No.803690

「SEASON DRIVE」

蓮城美月さん

ベジブル中心オールキャラのほのぼの季節ネタ作品。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 070P / \200
http://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ162426.html

2015-09-22 21:16:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5495   閲覧ユーザー数:5494

◆CONTENT◆

 

プロポーズ大作戦

宇宙最凶の難関

おとうさんといっしょ

かけがえのないもの

一日だけの復活

 

プロポーズ大作戦

 

PART‐1 ベジータの場合

「今日は『求婚の日』だって。へえ、そんなのがあるんだ」

テレビの情報番組を見ながら、ブルマが呟いた。

「『きゅうこん』って花の球根のこと?」

「違うわよ。結婚の申し込みをする、プロポーズのこと」

まだ幼い息子が意味を問うと、母親はトランクスにも理解できるように説明する。

「ふうん。じゃあ、パパはママになんて言って結婚したの?」

同じテーブルを囲むベジータは、知らないふりをして新聞に目を落とした。

「それがね、言われてないのよ」

「『求婚』してないのに、なんでパパとママは結婚してるの?」

「さあ、どうしてかしら」

「普通は男の人が女の人に言うものだよね?」

よく祖母とドラマを見ているので、トランクスは多少そういう知識を持っていた。

「決まっているわけじゃないけど、女としてはやっぱり言われたいものだわ」

「だって、パパ。今からでも言ってあげれば?」

「ほら、トランクスもこう言ってるんだし。今からでも聞いてあげるわよ」

二人から視線を注がれて、ベジータはばつが悪そうにそっぽを向く。

「やっぱりパパには無理なんじゃない?」

「そうね。サイヤ人に地球人と同じことを要求するのは難しいかも」

「もう結婚してるのに、今さら『結婚してくれ』なんて言えるか! おまえは、このオレの妻であることに不満でもあるのか!」

挑発に乗せられたベジータが怒鳴ると、妻子は目を丸くした。

「なんだ。言えるじゃん、パパ」

「まったく、素直じゃないんだから」

 

PART‐2 ランチ(金)の場合

「やっと見つけたぜ、天津飯」

天津飯と餃子が修行している場所に、突如ランチが現れた。

「て、天さん…」

「どうやってこんな山奥まで…」

「どこにいようが、必ずおまえを見つける。だから観念してオレと結婚しやがれ、天津飯!」

世界中のいかなる場所でも、このランチなら本当に追ってきそうな気がする。

「どうする、天さん」

「どうすると言われても」

「さっさと答えろ! そうじゃないと――――」

そのとき、ランチの鼻の前を一匹の虫が通り過ぎた。

「あ、ランチさんの鼻に…」

「虫が止まって…」

「は…は、はくしょん!」

 

PART‐3 ランチ(青)の場合

「あら。わたし、どうしてこんなところに?」

ランチはおとなしい人格に交替する。

「よかった、おとなしいランチさんに戻った」

「安心するな。またくしゃみをすれば元に戻るぞ」

「天津飯さんに餃子さん。ここはどこなんでしょう?」

現在の状況がわからないランチは、目の前の二人に訊ねた。

「北の都近くの山岳地帯だ」

「あなたのような普通の女性が過ごせる場所じゃない。早く街へ戻ってください」

「こんな険しい山道、わたし一人ではとても…。荷物にカプセルハウスや食べ物があるようですから、わたしもここにいます。お二人が修行しているなら、食事の用意をして待ってます」

穏やかな笑顔で告げるランチに、二人は困惑する。

「でも」

「あなたにそこまでしてもらうわけには…」

「だったら、天津飯さんがわたしをお嫁にしてくださればいいんです。それなら、わたしがここで一緒に暮らしても問題ないでしょう?」

明るく堂々と告げたランチに、天津飯と餃子は返す言葉がなかった。

 

