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模型戦士ガンプラビルダーズI・B  第38話

コマネチさん

第38話 「変わった友、変われなかった友」(前編)

今回は37話から一週間後、違法ビルダーやフーリガンがガンプラバトルになだれ込んできた話をしよう。

2015-10-12 21:47:48 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:701   閲覧ユーザー数:655

今回は違法ビルダーやフーリガンがガンプラバトルになだれ込んできた話をしよう。

 

七月半ば、昼下がりの土曜日……この日も模型店『ガリア大陸』、その二階ではガンプラバトルは盛んに行われていた。四機のガンプラが仮想の宇宙空間を飛び交う。ここ近隣最強のビルダー、ヤタテ・アイ、そして挑戦者の少年たちの愛機だ。

 

「覚悟!アンタを倒して学校の奴らに自慢するんだ!」

 

挑戦者の一人、ギラ・ズールアンジェロ機がヤタテ・アイの機体、パーフェクトユニコーンにビームランチャー『ランゲ・ブルーノ砲・改』を撃つ。それを援護とし、仲間の二体は前に出ながらビームマシンガンを撃ちまくった。

敵の機体は『ガンダムUC』に登場した第二次世界大戦のドイツ兵の様な姿の緑色の機体、ギラ・ズール。同じくUCに登場した機体で遠距離装備のマイナーチェンジ、ギラ・ズールアンジェロ機、色は紫だ。そして『ガンダムAGE』に登場した太ったリザードマンの様な機体、バクトの三機だ。

 

「私と戦ったことは自慢にならないのかな!?」

 弾幕の中を掻い潜るアイのパーフェクトユニコーンは、回避行動を取りつつ高速で接近、なおかつ右腕のビームマグナム、左腕のビームガトリングで迎撃。マグナムはバクトを貫き、ギラズールもガトリングでハチの巣になり爆散、

 アンジェロ機に乗った少年が仲間の名前を叫ぶ。しかし直後少年は気が付いた。「やられる!」と、パーフェクトユニコーンが背中から伸びたビームキャノンでこちらを狙い撃ったのだ。少年は気付いた直後、放たれたビームに飲まれ爆発、簡単に決着はついた。

 

「ちぇー本当強いな姉ちゃん」

 

「次こそ勝つからなー今にみてろよー」

 

「勝ったら胸、長時間揉ませろよー」

 

「揉むのは絶対嫌だけど挑戦はいつでもいいよ」

 

 毒づきながらも根に持たない風に去る挑戦者達を見送るアイ。彼女はかつてここの最強のビルダー『コンドウ・ショウゴ』と戦い、勝利し、その所為で彼女を倒し、名を上げようとするビルダー達から挑戦を受ける立場となった。しかし彼女はそれすらもステップとして成長。今では以前より遥かに実力を上げていた。

 

「張り切ってるなヤタテさん」

 

 そんなアイに話しかけてくる青年がいる。少し髪の伸びた眼鏡の青年『ツチヤ・サブロウタ』。アイの仲間でチームメイト、23歳のフリーターだ。

 

「あ、こんにちはツチヤさん」

 

 挨拶するアイ、当然ツチヤも返す。

 

「当然ですよ。今はコンドウさんからチーム受け継いだんですから」

 

 やる気十分に答えるアイ。そう、彼女は仕事の都合で街を離れざるを得なくなったコンドウからチームを任された。そしてアイは自分の仲間と統合し新チーム『I・B』のリーダーとなったのだ。

 

「頼もしいな。君達がいるなら今回は本当に全国に行けるかもしれない……」

 

「全国……そのつもりですよ。『イレイ・ハル』君に会いたいんです。そして全身全霊をかけたバトルがしたいんです」

 

『イレイ・ハル』10代ながらビルダーの頂点『ガンプラマイスター』に上り詰めた少年、数年前、彼の頂上決戦のバトルに強く影響を受けたアイは

ハルに恋愛とも憧れともつかない感情を抱いた。今言えることは『彼と会って、最高のガンプラバトルがしたい』それがアイの夢だ。

 

「なら選手権に向けて俺達も腕を上げなきゃな。今度は俺と戦ってくれないか?ヤタテさん」

 

 そう言ってツチヤは持ってきた機体を見せる。『ZZガンダム』に登場した可変分離機、バウ、その改造機。最初アイがツチヤとバトルした時もこの機体だった。

 

「わ!バウH(ハーフ)だ懐かしい!これ持ってきたんですか?!」

 

「本来俺は変形と分離をする機体が好みなんでね。最近勘が鈍ってたからここらで戻したくて、俺と戦ってくれるかい?」

 

「えぇ、喜んd「アイさん!話はつきましたね!俺と勝負して下さい!」

 

