「士希さーん、美味しい紅茶が飲みたい」
「またですか…」
ここはミッドのとあるカフェ、喫茶店【晋】。
ここに来るお客さんの幅は広く、聖王教会の偉い人が来ることも稀によくあります
「いいじゃーん!私だって息抜きしたいんですー」
「あんたの息抜きってのは、週4でうちに来る事なんですか?」
目の前でダラける女、カリム・グラシア。
聖王教会、騎士団、時空管理局に所属している割と偉い人。確か、管理局での地位は少将だったはずだ。
未来予知系のレアスキル持ちで、教会はそれを重宝している。
故に、忙しいはずなのだが…
「個人的には、週7で来てもいいくらい」
「仕事しろ!?」
聖王教会のシステムが分かりません…
「あぁん?騎士カリムじゃねぇか。また来たのか?シスターシャッハに怒られるぞ」
アギトがフラーっとやって来た。
アギトの言う通りだ。そしてだいたい、俺もシスターシャッハに怒られてしまうから、勘弁してほしい
「えー、つれないこと言わないでよー。これでもちゃんと仕事はしてるんですから」
お前が仕事してるイメージが全然わかねぇよ
「て言うか、お偉いさんがそんなホイホイ協会の外出ていいのか?」
「大丈夫大丈夫!転移魔法のショートカット設定してあるから!」
「ど、何処だ!?いったい何処に仕掛けやがった!?」
なんてこった。この女、早くなんとかしないと…
「士希さーん、お客さん連れて来ましたよー」
買い出しに出かけていたレーゲンが、店の入り口から入ってきた。
そしてレーゲンが連れて来たのは、長身の、緑色のロングヘアーが特徴の男で…
「やぁ士希、こんにちゲッ!?なんで姉さんがここに!?」
「それはこちらのセリフね、ロッサ。またサボりかしら?」
「あんたが言うな。いらっしゃい、ロッサ。いつものでいいか?」
ヴェロッサ・アコース。
時空管理局本局の査察官。
カリムの義理の弟で、俺の良き友人。
こいつもこいつで、能力があるくせにサボり癖がある。
やはり姉と弟は似るものなのか
「あぁ、いつもすまないね」
「いいさ。なんたって俺達は…」
「「ラヴ☆シスターズ!!」」
俺とロッサは腕を合わせ、固い握手を果たした
俺とロッサとカリムが出会ったのは二年前の事だ。
俺が罪を洗い流す際に、はやての計らいで彼らの下で働く事になったのがきっかけだ
2年前
「こちらが東士希。神器のマスターって事で罪を背負うハメになった不運な人です」
「はやてさん?その説明は酷くね?」
俺ははやての案内で聖王教会までやって来た。
そして現在、教会の一室に入り、二人の女性と一人の男性と面会している
「ふふ、あなたが士希さんね?話ははやてから聞いているわ」
「お前が…」
「ロッサ、落ち着きなさい」
何やらロッサと呼ばれた男から凄い目で睨まれた。
俺、この人と初対面だよな?
「私はカリム・グラシア。教会所属の騎士です。一応、管理局にも席を置いているわ。その関係で、今回あなたの監督の一人として任されたわ」
おしとやかな雰囲気の騎士カリム。なかなか良い人そうだ
「私はシャッハ・ヌエラといいます。カリムの秘書をしている者です。教会での仕事は、基本的に私と同じ事をする予定でいます。何かあれば、私に聞いてください」
凛々しい佇まいのシスターシャッハ。
同じ事と言うことは、俺も騎士カリムの秘書をすることになるのだろう
「ヴェロッサ・アコース。本局の査察官をしている」
……ん?なんか、怒ってる?
