◆CONTENT◆
「赤ずきん」
「怪盗」
「幕末」
「地上げ屋」
PARALLEL FUTURE ~もうひとつの未来~
美人秘書にはキケンがいっぱい
秘密のオフィスラブ
社長とわたし
アブない会議室
初詣
果報は寝て待て
ロミオとジュリエット
ロミオとジュリエットその2
浦島太郎
HIGH SCHOOL DAYS
「地上げ屋」
◇ 登場人物 ◇
・ベジータ…戦闘民族サイヤ人の王子
・ブルマ…発明が得意な地球人
・ナッパ…ベジータの側近
・ラディッツ…ベジータの部下
◇ あらすじ ◇
孫悟空とピッコロが死闘を繰り広げた天下一武道会から三年。地球には新たな脅威もなく、平穏な日々が続いている。
ある日ヤムチャと大ゲンカしたブルマは、単調な日常への不満から西の都を飛び出した。当初は目的もなかったが、ふとドラゴンボールを集めようと思い立つ。自らの発明品を駆使してボールを集めることに成功した。今度こそ『理想の恋人』にめぐり会いたいと、神龍に願いを告げる。
「あたしと赤い糸で結ばれている、素敵な恋人のところに連れて行って!」
「……わかった。かなり遠い距離だが、願いを叶えてやろう」
刹那、なぜだか逡巡した神龍。しかし叶えられない願いはないのだ。両眼が光った次の瞬間、ブルマの姿はその場から――――地球からも消えていた。
「きゃあ!」
「な、なんだっ!?」
宙をさまよう感覚を経て周囲が実体化すると、ブルマは地面に落下する。そのまま床に落ちるのではなく、一人の男を下敷きにしていた。
「お、おい! いきなりベジータの真上に女が…!」
「どこから現れやがった?」
居合わせたスキンヘッドの男と長髪の男が驚きの眼差しで見つめる。ここはフリーザ軍がかつて制圧し、現在は方面支部として機能する基地。遠征する星が見当たらないとの理由により、彼らは待機を命じられていた。
「ここ、どこ? 遠いって言ってたけど、行き先くらい言ってくれても…」
ブルマが呟きながら顔を上げると、潰されていた男も身を起こす。
「一体なにごとだ?」
顔の上を覆うやわらかな弾力を訝しんでいると、目前のブルマと視線が交わった。
「ええっ! これがあたしの…!?」
「なんだ、きさまは!」
目つきの悪い、柄も悪そうな男が『運命の相手』と知って落胆するブルマ。偶然当たった胸の感触に戸惑いつつ、見知らぬ女の出現に驚くベジータ。
「こんなのが『理想の恋人』なんて嘘じゃない。神龍、元に戻しなさいよ!」
「突然なにもないところから現れやがった。何者だ、きさま!」
両者とも混乱していたが、やがてブルマが事情を語った。理想の恋人と会うためドラゴンボールを集め、神龍に願ったこと。地球からやってきたことを知ると、サイヤ人たちは関心を寄せる。
「地球だと? どこかで聞いたことのある惑星だな」
「おい、ラディッツ。おまえの弟が送り込まれた辺境惑星が地球じゃなかったか?」
「あんたたち、地球のこと知ってるの? っていうか、そのシッポ…」
彼らの腰に巻かれた茶色いシッポは孫悟空と同じものだった。本来ならば、得体の知れない存在は抹殺するのがサイヤ人の常だが、ブルマが自分たちの同胞――貴重な生き残りであるカカロット――を知っており、全滅すべき地球人が生き残っていること、複数の事案によって殺すという選択肢は回避される。地球に帰る術がないブルマは、しばらくこの基地で暮らすこととなった。
能力の高さと物怖じしない性分も相まって、早々にここでの生活に適応するブルマ。地球より進んだ文明の利器に感嘆し、構造を学んで応用力を身につけていった。
毎日ひと悶着は起こしながらも楽しく過ごしていたある日のこと。基地内で騒動が発生し、それに起因する爆発にブルマが巻き込まれてしまう。
「おい! 目を覚ませ!」
傷を負い、意識を失って倒れた彼女に呼びかけるも返事はない。ベジータはブルマを抱えて基地内を進み、メディカルマシーンで治療する。無事に意識を取り戻したブルマだが、液体の中に置かれた己の状況に混乱し、取り押さえようとしたベジータを水中へ引っ張り込む形になった。薬液で満たされたメディカルマシーンの中でもつれ合う二人。
