◆CONTENT◆
犯人はだれだ!?
野生の本能
フリーザのつぶやき
ピッコロのつぶやき
理想の父親?
相互認識の問題
気にしない男と女
それは必然?
破局の真相
類は伴侶を呼ぶ?
孫さんの疑問
孫悟空の適職
犯人はだれだ!?
それは、孫悟空が地球へ帰還する少し前のこと。ポルンガへの願いにより、爆発寸前のナメック星から瞬間移動で地球へ逃れてきたあの日から、早くも一年が過ぎようとしていた。
カプセルコーポレーションに居候していた異星人たち、そのうち大多数を占めたナメック星人の姿は、もうこの地球上にはない。復活したドラゴンボールの力で新天地へと旅立っていった。
圧倒的に人口密度は下がったが、完全に元の生活に戻ったかといえばそうでなく、まだ一人居候が残っている。行くあてもなく帰る場所もないサイヤ人の男が。かつて自分がいた宇宙へ戻る方法も現時点ではないため、当面は地球に居座るらしく、ひたすら孫悟空の帰還を待っていた。
もちろん、なにもせずただ待っているだけではない。フリーザを倒したという悟空に激しい対抗意識を燃やし、その強さを超えるべく鍛錬へ出かける毎日。一部の人間が危惧していた地球への侵略行為もなく、衣食住環境が整ったカプセルコーポレーションを離れることはなかった。
この状況にだれもが順応しつつあったある日のこと。ヤムチャとプーアルがリビングに入ると、唐突に怒声が飛び込んでくる。
「白状しなさい、ネタは上がってるのよ!」
何事かと思えば、ブルマがウーロンを締め上げていた。最近は少なくなったものの、カプセルコーポレーションではよくある光景だ。
「オレがなにしたっていうんだよ!」
「しらばくれても無駄よ。犯人はあんたに決まってるんだから!」
このやりとりから察するに、なにがあったのかは訊くまでもないが、ウーロンが視線で助けを求めたので、仕方なくヤムチャは声をかけた。
「なにを揉めてるんだ?」
その質問に、ブルマは早口でまくし立てる。ブルマの下着が紛失したようで、どこにも見当たらない。どうせウーロンが盗んだのだろうと問い詰めているのだが、本人は頑なに否認。
「何度も言わせるなよ。今回はオレじゃねえ!」
今回はという言葉が懲りない性分を示しているが、それでもウーロンは首を横に振った。とにかく、身に覚えがないのだ。やったことでブルマからどんなひどい目に遭わされようと仕方ないが、やってもいないことで理不尽な責めを負うのは冗談じゃない。
「あんたじゃなきゃ、だれが盗んだっていうの?」
「知るかよ。男なら他にもいるだろ」
カプセルコーポレーションにおける、自分以外の男性陣を示唆するウーロン。そこへやってきたブリーフ博士は、廊下まで聞こえてきた口論で事態を理解していたため、冷静に告げる。
「わしは娘の下着に手を伸ばすほど、見境なくはないぞ」
父親はたしかにスケベだけれど、人としての倫理は守る人間だ。最初から疑っていなかった。ブルマは次に、自分の恋人へ疑いの眼差しを向けた。
「オレでもないからな。朝から出かけて、ついさっき戻ったところだ。大体、下着をあちらこちらに放置するから、こういうことになるんじゃ…」
普段の生活態度に問題があるという意見に、ブルマはムッとする。
「あの、ブルマさん。ボクも一緒に探しましょうか?」
プーアルが遠慮がちに申し出ると、鋭い眼光で容疑者を見下ろした。
「そうね。探すならウーロンの部屋を徹底的に頼むわ」
「なんでだよ!」
部屋にはこれまでの戦利品、貴重なコレクションが収蔵されているのだ。ブルマにかかれば、全部没収されるに決まっている。必死で反抗するウーロンに、ブルマは冷ややかな口調で断言した。
「他にいないんだから、やっぱり犯人はあんたでしょ」
「待てよ、もう一人いるじゃないか! 男なら、まだ一人いるだろ」
「えっ? だれのこと?」
「ベジータがいるじゃねえか」
ウーロンが挙げた名前に、呆れた表情を浮かべるブルマ。いくら容疑を逃れたいといっても、向ける矛先に無理があった。
「いくら罪をなすりつけるにしても、ベジータはないわ。ベジータが女の下着に…そもそも女に興味があるようには見えない」
「いくら戦いにしか興味がないサイヤ人だって、生物学的には男なんだぜ。どんなやつだって、男だったら女に興味がないわけないだろ」