 アイが言いかけた時に元気よく少年が声をかけてきた。小学生だ。

 

「君は……コウタ君?」

 

 アイにとっては知った顔だった。コウタ、ここ最近しょっちゅうアイに挑戦を繰り返してくるガンプラ好きの少年ビルダーだった。

 

「顔を覚えておいてくれたんですね。嬉しいです」

 

「そりゃ君、何度も来てるからね」

 

「思えば随分あなたに挑戦しましたね。そんなに日に余裕はないですからね」と少年は答える。

 

「そっか、来週引っ越しだっけ」

 

 そう、このコウタという少年、来週に親の都合でこの街を離れなければならない。だから積極的に強くなろうと努力していた。そしてアイと全力で勝負がしたいと思っていた。

 

「本格的な改造に挑戦してみました!今度は負けません!」

 

「いいけど、ちょっと順番待ちになっちゃうけどいいかな?」

 

 先にツチヤの方が挑戦をしてきた。順番で先にツチヤとのバトルをしようとするが、

 

「いや、俺は後の方でいいよ。折角彼もやる気十分で来たんだからさ」

 

「解りました。有難うございます。それじゃ勝負だよコウタ君」

 

 

 そしてバトルが始まる。フィールドは夜間都市部、明かりのついた高層ビルが立ち並ぶ中、アイのパーフェクトユニコーンが大通りに降り立つ。

 

「コウタ君は……上か」

 

 上空に敵機が見えた。黒い機体だ。まだハッキリ見えないが、すぐさまアイは背中のビームキャノンを上に発射、コウタの機体は難なくかわすと接近してくる。アイのユニコーンも接近しようと飛び上がる。飛行する二機、そうこうしている内にコウタの機体が見えた。

 

「ダークマターブースターをつけたシグー!!」

 

 

 アイは叫ぶ、シグー、『ガンダムSEED』に登場した細身かつ鋭角的な機体だ。コウタのシグーはダークマターブースターという追加パーツがついていた。両腕もエクシアダークマターという機体の物に代わっていた。

 

「そう!ただ何にも対策もナシにアンタに挑戦しやしない!このシグー・ダークマターでアンタを倒す!」

 

 アイはコウタとのバトル歴を思い出す。最初はただ組んでシール貼っただけのいわゆる『素組み』という状態だった。次は色が足りない部分を塗装し、モールド(筋)にスミを入れディテールを強調した『スミ入れ』をやったシグー、

 次はシールの部分も含め全部塗装したシグー、そして今回はシグーダークマター、挑戦する度にコウタのレベルは上がっていた。

 

「くらえっ!!」

 

 シグーの右腕に装備されたダークマターライフルをコウタは撃つ。

 

「おっと!」

 

 アイは細いビームを難なく回避、左腕のビームガトリングで牽制を行う。当たりはしなかったがシグーの目の前を通るビームの弾丸。一瞬シグーは足を止める。ユニコーンは高速で接近、右肩のビームサーベルを展開、切りかかる。

 

「これで!」

 

「っ!」

 

 シグーはダークマターライフルの盾部からビームサーベルを発生、ユニコーンのビームサーベルを受け止める。

 

「受け止めた!?」

 

「てぇぇや!!」

 

 シグーは左手首からビームサーベルを発生させる。そのままユニコーンを斬ろうと横に薙ぎ払おうとする、が、その前にユニコーンは左手にビームマグナムを持ち替え、ビームマグナムを持ち替え、空いた右腕でシグーの鳩尾にパンチをいれる。シグーはそのまま後方に吹っ飛んだ。

 

「素組みだったらめり込んでそのまま終わってたんだけどね!塗装で強度も上がってるって事だね!」

 

 すぐさま体勢を直すシグーにアイは言い放った。

 

「クッ!そうだ!今の俺の全部をつぎ込んだのがシグー・ダークマターだ!負けるわけにはいかない!トランザム!」

 

 コウタが叫んだ直後、シグーが真っ赤に輝く、性能を上げるブースト形態『トランザム』だ。

 

「シグーがトランザムを!?そうかダークマターの効果で!」

 

 トランザムは『ガンダムOO』に出てきた機体のみが使えるブーストだ。しかし背中についたダークマターブースターはそれを他作品の機体にも使える効果がある。トランザムの制限時間を越えれば性能は低下するというデメリットも追加されるが、

 

「おぉぉっ!!」

 

 夜景が綺麗な街を眼下に、残像を残すスピードでユニコーンの周りをグルグル回り、ダークマターライフルと、手首からのバルカンを連射するコウタのシグー、アイのユニコーンは最小限の動きで回避する!

