No.791402

戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ八

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

続きを表示

2015-07-23 18:25:39 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1988   閲覧ユーザー数:1729

 

 

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ八

 

 

 久遠と祉狼達ゴットヴェイドー隊が小谷に来てから四日が経過した。

 朝倉義景へ眞琴が送った手紙の返事を待ち、同時に小谷と越前の国境周辺に偵察を出して鬼の姿を探させた。

 手紙の返事と偵察の結果を待つ間、久遠達は眞琴と市に小谷城や街を案内してもらって過ごしていた。

 そして今日は、庭で市と祉狼が腕試しをしている。

 

「ちょいやああああああああああああああっ!」

 

 市が独特な掛け声で右ストレートを放った。

 その拳にはひよ子から贈られた真新しい闘具が塡められている。

 

「はぁあああああああああああああっ!」

 

 祉狼は凪から教わった八極拳の(てん)で攻撃を逸らし猛虎硬爬山をカウンターで打ち込む。

 凪の八極拳は一刀からゲームの技を教えて貰って再現完成させた物なので、本来の八極拳とは違うのだが、凪は敢えて『北郷氏八極拳』と呼んでいる。

 

「おわっと!あっぶない!やるね、祉狼くん♪」

 

 市は強引なバックステップで祉狼の掌を躱した。

 

「市っ!次は俺も正拳の突きを出す!受けようとするな!いや!絶対に動くなっ!」

 

 祉狼の言い様にムッとするのも一瞬、祉狼から湧き上がった氣を感じていつでも避けられる体勢に入る。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

ズンッ!

 

 拳を中段に構えたまま震脚を一歩踏み出した。

 その瞬間祉狼の身体が滑る様に市へと迫る。

 正面から見ている市には突然祉狼が近付いた様に見え、更に文字通り正拳が飛んで来た。

 

ボッ!

 

 拳が空気を貫く音と共に顔の右横を通り抜けた後に、突風が全身に叩き付けられ吹き飛ばされた。

 

「きゃあっ!」

「おっと!」

 

 祉狼が市の背後に回って身体を受け止め支える。

 

「大丈夫か?」

「う、うん………今のなんなの?」

活歩(かつほ)といって震脚の力で移動したんだ。地面すれすれを跳ぶから周りには地面を滑っている様にみえるし、正面から見ると遠近感が狂うだろう♪」

「へぇ、市も修行したらできるかな?」

「ああ♪市なら直ぐに出来るさ♪」

 

 二人の試合を見ていたひよ子、転子、詩乃、エーリカは、二人の今の状態をジト目で見ていた。

 見ようによっては祉狼が市の後ろから肩を抱いて甘く囁いている様に見えるからだ。

 

「メィストリァ、次は私と死合をしませんか♪」

 

 実に柔やかな笑顔だが、背後に立ち昇る凰羅が『あんたを殺してウチも死ぬ!』と語っている。

 他の三人も同じ状態でエーリカを支援していた。

 

 

 

「祉狼!市!手紙の返事と偵察の結果が纏まったぞ!…………なにをしている?」

 

 庭に久遠と眞琴が現れた時、祉狼は真剣白刃取りでエーリカの剣を受け止めている所だった。

 

 

 

 小谷城の評定の間にゴットヴェイドー隊全員と浅井家の主だった家臣が集まった。

 上段に眞琴、市、久遠、祉狼が並んで座り、下段右手に浅井家の家臣、左手にゴットヴェイドー隊が座っている。

 

「義景姉さまは久遠お姉様と同盟を結ぶと返事を下さった。」

 

 眞琴の言葉に評定の間は安堵の息に包まれた。

 特に『海赤雨の浅井三将』と呼ばれる海北綱親、赤尾清綱、雨森清貞は眞琴が織田と朝倉の板挟みにならずに済んだと胸を撫で下ろしている。

 

「手紙には越前も鬼に手を焼いており、此度のエーリカからもたらされた情報と姿絵のお陰で対策ができると大層喜んでおられた。エーリカには是非礼をしたいと書かれている。僕からも礼を言わせてもらおう。ありがとう、エーリカ♪」

 

「勿体なきお言葉でございます。しかし、ザビエルを倒すまで安心はできません。」

 

 エーリカは手を着いて静かに頭を下げた。

 

「うむ、エーリカの言う通りだ。我も朝倉の手紙を読ませてもらった。義景は鬼が若狭の何処かに巣を作っているらしいと言っている。」

 

 久遠の言葉に詩乃が発言を求めた。

 

「若狭という事は下手に仕掛けた場合、肝心のザビエルが船で逃亡する恐れが有りますが。」

「その点は義景も考えている。我らが公方と共に京から、朝倉が北から、湊を押さえながら進軍し、浅井が東から包囲して逃げ道を塞ぐ策を提案してきた。」

「通常の兵法ならば逃げ道を作り、敵を死兵としないのが常道ですが、鬼が相手では元より死兵と同じですのでそこは良いとして、問題は公方様と合流した織田軍が到着するまで、朝倉と浅井の皆様に若狭から出てくる鬼を押さえていただく事になります。」

 

 それに対して眞琴が応える。

 

「義景姉さまの手紙からその覚悟は伝わる内容だった。浅井も江北八千騎全ての力で鬼を封じ込めて見せる!」

 

 眞琴の力強い言葉に浅井衆が当主の成長に喜びの声を交えて奮い立つ。

 

