No.792890

九番目の熾天使・外伝 ~短編⑲~

竜神丸さん

幻想郷の番犬 中編2

2015-07-29 16:41:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1336   閲覧ユーザー数:858

「本当にすみませんでした」

 

「次からは気を付けてよ! もう…」

 

あの後、水浴びをしていた三人から盛大に説教を喰らった裕也は、土下座で必死に謝罪していた。彼の誠意を込めた土下座に折れたのか三人は彼を許し、以降は気を付けるようにと注意してから四人で小屋に戻っているところだった。

 

「まぁ、水浴びの事を伝えてなかった私達にも非がありますから、今回はこれで許してあげましょう」

 

「はぁ……仕方ないなぁ」

 

「すまん、そして許してくれてマジでありがとうございます」

 

「もう良いよ。確かに私達が言ってなかったんだから、知らなくても無理ないし」

 

申し訳なさそうに頭を下げる裕也を、ガルムは彼の背中を叩きながら笑って許す事にした。と言っても、その頬は若干だが赤くなっていた事に、リッカは密かに気付いていたが。

 

(ふぅ~ん…?)

 

「な、何よリッカ。何で私の方を見てるの?」

 

「さぁ? 何でもありませんよ~」

 

リッカは鼻歌を歌って誤魔化し、ガルムはよく分からないといった表情で首を傾げる。そんな彼女に見えないところで、リッカは早苗と小声で話し合う。

 

(え、マジですかリッカさん?)

 

(あの反応だと可能性ありですね。全く、うちの裕也さんは罪作りな人です…)

 

「?」

 

二人が話している内容は、裕也には聞こえていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくの間、裕也達はアスガルズの森に留まり続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!? 裕也さん、魚がそっちに逃げました!!」

 

「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「おぉ、凄い勢いだね!?」

 

「捕ったどー!!」

 

ガルムやフェンと共に、湖の魚を捕まえては焼き魚を食べたり…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!」

 

「ちょ、裕也さん!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あらら、毒の木の実でも食べちゃったのかな? 結構見分けにくいんだよねぇ~」

 

毒性の強い木の実を食べた結果、見事に腹を下した裕也を早苗とリッカが必死に看病したり…

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれガキ共、大人しく“森羅の宝玉”を寄越せ―――」

 

「「断る!!」」

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

“森羅の宝玉”を狙うならず者がやって来ては、裕也達で遠慮なく撃退したり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『~♪』』』

 

「どう? 妖精さん達の演奏は」

 

「ん~、良い音色だ…」

 

「「耳が心地良いですぅ~…」」

 

妖精達による草笛の演奏に、ガルムだけでなく裕也達も幸せそうな顔をしたりしていた。そんな中で、ガルムは眠たそうな表情のまま裕也の肩に頭を置く。

 

「…裕也」

 

「ん?」

 

「今だけ……このままで良い?」

 

「…あぁ、好きにしな」

 

「…ありがとう♪」

 

(ッ……結構可愛いよな、コイツ…)

 

裕也から許しを得たガルムは嬉しそうに笑ってから、静かに眠りへと落ちていった。そのガルムが見せた笑顔に裕也は少しだけ頬を赤らめてから顔を逸らす。

 

「「……」」

 

「…あ」

 

その際、嫉妬の目を向けている早苗とリッカに気付いた訳なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裕也達がガルムと出会ってから、一週間が経過…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁガルム、こっちの赤いキノコは食えるのか?」

 

「うん、大丈夫だよ。逆にそこの赤に白い斑模様があるキノコは食べちゃ駄目だよ。毒があるから」

 

「木の実、いっぱい採って来ました~!」

 

「フェンちゃんのおかげで、採取が非常に楽でした」

 

「ガゥ~♪」

 

裕也達がガルムの指示の下、この日の食料となる物を集めて回っていた時の事だ。

 

「…ッ!? ガル!!」

 

「! フェンちゃん、どうしたの?」

 