 

「なんて気迫!」

 

「当然だ!アンタを倒すには一瞬のスキを突く!」

 

「見事な魂だよ!だけど!」

 

 アイはそういうとユニコーンの右腕のビームガンをシグーの進行方向へ向けて発射、

 

「っ!?」

 

 撃たれたビームは真っすぐシグーへ向かう。とっさに急停止をかけたシグーは右腕とダークマターブースターの右部分を貫通、破壊した。

 

「や!やられるもんかぁ!!」

 

 諦めないとコウタのシグーは左手首からビームサーベルを構え、高速でユニコーンに突っ込んだ。

 

「まだ……未熟!」

 

 ユニコーンは両肩のビームサーベルを展開、それ違いざまにシグーの腹部を斬り裂いた。

 

「なっ!」

 

 真っ二つにされたシグーはそのまま爆散、難なくアイの勝利となった。

 

「完敗でした……」

 

 沈んだ声のコウタがアイに言った。かなり悔しいのだろう。

 

「でもガンプラの出来も動きも一歩ずつよくなってるよ。このまま突き詰めればもっとあなたは強くなれるよ」

 

「有難うございます。また挑戦しますから、それじゃ……」

 

 そのままコウタは二階を後にした。

 

「……たまに思うんですけど、もっと加減した方が良かったんでしょうか」

 

 アイが見送った体勢のまま後ろのツチヤに話しかける。

 

「挑戦者は記念に戦おうとするタイプと倒して名を上げようとするタイプに分かれるからね。あの子の場合全力で戦った方が為になった筈だ。あの子は加減すると怒るしね」

 

「そうですけど……あぁ沈んだ風に見ると気持ちが揺らぎますよ」

 

「でも加減した方が失礼になる事は君も解るだろう?向こうは全身全霊で来たんだからさ」

 

「そうですけど……」

 

 アイがそう言った時、コウタとすれ違いざまに見知った顔が二階に上がってきた。それも七人もだ。

 

「あ、いたいた。アイちゃーん!!」

 

 ややガッシリした青年、『ハガネ・ヒロ』がアイの名を呼んだ。そこにいたのはヒロを含め、癖毛の仏頂面の少年『アサダ・ソウイチ』。アイのバイト先の上司で、恰幅のいいヒゲの中年『ブスジマ・シンジ』、ブスジマの幼馴染みでハg……もとい剃った頭の中年『ツクイ・クニヒコ』

 セミロングで大きい目と口が特徴の新聞部少女『フジ・タカコ』短髪でちょっと近寄りがたい陸上少女『ミヨ・ムツミ』そしてポニーテールのアイの親友『ハジメ・ナナ』全員アイの代表的な友達、そして仲間だ。

 

「皆、一斉に来るなんて珍しいね」

 

「たまたまそこで行き会ってね。って大変なんだ!」

 

「え?」

 

 ヒロの言葉にクエスチョンを浮かべるアイ。

 

「まずは見て欲しいッス!こいつを!」

 

 ソウイチが一冊の本をアイに手渡す。模型雑誌『ブルジョワモデル』だ。

 

「ブルジョワモデルぅ?まだ廃刊になってなかったのこれ?」

 

 怪訝な顔で表紙を見るアイ、数ある全国で売られてる模型雑誌の中でもぶっちぎりでワースト一位になってる不人気模型雑誌だ。理由は掲載物が総じていい加減なのが原因だ。模型作例はよく見たら手抜きだわ、バトルで勝つにはジュースに一服盛れだの散々だ。

 

「俺だってこんなんに金出したくないッスよ。それより見てほしいのはこの中ッス」

 

―母さんが間違って買ってきたんスけどね―という言葉を飲み込みソウイチはある記事をアイに見せた。

 

……

 

 アイ達がブルジョワモデルを見てる中、一階に降りたコウタは、模型売場奥の工作室で立ち尽くしていた。

 

―結局アイさんには適わなかった……。勝ちたくて腕を磨いてきたのに……コイツを活躍させたかったのに……アイさんと……最高の思い出を作りたかったのに……―

 

 手に持ったシグーを見ながらコウタは悔し涙を浮かべる。

 

「災難だよなぁ、自分でいくら努力してもその上をいっちまう奴がいる」

 

 そんなコウタに話しかける男がいた。手にはサイコロサイズの小さな箱を二個、ポンポンと上下させていた。

 

「あなたは?」

 

 

 そしてアイ達に視点を戻す。

 

「な!!なにこれ!!」

 

 アイの叫びが響いた。

 

「そうッス。違法ビルダーの宣伝ッス」

 

 そう、ブルジョワモデル内の特集として違法ビルダー(ガンプラを使わずデータの塊でバトルをしようとするビルダーの事)が記事が何ページも書かれていた。違法ビルダーはガンプラバトルのスキャナーをICチップにより誤作動させ、ガンプラの形を構成させる仕組みだ。

