No.803409

「WATER GATE」

蓮城美月さん

ウォーターセブン編の麦わらの一味。ゾロ×ロビン要素あり。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 048P / \100
http://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ159357.html

2015-09-21 08:19:54 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6420   閲覧ユーザー数:6417

◆CONTENT◆

 

六人目

約束

理由

ヒーロー

動機

想いを継ぐ船

策謀の真意

恢復する心

 

理由

 

エニエスロビーでの戦いを終え、麦わらの一味はウォーターセブンに帰還した。だれもが疲れ果て、容赦ない睡魔に襲われる夜。眠れずにいたロビンが、外の空気を吸いに部屋を出る。その気配を感じて、ゾロもあとを追った。

「おい」

「……剣士さん」

いきなり声をかけられて、ロビンは驚く。

「どうしたの?」

「それはこっちの台詞だ」

「あなた、まだ動いていい身体じゃないでしょう」

「こんなのはたいした怪我じゃねェ」

「だけど…」

「どっかのバカ女がフラフラと出歩いていくから、見張ってるんだよ」

「船も海列車もないのに、どこへも逃げやしないわ」

「わからないだろ、お前は」

「信用ないのね」

「当たり前だ」

ロビンは空を見上げ、大きな息を吐いた。

「――――眠れなくて」

「……………」

「わたしはたしかにここにいる。みんなと一緒にいる。夢じゃない。それが本当のことなのに、まだ実感がなくて…」

「これは夢でも空想でもない、現実だ。心配するな」

「そう思って安心したら急に気が抜けて、怖かったと改めて実感したのよ」

「…あんな選択をするからだ」

「わたし自身のことじゃなくて…。あなたたちが、あなたが死ぬかもしれなかった。それがとても……怖かった」

ゾロは視線をそらして考え込む。

「剣士さん」

「なんだ」

「あなたは、どうして来てくれたの…?」

頼りない口振りでロビンは訊いた。

「船長命令?」

「いや、おれの意志だ」

ゾロはきっぱりと言い切る。

「男が女にかばわれて、それほど格好悪いものはねェ」

「じゃあ、男のプライドのために?」

「それも多少はある。だが一番の理由は…」

ロビンが食い入るように見つめた。

「お前を、死なせたくなかったからだ」

真剣な眼差しに息を呑むロビン。歓喜と同時に、切なさや苦しさもこみ上げてくる。

「…ありがとう、剣士さん」

「もう二度と、くだらないこと考えるんじゃねェぞ」

ゾロの照れ隠しに、ロビンは小さく微笑んだ。

「本当はこんなこと思ったらいけないけど…」

「あ?」

「あなたが来てくれて……嬉しかった」

やわらかい笑顔に動悸を覚え、ゾロはとっさに視線を背ける。

「すごく怖かったのに、半分は喜んでいるなんて…悪い女ね」

「…死なねェよ、おれは」

自信満々で断言され、少し淋しそうな表情が掠めた。

「そうね。わたしのためなんかには死ねないもの」

「そういうことじゃねェ」

「え…?」

怪訝そうなロビンに、ゾロは力強く告げた。

「――――生きるんだろ」

 

策謀の真意

 

エニエスロビーでの激戦の末、CP9を打ち破った麦わらの一味。後方を支えたフランキー一家やパウリーらと連れ立ってウォーターセブンへ帰還する。満身創痍のルフィたちはアイスバーグに匿われ、用意された部屋で身体を休めていた。

このウォーターセブンに到着して以来、初めて味わう穏やかな時間。全員身体はボロボロだったが、心は安堵感に満ちている。なにも分からず巻き込まれた市長暗殺未遂騒動、そして一味存亡の危機。その未曾有の困難を、彼らは前に進むことで乗り越えた。奪われた大切なものを敵の手から取り戻し、それは今ここにある。

ロビンを奪い返せた。そのことが、彼らに新たな力と絆を与えていた。身体は包帯で覆われているけれど、怪我の痛みは感じない。あのときの心の痛みを思えば、こんな怪我なんて痛くない。ロビンはここにいる、たしかに自分たちのそばにいる。それだけで満足だった。

