No.803819

義輝記 星霜の章 その三十七

いたさん

義輝記の続編です。 宜しければ読んでください。

2015-09-23 13:24:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1557   閲覧ユーザー数:1455

【 颯馬を巡る女性達 の件 】

 

〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 にて 〗

 

颯馬「久秀殿………今は暫し……此方で休んで下さい。 必ず……迎えに参りますから ───ゴホッ、ゴホォッ!!」

 

光秀「颯馬ぁ──! しっかりして下さい!」

 

颯馬が久秀の遺体を、ユックリと地面に置いた直後──急に咳き込み、すぐさま顔を横に向けて───盛大に血を吐き出した!

 

颯馬の足元が、喀血で赤く染まる!

 

義輝「颯馬よ、お主の身体が持たぬではないか! わらわ達に指揮を任せ、早く華陀に治療して貰え!」

 

凪「天城さまぁ!!」

 

颯馬「い、いえ……! 今、大事なのは……俺が健在して……采を揮う事にあり! それなくては──中から敵の圧力を破るのは……難しくなります! だから、最後の最後まで……俺は立ち続け───」

 

颯馬が皆の制止を振り切り、身体を立ち上がらせる。 しかし───既に限界を迎えていた身体は、主の意識に反して重心を崩し、地面に倒れそうに!?

 

ヒサヒデ「───危ナイッ!!」

 

半兵衛「おっととと……すいませ~ん! 誰か手伝って貰えませんかねぇ~? 非力な半兵衛さん達じゃ……颯馬さんを支えてあげれませんー!」

 

辛うじて颯馬を左右から寄り添い支えるが……何分身長差が違い過ぎるため、姿勢が安定しないのだ。 堪らず半兵衛は援軍を要請する!

 

信長「よし! 私が行こう!」

 

愛紗「わ、私も──!!」

 

信長と愛紗が走り寄り、颯馬を支え漸く(ようやく)安定する。

 

義輝「………光秀よ、良いのか? 」

 

光秀「………?」

 

義輝「 本来は──主が、あの場所を占めていたのでは……と思っての?」

 

光秀「今の颯馬は、この軍を勝利へと導く象徴。 誰もが颯馬の身を案じておるかと存じます。 幾ら…… 私といえど…… そうそう寄り添うわけには……」

 

義輝「相思相愛の絆の為か、将又(はたまた)正妻としての余裕か? ……他のおなごが接しても寛容な様子を見せておる……わらわは言いたいのじゃが?」

 

義輝は、日ノ本に居た頃から二人の主君のとして、政務や軍事を共に励んできた。 そのため、光秀の性格も……幾分は他の者より存じている。

 

真面目で世話好き、その反面で頑固、本心を曝け出さない等々。

 

そして、二人が手を取りあって、どれだけ自分の天下統一への原動力になってくれたのかを!

 

颯馬を介抱するのは、どの娘も美少女、美女であり、しかも……少なからず颯馬に想いを寄せている。 そんな中を光秀が見ているのだ。

 

憎々しげに嫉妬の焔を燃やすワケでも無し、自分の役割を理解して、行動を控えているように見える。

 

義輝「──ん?」

 

光秀「………………………」

 

義輝は、思わず一瞬感心したが 、能面のような表情が無い顔に……何か違和感を感じた。

 

長年の君臣の関係故に感じる事が出来たのか?

 

自分自身も覚えがあるためなのか?