 タイプは二つあり、違法ビルダーオリジナルの機体で戦うタイプ、もう一つは他人の機体をコピーした物に乗るタイプだった。ちなみに記事では違法ビルダーとは呼ばれず『新世代ビルダー』と書かれていた。(更に純正品ではない)

 

「ったく、ガンプラバトルにデータだけでやるとはね、何考えてやがる」

 

「便利な世の中はいいが、ここまで便利になられちゃ迷惑だな」とぼやくブスジマに続くツクイ

 

「しかしネットで派手に宣伝か……厄介な事になるかもな」

 

 ツチヤが苦虫を噛み潰した様に言う。

 

「ネットのガノタ……いやフーリガンの連中がガンプラバトルにくるかもしれないって事スか」

 

「フーリガン……?サッカー用語ですか……?」とムツミ

 

「意味はサッカーのと同じッス。ガンダムヲタク、通称ガノタの中でもマナーの悪い連中を指すッス、やってる事はネットでもリアルでもお構いなし作品を叩いたり、叩いてる作品が好きな人を人格否定に持ってったりする人を指すッス」

 

「気に入らないガンダム作品を、気に入らないサッカーチームに置き換えればそのままの意味になるね……」

 

 ソウイチに続き、ツチヤが説明する。

 

「節度守ってる人も、合わない作品は不満や文句はやってるよ。無論許されてる場所でだけどね。住み分けが出来てるなら問題はない。それが出来てないフーリガンは俺達ガノタから見ても鼻つまみ者だ。

そして、一番嫌われるのはネットだから許される叩きを『リアルでやっていい』と勘違いした連中、それがガンプラバトルに入ってくるんじゃないかという不安がある。元々ガンプラバトルはガンプラを使う事が絶対条件だからね。それはお金も時間もかかる。逆にそれがフーリガンを抑え込む抑止力になってたと言われている。『面倒だ』って理由でね」

 

「フーリガンは模型店よりゲーセンの方が出やすいって聞くよ。雰囲気の違いもあるんだろうな」とヒロが付け足した。

 

「更にフーリガンや違法ビルダーだらけになった場合は多分もっと悲惨になるだろう。何も知らない新参の人達も『ガンプラバトルはガンプラを使わなくていい』

と思いデータで参入する人も増えてしまうかも知れない。だがもしそんな人達ばかりになれば……」

 

「なれば?」

 

「最悪、ガンプラバトルというコンテンツ自体が終わる」

 

 ツチヤの言葉に全員が沈黙する。

 

「……やはり違法ビルダーというのは間違っているという事ですね……フーリガンという人種はアイドルファンでもいます……男女問わず……」

 

 国民的アイドルグループ『SGOC』のファンのムツミは、アイドルヲタクという分野のフーリガンを知ってる。その経験からツチヤの言ってる事は理解出来た。スポーツをやってるムツミのフェア精神としても、違法ビルダーのシステムは許せない様だ。

 

「そうかな~?アタシはアリだと思うけど~」

 

 タカコだけはなんとも言えない口調で答えた。

 

「え?タカコ……どうして……?」

 

 ムツミが食いつく、

 

「だってそうでしょ?皆が皆うまくガンプラ作れるわけじゃないし、写真だってデジカメみたいに簡単に現像出来る様になったんだし、ガンプラバトルだってそうなってもおかしくないとアタシは思うな~。皆が皆悪い人ばかりじゃないだろうし」

 

「フジさん、君が言ってる事も一理あるよ」

 

 ツチヤがタカコに話しかける。

 

「でもガンプラバトルはあくまで最近出来たガンプラを楽しむ一つの方法でしかない。ガンプラは作るから愛着が沸く、作るからこんな装備や塗装や汚しにしてみたいというアイディアも浮かぶ、

そして、その想像を形にする楽しさや達成感こそガンプラの、いや、模型の神髄の筈だ。そして形にした物を動かせる感動がガンプラバトルなんだ」

 

「でも気軽に自由に遊べる方が人も多くなるだろうし……」

 

「自由と無法は違う。正しく遊ぶにはある程度の規則が必要なんだよ。それが守れないというのなら……」

 

 いつになく饒舌にまくしたてるツチヤ、少し萎縮するタカコ

 

「あ、すまない、少し熱くなり過ぎt「だからガンプラ作りが下手な奴は大人しく負けろってかぁ?サブロウタよぉ」

 

『ッ!!』

 

 ツチヤの声を男が遮る。ツチヤとソウイチの二人の顔が強く強張った。聞き覚えのある声らしい。

 

「その声……セリト!!」

 

