女神異聞録~恋姫伝~
第五十四話
「閉ざされ行く世界」
―――メタトロンvs―――
東京タワー、かつて電波塔として存在し東京の名物となっていた代物。
今はメシア教の勢力下に置かれ、あの宇宙ステーション墜落にも倒れることなくその展望
台はまだ東京という街を眼下に収めていた。
エレベーターで昇ること60階、ソレは其処に居た。
今降り続ける雨を発生させているもの。
セラフ ハニエルに手を下しその能力を奪い取り其処に君臨する女神ALICE。
「そうですか。そういえば確かに居ましたね………確かにあなた達の存在を忘れていまし
たよ………これは私の落ち度になりますか」
「あら?鋼の天使様?邪魔、しないで下さるかしら?」
展望台の上、ハニエルは本来ならば中に居たのだろうが、組み伏され今にも消えようとして
いた。
「彼は人を導き滅ぼされる為につかわされた者。見苦しい真似はしないでしょう………た
だその役目成せなかったのは残念かもしれませんが」
ハニエルに向けていた目をALICEに向き直し、宣言する。
「だとしても悪神を前にして敗れた。その責は上に立つ私が行いましょう」
「メタトロン様………申し訳………ありません………」
その言葉を残してハニエルは構造の崩壊が始まり削り取られるように消えていく。
その姿が消えた瞬間、双方の足元に魔力で編まれた力場が目視できるほどの力強さで魔法
陣の形を作り出していく。
ハニエルはエノク書に書かれている天使であり、七人の大天使の一人である。
対しメタトロンは、初期の聖書にその名を見ることは出来ず中世のエジプト記になどに見
ることが出来る。
神秘主義のセフィロトという思想においてようやく第七のセフィラの守護であるハニエル
と第十のセフィラの守護であるメタトロンという関係を見ることが出来る。
その姿は36対の翼を持ち、太陽よりも昂然と輝く火の柱だと言われた。
そしてその名も72という、まるで一枚一枚がそうのだと言う様に翼の数だけの名をもっ
ていた。
その姿を今、この展望台の上にて現していた。
その名の意味を、この空に刻まんと赤々と焦がしていた。
魔法陣は溢れ出さん魔力の流れを受け煌々と輝き、悪たるものを焼き尽くす為に其の力を
形作っていった。
空を覆わんばかりの熱量というエネルギーのみを抽出した光の珠に視界を覆われていた。
「あの愛らしいアリスと同じ発音の名前というだけで許しがたい。焼きつく」
メタトロンの名の一つ『無限の瞳』。
光の珠一つ一つが小さな太陽コアとなってALICEへと殺到していく。
「―――――っっ!?」
声を洩らす間は与えない。
悲鳴などという雑音はいらない。
ただ貫き、串刺しにしていくのみ。
それを避け様としているのか、姿がぶれ徐々に後退しようとしている。
程なくして光の珠による雨が終わった。
そこには穴だらけになって絶命寸前のALICEが浮かんでいた。
「ふむ。分身ではない………空間転移による回避を試みたというところですか」
顎に手をやり考える素振りを見せる。
余波で消え去った展望台、穴だらけになった鉄骨が悲鳴を上げ倒れていく。
それを背景に断罪者は最後の言葉を告げる。
「何を死ねると安心しているのですか?自らの業、自ら得なさい」
蘇らせ、次には握りつぶす。
『小YHWH』其の名に相応しい
「己が行った事を反芻しなさい、己の体で。それが、私がお前に与える罰だ」
ALICEの身体を再構築し、死に怯えるまでただただ無情に殺し続ける。
それは彼方の世界にてAL教というものが出来上がり、今までに行われてきたALICE
が殺してきた法王という人物に行ってきた回数と同じだけ。
首を刎ね、心臓を貫き、握りつぶし、魂を壊し、業火にて焼き払い、絶対の冷度で砕き、豪
雷に包ませ、地面に叩き付け、水没させ、血を抜き、真空にて窒息させ、体の節々から壊死
させ、ありとあらゆる死病に冒させ、四肢をもぎ取り、ただただ殺し続け再構築し復活させ
続けた。
「分霊ではコレが限界ですか」
磨耗しすぎた魂はもう再構築そのものに耐えられなくなり、後は消滅を待つだけとなって
いた。
「あ………あぁ………やっと………やっと………」
「必ずそちらの本体にも同じ目にあってもらいましょう。首を洗って待っていなさい」
「あ………あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあぁ!?」
「決して許しはしない。主の教えを汚した罪を」
最期にゴッドハンドでALICEを消し飛ばし、その場を後にする。
「やはり一度発動してしまったコレは止めることが出来ませんか………」
本来は雨を止めるためにきたというのに、それを成し遂げる事ができなかった事に少し凹
んでいた。
東の門へと進んでいる一刀達。
ねねと蓮華は少し離れて会話していた。
