〜ナレーションside〜
『――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「うぉわァァァァ!?」
光牙、目覚めの言葉。
眠っていたら夢の中に可能性な獣訳の少年の絶叫が響くもんだから飛び起きる。保健室にいた全員がギョッとなって光牙へ視線を向ける中で、光牙は怪我の痛みに悶えていた。
「うおおぉぉぉぉ……」
「ちょ、大丈夫?」
包帯が巻かれた右腕を押さえ涙目の光牙。デスクで書類整理をしていた保険医の『二葉サキ』が駆け寄り、容体を確認しにくる。
――ジャジャジャッジャッジャ、ジャッジャッジャッ♪ ジャジャジャッジャッジャ、ジャッジャッジャン!
「え、何?」
ヒュインッ!!
「光牙ァッ!」
「おわぁ!? え、千冬!?」
「あ、メール着てた」
「いや着メロ今の!?」
何やら不吉な音楽その2が流れたかと思えば、光牙の名を呼びながらサキの背後に出現する千冬。
やたらゴッツイ黒の塊に乗って。様はブラックサレナ高機動型である。
彼女のブラコンパワーとブラックサレナでボソンジャンプしてきたのだ。恐るべし。
……まあ音楽は光牙のガラケーの着メロでサキがツッコミを入れたが。
「おお、目覚めたか光牙!!」
シュタッとブラックサレナより飛び降りる千冬。
そんでいきなり……。
ギュムゥゥゥゥ!!
「げみゅ!?」
「無事で良かったぞ、光牙〜!」
無事を確認し感激のあまり思いっきり抱き寄せる!
顔面を胸に押し付けられる感じになっており、なんともうらや……けしからん。というかヤバい状況だ。
「い、いひぃが……」
「光牙~♪」
何せ全力でホールドされているから圧迫され息すら出来ない。
当の本人は光牙の頭へ顔を沈めて幸せに酔ってしまっており、アテになる筈もなく。
「ちょ千冬! 止めなさいって!」
慌ててサキがストップに入るも一歩遅く。
グキッ……。
「……ん?」
「お、折れたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 腕が、腕がぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!」
「光牙ァァァァァァァァッ!!??」
「い、いででででで!!」
「す、すまん光牙! 許してくれ!」
「全く……何やってん、のっ!」
ゴキッ!
「うごぉぉぉぉぉ!?」
千冬のブラコンホールドで、よりにもよって右肩が外れてしまった光牙。
ただでさえ戦闘で怪我してた右腕の負傷は悪化してしまって、全治三週間となってしまった。その他打撲に軽い火傷、しばらく日常生活は地獄だ。
サキに肩を入れてもらい激痛で叫ぶ光牙。これは本当に痛い。
彼に向かい泣きながら土下座する千冬。……だがエ端にブラックサレナが転がっていることから全く説得力がない。申し訳ないが。
「全く、滝沢君は怪我人なんだよ! 心配だからって少しは自重しな!」
「す、すまない……」
「謝るなら滝沢君にです!!」
「は、はぃぃ……。こ、光牙、申し訳ない……」
「い、いや。良いですけど……」
サキは千冬の親友で、千冬を止められる数少ない人物。
サキの剣幕にビビる千冬の姿に光牙はちょっと複雑な気持ちだ。
「そういえば二葉先生。鈴さんは?」
「二組の凰さんね。彼女は火傷や打撲が少し酷いから、今は専用の医療設備で治療を受けてるわ」
「そう、ですか……」
それを聞き、表情を曇らせる光牙。
「命に別状はないから大丈夫よ」とサキが付け足してくれたが、気持ちは晴れない。
間違いなく、メカザウルスとの戦闘によっての負傷。自分がいながら情けない。
「くそっ。僕がもっとしっかりしてれば……」
もっとベーオを上手く、竜馬達の様に扱えていれば。ゲッターの本来の力が使えれば。こうはならなかったかもしれない。
自分の力のなさを悔やむ。
「よせ光牙、自分を責めるのは」