平穏な休息、それは三日も続ければ充分だ。一行はこれまでの経験により、肉体の回復力が上がっている。怪我さえ治ってしまえば、彼らがおとなしくしていられるはずがない。

最初に動き出したのはゾロだった。一日目からじっとしていなかった。不意にどこかへ消えて、トレーニングをしてきては昼寝の繰り返し。その都度チョッパーに怒られるのだが、ゾロはまるで聞き入れない。今日もいつの間にか部屋を抜け出していた。

サンジとウソップ、ナミの三人は連れ立って街へ。チョッパーはいまだに目を覚まさない仲間の看病に徹し、それを手伝うため、ロビンは部屋に留まっている。

「まだ目を覚まさないのか?」

昼下がり、トレーニングから戻ったゾロが開口一番訊いた。真ん中のベッドには、一味の船長が眠っている。

「うん。まだ目を覚ます気配がないんだ」

傍らのチョッパーが、薬を調合をする手を止めた。反対側で椅子に座るロビンも、開いていた本を閉じる。三人の視線はベッド上のルフィに向けられた。

「…たしか、アラバスタのときも三日間寝込んでたろ?」

かつての激戦後を思い返すゾロ。

「でも、あのときの状況とは違う。もっと深い眠りに就いているんだ。よほど身体に大きな負担を――――異常なほど酷使したんだと思う。現在のルフィの身体能力では許容しきれない負荷を与えてしまったから、その反動も大きく、肉体の回復に時間がかかってしまうんだ…。細胞レベルで肉体を最大限に活性化し、構造を作り変えた。そんなやり方で身体を強化するなんて、ルフィは無茶のしすぎだよ」

チョッパーが医師としての見解を述べると、ロビンの表情は曇った。ルフィにそこまで無理をさせてしまったのは、自分を助けるためだ。もちろんチョッパーに悪気はないのだが、ロビンは反射的に胸を痛めてしまう。

「それだけ、あの敵が強かったってことだろ。おれたちは負けるわけにはいかない、絶対に勝たなきゃな。こいつはてめェのことより、とにかく勝つことを選んだ。今回の戦いで負けちまったら、身体の心配なんてしていられなくなる。おれたち全員の生命そのものが危うくなるんだ。すべての夢も潰える。そうなれば、おれたちがここまで来た意味がなくなっちまうだろ。だからルフィは、おれたちや…おれたちの夢を守るために戦った。それを守るためなら、てめェの身体がイカれようが、かまわねェんだよ。こいつは、それだけの覚悟で勝ったんだ。本人が納得ずくでやったことなんだから、他人がどうこう思う問題じゃねェ」

きっぱりと告げ、この場に漂う重い空気を断ち切った。

「とにかく、ルフィなら大丈夫だ。そのうちケロッとした顔で起きてくる。お前らが考えるよりずっとタフにできてるんだから、余計な心配するな。そんな景気の悪い顔してたら、部屋の空気まで湿ってくるだろ。身体が回復すればちゃんと目を覚ますんだ。気楽に待ってろ。どうせ起きた途端に、『あー、腹減った!』って言うに決まってんだから、真面目に心配していたらバカを見るぞ。おれたちは、おれたちにできることをすればいい。チョッパー、お前はルフィを看病してるだろ。それで充分だ。他におれたちにできることといえば、こいつが目を覚ましたときに食べさせるメシを用意しておくことくらいさ」

「それなら、シフト駅の駅長さんが用意してくれると言っていたわ」

ゾロの話を受けて、ロビンが言葉を挟む。ロケットマンを運転し、全員をウォーターセブンまで連れ帰ってくれたココロ。戻ってからも身の回りの世話を焼いてくれていた。

「じゃあ、おれもルフィが早く目を覚ますよう、もっと頑張るぞ」

医者としての力量に不安を感じていたチョッパーが、元気を取り戻す。

「あ、そうだ。おれ、水を替えてくるよ」

洗面器を抱えて部屋を出て行くと、残されたのはゾロとロビンの二人だけ。

「相変わらず、船医さんには優しいのね」

チョッパーをやんわりと諭した様子に、ロビンは言う。

「それとも、甘いと言ったほうが正解かしら」

反論するつもりもないゾロは、仏頂面で視線を背けた。

ベッドに眠り続けるルフィを挟んで、向こう側にあるお互いの存在。ゾロは身の置き場に迷う。自分がこの場に留まる必要などない。部屋は広いのだから。しかし、今ここから離れることはためらわれた。それはまるで、ロビンから逃げることのような気がして。

