No.799087

恋姫✝夢想 ━━独り乙女━━  《✝》

Hankさん

――――――「野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁッ!」  By.ベネット

2015-08-29 17:26:59 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1325   閲覧ユーザー数:1226

――――――平原にて・・・

 

蜀の軍将達が勢ぞろいに集まっていた。

その理由は、朱里の呼びかけによって呼び集められ、一同は話の内容を今一つ理解しておらずにやってきていた。

 

朱里 「皆さん、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます、今回はこの手紙について集まっていただきました」

 

鈴々 「にゃ?なんなのだそれ~?」

 

愛紗 「どのような内容なのですか?桃香様」

 

桃香 「わたしもまだ見てないよ」

 

星 「うむ、面白い内容だといいのだがな」

 

雛里 「冀州の袁紹さんからの手紙です」

 

桃香 「空けてみせてよ」

 

桃香の言葉を聞き、朱里が全員の目の前で手紙を広げた。

 

愛紗 「何々~? 『暴君董卓』 が洛陽の都にて十常侍を皆殺しにし帝を操り、暴政の限りを・・・尽くしているだと!?」

 

音読された手紙の内容に蜀の軍将達は衝撃を覚えた。

なんと、手紙には洛陽の都における董卓という名の人物による悪逆非道ぶりがここぞとばかり、羅列の如く書かれていた

・・・まぁ、真実を知る者からすれば 「アホか」 としか思えない文章だが・・・

 

桃香 「こんなの酷すぎるよ・・・」

 

見事に信じきった者が居た。

 

鈴々 「んにゃ? この董卓ってやつは悪いやつなのか~?」

 

愛紗 「何を言っているんだ鈴々! これが本当ならば、董卓は歴史に残るほどの大悪党なのだぞ!」

 

そして釣られるように引っかかる人物も此処に居た。

 

星 「まあまあ愛紗よ、そうかっかしなさんな。 ・・・それで、この手紙は信用できるのか? 朱里、雛里よ」

 

朱里 「はい、この手紙の信憑性についてはなんともいえませんが・・・」

 

雛里 「しかし、この手紙は断ることは出来ないでしょう」

 

二人の言う 「断れない理由」 という単語に一同は 「何故?」 っと、疑問を頭に浮かべた

 

桃香 「え? なんで?」

 

朱里 「この手紙の送り主である袁紹さんは ”司隷校尉 (しれいこうい)” です。 袁紹さんの命令に逆らうことは袁紹さんの味方全てを敵に回してしまうということです」

 

司隷校尉・・・というのは、現在で言う古代中国の官名の事である。

前漢、後漢、魏と西晋などの時代に置かれており、皇帝の親族を含む、朝廷内の大臣の監察を行うことを職責とし、征和4年に武帝により初めて設置された。

平たく言えば、エリート貴族と言ったモノである。

ちなみに当初の職務は巫蠱(呪殺行為)の逮捕が主だったらしい。

さらにこの袁紹、権力的にも地位が高く、今回の手紙の内容では参加希望を迫るモノであるが、断る事ならば国に喧嘩を売るのと同等で下手をすれば・・・

 

雛里 「無視すればそれ相応の罰が待っているでしょう・・・。」

 

どの道、この戦は強制参加であり、手紙が届いた時点で参加決定となっていたという事だ。

 

桃香 「そうか・・・でも! 本当に董卓さんが都で悪いことをしているなら止めさせなきゃ!」

 

愛紗 「桃香様の仰る通りだ!朱里、雛里、魔王董卓を倒し桃香様の名声を大陸中に響かせればこの大陸はもっと平和になり住みやすい国になるはずだ!」

 

そうやる気を出している将達であるが、知将である朱里、雛里の二人は、暫し思案に浸る

頭の中で、これから起こるであろう事への対処を一から順に練っていく

色々なケースを考えた、自分等が席を開けている間の代理、予想通りに事が進んだ時の継続維持にする方法、そして万が一に起きた予想外の出来事に対する対処法も・・・

それらを総合し・・・

 

朱里 「わかりました桃香様、洛陽へ赴きましょう」

 

桃香 「そうこなくっちゃ朱里ちゃん♪」

 

朱里 「愛紗さん、この平原の治安はどのような状況ですか?」

 

愛紗 「いたって平穏、ここまで何も起こらないとかえって気味が悪いくらいだ」

 

桃香 「愛紗ちゃん! そんなこと言っちゃ駄目だよ、平和が一番なんだから!」

 

愛紗 「と、桃香様?! わたくしはそのような意味で言ったわけでは・・・」

 

星 「まあまあ桃香様、愛紗も少し落ち着け。 ・・・しかし、愛紗の言うことも尤もだ、ここまで事件らしい事件が起こらないと体が鈍ってしょうがない」

 

雛里 「ここ最近では、周囲の山賊さんが次々と姿を消していきましたらからね、一体何故なんでしょうか?」

 

星 「ふむ、わたしはやはり、あの伝説の賊狩り、一夜狩りの仕業だと思うな」

 

鈴々 「にゃっ! あのお姉ちゃんの事!?」

 

リントの一夜狩りとしての噂は蜀にも広がっていた。

・・・というよりも、リントが国境など関係無しに手当たり次第に狩りに狩りまくって、おかげさまで本来担当になる筈だった将達の腕が鈍ってしまっていた。

だが、民からしてみたら強ちそれでも良かったと思える。

何故なら、幾ら実力がある武将であっても、狩れる賊の数は、たかが知れている上にそうチマチマしている間にも賊は黒い虫のように無限増殖と言わんばかりに増えている。

正直、そこの所は半分お手上げ状態でもあった。

 

星 「ああ、あ奴の事は、よく知っている・・・あの目つき、そして武の腕前・・・悔しいが、あの腕に勝れるとは到底思えない」

 

桃香 「じゃあじゃあ、今回の集まりで会えるかもしれないね♪」

 

星 「それはどうでしょうな、あ奴は正直この国には危険な存在、群れる事が嫌いな狂犬のような者、どこかの勢力に入るなんてことはまず無いでしょうな」

 

鈴々 「にゃ~~~・・・、強いのに、もったいないのだ~」

 

星 「まぁ、敵になっていれば腹をくくる覚悟で挑まねば敗北するのは間違いないでしょうな・・・」

 

皆が一夜狩りのリントについて話している横で愛紗は胸の中の感情に戸惑っていた

 

愛紗 「一夜狩りの・・・燐兎・・・」

 

皆の話を聞いていくにつれて、段々と胸の高まりが激しくなる。

 

愛紗 (何故だろう。 この名を発すると、私の中で大きく開いてしまった穴が存在すると、強く感じてしまう・・・)

 

自分とリントという人物には一切接点は無いはず

それなのに、・・・それなのに何故こんなにも気持ちが高まる?

ある筈の無い記憶が消えてしまったような感覚を覚える。

 

――――――会いたい。

 

その気持ちだけが自分を激しくつき動かそうとしていた。

 

桃香 「どうしたの? 愛紗ちゃん?」

 

言葉を失っている愛紗の顔を覗き込んで話しかけてくる桃香に驚いた。

 

愛紗 「は、はいィッ!? なんでしょうか桃香様!?」

 

桃香 「わっ!? 本当にどうしたの、愛紗ちゃん? ぼ~っとしてたよ、何処か具合でも悪い?」

 

愛紗 「いえ! そんなことはありません。 ありがとうございます、桃香様」

 

まだ焦りが抜けないが、それでも心配させまいとキリッと言う愛紗の反応に星はピンッときた。

 

星 「ほほぅ? どうやら愛紗は、一夜狩りのことを考えていたようだな」

 

愛紗 「はぁッ!!? な、何を馬鹿の事を・・・! 私はそのようなことは!」

 

星 「ん? 私はただ単に 『一夜狩りが万が一出遭った時にどうするべきか』 と考えてのだなと思っただけだ♪」

 

愛紗 「んなっ!? ぐッ、ぐぬぬぬぬぬぬぅぅぅ~~~~!!」

 

ニヤニヤと笑う星とそれを睨みつけて今にも怒り爆発しそうに歯切りをする愛紗に雛里は恐る恐る声を掛ける。

 

雛里 「あ・・・あの~~~?」

 

愛紗 「なんだ!!?」

 

雛里 「ひっ! ご、ごめんなさいぃぃ~・・・」

 