早苗とリッカを背に乗せていたフェンが、急にある方向を見てグルルルと唸り声を上げ始めた。同時に、キノコを採取していた裕也もすぐに真剣な表情へと切り替わる。

 

「!! …どうやらまた、お呼びでない連中が来たみたいだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野郎共、今度こそ“森羅の宝玉”を手に入れるんだ!! この前のような醜態は二度と晒してくれるなよ!!」

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 

裕也の言う“お呼びでない連中”……それは、一週間前にガルムが全滅させた筈の盗賊団だった。今度はあの時よりも人数が増えており、更には盗賊団のボスまで参戦。一週間前の時は小娘一人に全滅させられている事から、今回は盗賊団の戦闘員全員がやたら殺気立っており、森全体に盗賊団の怒号が響き渡る。

 

「ボス! 前にやられた奴等が言ってた例の小娘、また現れるでしょうか…?」

 

「ふん、馬鹿な。その小娘とやらには毒の矢を撃ってやったんだろう? ならば今頃、そこらで野垂れ死んで死体になってるに違いあるまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ながら、その考えはハズレだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

盗賊達は一斉に真上を見上げる。そこには空中に浮遊したまま腕を組んでいる裕也と早苗の姿があった。そして盗賊達が真上を見上げる事で隙が出来た為、草木の中に隠れていたフェンが素早い速度で、一人の盗賊を鋭い爪で切り裂く。

 

「ガルルルルァッ!!」

 

「な…ギャァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

「!? くそ、全員構えろ!!」

 

「ご退場願おうか? 妖精達が静かに過ごすには、アンタ等は少々うるさ過ぎる」

 

「うぉりゃあっ!!」

 

「何…あが!?」

 

「ぎゃあ!?」

 

盗賊達が一斉に武器を構えた直後、木の上から飛び降りて来たガルムが二本のナイフを構え、一番近くにいた盗賊を二人ほど同時に切り伏せる。

 

「!? 小娘、毒の矢で死んだんじゃなかったのか!!」

 

「治療して貰ったの。裕也達には本当に感謝してる」

 

「くそ…!!」

 

盗賊団のボスは忌々しげな表情で鞘に納めていた剣を抜き、手下の盗賊達は構えた弓矢で空中にいる裕也と早苗を撃ち落とそうとする。しかしもちろん、この盗賊達の思い通りになる事は無い。

 

「そうは問屋が卸しませんよ…っと!」

 

「「「「「ぐぇっ!?」」」」」

 

木の陰に隠れていたリッカが人差し指を振ると共に、弓矢を構えていた盗賊達の足元に複数の魔法陣が出現。魔法陣から無数に伸びたチェーンバインドが盗賊達に巻きつき、そのまま絞め上げて盗賊達を失神させる。その間に早苗は手に持っていたお祓い棒を振り上げ、スペルカードを発動する。

 

「蛇符『神代大蛇』!!」

 

「な、何だありゃ…うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「へ、蛇だ!! 逃げ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

早苗が召喚した巨大蛇により、チェーンバインドで縛られていない盗賊達が次々と飲み込まれ、そして勢い良く吐き出されてはそこらの木々に叩きつけられ気絶する。それを見た盗賊団ボスは舌打ちし、手にしていた剣を高く振り上げる。

 

「忌々しいガキ共が…死ねぇ!!」

 

「うわっとと!?」

 

「! へぇ、珍しい武器だな」

 

「落ちろ、小蠅め!!」

 

盗賊団ボスが振り下ろした剣から電撃が放たれ、危うく当たりそうになった早苗は慌てて回避する。裕也が珍しそうな目で盗賊団ボスの持つ剣を見る中、盗賊団ボスはもう一度剣を振り上げようとするも…

 

「させない!!」

 

「何!?」

 

ガルムの投げつけたロープが盗賊団ボスの腕に巻きつけられ、盗賊団ボスの動きが制限される。その隙にガルムがナイフを構えて接近するが、それだけで怯むほど盗賊団ボスも間抜けではない。