「まあ待て、眞琴。その事は偵察の報告を詩乃に教えて意見を聞こう。」

「ええ、そうですね。詩乃、偵察隊は江北と越前、若狭の国境まで調べさせたが鬼の姿がまるで見当たらないと言って来た。僕と久遠お姉様は若狭の巣に引き篭っていると見ているのだが、君はどう思う?」

 

 詩乃は少し考えてからエーリカに振り返った。

 

「エーリカさん。あなたがこの小谷に居る事をザビエルが何らかの方法で知ったのではないでしょうか?」

 

 エーリカは沈んだ顔で頷いた。

 

「その可能性は高いです。私がポルトガルから堺に到着した事は先ず間違いなく知られていたでしょう…………私は宝譿を頭に乗せ美以を連れていたので有名になってしまいましたから………」

 

 これには久遠達もエーリカに同情した。

 

「そして京の北の山で私が鬼を殺したのをきっと感知した筈です。あの時は怒りに任せて神の力を発動させてしまいました……そして、将軍様と一緒に居た事も………」

「一葉の三千世界をザビエルが感知したか………」

「恐らくは………」

「ならば祉狼の事も気付かれていると見るべきだな。鬼を人に戻したのだ。鬼がザビエルの式神の様な物なら気付かぬ筈がない。祉狼の事が判れば我に辿り着くのもそう時間は掛からんだろう。」

 

 詩乃は久遠に頷いた。

 

「はい、久遠さまもそうですが、ゴットヴェイドー隊と共にエーリカさんが行動しているとザビエルが察知しているのなら、ザビエルは防御の為に戦力を温存しているのではないかと愚考致しました。」

「つまりザビエルはこのまま我らがエーリカと共に若狭に乗り込むと思われているのだな♪」

「はい。」

「では、我らはどう動く♪」

「久遠さまはもうお気付きなのでしょう?お顔が笑っておいでですよ♪」

 

「よし!このまま若狭に乗り込むんだな!」

 

 言ったのは祉狼で、久遠と詩乃は大きな溜息を吐いた。

 

「違いますよ、祉狼さま。我らゴットヴェイドー隊は久遠さまと美濃へ戻って上洛の準備に入るのです。それも出来るだけ目立つようにして。」

「?……………どうしてだ?」

「ザビエルの油断を誘うのです。エーリカさんが若狭とは反対の方角に向かえばザビエルは自分が若狭に居る事がバレていないと思うでしょう。その後も上洛の途中で江南の鬼を叩けば私達はザビエルが江南に居ると思って戦っていると思わせる事も出来ます。そうしてザビエルを安心させて若狭に釘付けにするのです。」

 

「成程、それでさっきの一葉と合流した織田軍が到着するまで、朝倉と浅井に若狭から出てくる鬼を押さえて貰うという所に繋がるんだな。」

 

 祉狼は納得いったと頷いた。

 

「そういう事だ♪では、眞琴。済まんが若狭の鬼の押さえ、任せたぞ。」

「はい!久遠お姉様も六角、三好三人衆、松永、京の東と北の鬼の群れと激しい戦となるでしょう。そちらへ助太刀に向かえない事の方が心苦しいくらいです。どうかご武運を。」

 

 

「よしっ!では我らは急いで美濃へ戻るぞっ!それも出来るだけ目立ってな♪」

 

 

 

 

 久遠達が小谷城の評定の間に居た時、越前一乗谷の中心部に在る朝倉館ではひとりの男が嗤っていた。

 男の名はフランシスコ・ザビエル。

 その顔を一刀たちが見れば『于吉』と呼んだだろう。

 主殿の大広間に天主教の司祭の服を着て土足で上がり込んでいる。

 大広間には荒縄が蜘蛛の巣の様に張り巡らされ、その中央部にはひとりの女性が絡め取られた獲物の様に全裸で宙吊りになっていた。

 女性の名は朝倉孫次郎義景。

 眞琴が義景姉さまと呼ぶ本人である。

 その義景は虚ろな目をしており、何も見えていない様だった。

 

「もう間もなく最初の罠が完成する………くっくっくっ………この外史では金ケ崎の退き口など有りません。何しろ織田信長の軍はこの一乗谷で全滅するのですから!」

 

 ザビエルは両腕で広げて天井を見上げ宣言した。

 背後に居る義景などただの置物であるかの様に完全に無視している。

 

「あの明智光秀を奪われた時はどうなるかと思いましたが、ただの傀儡に成り下がってくれて助かりましたよ。あの筋肉ダルマどもめ!あいつらもこの外史で完全に葬ってくれる!いや、そもそも管輅が余計な手出しをしなければこの外史は既に我が手中だったのだ!」

 

 ザビエルを名乗る男は振り返って義景を見る。

 その顔は狂気を孕んでいて本体の于吉とは人格がまるで別人の様だった。

 

「こんな外史など潰れて消え去ろうと気にする必要などなかろうに。女が戦国武将の名を騙るなど以ての外だろうがっ!」

 

 義景に殴り掛かろうとしたが、腕を振り上げた所で止まった。

 

「おっと、大事な苗床を壊してしまう所だった♪くくく、お前は強い鬼を生み出す為の実験動物だからな♪」

 

 義景の胎は膨れて妊娠している事は明らかだった。

 

「どうだった?お前を慕う家臣たちが鬼となって襲い掛かって来た時の気分は?皆心の中ではああしてお前を陵辱したいと望んでいたのだ♪その欲望を受け止めたのだ♪お前は立派な主君だよ♪あぁーーーーーっはっはっはっはっ♪」

