No.808512

艦隊 真・恋姫無双 81話目

いたさん

今回は、オリキャラ中心です。

2015-10-17 10:33:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1128   閲覧ユーザー数:1012

【 事件の発端 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 郊外の原野 にて 〗

 

 

────────!

 

??「な、何でだよぉ……何でぇ斬れないんだよぉおおおっ!!!」

 

??「こんな真っ暗な……敵が何処に居るん───グフッ!!」

 

??「お、おい──っ! へ、返事しろよぉ! 返事してくれぇ──アガッ?」

 

―――

 

洛陽の郊外───人家が遠くに見える原野にて、とある戦いが繰り広げられていた。 空は雲に覆われ、この時期に見える月も姿を消し、辺り一面は……漆黒の闇が支配している。

 

原野は、足首まで伸びた草が主に生い茂る。 背の高い木も、幾つか疎らに辺りに生えているが、行動を制約する程の多さも無い。

 

時刻は──深夜12時近く。

 

この戦闘における双方の兵力は、洛陽勢1000名と白波賊50名。

 

―――

 

??「───ぎゃあああっ! あ、足が、足がぁあああ──ごぼぉっ!!」

 

??「ど、どっから攻撃してきやがる! これでも食らえぇ!! ──なっ? また、外れた──ばぁあああああっ!!」

 

―――

 

この争い、攻撃を受けている勢力からの反撃は……殆どが届かない。 一方的な虐殺となってしまっている。

 

何時もは静かな原野なれど──この時だけ、地上に現出された地獄絵のように、陰惨で残酷非道な行為が繰り返されていた!!

 

★☆☆

 

───今より少し刻を戻そう。 約一刻前(約二時間前)の事。

 

 

『白波賊が原野にて集い、何かしら事を起こそうとしています!』

 

洛陽に急報が入り、武官の将が押っ取り刀で手勢を引き連れ出陣した。

 

因みに『押っ取り刀』とは、『刀を取る暇も無く、急いで素手のまま駆けつけた』が語源。 決してユックリと駆けつけた訳ではない。

 

着用する武具は、兜や胴廻りだけ金ピカで輝き、他の場所は朱色で統一された派手な鎧。彼らもまた……袁本初のように名家出身では無いとはいえ、宮仕えをする武官。 見映えを気にしての色彩である。

 

そんな軍勢の中より将が現れる。

 

背が高く恰幅が良い若い男。 本人は厳めしい顔を前方を睨んでいるが、生まれ付きの細目のため、どうみても笑っているようにしか見えない。

 

しかし、将は……更に目を細くして前方を眺めると、控える者達に命じた!

 

??『あれか……? 誰か様子を確かめろ!!』

 

兵士『───某が!!』

 

現状を見極めるため、白波賊と思われる集団から距離をとり、斥候を出して相手方を確認。 その後、気付かれないよう姿勢を低くして帰りを待った。

 

―――

―――

 

事情を知らぬ者から見れば、さぞ高位の将軍だろうと思わせる人物であり、事実──三国志においても、名は少なからず通っている者。

 

将の名は………姓は何、名は苗、字は叔達。

 

姓からでも分かるが、何皇后の異父兄にあたる。

 

当然だが、何進とは……血縁関係も政治的な物も無縁。どちらかと言えば、何皇后と仲が良く、そのお蔭で将軍位に引き立てられた御仁でもある。

 

そのため、姪である現皇帝には、それなりに信用されているのだが、王允等から毛嫌いされている始末。

 

また、将軍としての実力も、何進に比べると格段に劣るのも理由。 元屠殺業を生業にしていたんだから仕方がない話だが。

 

そんな彼は、周りの状況に焦眉之急の状態である。

 

―――

―――

 

何苗『アイツが居なくなってから、俺への風当たりが大分強くなってきやがる! ここいらで……俺の立場をハッキリさせておかないとな!』

 

始め、賊討伐要請が入った時、王允の手勢を出撃させると決定していた。 しかし、何苗が強引に割り込み、自分に行かせてくれと頼み込んだのだ!