 ツチヤが男の名前を言う。ツチヤの視線の先に長身の男の姿が見えた。

 

「よう!久しぶりだなぁ!サブロウタ!ソウイチ!」

 

 笑うセリトと呼ばれた男。それを強く睨みつけるソウイチ、対して冷ややかな目で見るツチヤ、

 

「誰?あの人」

 

「ヤタテさん、カモザワ・セリト、一年半前までここで活動していたビルダーッス、嫌な性格すぎてキレたコンドウさんにぶん殴られて追い出されましたけどね」

 

 苦虫を噛み潰した様に言うソウイチ、相当彼に苦い思い出がある様子だ。

 

「ケッ。お前をいじるのは楽しかったぜソウイチ!コンドウがいなくなってもナンバー1になれないか、相変わらずお前は弱ぇまんまだな」

 

「っ!!この!!」

 

 飛びかかろうとするソウイチ、それを片手を横に、ソウイチの目の前に突出し止めるツチヤ、

 

「相変わらずだな、その暴言癖、大方コンドウさんがいなくなって戻ってきたって所か?」

 

「そうともよサブロウタ、お前に復讐するためにな」

 

 復讐という言葉にアイは首をかしげる。

 

「そして、そこの女」

 

 カモザワはアイを指さす。

 

「私?」

 

「女がここの一番のビルダーになるなんざ相当ここのレベルは劣化したみたいだな。よっぽどコンドウは運が悪いみてぇだな」

 

 ガンプラの出来をどうこう言うより作品で判別する態度にアイはムッと来る。

 

「最っ低……」

 

 ナナが怒りの表情を見せる。そんなナナにソウイチが告げ口する。

 

「あぁやって人格否定にすぐ持っていく。だから追い出されたんス。コンドウさんに」

 

 アイ以上に不機嫌そうにフーリガンを見つめるナナ、そんなナナにツチヤが告げ足す。

 

「でもハジメさん、俺やソウイチ、ヤタテさんもガノタだ。オタク全員がああだと思わないで欲しい」

 

 そんなフォローをお構いなしにカモザワは喋りをやめない。

 

「言いたい放題だな。お前を倒してここの一番に帰り咲いてやるのさ。その為に力も仲間もある」

 

 そしてもう一人、少年がアイ達の前に現れる。アイはカモザワの脇にいた少年の顔を見て驚いた。知ってる顔だからだ。

 

「?コウタ君?!なんで君はそこにいるの?」

 

 さっき挑戦してきたコウタだ。

 

「アイさん、今までの俺は間違っていた。またあなたに挑戦します!今度は負けない!」

 

「だそうだ。勝負は2対2、女とサブロウタの二人だ」

 

「なんだかよく分からないけど、いいよ」と了承するアイ、そして「いいだろう」と答えるツチヤ。二人の目はいつものガンプラを楽しむ目ではなかった。

 

 

 そしてバトルに移行する。フィールドは戦闘により崩壊寸前になった都市だ。さっきの都市のマイナーチェンジとなる。ただし昼の設定で全体に霧が立ち込める。ほぼ別物といっていいだろう。母艦から出たアイとツチヤは機体を飛ばしながら敵を探す。

 

「霧が濃いな……」

 

「嫌な予感がします……」

 

 そうアイが言うとGポッドに警告音が響く。霧の中から泡をまとった様な大型ビームが振り下ろされてくる。

 

「あのビームは!!」

 

 アイとツチヤはそれぞれ左右に回避する。すぐさま二人は撃ってきた場所に撃つ。ビームは霧を吹き飛ばし対象へ向かった。二機の攻撃が着弾したと思ったら、ビームが弾ける様に拡散するのが見えた。防がれたらしい。そして霧を吹き飛ばした事により敵の正体が見えた。

 細長い体躯、しかし左腕だけは以上に大きくなってる。なにより五角形のパーツが全身についた黒い機体、それは……

 

「ネフィリムガンダム!!」

 

 第31話でアイと激闘を繰り広げたガンダムだ。五角形のパーツはifs(イフス)ユニットと言って、ビームを蓄えることが出来る。それを利用し、左手のクローを攻撃、防御に転用出来るのが特徴だ。そしてこの機体はガンプラではなくデータの塊だ。

 

「その機体!お前データを買ったのか?!」

 

「そうさ!店は限られてるがもう販売はしてる!ガンプラみたいに面倒な作成もなしでいいもんだぜぇ!!そしてそれはこれだけじゃない!」

 

 直後、アイ達の上空からビームや実弾の雨が降ってくる。下がって回避するユニコーン、そして分離し回避するツチヤのバウ、さっき撃ってきた拍子で上の霧が晴れた。撃ってきた上空を見るとアイは絶句する。

