No.815981

ここのつもの小説詰め

理緒さん

PC整理中に出てきた小説の切れ端やTwitterに投稿してた小話をまとめました。
登場するここのつもの:魚住涼 音澄寧子 企鵝真白 鳶代飾 野槻狢(宮司)
登場する偽り人:鴨野師走 トカゲ 企鵝
名前だけ登場:難訓 秋津茜 

2015-11-27 19:12:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:511   閲覧ユーザー数:507

「師走さん、今お時間良いですか?」

良く透き通る声で名前を呼ばれる。この声の主は、忍社の巫女、魚住涼だ。

「ん~何?涼ちゃ…涼さん」

「そんな他人行儀じゃなくて良いですのに。……ちょっと頼みたいことがあるんです。」

困ったような表情の女性の頼みを断るわけもなく、二つ返事で了承する。

 それで、何を頼めばいいのかと問えば、師走自身は何もしなくていいのだと言う。

「え?じゃぁ、なにすればいいの?」

重ねて尋ねる師走の耳に、誰かの足音が聞こえた。そちらに一瞬視線を走らせた一瞬、涼の口元がニヤリと歪んだ。

「師走さん、お手を失礼」

言うが早いか、常の彼女の印象からは想像できない力で腕を引かれる。

「え?ちょ!?涼ちゃ……」

耐えきれず倒れ込むが、彼女だけは潰すまいと手を着く。

 

無事を確認しようと顔を見れば意地の悪い顔が垣間見られ、漸く正体に気付く。そう言えば彼女は自分の事は名前ではなく「鴨野さん」と呼んでいた。

「トカゲか……何の用?俺、そう言う趣味無いんだけど」

「俺っちだってないですわー。でも、人をからかうのは私様の趣味なの」

足音が近づく。意図を文字として察するより早く身体を起こそうとするが、腕を掴まれて阻まれる。

「おま、離せ」

「嫌」

「涼ちゃーん、おやつどこにゃー?」

入ってきた寧子と師走の目が合い、しばし互いに硬直する。あぁ、時って本当にとまるんだ。このまま止まってしまえばいいのに。

いや違う、ちょっと待て、このままだと俺死ぬ

「……お楽しみ中だったかにゃ?」

棒読み気味に言われて背筋が凍る。

「誤解!違う!この子…」

「寧子さん、助けてください!師走さんが急に…!」

ちくしょう、わざとらしく涙までうかべやがって!

 

「寧子さん、涼は居ましたか………あ、分かりました、3枚に下ろしますね」

「誤解だっての!」

まとめて涼に用事があったのか、企鵝まで現れた。無表情で直刀を構えるのは勘弁してほしい。

「あ、企鵝さん、あの涼ちゃん偽物にゃ?師走くんの呼び方が違うにゃ。」

「ばらすなよ猫すけ」

「大丈夫ですよトカゲ。二人まとめて……」

 

「俺に味方は居ないの!?」

企鵝の殺気が自分に向いた事でトカゲは身を翻し、するりと師走のしたから抜けでる。

「にゃんこがバラさなきゃ、もうちょっと楽しめたのにぃ―」

「誰がにゃんこにゃ、爬虫類」

フシャァァと互いに威嚇し合う二人を眺め、漸く一難去ったと、一息ついた。

「…あんたも大変だな、企鵝」

「それなりに。でも、師走さん。」

ニコニコとした笑顔のまま、企鵝は納刀した刀を示す。

「もし本当に涼に手を出そうとした時は……」

「はい、出しません」

即答で、敬語で返す。一難去ったらまた一難くるのはこの世の理らしい。

 

誰か返せ、俺の平和な昼下がり。

 

【終】

 

「トリック・オ・トリート」

もう今日だけで何度かかわされたやり取り。今日は終わりとおもって忍社に立ち寄ったのだが、意外にも涼からお菓子をねだる言葉がかけられた。

しかし、持っていたお菓子は今は忍社の居間に置いてあり、手元にはない……

「すみません、涼、いまは手持ちが無くて……悪戯をしますか?」

生真面目な彼女はどんな悪戯をするのだろう。好奇心から頬は緩む。

「はい。……すみません、実は手持ちが無いのを知ってて言いました。」

言いながら、涼は真白の後ろに座り、結いあげられた髪を指で梳いた。

「簪を見つけたんですが、私も髪を短くしていたので扱いに慣れなくて……ちょっと練習させてください」

少し気恥ずかしそうに、涼は真白の長い髪をクルクルとねじっていく。

上手くいくようなら、今度の涼への贈り物は簪にしてみよう。

考える楽しみが増えたと、色柄の夢想にふける前に。真白は髪が数本引っ張られる痛みに悲鳴を上げることとなった。

「痛たた!」

「す、すみません!」

【終】

 

 

 

「企鵝―」

「重いですトカゲ」

背中に抱きつくようにもたれかかってくるのは、外見だけなら美少女だ。 流行りの香、華やかな菊の着物に合わせて爪紅も明るく。どこに出しても恥ずかしくない装いの娘は、男の声で企鵝に絡んでいたのだった。