「えと、ロッサそれだけ?」
はやても疑問に思ったようだ。
だけどヴェロッサは依然と黙ったままだ
「うふふ、ごめんなさい。ロッサ、妹に彼氏が出来たって聞いて不機嫌なのよ」
「姉さん!?」
「え?そうなん?」
ヴェロッサは舌打ちをして、さらに不機嫌になった。
そうか、ヴェロッサははやてを妹のように思っていたのか
「少しいいですか?」
俺はヴェロッサに語りかける。
ヴェロッサは反応しつつも、こちらを見てくれない
「ヴェロッサさん、俺にも妹がいます。とても可愛い妹が」
「!?」
今度は反応してくれた。
そして、見定めるように俺を見て、口を開いた
「妹は…」
その先に続く言葉を言えと言うように、俺にジッと視線を向ける。
その目は真剣そのものだった。
だからこそ俺は、正直に真剣に答える事にした
「神がくれた神を超越した存在」
その答えはヴェロッサの満足いく答えだったらしく、大きく目を見開いた後に、満足気にフッと笑った
「……姉は…」
しかし、次の瞬間には何か戦慄しつつ、ヴェロッサはチラッと騎士カリムを見て呟いた。
なるほど、あれは姉的な存在か。
その言葉で十分、俺はヴェロッサと上手くやれる確信を持てた
「恐怖の対象」
俺はそう小声で呟いた。
するとヴェロッサは少し微笑み、俺と厚い握手を交わしてくれた
「僕の事はロッサと呼んでくれ」
「なら、俺の事は士希と呼んでくれ」
なんだ、この人良い人じゃん
「すまない、はやて。僕は士希を見誤っていたようだ。士希ならはやてを任せられる」
「いったい何があったんや!?」
「簡単さ。妹は神、いや真理だったと言うわけさ」
俺はロッサと肩を組み、うんうんと首を縦に振った。
はやては呆れているけどな
「あ、あはは。聞き逃せない何かを聞き逃した気がするけど、ロッサと仲良くなったのならいいわ」
「えぇ姉さん。僕、士希とは良い友人になれそうです」
「ろくでもない友人な気がしますね…」
その後、俺は仕事の説明を受けた。
教会と管理局両方に所属し、それぞれの監督官、ここでは騎士カリム、ロッサ、そしてはやての補佐に当たる事となった。ある程度の実績を残し、信頼を勝ち取れば、単独での任務も言い渡されるらしい
「僕は既に士希を信頼しているんだけどね」
「それを言えば私もよ。だけど、管理局が組織である以上、一応体裁は必要なのよね」
騎士カリムもロッサもシスターシャッハも、はやての良き友人だ。だからこの贖罪、かなり恵まれている事になる。はやてにもこの三人にも、感謝しても仕切れない。
だからせめて…
「いえ、その気持ちだけで十分です。本当にいろいろと、ありがとうございます。恩に報いるためにも、粉骨砕身の気持ちで当たります」
しっかりと、働いて返して行こう。
この時の俺はそう思っていた…
教会での俺の主な仕事は、騎士カリムの護衛やスケジュール管理、その他雑用全般。
なのだが…
「ダァークソ!こっちにはいません!シスターシャッハ!そっちは?」
「こっちにも…クッ、カリム…見つけたらタダじゃ…」
「ちくしょう!あの人、自分のポジションわかってんのか!?」
騎士カリムとのかくれんぼがほとんどのウェイトを占めいた。
おかげで…
「あの人はいつもいつも…あの時だって…」
「あ、あはは…ささ、飲んでください、シスターシャッハ」
俺の仕事に、シスターシャッハの愚痴を聞くという項目が追加されたほどだ。
この人、苦労してんなぁ
それに比べて、ロッサとの仕事は楽しかったな
「ロッサ、この前言ってた例の組織、やっと尻尾出したぞ。どうする?」
「わかった。応援を呼んで、準備が出来次第攻めよう」
「了解。俺の方でも、動ける奴を向かわせるよ」
「ふぅ…士希、このままここで働かないか?士希の能力、査察官に向いているんだが…」
「はは、悪くない誘いだが、俺は俺のやりたい事がある。だからお断りだ」
「カフェだっけ?士希の淹れるお茶は美味いから、繁盛しそうだな」
「はは、建てたらいつでもサボりに来い」
気の合う友人との仕事は、公私関係なく楽しくて良かったなぁ
現在
「お待たせ、ロッサ。いつものオリジナルブレンドと、これはうちの新作ケーキ、感想聞かせてくれ」
俺はロッサに紅茶と、新しく出そうと考えている季節のフルーツを使ったロールケーキを提供した。
もちろん、隣にいたカリムにもだ
「うん!美味いよ士希!甘い生クリームと、少し酸味の効いたフルーツが良い感じに合ってる!」
「おいしー!はやてが羨ましいなぁ。こんな美味しい料理食べられるなんて」
「って言うほど、最近はやて帰って来てないけどな。どうも六課の運営に四苦八苦してるらしい」
昨日も愚痴とアドバイスの電話がきたからなぁ
「寂しくはないのかい?」
ロッサは紅茶を飲む手を止め、俺に聞いてきた
「んー…寂しくない訳じゃないが、俺はあいつを応援してるし、俺の我儘であいつの枷にはなりたくない。だから俺は、こうやって裏方であいつを支えてるわけ」
「…ごめんなさいね」
カリムは申し訳なさそうな顔で言ってきた。別にこれは、カリムのせいではないのに
「気にしないでください。今抱えている問題さえクリアすれば、あいつも俺も、だいぶ楽になる。それまでの辛抱ってだけなんで」
六課設立の理由の一つは、カリムが出した預言だ。
曰く、管理局が崩壊するだとか。
預言は古代ベルカ文字で記載されていたため、以前までは正確に読めなかったらしいが…