ウーロンの主張は、論理的には間違っていない。しかし、提示された人物に適合させるのは難しいと、ブルマは思った。仮にあの戦闘マニアのサイヤ人が女に興味を持っているとしたら、まず自分に関心を示さないはずはない。うぬぼれもいいところだと言われそうだが、ブルマは女としての自身は、価値の高いものだと認識している。正常な感覚を持つ男なら、魅力的な女を逃したりしない。そういう考えから、打倒孫悟空しか頭にない男は論外としていた。
「とにかく、ウーロン。あんたの部屋を探してみて、それでも見つからなかったら、他を疑うことにするわ」
「ブルマ、おまえな!」
あくまで自らの判断を曲げないブルマにウーロンが反論しようとしたとき、ベジータが姿を見せた。なにやら不機嫌そうに周囲を見渡している。
「ブルマさん。あ、あれ…」
最初に気づいたのはプーアルだった。驚きの表情でベジータを指差す。一同が揃ってベジータに視線を注ぐと、だれもが唖然とせざるを得なかった。天に向かって逆立つ特徴的な髪、その天頂に赤いものが見える。よく目を凝らせば、黒髪に引っかかっている布切れがあった。
それがなにか視認したとき、ブルマは驚きのあまり絶句した。ベジータの頭にあったものは、自分が探していたもの。ブルマが盗まれたブラジャーだ。
(なんでベジータの頭に? まさか、あいつが犯人…?)
予想外の事態に混乱して、ブルマは自問自答する。一方のベジータは、リビングへ足を踏み入れるなりその場にいた面々が、揃いも揃って妙な表情でこちらを凝視するのを怪訝に思った。珍妙な視線を向けられ、大いに気分を害している。室内庭園で昼寝をしていたら、一匹の黒猫に邪魔をされて機嫌がよくないところへ、このおかしな事態だ。ベジータの不愉快さは増大していく。
「ベ、ベジータ。あんた、まさか…」
ブルマは問いかけようとしたけれど、うまく言葉にならなかった。途切れた声の代わりに、ぎこちない指が頭部の先端に向けられる。微塵も疑いを持たないくらいノーマーク、想定外の犯人だ。ブルマは自分のベジータに対する認識を、足元から覆された気がした。
(なんだ、こいつら…?)
ベジータは己に注がれる奇妙な視線と場の雰囲気に、訝しさを隠し切れない。
「あの、ええと、その…」
「なあ、ベジータ。それ」
プーアルとヤムチャが言いよどんでいると、ウーロンが口を出した。
「おまえ、頭の上に乗っかってる、それは…!」
直接的な表現と、指で示されたことでベジータは勘付く。どうやら自分の頭になにかがあるらしい。面倒臭そうに頭髪を探ると、布切れを掴んだ。知らない間に、髪の毛に引っかかっていたようだ。掴んだものを目の前に広げてみれば、変わった形状の物体。
「……なんだ、これは?」
「なにって、あたしのブラジャーよ!」
心の底からの疑問に、ブルマは真っ赤な顔で叫ぶ。人の下着を知らぬ顔で頭に載せてるなんて、どういう神経なのか。ウーロンよりも変態なのでは…という疑念が渦巻いた。
「あんたが盗んだの!?」
ブルマが声高に追及した直後、廊下の向こうから声が聞こえてくる。この場の緊迫感を腑抜けにする、ひどくのんきな呼び声だ。
「コゲちゃん、どこにいるの?」
やがてその声の主はリビングへとやってきた。ブルマの母は、この家の住人が揃っていることに何の疑問もなく、ひらすら部屋の中を見回す。どうやらペットの黒猫を探しているらしい。
「かあさん。コゲがどうかしたのかい?」
揉めているブルマを気にもせず、ブリーフ博士は妻に訊ねた。
「実は、コゲちゃんが洗濯物をくわえたまま、どこかへ行っちゃって」
「さっきオレの昼寝の邪魔をしやがった、あの猫か。どこに行きやがった? 人の頭を、てめえの寝床と勘違いしやがって…」
中庭で寝ていたところを邪魔したのが、その黒猫だった。ベジータが頭部に違和を感じて目を開ければ、猫が頭の上にいた。腹立たしい気持ちでその猫を追ったが、逃げ足が速いため捕まらず、見つからないままリビングまでたどり着いた。
「あら、それ」
ブルマの母が目に入ったものを指差す。ベジータの手中にある、赤いブラジャーを。
