AD三二七五年五月二〇日午後三時二〇分
爆音と銃声が響き渡る、鬱蒼と木の生い茂った森。
そこには、巨人同士が銃器と剣を持ち、踊るように、戦っていた。
巨人の名は人型二足歩行機動兵器『Mobility Weapon System』、略称『M.W.S.』。
今までの兵器では絶対に持ち合わせることがなかった、陸海空すべての地形に即座に対応できるその驚異的な汎用性を最大の持ち味としてあらゆる兵器論を一蹴し、EL(アインファッツレヴィナス)という鉱石を使った装甲を持ち、水素式燃料電池を動力源とする全高二〇メートル、重量五〇トンのこの巨人が、兵器の覇者となってから早千年。
千年も経ったのに、それでも人は変わることなく戦い続けた。
今この戦争は、そんな巨人達によって行われているのである。いくら乗っているのが人間でも、どこか私には、滑稽な人形劇のようにしか見えない。
そして、そんな中を、土煙を上げながら駆け抜ける一つの巨人がある。
その姿は、まるで炎を現しているかのように烈火に燃えたぎっていた。それを反映してか肩に張られているエンブレムイメージは炎の中に佇む剣。緑色に光り輝く、まるで人間の瞳のように配置されたデュアルアイが少々不気味に見える。
手に握られている武装はと言うと、この機体の全高とほぼ同じ大きさを誇る『両刃刀』である。即ち上下に刃の付いた巨大な剣だ。
いや、両刃刀と言っていいのだろうか?
何故悩むかと言えば、その姿がまるでライフルを上下にくっつけたかのようだからだ。先端、並びに下部の銃口からはまるで炎のように燃えたぎる何かが揺らめいている。
そして、そんな機体のコクピットの中でパイロットはレーダーと敵機マーカーを確認しながら機体を跳躍させた。
パイロットの着込んでいる耐Gスーツは、何処の軍勢の物でもないソリッドな物。機体に合わせてか、色も真っ赤だ。少しだけ黒ずんだ、血のような赤だった。
「『鋼』より本部。これより最終防衛ラインへと向かう」
鋼などと言う厳ついコードネームを持ったパイロットは淡々と自軍司令部に通信を行い更に機体を空中で加速させる。
その直後に巻き起こるCIWSの一斉射撃。しかし、その攻撃に対しても男は不敵に笑うだけだ。まるで戦いを楽しんでいるとも言える笑み。
男はフットペダルを踏み込んで一気に機体を急降下させる。目指すは攻撃目標のみだ。CIWSの場所をレーダーが告げる。その場所は、自分の真下だ。
そして、地上に砂煙を巻き上げながら落下したその『炎』は近隣に配備されていたCIWSを持っていたその両刃刀で根本から薙ぎ払うように切り裂いた。
その後、その成果を見るまでもなく機体が加速する。その直後、その機体の後ろで、先程切り裂いたCIWSが爆発し、機体の赤を、更に美しく染め上げた。
「敵、第三次防衛ラインを突破しました!」
「ソリッド隊からの連絡、断絶!」
「M.W.S.消耗率七〇パーセント突破! 各戦線維持できません!」
警報が鳴り響く基地の司令室でオペレーター達が叫ぶ。その中は怒号と焦り以外何も支配していなかった。
「たかが一機にか?! 最終防衛ラインに機体を集中させろ!」
司令の額から汗がしたたり落ちる。
バカな。こう思うほか無かった。
たった一機だ。だというのに、止めることが出来ないでいる。
M.W.S.隊はよくやっている。ただ、相手が圧倒的すぎだ。
これは夢か?! 私は悪い夢を見ているのか?!
一瞬、心の中で焦りが生まれたのに気付いた。
「敵機、最終防衛ラインへ突入!」
オペレーターの怒号で、正気に戻る。
メインモニターに映し出されるのは、現在の敵味方の配置図。そこには確かに、味方のマーカーがCIWS含めて全部で二六ある。
敵は一だけ。これだけあれば、たたきのめせる。
そう思っていた。
だが、消えていくのは、味方マーカーだった。
あり得ない、そうとしか司令には思えなかった。
「スカーレット隊、応答して下さい!」
「リーヴズ隊、完全に沈黙しました!」
司令は壇上を思いっきり叩いた。
「そんな……バカな?!」
最終防衛ラインの突破も、僅かな時間しか掛からなかった。圧倒的という言葉以外全く持って場違いである。
赤い巨人は迎撃を物ともせずに、敵の基地へと突撃していき、十五分後、その軍勢の中でも指折りのM.W.S.配備数を誇ったその基地を陥落させた。
陥落した基地に佇む紅蓮の魔神は、まるで、返り血を被っているかのようにも見える。
白旗が揚がったその基地のど真ん中でパイロットはほとんど傷のない炎のような機体のコクピットを解放した。シリンダーの動く音が聞こえた直後、コクピット前に足場が出現し、その上にパイロットは足を乗せ外に出る。
そして、赤に染まる遠方の空を見ながらぼやくようにこう言った。
「ったく、空しいもんだ……」
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我がサークル「夜刀の神」が主にやっているロボット小説「AEGIS」のサンプルとして、第一弾の話をアップします。これは最初期の頃の文章ですので、現在とは文体が若干異なりますが、あらかじめご了承くさだい。
お楽しみいただけましたら、いずれ参加するコミケなどで手にとってくださいますと幸いです。