真・恋姫†無双~物語は俺が書く~
第8幕「Lie and the truth(嘘と真実)」
「ヤッ!」
―――ブゥン!
敵が得物を…鍬を振るうが、狙った獲物は何食わぬ顔でヒラリっと、かわす。敵は大ぶりだった為に隙が出来ていたが、獲物…一刀はそれを突く事はしなかった。何せ敵は、
「なぁ、町人であるアンタが武将…じゃないが力のある奴に勝てると思っているのか?」
「う、うるさい!俺は、俺は“張三姉妹”の為にやってやるんだ~~~っ!!!」
「(情報ご提供、ありがとさん)」
敵は武の心得すらない町民であった。
今、一刀は“黄色い布”を付けた町人達の暴徒を鎮圧していた。あの『華琳、Yシャツ事件?』から数週間、何の前触れもなく表れた暴徒。それも一つや、二つではなく、数え切れないほどであり陳留以外の所も同じであった。
その為に春蘭、秋蘭、季衣だけではなく、“武将もこなせる軍師”こと『妖刀使いの稲妻』兼『天の御遣い』の北郷 一刀すら戦場に出る始末。しかも出たはいいが相手が町人で殺すわけにもいかず、追い払うだけ。
一刀もその方が精神的にいい為、ある程度情報を聞き出してから追い払っていた。……相手を精神的に追い込んでからだが。
町人が無造作に鍬を振るうが、それもヒラリと交わすがすれ違い際に町人の耳元でボソボソっと囁く。
「大概にしないと……爪を剥ぐぞ?」
「ヒッ!?」
本気でやる訳では無い。ただ、相手の戦意を削ぐためのハッタリである。そのハッタリを本気に見せる為に出来るだけ、ドスを利かせた声で囁いた為に町人は自分の得物を落とし逃げ出した。
それを詰まらなそうに眺めている一刀の下に、一人の部下がやってきた。どうやら追撃部隊はどうするか、指示を仰ぎに来たらしい。一刀は少し考えてある事を思い出した。
「そういえばさ、警備隊から何人か増援に来ていたよな?」
「はい。各部隊から数十名ほど…」
「なら“紫龍隊”に追撃を」
「はい。了解しました」
部下が頭を下げながら去ろうとした時に、一刀は楽しそうにこう付け加えた。『殺さずに、追い込み無邪気な恐怖を叩きこめ』と。部下は一刀に恐怖を感じながらも、憧れの眼差しを向けて、『さすが血畏怖!素敵っす!!』と言って駆け足で去って行った。
一刀は少々これからの自分を不安に思いながらも、城への帰路についた。
――― 陳留の城―玉座の間 ―――
「妖刀使いの稲妻!推・参!!」
「どうでもいいから、机から退きなさい」
城に帰ってきた一刀は、ただ普通に軍議に参加しても詰まらないと思い窓から飛び込み、皆が話しあっている中に着地。勿論、机に敷いてある地図は踏まないように股を開いて着地した。何故なら、この世界にとっての地図は物凄く貴重であり、一刀は桂花と策を練る際にそれをよく実感した。何せ、最初に墨で描こうとして桂花に文鎮で叩かれそうになり、流石の一刀も武道の心得が無ければBAD ENDであったであろう。
そんな奇怪な参上の仕方だが、華琳たちは驚く事は無く一々突っかかってくる桂花にさえスル―される始末。もう、一刀の行動もお馴染みのようだ。一刀も無反応な対応に、ムッとしながらも机から退いて自分が居なかった時の内容を聞いた。
簡単に纏めると、
何処の国も陳留の現状と変わりなく、黄色い布を身に付けた暴徒の対応に手を焼いている。
一団の首魁の名は張角と言うらしく、正体は不明らしい。
正体不明というのも、捕らえた賊に尋問しても、誰一人として離さなかったという。
「……ふむ。剣を振り上げれば逃げ回るクセに、そこだけは口を割らぬのか。何やら君が悪いな」
春蘭のボヤキを聴きつつ、一刀は資料として机に置かれていた黄色い布を見てある名が頭に過ぎりその名を口にする。
「“黄巾党”……か」
「?知っているのか、北郷」
「名前のみは。しかし、それだけで俺が知っている“黄巾党”がこちらと同じという訳でもないから、これ以上は言えん。華琳もその方が良いだろ?」