 

王允は……何故か……仲の悪い何苗の願いに異論を挟まない。 寧ろ、良く言ったと評して送り出した。

 

何苗は、何時もの王允と違う態度を不審に思いながらも、この結果を大喜びし王允に礼を述べ、勇躍して出陣の準備を行うため戻った。

 

そして、手勢の中で特に精兵を選び、問題の場所に軍を率いて来た訳である。

 

―――

―――

 

何苗『──ふう、急いだ甲斐があった! ふふん……敵も油断しているようだな。 まさか、こんなに早く俺様が到着するとは、夢にも思うまい!』

 

兵士『その通りです! 将軍!!』

 

何苗『そうだろ、そうだろぉ? 我等は、こうして虎視眈々と機会を狙っているのに、あの者達は愚かにも、我が軍の接近に全く気付いていない!』

 

兵士『───真に愚かな者達ですな?』

 

何苗『まったくだ! あの王允が何を考えて、俺様に任務を変更したか知らんが……全軍、心して掛かれ! 今、都で悪名高い白波賊だ! 出来るだけ生かして捕らえて、情報を得るようにするんだ!』

 

兵士『はっ!』

 

―――

 

そこへ、斥候になっていた兵士が戻り、何苗に報告を行う! 兵士は、辺りを見渡した後、何苗の耳に口を近づけて、賊で間違い無い事や様子を伝えた。

 

―――

 

斥候『────申し上げます。 敵の様子は………』

 

何苗『────ふむふむ。そうか、そうかぁ……ぐふふふ。 奴等は油断しているようだな。ならば、このまま奇襲を仕掛けて捕縛させてもらう!! 無論、抵抗するなら殺しても構わん! 日頃の恨みを存分にぶつけても良い!!』

 

兵士『………………御意!』

 

―――

 

何苗は『黄色の布を巻いた男達が、周りに篝火を四ヶ所に設置して、何やら中央の男の指示に従って動いている』と言う報告を、宴か集会で集まって居ると判断。 この好機に間違い無いと確信していた。

 

何苗は、口許を歪め──手勢を纏めて更に移動、篝火より一里(約400㍍)まで近付く。 そして、顔を上げて様子を窺えば、相手の賊将は、此方の様子を気に掛ける事もなく、手下に指示を出している。

よく見れば、この集会も終わりに近付いたのか、桶に水を貯めて篝火を消す準備をしている様子。

 

こんな無防備な野原で、しかも警戒を怠りながら、 火の後始末だけを厳重に行う賊に、笑いが込み上げる何苗!

 

何苗『ぐふふふ………いいか? この俺様の号令と共に掛かるんだ! 俺様の兵力は10倍以上、俺らが負ける要素などない!! 手柄は取り放題、此方の勝戦は既に決まったも同然! ─────いいな、お前達!!』

 

兵士『おうっ!!』

 

何苗は急に立ち上り、号令を掛けようと口を開けた!

 

何苗『我は洛陽に籍をおく武官、何叔達! 貴様ら白波賊を捕縛する者───抵抗すれば容赦無く叩き斬る! 大人しくするが───ウグッ!?』

 

───それは、一瞬の出来事だった。

 

何苗が大音声で叫ぶ横から、何かが飛来して蟀谷(コメカミ)に刺さり、その場で倒れた。 慌てて近くの兵士が確認すると、何苗は普段見たこと無い、目を見開いた状態で死んでいる。

 

死因は、吹き矢による暗殺。

 

大将軍、皇后となった義姉と義妹に比べ、実に呆気ない何苗の死に様だった。

 

胡才『ブァーカ! こんな単純な罠に嵌まるなんてぇ、官軍ってのは頭の中に別の味噌でも入っているんじゃねぇのか? わざわざ狙いを定めてくれと言っているようなものじゃねぇか! なぁ──韓暹!?』

 

韓暹『ふん! 男らしいと言えば賛辞に聞こえるが……俺達賊相手に正正堂堂過ぎるぜぇ! まあ──後悔しても遅いんがな!』

 

李楽『………大魚を待っていたが……雑魚が掛かったか。 どちらにしても……我が策術《飛来灯殺之陣》……成功したようだな?』

 

何苗の軍勢から見て、左斜め前方の木から、顔を布で巻いた男が降り立った。

 

同時に、右斜め前方より巨体の大男が立ち上がり、篝火により浮かび上がる!