PART‐4 孫悟空の場合

「悟飯ちゃん。おめえ、まだビーデルさんにプロポーズしてないだか?」

前置きもなく母親から問い質され、悟飯は顔を赤くした。

「い、いきなりなにを言い出すんですか、おかあさん」

「もうすぐ卒業だろ。モタモタしてたら他のだれかに取られちまうぞ」

「…でも、そんな急には。それになんて言ったらいいか」

気恥ずかしさにためらう息子を、チチは鼓舞する。

「男なら堂々と言うもんだ」

「ちなみに、おとうさんとおかあさんはどうだったんです?」

「そっだらこと。恥ずかしいべ」

そこへタイミングよく悟空が帰ってきた。

「ん? 何の話をしてるんだ?」

「悟空さ」

「おとうさんがおかあさんに結婚を申し込んだときのことですよ。参考までに聞かせてください。なんて言ったんですか?」

「結婚を申し込んだとき? なんだっけなあ、ええと。あ、そうだ。オラ、昔ヨメにもらうって約束してたのすっかり忘れてて、チチに言われて思い出したから『じゃケッコンすっか!』って、それだけだぞ」

「そ、そうなんですか。おかあさんから聞いた話とかなり違うような…」

母親から聞かされた話との落差に、悟飯は困惑を隠せない。

「悟空さ!」

「なんだ? オラ、なんか悪いこと言ったか?」

「ほぼ、おかあさんが言わせたってことですね…」

まるで参考にならない両親のなりゆきに、悟飯は大きなため息をもらした。

 

PART‐5 クリリンの場合

「うーん。なんて言ったらいいんだ?」

カメハウスのリビングでは、クリリンが思案に暮れていた。

「どうかしたんですか? クリリンさん」

「あ、ウミガメか。いや、ちょっと考え事をさ」

「悩み事なら、亀仙人さまに相談してみたらどうです?」

砂浜に立てられたパラソルの下では、亀仙人が日光浴をしている。

「昼寝中だからわざわざ起こすのも…。それに、茶化されそうだからな」

「一体どんなことで悩んでるんです?」

「実は、今度のデートで十八号にプロポーズしようと思ってるんだ。なんだかんだと会ってくれるし、希望はあるような気がして」

「そういえば最初の頃よりは、態度がやわらかくなってますよね」

ずっと二人を見てきたウミガメの目にも、そう見えていた。

「だから、ちゃんと結婚を申し込もうと思ったんだけど…。いざそう決めたら、どんな風にプロポーズすればいいのか」

「独り身の亀仙人さまでは相談相手になれませんね」

「ストレートに言うより、ちょっとひねったほうがいいのかな? 『十八号の作った味噌汁が飲みたい』とか」

「それは遠まわしすぎませんか? プロポーズだとわかってもらえないかも」

「じゃあ、『ここで一緒に暮らしませんか?』かな? …あ、ダメか、カメハウスはオレの家じゃないもんな。『オレに一生ついてこい』っていうのも、なんか一方的だし」

プロポーズの言葉が決まらず、クリリンは思い悩む。

「やっぱり、率直に伝えるのがいいのでは?」

「そうか、そうだよな。自分の気持ちをそのまま言えば。だったら、『絶対しあわせにします。結婚してください!』ってところかな」

「――――いいよ」

「…え?」

「……へっ?」

突然聞こえてきた声に、ウミガメとクリリンは顔を見合わせた。

「十八号さん?」

「い、いつからそこに…!」

振り向くと、十八号が窓の向こうからこちらを見ている。

「さっきからずっといたよ。呼んだのに、だれも出てこないから」

「ということは、クリリンさん!」

「さっきの話、全部聞いて…?」

プロポーズの練習を目撃されていたと知り、クリリンは真っ赤になった。

「クリリンさん、呆然としてる場合じゃないですよ」

「そうだ。さっき聞こえたこと。十八号、なんて言ったんだ…?」

「聞いてなかったのか?」

「い、いや。聞いてました、聞いてましたけど。まさかっていうか、空耳かと」

予想外の出来事に動転してしまい、しどろもどろ説明する。

「結婚してやってもいいって言ったんだ。ターコ」

変わらない表情で告げると、十八号は踵を返してこの場から飛び去っていく。

「クリリンさん、よかったですね!」

「マジ…? オレが、結婚、できる…?」

「クリリンさん?」

「十八号が、オレと…!?」

うわ言のように呟くと、すっかりのぼせたクリリンはその場に卒倒してしまった。

 