「…そうね。明確な根拠の無い情報など、占い師の予言と大差など無いわ。まぁ、名前だけは貰っておきましょう」
一刀の囁きに秋蘭が反応した。
黄巾党
―――陰陽五行思想に基づく「蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉」(蒼天已に死す 黄天當に立つべし 歳は甲子に在り 天下大吉)をスローガンにし、役所の門等に甲子の文字を書いて呼びかけた。ちなみに黄色は五行思想では「土」を表す色で、木火土金水の順に巡るとする法則に合わせれば、「火」(赤色)の王朝である漢の次、代わるものという意味もある。
「(勉強になるよ。ウェキ○ディア)」
それはどうでもいいが実際に、この黄巾党が起こす『黄巾の乱』で起こる事で及ぼす影響は凄まじいはずと、一刀は記憶しているがそれが果たしてこの世界で同じかと聞かれれば、返答に困った。
その証拠に一刀が居た正史では、曹猛徳は男で鎌など使って無かったはず。更に、桂花と季衣が仲間になるのが早すぎる。その事から、察するにある程度は正史と同じでも完全に再現される訳ではない。更に居れば“一刀”という異分子が居る以上、この世界がどう転ぶかは神すら解らぬだろう。
「(いや、既に踊らされているのか?)」
因み桂花に『お前は俺の世界じゃ男なんだぜ?』などと言えば一刀が殺されるか、自殺するかだろう。
そんな事を考えていると、華琳が一刀に軍師としての意見を求めてきた為に机の地図を眺めてみる。
「(…地図に乗っている石は場所を表している。今日、俺が行った所はこの“汚い石”か。…桂花、覚えていろよ)」
一刀が今行ってきたと思われる場所には、汚い石が置いてあるのはきっと桂花の仕業だと断定し、強烈な仕返しをすると心に決めつつ隣の赤い石を見る。その石が置いている地域は春蘭が鎮圧に行った場所であった。その隣には青い石…秋蘭が鎮圧した所。順に辿っていくと、とあるに気づき桂花に間者に聞いたという、“場所と日にち、そして数と進軍方向”を訊く。
桂花も嫌々ながらも軍師としてしっかりと答え、日を追って石を置いていく。それを見て一刀は深い溜息を着き、華琳に報告する。
「厄介だな…」
「何か解ったのかしら?」
華琳も目を細め質問しつつ、今の石を置いていく順番を見て気付いた。最初はバラバラに行動していた暴徒が日を追う事に、暴徒同士が合流している事に。
しかし、一刀はそれより遥かな先を読んでいた。
華琳が気付いた通り、バラバラであった暴徒が合流しているがその現われ方である。最初は全ての暴徒が北へと進軍していたのにも関わらず、方向転換して西へと向かい今度は南、東へと進軍していた。まるで“何かを追っている”かのように…。
「黄色い布は“意志の疎通”。自分たちは仲間だと認識を高め、士気の向上を高める。軍隊の真似ごと」
「うむ。確かにそれなら合流してもいざこざが無く協力しあえるだろう」
「まぁ、それでも烏合の衆だけどね」
「他に気づいた事は?」
秋蘭と桂花も気づいたのか、話に加わる。春蘭たちは…言わぬが花であろう。
華琳がその程度の事と言いたげな不満そうな顔で催促するために、一刀は先ほど気付いた黄巾党の目的らしき物をいう。
「黄巾党は……何かを探している、いや…何かを追っている気がする」
「どうして?」
華琳もそれには気付かなかったのか、理由を尋ねた。
「小さな黄巾党の軍隊はこの大きな軍隊に合流するように動いている事は解るな?」
「其れぐらい春蘭以外は解るから先を説明しなさい」
「桂花!?誰が身体を動かす事しか能がないだと!?」
「黙りなさい、春蘭」
桂花の悪口に、敏感に反応する春蘭を話がややこしくなるからと華琳が黙らせる。一刀も気にせず続けた。