 

 この男は完全に狂っていた。

 元々中途半端な分身だった上に、于吉の狂気を根本として生み出された彼は、本体から完全に切り離された事で于吉のコントロールを離れた一匹の悪魔となっていた。

 

「織田信長も浅井長政も私の書いた偽の手紙とも気付かずに信じただろう。この近辺をウロつく間者どもも我が幻術で嘘の記憶を持ち帰って報告する。あの光秀は所詮俄管理者だ!情報を操作せず間者を全て殺すなど未熟者もいいところだ!まあいい、あいつもこの外史ではもうただの傀儡。あいつもこれと同じ様に鬼の苗床にしてやる!あいつだけではない!戦国武将を騙る女の傀儡全てを鬼の苗床としてやる♪織田信長が産む鬼はどれだけ強いか楽しみだっ♪正に第六天魔王の名に相応しい最強の鬼が生まれるに違いない♪」

 

 眼鏡の奥の目は完全にイカれていた。

 

「織田信長といえば、あの少年………あの忌々しき北郷一刀に連なる者だが、あれは良い♪あの目………強い意志を感じさせるあの目。まるで左慈の様ではないですか♪真名は確か祉狼と言いましたねぇ♪あの少年だけは私の傍に置いて未来永劫可愛がってあげましょう♪」

 

 ザビエルは己の妄想に浸って荒縄の一本を掴み激しく揺さぶった。

 荒縄は天井の(はり)と義景を結んでおり、縄の動きに義景の身体も揺さぶられる。

 義景に絡みついた荒縄が全身を擦り、特に股間を激しく刺激した。

 

「ああぁあああっ!あがぁあああああああああっ!!」

 

 それまでまるで動かなかった義景が苦悶の声を上げて身体をよじる。

 

「ふん、例え傀儡でも女は女か。なんと醜く汚らわしい獣だ。こんな状態でも快楽を覚えて股を濡らすのですから。」

 

 義景の股間に渡された荒縄が溢れ出た愛液によって湿り色が変わっていた。

 

「まあいいでしょう。この外史は我が野望を叶える為の始まりの地となるのです!お前達女はその為に壊れるまで鬼を産み続けるのですよ……………くくくくく、あぁーーーーっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 薄暗い大広間にザビエルの陰湿な笑い声が木霊する。

 その外、朝倉館、一乗谷の城下町、谷の東側にある一乗谷城、全てで鬼が闊歩していた。

 館や家屋の中には朝倉義景と同じ様に鬼の子を孕んだ女達が飼われ、まだ孕んでいない女達は鬼に犯され狂気の声を上げて泣き叫んでいる。

 

 地上の地獄と化した一乗谷は、ザビエルの罠として着々と完成に近付いていた。

 

 

 

 

 久遠と祉狼達ゴットヴェイドー隊は小谷を出発した次の日の昼前に岐阜城へと帰還した。

 そして評定の間。

 

「……………誰ですか…………この女は…………」

 

 既に『鬼兵庫』と化している雹子がエーリカを睨んでいた。

 祉狼はそれに全く気付かず和やかに答える。

 

「この人は堺で知り合って、京で俺の奥さんになったエーリカだ♪」

 

「「なんですってぇええええええええええええええええええええええええええっ!!!」」

 

 雹子と一緒に麦穂も叫んだ。

 二人の般若は立ち上がってエーリカの前にズカズカと迫った。

 しかし、エーリカは落ち着いた様子で正座のまま口を開く。

 

「私の名はルイス・エーリカ・フロイス。祉狼さまを我が主と仰ぎ、この身と魂の全てを捧げると誓った者です。母はこの美濃明智庄の者で、私の日の本の名は明智十兵衛と申します。」

 

 エーリカの流暢な日本語に留守番組が驚いた。

 特に結菜は明智と聞いて眉を寄せた。

 

「エーリカさん。あなたのお母様のお名前は?」

「はい、(まき)と申します。」

 

「槇おばさんっ!?先代明智家当主光安どのの妹のっ!?」

 

「そこまで詳しくは聞いておりませんが、母は日の本で掠われポルトガルまで人買いによって連れ去られた様でした。」

「ん?はっきりせんのだな。」

 

 久遠が問い掛けるとエーリカは困った顔で答える。

 

「これは母が思い出したくない話の様でしたので、時折母が口を滑らせた事を私が繋ぎ合わせて推測したのです。母はポルトガルに着いて直ぐに父の騎士団に助けられ、父に恋をしたとは話してくれましたから。」

 

 最後の部分は槇が嬉しそうに話す顔を思い出したので、エーリカも自然と笑顔になった。

 

「確かに槇おばさんは私が生まれる前に神隠しにあって行方知れずとなったと、光安どのから聞いた事があるわ。そうなるとあなたは私の遠い親戚という事になるわね♪あ、ごめんなさい!私は斎藤帰蝶。通称は結菜よ。」

「貴女様が♪久遠さまと祉狼さま、それにゴットヴェイドー隊の皆さんからお話を伺っています♪特に祉狼さまがお優しくとても頼りになる方と仰っておいででした♪」

 

 エーリカの信頼しきった笑顔に結菜は心を完全に許しそうになる。

 しかし、織田家の奥向きを預かる身としてはそう易々と受け容れる訳にはいかない。

 祉狼の言葉も誰かの入れ知恵ではと久遠とゴットヴェイドー隊の面々を見回すが、全員が結菜の意図を読んで首を横に振った。

 

