かつてこのホウエン地方は、二つの大地に分かれていた。
北側の大陸は大地を南側の大陸は海をそれぞれ崇拝していた。
北側の大陸では大雨による大洪水が起こっても強い日照りがそれを止め人々を救い、
南側の大陸では日照りによる干ばつが続いても大雨がそれを潤わせ人々を救う。
ある日、偶然にも2つの大陸が混ざりふとしたきっかけでお互いの意見が食い違っていることが判明し、争いを始めた。
やがてその争いは2匹の神にまで手が伸びその2体を戦わせるまでに激しくなっていた。
人々が目覚めさせたのは
「紅き大地の化身」
「蒼き海の化身」
その化身たちはお互いに闘争本能を見出し戦い続けた。
繰り返す日照りや噴火、大雨や津波。
犠牲となった人やポケモンは数を知らない。
どれくらい戦い続けていたのかも分からない。
そこにどのような力があったのかも、わからないまま。
ある時、その戦いの地に一人の旅人が訪れる。
旅人は懐から一つの「珠」を出すとそれを輝かせ「もう一つの化身」を呼び寄せた。
「緑の空の化身」
その咆哮と旅人が再び出した2つの「珠」の輝きにより争いは収まり2体の「化身」は再び眠りについた。
北側の大陸と南側の大陸はくっつき一つの大陸となった。
その後、化身が何処へ行ったのかや、旅人の行方を知るものはいなかった。
それから、幾千年の時が過ぎ去った。
「大地の力で世界を」
「海の力で世界を」
「「手に入れる」」
再び繰り返されようとする歴史。
動き出した少年少女。
「よし!行くとしますか!」
「いよいよ始まる・・・・僕達の挑戦が!」
「絶対強くなってやる!いくぜ!」
既に物語は、始まっている
第1話~ポケモントレーナー・クウヤ誕生!
真っ暗闇の中、炎が赤々と燃え上がりかつて建物があったという面影は全て消え去っていた。
そんな灼熱の中、上空に向けて一台のヘリコプターが飛んでいく。
そこに乗っている男は泣き喚く赤子を小脇に抱えにやりと口角を上げている。
「今日からわが手足となり動いてもらうぞ・・・。
「あの男」の子だとすれば最強の兵器にだってなれるからな・・・・・くくく・・・・」
男の見下す先の地では、女性を抱えた男が1人、己の無力さを悔いぎっと歯軋りを入れ涙ながらに叫ぶ。
「っクウヤアァァ!!!!」
そこで全てがブラックアウトされ、大きい爆発音が鳴り響いたと思った瞬間にクウヤは目を覚ました。
慌てて上半身を起こしたが、特に異変は見当たらず上空には星が輝き、隣には自分のポケモンたちがすやすやと寝息を立てていた。
「ゆ・・・・・ゆめ、か。
そういや・・・・あの日もこんな感じだったけ。
オレが、ポケモントレーナーになった日」
少年は再び目を閉じる。
思い返すのはつい先日の事。
一本道をワゴン車が通り過ぎ、その中でクウヤは寝ていた。
コトキタウン、と書かれた看板を車が通り過ぎた時、彼の隣にいた少年はクウヤを揺さぶり起こす。
「クウヤ、起きろ、クウヤ」
「うっはあいぃ!!
・・・・あれ、ここどこ?」
「やっと起きたかと思えば、忘れたの?」
クウヤを起こしたのは、紫髪と群青色の目の少年、セイ。
クウヤの義兄だ。
実を言えばクウヤに今、実の両親はおらずルネシティのエリート一家・・・貴一家に引き取られたのだった。
彼を最初に発見したのは、ルネジムリーダーとその弟子だったのだが、引き取る事で己の名声をあげるためにそこの夫妻が引き取ったのだ。
実際、家族として扱われず、ほっとかれぱなしだった。
それでも今のように明るくて活気のある少年になれたのは
夫妻の実子であるにも拘らず優しく接してくれた兄・セイや貴一夫妻の素顔を知る者たちのお陰だ。
セイはここに自分達がいる理由を、両親の陰口を聞きながら説明した。
「今日はコトキの従兄妹のうちにお泊りだよ?」
「え・・・ああ、忘れてた! オレはずかしぃ~!」
「っもう・・・・・」
(あの程度のことも覚えられんとは)(所詮他所の子ね)
「とにかく、もうすぐつくからまた寝ちゃだめだよ。
ロゼリアも」
「うん、わかった」
一方その頃ミシロタウン―どんな色にも染まらない街―にある研究所では誰かが慌てていた。
どうやら何かを探しているようだ。
「おーい、リクガぁ!