「今日が何の日か知ってます?」

「いいえ」

「しょうがないなー企鵝っちはー。今日はねー私様の」

「命日ですか?」

言うが早いかついでのように腰の直刀に手をかけると、トカゲが体重をかけて阻止した。

「逆!怖い!得物抜くなよ!」

「三枚に下ろしたら贈り物も三倍にしなくてはいけないでしょうか……」

「悩むところはそれじゃねぇ!お前あの巫女に変な入れ知恵されてませんこと!?」

「失礼ですよ。涼はそんな子ではありません」

と言うことは素で言っているのか、それともトカゲの扱いがこうなだけなのか。よよとな気真似をすると、おざなりながらも慰めるように撫でられた。

「と、言う訳で。慰謝料込みで誕生日の贈り物を要求しますわ」

「……他の方からは何を頂いたんです?」

「難訓からはこの爪紅で、茜ちゃんからは香袋」

流石、二人とも選ぶ物が粋だ。そして、自分と同じ思惑もあるのだろう。

「では、私からは今髪に刺した簪を」

言われて気が付いたかのように手を髪にやると、手触りからして蜻蛉玉の飾りだろうか。先は丸く武器には向かないが、質は良さそうだ。

「お前、渡し方が気障になったわね」

「涼の驚いた顔が見たくて、渡し方を色々試していたんですよ」

「惚気はお腹いっぱいですわ」

こうみえて意外と義理堅いのか、それとも相手の心を許させるす手段なのか、トカゲは贈った相手と会う時には、その人から贈られた物を身につけていることが多い。もちろん、気付かれたくない時は付けないだろうが。それでも見分ける手段の一つにはなる

見つけたいのか、騙されないようにか、それとも見つけてあげたいのか。 送り主の思惑なんて企鵝には想像もできないが。

「企鵝」

知らぬうちに思索にふけってしまっていたのか、ハッとした企鵝に、トカゲは愛らしく笑って見せた。

「ちゃんと見分けられるように、あの世に行く時は今日もらった三つを連れてってやるよ」

「……嘘つきですね」

「まぁね」

生まれた日に、死ぬ話をして、彼は笑った。

 

 

はとのはさんと話していた、忍社には隠し部屋とかありそうだよね、狸組が探険してたら可愛いよね。というネタから生まれた短文。 飾くんと狢くんお借りしました。

~忍社の隠し部屋~

「うーん……」

「どうしたでござる?飾殿」

「えっとね、忍社の見取り図を作ってたんだ。そしたらね」

飾が指し示したのは、ちょうど本堂の裏に当たる部分。他の部屋には部屋の名前と広さが書き込まれているにも関わらず、その部分だけ空欄になっている

「変に空間があるんだ。外から見たらおかしなところは無いのに……」

「そうでござったか……もしかして」

「「隠し部屋かもしれない!」」

こうして、二匹の狸の秘密の部屋探しが始まった。その話を聞いている人がいるとも知らずに。

 

~中略~

 

「隠し部屋の入り口……」

「周りの部屋はもう調べたでござる…となると…」

手元の紙に書かれた入口のありそうな部屋一覧に残っているのは……

「宮司様の部屋かぁ」

「どうするでござる?飾殿」

「も、もちろん!行くよ」

 

~中略~

恐る恐る宮司の部屋の障子をあけるが、一見なんの変哲もない、寧ろこざっぱりしている部屋があるだけだ。何故か足音を殺しながらそっと、謎の空間がある側の壁…にある押入れと思しき襖へ近づく。  ゴトゴトとした音を出来るだけ抑えながら襖をあけると……

「あ!」

「襖の中にまた襖がある!これ、きっと隠し部屋への入口だよ!」

世紀の大発見をした。そんな心持で、拍手を受けながら手を取り合って喜んだ。 そう、拍手を受けながら。 ぴたりと動きを止めてギギギと錆びた人形のように後ろを振り返る。と、

「見つかって良かったですね」

いつものような穏やかな笑顔の宮司が居た。

「み゙!!」

「おやおや、怒ったりしませんよ?探険したくなる気持ちはよくわかりますよ

二人の頭を撫でて落ち着かせると、宮司は奥の襖を指して言った。

「この奥は書庫になっていてね。本棚が並んでいるんですよ。」

「涼に教えた戦術や知識もほとんどこの書庫からです。この社には私が知っているだけであと四つは隠し部屋や不思議な仕掛けがありますよ。」

「探して良いのでござるか?」

「えぇ、どうぞ。」

その代わり、私が知らない場所を見つけたら教えてくださいね。

目を輝かせる二人に満足そうに頷き、宮司は約束ですよ、と付け加えた。 元気の良い返事をして、二人は発見の喜びを胸に走って言った。忍社の秘密をみつけるという新しい遊びを皆に伝えるために。

二人が去った後、隠し書庫の襖が開き、本を抱えた涼が出てきた。

「…宮司様、かくし部屋や仕掛けは確か全部見つけてらっしゃいませんでしたか?」

「えぇ。涼は幾つ知っていますか?」

「五つです。屋根裏の隠し倉庫、地下の覗窓、井戸底の抜け道、客間の落とし穴、それと…」

「本堂下の武器庫……です」

表れた入口を見る涼の表情はいぶかしげだ。それもそのはず。神社が武装しているなんて話しは聞いたことも無い。

「ふふ、厳密には武器庫と言うよりも、戦いの役にしかたたない物を押しこんでいるんですよ。」

使われない方が良い物、と言うことです。

「さぁ、涼もうかうかしてると二人が全部見つけてしまいますよ?」

「こういうことは飾くんや狢くんの方が得意ですから、教えて貰おうと思います。何も私一人で見つけなくてはいけないものでもありませんから」

頼ることを覚えた娘に、宮司は眩しそうに眼を細めた。

 

 

 


 
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