 

その違和感を払拭しようと、光秀に声を掛けようと試みた。

 

義輝「み──」

 

光秀「───義輝さま……」

 

義輝「っと──なんじゃ?」

 

問う予定の相手が口を開くなら、此方から問う必要はない。 耳を傾けて、一字一句も聞き漏らさないようにするまでだ。

 

義輝は、そう考え……光秀を見つめた。

 

すると……顔を下に向けて……光秀が無表情で呟く。

 

光秀「……… 私は……昔、この身が婦女子の身である事に、抵抗を覚えていました。 何故、彼らのように男(おのこ)として、生まれなかったのかと!」

 

義輝「……………………」

 

光秀「もし、違っておれば……この世で大業を為し遂げ、名を天下に残す事が出来たのではないかと……考えていました。 ですが……今の私は……満足しています! 颯馬の傍に……想いを告げて成就できた……この身を!」

 

義輝「………ふむ」

 

光秀「私より遥かに才があり、私を愛しいと言ってくれる者を……支える事が出来ると知り、私は歓喜に打震えております! ですから──これ以上の幸福を味わえば……逆に私はともかく、颯馬に禍が訪れるかと……!」

 

義輝「『陽極まれば陰生ず、陰極まれば陽生ず』……大陸に伝わる陰陽の倫理かの。 さすが、幾多の学問を修めた光秀らしい考えじゃな!」

 

義輝は、感心するかのように頷く。

 

優雅な仕草は、さすがに足利の血筋の者と思わせるに充分な動作だった。

 

しかし、一転して──光秀を問い詰める!!

 

義輝「──だが、光秀よ! それで、お前の心が納得しておるのか!?」

 

光秀「────!?」

 

義輝「全く…………… 正直に言ってみよ! 頭で考えるのではなく、自分の心で正直に語ってみよ! 今の颯馬を────どうしたいと思うのじゃ!?」

 

光秀「………私は………何も………」

 

義輝「そうか? そのような事を言っておると……わらわや信長、他の者が奪い取るかもしれんぞ? ────それでもか?」

 

光秀「…………………………」

 

義輝「………ったく、頑固者めっ! ───ならば、光秀が守りに付け! わらわが代わりに颯馬へ──」

 

光秀「……………い………や…………」

 

義輝「………聞こえんぞ?」

 

光秀「い、嫌です! 私が………!」

 

義輝「………理由も無しに、わらわが役目を譲ると………思ってはおるまいの?」

 

光秀「嫌です! 颯馬は──私を愛してくれていると! 世界で私だけを想ってくれているっと、アノ日の夜に……誓ってくれたんです! だから、だから──私が颯馬を助けてあげたい! 私が今度、颯馬を支えてあげたい!!」

 

義輝「────だ、そうじゃ。 信長よ、すまぬが……代わって貰えるか?」

 

信長「義輝自身が代われというなら、間髪入れずに断っていたが。 ふん……光秀でならば……仕方あるまい。 織田家にも貢献してくれた身だ…… 名残惜しいが、場を潔く譲るとしようか! 」

 

義輝「……フッ、元公方相手に──よう言うわ! 」

 

信長「元公方だからよ! 義昭様のように大人しくしておれば、神輿して担いで奉じようぞ! じゃが……義輝のようなおなごでは、共に歩く方が似合いだ! アーッハッハッハッハッ!!」

 

光秀「えっ………あっ、あの!?」

 

信長「ほれぇ! 何を呆けておる! さっさと颯馬を運べと言うておる! ──手遅れになったらどうするのだ! 」

 

光秀「そ、颯馬、しっかり──っ! しっかりして下さい!!」

 

愛紗「…………………」

 

信長「全く──愛紗、お前もだ! お前も余り長く居ては、どこぞの馬に当てられるぞ? 人の恋路を邪魔する者は、なんとやらと申すからな!」

 

愛紗「はっ………はいっ!」

 

颯馬「うっ………み、光秀ぇ……」

 

光秀「颯馬! 私は此処にいます! ───貴方の傍に!!」

 

愛紗「……………………」

 

 

◆◇◆

 

【 周辺の戦極姫 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 上杉、武田陣営 にて 〗

 

謙信「──信玄、どうだ? そちらの軍勢は──」

 

信玄「信廉や昌景の活躍で、かなり弱ってきました! そう言う貴女の方は、どういう具合なんですか?」

 

謙信「ふっ、毘沙門天の加護と義清殿の奮戦、そして力を貸してくれる者達の御陰で、戦局が此方に有利になって来ている!」

 

信玄「ならば、なぜ判りきった事を、私へ聞きに来たのですか?」

 