「本来、合流するなら本隊…大きな軍はあちこち移動せずに、一カ所に留まるか軍速を遅くして合流するにも関わらずにこの本隊はあちこち移動している……。本隊は軍速を遅らせず、あちこちに移動しているという事は“そうさせる何かを追っている”という事にならないか?」
〈それ以上に軍隊を指揮する者が居ない、若しく『張角』と言う人は指揮をする気が無いとも捉える事が出来ますね〉
「…………」
皆が沈黙した。自分たちが顔を合わせても、それほどの意見が出なかったのにも関わらず地図と桂花からの情報でここまでの事を考えた事に。しかし、華琳たちはまだ気づいてはいなかった。もっと大事な事を見落としている事に。それを指摘するように一刀は黄巾党の本隊を意味する大きな石を突きながら桂花に質問した。『大事なところを見落としていないか?』と。
一刀にバカにされているように感じて、イラつきながらも地図を見て考える。
黄巾党の本隊は一刀が言ったように、北、西、南、東とぐるぐる周るかのように移動している。そしてハッとし、厭な汗が背中を這う。
黄巾党は周っていた。そう、ぐるぐると“陳留を中心”として。
「そう。この本隊は陳留を中心にしてぐるぐる回っている。それが意味するのは……」
華琳もほつれていた糸が解け始めた。それが意味する物、重い口を開く。耐えがたい現実を口にする。
「必然的に魏の出撃回数及び、近くの邑の被害が大きくなるという訳ね…『張角』って奴、やってくれるわね……」
華琳が唇を噛み締め、唸る。それもそのはずだ、出撃回数が増えれば兵は衰弱・疲弊し、陳留の近くの邑に被害が出れば治安が悪くなり人が寄り付かなくなる。華琳が苦虫を噛んだような顔になるのも当然であった。一刀のボヤキが無ければ。
「………張角は女だけどな(ボソッ)」
「どういう意味かしら、一刀?」
どうしようもない華琳の怒りの矛が、一刀に向く。その怒りに満ちた視線に流石にビクつき、ハキハキと告げる。
「えーっとですね。先ほど鎮圧に行ったときに、暴徒が“張三姉妹”といっていたんだよね~。多分、『張』って『張角』の事だと。しかも三姉妹だから女だと…まぁ、姉妹か姉弟か兄妹の方かもしれないが…」
華琳の御仕置きが必要かしらっと、言う前に何とか回避しようと話題を逸らす為に次なる襲撃に備え、次なる予想の地域をいう。
「多分、次なる目的地は南西に位置する地…ここだと思う」
「しかし、北郷よ。どうして黄巾党は邑を襲うんだ?」
「そんなもの、食糧や金品を盗む為に決まって…」
「そうとも限らない。俺が張角を、女かも知れないというのはそこにあるんだ」
春蘭の在り来たりの質問に、桂花が罵倒しようとするが一刀がそれを遮る。
一刀は襲われた街、邑で事情聴取みたいな事をして解った事。それは盗られた物は女性の気の引く物が多かった事であった。
「軍に必要な糧食よりも女性の気を引く物の方が多いなんて…呆れてものが言えんな」
秋蘭が溜息を付き、それに釣られ皆も気の抜けた溜息を付く。しかし、こうしている間にも民が苦しんでいる以上ノンビリはしていられない。今回は一刀が出撃する事になりその準備を始めるべく、席を立つがそれと同時に元気な声が聞こえた。
「兄ちゃん!!僕も連れて行って」
季衣が一刀の裾を掴む。瞳を除けば決意の炎が滾っていた。しかし、
「駄目だ」
一刀は季衣が掴んでいる手を軽く払い少し、距離を置いた。一刀にはその決意の炎が揺らめき、今にも消えそうに見えた。そして、季衣の上司である春蘭が優しく諭す。
「季衣、最近出撃しすぎだ。少しは身体を休めろ」
実際に最近の季衣の出撃回数は魏の中でもトップである。逆に言えば、一番疲れているのは季衣のはず。それもみんな知っている為に一刀の行動を疑問にも思わない。
しかし、季衣は俄然と食い下がるのを見て、華琳が季衣を嗜める。