アチャモのモンスターボールはどこだったか?」
「ここだよ・・・・しっかりしてよ父さん」
「おぉ、すまんすまん!行ってくる!」
父親が出て行ったあと、少年は小さくため息をついた。
「全く、慌てん坊なんだから・・・ねぇ、キモリ?」
「きぁも」
緑色のポケモンは、少年に同意した。
そのころコトキタウンでは、クウヤ達は既に街の中にある従兄弟の家について、クウヤは夕方までに戻ると良い残し外に出て行った。
「・・・」
そんな弟の姿を見つめながら、セイは手に持ってた「それ」を胸に抱き、考え込む。
傍らには彼のポケモン、ロゼリアが心配そうに主を見つめる。
「ろ、ぜぇ」
「大丈夫だよロゼリア・・・・僕は大丈夫。
クウヤのためだから・・・・・。
証明しなくちゃ・・・僕達は大人の操り人形じゃないことを・・・・」
そんなセイをよそに街を好奇心に身を任せ見て回るクウヤ。
足元をジグザグマが通り過ぎたり、上空をスバメが飛んで行ったりするのを見る度彼は胸のうちからわくわくしていた。
今12歳であるためいつでもトレーナーとして旅立つ事は出来るが、貴一家の夫妻があれなため旅に出るどころかポケモンを持つのさえ許されなかった。
ずっと、ポケモンと一緒に冒険したかった。
「いいなぁ・・・・オレも旅に出てもっと世界を見たい。
せめてポケモンが欲しいよ・・・・」
「うわああああああああ!!」
「え、ななな、なにぃ!?」
突然の叫び声に驚き、その声のしたほうへ走っていく。
生来の正義感の強さゆえ、こういうことをほったらかしにはできないのだ。
声のしたほうに到着すると、白衣の男性がポチエナに追いかけられていた。
「おっちゃんが襲われている・・・!?
おーい、だいじょ
「ひぃぃ!!!」
・・・・・じゃねぇよな・・・・」
ふと、二人の目がバッチと合ってしまった。
男性はクウヤに助けを求める。
「き・・・・・きみ! 頼む! 助けてくれないか!!」
「え!? でもオレポケモンまだもってねぇよ~~~!!」
「・・・・そうだ! やむをえない!
その鞄にモンスターボールが入っている!
そのポケモンで戦ってくれ!」
「鞄・・・これか!」
彼の言う鞄がすぐに分かると、クウヤは素早く中に手をつっこみモンスターボールを掴むと思いっきり投げ飛ばす。
ボールから光が走り姿を現したのは、オレンジ色でふわふわしている、鳥のような姿をした愛らしいポケモンだった。
「え・・・」
「そのポケモンはアチャモ!
ひのこ、つつくという技が使える!」
「わ、わかった! アチャモ、つつくだ!」
「ちゃ!」
意外と素直にクウヤの指示通りに動く。
つつくはそのままポチエナに命中したが、反撃の体当たりを食らう。
すぐに体勢を立て直すと、彼の言葉に合わせて2発目の体当たりを交わしひのこを浴びせる。
その攻撃を受けたポチエナはそのまま逃げて行った。
その光景にクウヤはポカーンとしたかと思うと、手足を震わせ笑った。
「すげぇ・・・・!
アチャモ! お前すげぇな! ホントスッゲーー!!」
「ちゃも・・・・」
クウヤの発言に対しアチャモは戸惑ってしまった。
「いやー、キミ。
さっきは助かったよ、どうもありがとう」
「あ? いいよそんくらい!
おっちゃんこそ大丈夫? けがしてねぇ?」
「ああ、キミのお陰だよ。
私の名はオダマキ、ポケモン研究家だ。 キミは?」
「オレ? オレの名前はクウヤ!」
クウヤの名前を聞きオダマキ博士ははっとなる。
「キミが・・・・・キミはひょっとしてルネシティの出身かい?」
「そうだよ、それがどうかしたの?」
「・・・・いや、にしても、さっきのバトルは見事だったね!」
「え、そうかな?」
「うん、ああそうだ!
