飛んで行った。

 

 

 

 

その光景を最後に遠くから見ていた三人は、きっと生きているだろうとそれなりに信じ、助けるのを後にして山を下りて行った。

 

―――一応は大丈夫だろう

 

そう信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ロキ。あとでアヴァロンに行き、ディアーリーズを回収してきてくれ」

 

「え?アイツなら普通に帰って…」

 

「………頼むぞ」

 

「え、あ…分かった」

 

 

 

 

 

オマケ。

簡易的なキャラ紹介

 

 

浅上光子 (イメージCV : 國府田マリ子)

ヴォルフたちが縄張りとする山脈に研究所を置く女博士。

生体工学、バイオニクスなどにも知識を持ち、魔術も宝石魔術のみではあるが得意とする。

かなりズボラな性格で研究所(自宅)はかなりの散らかりよう。その為、あちらこちらに彼女の服が散らかっていたりするのもよくある事。また老年のようなしゃべり方が特徴で若い男には「~坊」女には「~ッ子」と後ろにつける。

性別は両方ともOKで特に若い男(大体十代後半から二十代。それでなくても見た目がそうであればOK)が好み。

自分に正直で諦めや飽きが速く研究も大半は途中で投げ出すことが多い。しかし、成功すれば数年先を行く技術だったりを平気で作り出す。

元は旅団に所属していたが、三十年ほど前に脱退。その後はぶらり旅をして現在に落ち着いた。尚、旅団の前にはレイレナード社に所属。しかしリンクス戦争の時に一人逃走し後にクライシスたちにスカウトされたとの事。その為、彼だけ「クライシスの坊主」と呼ぶ。

 

 


 
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