「え、ええと……貴女は祉狼に身も心も捧げると言ったけど、その意味は判っているのかしら?」

「心を捧げる事は私の行動をみていて頂くしか証明出来ません。そして身体は既に捧げています。」

 

 エーリカの言葉に留守番組が凍りつき、詩乃、ひよ子、転子は頭を抱えた。

 久遠は面白い物を見る目でエーリカを見つめている。

 エーリカの発言は明らかに雹子と麦穂に対する挑戦だ。

 天主教の司祭でもなく、ザビエルを追う騎士でもない、ただの女の意地が言わせたのだ。

 

「……結菜さま……この女と死合いをする許可を頂きとうございます……」

 

 雹子が怒りを通り越してキリングモードに突入していた。

 

「ちょ、ちょっと雹子!明智家も各務家と同じく母利政に仕えた家でしょう!そんなに敵視しなくても…」

「よい!やらせい!」

 

 久遠の一声が引き金となり、女の意地を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 元凶の祉狼は事態が把握出来ず結菜を見る。

 結菜もここで下手な事を言えば祉狼が誤解をすると思い真剣に言葉を選んで説明した。

 

 

 

 本丸の広場でエーリカと雹子が対峙する。

 エーリカは先日鬼の頭蓋を貫いた剣を手にし、その姿は聖騎士と呼んでも差し支えのない毅然とした姿。

 対する雹子はこれも散々鬼を血祭りに上げて来た太平広(たびらひろ)を振袖姿の肩に担ぎ、こちらは例えるなら極道の妻だ。

 その二人を評定の間に居た全員が観戦していた。

 

「久遠、結菜から説明されたが、このままやらせていいのか?」

「お前が初めて来た時と同じだ♪血の気の多い奴らには口で言っても納得せん♪」

「そういう事か…………拙いと思ったら止めてもいいよな?」

「許す。……と言うか、お前以外に止められる奴はおらん。妻同士の喧嘩を丸く治めるくらいの甲斐性は身に付けんとこの先やって行けんぞ♪」

「判った。」

 

 愛妾を増やす画策をした張本人なのに、久遠はそんな事を棚に上げて祉狼に押し付けた。

 祉狼はこれも自分の為にしてくれているのだと思って素直に言う事を聞くのだから困りものである。

 

「泣いて謝っても許してあげませんよ♪祉狼さまを汚した股をカッ捌いて内蔵を引きずり出して差し上げます♪」

 

「御託は良いでしょう。全ては我が剣でお応え致します。」

 

 雹子とエーリカの視線がぶつかり火花を散らす。空気がイオン化する匂いまで嗅いだ錯覚を起こすほど緊迫した中で、雹子が無造作に太平広を袈裟懸けに振り下ろす。

 

ガキィイインッ!

 

 エーリカは避ける事も出来たが剣で受け止め弾き返した。

 それは祉狼への愛を貫き通す覚悟の意思表示であった。

 

 雹子はニヤリと笑い、叩きつける様に連続で太平広を振り回し、エーリカは睨みつけながらその攻撃を全て弾き返す。

 両者は互いに一歩も退く気は無く、鋼同士のぶつかる連続音がひたすら響いた。

 エーリカがここまで出来ると思っていなかった雹子が焦れ始める。

 

「子持ちの腐れ尼の癖して祉狼さまをっ!」

「私に子供などいませんっ!」

「いるだろっ!あそこにっ!」

「美以は私の子ではありませんっ!あなたこそっ!不貞を繰り返しているのでしょうっ!そんな人を我が主に近付ける訳にはいきませんっ!!」

 

 エーリカが渾身の力で剣を振り下ろし、受け止めた雹子の足が衝撃で後ろに滑った。

 

「私は処女だっ!!」

 

 雹子が吠えた!

 

『ええっ!?』

 

 驚きの声は観客となっていた女性陣から起こった。

 

「「どういうことですかっ!?」」

 

 雹子とエーリカは打ち合いを止めて観客達に叫ぶ。

 

「雹子………お前、未通女だったのか?」

「殿っ?」

 

 久遠に続いて三若も衝撃の事実に声が漏れる。

 

「ボクは夜な夜な男を襲ってるって聞いたぞ?」

「雛は殺した数より食べちゃった男の数の方が多いって噂を聞いたよ~?」

「だから森一家の男達を従えられるんだって犬子聞いた事あるよ?」

 

「あ・な・た・た・ちぃいいいいいい!」

 

「うわあぁああっ!ボク達が言い出した訳じゃないぞっ!!」

「噂だよ!雛が聞いたウワサっ!」

「だって森一家の男衆の従順さを見たら納得しちゃいますよう!」

 

 森一家の男衆は雹子の強さと面倒見の良さを純粋に認め憧れていた。

 三若が言った噂耳にすれば母衣衆相手でもその場で袋叩きにするので噂が真実味を帯びてしまったのだ。

 そして一般人は『鬼兵庫』本人にそんな事を言える筈もないので、雹子の耳に入らなかったのだ。

 

「申し訳ありません!各務殿っ!貴女は祉狼さまの為に操を守っておいでだったのですね♪」

 

 エーリカは先程までとは一転して笑顔で雹子の手を握った。

 

「え?」

「必ずや神も貴女を祝福して下さるでしょう♪」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい…………あの子は本当にあなたの娘ではないのですね?」

