No.80418

真・恋姫SS 【I'M...】13話

2009-06-22 17:13:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8507   閲覧ユーザー数:7149

 

 

 

 

―もう、時間…きちゃった……ごめんなさい―

 

そんな声が聞こえた気がする。

時間ってなんの時間だよ。

問いかけに答えが来るはずもないんだが、そんな疑問を意識の中でぶつけてみた。

そうだ、助けてと言われて…

 

俺は戦場の中につっこんで、そのままなんとか琳音を連れ出した。

というより、逃げるように促したってのが正しいか。

華琳だって、皆を逃がしてくれた。

約束も守れて、皆生き延びたじゃないか。

琳音さんも、死ななかったじゃない…か……

 

そこまで、考えて…いやな答えが浮かんだ。

何故彼女はまだ助けを求めるのか。

何故また、あの夢をみせたのか。

 

俺は…あの戦を生き延びて、歴史を変えられたつもりでいた。

いや、実際に変えたのだろう。

俺の知っていた三国志の曹嵩なら、あそこで死んでいるんだから。

だけど、俺の見た夢の中の琳音は、“戦の中で死んでいたか?”

大勢の兵士に殺されていたか?

違う。1体1で刺客に狙われ、そして…

 

その先は、見ていない。

俺の見た夢は、そこで終っていたのだ。

そして、おそらくその後につながる、雨の中の華琳の涙。

覇王という言葉。

 

そう…俺は、まだ何も変えられちゃいなかった。

歴史は変えたかもしれないが…それすら俺の見た夢の中の一部。

歴史を変えた上で尚、あの結果が待っているんだ。

 

まだ…終ってない。

まだ、華琳との約束は守れていない。

起きなくちゃ…

頭痛なんかで倒れている場合じゃない…。

 

俺は、閉じていた目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

/another side

 

 

「そう、か…」

 

くらい部屋の中、男がつぶやいた。

よほど、いいことがあったのか、ひどく満足そうな顔をしていた。

結局敗戦となった、先の戦で曹嵩をしとめることは出来なかった。

だが、それを吹き飛ばすほどのことなんだろう。

 

「では、私はこれにて…」と、用件を伝えた男が部屋を出て行く。

 

「これで…ようやく…」

 

部屋にひとりとなった男は、笑いをどこか安心したような、表情へと変え、何かを言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――徐州北部

 

 

 

「ふぅ…」

 

陶謙を裏切り、結果的に曹嵩を助ける形となった袁成は、戦を終え、自らの領地へ帰還していた。

もともと客として滞在していただけな上にあんな形で裏切ったのだから、陶謙の元へなど戻れるはずもなく、少し強行となったが、帰還するという選択をした。

華琳と共に避難の先導を行っていた麗羽は、その知らせを受け、相変わらず斗詩、猪々子を引きずり袁成と合流した。

 

「ちょっとくらい休みましょうよ~~」という猪々子に対し、「兵は人足をふっとばす!という言葉をしりませんの?思い立ったら縁日ですわ!」

 

と、意味不明な言葉で返すのだが…

 

「おぉ~袁紹さま、ものしりですね~」

 

「おーーーほっほっほっほ!」

 

「……はぁ」

 

もはやため息しかでない斗詩だった。

 

 

そして、そんな会話続き、無事麗羽は袁成と合流。

そのまま帰還に加わるのだが、そんな中で。

 

「そういえば、麗羽。あなた今回のことではずいぶん必死になっていたけど…なにかあったの?」

 

という、袁成の最もな言葉。普通友人の身が危ないと分かればだれでも、必死にはなるだろうが、こと麗羽に関しては、この例が当てはまらないのが現実であった。

 

「へ!?」

 

などと、こんどは麗羽が素頓狂な声をあげた。

 

「だって、そうでしょう。あなた普段は自分のこと以外まるで興味ないじゃない。……それに散々私にも言ってくれてたし?」

 

「ぅ…そ、それは…」

 