愛紗の怒る獣のように怒鳴り声と睨みで雛里は半泣きの状態で星の後ろにササッと隠れてしまった。

 

星 「これ愛紗。 雛里が怖がってしまっているであろうが、・・・よ~しよし~もう怖くないぞ~♪」

 

幾ら頭の回る知将と言えども、幼き少女。

星に優しく頭を撫でられ、恥ずかしさのあまりに顔が真っ赤になってしまった。

 

雛里 「あわわわ・・・」

 

元はと言えば、星が余分な事を言うせいである筈なのに見事に星のおちょくりに引っかかり、もう雛里ごと襲ってしまいそうな勢いまでに怒りが上昇していた。

 

朱里 「あの~~~・・・そろそろ、話を元に戻してもよろしいでしょうか?」

 

このままでは収集が付かなくなると判断した朱里は慌てて軌道修正する。

 

桃香 「あ、うん、そうだね。 ホラホラ、愛紗ちゃんもそこまで!」

 

愛紗 「うっ・・・はい、桃香様」

 

桃香の指示にしぶしぶ従う愛紗であった

 

朱里 「それでは、この反董卓連合ですが・・・兵は3万人連れて行きましょう」

 

桃香 「えぇっ!?」

 

朱里の口から出た、突然の言葉に将達は驚いた。

 

愛紗 「なんだと!? 3万人も兵を!?」

 

鈴々 「にゃにゃぁっ!?」

 

星 「朱里よ、幾らなんでも多すぎはしないか?」

 

朱里 「いいえ、そんなことはありません、さっきもお話していたように一夜狩りさんがこの辺りの賊を手当たり次第に討ってくれたおかげで、この平原の治安は優良も同然です、それに今年は豊作で糧食は多く持って行けそうですから」

 

雛里 「さらに、黄巾党のかなりの人達がわたくし達に降ってくれていますから、これくらい連れて行っても治安は十分に維持できるでしょう」

 

桃香 「わかったよ朱里ちゃん、雛里ちゃん、それじゃ皆、早速準備しよう!」

 

愛紗 「はっ!!」

 

鈴々 「にゃ!分かったのだ!」

 

星 「承知しました!」

 

 

そして平原の将達は戦の準備をしていく

 

この先、自分等に舞い降りる惨劇の存在を予知出来ずに・・・

 

 

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――――――建業にて・・・。

 

こちらでも、呉の武将達が揃っていた。

 

冥琳 「皆、集まって貰ってすまない」

 

雪蓮 「あら。 何言ってるのよ、水臭いわよ冥琳♪」

 

穏 「かまいませんよ~、冥琳様~♪」

 

祭 「うむ」

 

乂猟 「ああ、構わないぞ」

 

??? 「冥琳の開く会議ならよほど重要なことなんでしょう、すぐにでも飛んでいくわ、ね思春、明命」

 

思春 「わたしは、いつでも蓮華様のおそばに」

 

明命 「呼ばれてすぐ参上します」

 

??? 「あ、あのぉ~~~?」

 

どこからか氣の抜けた声がしてきた

 

冥琳 「ん? どうした? これから大事な会議なんだ、早く入ってくるが良い」

 

??? 「は、はい~・・・」

 

誰かが扉の影から現れるがその足取りは重い

 

穏 「どうしたんですか~、百合さん~?」

 

思春 「そうだぞ諸葛瑾!蓮華様を待たせるな!」

 

百合 「は、はい~!」

 

そう喝を入れられて、慌てて入ってきたのは、長い金髪を横で三つ編にし、水鏡女学院の帽子のようなものを被った、

姓は諸葛、名は瑾、字は子喩、真名は百合だった

彼女が何故ここに居るのか・・・それは元々彼女は彼女の妹である諸葛亮こと朱里のいる平原へ向かっていたのだが、人類史上稀に見かける極度の方向音痴の為、なぜか呉に着いてしまっていたのである。

 

百合 (うう・・・、どうしてこんなことに)

 

声と素性上、気弱そうな感じで心の中で百合は泣きそうになっていた

だがしかし・・・

 

百合 (いいえ、妹達が頑張っているんですもの、わたしが頑張らなくてどうするの!)

 

・・・と、こんな風に自分に気合を入れ直す程、結構気持ちが強めな子なのである。

そんなこんなで・・・今回、遅れたのも己の宿命と言わんばかりの方向音痴の特性が災いし、道に迷っていた為にそうなってしまったのだ。

 

百合 「遅れてしまい申し訳ありません、雪蓮様」

 

雪蓮 「いいのよ、あたしなんかしょっちゅう遅れてきてるんだから♪」

 

グッ! 、と親指を立てて片目を瞑ってウィンクしながら返した。

 

冥琳 「雪蓮、もうちょっと王としての自覚を持ってくださらないとこちらが持たないのだが?」

 

蓮華 「そうです姉様! あなたは呉の王なんですよ! そう怠けた感じで居ると祭殿に怒られてしまいますよ!」

 

そう蓮華が言う傍で祭はニッコリと不気味な笑みを見せながらこちらを見ていた。

 

雪蓮 「そうね、分かってるわよ・・・ (祭の世話になるのは嫌だわぁ・・・) 、・・・それじゃ冥琳、始めてちょうだい」

 

雪蓮の始まりの合図によって、会議の間は、すぐに緊張感に包まれた。

 

冥琳 「了解した。 今朝方、袁術からこのような手紙が送られてきた」

 

冥琳は手紙を広げた

 

雪蓮 「なによこれ、袁術の従姉妹の袁紹からの手紙じゃない」

 

冥琳 「そうだ、しかしその内容を見てみろ」

 

一同は音読もせず、ただジッと黙読で手紙を読んでいき、事の次第を理解しながら読み終えた。

 

冥琳 「・・・して、皆、どう思う?」

 

雪蓮 「洛陽で暴政・・・ねぇ・・・? まぁ正直、十常侍のことについてはどうでもいいわね」

 

穏 「文章見る限り、思い付きで書いているのが見え見えですね~」

 

祭 「まぁ、袁紹は袁術の従姉妹だからな」

 

明命 「似たもの同士なんですね」

 

乂猟 「袁術の下で働いている紀霊の気が知れないな・・・」

 

蓮華 「紀霊は袁術軍の将の中でお母様が唯一認めていた将なのに、もったいないわね」

 

思春 「あんなやつはほっとけばいいのです、自分の能力をどこで生かせば良いかもわからないやつは、無能も同じです」

 

雪蓮 「思春、それは母様の目が節穴だったような言い方ね」

 

思春 「じ、自分はそのような意味で言ったのではありません!」

 

前呉王孫堅を侮辱してしまったと錯乱してしまった思春

 

雪蓮 「あははははは! じょーだんッ、冗談よ♪」

 

思春 「雪蓮様・・・!」

 

冥琳 「話が逸れた様だな、元に戻しても良いか?」

 

雪蓮 「ブ~ブ~、冥琳かた~~い」

 

冥琳 「わたしはどこまでも柔軟だよ・・・さて、この檄文だが皆の意見を聞きたい」

 

雪蓮 「乗るべきね、この連合で活躍し名を広めることが出来れば人、物、金が集まるわ」

 

乂猟 「あぁ。 ここ最近、戦らしい戦が無かったから体が鈍ってしょうがなかった所だった」

 

乂猟は、腕を軽くグルグル回し、腕の調子を確かめる。

 

蓮華 「それにしても、なぜここまで治安が良いのでしょうか?」

 

思春 「なぜかここ最近、近くの賊達が次々と姿を消しています、原因が解りません」

 

雪蓮 「そうねぇ・・・あたしの勘では、例の一夜狩りね」

 

祭 「ふむ、それしかなかろうて」

 

乂猟 「・・・一夜狩り・・・燐兎か・・・」

 

以前、世話になった事を乂猟は思い出す。

 

蓮華 「え? 乂猟さん、何か知っているんですか?」

 

乂猟 「ん? あぁ・・・ちょっとな・・・」

 

雪蓮 「乂猟はね、噂の一夜狩りと会った事があるのよ」

 

雪蓮は、事前に報告で知り得ていた。

 

蓮華 「ほ、本当ですか!? 乂猟さん!?」

 

乂猟 「そうだな。 あの時は・・・そう、あいつが突然やってきて俺を助けてくれてな」

 