「美以は私が日の本に来る為に乗った船に紛れ込んでしまった迷子です。保護者ではありますが。私は聖母様ではありませんから純潔のまま子供を産む事はできませんよ♪」

 

 森一家の番頭として、天主教の事を少しは勉強している雹子にはエーリカの言っている聖母の意味が判った。

 

「でも今はもう純潔ではないのでしょう………」

「それは…………あの時の私が祉狼さまへの愛を止められなかったのは弁解しません。ですが、あの時の祉狼さまは心に大きな傷を負っていられました。お慰めせずにはいられなかったのです。」

「祉狼さまがっ!?」

「はい。祉狼さまは鬼を人に戻そうと術を使われましたが、その術で殺してしまわれたのです。初めて人の命を自らの手で絶たれた祉狼さまの気持ちを貴女なら察して下さるでしょう?」

「……………そうですね。祉狼さまは救い手です。祉狼さまをお守りし、敵を殺し汚れるのは私の…私達の役目です。」

「はい♪共に祉狼さまを守る盾となりましょう♪」

「ええ♪私の名は各務兵庫助元正。通称は雹子です♪」

「私の事はエーリカと呼んで下さい♪」

 

 互を認め合う姿に祉狼は胸を撫で下ろし、雹子とエーリカに笑顔を贈った。

 

「そうです!今夜は雹子が初夜を迎えて下さい♪」

「そ、それは…………結菜さまも祉狼さまのお帰りをお待ちになっておいででしたのに………」

「結菜さまも雹子の気持ちを判って下さいますよ♪」

 

 エーリカが笑顔で結菜を見る。

 結菜もエーリカにこう言われては度量の有る所を見せない訳にはいかず、引きつった笑顔で頷いた。

 

「よしっ♪これで皆もエーリカの事は認めたであろう♪後は個人的に試合ってみたければ後日改めてせよ!今はエーリカに鬼の事を伝えさせる!」

 

 久遠の宣言で試合は一先ず終了し、エーリカから鬼の話が伝えられた。

 更に一葉と話し合って決めた内容と北近江で得た情報を伝えた。

 

「今より我らは上洛の準備に入る!留守は佐久間衆に任せる!」

「御意!美濃、尾張の守りはお任せあれ!補給も完璧にこなしてご覧に入れましょうっ!」

「残りは一丸となって京を目指す!権六!五郎左!疾く、完璧に準備してみせいっ!」

「「御意!」」

「上洛の後、返す刀で若狭の鬼を根切りにいたす!各々、覚悟せいっ!」

「「「「おおーーーーーーーっ!!」」」」

 

 三若と昴が一緒になって腕を振り上げた。

 

「上洛には三河も呼ぶ!誰か急使に立てっ!」

「そのお役目、私が参ります。」

 

 前に出たのは詩乃だった。

 

「うむ、では頼もう。」

「御意!」

 

 詩乃が名乗りを上げたのには訳が有り、ひとつは祉狼と旅をした自分に雹子の怒りが向けられるのを回避する為。

 もうひとつはやはり今回の旅で祉狼と閨を共にした自分は暫く順番が回って来ず、祉狼が誰かと閨をともにしているのを夜に布団の中で嫉妬するのが判っていたからだ。

 大きな仕事で忙しければ考える余裕は無くなるし、岐阜城を離れれば今日は誰の所だなどと知らずに済むと思ったのである。

 

「皆の者!戦支度に取り掛かれっ!!」

 

『はっ!!』

 

 半羽、壬月、麦穂が自分の配下に話を伝える為に走って行く。

 三若は昴を引っ張って連れて行ってしまった。

 

「詩乃、三河の松平元康に手紙を書く。内容を吟味するので共に来い。」

「はい。」

 

 久遠は詩乃を連れて天守の中に戻る。

 

「それではわたくしも一度桐琴さんの所へ戻り、話を伝えて参ります。」

「雹子、準備をしておいてあげるから早く戻って来なさいよ♪」

 

 結菜がそう声を掛けると、雹子は顔を赤くして頭を下げてから楚々とした仕草で早足にこの場を後にした。

 とても先程エーリカと刀を交えた般若と同一人物とは思えない。

 

「さてと、まだきちんとご挨拶してなかったわね♪」

 

 結菜はひよ子に抱かれた美以に微笑んだ。

 

「はじめまして♪私は結菜よ♪」

「美以は美以なのにゃ♪」

「美以ちゃん、よろしくね♪お腹へってない?」

「おなかへったのにゃ!」

「ようし、結菜お姉ちゃんが美味しいものをたくさん作ってあげるわよ♪」

「にゃーーー♪」

 

 結菜も小さな子の相手は慣れているので直ぐに美以の心を掴んだ。

 

「も、申し訳ありません!結菜さまのお手を煩わせるなど…」

「気にしないで♪子供の相手は心が和むのよ♪そうだ、祉狼はこれから隊士に帰還の報告とエーリカの紹介をするのでしょう?」

「ああ、そうだが………」

「それならゴットヴェイドー隊の館でご飯を作りましょう♪話が終わったらころと聖刀と狸狐は料理を手伝って頂戴♪」

「私もお手伝い致します!」

 

 エーリカが名乗りを上げると結菜が驚いた顔をした。

 

「エーリカは日の本の料理も?」

「はい♪母から厳しく教えられました♪」

「あら♪それは心強いわね♪」

 