「そうよ。教師がこういうのもあれだけど、滝沢君が戦ったから被害は少なかったのよ」
千冬とサキがフォローを入れる。
それを聞き、ほんの少し光牙は気持ちが楽になった……気がしたが、悔しさややりきれない感じが残っていた。
「あの、すみません。横になっていいですか」
「あ、うん。分かったわ」
「ではな、光牙」
そう言うと千冬とサキが離れ、カーテンがシャッと閉じられる。
悔しい気持ちがあったが、今は一人になりたいと思い光牙はベッドへ横になった。
〜北極〜
ブリザードが吹き荒れ、氷に覆われた大陸。
極寒の地であるその地下にて、そいつらは蠢いていた。
体を覆っているのは緑の鱗。四肢には鋭い爪。細長い頭部に黄色の瞳。その身には特殊合金の鎧を着こんでいる。
恐竜帝国の兵士達だ。
通路をせわしなく行き交い、作業を進めるているその奥の奥。
急遽建造されたこの地下基地の最深部、そこにいる三体のハチュウ人類。
「報告します。メカザウルス・ファガが破壊されました。件のゲッターによるものです」
一体はコウモリを模した体や顔で、緑の髭があり、背中には折り畳まれたコウモリの翼。腰には剣を携えた『バット将軍』。主に戦闘部門を担当する。
「やはりゲッターは侮れませんな。プロトタイプとはいえ、メカザウルスを倒すとは」
一体は低身でバットより大きな茶色の髭を蓄えた参謀『ガリレイ長官』。バットとは正反対に、参謀・開発の担当だ。
二体の報告を聞き、真ん中にいる“ソレ”はアァ……と呻く。
「おのれ、ゲッター……め」
カプセル内にいる存在。体の下から半分や右腕がなく、残った部分も機械化して補ってある。
しかしソレにバットはカプセル内の存在に膝をつき、ガリレイも丁寧な口調で話していた。
何を隠そうこの者こそ『帝王ゴール』。恐竜帝国の皇帝なのだ。
何故、恐竜帝国がこの世界の北極にいるのか。
この恐竜帝国は“このIS世界”の恐竜帝国ではない。
遡ること、今から十年以上も前。
違う次元の世界にてゴール率いる恐竜帝国は、その世界の初代ゲッターロボとゲッターチームの一人『巴武蔵』の自爆で壊滅的打撃を受けた。なんとか生き残った恐竜帝国は五年後に侵略を再開。プラズマエネルギー駆動のネオゲッターロボを撃破し、最強のゲッター・真ゲッターロボも決戦の中で追い詰める。
だがしかし、ゲッターの力を覚醒させた真ゲッターに逆襲され、最後は最大出力のゲッタービームでバット、ガリレイ、そして母艦としていたオーパーツのUFOもろとも吹き飛ばされた……筈だった。
気づいた時、ゴール達はUFOごとこの世界の北極に転移していたのだ。
原因は分からない。恐らく最後のゲッタービームが関係していると思われる。
しかし、そんな無茶苦茶で無傷な訳がない。転移直後、ゴールは半身を吹き飛ばされ虫の息。バットとガリレイも深手を負っていて、僅かに生き残った兵士は片手で数えられる程だった。
それでも力を合わせ、“協力者”の力もあって、彼らは傷を癒しながら、UFOを基地へ改造。年月の中で世界中の優秀な人材を誘拐し兵士や研究員へ改造し、裏工作や取引を行って戦力を増強。バット、ガリレイの傷も癒えて今では本来の戦力たる恐竜サイボーグ・メカザウルスも開発可能になっていた。
ゴールは傷が深すぎるので未だ治癒カプセルから出られないのだが。
「ガリレイ……次の、メカザウルスは?」
「はっ。既に六割方完成しております。武装の方に少し手間取っていますが、二月もあれば十分かと」
「……では、ヤツは?」
「実験段階は抜けましたが、以前調整中です。実戦投入はまだ難しいかと……申し訳ありません」
「よい……ご苦労」
ガリレイの報告を聞くゴール。ポコポコ、とカプセルの中で泡が弾ける。
「ゴール様。いざとなればこのバット、命令さえ下さればいつでも出陣する所存でございます」
「ほう……真か?」