 

そして、篝火を消す準備を指示していた賊将が、ユックリと近付いた。

 

兵士『こ、こここっ、こっちの方が、遥かに人数が多いんだ! 何苗将軍の仇、殺してしまえぇええええっ!!』

 

恐怖に駆られた兵士の一人が叫ぶと、兵士達が全員で襲い掛かかる!

 

李楽は、その様子を青白い顔で眺めると───ニヤリと笑みを浮かべ、手を上げて合図を送る。 賊達は、四つの篝火を水で全部消したのだ!

 

────────!

 

兵士『──────なっ!?』

 

───当然、辺りは一面の暗闇。

 

恐怖、狂気、混乱に駆られた兵士達の足が止まる!

 

李楽『ククク……人は灯りを消すと……急な暗闇への対処が出来ず……なすがままにされるという。 我が策術《黒牛闇夜之陣》……特と味わうがいい!!』

 

李楽の声が響くと、辺りに多数の者に嘲笑が響き渡る!

 

兵士達は、目標を失い、場所さえも分からず、右往左往している───!?

 

―――

 

兵士『がばぁ───!?』

 

李楽『お前達は見えなくても……俺達には……見えるのだ! その煌めく鎧……格好の的……ゴホゴホッ!!』

 

――

 

兵士『ば、馬鹿……グボォオオオ───ッ!!』

 

胡才『へへへっ………強烈な痛みだが快感だろう? お前の持っていた剣で、大事な場所を《田楽刺》してやったからな。 礼ならいらねえ……テメエの悶え苦しむ顔を想像できれば、それで充分だ!』

 

――

 

兵士『やれぇ! やれぇ!! やって───グゲッ!?』

 

韓暹『音頭ばっかりとってないで、お前も戦え──よっ!』ゴキッ!

 

兵士『───ガッ!?』バタッ

 

 

★★☆

 

 

そして、冒頭の描写へと戻る。

 

??の者は、全員──何苗の兵士。 指揮官を殺され、まんまと敵の策に嵌まった彼らに明日は無い。

 

しかも………白波賊は、いつの間にか仲間を増やして、1000名の兵士を包囲し攻撃した。

 

何苗の兵士には、辺りは暗闇で全く見えないのに、白波賊には的確に攻撃をされ、しかも此方の攻撃が当たらない!?

 

何故と疑問に思っても……時は、既に遅かった。

 

 

こうして、何苗と兵士達は────全滅した。

 

 

◆◇◆

 

【 王允の誤算 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 王允の私室 にて 〗

 

王允「────馬鹿者共がぁあああっ!!」

 

洛陽都城の一室には、劉辯の皇帝即位に伴い昇任し『司徒』になり、喜んでいる筈の王允が、酒を呷り(あおり)一人叫んでいた!

 

額には、血管が切れそうな程の青筋を立て、円卓に乗る高級な酒を手酌で酌みながら一気に呑み干し、豪快に器を円卓上へと放り投げた!

 

先程まで、王允に酌をしていた侍女は、王允から代わりの酒と肴を取りに行かせている。 しかも、八つ当りで怒鳴られながら………

 

幾ら仕える主とはいえ……侍女の待遇に不憫としか思えない。

 

しかし、今の王允には侍女の事など構っている暇などないのだ。洛陽の民からの不信感が、再度漢王朝に向けられているのだから………

 

―――

 

理由は、この半月前から起こっている……白波賊の襲撃。 洛陽郊外で頻繁に繰り返されるが、王允の腰は重い。

 

当時、何進は……別の賊討伐のため洛陽を離れていた事もある。 しかし、王允は……洛陽郊外の者を漢王朝の民とは……認めていない。

 

都城の外に居る者は……元流民。 税を納める事も出来ず、日々の暮らしに精一杯生きる者達。 王允にとっては、塵芥のような存在だったからである。

 

しかし、その者達と交流がある者より外壁の様子を伝えられ、洛陽の安全が懸念されるようになる。 その声が街の至る場所から聞こえるようになり、無視できなくなった王允は、将に命じて討伐を開始した。

 

それから2回……討伐は行われる。

 

『第一次討伐戦、武官の将と兵士1000名、賊50名と対峙!』

 

『第二次討伐戦、司徒王允の手勢800名、賊50名と対峙!』

 

一見、理不尽な戦いなように思われるが、『勝てば官軍、負ければ賊軍』である。 如何に漢王朝の威信が保てれるかが、王允にとっての関心事である。

 

だから、必ず勝てるように『少人数の集団』を『多数の軍勢』で攻めるように命令を出す! 兵法の理から言えば、数の暴力は勝率を上げる有効な行為。 王允のやり方は、理に適う物であった。

 

そのために……王允は自分の手勢として、大陸中より大金で雇用までした虎の子である精兵をも繰りだした!