「(この、バカ女が…!)」
ベジータが彼女の呼吸器を力ずくで外した。間髪置かず、抗う両腕を掴み抗議しようとした口を塞ぐ。
「――――――!」
全身から力が抜けたブルマは、やがて身を委ねるように瞳を閉じた。
「な、なあ。オレたちがここにいるの、ヤバくねえか?」
「こんな面白い光景、見逃すのはもったいねえ。バレなきゃいいだろ。あのベジータが女との濡れ場を繰り広げてるなんて、オレも年を取るわけだぜ」
入り口の扉に隠れて、ラディッツとナッパがその様子を盗み見ていた。もちろん、覗きが発覚した二人はベジータから鉄拳制裁を食らうことになるが。
ベジータたちはその後、基地の混乱に乗じてフリーザ軍からの離脱を決意。ブルマが機器のデータを改竄し、改造した宇宙船で地球へ。突然やってきた恐ろしいサイヤ人に戦慄する悟空たちだったが、ブルマが経緯を話し、戦闘には発展せずに済む。
サイヤ人たちは満足な食事と引き換えに殺戮をしないと約束。やがてベジータとブルマの間に子どもが生まれ、地上げ屋を廃業したサイヤ人たちは地球で安穏な生活を手に入れた。
ロミオとジュリエット
中世ヨーロッパ。ヴェロナと呼ばれた街にはふたつの名家があった。モンタギュー家とキャピュレット家。彼らは些細なことで仲違いをして以来、犬猿の関係が続いている。
名門の両家には、同じ年頃の子息令嬢が一人ずつ。モンタギュー家のロミオ、キャピュレット家のジュリエット。若い二人は家同士の抗争に無関心のため、相手のことをよく知らない。会ったこともない人間を家名だけで嫌悪するほど愚かでもなく、ゆえに嫌う理由がないため、彼らには相手に対する先入観や固定観念はなかった。
ある夜、ロミオはキャピュレット家で開かれた仮面舞踏会に入り込んでいた。参加者は全員仮面をつけているので、ロミオの正体が露見する心配はない。だが、その表情は険しかった。街で舞踏会の招待状を拾った友人が面白がり、強引に連れて来られたのだ。
ダンスを踊るのも得意ではないだけに、隅で佇んでいたロミオだが、突如広間の中央に現れた美しい女性に視線を奪われる。他の女とはまるで違う、引力のようなものを感じて、ロミオはそちらへ足を進めた。緩やかな音楽に揺られる人波をすり抜け、女性のところまでたどり着く。
ちょうど別の男とのダンスが終わったところで、反射的に細い腕を掴んだ。突然の出来事に彼女は驚いたが、ロミオの顔をまっすぐに見つめて挙動を止める。お互いになにかを感じていた。理由もなく強く惹きつけられ、そんな自分に戸惑う。
いつまでも見つめあったまま広間の真ん中で立ち止まっているわけにもいかず、二人はぎこちなくダンスを踊り始めた。言葉を交わすこともなく、ただつながっている手が熱い。心臓の鼓動が高鳴る。まるで未知のウイルスに侵されたかのように。厳密に言えば、それは間違っていない。たしかに『病』なのだ。ただし単語の前に『恋の』という言葉が入るのだが…。
曲が終わるのが名残惜しく、短くもときめいた時間は終わりを告げる。音楽が終止符を打ったあと、どちらともなく相手にかける言葉を探していた。しかし名前を問おうとした寸前、ひとつの声が二人の間に割って入ってくる。
「ジュリエットや。次はわしの相手をしてくれんか?」
初老の男が話しかけると、ジュリエットと呼ばれた女性は慌てて手を離した。小声で途切れそうな呟きは「また…」としか伝わらない。けれど言葉にならずとも、その先は心に伝わっていた。
「娘ばかりを誘わないでよね、とうさん」
肩をすくめながら相手を務める彼女。そのとき、ロミオは呆然と立ち尽くしていた。ジュリエットというのは、キャピュレット家の一人娘の名前ではないか。だとしたら、モンタギュー家の自分にはどうすることもできない。
「おい、どうしたんだ? ロミオ」
この舞踏会へ誘った友人に声をかけられるまで、ロミオはそこから動けなかった。