「何を言うかバット。メ力メカザウルス開発が始まったとはいえ、まだ油断は出来んぞ! まだ“奴等”の力を借りとるこの状況で、早計だと思わんのか?」
「そうは言うがガリレイよ。恐れ多きゲッターはただ一機のみ。それさえ叩き潰せば、我らの障害等何一つなくなるのだ。輝かしい恐竜帝国の復活に大きく近づける」
武人肌のバット、研究員派のガリレイ。彼らの意見は正反対。ここで畳みかけるか、それとも様子を見るか。
正論を言い合う部下へ、ゴールは静かに告げた。
「そこまでにしておけ……」
「ゴール様……。失礼、出過ぎた真似を」
「ご無礼をお許し下さい」
「よい。意見は理解した。だが、ここで焦っては元も子もなかろう。今はまだ耐えるのだ。だが戦力の増強は急がせよ。ゲッターロボが障害であることに変わりない」
「はっ。仰せのままに」
「ガリレイ。『XH』にも同様のことを伝えよ」
「ははっ。承りました」
両名の意見を取り入れた言葉で納得させるゴール。彼の命を受け、バット、ガリレイは下がっていった。
(この世界にもゲッターとは。全く、つくづく我が前に立ち塞がるのだな……)
~IS学園・保健室~
「失礼します」
「はいはい」
「あの……一年の滝沢君、いますか?」
「いるわよ。滝沢君、お客さん」
「はい?」
サキに呼ばれ、ベッドから出てカーテンを開ける光牙。
面識のない、眼鏡をかけた赤髪の女子がそこにいた。
ぶっちゃけると彼女は響子だ。普段は眼鏡をかけている。
「どなた、ですか?」
「私、三年の熱騎響子って言います。君の試合のナレーションをしてたの、私なの」
「貴女がですか!?」
そう言われ、光牙は少し大袈裟に驚いてしまった。
試合中のナレーションや紹介のイメージから、もっと普段から熱血な感じだと思っていたからだ。
「ふ、普段はこんな感じなんだ。ただ、実況とかになると熱くなっちゃって……」
「もしやその時、眼鏡はかけてない?」
「うん」
つまり眼鏡取ると性格チェンジ。ゲッター世界というカオスにいた光牙も、ワオ、と驚愕。
世界は広いのだなぁと思えてくる。
しかし、その彼女が自分に何用なのか?
「えっと……ごめんなさい!」
「へ?」
いきなり頭を下げられて謝罪。何故?と光牙は目をパチクリさせる。
「な、なんで謝るんですか」
「それは……私のせいで、君達が怪我しちゃったから」
響子曰く。あの化け物(メカザウルス)が襲来時に思わず解説してしまい、その後も多々あって避難できなかった。
それにより、放送室の自分達が狙われ、光牙が怪我をしてしまった。
実際に響子はそれで処分を受け、責任を感じ本人である光牙に謝りにきた、とのこと。
「いやそんな。そりゃ、確かに最初は何やってるんだと思いましたけど、状況が状況でしたし」
「でも、滝沢君は私を庇って怪我を……凰さんだって」
「僕が好きでやったことです。熱騎先輩に落ち度はありません。鈴さんだって、きっと同じな筈です。だから、気にしないで」
「滝沢君……」
自分の意思だったのだから、響子に非は殆どない。笑いかけ、そう言ってみせる光牙。
それには響子も笑顔になる。
「……ありがとう。本当に」
「こちらこそ。怪我がなくて良かったです」
互いに笑い合う二人。微笑ましい光景だ。
「あ、これお見舞いの品なんだけど」
「おぉー、ありがとうございます」
響子が掲げたのはフルーツの詰め合わせ。
受け取った光牙は実物を見てちょっと感動してたりする。
「本物初めて見ましたよ」
「剥いてあげるね。リンゴで良いかな?」
「あ、はい」
ベッドに戻る光牙、その脇のイスに座り、響子が果物ナイフでリンゴを剥いていく。
それにサキは思わずニヤッと。
「青春ねぇ。お二人さん。まるでカップルみたい」
「へっ? えぇ!」
「何故にそうなりますか……」
「えぇ、お似合いだと思うけどなぁ」
なはは、とと笑いからかいをいれるサキに、頬を赤くする響子とため息をつく光牙。
「……と言うかそんな事言ったら」
プシュッ……バァァァァン!!