 

この者達は、武力こそ確かであるが……基本的に『制圧前進』を好み、如何なる嘆願、哀願も『聞こえんなぁ?』で済ます男達。

 

雇主には給金を貰う限り忠実なのだが、金の切れ目が縁の切れ目、給金の払いがなければ即解散する集団でもある。

 

それに……王允は何苗を先に出して……その様子を見張るように命じていた。

 

何苗が討伐に成功すれば、それはそれでいい。 有能な傀儡とし煽てて使えば、単純な何苗の事、喜んで動くだろう。

 

もし、殺られたら──その失敗を糧に此方を強化して、必ず勝つように準備すればいいだけだ。 そうすれば……王允の名声は上り、何進よりも信頼できる者と、洛陽の民達から評価されるだろうと!

 

───王允の計画に隙は無し!

 

全てが自分の掌で動いているように思えていたのだ!

 

 

★☆☆

 

 

さて、ここで……文官である王允が、何故そこまで強兵を保持する事に腐心しているのか、説明をしなければなるまい。

 

まず、王允と何進…… 共に文官・武官最高位に位置する者である。

 

では、文官で実質的な最高位『三公』と、武官で最高位の『大将軍』……では、どちらが『偉い』のか?

 

 

───答えは、三公より大将軍が………格上!

 

後漢前半までは『臨時の武官最高位』だったのだが、後漢中期より外戚が大将軍と尚書令を兼任して、『大将軍録尚書事』となり、内政軍務を一手にし独裁化してしまう。 それから、三公が下になってしまった訳である。

 

その為、王允は面白くない。

 

いや、それよりも──自分より上位に位置する何進が、霊帝や皇帝達に親身になるのが腹立たしく、ある意味恐れているのである。

 

王允は、漢王朝の忠臣を自認するが、あくまで組織の維持を堅固に守ろうとする者であり、皇帝個人側に忠を捧げる者を好まない。

 

組織的忠誠を尊べば、皇帝を他の誰かに挿げ替えて(すげかえて)も 、皆が動じず漢王朝を維持できる。 例え……英邁な皇帝が現れて革新的な政を開始するより、組織化して堅実な政を継続した方が、漢王朝が存続していく筈。

 

皇帝など──漢王朝を求心する『生きた御輿』ぐらいにして置けばいい──としか、考えていなかったのだ。

 

そんな王允の計画は、何進の為に支離滅裂になった!

 

天の御遣いを名乗る妖しい奴等を洛陽に連れ込み、 諦めていた霊帝や皇帝に希望を持たせ──洛陽内外で前代未聞の禍福が起こっている!

 

これ以上、何進に好き放題させてしまえば、王允の権威、信頼、人望、そして遠大な計画が水の泡と化してしまう!

 

───だから、王允は考えた。

 

『苦手と思われる分野で、知名度を挙げようではないか!』

 

それが……金と権力に物を言わせて、大陸各地より屈強な兵を集めて訓練した王允の手勢達であった。

 

彼らは、流石に名のある兵であり、幾度の出陣で賊討伐に勇名を馳せ、先月の洛陽蜂起における白波賊捕獲にも貢献。 そして、何進配下の兵士にも、模擬戦において、ほぼ互角の戦い振りを見せ王允を喜ばせた!

 

 

★★☆

 

しかし、そこまでお膳立てをしたのに関わらず───討伐に赴いた者達は───まさかの全滅!

