No.815229

Fate / YATAI Night

Blazさん

どこかにある不思議な不思議な店の屋台。
そこに居るのは二人の店員。

これはそんな屋台で起こる一つの話…

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2015-11-23 12:38:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1340   閲覧ユーザー数:1305

 

世界のどこか。

 

次元のどこか。

 

時間のどこか。

 

生と死のどこか。

 

 

ココは誰も知らない。知る事のできない場所にぽつりと立つ一軒の屋台。

 

その屋台を営む一人の男と一人の少女の物語――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fate / YATAI Night

 

 

第一話「始まりの出会い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦後の日本ではある光景がよくあったとされる事がある。

今は多様される鉄道の線路の下に住宅が建てられるというものだ。

それは現代にいたるまで残されており、そこに住んでいたりする人も少なくない。

 

そんな鉄道線路の下にある建物に隣接した場所にぽつんと、一つの屋台が置かれている。

赤いのれんに白い文字。その奥からは食欲をそそる香りが辺りへと舞い散り

 

 

今日もそののれんを潜る客が姿を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。さて何にします?」

 

 

 

 

 

 

浅黒い肌と白い髪。

ニヒルな顔で出迎えた一人の男は鉢巻と紺色のシャツを着て前掛けを腰に巻いている。

異風ともいえるその姿に、のれんを潜った少女は言葉を失った。

 

 

「………。」

 

「…む?なにをしている。かけたまえ。水ぐらいは出すぞ」

 

「あ…はい…」

 

のれんを潜り最初に出て来た顔が屋台から連想する店主の親父という顔ではなく若い浅黒い男であったのに驚いていたのか少女はしばらく言葉を無くしていたが、彼の言葉に強い拘束力を感じ、ぎこちない声でそれに答えるとおずおずと長椅子に腰を下す。

どうやら警戒されているようだとため息を吐いた店主は、水を置くとありきたりな言葉を投げかける。

 

 

 

「で。注文は」

 

「あ…ええっと…とりあえず…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

串に四つほど適当な大きさで切った肉を刺し、それを程よい熱で温められた網の上に乗せる。

そしてある程度の焦げ目がついたらひっくり返し、更に焼く。

焼く前に付けた塩が程よく焼かれ、鼻を刺激する。香りだけでも少女の腹は音を鳴らす。

まだなのか。もうすぐか。

そう言い放っているかのように彼女が頬を赤らめて腹を抑えるのを見ると、男は軽く笑いじっくりと焼き上げる肉の様子を見る。

 

―――そろそろか。

 

程よい色に染まった肉を取り上げるとレモンと一緒に皿に盛りつけた。

 

 

「焼き鳥、ネギ・カワ・モモの王道三種だ」

 

「ッ…!」

 

「冷めないうちに食べたまえ。話は…そこからだ」

 

 

 

よほど腹を空かしていたのだろう。

店主の目には飢えとの戦いにようやく終止符を打ったという顔で串を持つ少女が、暗い顔のまま熱を帯びた肉を口の中へと運ぶ。

一つ食べると、塩の程よい塩梅が効きうまみのある肉汁が広がる。二つ食べれば、もうそこからは抑えはきかない。歯で強くかみしめて出た汁とうまみが食欲を強くし、無意識に彼女の手と腕を動かす。

 

そして。いつの間にか、彼女の目には小さな雫が湧き出ていた。

 

「………。」

 

 

腹を空かせていたのか。

何かあったのかは分からない。

なら、そんな時は食べればいい。

美味いものを食べ、つらい事を『昨日』に変えよう。

『明日』はそうして始まるのだ。

 

 

「―――――おか…わり…」

 

「…ん?」

 

「…おかわり…いいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一しきり食べ終わった少女は、口の中に広がる塩とタレを水で流し一旦クリアにする。一気飲みで飲み干したコップは彼女の吐いた息と共に卓の上に置かれ、その勢いを見せるほどで余程空腹だったのが窺える。

 

 

「…どうやら、かなり歩いたらしいな」

 

 

「はい…」

 

 

少女こと、立花響は言う。

自分がなぜこんな場所に居るのかわからない。

どうして気付けばここにたどり着いたのかもだ。

 

確かなのは自分はある目的のために戦い、そして最後に光の中へと飛び込んでいった事。

 

所々か彼女が話せないという理由で伏せられてはいるが、どうやら彼女にもやんごとなき理由があるようだ。

 

 

「…なるほど。で、気が付けばここに迷い…」

 

「いい匂いに誘われてココに…」

 

苦笑して言う彼女に仕方のないと思う店主だが、どうにも理由などが曖昧で隠しているようだが、何か隠せていないように見える顔に彼は勝手にではあるが推測を立てる。

 

(…まぁ、彼女がこの世界(・・・・)に来た経緯は大方本当だろう。ただ彼女にとってその直前の事。そしてその世界であった事については話せない…いや。話したくないというよりも話しても信じてもらえない、と言った方が正しいか)

 

(…信じてもらえないよねぇ…ここに来る前に歌って戦って、世界を破壊して再生しようとする子と世界の命運かけて戦ってたなんて…それでもどうしてここに来たのかは本当に分からないけど………ああ、やっぱ呪われてる?…私)

 

 

互いに口には出さないが隠し事をしているのは事実。

特に店主の場合は今いる場所について知っているが、こちらこそ話して信じてもらえるかどうかわからないという顔で彼女の話を聞き続けていた。

 

(互いに隠し事をしているのは事実…さてどうするか…)

 

取り合えず、今は彼女を安心させるのが優先だ。店主は考えを決めて響へと簡易的に説明する。

 