「ねねは一刀の事知っていたの?」
「予想はしていたのです………眠らないときを見ていたのです」
「ねね………どういうこと?」
そこに割り込んできた恋は首をかしげながらねねに聞いてきた。
「う、恋殿………」
ねねは恋に話していいものか悩む。
悲しむことは確実にわかっているのだから、尚更に悩んでいた。
「むぅ………」
意を決して唸りながら前置きを置いて話し始める。
「あくまでこれは予測でしかないのです。コレが正しいとは限らないと言うのを念頭に置
いておいてほしいのです」
これからはなすことはあくまでねねの考えであり、それが本当のそうなのか実証すること
は出来ないと話してから話し始める。
それに二人は小さく頷く。
「まず一刀の身体ですが………既にアクマのそれと変わらないと思うのです。速度も反射
神経も人の限界を大きく超えてしまっているのですから」
戦う姿しか見る事ができない、否その姿すらもう既に目にも止まらない速度で動いている
のだから戦う姿すら見る事ができない。
それはなんら戦う術をもっていないねねの限界でもあった。
銃はあるがそれもこれからの戦いでは豆鉄砲に等しい。
「その代償として一刀は何かを失う代わりに何かを得ているのだと思うのです」
力を得る代わりに支払われる代償、それは一刀の血肉そのものであり恐らく一刀の願いそ
のものなのだろうとねねは当たりをつけていた。
それは等価交換なのだろうか、支払うものに釣り合った物なのだろうか。
ただ間違いなく劇的な速さで強さを身につけているのは確かだろう。
「だから、ねねは一刀を『殺す』ことを目的としているのです」
その言葉を言った瞬間、ねねは恋に喉をつかまれ吊り上げられる。
その顔は殺気が溢れておりねねを怯えさせるには十分なはずだった。
「く、か………っは………一刀が、目的を………達せ無ければ、消えることはなくなる筈…
……なのです………」
恋の目を真っ直ぐに見返しながら、喉を握られながら、途切れながらも言葉を出していく。
言葉を全て出すと恋はねねを離した。
「消える?………ご主人様が………?」
「一刀が消えるってどういうこと?」
ねねは喉を押さえながら息を大きく吸ってのどの調子を戻して言った。
「最期に支払う代償は………これは外れていてほしいのです………存在そのものなのです」
外れていてほしい、そう願いながら言った自身が外れていないだろうという確信があった。
その顔は青ざめ、絶望に染まっていた。
あの時に聞いた絶望の意味、そして願ったものの大きさ、一体何を天秤の片側に載せれば吊
り合うと言うのか。
ねねは、この場ではねねだけは知っている。
ロキにより教えられ『思い出した』事だからこそ判っていた。
きっと蓮華と恋が思い描いている絶望とは深さが違う。
削り取られることを感じたことはあるだろうか。
砂が掌から零れていくように形をなくし、結果という些細なことしか残さないことを経験
したことはあるだろうか。
存在を支払うということは、この世からその痕跡を消していくということ。
桂花の最後の言葉を思い出す。
『やっと助けられた』
「彼女はきっと、あの世界で足掻き続けたのです………」
足掻いて足掻いて、敗北に塗れながら、絶望を背負ったまま一縷の望みに託して、出来るこ
とを超えてたった一つの願いを叶えようとしたはず。
それと同時に思ってしまう。
負けたくない、と。
仄かに薄ら暗い感情が心に忍び寄る。
嫉妬でも羨望でもない感情、怨む嫉みという感情ではない。
負けない、負けたくないという競争に根ざす感情。
だが同時にひどい諦観も覚えた。
あの世界………ねねよりも高い戦略を組む軍師も、武勇に優れた武将も多く居た世界。
誰もが嫌っては居なかった存在が一刀だった。
道を阻むものとして絶対の障害としては見られていたもののその人となりは忘れ去られた
後でも詩に昇るほど。
そんな存在の危機を知りながら指をくわえているものはいないだろう。
そう、誰もそれを妨げることができなかったと言う事だ。
だからこそ絶望も深かった。
過去は変えられない。
既知者は一体何を変えられるのだろうか………それこそが諦観の正体だった。
そして恐らく、あのときの武将や軍師だったもの全てが、あの世界の記憶を持っていながら
思い出す術をもっていない。
一刀は歩きながら後ろをついてきている三人の考察を聞いていた。
正確には見えていた。
一刀の五感はもう全てを失っている。
ただ、人とは違う感覚を感じてはいる。
魂とでも言うのだろうかそれの言葉や姿を見る事が出来る。
構造物も光を反射するわけでもなくその姿があることを視ることが出来ている。
その事実さえ露見しなければ人と変わらず生活することは問題ないだろう。
色が無い、言葉が吹き出しのように見える、それが無ければかつて視覚があった頃とそう変
わらない。