 

2度目に向かわせた王允自慢の手勢さえも……無惨な死体と成り果てた。

 

彼らは、王允の命令を無視し……何苗の討伐時には、宿舎で酒を呑んでいたと侍女よりの証言。 自分達の力を驕り、相手を軽んじた結果だった。

 

後に、手勢の死体を回収した際、王允に報告すれば………

 

王允『何のために、何のためにぃぃ!! この儂が──高い給金を! 貴様らに払ってやったのだ!? 役にも立たない馬の骨共がぁあああっ!!!』

 

『『『──────!?』』』

 

運ばれた元手勢の遺体を足蹴にして、更に罵声をも浴びせたと言われる。

 

事情を知らない者達は……『その浅ましい行為に、洛陽での王允の名声は一気に下がった』と……後世の歴史書に記載している。

 

何進が洛陽に戻り事件の顛末を聞き及び、調書を取るように命じた。

 

時は既に過ぎ……遺体の確認しようとも腐敗が著しく、生存者も勿論居ない。

 

そんな中で判った事は、状況は『夜』『原野』『少人数の賊』……そして、討伐を命じて向かった将と兵士が『全滅』する結果。

 

そして、死体を運んだ者達の証言、現場に落ちていた物の回収を行う。

 

皆が皆………この戦闘に対する詳細を知りたがった。

 

ある者は鬼神の仕業といい、またある者は妖術の類と疑い、色々と臆測を生むが、結局………結論は出ない。

 

『どうして、こういう有り様になったのか?』

 

─────分かる者は、誰一人して居なかったのである。

 

ただ、この事は王允にとって───痛恨の出来事であったのは間違いない。

 

一時は何進の謀略ではないかと疑ったが……何進に対しても評価が下がっており、白か黒かの判断が難しい。 しかも、何進が操っていた証拠など全くない。 一方的な決めつけは、後々の災いをもたらす可能性もあるのだ。

 

それに、何進に対する皇帝の信任が厚い事もあるが、それより……何進の後ろには……あの『天の御遣い』が居る!

 

だが、『北郷一刀』──かの者が命じれば、このような事態など容易く出来るのでは? 何進が居なくても、あの者の配下が動けば─────!

 

―――

 

侍女「───失礼致します」

 

王允「お、遅いぞ! 早く此方に来て注げ!!」

 

―――

 

────そこまで考えていると、侍女が酒壺と料理を持って部屋に入って来た。 王允は、その考えを急いで頭の隅に追いやり、円卓に置いてある器を乱暴に掴むと、侍女に酌を求めた!

 

王允『…………それを確かめる術が無い! それに……かの者を信奉する者は、余りにも多過ぎる! 益州の民や諸侯、そして劉辮でさえも──』

 

侍女は大人しく従い、持って来た更に高級な酒を器に注ぐと、王允は顔を上げて一気に呑み干した!

 

王允「なんで、この大事な時期に──こんな厄介事が続くのだ!! 儂が……やっとの思いで十常侍に成り代わり、清流派代表として国政を担う立場になれたのに!! 何故だ! 何故なんだぁあああっ!!」

 

王允は、顔を朱に染めて更に叫び、 また侍女に酒を注がさせ一息に器を空にした後、床へ叩き付けた!

 

そして………自称『漢王朝の忠臣』は、顰めっ面していた顔を更にしかめて──これからの思案に暮れた。

 

内憂外患──この言葉が正に当てはまる、王允の様子であった。

 

 

◆◇◆

 

【 更なる困惑 の件 】

 

〖 洛陽 各諸侯 陣営内 にて 〗

 

 

洛陽に滞在していた諸侯の間にも、何苗達官軍の惨殺された話を……伝え聞いていた。 倍する相手を血祭りに上げる白波賊の恐怖は、洛陽の街中で何時も話題となり上った。

 

だが、そこは名のある諸侯……その伝聞の真偽を確かめる為、ある者は人脈を屈指し、またある者は独自の調査網で情報を集め、また別の者は……他の方法で手に入れ、この状況の正確な詳細を知る事になる。

 

―――

 

桂花「官軍が無残な状態で殺されたと聞いて、伝を利用して少し調べてみたのよ。 この戦……何か危険な感じがするわ!」

 

春蘭「ふん、それはだな……ただ単純に洛陽の官軍が弱かった! それだけではないのか!? 私が直接鍛えた兵士達なら、不覚など取る事は無い!!」

 

桂花「最初に殺された官軍なら、その理論に賛成してあげてもいいけど──その次の被害があった軍勢は該当しないわ!」

 