「そういえば、そうですねぇ。どうしちゃったんですか?麗羽さま」

 

斗詩が袁成の言葉に乗っかり続けて質問する。

 

「あれじゃないっすか?ほら、あの曹嵩さまのとこにいたお兄さん。あの人が…」

 

「ち、ちがいますわ!!!!」

 

『……え?』

 

あまりにも顔を真っ赤にしながら猪々子の話を止めるものだから、袁成と斗詩が同時にある結論にいたってしまった。

 

「ふむ…。斗詩?お兄さんというのは?」

 

「曹嵩さまのところにいた方ですね。なんだか初対面なのにずいぶん麗羽さまといい雰囲気になってましたけど…」

 

「いい雰囲気…」

 

思案顔で袁成がつぶやく。

そして、少し間をおいてから言葉を発した。

 

「え?それじゃ、あなた曹嵩殿ではなくて、その男性のために…」

 

「違うといってるじゃありませんの!!?」

 

「麗羽さま、必死になればなるほど認めてるようなもんですよ?」

 

「そういうことなら、きちんと曹嵩殿の陣中に赴けばよかったわね…」

 

「だ~か~ら~!」

 

麗羽の必死の否定にも応じず、三人はそのお嬢様を冷やかしながら歩を進めるのだった。

 

 

「だから、違うといってますのに………グス」

 

 

半泣きでついていく麗羽だった。

 

 

 

 

 

 

 

/華琳side

 

 

「かずと!?ちょっと一刀!!…」

 

突然となりにいた一刀が声をあげて苦しみだした。

出会ったときから頭痛がひどいと言っていたけど、今日の苦しみ方は以前よりもずっとひどかった。

 

「ぐぁ…ぁぁ…っ」

 

どんなに呼びかけても一刀はうなるだけ。

普通じゃない。そう思った。

私はただ、驚いて、戸惑って…ただ苦しむのを見届けるだけしか出来ない。

 

「ど…どうしたら…」

 

自分ではどうしようもない。かといってこのまま放ってもおけない。

どうしたらいいのか、必死に自分の頭の中に存在する手段を並べる。

そして、確実なものをえらんだ。

 

「一刀…ちょっと待ってて、母様を呼んでくるから!」

 

そして、近くのものを呼び、一刀のことを預け、母親の元へと走った。

自分がひどく頼りなく感じてしまう。

さっきまで無事に逃げ切ったことを誇りに思っていたのが嘘のようだ。

自分では何もできないと…そんな風に考えてしまう。

一刀が倒れた場所から母の場所まではそう遠くない。

子供が走っても2,3分で着いてしまう。

考えながら走っているのなら、その時間はさらに短縮されたように感じた。

気づいた時には母の天幕の前にいたのだ。

 

はぁ、はぁ、と息を切らしながら、中に入る。

 

「母様!一刀が!!……っ」

 

そして、その光景に言葉を最後までつなげなかった。

 

「か……さ…ま…?」

 

 

 

 

 

 

ただ、紅くて、黒くて、熱くて、暗くて、臭くて、醜くて、恐ろしくて…

何これ…?何なの?なんで?え?何?何が起こってるの?

疑問と、否定と、絶望と、悲観が恐ろしい速度で頭の中を駆け巡る。

一刀のことでいっぱいだった頭が、真っ白になる。

 

だって……そこに………

 

ピチャ

 

ふらついて、足を踏みなおした音は、なにやら水を含んでいて

よく見るとそれはとても紅くて、綺麗で

 

「ひっ…」

 

その音、温度、感覚、光景、匂い、感情、全てがその状況を強制的に理解させようとする。

 

パシャ…

 

気づいたら、膝を突いて、目の前の“それ”を眺めていた。

そこにいたのは、今まで見たことないほど、綺麗なもの。

金色だった髪も、白かった肌も、桃色だった唇も、藍色だった服も。

全てが赤色に染まり、静かにそこに存在していた。

 

