深夜0時、某立体駐車場。
深夜まで働いている人でもない限り人の出入りが無いであろうこの場所に、白服に身を包んだ無表情の集団が複数も集まっていた。
彼等こそ、世界各地で暗躍している闇の組織―――財団Xだ。表向きは科学研究財団の看板を掲げているが、裏では様々な組織・個人に対して研究成果を代価に資金援助を行っている、まさに死の商人である。
ガイアメモリを製造していたミュージアム、死者を戦士として蘇生させるNEVER、強力な超能力者を生み出そうとしていたクオークス、オーメダルについて研究している鴻上ファウンデーション、ある学園でゾディアーツスイッチをばら撒いていたホロスコープス、人造ファントムの開発に成功した白い魔法使い、ヘルヘイムの森の謎の解明を進めていたユグドラシル・コーポレーション、人間の精神を仮想世界に閉じ込める研究を行っていたC.O.M.など、既に多くの組織や個人に資金援助を行い、その研究成果を吸い上げて来た。故に、財団Xは今、所有している戦力がどんどん拡大していっていた。
そして今も、彼等はある研究成果を入手する為に、この立体駐車場で待ち続けていた。
「…!」
今回集まった使者達の中で、リーダーと思われる白髪の男性―――ヴィアスは近付いて来る気配に気付き、その方向へと振り返る。彼が見据える方向の暗闇からは、一人の怪しげな人物がヌッと姿を現した。
胸部に装備したプロテクター、その上から着た黒スーツ、首元に巻いたマフラー、そしてスカウター付きの黒眼鏡をかけた髭の男性“クリム・スタインベルト”に擬態した機械生命体―――ロイミュード004は右手にスーツケースを持ったまま、財団の使者達の前まで歩いて来た。
「待たせてしまったようだね、財団Xの皆さん」
「…予定より十五分も遅れている。時間通りに来て貰わなくては困るぞ」
「まぁそう言わずに……君達が求めているのは、まさにこれだろう?」
004はヴィアスの前でスーツケースを開き、その中身を見せる。中にはスパイダー、バット、コブラ、その三種類のネオバイラルコアがそれぞれ五個ずつ、合計で十五個ものネオバイラルコアが収納されていた。
「ほぉ……これが例の、ネオバイラルコアだな?
「今回は悪人問わず、誰でも使用可能な物を揃えさせて貰った。後はそちら側で量産してくれたまえ」
004はスーツケースを閉じ、それをヴィアスの手に渡す。ヴィアスは首を振って合図を出し、彼の後方で待機していた部下の女性が004の傍まで歩み寄り、億単位の金額が書かれた小切手を差し出し、004がそれを受け取る。
「全く、これでようやく本部に戻る事が出来るな……あまり時間にルーズなのは止して貰いたいところだ。場合によっては、投資の打ち切りだって考えられるのだぞ?」
「その事ならノープロブレムだ。我々の計画は現在、最終段階にまで突入している。
「ふん。その計画が、頓挫しない事を祈っているよ……おい、引き上げるぞ」
ヴィアスはスーツケースを持ったまま立ち去り、彼の部下達もそれに続こうとした……その時だった。
-ヒュンッ-
「ぬっ!?」
立ち去ろうとしたヴィアスの目の前を、一枚の紙が目に見えない速度で通過し、近くに駐車してあった軽自動車のフロント部分に突き刺さった。何事かと思ったヴィアスは部下にスーツケースを預け、そのフロント部分に刺さっている紙を手に取る。
【本日、ロイミュードのデータとなるバイラルコアを頂きに参上する。抵抗、大いに歓迎する 怪盗アルティメット・ルパン】
「!? これは…」
そう、その紙は予告状だった。しかもこの怪盗の名前に、ヴィアスは聞き覚えがある。
(まさか、既に狙われて…)
「ぐぉあっ!?」
「「「「「!!」」」」」
そんな時、スーツケースを持っていた部下が大きく吹き飛ばされた。その時に落ちたスーツケースを、先程004に小切手を渡していた女性がキャッチし、ヴィアス達から大きく距離を離す。
「!? 貴様、まさか…」