思春 「それで、その者の腕前は?」

 

明命 「はい、気になります」

 

乂猟は、しばらく黙りこんで考える

そして少しして、口を開く

 

乂猟 「こんな事も言うのもアレだが、あいつの力はこの大陸の中でも一番とも言える程の力量の持ち主だろう」

 

そういう乂猟の過大評価に一同は、皆驚いた

 

蓮華 「えっ!?」

 

思春 「なんだと!?」

 

明命 「それほどのものなのですか?」

 

乂猟 「あの時、俺は背を並べて戦った・・・だから言える、あいつの力は強大で、天下無双と言っても過言でもない程だ。 正直、あの時のあいつが味方であった事を今でも幸運だって思ってるよ」

 

蓮華 「う、うっそ!?」

 

思春 「それ程までに・・・」

 

明命 「ん? おかしいですね・・・それほど強いのに、何故どこにも仕官しないのですか?」

 

乂猟 「あいつは自分のやっている事を責務だとか何だとか行っていた、それにあいつの目を見ても誰にも就く気は無いと言っているようなもんだ」

 

一同が一夜狩り・・・リントについて考える

だが、考えても所詮は分かず仕舞い、どうしようも無かった。

 

雪蓮 「はいはい、一夜狩りについてはこれでお終い、・・・冥琳、今回の戦についてはどう思うの?」

 

冥琳 「呉の治安については、さっきも言った通り大丈夫とだけ言っておこう、主要な将を全員連れて行っても問題はあるまい・・・百合、留守番は頼んだぞ」

 

百合 「は、はい! お任せください!」

 

蓮華 「なっ!? 姉様、小蓮も連れて行くのですか!?」

 

雪蓮 「ああ、シャオは駄目よ。 あの子はまだ幼い」

 

冥琳 「そうだな、雪蓮と蓮華様になにかあっても小蓮様が生きていてくだされば孫呉の血が絶えることはないからな」

 

蓮華 「分かりました」

 

雪蓮 「よしッ! 皆、出発は明日よ! 準備をしてちょうだい!」

 

蓮華 「はい!」

 

思春 「はっ!」

 

明命 「はい!」

 

穏 「はい~♪」

 

祭 「うむ! 今から腕が鳴るわい♪」

 

一同が今回の戦に意気揚々となっている中で一人違う者がいた

 

乂猟 「燐兎・・・」

 

乂猟は、この後待ち受ける最悪を何となくだが想像していた。

いや・・・予知と言った方が過言であるだろう。

戦場で共に戦って分かる安心感と頼もしさ・・・

そして戦場で相まみえた時の絶望感と恐ろしさ・・・

 

百合 「? ・・・うふふふ~♪ どうしたんですか~、乂猟さん~♪」

 

乂猟 「ん!? な、なんだ?」

 

百合 「今、噂の賊狩りさんの名前を口走らなかったですか~?」

 

乂猟 「んん!? あ、ああ・・・聞いてしまっていたのか・・・」

 

雪蓮 「え~~~~~!!? 乂猟って、その賊狩りに恋しちゃってたのぉ!!?」

 

乂猟が思っている事と相反する事を不謹慎極まりなく、空気が読めないと言わんばかりに茶化す傾向で雪蓮は言ってきた。

当の本人は半分茶化しで言ってきている。

 

乂猟 「い、いや! 別に恋をしてしまったとかそういうのじゃ・・・!」

 

冥琳 「そう言っているが、焦りで説得力が欠けてしまっているぞ?」

 

蓮華 「へぇ!? 乂猟さんが一夜狩りに、こ、こ、恋ってぇっ!?」

 

明命 「はうぁ!? そ、そうなんですか!?」

 

思春 「子義!! 貴様このような大事な時に色恋沙汰に浸っているというのか!!?」

 

乂猟 「いや、だからそうじゃなくって・・・!」

 

穏 「いいじゃないですか皆さん~、女の子らしくて、ねぇ乂猟さん~♪」

 

乂猟 (か、勘弁してくれよぉぉ~~~・・・!)

 

乂猟は、先ほどまで思っていた最悪の事態を胸にしまい込み、今の現状の打破に焦っていた。

 

 

――――――しかし、その最悪の事態は必然である。

 

 

地獄の谷に向かって一直線に全速力で走る馬のように、ただただその瞬間が来る時まで・・・

 

 

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――――――陳留にて・・・

 

華琳 「全員集まったわね」

 

桂花 「はい、華琳様。 では、会議を始めたいと思います」

 

華琳 「ええ。 桂花、例の手紙を見せなさい」

 

桂花 「はい」

 

桂花は手紙を全員に見える位置に広げ、全員は手紙を黙読する。

やがて、全員が読み終えて華琳の方に顔を向いた。

 

華琳 「どうかしら、皆」

 

春蘭 「都で暴政ですか?」

 

秋蘭 「十常侍は・・・どうでもいいですな」

 

季衣 「許せないです・・・こんなの・・・」

 

流琉 「酷い・・・」

 

凪 「許せませんね」

 

沙和 「こんな事が・・・」

 

真桜 「こりゃあ、相当の大悪党やな」

 

一同が次々に自分の考えを言う中、秋蘭は皆と違った考えだった

 

秋蘭 「華琳様、この手紙は信用できるモノなのですか?」

 

華琳 「十中八九、麗羽の逆恨みでしょうね」

 

その言葉に華琳は 「それを聞きたかった」 と言った感じで直ぐに返事を返した。

そのやり取りに一同は 「えっ?」 と言いそうな顔になった、それもそうだ自分が思った事とは真逆の事を彼女等は話していたのだから。

 

桂花 「はい、あの馬鹿はただ自分が目立ちたいだけで、他には何も考えていないでしょう」

 

主君である華琳の発言に桂花も便乗して答えた。

 

秋蘭 「・・・と、いうことは、この檄文は・・・」

 

桂花 「そういう事よ、洛陽でそんな暴政が敷かれているという確かな情報はないわ」

 

・・・実は、華琳はこの手紙をすぐに拝見した後、まるでテンプレ通りのように部下を派遣し、洛陽で暴政が行われているか否かを確かめていた。

迅速な行動で、部下よりそのような事は起きていないと判明し、この手紙の内側の事情が自分の予想通りの事々であったと把握した。

 

季衣 「えっと~~? それじゃあ、この董卓って人は暴政も何もしていない・・・って事ですか?」

 

流琉 「私も、よく分かりません・・・どういう事なんですか?」

 

次から出る混乱している武将達全員の意見が口論し出す中、華琳は一つの何かを考えていた。

そんな時。

 

「この檄文、わたしは乗るべきだと思います、華琳様!」

 

一人の武将が推進してきた。

 

華琳 「・・・零、あなたの意見を聞かせてちょうだい」

 

零 「はっ、華琳様!」

 

彼女は姓は司馬、名が懿、字を仲達、真名を零(れい)

紫色の和服のようなものに身を包み、紫の帽子を被り、胸元を露出している

 

零 「これは好機かと思われます、この戦で華琳様の名を世に広めれば、この先に待つ群雄割拠の時代で華琳様は覇道をより確実に歩み進むことが出来るでしょう」

 

・・・なんともヨイショと後押ししているような言い分だった。

思えば確かにこの戦で自身の名を売りに出せば、周りからの評価が生まれ、今後にとって有利に立てれるかもしれない。

しかし、それはちゃんと事情が立証された戦ならばの話、今回の場合は相当危ない橋だ。

予想通り、本当に董卓が悪者ではなく、普通の善良なる者であった場合、自分等は悪評を受ける可能性が生じてしまうのだ。

しかも、今回は帝が関連している・・・下手をすれば自分等の立場が危うい事になるだろう・・・

だが。

 

華琳 「・・・うふふ、わたしもそう考えていたわ、零」

 

華琳は、あっさりと話に乗った。

 

零 「では!」

 

華琳 「ええ、董卓には悪いけれど我が覇道の贄となってもらうわ。 凪、沙和、真桜、陳留の治安はどれくらい良くなっているかしら?」

 

凪 「はい、治安は良好といっていいです」

 

沙和 「なんだか前から、賊の情報が入って来ていないの~」

 

真桜 「せや、どういうワケかさっぱり分からんけど、辺りにいたはずの賊が一瞬で消えていっとるんやわ」

 