 

「この…ガキ共がぁ!!」

 

「きゃあ!?」

 

「!? アイツ…!!」

 

ロープの巻きついた右手から左手に剣を素早く持ち替え、盗賊団ボスは剣を地面に突き刺してそこら中に電撃を放ち出した。そこら中に放たれた電撃でリッカやフェンが後退させられ、盗賊団ボスの目の前にいたガルムはまともに電撃を浴びた事で、その場に膝を突いてしまう。そこへ盗賊団ボスは迷わずホルスターから拳銃を引き、その銃口をガルムの額に突きつける。

 

「く…!!」

 

「小娘ぇ…まずはお前から殺してやる―――」

 

「させるかよ」

 

「何…がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

拳銃の引き鉄が引かれようとした瞬間、ガルムと盗賊団ボスの間に割って入った裕也が拳銃を蹴り弾き、そのままビームライフルを盗賊団ボスの腹部に突きつけ発砲。光線に腹部を貫かれた盗賊団ボスはその場に倒れてから悲鳴を上げてのたうち回り、その隙に裕也はガルムを抱きかかえて後ろへと下がる。

 

「無茶はしてくれるなよガルム。フェンや妖精達がまた心配するぞ」

 

「あ……ごめん、なさい…」

 

「…さて」

 

裕也はガルムを地面に降ろした後、腹部を押さえてのたうち回っている盗賊団ボスの前に立ち、彼の眉間にビームライフルの銃口を突きつける。

 

「何か遺言はあるか?」

 

「ま、待て!? 俺が悪かった!! もし許してくれたら盗んだ財宝はお前達にやる!! だから―――」

 

「そうかい、じゃあ逝け」

 

そのまま裕也は、迷わず引き鉄を引いてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傷は大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫…」

 

その後、裕也達は今度こそ巨大樹の小屋へと帰還した。電撃をまともに浴びたガルムがリッカの魔法による手当てを受けている中、裕也は小屋の中にあったハンモックに寝た状態のまま口を開く。

 

「…なぁガルム、何をそんなに焦ってる?」

 

「!」

 

裕也のその一言に、ガルムは思わず表情が凍りつく。そんな事など知った事じゃないといった表情で、裕也はハンモックから身体を起き上がらせる。

 

「森を荒らす連中が許せないのは分かる。だが、今のお前は何か危なっかし過ぎる。今回だけじゃない、この前の毒の矢の時だってそうだ。あんな自分を大事にしない戦い方じゃ、いつか本当に死ぬぞ」

 

「分かってる!! 分かってるよ、そんな事は……でも…」

 

「自分の力量くらい、自分でよく分かってる筈だぞ。無闇やたらに戦いを挑むのは勇気でも何でもない。そういうのはただの蛮勇って言うんだ」

 

「……」

 

ガルムが頷いている中、裕也はガルムの下まで歩み寄り、彼女の肩に手を置く。

 

「お前が死ぬような事があったら、フェンや妖精達だって悲しむんだ。こっから先は、それを頭に入れた上で行動しろよ?」

 

「…るのよ」

 

「え?」

 

 

 

 

-パァン!-

 

 

 

 

「ッ…!」

 

「「!?」」

 

突然だった。ガルムが裕也の頬を思いきり叩き、近くで見ていた早苗とリッカは驚きの表情を見せる。突然のビンタに驚きを隠せない裕也に、頷いていたガルムは顔を上げる。

 

「あなたに何が分かるの!!」

 

ガルムの目には僅かに涙が浮かんでいた。

 

「確かに私は、あなた達みたいに強い訳じゃない……そんな事は自分が一番よく分かってる!! それでも私は、戦い続けなきゃいけないのよ!! どれだけ辛くても!! どれだけ苦しくても!! そうじゃなきゃ、私がガルム(・・・)を名乗っている意味だってなくなってしまう!! この森を守る為に戦う“番犬”の名を、名乗っている意味が!!」