 こうして結菜とゴットヴェイドー隊が館に向かって歩き始めた時。

 

「お~い。俺がまだ挨拶してないんだけどな。」

 

 エーリカの胸元から顔を出した宝譿を見て結菜の目が点になった。

 

 

 

 

 岐阜城二の丸には和奏、犬子、雛、桃子、小百合が暮らす屋敷が在る。

 五人が昴の嫁となったので結菜が配慮して与えた家だ。

 その屋敷の部屋に五人と昴が揃うのは半月ぶり以上である。

 

「和奏ちゃん、犬子ちゃん、雛ちゃん、桃子ちゃん、小百合ちゃん……………怒ってる?」

 

「別に怒ってなんかいないぞ。」

「久遠さまの命令だししょうがないよねぇ~」

「手紙は置いていってくれたしね~」

「それでも心配はしました。」

「無事に帰ってきてくれたからそれはもういいですよ♪」

 

「ありがとう、みんな♪…………」

 

 昴は五人の幼妻の優しさに涙を浮かべて喜んだ。

 

「……………………………で、なんで私はまた縛られてるのかな?」

 

 昴は初めての時と同じ様に身動きが出来なくされていた。

 しかも今回は宙吊りされるというおまけ付きである

 

「そんなの久遠さまの護衛を無事努めた昴ちゃんへのご褒美だよ~♪好きなんだよね~こういうの♪」

 

 雛の可愛いく小悪魔っぽい笑顔に期待と不安が3:7の割合で昴の胸に湧き上がる。

 

「それは確かにそうだけど…………」

「ようし!それじゃあ早速♪」

 

 和奏が昴の顔に近付いて微笑んだ。

 

「あのひよが抱いてた女の子は何者だ!」

 

 笑顔から一転、目尻を吊り上げた怒りの形相で昴の顔を両手で掴んだ。

 

「あ、あの子はエーリカさんが保護した南蛮の女の子で名前は美以ちゃんっていいます。南蛮って言っても西域の事じゃなくて大陸の南の事であの子のご先祖様はかつて蜀の諸葛孔明に従って戦った由緒正しい一族なんだけど今では密林の中で少人数しかいない幻の民だそうです。」

「そんな事を訊いてるんじゃない!したのか?」

「してません!」

 

 昴の即答に五人で顔を突き合わせて真偽を判定し始めた。

 そして出た結論は。

 

「「「「「嘘だね。」」」」」

 

「そんなっ!本当よっ!美以ちゃんとお風呂に入って身体は洗ってあげたけど、それ以上は、あ…………」

 

 五人がジト目で昴を睨んでいるのを見て、口が滑った事に気が付いた。

 

「やっぱりなぁ。昴があんな可愛い子を前にして何もしない方がおかしいもんな。」

「わぁい、私の事をスゴく知っててくれてうれしー。」

 

 昴の誤魔化しは棒読みでとても白々しい。

 

「そこで我慢した事は評価して、お仕置きは軽めにしてやる♪」

「それでもお仕置きはされるのね………」

「決まってんだろ!総員戦闘準備!」

 

 和奏の掛け声で全員が服を脱ぎ捨て、揃いの白褌一丁の姿になる。

 

「戦闘開始っ!!」

「「「「おおーーーーーーーっ!!」」」」

 

 五人は荒縄で縛られ宙吊りになった昴へと突撃を開始した。

 

…………

……………………

…………………………………

 

 このお仕置きの様なご褒美は五人の欲求不満が解消されるまで続けられた。

 

 そして部屋の中の六人は気付かなかったが、この嬌宴を覗いていた者が居る。

 それは小夜叉だった。

 昴が戻って来たと雹子から聞いて屋敷にやって来たのだが、その時は既に嬌宴が行われている最中だったのだ。

 屋敷に近付くと妙な声と物音が聞こえて来たので、初めは不思議に思って庭から上がり込み、見慣れない道具が沢山置かれた部屋に忍び込んで物陰から覗いた。

 小夜叉の野生を以てすれば気配を消すなど容易い事だった。

 しかし、中で行われていた事を見て小夜叉はショックを受ける。

 それでも一時間程眺めてから屋敷を出て行ったのだった。

 

 

 

 

 岐阜城本丸に在る元竹中屋敷。

 その一室で雹子は正座をして祉狼を待っている。

 既に日は暮れ、立秋を過ぎた空気は秋の到来を感じさせた。

 稲葉山の上に在る岐阜城は清洲に比べて秋の到来が早い。

 屋敷の庭からは秋の虫の声が聞こえていた。

 結菜の指示で屋敷は整えられ、湯浴みで身も清めた。

 

 結菜と雹子は幼い頃からの知り合いだった。

 雹子の母盛正が長良川の戦い(利政・龍義の親子の戦い)で桐琴と共に結菜の母利政(道三)に味方してくれた事への感謝もある。

 その長良川の戦いで同じ各務一族の各務右京亮が裏切り盛正は死ぬ事となる。

 雹子は恨みを晴らすべく右京亮の屋敷をひとりで襲い殺し尽くした。

 これが『鬼兵庫』と呼ばれる所以である。

 この事を桐琴が気に入って織田家に仕える時に一緒に連れて来たのだ。

 雹子は元々育ちが良く、愛情の深い性質なので普段は物静かで面倒見が良い。

 森一家の荒くれ男達の憧れの的であり、一度キレれば情け容赦が無いので恐怖の対象でもある。

 そんな雹子の待つ部屋の前に祉狼がやって来た。

 