「それよ、コゲちゃんがくわえて逃げた洗濯物。ずっと探してたけど、ベジータちゃんが拾ってくれたのね」
それまでの状況をまるで知らない母親は、明朗に言い放った。この台詞から、一同は事実関係を整理しようと沈黙する。
(ええと、あたしのブラジャーがベジータの頭にあって、コゲがブラジャーを持っていって、ベジータの昼寝の邪魔をしたってことは…)
「ふむ。つまり犯人はコゲってことかな?」
いち早く結論を導き出したブリーフ博士が淡々と告げた。予想外の真犯人に、ブルマはがっくりと脱力する。
「だから最初から言っただろ。今回はオレじゃねえって」
「まあ、無事に解決してよかったじゃないか」
「そうですね」
濡れ衣を着せられそうになったウーロンは無実を証明できて安堵し、傍観していたヤムチャとプーアルは事が収まったことにほっとした。そして下着泥棒などという、あらぬ嫌疑をかけられたベジータは無言のまま。
「なんだ、ベジータが犯人じゃなかったのね」
「当たり前だ」
ブルマが呟いた台詞に、苦々しい面持ちで答えるベジータ。そんなものに興味はないと態度では示しているが、今は全面的に信じられない。
「……あのさ、ベジータ。いつまで人のブラジャー握り締めてるの?」
「――――!」
手放すタイミングがなく、掴んだままだった。まるで自分の意思で持っていたかのように誤解されるのは、ベジータにとってこの上なく不本意だ。赤い顔でブラジャーをブルマに投げつける。
その反応を見て、ウーロンの指摘もあながち間違ってはいなかったと、ブルマは真面目に納得した。ベジータがなんとも言いようのない表情で閉口すると、そこへ忍び寄る黒い影。
「あら、コゲちゃん」
その存在に気づいたブルマの母が、黒猫の名前を呼ぶ。今回の犯人であるコゲが、いつの間にかそこに座ってシッポを振っていた。
「ニャー」
孫悟空の適職
「悟空さ。どこに行っただ!」
ある日の昼下がり、孫家には夫を探すチチの声が響いていた。悟飯と悟天は学校に行っているため、家にいるのは夫婦のみ。
「さっきまでそこにいたのに…」
先刻まで食卓にいたはずだが、クリリンからの電話に出たあと姿が見えない。
「まったく。少し目を離したら、すぐいなくなっちまうんだから」
午後からは畑仕事を手伝ってもらおうと思ったのに、どこへ行ってしまったのか。
セルゲームで生命を落としたため、七年間あの世で暮らしていた悟空。しかし魔人ブウとの戦いの最中に生き返って、この世に戻ってきた。
母子家庭だった暮らしが、ある日突然、家族揃った生活に変化する。家庭の中に父親が存在してくれるというのは、やはり安心感が違うものだが、悟空そのものは死ぬ前と変わらない。一向に働く姿勢が見られず、修行ばかりの毎日だ。
子どもは日々成長していくというのに、父親は相変わらず。しっかり者の悟飯と比較すれば、どちらが子どもか分かったものではない。チチが家計の大黒柱になりようがない夫に大仰なため息をもらすと、不意をついて悟空が目の前に現れた。
「ご、悟空さ!」
瞬間移動で帰ってきた夫に、チチは驚きの声を上げる。使っている本人からすれば、瞬間移動は便利な技に違いない。けれど、突然人間が現れたり消えたりされる側としては、毎度びっくりして心臓に悪い。
「何度言ったらわかるだ。家の中で瞬間移動するのはやめてけろ!」
「わりい、忘れてた」
何度注意されても直らない習慣を、悟空は笑ってごまかした。
「どこへ行ってたんだ?」
「ああ、カメハウスにちょっとな」
用事が終わって帰宅した夫に、妻は行き先を訊ねる。
「カメハウスに何の用だ?」
「クリリンからの電話で、オラん家の近くに笹が生えてねえかって」
「笹?」
「もうすぐ七夕だろ?」
「そうだな」
「マーロンに笹飾りを見せてやりたいって言うからさ。裏の山から適当な笹を見つけて、持って行ってきたんだ」
愛娘を思うクリリンの頼みを快く引き受けた悟空は、笹をカメハウスまで届けてきた。
「クリリンもマーロンも喜んでたぞ」
「そりゃあ、よかっただ」
「もう一本でっけえ笹があったから、ついでにブルマん家にも運んできた。いきなり持って行ったから、ベジータはちょっと怒ってたけどな。あんなものを持って空を飛ぶのは大変だろ? 瞬間移動なら楽だし、笹も傷まねえしさ」