 

「…!」

 

「ガルムさん!? 待って下さい!!」

 

早苗が止めるよりも前に、ガルムは小屋の外へ飛び出して行ってしまった。早苗が慌てて後を追う中、リッカはビンタされたまま尻餅をついて制止している裕也の方を見る。

 

「…また手痛いビンタを喰らいましたね」

 

「…あぁ。地味に痛いもんだな、ビンタって」

 

裕也は赤くなった頬を手で触れながら、その場から立ち上がる。

 

(守る為に戦う“番犬”……か)

 

裕也の脳裏に、紫から言われた言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幻想郷の全てを守り通す、ねぇ……まるで番犬みたいね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(同じじゃねぇか。俺も、ガルムも…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

 

 

 

「これは…」

 

「あ~らら。また手痛くやられたみたいだねぇ、この盗賊共は」

 

okakaと蒼崎の二人は、裕也達が全滅させた盗賊達の倒れている場所にやって来ていた。ちなみに、本来監視役には任命されていない筈の蒼崎がここにいる理由は、単純にokakaが調査任務中の裕也に対して、ある程度の興味が湧いたからである。

 

「何人かはまだ息があるな。戦力としては申し分ない強さだが、まだちょいと脇が甘いって感じか?」

 

「ぐ、ぅぅ……貴様、等…何者、だ…」

 

「しがないアサシンですよっと」

 

「ちょ、いきなり殺るなよ!? 返り血が飛ぶだろ!!」

 

意識があった盗賊に、okakaがアサシンブレードで容赦なく喉元を貫きトドメを刺す。盗賊が刺されると同時に返り血を浴びた蒼崎が嫌そうな顔で返り血をパッパと払う。

 

「さて。ここには確か“森羅の宝玉”っていう名前の秘宝があった筈だ」

 

「秘宝? ロストロギアか?」

 

「まぁそんなところだが、あそこの宝玉には手を出しちゃ駄目だぜ。あれはこの森に必要だからな、手を出したら団長に殺されると思え」

 

「うへぇ、承知しましたよ……ん?」

 

その時、蒼崎はある方向を見て何かに気付いた。

 

「どうした?」

 

「……三十……四十……いや、それ以上…………マズいぞokaka、たぶん管理局の魔導師だ」

 

「!」

 

okakaは蒼崎の見ていた方角に振り返り、自身の“鷹の目”で森に近付いて来ている者達を見据える。

 

「…面倒だな。蒼崎、楽園(エデン)から応援を寄越して貰うよう連絡を頼む」

 

「OK、お任せあれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、ガルムは…

 

 

 

 

「…はぁ」

 

とある崖の上まで移動していた後、体操座りのまま俯いていた。彼女の事を心配そうにしている妖精達が彼女の周囲を飛び回り、言葉は発せずとも何とか彼女の元気を取り戻させようとする。そんな妖精達の愛らしさは、ガルムに少しだけ笑顔を取り戻す。

 

「元気付けようとしてくれてるの? …ありがとう、妖精さん達」

 

それでも、ガルムの笑顔にはまだ陰りが残ったままだった。先程裕也から叱りを受けた時、事実を突きつけられた彼女は思わず苛立ち、彼にビンタをかましてしまった。そしていざ飛び出してみた後、自分がやった事を改めて思い返した彼女は強く後悔した。裕也はただ自分を心配してくれているだけなのに。

 

(私、最低だなぁ…)

 

 

 

 

 

 

彼に一言謝りたい。

 

 

 

 

 

 

でも言葉が上手く思いつかない。

 

 

 

 

 

 

こんなんじゃ駄目なのに。

 

 

 

 

 

 

早く仲直りしたいのに。

 

 

 

 

 

 

「どうしよう…」

 

「どうしたいですか?」

 

「!」

 

