ここは、美しい庭園。
たくさんの花、豊かな自然。
そこに少女はいた。
「ん~っ、今日もいい気分ですね~」
少女が気持ちよく背伸びし、庭園を歩く。
……しかし、ここは地上ではない。
全てが作り物の、偽りの楽園。
「悪」を幽閉する、「最悪」の世界。
少女はまだ、その事を知らない。
そんな少女のところに、二人の人物が現れた。
ミロと、ダンピールの男である。
「どうしたんですか?」
「……お願い、ここから出ていって」
「あの、いきなりどうしたんですか? 美しい花、豊かな自然……まさに楽園ですよ?」
「いいえ、ここは本当の楽園じゃない。あなたを逃がさないようにするための牢獄よ」
「そんなわけ、ありません! だって、食事とかも、全部、ここで、用意してくれていますし……」
「これでも?」
なかなか真実に気付かない少女。
そんな少女を気付かせるために、ミロは庭園の花を殴った。
すると、庭園の花はあっという間に崩れた。
それを見た少女は愕然とした。
「う、嘘でしょう……!」
「嘘なんかじゃないわ。……いえ、ここが嘘よ。本当の楽園は、教会の外にあるわ」
「そんな事、あるわけ……」
現実を受け入れられない少女。
そんな少女に追い打ちをかけるように、ミロは次々と庭園の花を崩していく。
「どう? これでも?」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ……! 楽園を崩されるなら、死んだ方がマシだ……!」
そう言って、少女は懐から短剣を取り出した。
そして、自分の心臓に突き立てた。
「……あーあ、脱出できずに死んじゃって」
倒れている少女を見て呟くミロ。
「しょうがないわね、大きなお世話だろうけど」
ミロは少女から短剣を取り、腕に突き刺した。
身体から血が吹き出て、少女にかかる。
すると、倒れていた少女は息を吹き返した。
「ボクに何をしたんですか」
「……生きていてほしい、それだけよ」
「おい、何故こいつを生かした? こいつは人間だろ? 人間の命など……」
しかし、ミロは平然とした様子でこう答えた。
「なんか、放っておけなかったからよ。
あなたは吸血鬼として生きてるから、人間の命なんて、どうでもいいんでしょ?
……でもあたしはこいつを放っておけない。何故かは知らないけど……ね」
「ふん、仕方ないな」
「ありがとうございます。あなたの名前は……なんて言うんですか?」
「あたしは、ミロよ。そっちこそ」
「……ボクは、ユミル・ハーシェルといいます」
「ユミル、いい名前ね。一緒に行きましょう」
「いいんですか!?」
「おい、こいつを連れて行くのは……」
「いいのよ、旅は道連れ世は情けってね」
こうして、ユミルはミロ達と共に、この教会からの脱出を図るのであった。
「へえー、そんな理由があったんですか」
「うん。で、あたし達は人間を憎んでるわけ。
でも、ユミルはもう人間じゃないわよ? だって、あたしの血で生き返ったんだから」
「……まあ、そうでしょうね」
ミロ、ユミル、男は楽しく話をしていたが、その話の中には人間に対する憎しみがあった。
「さあ、人間の世界から脱出するわよー!」
張り切って先へ進むミロ。
しかし、途中で転んでしまった。
「あいたたた……」
「張り切り過ぎないでください、ミロさん」
「はいはい……」
教会を歩いていく三人。
まだ地下三階なので警備は手薄だが、
階を上がるに連れて徐々に厳しくなるため、一切気は抜いていない。
「教会の武僧達ってそんなに強いんですか?」
「まあな」
「こいつに『戦うな』って言われちゃって」
「……うるさい」
この男とミロは、仲が悪い。
その様子を見たユミルはくすくす笑った。
「何がおかしいのよ、ユミル」
「いや、やっぱり吸血鬼らしいなー、って。ほら、吸血鬼って傲慢で自己中で……」
―ぽかっ!
「あいたたた」
余計な事を言うユミルを、ミロは殴った。
「そんな茶番はいいから早く脱出しないのか?」
「「……あ」」
男に言われ、二人は地下二階へ向かうのであった。
地下二階へ行く階段には、たくさんの武僧がいた。
「うわあ、随分と警備が厳しいわね」
「当たり前だ。俺達の脱獄を防ぐためにいるからな」
「……どうします? ミロさん」
「そうね……いくら力は落ちているとはいえ、相手は人間だし、素手でも大丈夫かしら?
あなたに任せるのも、癪だしね」
「いいのか? 本当に」
「ええ、分かったわ! 行ってくる!」
そう言って、ミロは武僧達に向かった。
「誰だ貴様は……脱獄者か!?」
「はあっ!」
「ぐわっ!」
ミロが武僧Aを蹴り、攻撃する。
今度は、武僧Aが怯んだ隙に爪で切り裂く。
「しばらく寝てなさい」
「くっ、だがこっちにはまだ三人いる!」
「ふんっ」
武僧Bが鈍器をミロに向かって振り下ろすが、ミロはこれをかわし、武僧Bの懐に入り込む。
「でやあっ!」
「うわあ~!」
そして、武僧Bを投げ飛ばした。
武僧Cはその様子を見て慄く。
「こ、こんな女に人間が負ける事など……!」
「あり得るのよね~」
そう言って、ミロは爪で武僧Cを切り裂いた。
急所は外しているので、死んではいない。
「す、凄いです、ミロさん……!」
「……力が落ちているとはいえ、流石は真祖の娘。俺以上の身体能力の持ち主だな」
「さあ、後はあなただけよ!」
「ち、畜生っ! こうなったら破れかぶれだ!」
そう言って、武僧Dが鈍器でミロに襲い掛かる。
だが、出鱈目に振り回しているので、素早いミロに命中するわけがなかった。
「はい、おしまい」
そして、ミロは武僧Dの首を締めた。
「これで大丈夫ね」
見張りを全員倒したミロは、ふう、と汗を拭う。
ユミルは彼女の活躍を見て拍手した。
「凄かったですね、ミロさん! 素手で、武装した人間を全員倒すなんて」
「……ははは」
「だが、護身程度に武装はした方がいい」
「まあ、あなたの言う事も一理あるけど、あたし、武器って使った事がないのよね」
「ならば今度、教えてやろうか?」
「えーと、考えておくわ」
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2話目。ここでミロは、彼女にとって重要な人物に遭遇します。