謙信「………嫌な予感がする! 颯馬の身に──何かあったのかも知れん!」

 

信玄「な、何を縁起でも無いこと! 指揮する者が倒れれば、陣列の崩壊が始まり戦術が破綻! 即ち、私達が負ける事になります! 」

 

謙信「…………………」

 

信玄「……特に……この戦術は、颯馬が竹中半兵衛殿より授かりし物を、颯馬の持ち得る智識で独自に改良した物! 如何に私でも、神憑り的な謙信、戦の天才信長、革新的な政宗、計算高い島津の全員集えても、指揮する事は……」

 

謙信「………それだけか?」

 

信玄「な、何をいきなり!? 私は戦の趨勢を心配して──」

 

謙信「……信廉殿………貴女は素直だが、姉上殿は余程のへそ曲がりと見える。 颯馬の身より戦局を心配するらしい……」

 

信廉「──将としては、戦局こそ大事! 一人の将を心配して、大局を誤るこそ愚かな事です。 でも、姉上が戦局を心配してくれる御陰で、颯馬の心配を私達が出来るのですから、不満よりは感謝しなければいけないかと?」

 

信玄「信廉! 指揮はどうしたのですっ!?」

 

信廉「昌景が……姉上の傍に行くようにと、兵を預かってくれました」

 

昌景『信廉様、ここは儂に任せて御館様の下へ! 颯馬を心配されているようで、何時もより指揮の指示が、若干遅くなっております! ──儂の事は心配無用! 武田に山縣ありと、逆に喧伝しておりますぞ!!』

 

謙信「ふむふむ……さすが山縣殿だ。 主の指揮の乱れで、その懸念を見破るとは……武田に山縣あり。 しかと心得ておこう!」

 

信玄「な、何を納得しているのです! そんな事より、この周辺の敵を蹴散らしますよ!」

 

信廉「──姉上!」

 

信玄「私達が駆け付けても──颯馬の事です! 戦果が心配で、必ず起き上がって確認してくる筈! 不安が起こらないように、我が軍有利な態勢へと持ち込んでおかねば!! 全軍、鶴翼の陣を取り包囲して殲滅するように!!」

 

「「「───はっ!!」」」

 

謙信「…………素直ではないな?」

 

信廉「すいません。 姉上が……」

 

謙信「いや──これこそ信玄だ! 颯馬を案じて、指揮が乱れたとあっては武家の名門武田家の恥! 私も右翼を支え攻撃する。 貴女は山縣殿と一緒に左翼を頼む!」

 

信廉「───ですが、颯馬の身は?」

 

謙信「私より、兄と慕う義清殿に任せようと思う! 颯馬も義清殿なら安心もするだろう! その分の采配は、この越後の龍『上杉謙信』に任せあれ!!」

 

★☆☆

 

〖 大友、島津陣営 にて 〗

 

紹運「何ぃ──義姉上が倒れられたと!?」

 

兵「はっ! 曹操軍より通達──『立花道雪』他数名、敵将と交戦、圧倒的強さで全員負傷され、手当てを受けていると! 相手は──『筒井順慶』!!」

 

義弘「う、うそ──!? あの道雪殿が……不覚を召すなんてぇ!!」

 

義久「…………………」

 

歳久「不味い展開ですね。 立花様はひろねえ並の武勲の持ち主……その方を含む三国の将をも蹴散らすとは、筒井順慶の力とは如何ほどなんでしょうか?」

 

家久「でもでも、この包囲網は完成しているんだよ? もし、順慶さんを抑えるんだったら、包囲網を解いて皆で阻止しないと!!」

 

宗茂「ですが! この包囲を解けば、この場所より敵に破られ、私達の負けは確定してしまいます! 兄様の命懸けで作った包囲網を、みすみす解いてしまうのですか!?」

 

歳久「私だって──颯馬の努力を無駄になんか……したくありません! しかし、誰かが──筒井を抑えなければ、私達は全員無駄死にしてしまいます! そんな事になったら──颯馬の行動は一体何になるんですかっ!!」