「光牙! リンゴを持ってきたぞ!」
「あ、やっぱり」
「織斑先生!?」「え、千冬?」
はい来ました。UOセンサーで感知したこの人(千冬)。盛大な登場音と切ったリンゴを皿で持ってくると言う用意っぷりで。
「む、熱騎。フルーツを持ってきたのか」
「残念ね千冬。リンゴなら間に合ってるわよ」
「何を言う。光牙、私のは青リンゴだ!」
「何を張り合ってんだ……?」
確かに響子のは普通の赤いリンゴであるが。
で、そのリンゴだが……。
「こ れ は ひ ど い」
皿を見た途端リアル顔になる光牙。
だってそうだろう。デッコボコのザックザクのガッタガタに切られた、青くて白くて赤いリンゴを見れば。
「な、なんですかコレ……」
「リンゴだ。見れば分かるだろう」
「いやおかしいでしょ! どう切ればこんなモヤとボールみたいな形になるの!? と言うか青リンゴなのに赤い部分があるのはなんで!?」
「フッ、戦いの名残だ」
様は指をざっくりやっちゃった訳である。
現に千冬の指には絆創膏……いや包帯が巻かれていた。
「……先生」
「ん?」
光牙はサキ、響子と口を揃え、千冬へ言葉を贈る。
「「「……無理しないで」」」
「失礼な!」
※結局リンゴは皆で食べました。
〜IS学園・特別区画〜
IS学園、地下五十メートル。教員でも限られた者しか立ち入れない秘匿エリア。
ファガの残骸はそこに運び込まれ、解析にかけられていた。
ただサイボーグであるので、なんというか、非常にグロい部分もあり、改修する際に回収班(主に女性)が大いに抵抗していたりするが。
「どうだ、真耶?」
「早ッ! 本当に10分で戻ってきましたよ!?」
「愛に不可能はないのさ」(ドヤァ)
解析データを観覧する真耶。背後にいた千冬だが、この人本当に5分とかからずここまで来るんだから凄い。ついでに意識も切り替えてるから尚凄い。
真剣な表情でディスプレイの映像やデータを見ていく。
「プラズマを利用した武装……。こんな技術、まだどの国も開発出来てない筈です」
「この武装の解析は?」
「損傷が激しいですが、中枢は無事だったので復元可能かと」
「そうか。……すまん、また少し席を外す。解析を頼む」
「? 分かりました」
思うことがあった千冬は退室。最低限の照明が照らす薄暗い通路を歩み、電波が通じるエリアに着くと携帯電話を取り出す。ある番号を選択、コールする。
彼女の中で、使用頻度はかなり低い――それでいて、絶対に消去しない相手。
彼女の『同志』であり、『友』であり、そして『共犯者』。
丁度十回のコールの後、相手が電話に出た。
『……もしもし?』
「お前か。久しぶりだな」
『そっちから話しかけてくるなんて珍しいね』
「そうだな……」
穏やかそうな口調。だが一昔前までは、この正反対どころかぶっ飛んだ性格で、行動も滅茶苦茶。
しかし『ある事件』を境に嘘の様に大人しくなっていた。
「……聞きたいことがある。学園を襲撃した機体についてだ」
『あの怪獣だね。見てたよ』
「あの機体にプラズマを用いた武器が使用されていた。……何か知らないか?」
『プラズマ……。作れなくはないけど、何もしてないよ。誓って』
「………………」
『だって“あんなこと”……もうたくさんだから』
「……そうだったな、すまない。それと、奴等の名前が分かった。恐竜帝国……あの怪獣はメカザウルスと言うらしい」
『恐竜帝国に、メカザウルス……そのままだね。ありがと』
「うむ」
『それとさ……』
千冬へ少し躊躇いがちに聞いてくる。
『あの男の子、確かに似てるよ。……でもさ、違うんだよ、やっぱり。そこは分かってるよね?』
「……分かってるさ。だが光牙は守ってみせる。絶対に」
『……それならいいよ。でも気をつけて。最近、“キサラギ”が何か動いている』
「分かった。……いつもすまんな。じゃあ」
『うん……またね。ちーちゃん』
カチャ、と通話が切れる。
千冬の表情は冷たく、まるで歴然の戦士を伺わせる。
携帯電話を閉じる音だけが、通話へ反響した。
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第十三話です。
2016.12.25、修正しました。