No.803493

「VB DAYS 4」

蓮城美月さん

ベジータ×ブルマ、ブウ編後のエピソード。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 078P / \200
http://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ161564.html

2015-09-21 19:53:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1796   閲覧ユーザー数:1792

◆CONTENT◆

 

家族の肖像

辞書にない言葉

コスプレごっこ

口は災いの元

しあわせな寝言

赤い糸

その愛は不変

サイヤ人の経済感覚

寝相改善対策

ベジータのおつかい

義父と婿

しあわせの温度

 

コスプレごっこ

 

ある日、クローゼットの整理をしていたブルマは、懐かしいものを発見した。

「あれ? これってあのときの…」

手に取ると、当時の記憶が鮮明によみがえる。すっかり興味がそちらに移ってしまい、本来の目的を忘れてその服を眺めた。初めての宇宙、予期せぬ出来事、あらゆる危機を体験させられた日々だった。それでも微笑ましく思い出せるのは現在があるから。

「あれから何年たったのかしら」

ブルマは感慨深く見つめながら、まだ着れるだろうかと考えた。年月は経過しても、収納されていたので服自体に問題はない。阻むものがあるとすれば自身の体型だ。

着衣を脱ぎ、その服に袖を通していく。すべてのアイテムを身につけ、最後にジャケットのファスナーを上げれば、ナメック星に行ったときのスタイルが完成する。髪型は違うけれど、服装は当時と同じ。自分の身体が衰えていないことを証明できて、若干の嬉しさも覚えた。

「……なにをやっている?」

鏡に映った自分に陶酔していると、背後からベジータの声。上機嫌で振り返ったブルマに、おかしなものを見るような眼差しが注がれる。

「あ、ベジータ。ちょうどよかった。見てよ、これ」

「なんだ、その格好は?」

笑顔のブルマと対照的に、ベジータは眉をしかめた。

「懐かしいでしょ?」

「なにがだ」

「覚えてないの?」

まるで何の感慨もない反応に頬を膨らませる。

「初めて会ったとき、ナメック星であたしが着てた服よ」

「それがどうした」

ベジータとしては他に言葉がない。何年も前の服を着て、なにがしたいのか理解できない。

「あっさりしてるわね。運命の出会いだったのに。もう少し、懐かしむとかそういうことを…」

そんなことを期待しても無駄だと分かっていても、やはりロマンチックが欲しくなる。なにかを求めてしまう。お互いの人生を変えたほどの出会いだったのに。当時の格好を見ても、まるで興味もない相手に不満を持った。自分だけ時間がずれているようだと感じたブルマは、ふと閃く。

「ねえ、試しにあんたも着てみてよ」

主語を抜いた提案に、ベジータは怪訝な表情。

「あのときあんたが着てた戦闘服、まだあるから」

そう言いながらブルマはロフトへ上がる。新しい戦闘服を作る際に預かって、その後はどこかにしまいこんでいた。呆れたように眺めるベジータだが、ここにいるとろくなことにならないのは目に見えている。付き合っていられるかと足を踏み出したとき、ブルマの声が響いた。

