「サイトはこの国の言葉や文字を理解できてるわよね・・・」
それは、突然起こった事で・・・。
「サイトの国では同じ言葉や文字を使っていたのかい、それとも・・・」
当然思った、当たり前の疑問で・・・。
「どこかで、覚えたのかしら?」
平賀才人が、当たり前のように享受していた平賀才人を否定するものかもしれなかった・・・。
「どうしたんだい、何かおかしな事でも言ったかしら?」
「サイト・・・どうしたの?ねえ、サイト!?」
彼女の質問に無言で固まる才人に、ミス・ロングヒルとアナちゃんが話しかける。
「・・・ああ、この国に来る前に勉強したんだ・・・分からないと・・・ほら、困るだろ」
「ふ~ん・・・私もこっちに来る前は少しは勉強したんだけど、あたしの国と公用語が同じだったからね、役には立たなかったかな」
「ロングヒルさんも外国人なんですか!?すご~い、サイトと一緒だ!!」
「そんなに遠くない国なんだけどね・・・あっ、そうそう私が外国人だってことは内緒よ」
「・・・」
才人はこの世界に来てから、言葉を話すことや文字を読み書きすることに困った事は一度も無かった。
ごく当たり前にみんなと話が出来て、ごく当たり前に文字を書いて読むことが出来た。
まるで日本人が日本語を何の意識もせずに読み書きが出来るように、何の意識もしないで才人はこっちの世界で暮らしていた・・・。
魔法の世界なんだから!と一言で片付けられる話なのだが、何とも言えない気持ち悪さと何かとてつもない恐怖を感じた。
(ここは魔法がある世界だ・・・きっと、ルイズの魔法か何かで喋れているんだよな)
(でもさ・・・魔法って一体何なんだ、たしか漫画やゲームの世界のお話だったよな)
(炎や雷を出したりしてモンスターと戦ったり、離れた場所まで飛んでいったりするんだっけ・・・)
(そもそも人間が炎を出せたり、空を自力で飛べるわけないよな・・・おかしくないかこの世界って)
(じゃあこの世界は俺が見ている夢なのか・・・ルイズに出会った事も、アナや姉さんといるこの時も全部・・・)
(これが夢なら・・・ここにいる平賀才人は、一体なんなんだろう・・・平賀才人が夢を見ている平賀才人なのか)
才人は思考は止まらない、この世界の・・・そして魔法の存在を今更ながら恐怖し怯える。
この世界に存在する平賀才人に、才人は恐怖する。
そして・・・彼は救いを求めるかのように、この世界の平賀才人の存在に手を伸ばした・・・。
「えっ!?」
「サイト!?どうしたの・・・もしかして、泣いてるの」
才人は無意識にミス・ロングヒルとアナちゃんの手を握っていた、自分がここにいる事が間違いではないように・・・。
彼女たちの体温が偽者でないかを確かめるように、才人は泣きながら二人の手を握っていた。
「ちょっと!?どうしたのよ!!私・・・なにか泣かしちまうような事を言ったのかい?」
「サイト・・・さみしいのね、だから泣いているんでしょ・・・ねぇ?」
二人は才人の手を離さない、泣いている彼を心配しているからなのだろうか。
才人は彼女たちの手から確かな温もりを感じていた・・・その温もりが彼女たちと自分が存在している証であるように、大切に握った・・・。
「あ・・・ごめん、急に手を握っちゃって・・・悪りぃ」
「別に良いのよサイト、寂しいんだから・・・いっぱい握ってていいんだからね!」
アナちゃんが才人にやさしく語りかける、幼き日にやさしく手をつないでくれた母のように。
「故郷の話が出てきたらさ・・・急に自分がこの国に一人ぼっちの様な気がしてきて、その二人とも・・・ゴメン」
「まったく、本当にサイトは甘えん坊さんだね・・・初めて会った時も泣いてたっけね、いい男に育てようと思ったのにまたボウヤに逆戻りかい?」
ミス・ロングヒルがその手を離さず、才人を優しく抱きしめる・・・迷子になっていたあの日、寂しくて泣いていた時に見つけてくれた母のように。
「あんたは一人じゃないよ!あたしたちはチームなんだからね、今度、一人ぼっちなんて言ったら姉さんの愛のこもったビンタをあげるから」
「わ、私だって、サイトが一人ぼっちって言ったらサイトのことぶっちゃうんだからね!サイトは私の家族なんだから一人じゃないもん!」
アナちゃんもサイトを抱きしめる、実際はしがみついているようにしか見えないのだが彼女は間違いなくサイトを優しく抱きしめている。
才人はたしかにここにいる・・・この世界が才人を否定しようとも平賀才人がいる事を証明してくれる確かなものがここにはあったのだ。
そんな大切な証を才人は抱きしめかえした、宝物のように大切に、愛おしく抱きしめた・・・そして。
「愛しているよ・・・」