「お気付きになられるのが遅かったですねぇ、ヴィアス・ポートレイ殿」
スーツケースを奪った女性は着ていた白服を掴み、一瞬にして脱ぎ捨てる。すると女性は瞬時に白スーツに黒マント、そして白いシルクハットを被った青年へと姿を変えた。彼の足元には彼が先程まで着ていた女性物の白服、そして女性の顔をした覆面が落ちている。
「ネオバイラルコア……確かに頂いた」
この青年こそ、最近になって再び世間を大いに賑わせ始めた大怪盗アルティメット・ルパンだった。ルパンの正体である青年―――ゾルーク
「おのれ、既に我々の中に潜り込んでいたとはな……アルティメット・ルパン!!」
ヴィアスが指を鳴らすと、彼の部下五人がゾルークの前に立ち塞がり、スーツケースを取り返すべくゾルークに襲い掛かる。
「やれやれ、血の気の多い方々だ…っと」
「ぐ…!?」
「うぉ!?」
「な…おぶっ!?」
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
それでもゾルークは慌てずにスーツケースを上に放り投げ、一人目の部下の顔面を殴りつける。二人目の部下は足を引っ掛けて転倒させ、三人目の部下はパンチを両手でいなしてから腹部に膝蹴りを加え、落ちて来たスーツケースを再びキャッチしてから四人目の部下をそのスーツケースで思いきり殴り飛ばす。
「でやぁ!!」
「おっと、美女に暴力は振るいたくないんだがねぇ…?」
「うっ!? く…」
五人目の部下である女性が、華麗な足技でゾルークに攻撃を仕掛ける。ゾルークは困ったような表情をしつつもその足技を軽々捌きながら女性の背後に回り、彼女の首元に手刀を当ててから気絶させ、抱きかかえてからゆっくり地面へと寝かせた。
「コソ泥の分際でこんなマネを……許さんぞっ!!」
≪コマンダー!≫
ヴィアスは取り出したガイアメモリのスイッチを押した後、それを自身の首元に当てて挿入し、深い緑色を基調としたメカニックなボディの怪人“コマンダー・ドーパント”へと変身。左腕に装備していたコントローラーを指で操作し、分身体である仮面兵士を大量に召喚する。
『ただの人間が、このコマンダーの力には敵うまい』
しかし…
「ふむ、確かにただの人間では敵わないだろうねぇ……だが」
ゾルークは余裕の表情だった。彼は黒マントに右手を入れた後、そこからある物を取り出す。それは……宝石などの装飾が付けられた、金色のハンドルグリップ型ツール“ルパンガンナー”だった。
『!? まさか、それは…!!』
「お見せしよう、俺の持つ力を……変身!」
≪~♪~♪~♪~♪≫
ゾルークはルパンガンナーの銃口を左掌に押しつけた後、壮大かつ派手な音楽と共にルパンガンナーを周囲に向かって振り回す。するとルパンガンナーの銃口から複数の大きな宝石が発射され、それらが一斉に分裂して小さな宝石となり、コマンダー・ドーパントや仮面兵士達を攻撃する。
『ヌ……グォオ!?』
『『『『『ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…!?』』』』』
≪LUPIN≫
大半の仮面兵士がこの攻撃で消滅する中、散らばった宝石はエフェクトとなってゾルークの元に集まっていく。ゾルークはルパンガンナーの握られた右手を『Z』を描くように動かし、全身がエフェクトに包まれていく事で変身を完了させた。
黒いシルクハットやカイゼル髭といった意匠。フィルムのような形状の鎧。蝶ネクタイのように付いた鋏らしき形状の装飾。胸部やベルトに付いた宝石状の装飾。全身の赤黒いボディ。そして背中の黒いマント。
「我こそが、アルティメット・ルパン…!」
≪BREAK≫
ゾルーク東条が変身した戦士―――“仮面ライダールパン”は、ルパンガンナーの銃口を再び左掌に押しつける。向かって来た仮面兵士達の電撃棒を宝石状のバリアで防ぎ、仮面兵士を一体ずつルパンガンナーで殴りつけていく。