 

義久「はぁ~い、そこで止めぇ!」

 

宗茂「義久殿………」

 

家久「ひさねえ……」

 

義久「みんな……ひとつだけ聞きたいけどぉ、颯馬君の為に命を懸けるだけの覚悟はある? お姉ちゃんは、勿論あるわよ~!」

 

紹運「言われなくても!」

 

宗茂「はい!」

 

義弘「………うん!」

 

歳久「当然です!」

 

家久「覚悟が無ければ、この世界に来ていないよー!」

 

義久「じゃあ……筒井順慶さんの事は~放置して、みんなで包囲網を縮めるように頑張りましょう! 私達が誰かを失ってまで時間稼ぎするよりも、みんなで包囲をやり遂げて、相手した方が良いと思うの~!」

 

歳久「成る程、分散しても個別で殺られるだけ。 包囲を集中した方が、遥かに効率が良いです!」

 

家久「どうせなら、後ろに来るまで放置しておこうよ! 構ってくれないって帰っちゃうかもしれないかも?」

 

紹運「それなら、私が義姉上の敵を討つため、一番初めに戦わせてもらう! 義姉上の敵を討てないなど武門の恥!!」

 

宗茂「それなら、私も敵討ちに参ります!」

 

義弘「───確か、道雪殿って負傷で収容されているのよね? 死んだ訳じゃないんだよねぇ?」

 

 

◆◇◆

 

【 蕀砦攻略の奇策 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 伊達陣営 にて 〗

 

政宗「敵が面白いように倒れていく! 初めなんか、どうなることやらと案じていたが、これなら……私達の勝利も近いな、景綱?」

 

景綱「いや──勝利とは、完全に相手の息の根を止めない限り、幾らでも逆転されてしまう事になるんだ。 今は、私達に有利としか言えない!」

 

政宗「そうか? 私達の隊の向こう側で、ハリセン片手に、敵を空高く打ち上げる将が見えるんだが。 確か……あれは呂奉先だったか?」

 

景綱「──私の好んだ三国志が、音を立てて崩れていく情景だな………」

 

そんな呑気な話をしている所に、伊達成美が慌てて駆け込んで来た。

 

成美「おぉーい! 政宗ぇえええっ! 大変、大変だよぉおおおっっ!!!」

 

政宗「どうしたんだ、成美? 誰か後ろから現れたから?」

 

成美「──凄いっ! よく分かったね、政宗!」

 

政宗「────まことか!?」

 

景綱「瓢箪から駒が出たか。 ──で、その者は味方だと思うが、名は何と言われる? 多分、大将軍何進殿が率いる別働隊の方々だろうが? 」

 

成美「────な、何でぇ? まだ、成美が何も喋っちゃいないのに!?」

 

景綱「ふふ………簡単な事だ。 もし、敵であれば成美が先駆けで突っこみ、此方に報告に来るのが綱元になっている筈。 それで考えれば、我らの後ろに現れる味方は、別働隊で鳥巣へ向かっている者しかいない!」

 

景綱が成美に、謎解きを披露すると……口をあんぐりと開ける成美の後ろより、声を掛ける人物が現れた。

 

??「──天城の仲間は、本当に優秀な将ばかりだな。 仲間の将の性格、軍の進行方向の把握……そして奇抜な攻撃方法。 儂にはとても思いもよらん!」

 

綱元「何進大将軍をお連れしたよ………って、どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったような顔して?」

 

政宗、景綱も成美同様、驚いた顔を見せる。

 

政宗「いや、顔や御召し物が煤だらけで──」

 

景綱「確か……鳥巣を焼き討ちしにお出でたと、聞いていましたが……」

 

にこやかに笑う何進、後ろに立つ桔梗達だが……立派な鎧、衣服が煤で真っ黒。 顔も煤と地肌で、ごま塩みたいに斑模様の状態である。

 