仕方なく、ゾロはチョッパーが座っていた椅子に腰を下ろす。ロビンを視界に入れないよう他方を向いていたが、その姿勢も長続きはしない。思惟をほのめかす眼差しが注がれ、無視していられなくなったのだ。

「なんだ」

故意に不機嫌を装ってロビンを見る。

「あなたに、訊きたいことがあったのよ」

すぐさま本題を提示され、ゾロは意外に感じた。この女のことだから、「何のこと?」と問答を繰り返すかと思っていたのに。そう察したところで気づいた。チョッパーが戻ってくるまでに、話を終わらせる必要があるからだと。

「エニエスロビーを出るとき、なにを見たの?」

状況を悟ったところで、ロビンの澄んだ声が耳に届く。一瞬、驚きが顔に出そうになったのを必死でごまかした。

「何のことだよ?」

言葉に詰まりかけたが、平常心を装ってシラを切る。エニエスロビーから怒涛と混乱の脱出。あのときに見たもの。電池が切れたように倒れこんだルフィ、海を疾走するロケットマン。列車の最後尾で殿に立っていたゾロは、それを見た。

水平線の彼方に、あるはずもない人影。目を細めて凝視すると、そのシルエットは戦慄の記憶と重なる。戦う力など微塵も残っていないにも関わらず、身体は戦闘態勢をとっていた。ここで攻撃を仕掛けられたら終わりだ、背中に冷たい汗が流れる。気負っていたゾロを傍目に、相手は身動きひとつしなかった。ただ静かに、去っていく自分たちを見送ったのだ。

「殺気立った表情、してたもの」

「んなの、覚えてねェ」

脳裏の残像を打ち消しながら、ロビンの追及をかわそうとする。だが、まっすぐに向けられた眼差しが、安易な虚言を許さない。

「わたしの目でははっきり姿を捉えられなかったけれど…あれは――――」

ロビンにはゾロほどの視力はない。けれど、彼方を見つめるゾロの顔があまりにも緊迫していたので、その視線の先を追ってみたのだ。海面上になにかいる、見えたというよりも気配がした。それはロビンにとって、恐怖を感じる感覚。

「青キジ…だったのでしょう?」

提示された答えに黙り込むゾロ。その反応、沈黙がイコール肯定だということをロビンは知っていた。

「他には?」

「えっ?」

難しい表情のまま唐突な質問。単刀直入すぎて、すぐに問いを呑み込めない。

「他にだれか気づいた奴はいるか?」

言葉を付け加えると、ゾロの質したいことも理解できた。

「いいえ、他のだれも知らないわ。みんな倒れた船長さんにかかりきりで。コックさんは先頭で進路を見ていたし。…今になって思えば、船長さんが眠っていてくれてよかったわ。船長さんが青キジに気づいていたら、間違いなく戦っていただろうから」

当時のことを思い返しながら、ロビンは安堵の息をもらす。青キジは、ルフィがかつて真剣勝負で敗れた相手だ。敵に負けっぱなしでいるのを、ルフィがよしとするはずがない。相手の存在を知れば、自らの身体がどんなに傷だらけでも戦っただろう。

「そうでもないだろ。ルフィは戦う気がない相手とは戦わない、そういう奴だ」

ロビンの予測を、ゾロはあっさり否定した。自分とは違う次元でルフィのことを分かっている。そしてルフィも同じだ。二人の深い信頼関係を羨ましく感じながら、眠る船長の顔を眺めた。