「季衣。貴女のその心はとても貴いものだけど……無茶をして身体を壊しては、元も子もないわよ」
そう華琳が言うが季衣は無茶では無いと、突っぱねる。皆が困っているだから…っと。
「そうね。そのひとつの無茶で、季衣の目の前にいる百の民は救えるかもしれない。けれどその先の救えるはずの何万という民を見殺しにする事に繋がる事もある。……分かるかしら?」
一刀にもそれは理解できる。百の民を救う為に万の民を見殺しには出来ない。だから…一刀が出した結論は。
「だったらその百の民は見殺しにするんですか!?」
季衣が悲しみと怒りを込めた悲痛の声を上げる。
万の民を救う為に百を犠牲にする、それが一刀の答え。どれだけ、綺麗事を言ったって人は万能では無い。全てを救える奴なんていない。金であろうと力を持っていようと…。しかし、それは孤独しか知らない一刀が出した物[答え]。
「する訳無いでしょう!!」
華琳が怒鳴り、玉座の間にいた者全員が思わず身を縮こまらせる中、一刀は固まっていた。
「季衣。お前が休んでいる時は、私が代わりに百の民を救ってやる」
春蘭が勝気な笑みを浮かべ、宣言する。
「私も皆が休めるように効率の良い策を、この全身精液変態鬼畜人外魔鏡の軍師と考えてあげるわ」
桂花が顔を柄でも無いと分かっている為か、赤く染めながらここぞと言わんばかりに一刀の悪口を言いながら説得する。
「うむ、季衣よ。力があるのはお前だけじゃない、ここにいる皆はお前と同じ志を持っている」
秋蘭が優しい笑みを浮かべながら、季衣の肩を叩く。
「そう。季衣、そしてそこでボッ―としている奴…」
華琳が覇王の威厳を発揮し、季衣と思考の停止している一刀を指差す。
「確かに一人では限界があるわ。けれどね、その限界だって仲間が居れば不可能を可能にする事も出来る。それこそ、可能性は無限大に広がるわ」
一刀を指差していた腕を振るうと袖が靡く。華琳の瞳は何処までも澄んでおり、広い海をイメージさせて吸い込まれる感覚に襲われた。そして、
「貴方達はもう一人じゃない、魏という仲間がいる。覚えておきなさい!!」
まるで通りすがりの仮面ライダーよろしくの様なポーズを取るが、今これに突っ込むような者はいない。
〈……電波少女、マジ狩る・カリン。絶賛放送中~。それとも死神ライダー刈燐(憐れに刈るでカリン)『私に狩られる事を光栄に思いなさい』……なんて〉
者はいないが物があったようだ……。朔が耐えきれなくなったのか吹き出し、一刀は『覚えておくよ』と言って踵を返し進軍の準備に取り掛かった。
その後、朔が一刀によって御仕置きされた事は書くまでも無い。
―――陳留から南西の邑―――
「作者……省きやがった」
〈文才が無いのでしょうがないですよ〉
……電波な事を抜かす二人は数日も経たずに村に付いた。一刀は邑に付くと同時に斥候を出し、いつでも防衛が出来るように兵士に呼びかけ現状を把握にかかる。斥候が戻り情報を訊くと、一刀の予想道理に黄巾党は此方へと向かっていた。しかし、数は少し増えており此方の兵数より五百ほど多い。
相手は何の策も無く、突っ込んでくる雑兵なのだから兵法を使えばその差は埋まるが…。一刀は飲茶[やむちゃ]の店に入り、朔を望月から抜き椅子に立てかける。
「……埋まるだけじゃ駄目だ。圧倒的な差を付けて此方の力を見せつけないと…。華琳の覇道を一歩でも近づける為にはあと少しでも兵か力ある武将がほしいな」
〈貴方が活躍すればいいだけでは?『我は魏の種馬なり、近づく者は皆孕ませ…』…謝りますから“望月”を振り上げないでください〉
真剣に考えているのを茶化すので“望月”で朔を叩こうとした。瞬間、一刀は身の毛の経つ寒気を感じ“朔夜”を掴み戦闘態勢に入る。
―――ドドドドッ!!!
地響きが聞こえる。周りの人もざわめき始める為に、近くにいた兵に落ち着かせるように指示する。
―――ドドドドドドッ!!!