桂花 「華琳様、おそらくそれは・・・」

 

華琳 「ええ、伝説の賊狩り、一夜狩りの燐兎の仕業でしょうね」

 

春蘭 「一夜狩りの燐兎・・・”アレ”をやった者か・・・!」

 

暫く時が経とうととも、今でも真新しく思い出すあの時の記憶・・・

妹、秋蘭の身の案じて駆け付けた先で見た巨大な氷の山の数々・・・一瞬にして敵を屠る程の実力を持つ燐兎に今でも戦ってみたいと思っていた。

 

凪 「はい、春蘭様。 あの時・・・山陽の町から一夜狩りの燐兎とお会いし、対話しましたが、あの方の強さはおそらくこの大陸でも1.2を争うと思います」

 

凪は今でも思い出す、自身を救ってくれたあの殺気を、目の前で見せた普通の女性の気配を・・・

凪は思う、もう一度会いたい、会って再び話をしたい、その欲がそっと凪を突き動かそうとしていた。

 

秋蘭 「姉者、わたしも遠くから見ていたが凪の言う通りだと思うぞ」

 

秋蘭は思う、あの者は危険であると。

あの時に味わった背筋が本当に凍ったように走った寒気を、今すぐにでも逃げ出したくなるような殺気を・・・

そう春蘭と秋蘭の二人が話している中、凪は自分達を助けてくれた一夜狩りについて考えていた。

 

凪 (今回の戦で会えるだろうか・・・会えるなら、是非とも・・・)

 

凪は尊敬を通り越して憧れていた――――――

 

以前、自分が見た一夜狩りの強さは今の自分の何歩先も遠くへ行く存在だった

『彼女のように強くなりたい、例え無理でもどうか彼女の傍に歩めるようになりたい』

そんな想いが背中を押し、彼女は修練を積み重ねていった・・・だが、それでも幾ら修練を積み重ねようが、自分が目指す彼女の領域までは、まだまだ先は長そうだった。

 

華琳 「そう、その者はまだどこにも仕官していないのね」

 

凪が考えている中、会議の話は着々と進んでいた。

 

桂花 「はい、少なくとも燐兎という人物がどこかに仕官したという情報はここには入ってきていません」

 

華琳 「そう・・・」

 

その報告を聞いた華琳は再び何かを考え始めた

 

桂花 「華琳様?」

 

零 「どうかされたのですか?」

 

華琳 「―――やはり欲しいわね、その燐兎という人物」

 

桂花 「んなっ・・・!? か、華琳様ッ!? 燐兎は賊狩りとは言え、残虐非道の処刑を繰り返してきた人物・・・! そのような者を我が陣営に入れるなんて、華琳様の身が危険に晒されてしまいます!」

 

零 「ええ、わたくしも賛同いたしかねます・・・」

 

華琳 「桂花、零、あなた達も分かっているでしょう、これからわたし達の進む覇道は人材が幾らあっても足りないという事が・・・」

 

桂花 「・・・ッ! ・・・はい」

 

零 「・・・了解しました」

 

華琳 「分かっているならばいいわ、皆!さっそく出発の準備を始めるわよ!諸侯の前で無様な姿は見せられない、訓練不足の者達は置いていく、精鋭のみで打って出るわよ!!」

 

春蘭 「はっ!」

 

秋蘭 「はっ!」

 

桂花 「はい!華琳様!」

 

季衣 「は~~い♪」

 

流琉 「はい!」

 

凪 「はっ!」

 

沙和 「わかったの!」

 

真桜 「よっしゃ!」

 

零 「それでは華琳様、この陳留にはわたしめが留守番を―――」

 

華琳 「いいえ、今回の戦では主要な将は全員連れて行くつもりよ」

 

零 「なっ!? それではここは誰が守るというのですか!?」

 

華琳 「さっきも言ったように、この辺りの賊は一夜狩りの燐兎に殆ど討たれてしまっているわ、それなら代理で十分よ」

 

零 「・・・分かりました」

 

そして、今回の会議は解散された

しかし、玉座の間には華琳、桂花、秋蘭が残っていた

 

華琳 《桂花、秋蘭》

 

桂花 《はい》

 

秋蘭 《はっ》

 

華琳 《零の動向には気をつけなさい》

 

桂花 《はい!》

 

秋蘭 《はっ!》

 

そんな華琳達の密会を知らず、零は廊下を歩いていた

 

零 (くそっ! 今回の戦で留守を任され、その隙に自分に有利な状況に持っていこう・・・そう計画していたのに、ツイて無かったわ・・・!)

 

零は、何とかこの戦を利用して天下への道筋を作ろうとしていたのだが、華琳の大胆とも取れる行動に妨害されてしまった。

 

零 (それに一夜狩りを我が陣営に入れるですって? ・・・冗談じゃないっ!)

 

巷では、その一夜狩りの燐兎は最近の噂で 「天の御遣いでは?」 と広まっている

もし、本当に燐兎が天の御遣いであって、そんな者が来たら自分の目指しているモノ・・・その全てが大きく捻じ曲がってしまうことになる

そうなっては面白くもないし、苦労でしかない・・・まさに不都合である。

 

零 (まぁいいわ、今回は運が無かったと諦めましょ、・・・しかし、この大陸を取るのは、この私・・・ふふふ・・・精々ワタクシの掌の上で馬鹿踊している事ね・・・)

 

零 「ふふふふ・・・・・ふはははははははははははは!!」

 

零は我慢出来ず、廊下のど真ん中で見事な高笑いをしだした。

当然、その笑い声は近くを歩いていた文官武官に聞こえている。

 

文官 「あーあ、また司馬懿様が笑っておられるよ・・・」

 

武官 「はぁ・・・あの方もアレさえなければ、よき軍師になれるのになぁ」

 

テンプレ通りで呆れられていた。

 

零 「ふははははははは・・・ゲホッ!! ゲーホッ! ゴホッ! ウェッ!」

 

むせる。

 

文官 「あ、むせた」

 

武官 「前は転んで、その前は壁にぶつかって・・・あの人はとことんツイてないな」

 

零 「はぁ・・・はぁ・・・ふんっ!」

 

咳がやっと止まり、乾いた喉を癒す為、早々に水分を補給する為に自室に戻って行った。

なんとも残念な池沼である。

 

――――――そんな事もありながら・・・陳留は戦の準備をしていく

 

華琳は覇道への歩みの為、ちゃくちゃくと準備を済ませて行く

自身が判断し、決定した策の為に・・・。

 

だが、それはとんだ過ちであり、自身の首を絞める事になる・・・

 

 

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――――――洛陽・・・。

 

聖 「なんなのじゃ・・・これは・・・!」

 

月 「そんな・・・」

 

詠 「何よ・・・何よこれ!」

 

嵐 「ふざけている!!」

 

霞 「ええ度胸しとるやないか、あいつらッ!!」

 

菖蒲 「こんなこと・・・」

 

雫 「なんてことを・・・これが・・・人がやる事ですか・・・」

 

恋 「・・・・・・・・・・・・。 〈ぎゅっと強く握り拳を作る〉」

 

音々音 「言いたい放題なのです・・・」

 

他のメンバーが怒りに燃える中、リントは手紙の内容を再度読んでいた。

その手紙は、汜水関を掠め北から南へ行こうとしていた怪しい兵士を捕まえ、リントの公開拷問によって入手した檄文であり、それが三国の武将達に行き渡っているという情報も聞き出した。

リントの予想通りだった、十常侍の生き残りか何かが居り、それらの差し金であると

 

リント (やっぱりか。 ・・・しかし、やってる事が ”前の世界” の小物連中でもやらない手を平然とやるとはな・・・普通やらねぇぞ、こんなみみっちい手段)

 

詠 「まさか、各諸侯に喧伝する前にこんな檄文が出回るなんて・・・」

 

雫 「完全にやられましたね」

 

霞 「でも、なんで袁紹がこんな檄文作るんや? 幾らなんでも時期が合い過ぎとちゃうか?」

 

リント 「おそらく十常侍の残りカスが居て、・・・んで、そのカス共が袁紹を口裏任せて上手こと乗せて今に至るって感じだな」

 

聖 「己~~~・・・! ウヌめらめ~~~!」

 