「あった!」

降りてきた妻に、あまりいい思い出のない戦闘服を差し出され、ベジータは苦い表情をあからさまにする。

「着てみて」

「断る」

「なんで?」

「どうしてオレが、そんなくだらないことに付き合わなきゃいけない?」

「少しくらい、いいじゃない」

「なにが楽しい?」

「だって、懐かしい気分に浸ってみたくて」

甘えた口調で頼むも、夫の意思は揺るがない。

「面倒だ。一人でやってろ」

突き放せば早々に諦めるとベジータは思った。けれど、今回に限っては逆効果だったらしく、身体をがっしり捕まえられた。

「いいから、着てみて」

意気揚々の妻は、夫の服を無理やり脱がそうとする。

「なっ、なにしやがる!」

「服を脱いで、これ着てよ!」

「嫌だと言ってるだろう。人の服を勝手に脱がすな!」

「なによ。あんただっていつも同じことしてるじゃない!」

「それとこれとは…」

押し問答の結果、ブルマの要求を受け容れざるを得なくなったベジータは、この上なく不承不承の面持ちで古い戦闘服に袖を通す。

「……つまらないことを思いつく女だな」

素材が伸縮自在なだけに、現在の体格でも以前の戦闘服を着ることができた。

「コスプレしてるみたいで楽しくない?」

「くだらん」

こういうシチュエーションを思う存分満喫できるブルマと対照的に、ベジータは眉間に皺を寄せて不平をもらす。

「こんな古いものを着て、なにが面白い?」

「ちょっとした刺激になっていいじゃない。…でも、なにか違和感あるわね。どうしてだろう」

夫の不満を聞き流した妻は、当時との印象の相違に首を傾げた。格好はあの頃と同じなのに、雰囲気が違う。

「ねえ、もっと凶悪そうな顔してよ。初めて会ったときみたいに」

悪気なく注文を加えるブルマに、ベジータの不機嫌さは募るばかり。

「そうだ。あのときと同じこと言ってみて」

「……なにをだ?」

「だから、ナメック星であんたがやってきたときに言った台詞」

ベジータは難しい顔で口をつぐんだ。目の前の女は自分の妻であるけれど、たまに理解できないことがある。こんなことをして、何の意味があるというのだろう。

「忘れた」

「運命の出会いなんだから、忘れないでしょ、普通」

「おまえは憶えてるのか?」

「…ええと、なんだっけ。たしか『死にたくなかったらそこにいろ』かな?」

曖昧な記憶を取り繕うブルマに、ベジータは嘆息する。

「付き合っていられるか」

「待ってよ、もう少しだけ」

げんなりした様子でこの場から逃げ出そうとする夫を、腕を引っ張って止める妻。そんな光景が繰り広げられていると、不意に部屋の扉が開いた。

「ママ。あのさ――――」

部屋へ入ってきたトランクスは、両親の格好を目撃するなり挙動を停止する。一瞬、見てはいけないものを見てしまったかのような疑念に囚われ、対応に迷った。見なかったふりをして踵を返すべきか、なんでもない態度をとるべきか。考えたものの、変な誤解をしてもいけないため、トランクスは率直に訊いてみることにした。

「…な、なにやってるの?」

間違っても父親がこういう真似をするはずはないので、母親の気まぐれというか、思いつきなのだろう。息子としては、それくらいのことは想像がつく。

「ナメック星ごっこ?」

ブルマはあっけらかんとした表情で答えた。

「ふざけやがって。オレはもう御免だ」

引き止める腕を払い、ベジータはプロテクターに手をかける。

「あ、まだ脱がないで。もう少し遊びたいのに」

「おまえ一人でやってろ。いい年をして恥ずかしくないのか」

揉める両親を、息子は呆れたように眺めていた。戦闘力や食事量では規格外である父だが、こういうときは常識人に見えるから不思議だ。

もしも母が普通の感覚を持っている人間だったら、自分はここに存在してないだろう。限りなく広い宇宙の中で二人が出会って結ばれたのは、必然だったと思う。

「ナメック星って、パパとママが初めて会ったっていう?」

トランクスの問いに、両親は口論を止めた。

「そうよ。そのときベジータがあたしに一目ぼれしてね」

「ガキに嘘八百吹き込むな!」

まったくのでたらめを語る妻にかみつく夫。

「同じようなものじゃない」

「どこがだ!」

「トランクス。あんた、なにか用があったんじゃないの?」

口を挟めず黙り込んでいた息子に、ブルマは訊ねる。

「あ、ええと」

実は学校の宿題で両親のことを作文に書かなければいけないのだが、とても言い出せる雰囲気ではない。口論しているときは、火の粉が降ってこないよう退避するに限る。どんなに激しいケンカを繰り広げても、最終的には仲直りするのだから。