一方、ジュリエットも相手のことが気になっていた。信頼できる侍女を使いに出して、密かに名前を訊いてくるよう頼む。侍女は彼から直接名前を訊くことはできなかったが、友人らしき人物が呼びかけた名を耳にして驚いた。ロミオといえば、キャピュレット家とは因縁のモンタギュー家の子息。それを訊いたジュリエットは困惑し、出口のない想いに一人悩むことになる。
数日後、ジュリエットへの気持ちを抑えきれなくなったロミオは、夜の闇に乗じてキャピュレット家へ忍び込んだ。忘れようとしても、感情は理性を凌ぐ。このままだと自分がおかしくなってしまいそうな衝動に駆られて、行動に出た。彼女に会いたいという一心で、高い塀を乗り越える。
だれにも見つからず庭園へ侵入したまではよかったが、問題はこれからだった。広い邸宅に明かりが灯る部屋は複数、どこがジュリエットの部屋だか分からない。
ロミオが途方に暮れていると、二階のバルコニーに人影。とっさに身を隠し様子を伺うと、ジュリエットがそこに現れた。彼女は浮かない表情で月を見上げ、深いため息をもらしている。
「どうしてあなたは『ロミオ』なのよ…? そうでさえなかったなら、あたしは…」
切ない呟きを聞いて、ロミオは潜めていた茂みから姿を見せた。想い人の唐突な出現に彼女は驚く。今の台詞を聞かれていた恥ずかしさで、背を向けた。ロミオはどうしたものかと考え、邸宅に伸びる蔦を頼りに二階へよじ登る。
「そうでさえなかったら、なんだ?」
真後ろから聞こえた声に振り返った彼女は、目前にいる男の存在にたじろいだ。
「…言わない」
真っ赤な顔で小さく告げる。
「悔しいから、言ってあげない」
一度でいいからデートをしたいと言われ、ロミオは彼女を邸宅の屋上に連れ出した。ここならばだれの邪魔も入らない。街の夜景が綺麗だった。
ジュリエットが持ってきたワインと果物で乾杯する。夜の間しか叶わない逢瀬、明るい昼間には恋人同士でいられない。その切実さが痛いから、二人は今という時間を存分に楽しんだ。
夜明け前、何度も「帰らないで」という台詞を呑み込むジュリエット。ロミオもその気持ちは痛切なまでに感じていたため、帰路につく足が鈍った。そうしている間に夜が明けてしまい、ロミオは帰るに帰れない状況に陥る。
太陽が昇ってしまっては、塀から抜け出すにも人目についてしまう。二人が対応に頭を悩ませていると、短いノックのあと、ジュリエットの部屋の扉が開かれた。
「ジュリエットさん、朝ですよ」
モーニングコールにやってきた母親は、そこにいたロミオの存在に気づく。
「あら。お邪魔だったかしら?」
「かあさん! 言うことはそれだけ?」
あまりに楽天的な台詞だ。逆に娘のほうが剣幕を荒立てた。
「だって、他になにを言えばいいの?」
「ここにいるの、モンタギュー家のロミオなのよ!」
「そうなの? あなたがだれとお付き合いしても、ママは反対しないわよ?」
「モンタギュー家とは、ずっと仲違いしてるんでしょ? それなのに…」
無言を貫くロミオを尻目に、ジュリエットと母親はかみ合っていない口論を続ける。
「ああ、それね。ずっと前から、なんでケンカしたのか原因も忘れちゃってて。だから仲直りしてもいいんだけど、そのタイミングがなくてパパも困ってたのよ。あなたたちがそういう関係なら、いいきっかけになるわね」
母親の話に若い二人は絶句した。決して結ばれないと思っていた、自分たちの苦悩はなんだったのか。しかし、家同士が不仲であるため、駆け落ちまで考えたロミオとジュリエットは、その必要もなくなり、望みどおり結ばれることとなる。
「…帰らなくてよかったわね」
結果的にそういう結末に至った要因はといえば、朝までロミオが帰らなかったこと。ジュリエットの言葉に、ロミオは苦い表情で閉口した。
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ベジブルのパロディ、パラレル作品。
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