聖は怒り心頭で顔が真っ赤だった。

それはそうだ、リント達のおかげで、早期であったが、ここまで復興した漢王朝をこんな形で妨害され、あまつさえ恩人にまで牙を向かれようとしているのだから・・・

帝をこうまで怒らせたら後々どうなるか、後の祭りでしかない。

 

詠 「奴等は汜水関、虎牢関の前に集まるようね。 こうなったら、この二つの関で時間稼ぎをして、やつらの兵糧を減らしていく、そのうち奴らは自国の心配でボロボロに――― 「ああ、それはないな。」 ―――えっ?」

 

リントの一声で詠は黙った。

 

リント 「詠、お前、私が月と出会う前・・・そう、お前らの所で客として世話になる前、何をしていたか・・・忘れてるだろ?」

 

詠 「え? あんたのやってた事・・・一夜狩り・・・あっ!!」

 

一夜狩りの肩書きでハッと大事であって、先ほどの策を完全に崩す要因があった、それは・・・

 

リント 「連合に参加する主な諸侯の国の賊共は、ほぼ全て私が討っている」

 

ため息交じりに両手を上げて言う。

 

雫 「それはつまり・・・。」

 

リント 「思ってる通りだ、奴らは自国の心配なんて一切不要で、遠慮無し、全力全開でこちらを潰しに来れる」

 

これも大方予想はしていた。

自分がやっている事も考えたら、他の所の阿呆共が喜々としてこちらに攻めこれて、尚且つ賊による侵略の恐れなぞ関係無しにやれるという事だ。

 

リント 「おそらく、この連合の数はお前らの予想を遥かに上回る数で来るだろう、もはや全面戦争と言っても良い位のだ。 1000? 2000? それだけじゃあちっとも足りない、屁の突っ張りにもならない。 そんなんじゃ、汜水関、虎牢関の防御なんて夢の又夢、死守という名目でも犬死で終わる」

 

詠 「そうね・・・リントの言う事がもっともだね・・・このままじゃ勝てない・・・それじゃあ」

 

雫 「そうですね、あとはここを捨て、長安に逃げるくらいしかありません」

 

リント 「だろうな。 ・・・詠、引越しにはどれくらいかかる?」

 

詠 「ん・・・っと・・・そうね、早くても一週間くらい・・・なんとかそれぐらい持たせないと・・・」

 

リント 「そうか。 ・・・兵糧は?」

 

詠 「汜水関で3日、虎牢関で5日ぐらい」

 

リント 「”十分”だな。 あい解った、・・・皆。 唐突でこんな事を言うのもあれだが・・・この宴は、私だけで行かせてもらう」

 

突然放つリントのとんでもない発言に一同は驚いた。

 

月 「リントさん!!?」

 

詠 「ちょっと!! 何考えてんのよ、あんた!? 冗談はやめてよ!!」

 

リント 「生憎だが、冗談で場を和ませようとしていない、これは本心であり、偽りの無い決定だ」

 

聖 「リント! お主の力量は買っておる! しかし、幾らお主だけでは太刀打ち出来ぬぞッ!」

 

月・詠・聖、両名の発言に便乗するように続き、他の者達もリントに馬鹿げた事を止めるように説得する。

それには、少し苛ついた。

世話になった知り合いとは言え、こうまで見くびられてしまったら怒らない訳がない。

リントは目を閉じ、深いため息をつく、そして・・・彼女の体を白い霧が被い、そこらから見せた衣装は・・・

 

――――――血のように紅いドレスだった。

 

そして、閉じた目を開くと、いつもの翡翠色の瞳ではなく、琥珀のように金色の瞳をしており、それに強く睨まれると月達は強張ってしまった。

 

リント 「見くびるな」

 

その一言で全員、冷や汗が吹き出てきた。

途轍もないプレッシャー、突然変わる場の空気・・・素人ならばとうの昔に逃げだしている状態だった。

重たいプレッシャーを放つリントは、口を開き話し始める。

 

リント 「お前らに私の全てが解るか? ”力量を買っている”?・”無茶”?・”ふざける”? ・・・お前らは何も理解していない、なーんにもな」

 

ゆっくりとしたペースで話すリントの一言一言が大きな圧力になり、場の全員をズンズンと沈めていく。

そこに居る全員、彼女の目を真正面に見れなかった・・・見た瞬間、死んでしまいそうな感じがしたからだ。

今までに感じた事の無い迫力、そして皆思う―――

 

「本当の彼女を理解していなかった」

 

・・・と。

 

 

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その後、リントの圧力に負けた皆は、名残惜しそうに了解し、リントだけが戦地に行く事になった。

そして・・・聖も同じく遠くに逃げる事になった・・・のだが

 

聖 「朕は、ここの主なのじゃ、逃げる理由などどこにも無い・・・だから、朕はここに残る!」

 

その発言に皆は驚いた。

突然放った覚悟を決めた言葉、その言葉を発する意味はどう意味するのか重々理解はしているだろう、だが敢えてこうするという選択を選んだ。

当然、月達は反対だったが、リントは・・・

 

リント 「そうか。 了解した」

 

月 「リントさん!?」

 

詠 「リント・・・!」

 

リント 「本人が選んだ決定だ。 私もわがままを通したんだ、相手のわがままも通さなくっちゃな」

 

反対もすれば出来るだろう、だがリントも絡み尚且つ帝である聖が自ら決定を下したのだ・・・誰も覆る事は出来なかった。

 

聖 「ありがとう、そしてすまぬな・・・リント・・・朕も今回の事には頭に来ておる、もはや主一人が向かうのは止めぬ、だが・・・頼む・・・必ず生き残ってくれ・・・そして、奴らに一泡吹かせてほしいのじゃ!!」

 

リント 「無論、そのつもりだ」

 

こうして、それぞれ準備に取り掛かる。

月達は引っ越しの準備、そしてリントは―――

 

 

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―――廊下にて・・・

 

リント 「聖、ちょっと・・・。」

 

聖 「ん? なんなのじゃ、リント?」

 

 

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―――また、その夜。

 

ノック音が鳴る。

 

詠 「リント? ・・・良いわよ、入って」

 

リント 「夜分に悪いな、詠」

 

詠 「別に良いわよ、・・・それで? 何の要件?」

 

リント 「あぁ、―――。」

 

 

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―――そして、深夜・・・皆が眠る中。

 

リントは月の個室に潜り込み、机の引き出しの奥に一枚の手紙をそっと置く。

そして、月の寝顔に向かい、お辞儀した。

 

――――――まるで、「今までありがとうございました」…と言っているかのように。

 

 

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――――――翌日。

 

リントの出発の時間がやってきて、正門の前で、月達が出迎えていた。

 

月 「リントさん、どうかお気を付けて・・・」

 

張済 「御武運を。」

 

リント 「ありがとう」

 

徐栄 「気を付けてな!」

 

聖 「頼んだぞ・・・、そして・・・必ず帰って来てくれ・・・」

 

詠 「―――。」

 

嵐 「お前から真名を貰ったのだ、帰ってこなければ承知せぬからな!」

 

霞 「まったく、一人だけで楽しもうなんざ・・・えらい強欲さんやのぉ・・・あんたは」

 

菖蒲 「いってらっしゃい!」

 

雫 「必ず・・・必ず戻って来てくださいね!」

 

恋 「リント・・・恋・・・待ってるから・・・。」

 

音々音 「恋殿がこうまで言ってるんですから、必ず帰ってきやがれですぞ!!」

 

リント 「聖戦に行く訳じゃねぇんだから、そう今生の別れみたいな事言うなってーの・・・んじゃま・・・」

 

リントは、魔法使いの姿・・・"マジコメイジ"の姿になった。

そのまま箒に乗り、フワリと宙へ上がり始めた。

 

リント 「行ってくる!」

 

その言葉を最後に、リントは汜水関、虎牢関へと箒を高速で飛ばして向かって行った。

 

月 「行って・・・しまいましたね・・・。」

 

張済 「またすぐに会えますよ」

 

月 「そうですね♪ あの方の帰りを待ちましょう!」

 

聖 「―――。」

 

詠 「―――。」

 

二人が話している横で聖と詠は、憂鬱そうな顔をしていた

 

月 「あれ? 聖様、詠ちゃん。 一体どうしたの?」

 

張済 「どうかされたのですか?」

 

当然、顔色が宜しくない二人の様子に心配になった月と張済は声を掛けた。

 

聖 「い、いや・・・なんでもないのじゃ!」

 

詠 「あー・・・わ、わたしもよ!? ・・・・・・さあ、引越しの準備を始めるわよ!」

 

二人の不自然な反応と言動を妙に思いながらも、全員はさっそく引っ越しの準備へと取りかかり始めた。

 

 

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反董卓連合陣地―――

 

ここには大小様々な将校が集まってきていた

それと共に、少し不自然な事が起こっていた

その何かというと、人数が多すぎる・・・という事だ。

数が多い勢力から順に整理していくと・・・

袁紹が30万、袁術が20万、曹操が8万、孫策が7万、馬騰が5万、公孫賛が5万、劉備が3万とその他もろもろの諸侯を合わせて、

合計100万の大群が勢揃いしていたのである。

何故に、こんなにも膨大な数になってしまったのか・・・

それは投降した元黄巾党が連合全体の半分以上を占めていたからである。

 

そんな男だらけで何ともムサ苦しい環境の中で連合軍の軍議が始められた

 

麗羽 「お~~~~っほっほっほっほっほ! お~~~~っほっほっほっほっほっほ!