春蘭「───王允の手勢か!?」

 

桂花「あの大将軍の手勢と互角に戦った熟練の兵士達。 そのような者達まで、簡単に殺された事が……どうしても腑に落ちないのよ!」

 

春蘭「う~むぅぅぅぅぅ」

 

桂花「まだあるわ! その者達が使用した剣や槍には、刃毀れも潰れも殆ど無いみたい……これ、どういう意味だか分かる?」

 

春蘭「それは──攻撃をしていない!?」

 

桂花「普段は脳筋の春蘭でも、戦闘になると天才だわね?」

 

春蘭「────脳筋は余計だ!」

 

桂花「ふん、折角褒めてあげたんだから、もっと喜びなさいよ。 まあ……それは置いといて、その意味は?」

 

春蘭「私達は武官は、武器の手入れを必ず行う。 何故なら、敵への攻撃最中に不備があれば、華琳様に迷惑が掛かるだ!」

 

桂花「……………………」

 

春蘭「な、なんだ……その憐れむような目は──!?」

 

桂花「まあ……いいわ。 話を進めましょうか………」

 

春蘭「おいっ! 何か突っ込んでくれっ!」

 

桂花「いい? 剣も槍も……切れ味等を大切にするから、先を鋭くするわよね? だけど、その分だけ刃の厚みが減り強度が下がる。 つまり、鎧や骨に当たれば、簡単に刃毀れが起こる。 それが無いのは、反撃が出来なかったのよ!」

 

春蘭「ぐすん………な、何だとっ!? ───反撃が出来ないままでか!?」

 

桂花「 そう……一方的に……殺られたという事よ!」

 

ーー

 

冥琳「───死体の状況はどうだった?」

 

思春「はっ! 死体を運んだ者の証言ですと、全員が殺傷により致命傷を負い亡くなっています! 念のため、墓を暴き確認しましたが、毒物による皮膚、顔色の変化、嘔吐の後も無し。 ただ、気に掛かる事が……ありまして」

 

冥琳「それは……何だ?」

 

思春「はっ、どうやら……ほぼ全員……下半身を主に斬られています!」

 

冥琳「上半身に傷は無いのか………?」

 

思春「いえ、上半身が腹部や胸部、頭部にも刺傷があったようで……致命傷と見受けられる物は、こちらが多いように思われます!」

 

冥琳「…………ふむ、下半身を斬られ、上半身に止めを刺す……か」

 

思春「はい──これは、私のように暗殺を担う役割を持つ者のやり方。 推測ですが、脚を狙い動きを止めてから、刺殺したように見受けらると……!」

 

冥琳「なるほど……兵法の理にも通じる。 御苦労だったな……思春! また何か分かれば、私へ報告を頼む!」

 

思春「───はっ! ではっ!!」

 

――

 

詠「月ぇえええ───た、大変よぉ、大変!!」

 

月「どうしたの……詠ちゃん? 何か事件の事………分かった?」

 

詠「──その事で報告に来たのよ! 何苗将軍や兵士惨殺を目撃した者が………見つかったわ!!」

 

月「ど、どういう事? 生き残っている兵士さんは……居ない筈じゃ??」

 

詠「ボクだって、そう聞いていたわ! だけど……急に恋が連れて来たの。 街の中で急に抱き付かれ、助けを求められたって!」

 

月「恋さんに抱き付いたって……詠ちゃん、その目撃者──」

 

詠「月の思っている通り……まだ小さい子供よ。 この子は、母親と行商で来ていた男の子だけど、恋の姿を見たら駆け出して、抱きついたと思ったら泣き出した……と恋より言われ会って来たわ!」

 

月「……恋さんと顔見知り?」

 

詠「それはね……前に洛陽に来た時、恋がセキトと子供達で遊んだって楽しそうに言っていたでしょう?」

 

月「うん………恋さん、久しぶりに嬉しそうだった!」

 

詠「その時の一人だったみたいよ。 恋は本能的に、動物や子供たちから懐かれ易いのよ。 だから、恋の姿を見て頼ったみたいね?」

 

月「へうぅ……羨ましいな………」

 

詠「月……大事な事はこれからよ? ボクも聞いて半信半疑だった……」

 

