(その一)
~一刀視点~
建業に帰還して間もなく、俺達に複数の揚州豪族からの使者がやって来た
合肥での孫家との戦いを見て、言い方は悪いが此方に寝返りたいとの申し入れだ
だが俺は”完全恭順”以外を認める気は無かった
その中には領主交替も含まれている
それを伝えると殆どの豪族は寝返りをしなかった
寝返りをしてくれた方が有り難いが、今後の舵取りを考えれば”同盟に等しい恭順”は受け入れられない
風向き次第で寝返るような仲間は必要ない
新たな統一国家に纏め、乱世を終わらせる為には止むを得ない
だが、何事にも例外、いや予想外はある
「領主の交替も有りうるが、それでも構わないかな?」
俺が訪問して来た豪族の使者に他の豪族の使者と同じ事を告げる
これで交渉決裂だろうと思ったが、その使者は
「わが主君はそれでも構わない、そうおっしゃっております」
俺を含むその場に居た皆が驚くがその使者は続けて
「新たな強き主君の下で領民が健やかに暮らせるのであれば問題無い、との事です」
こんな人物もいるんだ 更に
「我が主君から北郷様への献上品が御座います
ただ我が領土は財政的にも裕福では無く、主家にも家伝の宝剣等の類いも有りませぬ
しかし優秀な布地を作る職人は居ります
その職人に布地を作らせ、今回持参いたしました」
そう言って豪奢な布地が差し出された
「奥方様の婚礼の御召し物にでも使って頂けたら幸いに御座います」
え?奥方?
一瞬何の事だか分からなかったが直ぐに思い至った
洛陽での論功行賞で俺は鞘姉の事を妻だと諸侯の前で言った
それを聞いた諸侯は俺と鞘姉が夫婦と勘違いして、それが広まったのだと
そして、やはりと云うべきか場の空気が一変した
使者もその空気を察したが、訳が分からず狼狽えている
「其方の申し入れは受諾する
後日改めて此方から使者を送り、今後の指示とする
帰ってそう伝えられよ」
慌てて俺がそう伝えると使者は退出した
「さて、一兄、鞘姉、説明をしてくれるよね?」
巴が黒い気配全開で詰め寄って来る
静里と凪も同様だ
慌てて説明すると皆納得してくれた
「まあ、その場の方便で止むを得なかったんだ」
そう言って締め様としたが”ドスッ”鞘姉の肘打ちが俺の脇腹に炸裂した
俺が何をしたんだ?
「じゃ、この布地 私がもらってもいいよね?」
巴が言い出すので
「別に構わないが・・・」
と俺が言い終わらないうちに
「「駄目です」」
静里と凪が声を上げた
「その布地は一刀さん(様)の妻に贈られた物
その布地を貰う事で”一刀さん(様)の妻”と言う既成事実を諸侯に対して示すつもりでしょう」
「ちっ」
巴~、今舌打ちしただろう
(その二)
~鞘華視点~
「何なのよっ、この服は!?」
執務室に飛び込むなり孫権が一君に詰め寄っている
メイド服を着て・・・
「何って何か問題が?」
一君の答えに孫権が絶句している
「孫権さん、仕事の説明が有るので来てください」
月がやって来る
「仕事?」
「聞いて無いんですか?
孫権さんは今日から侍女の仕事をするんですよ」
「何ですってー!」
孫権は一君を睨むが、当人は
「言って無かったっけ?
伝え忘れてたなら謝るよ」
と平然としている
「何で私が侍女なんかを!?」
「孫権を捕虜にしたのは良いけど、無駄飯食いを置いておく事も無いだろうし
かと云って、政務や軍務の重要な仕事をさせる訳にも行かないし
ならば侍女にするかと そんな理由」
孫権は怒りに震えながら
「ふざけてるの!?」
「いや、ふざけて無いよ
君も此処では王族でも無い、只の侍女として働いてみな
今まで見えなかった物が見えるかもしれないよ」
一君の言葉に孫権は多少考えると
「逃げるとか、貴方達を暗殺するとか考えない訳?」
「後ろにいる周泰に気づいてる?」
孫権が振り向くとそこには明命が居た為、孫権が驚いて飛び退く
「いつの間に?」
「貴女が此処に向かって廊下を走っている時からずっと付けてましたよ」
孫権は明命の言葉に絶句していた
「君が妙な真似をすれば彼女が直ぐに攻撃する
それだけだ」
まあ、それは嘘ね
明命は他の任務が有るから一日中孫権を見張ってられない
しかし、抑止力として脅すには最適ね
「でも、この服は何なの?」
「似合ってるから」
孫権が真っ赤になる
無意識に口説くんじゃないわよ!それに
(一兄、やっぱりメイド服が趣味なんだ)
(巴さん、私の分も早く作って下さい!)
(静里さん用に作ってたのがあれなんだよね~)
(流石に私は似合わないだろうか・・・)
扉の向こうに居る気配に気づいてないの?
それは兎も角、私も着ようかな・・・
(その三)
一刀が呉郡の太守になってから幾度となく繰り広げられている闘い
『巴対鞘華』
と云っても武についてでも知についてでもない
その闘いは一刀が入浴中に行われる
「鞘姉、なんで毎日邪魔するのよ~!」
「するに決まってるでしょ!」
そう、一刀が入浴している時に一緒に入ろうとする巴
それを阻止する鞘華 その闘いである
結果は巴の連戦連敗である
「じゃ、妥協して鞘姉も一緒で良いよ!」
「ばっ、莫迦な事言わないで!」
巴の言葉に鞘華は赤くなって反論する
「素直じゃないな~
一緒に入りたいくせに」
「ち、違うわよ!」
鞘華は真っ赤になって否定する
「じゃ、やっぱり私一人で・・・」
「駄目だと云ってるでしょ!」
鞘華が巴を羽交い絞めにする
「は~な~し~て~
早くしないと一兄がお風呂から出ちゃうよ~」
「駄目だって、何度も言わせないで!」
「兄妹だから良いじゃない!」
「むしろ兄妹だから自粛しなさい!」
この闘いは一刀の知らない所で毎日のように繰り広げられている
昨日も、今日も、おそらく明日も・・・
~あとがき~
(その一)について
この時代の布がどういった物か分からないので織物とせずに布地にしました
製法は兎も角、現代と同じなら織物の方がしっくり来るのですが
(その二)について
蓮華は侍女になりました
彼女は王族のしがらみを外して自己を見つめる必要があるでしょう
(その三)について
まあ、いつもの巴です
更新はゆっくりになるかもしれませんが続けるつもりです
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日常の出来事④