後を追って来た早苗が、ガルムの隣に座り込む。

 

「早苗…」

 

「裕也さんと、仲直りしたいんですよね?」

 

「…うん。でも、分からないんだ。仲直りの方法が……この森に来てから、喧嘩をした事が無いから…」

 

「仲直りしたいなら、方法はただ一つ……まずは謝る事です。単純だけど、とても大切な事ですよ」

 

「でも……裕也、許してくれるかな…」

 

「大丈夫ですよ。裕也さんも、ガルムさんの事を本気で許さないとは思ってない筈ですから…………それにこんな事を言うと悪いですけど、本当は裕也さんだって、人の事を言えるような立場じゃないですし」

 

「え…?」

 

「裕也さんだって、無茶して死にかけるような事が今までに何度もありました。ある吸血鬼姉妹に真正面から挑んだり、ある二人の鬼と本格的な殴り合いをしたり、うっかり向日葵を踏んじゃった所為である妖怪さんからガチで殺されかけたり…」

 

「プックク……何それ…!」

 

「この旅の途中でも、いろんな無茶をやらかしてました。ある世界で初めてリッカさんと出会った時、世界規模でかけられた呪いを解く為に身体が壊れるくらい無理をして……ある世界では貧しい人達を救う為に、大富豪達を殺して回ってはその国の軍隊と戦ったり……ある世界では、呪いにかかって死にそうだった私を助けようとして、自分が死にかけるような目に遭ってまで薬の材料を取りに行ったりもしてました」

 

「! あの裕也が、そんな事を…」

 

「あの時、私は裕也さんに対する罪悪感で心が押し潰されそうになりました。自分の所為で、裕也さんが死にかけるような目に遭ってしまった。そう思い続けたあまり、一時期は本気で裕也さんから離れようと考えていた事もありました。でもそんな私に、裕也さんはこう言ったんです」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“俺の知る東風谷早苗はこの世に一人だけで、代わりはいない。だから俺の前から消えないでくれ”…と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「自分の知っている人が目の前からいなくなる事、それが裕也さんの一番恐れている事です。だからガルムさんを助ける時だって、あの人は本気で心配してたんですよ」

 

「……」

 

「それに、ガルムさんが死ぬような事があったら、フェンちゃんや妖精さん達が取り残される事になります。ガルムさんだって、あの子達を悲しませるような事はしたくないでしょう?」

 

「あ…」

 

そこまで言われて、ガルムはようやく理解した。

 

 

 

 

 

 

裕也がこの世で一番恐れている事を。

 

 

 

 

 

 

裕也は自分の事だけじゃなく、周りの事も考えてくれていた事を。

 

 

 

 

 

 

裕也が自分の事を、仲間として本気で想ってくれていた事を。

 

 

 

 

 

 

「…と、噂をすれば」

 

「!?」

 

早苗の言葉にビクッと反応したガルムは、恐る恐る後ろへと振り向く。振り向いた先には、無表情のまま腕を組んでいる裕也と、彼と一緒にやって来たであろうリッカの姿があった。裕也のビンタされた頬は、未だに少し赤いままだ。

 

「ほら、ガルムさん。ファイトです!」

 

「え、ちょ……ひゃ!?」

 

早苗に背中を押され、裕也の前に立たされるガルム。いざ話そうとすると上手く言葉を発せられず、ガルムはつい俯いてしまう。

 

「あ、えっと……あう…」

 

「ガルム」

 

「な、何!? …え」

 

ガルムが顔を上げた瞬間、裕也は彼女の頭を優しく撫でた。キョトンとした顔のガルムに、無表情だった裕也は笑みを浮かべてみせる。

 

「あんま辛気臭いのは苦手なんでな。俺としては、笑ってくれた方が話がしやすくて良いや」

 

「あ、あの…」

 

「まぁ、俺が言いたい事は早苗が全部言っちゃったみたいだし、俺からは敢えてこれだけ言わせて貰う……二度とあんな無茶はしないでくれ。俺は仲良くなった奴全員、いなくならないで欲しいからさ」