地響きの音が大きくなっていくのを感じると共に、違和感を感じる。地響きが近づいて来ているような、そして気のせいであろうか。遠くから『ご主人様~~!』という、幻聴が一刀の耳に入る。
「朔。俺、良く分からないけど全力で逃げろって、本能がざわめくのだが?」
〈……マスター、今から十秒後に私で後ろに凪いでくださいまし〉
朔が言うようにカウントを取り、十秒後に朔夜で後ろに凪ぐ…全力全“壊”する気で!そして一刀はこの後、後悔した。振り向くべきでは無かったと。何故なら…
〈光になりなさい!!!貂蝉~~~!〉
「漢女にそんなもの効く訳ないでしょう!朔夜~~~!ぶるぅぅぅあぁぁぁぁぁっ!!!」
一刀をこの世界に送った張本人…貂蝉と再会してしまったから。
「いや~、貂蝉がいきなり走り出すから何かと思って追いかけてきたら…。そうか、君が天の御遣い」
今、一刀の前には自分と同じか年上くらいの赤毛の青年が座っていた。貂蝉と再会はとんでもないものであった…。あの後、“朔夜”は弾かれ宙へと舞い、貂蝉の抱擁が一刀を捕らえようとした。だが、一刀は常に危険と共にしていた男。固まる事無く、即座に“望月”を手に取る。瞬間、一刀から九つの煌めく閃が走り貂蝉の目の前で閃が九角形を作り、その閃をなぞるかの様に“望月”を凄まじい速さで振り抜く。
『なっ、…是、射殺す百頭[ナインライブズ・ブレイドワークス]EX!!!』
その悲痛の声で技名を叫び、貂蝉をタコ殴りにした。これが“朔夜”なら分解であったろう。因みに貂蝉は本来、氣で身体を硬質化(強化)しているがその彼をタコ殴りに出来るのは、一刀による氣の強化と“望月”がそれだけ硬いという事を記しておく。
余りの攻撃に膝を着き、貂蝉は一刀を見上げニヒルに笑い、
『…こ、これが愛の痛さなのね…?』
『フィシュ!!リノ・メ・ダンゲレ(我、触れぬ)』
最後に赤い布に包まれ投げ捨てられた。
その後、これ(貂蝉)をどう始末しようか朔と話していると後ろから話しかけられた。
『すみません。此方に下着一枚の変態筋肉達磨を見ませんでしたか?』
『全く、貂蝉の奴いきなり走り出し追って!だぁりんを困らせるとは…!』
振り向けば、赤毛に美少年と言っていい程の整った顔立ち。十字架のイラストが入ったタンクトップに白い外套、そしてどういう構造になっているか分からないズボン。左手に手篭を付けた青年が立っていた。
もう一人は…説明を省きます。
『わしだけ扱いが酷くないか!?』
ちぃ、めんどくさい。
白髪の長い髪を両サイドで纏め、白いひげは天に向かい伸び赤い瞳。先ほど一刀が相手していた変態にも負けないほどの筋肉の身体には、褌・乳房しか隠していない乳当てにニーソックスと皮靴。そして、サイズが合っていないキツキツの大きな襟の付いたブレザーにネクタイをした老人が仁王立ちしていた。
一刀と朔はこの二人が先ほど相手していた変態の事を、言っている事はすぐに分かった。だからこそ、二人の返答は決まっていた。
『〈そんな人は知りませんし、見ても居りません〉』
二人の心は一つとなっていた。『こんな、変態を探しているのは同類以外ない!!』っと。因みに貂蝉は赤い布に包まれている為に青年たちからは見えていなかった。
『(今、女の声も聞こえたような?)そうかい、すまなかった。もし見かけたら“義勇軍の集会場”にいると伝えてくれるかい?』
『その声は…華陀[かだ]ちゃん!?』
『……えっ?華陀?義勇軍って!?はぁ!!?』
〈マスター、落ち着きなさいな!?こういうときは数を数えるのです!1,2,3,5,6,7,8,9,10!〉
『3の次は4じゃぞ?朔よ?』
青年が義勇軍に参加する事と青年の正体が華陀である事にパニックになる一刀。朔も数字を数え、赤い鬼と同じ事をし、老人に突っ込まれる。
―――これが将来、『破壊の雷鳴』と記される北郷 一刀と『神の医学の申し子』華陀の出会いであった―――
そして、話を聞く為に飲茶の店に入り自己紹介をした。この騒ぎの冒頭に戻る。