「その、悟天のところへ遊びに行ってもいい?」

宿題は後回しだ。とりあえずの思いつきを口にして、ここから離れる言い訳にした。

「いいけど。夕飯までには帰ってくるのよ」

「うん。わかってるよ」

後退しながら返事をすると、トランクスは自宅を飛び出す。息子が去ったあとも懲りずに口論を続けていた二人だが、結局はいつもと同じ顛末へ至るのだった。

しかし、話はそこで終わらない。トランクスがもらした話から、二人はコスプレ楽しんでいると、仲間たちに噂されることになる。それに対しベジータが猛然と怒ったのは、しばらく先の話。

 

ベジータのおつかい

 

「やだ、お醤油切れちゃってるじゃない」

夕食の支度が進むキッチンで、ブルマが困惑の声を上げた。手元には空の醤油瓶、食卓の醤油入れも同様に中身がない状態だ。鍋の中には、具材がすべて投入され、あとは味つけを待つだけの煮物が踊っている。

「どうしよう、困ったわね」

いつもならストックが収納棚に入っているが、それも切らしていた。前回補充したとき、買い物リストに追加するのを忘れていたのだろう。

「なにをやっている。メシはまだか?」

さっきから一向に進まない調理の様子に、ベジータが口を出す。

「まだに決まってるでしょ。おとなしく待っていられないの? それに、お醤油が切れちゃって、料理が作れないのよ」

空腹を訴えるだけで、食事を作ることには貢献しない夫に対し、ブルマはため息をついて状況を説明した。

「だったら、醤油を買ってくればいいだろう」

「あたしは忙しくて手が離せないの。これから肉を焼いて、サラダを作って…。――――ねえ、トランクスは? どこにいるの?」

食欲が地球人の十倍以上のサイヤ人、そしてその血を半分引いた息子。二人の食事量は半端ではないだけに、毎食準備が一苦労だ。いつもはブルマの母親がほとんどを担当するが、今日は父親と出かけて不在。お手伝いロボットもメンテナンス中で使えない。そのため、今夜の食事はブルマが自力で作るしかなかった。

「トランクスなら、まだ帰ってきてないぞ」

退屈を持て余したトランクスは、悟天の家へ遊びに行っている。

「あの子ったら…。暗くなるまでには帰ってきなさいって言ったのに」

飛べば二十分もかからないため、時間への配慮はなきに等しい。ブルマはあてが外れてがっくり肩を落とした。

「トランクスがいたら、スーパーへおつかいに行ってもらおうと思ったんだけど。仕方ないわね。夕食が遅くなるけど、あたしが買いに行くわ」

調理の火を止め、ブルマはエプロンの紐に手を伸ばす。

「待て。メシが遅くなるくらいなら、オレが買ってきてやる」

「へっ?」

予想外の提案に、ブルマは目を丸くした。

「醤油を買ってくればいいんだろう?」

「そうだけど…。あんた、おつかいなんてできるの?」

時折、スーパーやデパートの買い物に付き合うこともあるベジータだが、いつもブルマやトランクスと一緒だ。一人で街中を出歩くことはない。

「いつも食糧を買っている店で、醤油を買ってくるだけだろうが」

「そりゃあ、あんたが行ってくれたら、その間に夕食の支度が進むけど。本当に大丈夫? 他の人に迷惑かけたりしない?」

地球の生活に馴染んだとはいえ、単身で一般人の渦中へ行かせるのは、どうも不安が拭えない。猛獣を首輪なしで檻から出すようなものだ。

「バカにするな。ガキにできることが、オレにできないわけあるか」

あまりに自信満々な態度に、それ以上拒むことはできず。

「じゃあ、頼むわ。はい、お財布」

財布を受け取ると、ベジータは早速ダイニングルームを出て行く。どうせなら、惣菜の一品でも買ってきてくれれば夕食の足しになると思ったブルマは、欲しいものがあったらついでに買っていいわよ、と夫の背中に呼びかけた。