『『『ヌォォォォォォォォォォッ!?』』』
「…さぁ、次はどうする?」
『お、おのれぇ!!』
「おっと」
ルパンガンナーで殴られた仮面兵士達はあっという間に全滅し、それを見たコマンダー・ドーパントは左腕のコントローラーを操作し、数発のミサイルを発射。ルパンは冷静にミサイルの軌道を読み取り、自分に当たりそうなミサイルだけに狙いを定める。一発目と二発目はルパンガンナーで殴って破壊し、三発目は右足で直接蹴り返してコマンダー・ドーパントに命中させる。
『グハァッ!? こ、この…』
「遅い」
≪GUN≫
『グハ…グガガガガガガガ!?』
「へぁあっ!!」
『ガァァァァァァッ!?』
そこへ容赦なくルパンガンナーの銃撃も飛び、コマンダー・ドーパントのボディが壁に叩きつけられる。そこへ更にルパンの連続パンチが炸裂し、ルパンガンナーによる一撃がコマンダー・ドーパントを立体駐車場の外まで吹き飛ばした。ルパンもそれに続いて外へ飛び出していく。
「さて、お次は…」
≪TUNE LUPIN BLADE≫
『ガ、グッ!? こ、小癪な…ヌグァ!?』
小さな刀身が付いた金色の“ルパンブレードバイラルコア”を装填し、ルパンガンナーをブレードモードに切り替えたルパンはコマンダー・ドーパントに飛びかかり、そのボディを連続で斬りつけていく。コマンダー・ドーパントも負けじと左腕のコントローラーを操作しようとしたが、そうは問屋が卸さない。
「はっ!!」
『んな!? う、動けな、い…!!』
ルパンが左手を振るうと、映画のフィルムを模したような特殊なフィールドが出現。コマンダー・ドーパントはその中に閉じ込められ、動きを完全に封じられてしまう。
≪ULTIMATE LUPIN STRUSH≫
「ぜりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ば、馬鹿な、こんな……ギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』
最後は振るわれたルパンガンナーから、宝石のように輝く斬撃が飛来。動けないコマンダー・ドーパントのボディを斬り裂き、コマンダー・ドーパントはあえなく爆散した。爆風が晴れた後、変身の解けたヴィアスが地面に倒れて意識を失い、近くに落ちたコマンダーメモリが破損して砕け散る。
「では予告通り、これは頂いていくよ……さらば!!」
ネオバイラルコア入りのスーツケースを持ち、ハッハッハと高笑いしながら飛び去っていくルパン。それらの一部始終を陰で密かに見届けていた者達がいた。
「アルティメット・ルパン……面倒な事をしてくれたものだ」
『問題は無かろう? シグマサーキュラーの開発資金は手に入れたのだからな』
一人は004。もう一人は004の横に浮かぶ、金色の顔がディスプレイに映った黒いドライバー……この見るからに怪しいドライバーこそ、ロイミュードを開発した張本人―――
『いずれ仮面ライダー達も、この街の財団の拠点に辿り着くだろう。そうなれば、もう財団の連中は用済みだ』
「仮面ライダーと財団X……さて、一体どちらが勝者になるのかな?」
『我々は静観しようではないか。この偉大なる私の計画を、順調に進めていく為にな……クククククク……クハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
しかし、この二人はまだ知らなかった。
仮面ライダーと財団X。
彼等の戦いには、更なる勢力が介入して来るという事を。
「二人共、父さんに会いに行く準備は出来ましたか?」
「うむ、問題ないぞ」
「おっしゃー! 首を洗って待ってろよ、親父ぃー!!」
九番目の熾天使・外伝 ~短編EX3~ 未来の力はどうやって手に入れるのか
続きは『マーセナリーズ・クリード』へ…
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