才人は何も考えずに一言だけつぶやいた。
才人が泣き終わった後は、大変だった。
ミス・ロングヒルは気にしなかったように企画書の作成を始めた、ただし・・・「あたしも愛しているよ、サ~イト!」とあのネタでからかってくる。
アナちゃんは外に飛び出して行った、「私、みんなに言って・・・じゃなかった、遊んでくるから///」と言って・・・嫌な予感がするような。
正直言ってなんであんな事をいったのか分からない、恋人同士で言うような言葉だと思っていたがそういう関係ではなくてもあの言葉は出てくるらしい。
才人も気にしていても仕方無いと開き直って、期間と経費の見積もりを計算している。
ただしここらへんの分野は伝説の大工の二つ名を持つ才人でも経験不足が響いてくる、親方か大親方が帰ってきたら一緒に計算する予定だ。
才人の知識だけで出せる数字は先に出して、ミス・ロングヒルと肩を並べて企画書作りに取り掛かっている。
元貴族だけあってとても字が綺麗だ、才人が後から見積もりの数字を入れれば良いように企画書を書き上げていく。
姉さんは秘書とかをやらせたら、すごく有能なのでは?とか思う才人だった。
「さてここまで出来たら、あとはサイトの見積もり待ちってところかしらね」
「すげ~よ!綺麗に出来ているし、俺の説明なんかよりもワクワクするように書いてあるじゃん!」
「射幸心を煽るってやつよ、投資なんて所詮ギャンブルなんだから儲けた時のことをでっかく書いとけばいいのよ!」
「でもこんな事、俺には書けなかったよ!やっぱり姉さんを選んでよかったよ」
「ふふっ・・・サイト、姉さんを愛してる?」
「あ~///・・・愛しているんで、そろそろ勘弁してください・・・」
ミス・ロングヒルの手によってほぼ完成した企画書だった、才人は大いに喜んだのだが・・・最後にやっぱりからかわれた。
そしてミス・ロングヒルはお店の出勤の時間が来たので、今から酒場にもどる事になった。
「ねぇ?サイト・・・私たちに愛しているって言ったでしょ、あれは恥ずかしい事じゃないからさ・・・いい加減照れるのはお止め」
「姉さん、それってどういう意味なんだ?」
「サイト・・・この間言いそびれた私の秘密を教えてあげようか、ちょっと耳を近づけなさい」
そう言ってミス・ロングヒルは耳に唇を近づけて才人に話した、この間の酒場で言いそびれた秘密を・・・。
「サイト、私には家族がいるんだよ・・・もっともこの国には居ないんだけどね」
「兄弟がさ、一杯いるんだよ・・・妹とか弟とかいっぱいね、みんな血は繋がってはいないんだけどね」
「それでも私はみんなが大好きだし、サイトが言ったようにみんなを愛しているんだよ」
「・・・うん」
「愛しているっていうのは理屈じゃないんだよ気が付いたら愛しているもんなのさ・・・だからね私もサイトを愛しているよ」
「姉さん・・・ありがとう、俺も姉さんの事・・・」
「・・・今日はここまでかな、いい男に育てようと思っていたんだけどね~可愛い弟になっちゃったかね~サ・イ・ト!」
─── チュッ!───
そう言ってミス・ロングヒルは夜の帳に消えていった、サイトのほほに愛してるとつぶやくように感触を残して・・・。
今日も親方の家で奥さんと一緒に夕食を作る才人、今日はみんなにコロッケでも作ろうかな・・・。
コロッケはこっちの世界でも再現が可能だったらしく、才人の記憶にあるものとほぼ同じものが出来た。
この世界の才人の家族が美味しそうに食べている姿を見ると、才人も嬉しくなった。
食事中はアナちゃんが完全に才人のとなりから離れない、今日の事があったから心配してくれているんだろう。
遅くまで大親方と親方と一緒に各種見積もりを計算した、やっぱりこの分野は経験がモノを言うらしい。
そして・・・ついに東地区拡張計画の企画書が完成した。
後はあの厳つい貴族のおっさんに会うだけだ、ルイズが手紙を出してから二日目の夜が過ぎようとしていた。
....第24話 めざせ経済大(町)国 ⑦
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執筆.小岩井トマト
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ミス・ロングヒルの話した何気ない疑問が才人に重くのしかかる。
それは何を意味するのか?そして何を意味しないのか?
疑問の答えに対する「平賀才人」そして、答えは出るのでしょうか?
キャラが勝手に動きすぎ!完全に予定外の話にトマトも床を転がります!!
ついに政権交代の時が来たのか!(クワッ!)・・・第24話をお楽しみください。