華陀の話ではこの戦で出る負傷者の救護する為に、義勇軍に入ったらしい。因みに下着一枚の者を貂蝉、褌を卑弥呼というらしく、流石の一刀も頭を抱えたのは別の御話。
「しかし、あの五斗米道[ごとべいどう]継承者があんたとは…」
「違うっ!」
一刀が自分が言えた義理ではないが、若いのに継承する事に驚いていたがいきなり大声で否定された。
「いや、あんたが華陀なんだろ?あの五斗米道の…」
「だから違う。『ごとべいどう』じゃない『ゴットヴェイドウ』だ!」
一刀は呆れた顔であァ、そうですか…と適当にあしらった。
とにかく今は先の問題、圧倒的な勝利を収めるという問題。しかし、それは何とかなりそうであった。
「(さっき貂蝉の奴…。“朔夜”をあの肉体で弾きやがった。あれが朔の、言う身体の皮膚を強化する『外氣功』ってやつか。それが使えるなら闘士…って事だよな?それに)」
ここに…三国志の世界に来た時の夢を思い出す。確か、あの時に最後に見た筋肉達磨は貂蝉であった。一刀はすぐに貂蝉を問い詰めることにした。
「貂蝉。お前、俺と会った事あるよな?」
「あら、私って口説かれて…」
「まじめな話だ。茶化すな!」
一刀は未だに、これを現実として受け入れようとしない…譲れない処があった。正確にはこの世界を肯定してほしいという願いでもあった。もし、この世界が夢だと言うなら過ごしてきた時間、場所、人はどうなるのだろうか?これが夢で目覚めた時、何もかも存在しなかったら自分はどうなるのだろうか?
でも、これが現実だというなら自分は人の死を受け入れなければならない。
現実ならば、皆と過ごしてきた全てが肯定される代わりに人の死を…“殺した”という現実を受け入れなければならない。
夢、幻というなら、殺したという現実が無くなる代わりにそれと一緒に皆と過ごした全ても失う。
現実なら誰かに肯定してほしかった。夢、幻と言うならこれ以上誰かと絆を紡ぐ前に起こしてほしかった。不安であった。華琳に『魏という仲間が居る』と言われてから、ずっと。
「俺は華琳を裏切りたくない。貂蝉、これが現実だって言うなら肯定してほしい。幻だって言うなら…これ以上、誰かと絆を紡ぐ前に目覚める方法を教えてくれ!!」
過去に裏切りられた一刀にとって、人の絆というものはとても大事なものであった。簡単には信じない分、信じた時は依存と言われるほどに…。だからこそ相手が信じて、仲間だというのに自分が信じないのはとても耐えがたかった。故に真実が知りたかった。
貂蝉はふざけた顔から一変し、悩んだ顔となった。そして、告げた。
「…現実か、夢か…。それを告げる事は今は出来ない。でも…」
ふざけた返答に一刀が、掴みかかろうと話を続ける為にその手は空を切る。そして耳を傾ける。
「一つだけ…言える事はたった一つだけあるわ」
「一つだけ?」
一刀が繰り返すように呟き、そして告げられる。一刀が知るべき、この世界の“一つ目”の真実。
「この世界に生きるもの、全ては本物よ。命が奪われれば死ぬし、助ければ生き延びる。私が“今の”ご主人様に言えるのはそれだけよん」
一刀は想像もしない返答に、ただ呆然とするが、考えるように下を向き、
「…本物、生きている……」
それだけを大事そうに、そして噛み締めるかのように呟く。
その時であった。黄巾党が近づきつつあるという、報告が飛び込んできたのは。華陀が立ち上がり義勇軍のある方へと駆け出すのを見て貂蝉、卑弥呼も駆け出そうとしたが一刀に止められる。
「貂蝉、卑弥呼!」
「あんっ!なに、ご主人様?だぁりんを追いかけたいから、手短にお願いしたいわ!」
「うむっ!焦らさんでくれ…。ちょッぴり感じてしまう」
〈……マイスター、私からも手短に用件を済ます事を要望させて頂きます。……この色々な意味で怪しく妖怪のように妖しいこの二人を一秒でも早く、私とマイスターの視界消えてほしい〉
「………早めに終わらすから、貂蝉、卑弥呼!キモいから腰をクネらすな!?朔!頼むから刀身から黒いオーラを出すな!?」