 

「あれは…ビギニングガンダム!?」

 

 撃ってきたのはかつてアイが強く影響を受けたイレイ・ハルの機体『ビギニングガンダム』。黒く塗装され、ツインアイは一つ目のモノアイになっておりV字のアンテナは無くなっていた。それが3機もいた。コウタのビギニングはドラグーンという遠隔操作武器が背中についていた。

 随伴期の背中には『パワードアームズパワーダー』というサブアームと大型射撃武器を組み合わせた装備があった。

 

「その二機は護衛の無人機さ!オートで動いてくれて勝手に援護してくれるんだと!お前は俺を含めて4機まとめて相手しなきゃいけないってわけだぁ!」

 

 カモザワが叫ぶ、そしてなおも続く射撃の雨、回避しながらアイはビギニングへとビームガンを撃ち返す。しかしビームは前面に出てきたビギニングにシールドで防がれる。

 

「防いだ?!」

 

「シグーのままじゃ防げなかっただろうな。だけど今なら!」

 

 防いだのはコウタのビギニングだ。なおもビギニング達の一斉射撃は続く。

 

「コウタ君!本当に違法ビルダーになっちゃったの?!」

 

「そうですよ!このビギニングはデータだ!」

 

 アイはユニコーンで上空に飛び上がる。両肩のビームサーベルを発生させ、射撃の中を掻い潜りながら両腕の火器を撃ちまくる。コウタ以外の無人ビギニングはあっという間に二機落とす。アイは残ったコウタのビギニングに右肩のビームサーベルで斬りかかる。それをビームサーベルで受けるコウタ。

 

「避けようとしたらあっという間だ!やはり強いねアイさん!だけど!」

 

「君だって実力はあるよ!そんなデータの塊にどうして!」

 

「作ってるのが……ミジメになったんだ!」

 

 後ろへ下がるビギニング。コウタはシールドから二本のビームサーベルを取り出すと片手に計三本のビームサーベルを構える。指の間でビームサーベルを持つビギニング独自の持ち方だ。直後、持ったマニピュレーターがまばゆく輝いた。

 

「ビームサーベルが?!」

 

「シャイニング!ビームサーベル!」

 

 そのまま斬りかかるビギニング。ただのビームサーベルじゃないとアイは両肩のビームサーベルを交差させシャイニングビームサーベルを受け止める。ビームの接触によりスパークが起こる。スパーク量はシャイニングビームサーベルの威力を物語っていた。

 

「くっ!なんて威力!」

 

「凄い!凄いよ!これが俺の欲しかった力だ!」

 

「何?!」

 

 

 そしてこちらはツチヤの方。上半身(バウ・アタッカー)と下半身(バウ・ナッター)をそれぞれ戦闘機の様な飛行形態に分離変形させネフィリムと戦うツチヤ。

 

「お前がコウタ君をそそのかしたのか!」

 

 バウ・アタッカーを動かしライフルをネフィリムに連射するツチヤ、カモザワのネフィリムは左手から防御フィールドを展開、悠々と防御する。

 

「違うね!悔しそうな彼を救ってあげただけさ!」

 

「何を!」

 

「あのガキは自分が強くなりたがってた!聞けばあの女に挑戦する度にガンプラの完成度を上げていたそうじゃないか!でも圧倒されっぱなしだった!その度にミジメな思いをしてきた!目標に勝てないなら自分は何の為にガンプラを作ってたんだ!とな!」

 

 ネフィリムは背中のコンテナからミサイルを撃ってくる。旋回しかわすツチヤ。すかさず撃ち返す。

 

「だからって彼を違法ビルダーにするなんて!」

 

「俺達は新世代ビルダーだ!ならそんな手の込んだ機体に乗ったお前はなんだ!」

 

「何を?!」

 

「大人げないだろうが!自分だけいい機体に乗って好き勝手暴れる!そんなのが作れるにしたって卑怯だ!それが原因で作る意欲を削がれる奴がどれだけいると思ってる!」

 

 ツチヤはミサイルを迎撃しながらカモザワと問答を繰り返す。カモザワもミサイルとビームを併用しつつツチヤを追いつめようとする。『あまりにもうまい作品は、経験の少ない人のプライドを砕き、作る意欲もそぎ落とす事もある』これは以前アイが別の違法ビルダーに言われた事と同じだった。

 

「現にあのガキが新世代ビルダーになった理由はあの女にあるんだよ!お前が俺を裏切った様に!俺達はその復讐をするのさ!」

 

「人として最低の事をやったお前が言えた事か!!」

 

 またもビームを撃つバウ・アタッカー、それをクローで防ぐネフィリム。だがネフィリムの背中はがら空きだ。直後、ネフィリムの背後からバウの下半身、バウ・ナッターが霧を突き破り突っ込んでくる。進行方向はネフィリムの背中。

