「美羽、次はどこへ行くのにゃー?」
「美羽お姉ちゃん、つぎはどこへいくの?」
「うむ、次は服を作る職人に会いに行く約束なのじゃ。その次は鍛冶職人で子供達に職場を見せてもらったり、話を聞かせて欲しいとお願いに行くのじゃ」
「「「行くのにゃー」」」
美羽様、頑張ってますね。
毎日駆け回っています。
事の起こりは一刀さんが寿春に一時戻った時で、美羽様に宿題を出したんです。
「子供達に将来どんな大人になりたいか聞いて、国はその為に何が出来るのか考えてごらん」
美羽様は以前から孤児達の力になりたいと仰っていました。
ですが気持ちはあっても具体的にどうすればいいのかが分かりません。
一刀さんに頼ろうとした矢先に逆に問われて、大好きな蜂蜜水の事も忘れて部屋に籠もって悩み続けてました。
そんな美羽様の背中を押したのは私達大人ではなくて、璃々ちゃんや美以ちゃん達でした。
「璃々もわからないからお母さんとかお兄ちゃんとか、みんなにいっぱいきいてみたらいいと思うの」
「美以はわからなかったら行動するのにゃ。そしたらそのうち何とかなるにゃ」
フフ、子供ってなんとなくでも案外正鵠を射るものですね。
美羽様は弾かれた様に部屋から飛び出ました。
一度動き始めたらもう止まりません。
一刀さんが帰ってきたら沢山の報告をする事になるでしょう。
さて、私達大人も負けていてはいけませんね。
現在の華国領土は司隷、涼州、揚州、荊州と、土地の広さだけでいえば並ぶ諸侯はいません。
とはいえ使えない土地も多いですし、人口も特に多くはありませんので極端に国力が上がる訳ではありませんが。
それに洛陽、涼州、揚州と短期間で大規模な外征が続いたので、備蓄はほぼ使い切りました。
最低でも一年は内政に専念ですね、戦は防衛に徹底です。
一刀さんもその辺りは分かってますから、少しは休ませてあげれそうです。
他の諸侯にはどう対応しますかね。
曹操さんと袁紹さんには精々潰しあって頂きましょう。
劉備さんに関してはもう少し耐えていただきたいですねえ、今の段階で并州を領土としましたら前のお二人が手を組む可能性もありますし。
漢中の張魯、交州の士燮は外交で出来るだけ穏便に取り込みましょう。
良い政をしていると評判ですし、益州の劉璋が何を勘違いしているのか漢の名を使って従うように使者を送っていると聞きますから、一刀さんに対しての好感度を上げるのは簡単ですしねえ。
劉璋は放っておきましょう、口だけで何も出来ませんし。
それに一刀さんに敵対する者達を集めるには丁度いいですしね。
最後に一網打尽にする為に暫くは生かしておいてあげますよ♪
こんなところですか。
ふう、それにしても本当に一刀さんには驚かせられますね。
あの孫家を戦わずして降服させますか、最後の一兵になっても戦いを止めない家風ですのに。
虎も懐けば最強の守護獣です。
懐けば、ですがね。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第48話
いよいよ本番だな。
青州での小競り合いじゃなくて、官渡ってところで陣を張っての全面衝突。
二十万の兵を動員してだぜ、く~、燃えてきた。
「文ちゃん、張り切るのはいいけど于吉さんが言ってた事を忘れちゃ駄目だよ」
「分かってるよ、あくまで前哨戦なんだろ」
こんだけの兵を連れてきといて、直ぐにはケリをつけないってんだからな。
兵よりも民に仲の威容を見せつけるのが優先で、戦は軽く突く程度で基本は防戦。
自軍の兵士達には、小さくても確実な勝利を重ねさせて自信を付けさせる。
調略もやりまくって味方を増やす。
田畑は焼き尽くす。
冬が来る前に撤退。
「えげつねえよなあ。真綿で首を絞められるようなもんだぜ」
「でも有効な手だよ。あの田豊さんですら認めたんだから」
だよな、直接戦闘否定派の国で一番頑固なのが。
「曹操さんは必ず誘いをかけてくる筈だから、指示以上に動いちゃ駄目だよ」
「念押ししなくても大丈夫だよ。あたいだって焔耶の二の舞になる気はないからさ」
劉備軍との戦で行方知れずになった焔耶。
死んだ、だろうな。
一緒に出陣した奴等が斬られたのを見たらしいし。
左慈は何も言わねえけど、普段からアタイらにきつく言ってたのは心配してくれてたからなんだな。
猪の末路なんてこんなもんだって。
・・よく分かったよ、必ず命令は守るさ。
これからも姫や斗詩と一緒にいたいからな。
「すまぬ、劉備殿。本来なら助けるべきではない者なのに」
「ううん。華雄さんの知り合いでなくても同じ事だよ。これは私の決めた事だから」
関羽殿に斬り伏せられた魏延、それでも辛うじて息が有った。
今は治療を受け一命を取り留めた。
「うっ」
「魏延、気がついたか!」
「・・華雄・殿?」
「無理に話さなくていい。事情は説明する」
関羽殿に敗北し、治療を受けた事。
左慈軍は既に撤退済み。
一ヶ月は絶対安静の状態。
事情を聴き終わった魏延は顔を覆い涙を流し始める。
「・・何故、そのまま死なせてはくれなかったのですか。どのような面を晒して生きていけと言われるのです。桔梗様にも、左慈殿にも、華雄殿にも合わせる顔など無いというのに」
今の魏延の心、私にはよく分かる。
己の無力を嫌という程感じて、慰めは尚更惨めな思いにさせる。
それでも私が生を諦めなかったのは、董卓様というかけがいのない方がおられたからだ。
苦しくても、情けなくても、乗り越える事が出来た。