愛しの華陀を追いかけたいが一刀に呼び止められ、淡い漢女(おとめ)心を燻られたのかクネクネと身体を動かす筋骨隆々×2とそれを不快に感じ、久しぶりに刀身から黒いオーラを放出させる朔。それらの行動に頭を抱えたい気持ちを我慢し、一刀は二人に向き合う。
その顔はまた一つ、覚悟[成長]した顔つきだった。
「俺はまだ、お前の回答に納得した訳じゃない。けど…」
―――感じる事が一つ。
「俺の知らない真実を知っている、そのお前が言うんだ。“今の”俺にはそれで十分なのだろう」
―――若しかしたら嘘かも知れない。
「それでも俺自身、信じている事がある」
―――それは……。
「それは………」
大きく息を吸う。まるて、再度何かを確認するように。そして確信し、軽く回るように周りを見渡す。
「―――この世界は生きている―――」
「人も動物も…」
―――木、草、川、風、大地。
「感じる。それだけは」
軽く身体を捻らせた一刀は再び、向き合う。
「俺は“この世界にとってどういう存在なのか”は知らん…が、護りたい人はこの世界にいる」
「それで…」
「ワシらにどうしろと…?」
答えなどとうに分かっているのに、どうも一刀に言わせたいらしく二人はニヤついていた。しかし、一刀も予想していたのか間髪いれずに大声で。
―――夢、現(うつつ)かは未だに分からん。でも…
「この村の皆を護るため二人とも、この戦に参戦し……勝とう!!!」
高らかに宣言した。
氣…外氣功を使える貂蝉なら少なくとも戦えるはず、そしてこの卑弥呼と名乗る者もまたそれに近い物を使えると一刀は踏んでいた。それなら戦での風をこちらに吹かせられると。
名付けて、『戦いはどちらがつよいかじゃねぇ、乗りの良い方が勝つんだよ!作戦』。
勿論、朔に突っ込まれたのは言うまでもない。
して、二人の返答は…いい漢女の顔で親指を立てていた。
そして一刀は戦闘服の袖を靡かせ、黄巾党を迎え撃つ。
―――おまけ―――
「なぁ……」
一刀が言い難そうな面もちで、言う。貂蝉たちも耳を傾ける。
「華陀って、医者と聴いたが…戦場に突っ込んだらしいんだが、いいのか?」
その問いに二人はと言うと、肩をすくめて、
「大丈夫よ。というか今回の戦は余り、死人を出さない方がいいのでしょう?」
「うむっ。それなら、だぁりんが適任だ」
一刀は二人の言葉の意味が理解できなかったが、取り敢えず華陀も戦えるという事だけは分かった。
後に、その戦い方を見てライバル視したのは別な話。
次回、真・恋姫†無双~物語は俺が書く~
第9幕『殺人術 対 蘇生術?針VS針!?』
「これが医学の極地…人体の破壊だ」
「違う!医学とは人を救う為にある。そんなもの俺は認めない」
すみません、嘘です。
とりあえず、次回は戦闘シーンである意味華陀と対決します。
―――後書き―――
言い訳…世界を巡っていました。
ゴメンナサイ。石投げないで!ちょっとゲームをやりこんでいたらこんなに間が空いてしまいました。
心より謝罪申し上げます。
これからもがんばりますので応援の程、よろしくお願いします。
誤字・脱字・感想、お待ちしております。
因みに気付いた方もいるかと思いますが、一刀の二つ名が、
『妖刀使いの稲妻』から『破壊の雷鳴』に代わっています。
これは一刀がこれから活躍するに連れ、二つ名が変わる事を指しています。とりあえず、
現段階では……
天の御遣い
↓
妖刀使いの稲妻
↓
?????×3
↓
破壊の雷鳴
↓
?????
↓
?????
と計8つになる予定です。因みに種馬はデフォルトです。解除不可能です。でも、Level up!はします。…種馬がw。
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この作品の北郷 一刀は性格が全く異なりますのであしからず。
仲間には優しいですが敵と判断すると最低です。
主に落とし穴に嵌めたり、縄で逆さ吊りにしたりと…。しかも、いつ仕掛けたのかも解らないほど鮮やかに。
強さは武将達と渡り合えるくらい。
しかし、武力が全てはない。
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