そろそろ東の門近くに着くがアクマの気配が無い。
辺りを見渡せば破壊の跡ばかりが目に付く。
「モンスターたちか………」
アクマの倒れた跡だろう何も残らない破壊の跡。
それとは別にそこかしこに散らばっている悪魔ないしモンスターたちの屍骸。
縄張り争いのようなものだろう。
もしかすればまだ異界の中では戦いが継続されている可能性もある。
辿り着いた記憶とは違う現状、バタフライ効果というものなのか細かいことも違うのなら
大筋すらも変わっているのかもしれない。
マーラ然り、ロキ然り、アリス然り。
だが、この世界はこの世界であることに変わりは無い。
手を抜いて生き残れるような世界ではない。
まったくもって理不尽な世界だ。
等価交換。
まったくもってふざけるな。
一人の命で一人しか助けられないというのならばそれは理不尽だ。
無から有を作り出す方法を知らない。
だが確かに無から命を生み出してきたのが生物だ。
それは不可能では無い証拠。
ならばそれを目指すことの何がおかしい。
それを阻むなら断ち切ってでも道を作ろう。
それが一刀の歩むただ一つの道だ。
その道を塞ぐのならば神でも鬼でも仏であろうとも除外して。
「………その前に悪魔王との戦いだな………この気配は」
黒々と流れ出る濃密な気配。
それは今目の前に広がる異界の入り口である東の門よりあふれ出ていた。
彼方より近く、薄絹より遠い隔たりを持った世界での戦いがもうすぐ始まる。
悪魔の巣窟のようになっている中、数少ないアクマと会話を行い、その退路を作りながら
思っていた。
恋も強くなった。
前は悪魔とは戦えないほどだったのに今では十分な戦力になるほどだ。
ねねの戦術眼も侮れない。
逐次出す指示は的確でただそのスピードが追いついていないのが欠点といえば欠点だが、
それでも必死に追いついてこようとしている。
蓮華はアクマたちに傷薬を使い、感謝されている。
その器の底は知れない。
大概のアクマは強くなる為に人を騙す、喰らう程度は自由にやってのける。
それでも、感謝するということは滅多に無いのだから、底が見えないというものだ。
笑みがこぼれていた。
「恋、背中は頼む」
「………ん………」
それともう一人、東の門の前にいた女性、霞にも声をかける。
「霞は中央よりで隙間をなくしてくれ」
「わかったでぇ」
ウンチョウと同じ種類の武器、但し柄が微妙に違う、淵月刀を片手にニシシと笑っている。
コレまでの戦いとコレからの戦いを楽しみにしているのだろう。
頼もしいが、同時に物騒だ、とも感じられた。
門の前にいたのも『なんや、ぞくぞくするんや!』と理由から勘は良いのかもしれない。
確かにここには飛びっきりの奴が潜んでいるのは確かだから。
「なぁ一刀、ここが平和になったらイタリアにきいへんか?あっちもどーなっとるかわか
らへんけど」
「復興まで終わったら………だろうなぁ」
一刀は苦笑しながら応える。
どうなっているかわからない、というよりもどうなるかわからないというほうが正しいの
かもしれないが。
共に帰り、生き残ることを約束するというのは戦うもの、戦場に身を置くものとしては儀式
のようなもの。
巷では死亡フラグと呼ばれはするが、これは生きようと必死に足掻く精神安定剤に似たよ
うなものだ。
生きて帰って続きをするのだという願掛けにも似た言霊。
それとこの約束は守れそうに無い。
復興が終わるまで一刀の身体は保たれないだろう。
「なにいうてるんや。皆で生きて皆で一緒にいくんや」
霞は元気に喋りながら周りを警戒して着いてくる。
恋もねねも蓮華もその意見には同意見なのだろう。
一様にしてその言葉に頷いていた。
ウンチョウ、リンゴ、アラクネ、ミント、コウリュウ、タイセイ、バロウズも同じように思
っているのかもしれない。
生きなければ何も始まらないと。
そんなことをしていたら門の奥まで辿り着いていた。
中からは衝撃音が聞こえてくる。
戦闘が行われているのだろう。
中で戦っていたのは鳥に人体の骨格を与えたような姿の霊鳥ガルーダ。
もう片方は、下半身はどす黒く紫色に変色した蛆の下半身を持ち大翼を広げ、六本腕の巨人
を組み敷く悪魔王ラサウム。
組み敷かれているのはもっていた武具を全て破壊された、破壊神シヴァだろう。
状況は明らかにガルーダが劣勢。
連発した衝撃波を与えてはいるもののラサウムは自動回復でももっているのか徐々に傷が
塞がっていく。
「まずいな、加勢に行くぞ」
「がってんや」
「ん」
「先にキュウビ、コウリュウ、アラクネ、リンゴを呼んでおくのですぞ!弱点は破魔属性な
のです!」
「あれ?」
蓮華の気の抜けた疑問をあげる声が上がるが、門を開けば激戦がこれから始まる。
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