PART‐6 ブルマの場合

「ねえ、ベジータ。あんた、戦いが終わったらどうするの?」

人造人間との戦いまで残り一年半。ブルマはベジータの部屋に乱入していた。

「また酔っ払ってやがる。酒を飲むならてめえの部屋で飲んでろ」

「いいじゃない。ちょっとくらい付き合いなさいよ」

「…一杯だけだからな」

ベジータは渋々、酒に付き合う。

「で、どうするの?」

「なにがだ」

「人造人間との戦いが終わったあとの身の振り方よ」

「そんなこと、どうだっていいだろう」

これまでは強くなることしか頭になく、その先のことまで考えが及ばなかった。

「なにも考えてないワケ? 宇宙に帰ったりしないの?」

「さあな。だが、こんな文明の遅れた星にいつまでも居座る気はない」

「だけど、もう帰るところもないんでしょ?」

「宇宙に戻れば、どうやってでも生きていける」

自分が以前いた場所へ戻れば、元の自分のように生きられると思う。

「でも、宇宙へ戻るっていっても、肝心の宇宙船がなかったら無理じゃない?」

「おまえの父親が作った宇宙船があるだろう」

「でもあれは『文明の遅れた』この星の技術で作ったものだから、あんたたちの乗ってたものとは比較にならないわよ。あんたがいた星域まで戻るのに、何百年何千年かかることか」

「………これだから辺境の星は」

目論見が外れ、ベジータは舌打ちした。

「宇宙に帰れないとなると困ったわね」

「フン」

「仕方ない。あたしが養ってあげる」

「なんだと」

ブルマは明るく微笑んで提案する。

「あんたみたいな大食漢、うちじゃないと扶養できない。毎日三食の食事と充実した生活環境、トレーニング施設もあるし、あと『あたし』っていうオプション付き。いい条件でしょ? これを断るバカな男はいないと思うけど」

答えに窮したベジータは、顔を見られまいと慌ててそっぽを向いた。

 

PART‐7 ブリーフ夫妻の場合

「さあ、夕食ができたわよ」

その呼びかけに、この家の住人は食卓へ揃った。

「どうしたの、かあさん。今日はいつにもまして豪華じゃない」

居候のベジータと隣り合った席で両親と向かい合うブルマは、怪訝そうに問う。

「なにかいいことでもあったの?」

「まあ、その話はあとにしよう、ブルマ」

「そうね。ベジータちゃん、冷めないうちに召し上がれ」

やけに機嫌のいい両親が気にかかるが、ベジータは我関せずで食事に手を伸ばした。

「とりあえず、あたしもお腹ペコペコだし。いただきます」

そして数十分後、テーブル上の皿はすべて空になる。

「ごちそうさま。あー、食べすぎちゃった」

「かあさんの料理はいつもおいしいなあ」

「ウフフ。ベジータちゃんは? お料理どうだった?」

珍しく感想を問われたベジータは、仏頂面のまま答えた。

「…まずくはない」

「そう、よかったわ」

ブルマの母親は、すっかりベジータの扱い方に慣れたようだ。

「それで、今日こんなごちそうだったのはどうして?」

「それはパパから話してもらうわ」

「実は折り入って、ベジータくんに話があるんだが」

食事が済んだら席を立つつもりだったベジータは、怪訝そうに彼らを見る。

「ふむ、どう言ったらいいかな。うちはブルマが一人娘なんだが…ベジータくん。きみ、婿養子に来ないかね?」

「と、とうさん!」

予想もしていない話題に、ベジータとブルマは同時に顔を紅潮させた。

「きみにとっても悪い条件じゃないと思うんだが。毎日おいしい食事に事欠かず、寝る場所や衣服もあって不便がない。必要なトレーニング施設も整っているし、環境は満足してもらえると思う。おっと、大事なことを忘れていたな。もちろん『ブルマ』も付いてくるぞ」

「ちょっと、とうさん! 人をおまけみたいに言わないでくれる?」

「いいお話でしょう、ベジータちゃん」

「ベジータ、こんな話まともに聞くことないわよ!」

両親の策略に混乱するブルマは、隣のベジータを連れ出そうとするが。

「お料理はおいしかったでしょう?」

「食べ物で人を釣ろうとしないでよね、かあさん」

「ベジータくん。おいしいのは料理だけじゃない。うちの娘も…いや、これは蛇足だったな。もうとっくに『味見』はしてるんだろう?」

「――――――!!」

(どうして、あたしたちのこと知ってるのよ!)