魏延よ、お前にはいないのか、命に代えても護りたい人が。
声を掛けられない私の代わりに、劉備殿が悲しげに声を掛けられた。
「大切な人がいるのに、その人達の悲しむ姿が見たいの?」
「貴様は、劉備!命を助ければ従うとでも思ったか、この偽善者め!」
「止めぬか、魏延!何より助けたのはお前一人ではない」
他にも大多数の者達が救われているのだ。
最初に聞いた時は本当に驚いたが、劉備軍は戦闘が終われば敵味方関係なく治療にあたる。
納得しない者は当然居るし、諍いも起こっている。
それでも頭首である劉備殿は意思を貫き、傷付いた者達を治療される。
その高潔な姿に人は救いを見出し、傷付いてる心を癒されていた。
少しづつではあるが、反対してた者の中でも手を貸す場面が見られてきている。
主が護ってほしいと言われた理由がよく分かる。
失ってはいけない方なのだ。
「いいの、華雄さん。偽善なのはその通りだよ。まだ傷は塞ぎきってないから無理はしないでね」
劉備殿が出て行かれ、私も退出する為に扉に向かう。
今は安静が第一だ、だが一言だけ言っておきたい。
「今は傷を癒せ。それと魏延、お前は誤解している。劉備殿はお前や私より遥かに強い」
「なっ、痛う、何を、言われるのです」
「それが分かった時、お前は本当の強さを手に入れられるだろう」
無力だ、患者はずっと眠り続けてる。
今迄多くの患者を治療してきたが、本当の意味で癒すには技術だけでは駄目だと学ばされた。
だからか、俺は目の前で起こった事を不思議に思わない。
体が動かない。
まるで氷のように冷え切ってるようだ。
目も開けられない。
全てが黒い。
どうしてこんな事になっているのだ?
何か聴こえるようで聴こえない。
私の事を話してるのか?
いや、そもそも私は誰だ?
何も分からない。
何も思い出せない。
・・それなら何も考えなかったらいいのか。
この暗闇と同化してしまおう。
そうすれば楽になれそうだ。
・・・・・・・
・・・・
・・
・何だ?
左手が、温かい?
そこから温かさが体中に伝わってゆく。
周りが白くなってゆく。
目が、開く。
その先に、私が見たかった優しい笑顔があった。
「待たせてごめん。迎えに来たよ、思春」
私は顔が綻びるのを自覚しながら、
「遅いぞ、馬鹿者が」
患者が目を覚ました。
「すまない、ちょっと脈をとらせてもらえるか」
うん、少し弱いがしっかりと脈打ってる、氣の巡りも悪くない。
「これならもう大丈夫だ。だが体力は落ちてるから、急には体を動かさないようにな」
「分かった、感謝する」
言葉は荒っぽいが本心なのはわかる。
「華佗先生、彼女が助かったのは貴方のおかげです。改めて御礼を申し上げます」
御遣い殿に倣って皆が頭を下げてきた。
驚いたな、全てではないが身分の高い者によくある上から目線が全然無い。
この一事だけでも彼の人柄が見て取れる、民の評判が良い訳だ。
「いや、彼女を本当の意味で助けたのは御遣い殿の愛情だ。俺はその手助けをしたに過ぎないよ」
「待てっ、誰の愛情だとっ、うっ・」
いきなり興奮した患者が急に起きようとしたので眩暈をおこしている。
「おいおい、無理はするな。急には体を動かさないようにと言ったろう?それに俺は事実を言っただけで」
「か、華佗先生、待ってくれ、それ以上は俺の身が危うくなるから」
うん?なにやら不穏な氣が室内に広がってるような。
御遣い殿に促されて退室し、客室で治療費を受け取る。
その後は非常に有意義な時間になった。
御遣い殿とは話せば話すほど意気投合し、互いに親友を得た気分だと笑いあった。
一刀が考えている医師の育成と病院という医療施設の設立。
喜んで手伝いたいと伝えて、俺は城を出る。
孫権殿が慰留を求めてきたが、一刀は俺らしくすればいいと見送ってくれた。
今迄どおり患者を治し続ける、行き先は患者の助けを求める声が聞こえる所だ。
・・だが、やる事が増えた。
これからは出来る限り治療の記録を残す。
医術を学ぼうとする者の為に、そして一刀が最も考えてる病を予防する為の知識を世に広める為に。
さあ、旅の再開だ。
一刀が大陸を統一する、その時まで。
戦乱の世、想像がつかない事も時には起こるわ。
それもまた一興ね。
とはいえ、私以外の者にも同じように受け止めろというのは酷かしら。
珍客の登場で玉間の空気が張り詰めてしまったわ。
特に春蘭、今にも斬りかかってしまいそうね。
「それで、貴女は何をしにきたのかしら、孫伯符」
「ちょっと腕を買ってもらおうと思ってね。安くはないけどどうかしら、魏王、曹孟徳様」
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あとがき
小次郎です、お読みいただきありがとうございます。
少し涼しくなってきて過ごしやすくなってきました。
夏バテも解消できていい感じです、皆様は如何でしょうか?
物語もメインの一角である呉が陥ちました。
私の作品では呉の建国まではいかなかったのですが、遂に一刀の軍門に下りました。
それなのに、誰かさんが勝手に動き始めました。
(ああ、以前の桃香たちと同じパターン)
また帳尻合わせに苦労する事になりそうです。
では、また次回もよろしかったら御覧になってください。
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孫家の降服により広大な領土を手にする。
当然すべき事が増える、一刀だけでなく家族にも。