普通の焼き討ちでも、ここまで酷く煤で汚れる事はない。 遠くから火矢を打ち込み、逃げて来る敵を討ち取る。 別に近くまで寄って、炎を好き好んで浴びる必要なんてないのだ。

 

それが、ここまで汚れているのは、大規模化した火災があり、必要以上に迫り火に近付いた証拠でもある。

 

何進「うむ、無事に役目も終わり、こうして其方達の陣へ参加出来た。 敵将も討ち取り、蕀の砦も燃やし尽くし灰燼と化したぞ!」

 

景綱「されど、彼処は曹操軍でさえ、焼き討ちが不可能な場所と聞いております。 一体どのような策をもって、焼き討ちを!?」

 

何進「天城からは聞いていないのか? た、確か此処に残りが……おっ? あったあった! これが──策の要因だ!」

 

何進の掌に乗るのは───『泥団子』!?

 

政宗「景綱……これが何に見える? 私の目には、泥団子にしか………」

 

景綱「心配するな、私にも泥の団子にしか見えない」

 

成美「へえ~! 綺麗に固まってるねぇ、この団子……」ジィ─!

 

綱元「幾ら団子でも、食べらない団子だからダメだよ?」

 

成美「そ、そんな事、分かってるよぉぉぉ!!!」

 

何進「これはな、中に雑草の種が入った特性の泥団子だ!」

 

成美「───胡麻団子っ!?」

 

綱元「な、成美! それはぁ、食べる団子じゃないんだってば!!」

 

何進は、団子が策の要因と聞いて、驚く面々を見て思う。

 

自分も……孫呉の者より話を聞いた時、同じ顔をしていたんだな……と。

 

 

◆◇◆

 

【 順慶、動く! の件 】

 

〖 河南尹 鶏洛山付近 にて 〗

 

左近「───順慶殿、今暫くの辛抱だ!」

 

順慶「…………そ、颯馬……サま」

 

縦長に伸びた陣形を、端から端に縦断する『島左近』!

 

そして……陣羽織に顔を包み、左近に背負われて向かう『筒井順慶』!

 

順慶の体力が徐々に抜けて行くのが分かり、足の速度を早めるが──陣営内は一枚板ではなく、通行する度に兵から問われ、足止めを食らわせる。

 

その度に、歯噛みしながら待たねばならない事へ、かなり苛ついていた。

 

たが、背中の人物は……この颯馬に味方する者に取って──共通する強敵! 災禍の元の一人である筒井順慶! 焦って正体を見破られたら、順慶は殺され、左近を始め、何も知らない颯馬たちにも、罪が及ぶ!!

 

そのため、我慢に我慢を重ねて颯馬の下へ向かって行った!!

 

ーーー

ーーー

ーー

 

左近「…………こ、此処まで来れば…………順慶殿! 順慶殿!?」

 

順慶「………………」

 

颯馬が居る仲間の陣近くまで来て、身体の力が安心して抜ける。

 

しかし、肝心の順慶は、目を瞑ったまま微動もしない。 呼吸は微かにあるが、意思表示をすることさえも、最早難しい状態。

 

────死は、目前まで迫って来ている!

 

左近「い、いかん! やはり、間に合わなかった──ぐっ!?」

 

急に身体が金縛りのようになった! 身体を鎖のような物で、拘束されたように動けない。 しかも、助けを呼ぼうにも、周りに居た兵の様子も居ない。

 

確かに、後少し走れば……颯馬の居る陣中に入れる筈であり、その周辺には別の陣営の兵が、忙しそうに走っていたのに!?