「そういえば、うちのミネルバ先生は元気ですか?」
「元気…なんだけど、そろそろ逃げたいと言っていたわ…」
うちの神騎の一人、ミネルバは古代ベルカ文字で書かれている書物の解析を担当している。
知の神の名を語るに相応しく、多くの書が解読されていき、教会や無限書庫に大きく貢献していた
「ていうかもう逃げて来ました」
「うお!いつからいた、ミネルバ!?」
アギトが驚きの声をあげた。
気付けば、ミネルバはカリムの隣に座っていたのだ。目の下にはクマが出来ている。どんだけ働き詰めだったんだよ
「本は好きよ?好きだけどさ…自分のペースで読みたいのよ…なのに皆して急かして…読まなかったら怒られて…こっちは趣味で読んでるだけなの!そのついでに解読してるだけ!わかる!?」
なにやらずいぶん荒れていた
「ほら、ココア飲んでちょっと落ち着け」
俺はホットココアを淹れ、それをミネルバに提供してあげる。ミネルバはフーフーと冷ましてから一口飲み、あちっと舌を出した
「えと、ごめんなさいミネルバ。職員の方には私から伝えておくわ」
「もう!高校の先生してた頃が懐かしいわ!士希さん!もう一度高校生やってみない!?」
「意味わかんねぇよ!」
こりゃミネルバにはしばらく休みを取ってもらわないとな
《あ、ロッサトイレに行ってろ。怖い人がそろそろ来るぞ》
俺がふと店の前に付けた監視カメラを見てみると、そこには1人の鬼…もとい修道女が凄まじい威圧感を出して歩いていた。
それに気付いた俺はすぐ様ロッサに念話を飛ばした
《!?ありがとう!》「士希、ちょっとお手洗いを借りるよ」
「はいはい」
ヴェロッサは自然な佇まいで立ち上がり、トイレに入っていった。
それと同時に、店の玄関についた鈴がなり、修道女が入ってきた。
カリムはそれに気付いていない
「それにしても、シャッハもシャッハよねー。いーっつも仕事しろーってうるさいの。酷いと思わない?」
「そりゃ仕事しないあんたが悪いんでしょ」
カリムの隣に、修道女が座った。
だがカリムは俺に愚痴を言う事に集中しているのか、気付いていない
《お飲み物は?》
《すぐ帰りますので、結構です》
俺は念話で確認を取り、グラスを拭きあげながらカリムの話を聞く事にした
「ほら、やれって言われるとやりたくなくなるのよ。私はするつもりだったのよ?なのにやる前に言われちゃうと、こっちのモチベーションが下がるって言うか。だからシャッハは…」
あ、気付いた。スッゲー汗流してる。人って一瞬でこんなに汗流せるんだ
「私が、なんですか?」
おぅ、絶対零度の笑みいただきましたー
シスターシャッハ。
聖王協会に所属するシスターで、ロッサやカリムの幼なじみでもある。
昔から二人のお世話に携わってきた事から、二人はシャッハに頭が上がらず、ある意味天敵に近い存在なのだ
「ま、マスター…いつからいました?」
「あなたが愚痴り始めた辺りから」
「な、なんで止めなかったの?」
「お客様のお話を聞くのも、お仕事の一つなので」
ミネルバもアギトもニヤニヤすんじゃねぇよ!俺も吹き出しそうになるだろ!
「マスター、お勘定を」
「かしこまりました」
シャッハの要望に答え、俺が伝票を渡すと、カリムはビクビクしながら財布を取り出し、お金を払ってくれた
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。ではシスターシャッハ、お勤め頑張ってください」
「えぇ。今度はプライベートで来ます」
「あ!私も…」
「うん?」
「いえ、なんでもありません…」
シスターシャッハは笑顔でカリムを威圧した。
効果は抜群だ!カリムは動けない!
「では、これで」
そう言って、シスターシャッハはカリムを引っ張って出て行った。
カリムのあの悲痛な目、ゾクゾクするな
「行ったかい?」
シスターシャッハが出て行ったのを確認して、ロッサがトイレから出てきた。
俺が頷いてやると、ロッサは安堵のため息を吐いた
「お前ら姉弟は、相変わらずシスターシャッハが怖いんだな」
「そりゃ、昔からあんな感じだからね。あれでは…」
ガチャ
「ところで士希、ここにロッサは……あぁ、いましたいました」
「げっ!シャッハ!?なぜ!?」
シスターシャッハは再び戻ってきた。これには俺も予想外だった為に、対応できない
「何故もなにも、本局からあなたがいないと連絡が来ていたので。またサボりですか?ロッサ」
シスターシャッハはとても低い声でロッサに尋ねた。ロッサもすげー汗かいてる。やっぱ姉弟だなぁ
「ま、まさか。ちょっと息抜きに士希の店に寄っただけさ。もう仕事に戻るところだったよ。だからその物騒なヴィンデルシャフトはしまって欲しいな」《士希!助けてくれ!》
「そう、それは良かったです。私も馴染みの店を血で汚したくはありませんので。では士希、これで本当に」
「あぁ、また来てください」《ロッサ、ごめん。あれは無理》
《士希~!!》
ヴェロッサの悲痛な念話での叫びが、俺の頭の中でこだましていた。
シスターシャッハ、マジ怖ぇな
「あそこも相変わらずだよなぁ」
「騎士カリムとロッサさんが、シスターシャッハに怒られる。ここまでがテンプレですからね」
アギトとレーゲンが温かいお茶をすすりながら締める。
良くも悪くも、これもこのカフェの日常です
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