「雹子さん、入るよ。」

「はい。お待ちしておりました、祉狼さま。」

 

 襖を開けて入室した祉狼が座るのを待って、雹子は静かに三つ指を着いた。

 

「この度はわたくしの不躾なお願いをお聞き届けて下さり、誠に有難う御座います。不束者では御座いますが、どうか末永く傍らに侍る事をお許し下さいませ。」

 

「ええと…………雹子さん。」

「雹子……と、呼び捨てて下さいませ。」

「いや、その前に質問させてくれ。雹子さんは俺みたいな青二才の何処が気に入ったんだ?俺はついこの間初めての人を殺して、怖気付く様な臆病者の子供だ。この戦の続く世では俺なんか情けない軟弱者だろう?」

「祉狼さまがその様な方だからですよ♪人を救うのは人を殺す事よりも何倍も時間と労力が必要です。例えば病を治すにも薬を与え何日も看病する。しかし殺す事は刀の一振り、槍の一突きの一瞬で事足ります。それでも祉狼さまは人を救う道を選ばれる………いえ、それが祉狼さまは当たり前だとお思いでしょう。」

 

 祉狼は黙って頷いた。

 

「その様な心根を持っておられる事が、この戦国乱世でどれ程素晴らしく眩しい希望の光なのか♪わたくしはその光に魅せられ、決してこの日の本から消してはならないと思いました。殿と結菜さまを始め、他の方々もきっと同じ………あのエーリカもそうに違いありません。祉狼さまの魂を守る為ならば命を賭ける価値が有ると。」

 

 雹子は祉狼へ再び頭を下げる。

 

「そして、もうひとつ…………わたくしは祉狼さまに救って頂きたいのです。わたくしの中に棲む鬼を退治してください…………殿が天下布武を成し遂げるその日まで、わたくしは人を殺し続けるでしょう。その時までわたくしの心が鬼に飲み込まれぬ様に………」

「判った。雹子さんの………いや、雹子の魂を一生掛けて治療しよう。」

「有難う御座います…………祉狼さま♪」

 

 顔を上げた雹子は微笑みながら涙を浮かべていた。

 

「それでは祉狼さま………人を殺し続けるこの汚らわしい獣に罰をお与え下さいませ。」

 

 雹子は立ち上がり、自ら帯を解き始める。

 

「そして祉狼さまに逆らわない様に厳しく躾て下さいませ!」

 

 着物を脱ぎ、襦袢も肩から滑り落として祉狼にその身を晒した。

 肌襦袢の下から現れた身体に下着は着けられていない。

 しかし、雹子は全裸では無く、身体には荒縄が巻き付いていた。

 

…………

……………………

…………………………………

 

 気を遣った雹子が意識を失っている。

 祉狼は気付けをするべきか、それともこのまま休ませるべきかと考えながら布団に尻を着いた時、屋敷の外へ誰かが走り去る気配を感じた。

 

「今のは……………小夜叉か?」

 

「ええ………」

 

 雹子が早くも意識を取り戻して答えた。

 

「もう目が覚めたのか………」

「はい♥気を失っている時間も惜しいですから♥………ですけどあの子に恥ずかしい姿を見られてしまいました…………」

 

 口では恥ずかしいと言いながら、その表情は明らかに楽しんでいた。

 

「いいのか?行かせてしまって。」

「あの子の事はわたくしにお任せくださいませ♪」

 

 雹子は身体を起こしてゆっくりと祉狼に撓垂(しなだ)れ掛かる。

 

「それよりも………♥」

 

 雹子は流し目を祉狼に贈って耳元で囁いた。。

 

「わたくしはまだ『やめて』とは申し上げておりませんよ♥」

「ああ………そうだ、今のは治療だが、子供作りの為に精は子宮へ注いだ方が良いぞ。」

「祉狼さま、わたくしだってそれくらいは知っております。」

 

 雹子のむくれた顔には甘えが含まれ、祉狼はこの年上の女性がとても可愛く感じた。

 

「いや、言い方が悪かった。俺の精は子供が出来づらいと思うから、出来るだけ子宮に注いだ方が良いと思って。」

「お子が出来づらい?」

「ああ、俺の伯父、北郷一刀の話は前に評定でもしたよな?」

「はい、聖刀殿のお父上ですね。身体が三つに分かれたという。」

「その伯父さんたちは赤ん坊をなかなか授ける事が出来なくて数をこなす必要が有るのだと本人たちから教えて貰った。そして聖刀兄さんの奥さん達もまだ子供を授かっていないんだ。だから俺は北郷の血筋は子供が出来にくいのだと考えている。」

 

 因みに一刀たちが祉狼にこの話をした次の日、母の二刃は一刀たちをボコボコに殴り倒した。

 

「雹子の心を満たす事で『心に棲む鬼』がいつか消えると言うのは理解できる。心の治療は焦らず長期的にするものだ。だから雹子が治療の所為で子供がなかなか出来ないと気に病む事が心配なんだ。」

 

 雹子は微笑んで祉狼の頬に口づけをする。

 

「その様にわたくしを心配して下されば、『心の鬼』も早く消えてしまいますよ♪お子はそれからでも構いません♪」

「判った。だったら俺は子作りよりも治療を優先する。」

「はい♪それでは治療の続きをお願い致します♪次はそうですね…………♥」

 