月「………えっ?」

 

詠「その子が始め話したのは………『お化け』が出た……という話なの。 例の原野で見たって………」

 

月「───! もしかして、それって──」

 

詠「そうよ! 母親は、子供の言う事だから信用していなかったようなんだけど、恋は信じて話を聞いてくれたみたいなの。 だから、秘密にしていた惨殺現場の目撃も……一緒に話してくれたのよ!」

 

月「…………その子は?」

 

詠「今、恋が付き添って遊んでいるわよ。 心配しなくても、この話の出所は秘密にするわ。 ────あの子が可哀相だからね?」

 

月「ありがとう……詠ちゃん!」

 

詠「礼なんていいわよ! ボクが好きでそうしたんだから!」

 

月「うふふ………あっ、詠ちゃん! もしもだよ? もし、司徒様から追求されたどうするの!? たぶん……あの方の事だから、自分で問い質すとか言いそうな気が…………」

 

詠「そうしたら、アイツの手柄にでもさせるわよ! 天の力だとか何とか言えば、反論できる術なんて、ボク達にある訳ないんだから!」

 

月「──さすが、詠ちゃん! それなら立証なんて出来ないから、大丈夫だよね! そ、それなら……ご主人様に私が報告して……お願いしようか? へうう……そうしたら、身繕い(みづくろい) して御願いに行かなきゃ!」

 

詠「………………………ふん!」

 

月「あ……ごめんね? 勿論、詠ちゃんも一緒だよ! 打ち合わせは、当人同士で合わせないと、誤魔化せられないものねぇ~?」

 

詠「───ちょ、ちょっと、月ったら!!」

 

月「でも………その子……どうしてそんな危険な場所に居たのかな?」

 

詠「それは聞いているわ。 ──その夜にね、人の声の賑やかさに祭りと勘違いして、出てきちゃたみたいなの。 あまり楽しみにするものが洛陽の郊外にないじゃない? だから……親にナイショで家から出て一人で向かったって」

 

月「──────!」

 

詠「そうして、恐々近付くと……怖い顔をした大人達が、酒を呑んで騒いでいたそうよ? ガッカリしたその子は、帰ろうとして一里(約400㍍)ぐらい離れたら…… 何苗の軍勢が攻めてきたみたいね」

 

月「もしかして、その大人達って───!? それで、その子に怪我は無かったのっ!?!?」

 

詠「親に……『戦に巻き込まれたら、何処か隠れる場所を探して身を潜めて居なさい』って言われたんだって。 だから、すぐ側の叢に入って、双方の争いから……上手く遣り過ごしたそうよ。 だから、その子に無事だったみたいね」

 

月「良かった! 本当は不謹慎だけど……その子だけでも無事で安心しちゃた!」

 

詠「だけどね───問題は……これからよ!」

 

月「問題………?」

 

詠「その子のいう事には………」

 

―――

―――

 

 

『お姉ちゃん! 都の偉い人の兵士さんはね………『お化け』に殺られたんだ! 姿が見えない……突いても斬っても死なない……『お化け』達に……殺されたんだよぉ!』

 

―――

―――

 

月「人を殺す………『お化け』………」

 

詠「人を呪い殺すなら、まだ信憑性もあるかも知れないわ。 だけど、死体には明らかに武器で殺した痕跡。 殺した相手は……人である事に間違いないわ!」

 

月「だけど、姿が見えない、突いても斬っても死なない──これって、お化けじゃ───!?」

 

詠「必ず、何らかの絡繰りがあるのよ! その絡繰りが判らないと、もし……ボク達が討伐を命じられたら、二の舞になる可能性が高いわ!!」

 

―――

 

各陣営内の軍師達は、極めて確信に近い予測をしていた。

 

その白波賊討伐に、自分達が命じられる事が────!

 

 

 

 

――――――――

――――――――

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

やっと……私用が終わり、執筆中だった作品を手直ししていたら、早くも一週間が。 殆ど、全文書き直しでしたね………忙しい合間を見て書いたから、話が繋がらなくて。

 

さて、話の内容から分かりますが……今度は夜戦となります。

 

『○○』が一刀の傍に居ますからね。

 

どう活躍するのか……次回にて。

 

 


 
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