ブリーフ博士の台詞に、当事者二人は真っ赤な顔で言葉を失っていた。

 

宇宙最凶の難関

 

三月三日はひなまつり。カプセルコーポレーションの一室では豪華なひな人形が飾られ、桃の節句を祝っていた。

「おい、悟天。今日はオレたちの居場所はなさそうだな」

「そうだね、トランクスくん」

部屋の片隅で所在なさそうに佇む二人は、華やかな今日の主役たちを眺める。ブラとパン、そしてマーロンは着物姿でにこやかに楽しんでいた。その傍らにはそれぞれの母親たちが、娘の成長を微笑ましく見守る。今年は三家合同で開かれることになったひなまつりパーティ。女の園ともいえる空間に、男の居場所などどこにもなく。

「ダイニングに行くか。まだ食べ物があるはずだから」

トランクスの誘いに悟天は頷いた。少女たちの節句を祝う気持ちはもちろんあるけれど、ピンク色の雰囲気満載の部屋は、思春期を迎えた男子にとって妙に居心地が悪く感じる。自分たちがこの場には似つかわしくない気がして、部屋をあとにした。

「今度幼稚園だっけ? ブラちゃん」

「ああ、来月からな」

廊下を歩きながら、二人は身近な話題を交わす。

「普通の地球人とも仲良くできればいいけど、難しいだろうな」

サイヤ人と地球人のハーフである彼らは、生まれつき身体能力が突出している。それに一般家庭とは違った常識の中で育ったため、世間に馴染むのは容易でない。

「まあ、ブラはパンちゃんと遊べたら、他の友達なんかいらないだろうけどさ」

「ボクとトランクスくんみたいだね」

トランクスと悟天は一歳違い、パンとブラも同じく一歳差だ。

「ただオレは妹だけど、おまえは姪っ子。その年で『叔父さん』だもんな」

「にいちゃんとボク、年が開いてるんだから仕方ないよ」

「そういえば、パンちゃんは幼稚園に行ってないんだっけ?」

「近くに幼稚園がないし、にいちゃんもビーデルさんも小学校からでいいだろうって」

「へえ」

「どっちかっていうと、強く主張したのはにいちゃんだけど」

「悟飯さんが?」

「にいちゃん、パンが可愛くて仕方ないんだ。だから、目の届くところにいてほしい」

悟天はすっかり父親となった兄の心情を代弁した。

「まあ、女の子って父親からすれば特別なんだろうな」

トランクスが感慨を呟くと、二人はダイニングルームへ足を踏み入れる。

「まだ料理がこんなに残ってる。お菓子もあるし、食べようぜ」

「よかった。さっきの部屋だとあまり食べられなかったから、お腹空いてたんだ」

二人は料理が並んだテーブルに近づくと、食べ物を貪り始めた。そのとき、窓際のソファでなにかが動いたけれど、食事に目を奪われていた彼らが気づくことはなかった。

「悟飯さん、来られなくて残念だろうな」

「中の都で学会があるんだって。だからビーデルさんがちゃんと写真を撮ってるよ」

「パンちゃんを溺愛してるんだ、悟飯さん」

トランクスはその光景を想像して小さく笑う。

「だけど、パンのお気に入りはにいちゃんじゃなくて、おとうさんなんだ。午前中、おかあさんやビーデルさんが家事をしている時間、おとうさんが相手をするんだけど…」

「おじさん、パンちゃんとなにをして遊ぶんだ?」

「『修行ごっこ』っていうか、普通に鍛えてるよ、あれは」

すっかりおじいちゃん子となったパンは、悟空との修行を楽しみにしている。最初は「女の子だから少し身体を鍛えるくらい」と思っていた悟空も、日々強くなっていくパンの素質を実感し、本気で強くしようと鍛え始めた。