 

ムサ苦しい中でも、このドリル頭女は健全と喧しい笑い声を挙げていた。

 

麗羽 「それでは皆さん、自己紹介をして貰えますかしら?」

 

実はこの会議は最初誰が総大将をやるのかを、まったく決まっておらず、人生の中でもっとも無駄な雑談を数時間もしてしまっていたのだ。

その途中で痺れを切らした桃香が 「もう、袁紹さんでいいよ」 と言い、結果として総大将は麗羽に決まった・・・という事である。

 

白蓮 「幽州の公孫賛だ、よろしく頼む」

 

桃香 「平原郡から来た劉備です、こちらはわたしの軍師の諸葛亮です」

 

朱里 「よろしくお願いします」

 

美羽 「袁術じゃ、河南を納めておる、まあ皆知っていると思うがの、ほっほっほっ!」

 

七乃 「わたくしは、美羽様の補佐をさせていただいている張勲と申します」

 

??? 「わたしは、袁術軍大将、紀霊と申す、よしなに頼む」

 

この七乃と似た服を着て、頭にお団子を作った長髪の人物は紀霊、真名を 【彩(さや)】 という、こう見えても袁術軍の中では一番の実力を誇り、かの孫堅も認めた猛将である

 

雪蓮 「呉の孫策だ、宜しく頼む」

 

冥琳 「私は、孫策の軍師をしている周瑜という、宜しくお願いする」

 

??? 「俺は涼州の馬騰だ、宜しく」

 

挨拶をしたのは、姓が馬、名が騰、字を寿成、真名を葵という。

隣にいる娘の馬超と同様にポニーテールをしており、背が高くかなりのスタイルを持っている。

 

??? 「あたしは、馬騰の娘の馬超だ」

 

麗羽 「あらぁ? ちょっと、葵さん? あなた確か病気じゃありませんでしたか?」

 

そう。

馬寿成は、この出来事が起きる、ついこの間まで重い病気に侵されおり、満足に歩けない状態だった筈なのだが・・・

 

葵 「あ~・・・いや、それがな? 華佗ってぇ~いう、腕前の良い医者が涼州を訪ねてきて、そいつに見て貰ったら何か訳のわからない内に一瞬でこんなに元気になったんだよ♪ いやぁ~華佗様々って~奴よ~あっははは♪」

 

翠 「あたしも病み上がりなんだから無理しない方がいいって言ってたんだけど、治った反動なのか、言う事聞かなくて・・・」

 

葵 「何言ってるんだ翠♪ なんか前よりも調子がいいから動かなきゃ損だろう♪」

 

翠 「・・・・・・はぁ。 (まるで風邪が治った子供だ・・・。)」

 

葵 「何か言ったか?」

 

翠 「いやっ?」

 

元気になったのはいいが、元気になりすぎているような気がしている翠であった。

そして自己紹介は進んでいく

 

華琳 「典軍校尉の曹操よ、こちらは我が軍の夏侯惇、夏侯淵よ」

 

そして各諸侯が次々と自己紹介していった、最後に残ったのが

 

麗羽 「それでは最後に、このワ・タ・ク・シ・が―――」

 

華琳 「あぁ、貴方の事は皆知っているから良いのではなくて? (馬鹿な意味でね)」

 

白蓮 「うんうん、皆知っているからな。 (馬鹿って意味でな)」

 

美羽 「うむうむ、みんな知っているのじゃ♪ (馬鹿な意味での)」

 

七乃 「なんせ有名ですからね~ (馬鹿な意味で)」

 

葵 「ほんとっ、有名だからな~ (どうしようもない馬鹿って意味で)」

 

麗羽 「あらやだ! そこまで有名人ならば仕方ありませんわね~♪ この大陸において、この袁本初の名が知れ渡っているとなると、自分が怖くてしょうがありませんわぁ~、お~~~~っほっほっほっほっほっほ!」

 

"知らぬが仏" ・ "知らない方が良い事もある" ・ "触らぬ神に祟り無し"

この言葉がこうも似合う人物もそうそう居ないだろう。

 

斗詩 「・・・文ちゃん、なんかもう、わたし恥ずかしくて死にそうだよぉ~・・・。」

 

猪々子 「まぁいいじゃん♪ 姫らしくてさ♪」

 

斗詩 「そういう問題じゃないって~・・・」

 

陰ながらであるが、この袁本初の陣営では斗詩はかなりの苦労人であるという事が明白だった。

 

麗羽 「それではさっそく軍議を――― 「その前に!!」 ―――何かしら? 曹操さん」

 

麗羽の言葉を遮ったのは華琳だった。

 

華琳 「その前に、各諸侯に尋ねたい―――、この中に一夜狩りの燐兎が仕官している者はいるかしら?」

 

その言葉が離れた途端、周りの空気が静まり返った。

各諸侯は誰も何も答えない。

ただ、首を傾げるだけだった。

 

麗羽 「燐兎? 誰ですの、その田舎者は?」

 

本人がそれを耳にした途端、怒って胸倉掴まれて気絶するまで殴られそうな事を平然と口にする。

 

斗詩 「麗羽様、報告にあったでしょう。 一夜にして、数々の国に張り込む賊達を殲滅させた噂の―――」

 

猪々子 「ああ~~~! 確かウチの領地の黒山賊共も、そいつ一人に全員血祭りに挙げられたっけか!」

 

麗羽 「もうっ! そんなことは忘れましたわ! ・・・それで? その燐兎が・・・どうかなさいましたの?」

 

華琳 「いえ、居ないのならもういいわ」

 

葵 「ん? あー・・・今思い出したわ。 そういえば、俺の病気を治してくれた華佗がその一夜狩りの燐兎の事で酷く語っていたな」

 

華琳 「なんですって!?」

 

桃香 「本当ですか!?」

 

雪蓮 「それ本当なの!?」

 

葵 「えっ? あ、ああ・・・何でも、華陀は以前そいつと遭遇した事があって、目の前で無抵抗の相手をなぶり殺しにした・・・とか・・・んで、その後の行動が全然読めないとか・・・行く先々で患者だった者が直されてて、燐兎に治療させて貰ったとかで、その腕前は自分の医療技術と並ぶ程だって・・・」

 

「「「―――ッ!?」」」

 

雪蓮と冥琳以外の一同がかなり驚いた顔をした。

この大陸でもかなり上位に食い込むほどの武を持ちながら、神医と謳われている華陀と並ぶ程の医療技術を持っているとは・・・

 

雪蓮 「それなら、あたしも知っているわ」

 

葵 「まさか・・・そっちん所も?」

 

冥琳 「そうだ。 先刻の黄巾党の乱で我が国の将が、その燐兎の助力を得て黄巾党を撃退したんです」

 

桃香 「ええ!?」

 

華琳 (神出鬼没とは聞いてたけど、まさか呉まで出向いていたとは・・・。)

 

雪蓮 「その戦闘の後に、怪我をしたこちらの将兵を次々と治してくれたって聞いたわ (何故か幸せそうな顔だったというのは伏せとくけど・・・。)」

 

葵 「ならば、この情報は本当のようだ、華陀が使っていた医療もかなり変わっていたが、燐兎も相当な物らしい」

 

