郷に入れば郷に従え。
郷(地域)にはその郷の習慣や風俗がありその郷の決まりごとに従うべき(守りなさい)、という意味である。
平賀才人は現代の世界からトリステイン王国に来た異邦人である。
貴族と平民、絶対的な支配と絶対的な従属が義務づけられているこの世界で彼は何を思うのか。
才人とルイズは平民街の食品市場にいた、夕食の材料を調達するために市場を練り歩いていた。
「今日はステーキが食べたいわ、お肉を見に行くわよ」
「あわてるなって、迷子になるからゆっくり行くぞ」
今日は週末恒例のルイズの日(才人が命名した)、お持て成しのための御馳走を何故か持て成される御人と一緒に馳走している才人だった。
才人は浮かれていた、女の子と一緒に生活必需品を買い物するという状況に涙が出るくらい浮かれていた。
「あっちからいい匂いする、いくわよサイト」
「お上りさんみたいだぞ、あまり目立つ事はするなよ」
平民街の市場に来たことのある貴族はあまりいない、ルイズの目にこの市場は初めて訪れた異国の町のように映っていた。
ルイズはとても目立っていた、美しい顔立ちと高級な香水の匂い、そして明らかに品質が高そうな学院の制服とマント。
仕事を終えた労働者や生活観あふれる主婦がごった返す中で、ルイズは周りからの注目を集めていた・・・特に男達から!
(やっぱり、こいつってすごく可愛いよな~道行く人がみんなルイズを見ているし・・・ヤロー共!ルイズをあまり見るんじゃねぇ!!)
かくいう才人もルイズをずっと見ている、ほかの人(特に男達)には見るんじゃねぇ!!と思いながらも・・・ちょっぴり優越感を感じる。
ルイズの寄り道で思った以上に時間を食ってしまったが夜の市場はまだまだ人でごった返している。
ようやくお目当ての肉を扱っているエリアに到着した二人、ここからは才人がお財布や自分の料理の腕と相談して買うもの選んで行く。
(ん~これはさすがに高いか?こっちは安いけど骨が多くて調理しづらそうだしな~、じゃあこっちは・・・)
才人は料理が得意なわけではない、元の世界でもほとんど台所に立った事はなく得意料理がカップラーメンという今時な男の子だった。
王都トリステインに住んでからは一人暮らしで生きるために自炊をする事を覚えた、というよりも覚えなければならなかった。
(家にある調味料だとこの肉に合うのかわかんねぇ~、となるとあっちのが・・・いや、高いよな~と言うかたぶん足りないかも)
才人は親方の奥さんに料理を習っている、火の扱い方や調味料の使い方はまだまだだが何故か包丁の扱い方はすごく褒められた。
味付けも才人の世界の味を再現できる料理が増えてきて、大親方のじーさんや親方の娘のアナちゃん(9歳)からは絶賛大好評中。
仕事場の仲間は才人が親方の家にお邪魔して夕飯の世話になっていると思っているらしいが実は作りにお邪魔している才人であった。
この世界に来てから色々と器用になっているもんだなと思ってはいるものの、才人はそこまで自分の上達に気づいてないらしい。
「遅い!?まだ終わらないの、こんなにいっぱいあるんだから早く買って帰りましょうよ!!」
才人が必死に考えている横でルイズが大声で急かしてくる。
「こっちにも予算があるんだよ、なるべく安くて良い物を買いたいんだ、悪いけどもうちょっと待ってくれよ」
所帯じみた才人の言葉に周りからクスクスと笑い声が起こる、今の才人は使い魔ではなく完全にお母さんだった!!
「まったくしょうがないわね~ここはご主人様の威厳を見せるしかないようね!ふふ!!」
ご主人様にまかせろと宣言するや否や、ルイズは肉屋の主人に対して言い放つ。
「ステーキが食べたいの、ステーキに出来る一番いい肉を持ってきなさい!」
肉屋の主人は一瞬あっけに取られたがすぐに「はい!すぐお持ちします!!」と奥のほうから肉のかたまりを持ってきた。
運ばれてきた肉は一目で分かるくらい良質な物だとわかった、おそらくこのお店で一番良いものなんだろう。
「サイト、これでどう?一番いい物をもってきたわよ」
「ああ・・・文句なしだな、文句はないよすごくいいお肉だな」
その言葉を聞いたルイズは得意げになり、才人に自信満々に言い放つ。
「まったく、私がいないと買い物も出来ないなんて困った使い魔ね~」
「ソウデスネ~、サスガオレノゴシュジンサマダゼ・・・」
才人は固まっていた、ルイズが選んだこのお肉は間違いなくいい物で・・・間違いなく高い!!
得意げなるルイズの横で才人は小声で肉屋の主人に値段を聞くが帰ってきた数字を聞いてさらに固まる。
「あの~ご主人様、ご主人様」
「何よ、早く持って帰るわよ!もうお腹ペコペコなんだから!!」
さすがにかっこ悪いとは思うが無い袖は触れない、才人は恥をしのんでルイズに告げる。
「ごめん・・・お金が足りなくて買えない、本当にごめん」
好きな女の子の前でカッコつけようとして失敗した男の子の無念は女性に理解できるのだろうか、くやしくて才人はシュンとしている。
「ちょ!ちょっと!?そんなに落ち込まないでよ~私に任せなさいっていったでしょ、ご主人様の偉大さを見せてあげるから」
「えっ?もしかしてルイズが・・・」
買ってくれるのか?と才人が言う前にルイズが言った。
「これ、貰っていくから今すぐ包みなさい」
肉屋の主人は恐る恐るルイズに言い返す。
「お客さん、代金のほうを頂いてからではないと・・・」
ルイズはいつもと変わらない声で、いつもと変わらない表情で、いつもと変わらない自信あふれる口調で。
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「今すぐ包みなさいって言っているんだけど、聞こえないのかしら...平民!」そう言った。
郷に入れば郷に従え。
郷(地域)にはその郷の習慣や風俗がありその郷の決まりごとに従うべき(守りなさい)、という意味である。
ここトリステイン王国は貴族と平民という身分制度がある。
貴族と平民、絶対的な支配と絶対的な従属が義務づけられているこの世界で彼は何を思うのか。
....第07話 貴族と平民 終
next第08話 平賀才人とトリステイン
執筆.小岩井トマト
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ルイズと二人で買い物に行くことになった才人。
楽しい一時ををすごしながら市場を散策します。
大好きなルイズと一緒に・・・ですが。