「まあ、それはそうだな」
移動手段として瞬間移動を使った理由にチチは納得する。こういう場合には、瞬間移動という能力は有益なものと評価できた。物を運ぶとき、一瞬で目的地まで行けたら便利なだけでなく、時間もそれにかかる費用も節約できる。ある意味で究極の輸送手段かもしれない。しかも悟空の身体に触れていれば、他の人間も同時に移動できるのだ。
これは使えるかもしれない。チチの主婦としての本能が閃く。どんな荷物でも、遠距離を急いで移動したい人でも、瞬間移動ならあっという間。その上、資本は悟空の身体ひとつでコストもかからない。これを職業にすれば、どんなに就職を渋る夫でも働いてくれるのではないだろうか。
だれかから与えられる型にはめた仕事には向かない性分だが、瞬間移動という自分の持つ能力を活用するなら、やる気も出るかもしれない。
やはり一家の大黒柱である父親は、労働で家計を支えて家族を守るもの。地球を脅かす敵もなく平和になった世界で、なにより必要なのは安定した収入だ。頭の中で青写真を描いたチチは、身を乗り出して夫に提案した。
「悟空さ。その瞬間移動を活かして、宅配業を始めるだ!」
「へっ?」
「瞬間移動なら、どんな荷物も距離に関係なく持っていくことができるし、人を運べばタクシーや飛行機なんて目じゃねえ。一瞬で目的地へ着けるんだから。自分の持っている能力を使うなら、悟空さでも簡単に続けられるだよ。瞬間宅急便でお金を稼いで、少しは家計に貢献してほしいだ」
「あ、あのさ、チチ…」
名案を思いついたチチは、困惑する悟空を気にも留めない。
「嫌だとは言わせねえ。結婚してから一度も金を稼いだことないくせに。悟飯はこれから学者になるのに、大学へ行かなくちゃなんねえ。悟天も中学、高校と進むにつれてなにかとお金が入用にもなってくる。父親なんだから、ちょっとは家族のために働いてくれたってバチは当たらねえ。毎日修行しなくても、悟空さの強さは揺らぐもんじゃねえべ?」
あくまで働きたくないという、堕落した精神構造から渋っていると思ったチチは、今後ますます厳しくなる家計を盾に応諾を引き出そうとした。しかし、拒む理由が別のところにある悟空は、困ったように苦笑する。
「働くことがそんなに嫌だって、家族よりも修行が大事って言うなら、今すぐこの家から出て行けばいいんだ!」
妥協を許さない最終通告を掲げた妻に、夫は至極困窮していた。相手は気が昂ってしまっているが、それでも説明しなければいけないことがある。
「ええと、その…言いにくいんだけどさ」
「なんだ」
「オラの瞬間移動は、場所じゃなくて人を思い浮かべるんだ」
「それがどうしただ?」
「相手の『気』を感じ取って移動するから、知らない場所には行けないんだ。つまり、オラが知っている人のいるところにしか使えない技なんだ」
「へっ?」
控えめな口調で説明する悟空に、目を丸くするチチ。
「だから使える範囲が、知り合いがいる場所に限られてる。いくら住所がわかっていても、自由に行き来できるものじゃねえんだ。…わりいな」
夫が申し訳なさそうに謝ると、期待に心躍らせた妻はがっくり肩を落とした。
「……そんな。せっかくいい方法だと」
いかに不労種族のサイヤ人でもできそうな仕事だと思ったのに、瞬間移動にそんな制限があったなんて予想外だ。
「すまねえ、チチ」
「悪いと思うなら、少しくらい働いてけろ」
「いや、それは…」
弱り目に懇願しても、悟空の労働意欲はまったく湧かないらしい。
「だけどその分、畑仕事くらいは手伝うからさ」
機嫌取りに付け加えられた言葉を聞いて、チチはうなだれた顔を上げる。
「当たり前だ! 『働かざる者食うべからず』って言うだべ!」
期待に破れた傷心から立ち直り、無収入の夫にそう言い放った。
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ベジブル中心オールキャラ。ほのぼの日常のストーリー。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
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