「とにかく、他にだれも気づいてないならそれでいい」

思案に捉われていたロビンを置き去りに、ゾロは話をまとめようとする。

「それでいいって…どういうこと?」

「おれはなにも見なかったことにする。だからお前も忘れろ」

反論を認めない言い分に、ロビンは耳を疑った。

「忘れろって、どうして?」

「知ったとしても、面白くねェだけだ」

苦い顔で短く答えるだけのゾロに、疑問は尽きない。

「でも……」

「お前、なぜヤツがおれたちを見逃したと思う?」

青キジの行動は、海軍本部大将の立場ではありえないことだ。そもそも、今回の件には裏から関わっている。それなのにどうして、脱出する自分たちを見逃したのか。CP9との戦闘で力を使い切っていたあのとき、だれも戦うだけの力は残っていない。自分たちを逮捕し、身柄を拘束するには絶好の機会だったはず。そうしなかったのはどうしてなのか、疑点を持っていた。

「わからないわ」

ロビンは正直なところを告げる。青キジの行動は論理的に矛盾している。麦わらの一味の壊滅が目的でなければ、何のためだというのだろう。

「………利用されたんだよ、おれたちは」

苦々しく語るゾロを、驚きを込めて見つめた。

「CP9がバスターコールの権限を、一度だけ与えられたって言ってたな。つまり、最初から仕組まれてたんだよ。ヤツの手の平で踊らされていたに過ぎない。おれたちも、CP9も」

「……なにを言っているの、剣士さん」

まだすべてを理解しかねるロビンが、不確かな声色で訊く。

「バスターコールを餌にお前の身柄を拘束したCP9、それを追ってエニエスロビーに攻め入ったおれたち。結果、なにがどうなった?」

「エニエスロビーは甚大な被害を受けて、CP9は壊滅――――」

答えた瞬間、気づいた。それこそが青キジの目的だったのだと。

「だから、面白くねェって言っただろうが。海賊が海軍に利用されて、嬉しいはずねェだろ」

「けれど、なぜ青キジはCP9を…? 同じ世界政府直下の組織なのに」

「おれが知るか。ただ、ヤツはどんな怠惰な姿勢でも海軍だ。正義の名のもとに悪を打ち倒す使命を帯びている。任務のためなら殺しも許可されているような組織とは、正義という名目で殺しを正当化する連中とは、どう考えても相容れない。むしろそいつらが正義を名乗ること自体、許せなかったのかもしれねェな」

「……………」

「同じ政府直下側であるヤツが直接関与するわけにはいかねェが、政府の敵である海賊に壊滅させられたのなら。その役割に、おれたちは適役だったってことだ。汚い真似だと思われようが、ヤツにはそうするしかなかった。あれだけの人殺し集団を倒せるのは、あのときおれたちしかいなかった。おれたちが負けていた場合は、ひとつの海賊団を潰せたってだけの話さ。どちらに転んでも、ヤツにとっては痛くもかゆくもねェ。脱出するおれたちを見逃したのは、目的を遂げさせてくれた見返りだ」

ゾロは淡々と推測を述べる。その表情から、腹立たしさのようなものは感じない。青キジがなぜCP9にバスターコールの権限を与えたのか疑問だったが、それが理由だったのだ。ロビンは複雑な想いで納得した。

「それを彼らには?」

「言う必要ねェだろ。知っても意味がないことだ」

「もしも船長さんがこのことを知ったら、どう思うのかしら?」

今回の戦いにおいて、肉体を限界以上に酷使したルフィを見つめ呟く。

「こいつは気にしやしねェよ。そんなのどうだっていいことだ。ルフィにとって重要だったのは、奪われた大事なモンを取り返すことだけ。それが叶ったら、他のしがらみなんて興味ねェよ」

「大事なもの…?」

ゾロの台詞を聞いて、ロビンは怪訝そうに首を傾げた。間の抜けた反応に呆れそうになるが、この女は知らないのだと思い直す。自分の存在が、他の仲間たちにとってどれだけ大切かを。

「アホか、てめェ」

ぶっきらぼうな口調に、ロビンはまっすぐゾロを見た。

「――――お前以外になにがある」

一瞬大きく目を瞬かせたあと、こみ上げてくるのは嬉しさ。口に出してしまってから、ゾロは慌ててそっぽを向く。

「あなたにも同じように思ってもらえたら、わたしはもっと嬉しいわ」

ロビンは小さく微笑みながら、ゾロの背中に告げた。

 


 
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