「それにしても、心配だわ。一般人に被害が出なきゃいいけど」

ベジータにとっては普通の挙動でも、地球人からすればそうじゃない。万事が桁違い、驚愕の対象となるだけに不安は尽きない。しかし、ベジータはもう行ってしまったのだ。ここで思い悩んでいても仕方ない。とにかくテレビで報道されるような事件を起こさず、無事に帰ってきてくれることだけを願った。

 

「ただいま。ママ、お腹空いた」

超特急で悟天の家から戻ったトランクスが、開口一番空腹を訴える。

「今チキンが焼けたところよ。もう少しでできるから、手を洗って待ってなさい」

「わかった」

素直に頷いたトランクスだが、ふと違和感を覚えた。いつもとなにかが違う気がする。ダイニングルームを見渡してその正体に気づいた。普段なら、食卓かソファで夕食を待っている父親の姿が見えない。

「パパは?」

「醤油が切れちゃって、おつかいに行ってもらったんだけど…遅いわね」

夫が買い物に行ってくれたおかげで、煮物以外は順調に調理が進んだが、スーパーまでの往復時間を考えても帰りが遅い気がする。ブルマに一抹の不安が忍び寄った。

「パパがおつかいに? 一人で行かせて大丈夫なの?」

「わからないけど、本人が行くって言い張ったから…」

「不安だな」

息子の呟きを聞いて、ますます懸念が深まる。

「ねえ、トランクス。ちょっとそこまで行って見てきてくれない? なにか面倒を起こしてなければいいんだけど」

「うん。――――あ、待って。帰ってきたよ、パパ」

すぐさま行動に移そうとしたとき、トランクスは父親の気配を感じた。家の敷地内まで戻った気は、やがて上階までやってくる。サラダや食器をテーブルに並べていると、ベジータがダイニングルームへ姿を見せた。

「パパ、おかえり」

「ベジータ、遅かったわ…ね?」

任務を果たして帰宅したベジータに、妻子は笑顔で声をかける。だが持ち帰ったものを目にした瞬間、挙動が止まった。片手には醤油瓶が入ったスーパーの袋、これはいい。しかし反対側には、巨大な肉の塊がむき出しのまま肩に担がれていた。

「な…なに、それ?」

「パパ、その肉どうしたの?」

唖然と訊ねると、ベジータは醤油瓶をキッチンへ、肉を床に置く。

「醤油は買ってきたぞ」

「あ、ありがと。でも、そっちは…?」

「おまえが『ついでに欲しいものがあったら買っていい』と言ったんだろう」

さも当然といった顔で答えるベジータは、二人の反応に怪訝顔。

「たしかに言ったけど、まさかそんなものを買ってくるとは思わないわよ。夕食のメインは準備中なんだし。普通はおつまみとか惣菜とか、それくらいじゃないの?」

自分の発言は一般的だと思うブルマだが、受け取った側は普通の地球人ではないのだ。まったく違う感覚の持ち主に、そういうニュアンスなど通じるはずがない。

「普段食べてる肉は小さいからな。これくらいじゃないと食い出がない。店員にこの店で一番大きな肉を出せと言ったら、奥から加工前の肉を出してきた」

ブルマとトランクスの脳裏に、その光景がまじまじと思い浮かんだ。おそらく店員は、ベジータの態度と雰囲気に異様さを感じ、言われるままに従ったのだろう。巨大な肉塊と比べると、食卓に乗ったチキンは小石のように見える。

「だからって…どうするのよ、そんな肉」

「生よりは、焼いて食ったほうがうまいだろう」

「どうやって焼くのよ? そんな大きな肉、オーブンじゃ焼けないわ」

現実的な調理の問題を指摘するも、「外で焼けばいい」と言い切った。サバイバル環境で暮らしてきたサイヤ人の感覚は、ブルマには理解しがたい。

「おい、トランクス。おまえも手伝え。庭でこの肉を焼いて食うぞ」

「う、うん」

その日のカプセルコーポレーションには、香ばしい匂いが漂っていた。そしてその後、ブルマがベジータにおつかいを頼むことは一切なかったという。

 


 
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