一同は、再び無言に返り、もう一度燐兎について考えた。

「そんな者が味方になってくれたらどれほど心強いか」 そう想いを浮かばせながら・・・

 

そして、軍議は、ようやく開始され、各諸侯達は提案を持ち掛けていく、

・・・が、しかし、その軍議から導き出された作戦は、あまりにも酷いモノだった。

 

それは―――・・・

 

麗羽 「雄雄しく、勇ましく、華麗に進軍ですわ~~~~~♪」

 

もはや笑えもしない。

逃げも隠れもしない、単純明快、全速前進、特攻隊よろしくの正面突破だった。

そのまま軍議は解散となり、先方は総大将に麗羽を押した桃香に決まった。

 

桃香 「う~ん・・・」

 

愛紗 「桃香様? どうかなさいましたか?」

 

星 「一夜狩りの燐兎・・・その事で、・・・ですかな?」

 

桃香 「うん、せっかく会えると思っていたのに残念だなぁって・・・」

 

星 「まぁ、そう簡単にはいきますまい。 (それに、二度は会いたくありませんしな・・・)」

 

星の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。

あの日、あの時、自身がもっとも屈辱的敗北をしてしまったあの日・・・

 

鈴々 「にゃ? やっぱりあのお姉ちゃん、どこにも仕官していなかったなのだ?」

 

朱里 「はい、やはり一筋縄ではいかないようです」

 

雛里 「今もどこかで、山賊達を狩っているのでしょうか?」

 

愛紗 「・・・・・・。 (果たして、それはどうだろうか? 何か先ほどから嫌な予感がしてしょうがない・・・)」

 

皆が話している中で愛紗だけは、この後起きる何かを肌で感じ取っていた。

この後、自分等にとって良からぬ出来事が、どうあっても自分等に非があり、何も得が得ない事に・・・

 

愛紗 (このまま逃げだした方が利口・・・そう思えて仕方ない。 だが、そんな敗残兵のような真似事など、私には・・・)

 

"一夜狩りの燐兎"

この単語を聞くだけで、どこか胸にポッカリと穴が開いている事を実感させられる。

以前まで、自分の傍には誰かが居た。

だが、その者を目の前で失ってしまったような、まるで今生の別れを果たしたばかりのような喪失感を、彼女は感じていた。

 

星 「ん? 如何なさったかな? 愛紗よ」

 

愛紗 「・・・いや・・・何でもない」

 

少々顔色がよろしくない愛紗に即座に気づいたのは、星だった。

汗は掻いていなかったが、それでも苦しそうな表情をしていた。

 

星 「・・・燐兎・・・その者の事ですかな?」

 

愛紗 「―――ッ!」

 

鈴々 「ん? どうしたのだ? 燐兎がどうかしたのだ?」

 

桃香 「もしかして愛紗ちゃん、その燐兎さんに会いたかったの?」

 

愛紗 「あっ・・・いやっ・・・。」

 

二人の反応が、自分の考えとは違う反応を示し、少し焦る愛紗。

その様子に星は 「やれやれ」 と心の中でため息をつき、口を開けた。

 

星 「なーに、いずれは会える縁であろう。 『待てば海路の日和あり』でありますぞ」

 

桃香 「そうだね、その内会えるよ!」

 

愛紗 「は、はぁ・・・。」

 

朱里 「―――。」

 

雛里 「―――。」

 

と、そんな会話をしている劉備軍の面々だった

 

 

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雪蓮 「一夜狩りの燐兎は居なかったか・・・少し残念ね・・・。」

 

冥琳 「うむ・・・。」

 

穏 「そうですね~ちょっと残念です~」

 

明命 「噂の賊狩りさんに会いたかったです」

 

乂猟 「燐兎・・・。 (あいつは何処に?)」

 

思春 「少し残念でしたね・・・。」

 

蓮華 「皆、そんなにその一夜狩りに会いたいの?」

 

明命 「はい、かなり興味があります。 一夜にして、賊を全て討った者・・・どのような武を持っているか、見てみたいです」

 

思春 「正直に申しますと、私も・・・。」

 

祭 「それはそうであろう、武人としてこれほど興味のある対象は少なかろうに」

 

呉の将達が燐兎について語っていると―――

 

雪蓮 「あっち側に居たりしてね。 まぁ、それはそれで面白いことになるかもだけど♪」

 

冥琳 「ちょっ・・・!? 雪蓮ッ! 不吉なことを言うのは止めてくれ!」

 

雪蓮 「えぇ~? なんでよ?」

 

冥琳 「あのねぇ・・・あなたの勘は良く当たるからよ! 滅多な事は慎んで頂戴ッ! ほんっとシャレにならないから!」

 

乂猟 「あ~・・・確かに冥琳の言う事が正しい。 本当に燐兎が向こうに居たら、この後俺達全員消し炭にされるかもだから・・・」

 

冥琳 「ちょっと!? 乂猟! それほどなのか!?」

 

雪蓮 「あら~♪ それじゃあ、本当に居たら、あたしが先に貰おうかしらねぇ~♪」

 

乂猟 「いや、冗談で言っている訳でもないし、あいつに楽しむという一環で挑むのは、それこそ死を招く事になる」

 

真剣な眼差しと声色で全員は事の重大さを把握し始めた。

 

穏 「どのように危険なのですか~? 乂猟さん」

 

乂猟 「先に言っておく。 もし本当に居たのならば、この場に居る将全員で奴に斬りかかった方が良いだろう」

 

その言葉に全員は 「えっ!?」 と声に挙げて驚いた。

この場に居る将、その全てを纏めて掛かれ、それ程に危険でヤバい奴なのかと危機感を覚えた。

 

蓮華 「な、なんですって!?」

 

思春 「本気なのか子義!?」

 

明命 「はぅあっ!? ぜ、全員でですか!?」

 

祭 「何と・・・お主にそこまで言わせるとは・・・。」

 

乂猟 「それほどだ。 それほどまでに奴は強く、天下無双と言われている呂布すら一騎打ちで軽く倒せれると言ってもいい」

 

真剣で、それで居て危機感に押されている乂猟の表情を見た将達は生唾を呑みこんだ。

あの呂布さえも赤子のように軽く倒せるというぐらいだ、そんな者を敵として戦うと想像するとゾッとし始めた。

 

雪蓮 「・・・いいわ、もし居たら全員でかかりましょう」

 

蓮華 「お姉様!?本気ですか!?」

 

雪蓮の発言は、もはや「もし」という単語が無意味と思える程確定した決断だった。

 

雪蓮 「噂の一夜狩りの情報を持っているのは、ウチの陣営では実際に出会った乂猟ぐらいしか居ないわ、ならば乂猟の意見を聞いた方が得策よ」

 

冥琳 「いつもの勘か?」

 

雪蓮 「そういうこと♪」

 

そんな会話を呉の陣営はしていた

 

 

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華琳 「噂の一夜狩りの燐兎は、居なかった。 それも、どの陣営にも所属していなかった・・・か・・・。」

 

少し残念で、まだツキがあると確信した華琳だった。

 

秋蘭 「華琳様、そんなにその一夜狩りのことが気になるのですか?」

 

華琳 「そうね。 噂では女性と聞いているけども、是非とも我が覇道に加えたいわ」

 

春蘭 「華琳様! 華琳様には、私と秋蘭がいるではありませんか!」

 

華琳 「あらっ・・・うふふ♪ 嫉妬してくれているのかしら? 嬉しいわよ春蘭♪」

 

春蘭 「華琳様♪」

 

華琳は春蘭の頬をそっ・・・と撫でる。

 

桂花 「んん~・・・華琳様ぁ~・・・。」

 

華琳 「はいはい、あなたも可愛がってあげるわよ、桂花♪」

 

桂花 「あぁ~♡ 華琳様~♡」

 

そんな桃色な雰囲気の外では―――。

 

凪 「―――。 (会えると何処かで思っていた・・・だけど・・・それは偽りだったのか・・・。)」

 

沙和 「あれぇ~? 凪ちゃん、どうしたの?」

 

真桜 「沙和さん、凪はな、噂の一夜狩りさんに会えなくてめっちゃ残念がっとるんや♪」

 

凪 「んな!? ななな、何を言っているんだ真桜!? 私は・・・!」

 

沙和 「あ~、凪ちゃん赤くなって可愛いの~♪」

 

真桜 「せやな~、こんな凪見るの初めてやわ♪」

 