 

「何!?」

 

 カモザワが気づく。だが回避は間に合わないとツチヤは確信する。

 

「ビームには無敵のifsユニットでも!実体兵器なら防げないだろう!」

 

 駄目押しとしてツチヤのバウ・アタッカーも攻撃を続ける。挟み撃ちだ。

 

「そうかい。だが甘いな」

 

 その時、ツチヤのGポッドに警告音が響く。

 

「?!」

 

 直後、バウ・アタッカーとバウ・ナッターが真上から撃たれる。そのまま墜落するバウ・アタッカー、バウ・ナッターの方はネフィリムのクローに掴まれた。

 

「何が起きた…あ!」

 

 ツチヤは上を見て声を上げた。パワードアームズパワーダーを装備した一つ目のビギニングがもう二体いたのだ。霧の中に隠れていたのだろう。

 

「紹介が遅れたな。俺の随伴機の量産型ビギニングだ。無人機だぜ?」

 

 自慢げに言うとカモザワのネフィリムをバウ・ナッターを握りつぶした。

 

 

 

 こちらは少し時間を戻してアイの方だ。ユニコーンはシャイニングビームサーベルを受けるも、決定打にはならない。両肩を全開させビギニングを弾くユニコーン。ビギニングはドラグーンを展開させユニコーンを追いつめようとする。

 

「やっぱりいいな!俺が作ったガンプラより強い!」

 

 対するユニコーンは軽快に動き、両手の火器でドラグーンを撃ち落して行く。

 

「でもそのビギニングはあなたの作った物どころか!ガンプラですらない!こんなの間違ってるよ!」

 

「そんな強い機体に、強い実力を持ったアンタが言うか!!」

 

 全てのドラグーンを撃ち落した後、ビギニングは普通に斬りかかってくる。アイはそれをビームサーベルで受ける。

 

「シグー乗ってた時の方がアナタは強かったよ!」

 

「何を言ってる?!ステータスはこっちの方が上だ!」

 

「でもシグーの方が気持ちはこもってた!」

 

 パワーはユニコーンの方が上だ。ビギニングは押される。

 

「クッ!気持ちだけで何が変わるって言うんだ!!」

 

 一度下がり相対する二機、お互いビームサーベルを構える。

 

「変わるよ。バトルで操縦や出来は重要だろうけど、一番重要なのは、それだけじゃない!」

 

 アイのユニコーン、その緑のサイコフレームの輝きが増す。アイの気迫にユニコーンが同調してるのだ。ガンプラに込めた気持ちや情熱で性能のブーストがかかるのがガンプラバトル独自のシステム。

 オカルト的な不確かな要素ではあるが、それこそがガンプラバトルをただの性能競争で済まさない新世代ホビーとする面白さの要因だった。サイコフレームの輝きに応える様に両肩のビームサーベルの出力も上がる!

 

「なんだ!この力は!」

 

「力の芯になるのは心!心の通ってないガンプラなんかに!」

 

 そのままユニコーンはビギニングに突っ込みながら数倍の大きさになったビームサーベルを振り下ろした。

 

「負けやしないっ!!」

 

「くぅっ!シャ!シャイニングビームサーベル!!」

 

 再びぶつかり合う光の剣、今度はすぐにビギニングのシャイニングビームサーベルに亀裂が入る。そのまま剣を砕かれたビギニングはユニコーンのビームサーベルに飲み込まれた。

 

「ば!馬鹿なぁぁっ!!」

 

 そのままビギニングは消滅。誰かが作ったものではなく、データではただのNPCと変わらなかった。その直後、アイのヘルメットからツチヤの叫びが聞こえた。

 

「ぐぁぁっ!」

 

「ツチヤさんがっ!?」

 

 見るとネフィリムがバウ・ナッターを握りつぶしたのが、そしてバウ・アタッカーが墜落したのが見えた。このままではツチヤはやられてしまう。そうはさせまいとアイはネフィリムの方に飛ぶ。

 

「ツチヤさんっ!!」

 

「あん?あの女か!」

 

 アイに気づいたカモザワは無人のビギニングをけしかける。

 

「邪魔をするなぁぁ!!」

 

 アイはビギニング二体をそのまま横一文字に斬り裂く。「馬鹿な!」と叫ぶカモザワ、そのままアイはネフィリムに巨大化したままのビームサーベルを振り下ろした。

 

「な!なんなんだ!こいつはぁ!!」

 

 アイの底知れない気迫に恐怖するカモザワ、ネフィリムは最大出力でフィールドを展開し、ビームサーベルを受け止める。が、直後にネフィリムのフィールドは消失。何故ならネフィリムのフィールド発生部であるクロー。それの肘関節が切り落とされたのだ。