「…迷ったという事か…別に、そんなのはここでは不思議ではない事。日常茶飯事だ」

 

「えっ…?」

 

「この場所はいささか特殊でね。そういった迷い人が集まる場所だ。経緯様々、理由も然り…

私はココがそういった場所であるから、腹を空かせている人もいるだろうと思い…ここに居を構えたという訳だ」

 

 

「じゃあ…ここって一種の迷子センター?」

 

「デパートじゃないんだぞ…」

 

考え方が少し変だな君は。

鋭い指摘をする店主に頭を掻いて苦笑いをする響は例えが悪かったなと反省する。

 

 

「人生の迷子は多いが…生憎とカウンセラーの資格は持ち合わせてないのでね」

 

流石にそれは都合が良すぎる言い方だ。自分にはそんな力はない。

皮肉のような言い方で否定すると店主は言った。

迷ったり何かあればここで食べて忘れればいい。ただそれだけのためにこの店を開いたのだ。

ここは言わば、分岐点の丁度中心なんだと。

 

「人を慰めたりすることはできんのでね。私ができるのはこの腕で鍛えた料理を振る舞うのみ。それが、私に許されたただ一つの方法だ」

 

「…迷った人のために、ごはんを出すことが…ですか?」

 

「迷い、戸惑い、諦めた者たちへの最後の救い。私はそんな店でありたいから。ココを、自分の店を作ったのだ」

 

「………。」

 

言われてみればそうだ。自分がどうしてここに居るのかわからず気が消沈してしまっていた自分はこうして彼の料理でモチベーションを立て直した。

彼の料理が、彼の腕が。そしてその彼が冷めていた自分の気を救い上げてくれた。

そう思うと、響は妙に嬉しくなり不意に口元を釣り上げた。

 

 

「フヒヒッ…♪」

 

「………嬉しそうだな。立ち直ったか?」

 

「はい。ありがとうございます。これなら…なんとかなりそうです」

 

「―――ああ。それは良かった」

 

もう最初の時の沈んだ顔はない。元気を取り戻し、また頑張ろうという顔の彼女の顔が彼の目の前にはあった。

その顔は明るさに満ちたもので先の長い光に向かい、歩く姿に見えたことに彼は懐かしさを感じた。

 

 

「………。」

 

「よし。頑張ってここから出るぞッ!!」

 

椅子から立ち、声を出す彼女の姿に店主は小さくうなずいた。

それが何よりの報酬だと。彼は思っていた。

 

 

「…うん。その意気だ。が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その前に飲食代を払ってもらおうか」

 

 

「――――――――――――え?」

 

 

が。それはそれ。これはこれ。

屋台もちゃんと資金をもらわなければ意味はない。

飲食店では食べ物を頼めば当然料金は発生する。

無論、それはこの屋台も然りだ。

 

 

「…勘違いをしていると思うが…ここはタダではない。ちゃんと金をもらい。その対価として私は腕を振るう」

 

「………ツケは…」

 

「無い」

 

 

 

至極当たり前だ。

 

 

 

 

 

 

「ひぃふぅみぃ…」

 

ポケットの中を散策し残った残金を確認する響。

確かな感触に希望を見出した彼女は直ぐに手を引き抜くが…

 

 

「……………あれ?」

 

 

そこにはヤマザクラが一つと平等院が二つしかなかった。

 

 

「………。」

 

「焼き鳥三本。しめて三百三十円」

 

「…分割は」

 

「あるわけ無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。響の目の前は真っ暗になった。

 

 

「そ、そんなぁ…」

 

「…結局足りなかったか。無銭飲食だな」

 

「ひ、百二十円だけでも!!」

 

「割に合わん。それでは残りはツケで逃げる気かね?悪いが、それに関しては容赦はせんぞ」

 

再度彼女の目の前は暗くなった。

 

「そんなぁ…お財布置いて来ちゃった…」

 

「まぁ何も言わな君に出した私も悪いが…」

 

ただ飯で逃げ切れる状況ではない。

何も頼まなかった彼女に出した自分も悪い。

双方に悪気のある二人はため息と涙目で崩れ、状況の打開策を考える。

響はこのままでは無銭飲食。店主はタダにしてやる手もあるがそれでは他の客に示しがつかない。

どちらも仕様もない理由だが退けない理由がある。

 

 

なら。残る案は一つだ。

 

 

「―――しかたない」

 

「タダにしてくれるんですか?!」

 

「そんな理由はない。払えないのなら…体で払ってもらうまでだ」

 

「えっ………」

 

青ざめた響の顔になにを考えているのか容易に想像がついた店主だが、違うぞ。と断言した声でくぎを打つ。彼もそんな趣味はない。

 

…多分

 

 

 

「ウチは今。人手が不足していてな。存外屋台を大きくしたもので一人では全てやりきれんのだよ」

 

「…へ?それって…」

 

 

 

「君がここで働いて食べた分を返す。それで手を打とう。何、典型的な皿洗いや仕込みの手伝いで構わん」

 

「ば、バイトで返せって事ですか…?」

 

「そういってるだろ。そこまで急ぎでもないのだろ?一応、三食は約束しよう」

 

お金のない自分

差し伸べられた働き口

完遂すれば料金は帳消し

しかも三食付き

決断は一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よ、よろしく…よろしくお願いしますッ!!!」

 

 

「ああ。これからしばらく。よろしく頼むぞ」

 

 

「はい!ええっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名はエミヤ。ただの…正義の味方だ」

 

 

 

こうして

一人の正義の味方と一人の少女の不思議な屋台の物語が幕を開けた。

 


 
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