「だけどそんなこと、悟飯さんだって黙ってないだろ」

「にいちゃんは、普通の女の子として育てたいらしいよ。けど、肝心のパンがやる気を出しちゃってるからな。それでも一度は言ったんだ。『パンは女の子だから、修行なんかしなくていい』って。ところが、怒ったパンから『パパなんかきらい』って言われて、すごく落ち込んでた」

「そりゃあ…」

悟飯の胸中を察すると、トランクスは言葉が出てこない。

「ブラちゃんは? おじさんとトレーニングしたりしないの?」

「ブラは格闘技に興味ないと思う。まあ、パパが重力室にいるときは『一緒に入る』って駄々こねるときもあったけど、パパは『女の子は鍛える必要ない』と言って、絶対に入れないんだ。なんか性別を差し引いても、オレとは扱いが違う気がする」

「おじさんだって、男よりは女の子のほうが可愛いんじゃない? ブラちゃんはおばさんにそっくりだし、きっと将来美人になるよ」

想定の未来を語る言葉に、トランクスの口と手が止まる。

「どうかした? トランクスくん」

「…言っとくが、おまえにブラはやらないぞ」

「いきなり、なにを言ってるんだよ」

飛躍した話に悟天は半笑いだが、相手の眼差しは真剣そのもの。ブラのことを『可愛い』『美人』とほめたため、兄として警戒心を持ったようだ。

「ブラの彼氏、結婚相手となったら、オレの『義弟』になるわけだ。オレはおまえに『義兄さん』なんて呼ばれるのは、死んでも御免だ」

「トランクスくんが『義兄』って…それはボクも嫌だなあ」

リアルに未来を仮定してみれば、親友だけに気恥ずかしさのようなものが浮かぶ。

「しばらく先の話だけどな」

「十年くらいあとの話だよね」

とりあえず、そこで論争は終結した。この先、たとえどんな未来が待ち受けているとしても、二人の友情だけは変わらないだろうと思える。

「こんな兄貴がいるんじゃ、ブラちゃんの彼氏になる男は大変だろうな」

「オレなんて、まだ低いハードルだよ」

率直な感想を告げた悟天にトランクスは肩をすくめた。

「えっ?」

「パパのほうが、とんでもない障害になると思う。去年のひなまつり、ひな人形をすぐに片付けないと婚期が遅れるって話を聞いて、ひな人形の片づけをことごとく妨げようとしてたんだ」

「そんなことがあったんだ…」

昨年のひなまつりに起こった出来事を語り、トランクスは続ける。

「ブラの結婚相手にとってパパは、地球最強――――いや、宇宙最凶の難関だよ」

「その日が来たら、すごいことが起こりそうだね」

決して自身では体験したくないが、傍目から見届けたい気もする。そんな心地で悟天が笑った瞬間、ダイニングルームの雰囲気が一変した。

「――――――!!」

気配には敏感な二人の挙動が停止し、手にしていたコップがテーブルに倒れる。

(こ、この『気』は……)

動いたら即死しそうな圧迫感、トランクスと悟天はゆっくりそちらに向き直った。窓際のロングソファ、入ってきたときには気づかなかったが人間の足が見える。上半身を覆っていた新聞をその手が外し、起き上がった人物は。

「パ、パパ…」

「…おじさん、いたんだ」

引きつった表情の二人を、黒い双眸が正面に捉えた。自分の存在はひなまつりパーティの空気に似つかわしくないと思い、ここにある料理を食べたあと、ソファで横になっていたらしい。

「……おまえたち、最近トレーニングをさぼってるな?」

抑揚のない声が、トランクスたちに否定をさせない。

「食後の運動にちょうどいい。そのなまった身体、鍛え直してやる」

(え、遠慮します!)

まるで地獄への招待のような提案に、二人は心の中で叫んだ。しかし、獲物を定めた魔の手から逃れる術などなく。金縛りにあったように身動きが取れないトランクスと悟天は、強制的に重力室へ連行され、特訓のフルコースを味わう羽目になった。

 


 
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