 

「な!なんで!いきなりネフィリムの腕が!ハッ!まさか!」

 

 カモザワはツチヤの方を見る。上半身だけになったツチヤのバウが投げ、戻ってきたビームブーメランを手に取るのが見えた。アイに気を取られている内に上半身だけになったツチヤのバウが投げたのだろう。

 

「残念だったな!お前の腕前じゃもう一番にはなれないぜ!セリト!」

 

「この!裏切り者がぁぁ!!」

 

 カモザワのネフィリムはそのまま爆散、バトルはアイとツチヤの勝利となった。

 

 

「ビギニングに乗り換えても、勝てないのか……俺は」

 

 Gポッドから出たコウタはその場に膝をついた。

 

「……データの塊じゃ魂を込める事は出来ないよ。コウタ君」

 

 アイは真剣な顔でコウタに話しかけた。コウタは無言のままだ。だが聞いてると判断したアイはそのまま話を続ける。

 

「あんな無茶な方法で強くなろうとしたって、いきなり強くなる事は出来ないよ。でも時間をかければあなたはもっともっと強くなれる。私がさっきやったのだって、努力し続ければきっと出来るよ……」

 

「……でも、時間はないんだ!俺は引っ越す前に強くなりたいんだ!」

 

「それでも……、やっちゃいけない事をやっていい理由にはならないだろう」とツチヤ

 

「私は君が違法ビルダーになった思い出なんて、作りたくないよ。私は君と楽しい思い出が作りたいんだもの」

 

 その言葉にコウタの体がピクッと揺れる。

 

「アイさん……」

 

「騙されるなよ!コウタ!」

 

 アイとコウタの話にカモザワが割って入る。「セリト!」とツチヤが叫んだ。

 

「そいつらは適当な事言ってるだけだ!お前が強くならなかった時の事なんか何も考えちゃいない!」

 

「そんな……アイさんはそんな事……」

 

「それよりも俺がもっと強い機体を用意してやる!さっきみたいな女のインチキが出来るような機体をだ!そうすりゃお前はもっと確実に強くなれる!」

 

「セリト!お前そこまで落ちたのか!」

 

「俺が落ちただと?うるさいサブロウタ!お前だって俺と同じ叩きが生きがいなガノタだったろうが!」

 

『え?』

 

 カモザワの言葉に多くの人間が凍りついた。

 

「……俺、行きます」

 

 そしてコウタはカモザワの提案を了承する。

 

「コウタ君……!?」

 

「アイさん、ごめんなさい……でもあなたは俺の憧れなんです……。あなたの事が……だからこそ引っ越す前に……」

 

「待てよ二人とも!」

 

 アイ達7人はその場を離れようとするカモザワとコウタを捕まえようとする。が、二人は一斉に走り出す。その時、コウタのシグーが鞄から落ちた。

 

「あ!シグーが!」

 

「駄目だ!捕まるぞ!」

 

 アイ達が迫ってきてる。拾ってたら捕まるだろう。コウタは少しだけためらう素振りを見せるが、すぐにカモザワとその場を後にした。

 

「明日の昼!またバトルしましょう!次こそは!」

 

 一方的な言葉とシグーだけを残して。後にはそれに加え嫌な空気だけが残った。

 

「……くっ!ちょっとツチヤさん!アイツの言った事!本当だったの?!」

 

 ナナはツチヤに食ってかかる。

 

「……本当だ」

 

「ハジメさん、言いたい事はわかるッス。でも信じてほしいッス。ツチヤさんは信用できる人ッスよ」

 

「……アサダ」

 

「そうだね」ヒロも続く

 

「コンドウさんやソウイチ君がずっと一緒にいて不満を出さなかったんだ。サブロウタさんは信頼できる人のはずだよ」

 

 ナナは思い出した。以前ツチヤ達のチームを纏めていたリーダー『コンドウ・ショウゴ』彼とツチヤは長い付き合いだ。コンドウは真面目な人柄の男だ。ツチヤが悪い人のままなら付き合いを続ける事はないだろうとナナは考えた。

 

「……そうね。コンドウのオッサンが信頼していたのがツチヤさんだもの。アタシも信じるよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 そしてツチヤは真剣な顔で皆に言う。

 

「明日のバトル、もう一度俺は出るよ。あいつ等が越えてはいけないラインを越えたという事を教えなければ」

 

「そうですよ。やりましょう」

 

 ツチヤにアイが続く、アイは床に落ちたコウタのシグーを手に取り、同じく真剣な顔で言った。

 

「私達には私達のやり方があるんだから」


 
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