水を含む足音を立てながら、ゆっくりとそれに近づく。

そして、間近まで迫り、その頬に手を伸ばした。

紅い液体がにじみ、横にすらしてみれば、今度は別の水に触れた。

それは閉じられた瞳から溢れていて…

 

「お母…さ……ん…っ……」

 

そして今度は自分にも…同じものが、あふれていた。

 

お母さん、お母さんと何度も呼びかけるが、答えは返ってこない。

もう、自分がどうなっているのかすら、考えられなかった。

受け入れがたいことが起きすぎている。一刀のことも、母のことも。

ただ、それにしがみついて、泣く事しかできない自分が情けなくて、惨めで。

 

 

 

 

これだけの事実を突きつけられて、少女は身動きすら取れなくなっていた。

受け入れるには、彼女はあまりに幼かった。

 

そんなときに、

 

「う、うああああああああ!!」

 

誰かの悲鳴が聞こえた。

また、なにかあったのだろうか。

だが、すでに華琳にそれを確かめるだけの気力は残っていなかった。

ただ、悲しみに流されるだけとなった彼女にほかの事など受け入れられるはずもない。

 

「…りんさま!……華琳さま!!!一刀が!!!…ひっ」

 

入ってきた春蘭が部屋の光景に言葉を失う。

悲哀と絶望の底に落とされた華琳にそれを気遣えるはずもなく、

 

「か…ぁ…さま………かあさ…ま…」

 

ただ、そうつぶやき続けるだけだった。

春蘭も、伝えるべきことがあったはずなのに、すでにこの部屋の状況にのまれてしまった。

 

「これは…琳音さま!!」

 

春蘭が出てこないのを不審に思ったのか、今度は秋蘭も中へ入って、そして叫んでいた。

 

「姉者……伝えたのか?」

 

「……い、いや…」

 

「そうか……」

 

なんとか自分を保っている秋蘭だが、それでもこの状況はつらかった。

だが、それよりもっとつらいはずの華琳にこれから言わなければならない。

最悪の言葉を。

 

 

そして、華琳に告げた。底だと思っていた場所がまだまだ浅瀬だと言わんばかりに、華琳を絶望へ突き落とす言葉を…

 

 

―一刀が…消えました…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けた。

 

「ん……」

 

だが、すぐに感じた違和感。

俺はあの時、倒れてしまったはずなのに、仰向けに寝ていた。

そして、そこには空が広がるはずだった。もしくは、天幕の屋根。

だが、目を覚ました俺の目に入ってきたのは、懐かしく、今もっとも見てはいけない光景だった。

 

「え…………え?………………嘘だろ?……」

 

そう繋ぐしかなかった。

ギシと軋みをあげてベッドから降りる。

……俺は“ベッドで寝ていた”のだ。

見慣れた部屋。懐かしい部屋。

ついこの間まで普通に暮らしていた、俺の部屋。

だけど…

 

「………………なんだよ、これ…冗談、だよな?………」

 

聞いても誰も答えない。

ただ、その景色が広がるだけ。

 

「…………ふざけるなよ……俺、まだ何も変えてないじゃないか……まだ終ってないんだよ……」

 

「……なんで…」

 

「…………なんでだよ!!」

 

ドン!!と思わず壁を殴ってしまう。

 

俺の中で、悔しさと怒りがどんどん膨れ上がる。

勝手にあんな世界に放り込んで、今度は勝手に連れ戻して…

 

「頭痛でもなんでもいいよ…………戻せよ………このままじゃ、琳音さんが……」

 

どうなるかは、わからない。ただ、不安なのだ。

 

「頼むよ……戻してくれよ………」

 

ひねり出すように叫ぶが、答えるものなど誰もいない。

誰が自分をあそこに送りつけたのかもわからない。人の手によって起こったのか自然に起きたのかすらわからない。

 

そんな中で、俺に出来たことは、ただ悔しさに溺れることだけだった。

 

 

 

 


 
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