 

??「これはこれは………良い所に出会いましたね、筒井順慶殿!」

 

左近の前が、急に揺らぎ………そこに例の管理者が二人……現れた。

 

于吉「──貴女の元配下が深情けで、あの憎き天城颯馬へ送り届けてくれる。 ………なかなか笑わせてくれる展開ですよ!」

 

左近「───!?」

 

左慈「于吉、戯れ言はいい。 慣れん結界を張ったが、やはり長くは持たんようだ。 ───単刀直入に聞くぞ!」

 

順慶「……………」

 

左慈「俺は……順慶……お前を気に入っている!」

 

順慶「…………………!」

 

于吉「さ、左慈っっ! な、何を言っているのですかぁ!?」

 

左慈「五月蝿い! これは人材確保、今後の戦力増加を決める大事な話だ! いいか!? これ以上……俺の会話に口を挟むと、背負っている貴様を地面に放り出すぞ!!」

 

于吉「………くっ! 私が何としても、順慶殿の仲間入りを阻止しなければならないのに! だけど……もう二度と味わう事が出来ない、この左慈の背中の温もりを、この私が……拒む術など無いのを知って!! ………全く憎いひと……」

 

左慈「気色悪いぞ! 貴様が……宇宙まで飛ばされた俺を救ってくれたから、礼代りに動けない貴様の足になってやれば! もういい! さっさと降りろ!」

 

于吉「…………嫌ですぅぅぅよぉだぁぁぁ!!」

 

左慈「── くそっ! 全然話が進まん! 于吉、貴様は後で殺すっ!!」

 

管理者二人から……面白くも無い漫才を強制的に見せられる左近。

 

『この大変な時に、何をしているのだ! ───私は!?』

 

口も動かせないだから、そう考えても不思議ではない。

 

左慈「──順慶、もう一度言う! 俺の下へ来い! お前の戦闘力、知謀、その冷酷さ! 俺達のように破壊を主とする管理者には、お前は適した人材だ! そのまま死ね事は、余りに惜しい!!」

 

順慶「……………」

 

左慈「但し、条件がある! 今、天城颯馬が松永久秀との戦闘で、瀕死の状態だ。 松永は惜しくも亡くなったが、これは好機! 天城颯馬、北郷一刀の両人の命を奪えば──お前の命を救い管理者に迎えてやろう!!」

 

順慶「………………」

 

左慈「ふん、その身体か! ならば……これを受け取れ!」

 

左慈は、自分の右手で持っていた小石を、順慶に軽く投げた。 そして、順慶に当たると──当たった箇所より光りが発し、身体全体に輝きだす!!

 

虫の息だった順慶の身体に力が戻り、肌にも艶が出て前の順慶と同じになる!

 

力が戻った順慶は、左近の背中を離れて、左慈の前で膝を曲げ礼をした。

 

順慶「──ふふふっ、感謝しますわよ、老師!」

 

左慈「順慶………もう少しで結界が解除されるが、この将はどうする? お前の手で殺すのも良し、俺の手で……あの世に送ってやって良い! 邪魔者を残しておけば、後顧の憂いになるからな?」

 

左近の額に汗が浮かぶ!

 

自分の勝手で颯馬や仲間たちが危険に晒される! 何とかしなければ、身体を動かすが、身体の自由が効かない!!

 

順慶「老師、申し訳ありませんが………この者を、この状態のままにして置いて下さいませんか? 天城様や他の仲間を殺害した後、この者の絶望した顔を見てみたいのですわ! 自分の行いを散々後悔する様を拝見したいのです!!」

 

左慈「やはり見込んだ女だ。 構わん、このままにして置こう。 俺達は、姿を消して順慶、お前の様子を伺うとする!」

 

順慶「はっ! ───では!」

 

左慈「だが──忠告しておく! お前の氣は完全じゃない、四半刻(約15分)しか持たんからな! その間に、天城颯馬の首だけは完遂しろ! その後、氣を補給し次の任務を行って貰う!!」

 

左慈からの忠告を受け取った順慶は、結界が解けた後、速やかに颯馬に向かい走り去った!

 

 

ーーーーーーー

ーーーーーーー

 

あとがき

 

最期まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

義輝記の前に書いたデータが見つかりましたので、連続投稿します。

 

半年近く遅くなりましたが、気長に待っていただき申し訳ありません。

 

完結はさせるつもりですが、アイデアがなかなか出ないため、遅くなりますが、見棄てられないように頑張りますので。

 

 


 
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