お礼としてそのアチャモ、キミに譲ろう!」
「まじ! さんきゅー!
・・・・・・・・・ってええええええええええええええええ!!!!」
クウヤの叫びが101番道路に響いた。
丁度同じタイミングで少し外れの道を、一台のトラックが走っていた。
その中には沢山のダンボールと1人の少女が乗っていた。
「もうすぐ、トウカシティにつくわよ」
「ホント!」
「楽しみね」
「ええ!
・・・七年ぶりに、あの人に、お父さんに、やっと会える・・・・・そして私も、ポケモントレーナーになれる!」
彼女の銀のペンダントが輝いた。
夕方になり、アチャモのモンスターボールを隠しながら部屋に向かう。
部屋に着くと、クウヤはアチャモをボールから出した。
ちなみに彼等の泊まる部屋は、セイと同室だ。
「変な感じの出会いになっちゃったな」
「ちゃもちゃ」
「でも、お前の事おじちゃんやおばちゃんにばれたら、あのオダマキ博士のところにお前を返して来い・・・なんていわれるかも」
「ちゃ!? ちゃもちゃも!!!」
「ははは、大丈夫だって! 絶対何とかなる多分!」
「ちゃもぉ・・・・」
「絶対」と「多分」の矛盾に気付き突っ込みをいれるが、クウヤは気付かない。
「だけどな、アーチ。
オレさ・・・ポケモンを・・・自分のポケモンをもつのが夢だったんだ。
今お前といるだけで、オレは凄く嬉しいよ!」
「甘いよクウヤ」
「うわぁ!! せ・・・・セイ!?」
いつのまにか自分の背後にセイがいてクウヤは驚く。
一方のセイはクウヤの側にいたアチャモに気づきそっちを見る。
アチャモは、突然現れたセイを警戒している様子だった。
「そのアチャモ・・・」
「え、えぇあ、えーと・・・・こここいつはな?」
「キミのだろ?」
「う、そうなんだ・・・貰ったんだよ、
オダマキっていう博士に!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「せ、セイ?」
突然黙り込んだ義兄にクウヤはとまどう。
「クウヤ、今から言う事。 しっかり聞いてね?」
「ん?」
「今夜・・・・キミはこの貴一家から家出して、この家と縁を切ってくれ」
「えええええええええ!「しぃ」・・・・むぐぅ」
突然の兄の発言に奇声を上げるがすぐに口をふさがれる。
口が解放されても、表情はそのままぽかーんとしていた。
「あんな2人の下にいたらキミは一生いじめられる、死ぬまでずっと!
キミが助かるには、自由になってキミとして生きるにはそれしかない!」
「な、何もそこまで言わなくても。
確かにオレはおじちゃんたちにこき使われたり、少しでも反論したり人に話そうとすれば暴力振るわれたり、子どもとしてみてもらえない!
でも・・・・・」
「いい加減にしろ!」
「・・・・セイ!?」
セイはクウヤにたいしそう怒鳴る。
「所詮2人とも、僕のことすら自分達の自慢の種としか見てないんだよ!」
「セイ・・・・」
「頼むクウヤ、今晩ここから出て行ってくれ。
僕は・・・・キミが酷い目に合い僕だけ良い待遇されてるのがとてつもなく辛いんだ。
僕のためを思うなら、旅に出て冒険して」
「セイ・・・・・分かった!
お前のその思い、オレ、無駄にしないよ!」
「ありがとう」
クウヤの笑顔をみてセイもくすっと笑う。
その後、リュックに様々なものをいれ、こっそり作ったという新しい服を着込み、夜になると窓から外に出て気に飛び移りその家をそのまま出て行く。
数々の運命がその瞬間、動き出した。
「よーっし!冒険に出発だ~~~!!!」
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別所で連載していた長編の第一話を少しだけ加筆修正した長編。 ORASがでるずっとまえのものですので、そちらの設定は入っていません、あしからず。 また、私のオリジナルキャラクターであるオリトレたちが登場するほか、主人公でもあり、個人的な設定もいくつか入っています。 それでもいいよという人は、今後も連載するのでよろしくおねがいします。 それでは本編どうぞ。