凪 「お、お前達は~・・・。」

 

どこぞの女子高生のトークみたいな事が繰り広げられている中、その外野、少し離れた所では―――。

 

零 「―――。」

 

零は、華琳を含めた魏の将達にこれほど影響を与えている一夜狩りの燐兎という存在を恐れていた。

だが。

 

零 「燐兎・・・か・・・。」

 

それと同時に興味も出てきたのだった

周りにこれほど影響を与えられる人物をもし自分の手駒として扱えたら―――。

 

零 「・・・くっ・・・ふふふふっ♪ 面白くなってきそうねぇ・・・♪」

 

そして、開戦への時間は刻々と迫ってくる。

 

 

―――汜水関。

 

山脈との間に存在する要塞であり、その前方には荒野が存在する。

隠れる所が無く、麗羽の言う正面突破の作戦は、ある意味では似合いの場所だ。

 

 

今宵、この場で悲劇が起きる―――。

 

 

悲劇の元凶であるリントは、既に待機しており、汜水関に置かれている食糧を調理して、要塞の上で腹ごしらえをしていた。

到着時、警備をしていた兵を月達の元へと帰し、この要塞にはリントとぬこ一人+一匹だけであった。

スパルタンも冷や汗モノの状況、1対100万。

普通ならば、迷わず自害を選択してしまいそうな状況であるにも関わらず、リントは普通に冷静だった。

 

「にゃ~」

 

ぬこは鳴いた。

いや、"言った"と表現するが良いだろうか。

リントはその言葉を理解している口調で、話し始める。

 

リント 「別に、ただ面白そうだったから。 それに・・・あんな招待状を受け取ったら、いかなきゃ礼儀がなってないってもんでしょ?」

 

「にゃ~・・・」

 

ぬこは、頭を下げながら言った。

 

リント 「心配しなくても、武将達は何とか生かして雑兵だけ殺るだけだ問題ない」

 

ぬこは、下げていた頭をあげて首を傾げる。

 

リント 「それに、そういうぬこだって、"楽しみでウズウズしてる" じゃないか」

 

そう言われた途端、ぬこはニッと瞳と口を閉じながらだが、笑みを出してリントを見た。

その時だった。

ドドドドドドドドドド・・・と、大きな馬の足音と人間の走る音が混ざりあった宣戦を告げる音が鳴り響く。

関の旗を掲げた一団がやってきて、要塞の近くで制止した。

 

リント 「やっときたか」

 

リントがそう小さく言った、次の瞬間。

 

愛紗「汜水関を守る将、華雄よ! 貴様は、そのように高い壁の上で縮こまっている臆病者か!? 自分の武に自信があるのなら、出てきてこの関羽と戦うがいい!?」

 

リント 「・・・はっ?」

 

何言ってんだ? と思ったが、すぐに記憶が描き足される。

この場では本来、華雄・・・つまり嵐が参戦しており、敵の挑発に乗って、一人特攻を掛け込みそのまま関羽である愛紗に斬られてしまうのだった。

どうやら、愛紗達は汜水関には嵐達が守備していると勘違いしており、まさかここにはリントただ一人しか居ないなんて夢にも思っていない。

事情を知っている者からしたら、物凄くこっ恥ずかしい場面になってしまっている。

 

愛紗 「どうした華雄! やはり貴様は臆病者だな! 自分の武に自信が無いだけに、そのような石の壁に閉じこもっているのだからな!!」

 

ぬこは、愛紗のこっ恥ずかしい様子よりも、リントの表情に眼が行っていた。

幾ら他人へ向けた挑発とはいえ、現在ここにはリント一人、まるで挑発がリントに対する罵倒として捉えて仕方が無かった。

 

そしてさらに挑発は続く―――。

 

雪蓮「負け犬華雄よ! 以前はわたしの母、孫堅に敗れてかなり落ちぶれたが、今では前以上に落ちぶれようだな! それもしょうがないか! 我が母、孫堅の武とおまえの武では天と地の差があったからな!!」

 

一応なのか、記憶が描き足される。

確か、華雄は孫呉の王孫堅に完膚なきまでに負けたことがあった。

それを今更ながら、ねちねちと言ってくる所にリントの表情は次第に怒りに歪んでいく

 

雪蓮 「どうした華雄! それでは以前の方がマシだったぞ! やはり貴様は負け犬華雄だな! 皆ッ! 関にこもるしか能の無い負け犬華雄を笑ってやろう!!」

 

孫呉兵達 「はーっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

主に自分等に止めを差すように高笑いを決め込み、ぬこは再度リントを見た途端、リントの顔は冷え切った顔をしていた。

ぬこは、「あーあ・・・」と言わんばかりに口をパックリと開き、唖然としていた。

もはや、彼らに生きる未来は無く、この後無残に死ぬ定めだと、ぬこはどうしようもない未来に敵を憐れんだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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雪蓮 「おかしいわね・・・、こうまで挑発すれば、出てくる筈なのだけど・・・。」

 

未だに、汜水関にはリント単体しか居ないと分かっていない雪蓮達は首を傾げていた。

 

乂猟 「雪蓮、本当に華雄は、噂通りの猪武者なのか?」

 

雪蓮 「ええ、そのはずなんだけど・・・。」

 

愛紗 「情報通りの愚者ではないのですか?」

 

鈴々 「居ないのかなぁ~?」

 

星 「ふむ・・・作戦の練り直し、ですかな?」

 

雪蓮 「―――。」

 

雪蓮は少し焦っていた。

これだけ挑発しても城壁からは何の反応も来ず、反撃の気配すらない

関の上には紺碧の張旗と漆黒の華一文字が風に靡いている、それなのに何も反応が無いのはおかしい。

確かに華雄はここにいる筈、なのに華雄は顔を見せようともしない、それよか人の気配がしない・・・

 

雪蓮 「―――ッ! まさか・・・!」

 

 

――――――もう遅い。

 

 

次に目にした光景は、光り輝く無数の巨大な魔方陣が汜水関前方を覆い尽くしている光景だった。

 

リント 「さぁ、宴を始めようか」

 

 

●【リント変身図鑑】

 

●サイコ✝ドクター

 

 

《小話》

主に相手の治療をするのに使う衣装、一応戦えるけど、戦力的に低い。

魔法の注射器(大)に入っている液体の正体は、リント自身にも解っておらず、その成分は未知なる物とされている。

注射器で、直接針で差し込んで液体を注入してしまうと、どういう訳か肉体が一時的に崩壊を起こし、化物へと変わってしまう恐ろしい効果を持つ。

だが、液体を飲ませたり、ぶっかけたりした場合は身体の全神経が気持ちよく、飲ませた場合は内部が、ぶっかけた場合は外部が完治する。

代わりにデメリットとして、液体の量によってだが一定の時間は痛風のように風が吹くだけで全身に気持ちよさが流れ、下手をすると発情状態へと移行してしまう恐れが出る。

リントの調べでは、婿薬のような興奮効果もある事から、使用は状況を見て判断してから使用する。

 

 

●【今回のバトルBGM】

 

※今回のバトルBGMはお休みです。

 

 

●【あとがき】

 

Hankです。

遅くなった理由は、前回のあとがきに書いたと思いますが、一応もう一回言うと仕事が忙しいからです。

つーわけで、やっと始まりました、汜水関の戦い。

なんと、我らがリントが単体で挑みに行っちゃうからビックリだの何だの・・・もう色々と無茶苦茶です。

この後、各諸侯はどうなってしまうんでしょうね~。(ゲス笑み)

とりあえず、リントを除く全員は無事で帰れないと思います。

 

さて、Seigou様が、連載している北郷伝も、そろそろクライマックスに突入しようとしている模様。

もうこの際言っておきますが、北郷伝もリスペクトさせて貰います、というか北郷伝入れないと色々と落ちつかない設定があるので。

主に、リントが前に居た別世界の話ですが・・・あと、以前投稿した番外編のジャックにも関連性があります。

一応、脳内では色々とシナリオを組み立てているのですが、ペースが・・・ペースが追いつかんのです・・・!

 

そんな訳ですが、こんなマイペース過ぎる私ですが、気長にお待ち戴ければ幸いかと・・・(ここ何回も言ってる気がする・・・)

あと、いい加減に一話から先の話の訂正をしとかないと・・・。

 


 
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