 

「…ッ……」

 

その言葉と同時に、ガルムは裕也に抱きついた。

 

「ごめんなさい……本当にごめんなさい…!!」

 

裕也の胸元に顔を埋めたまま涙を流し、ただ謝り続けるガルム。そんな彼女の事を思ってか、裕也も、早苗もリッカも、無理やり彼女を引き剥がすような無粋なマネはしなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣き止んだか?」

 

「うん……何か、ごめん。色々と…」

 

その後、泣き止んだガルムは瞳が若干だが充血していた。そんなガルムの頭を裕也は笑いながら撫で続ける。

 

「んじゃま、小屋に戻りましょう。フェンちゃんがお腹を空かせて待ってますよ?」

 

「あ、しまった!! 忘れてた!!」

 

「おいおい。フェンの奴、夕飯がまだな所為でご立腹なんじゃないか?」

 

「い、急いで戻ろう!!」

 

慌てて小屋に戻ろうとするガルムを、裕也達は笑いながら後を追っていく。

 

しかし…

 

「―――!? 三人共、アレを!!」

 

ある方角を見て、リッカは青ざめた表情で三人を呼び戻す。

 

「ん? どうしたリッ…!? これは…!!」

 

「え!?」

 

「森が…!!」

 

裕也達が崖から見下ろしている森…

 

 

 

 

 

 

 

その森が、灼熱の炎で赤く燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その燃え盛る森を、冷静に見据えている者がいた。

 

「ふん。マウザーの奴め、こんな面倒な仕事を儂にさせおって…」

 

ブルゼルクだ。

 

マウザーの命令でアスガルズの森にやって来た彼は、部下の魔導師達に森の焼却を命じたのだ。それにより魔導師達は一斉に火炎魔法を放ち、動物達や妖精達も丸ごと燃やし始めたのだ。

 

「目標はアスガルズの神殿に眠る“森羅の宝玉”ただ一つ……お前達、さっさと回収して来るが良い。決してヘマはしてくれるなよ」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

ブルゼルクの指示で、合計500人の魔導師達が部隊ごとに分かれて飛び去って行く。ブルゼルクはフンと鼻を鳴らしながら、燃えている森を眺め続ける。

 

「マウザーもマウザーだ。愚かな権力者なんぞの為に媚びなんぞ売りおって……これだから人間(・・)という生き物は嫌いなのだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、やってくれやがったな管理局の奴等…」

 

「okaka、俺達はどうする?」

 

もちろん、okakaと蒼崎も森の惨状はしっかり見据えていた。okakaは面倒臭そうな顔をしつつも森のマップを目の前に表示し、森に向かって来ている魔導師の人数を一通り確認する。

 

「取り敢えず、調査任務は中断だな。俺は魔導師共を仕留めに向かう。蒼崎、応援の方はどうだ?」

 

「さっきアン娘さんから連絡があったよ。二百式とmiri、あの二人が向かって来てるとさ」

 

「OK……その二人も合流するまで、まずは俺達だけで行動しよう。一応言っておくが蒼崎、これ以上に森が荒れるような戦い方だけはしてくれるなよ? 例のナンバーズ候補と、その御一行様がブチ切れるだろうからな」

 

「了解、久しぶりに暴れ時だ……シュベル!!」

 

≪Set up≫

 

okakaは二本のアサシンブレードを、蒼崎は黒いバリアジャケットを纏ってからチェーンソードを装備。二人も魔導師部隊を迎え撃つべく、その場から瞬時に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とある異次元空間内にて…

 

 

 

 

 

 

「―――では、了承する気にはなってくれたのかね? 八雲紫」

 

「…えぇ、分かったわ。クライシス…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東風谷裕也を、OTAKU旅団に迎え入れてあげて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裕也の知らぬ所で、話は思わぬ方向に進もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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