 この後、雹子は夜明けまで被虐的な願望を次々と叶えたのだった。

 

 

 

 

 昴が美濃に戻って来た次の日、小夜叉は森一家の事務所…もとい、屋敷の縁側でボーっとしていた。

 

「あれが子作りってやつなのか……………昴と祉狼はまるっきり逆のことしてやがったよなぁ………」

 

 小夜叉は昨日見た光景を思い出して頭を悩ませていた。

 初めて見たアレが特殊なプレイスタイルだとは知る由もない。

 特殊故にインパクトが大きく頭から離れないのだが。

 別に小夜叉は覗くつもりは無かったのだ。

 昴が戻って来たと知ったから遊びに行った。

 屋敷の中では昴と和奏達の嬌宴が繰り広げられていた。

 何だか訳も分からず居た堪れなくなり声も掛けずに屋敷を出た。

 真っ直ぐ帰る気にもなれず本丸の中をうろついていたら一軒の屋敷の中から雹子の声が聞こえた。

 また黙って上がり込んでみたらここでも真っ最中だった。

 初めて見る雹子の痴態に胸がドキドキした。

 そんな自分に気が付くと、また訳も分からずその場から走り去っていた。

 何もかもが自分らしく無かった。

 これまでは首を刈る事しか興味が無かった自分が、今もこんな事をウジウジ考えているのが一番判らなかった。

 

「小夜叉、どうしたのです?」

 

 声に振り返れば廊下の端に雹子の姿が在った。

 その顔にはいつも以上の笑顔が溢れ、肌がツヤツヤしている。

 

「なあ、各務。子作りっておもしれぇのか?」

 

 単刀直入に訊いた。実に小夜叉らしい真正面からの質問だ。

 

「ええ、とても楽しいですよ♪気持ちが良くて何度も天に昇ってしまいました♪」

 

 雹子もまるっきり気にせず、隠しも誤魔化しもしないで笑って答えた。

 

「敵をぶっ殺すよりもか?」

「わたくしは小夜叉や桐琴さんみたいに楽しんで殺している訳じゃないですよ。」

「そうかあ?おめぇだってゲラゲラ笑いながら段平(だんびら)振り回してんじゃねえか。」

「………それはさて置き………楽しい事は別にひとつだけではないでしょう?森勝蔵ともあろう者がやる前から怖気づいているのですか?」

 

「……………わかんねぇ………」

 

 いつもならこんな事を言われれば噛み付いて来る小夜叉が弱々しく俯いてしまった。

 

「なあ、子作りってのは縄で身体を縛んなきゃいけねぇのか?」

「あれはわたくしの趣味です。」

 

 互いに覗き覗かれていた事は気付いているのでそこはスルーだ。

 

「でもよぉ、昴のヤツも身体を縄で縛ってたぜ?」

「あら、昴殿もわたくしと同じ趣味をお持ちなのね♪それならば小夜叉はいつも通りで良いではないですか♪」

「あぁ?槍で突いちまうのか?」

「殺しちゃ駄目でしょう!そうではなくて、小夜叉がしたい事をして、して欲しい事をして貰えばいいという意味です!」

 

「そんなんでいいのか?なんかもっと面倒くせぇのかと思っちまったぜ♪」

 

 小夜叉はスッキリした顔でニカッと笑う。

 早速昴の所に向かおうと立ち上がった所で庭をバタバタと走ってくる音が聞こえた。

 

「小夜叉姉ぇ♪あそべー♪」

「あそべー♪」

 

 小夜叉の妹の蘭丸と坊丸だ。

 蘭丸が六歳で坊丸が四歳、どちらも小夜叉のミニチュアみたいな女の子である。

 

「んだとこら♪あそべじゃなくて遊んでくれだろうが♪」

 

 言葉は乱暴だが笑って相手をするあたりは良いお姉ちゃんである。

 

「あそんでくれー♪」

「くれー♪」

 

「オレは今から昴の所に行くから母と遊んでこい。」

「母にいったら小夜叉姉とあそべっていわれたー…………」

「いわれたー……」

 

 蘭丸と坊丸がしょぼくれるので出掛けづらくなってしまった。

 

「そんじゃあ各務と遊べ。」

「はいはい♪そう言うと思いました………そうだ、小夜叉。蘭と坊を連れて昴殿の所に行くと良いですよ。」

「ああっ!?こいつらにオレが子作りするところを見せろってのかっ!?」

「違います!まあ、難しい事を考えずに蘭と坊の散歩でもするつもりで行ってきなさい。そして昴殿をここに連れて来れば良いでしょう♪」

「昴に会ったらこいつらほっぽり出すのかと思ったぜ…………昴の野郎をここに連れてくるのかっ!?」

「小夜叉が何処でするつもりだったかは知りませんが、この森屋敷ならばわたくしが邪魔の入らない様にしてあげられます♪」

「お、おう………そ、そうか?」

 

 小夜叉は蘭丸と坊丸を見てニカッと笑う。

 

「蘭!坊!これから昴の野郎を掻っ攫いにいくぞ♪」

「かっさらうのかー♪らちかんきんだー♪」

「ひゃっはーー♪」

 

 こうしてリトルヤクザが事務所、もとい森屋敷を出発した。

 

 

 

「こいつらがオレの妹の蘭丸と坊丸だ♪」

「蘭丸だー!なめるとぶっころすぞー!」

「ぼうまるだー!ぶっころすぞー♪」

 

 ゴットヴェイドー隊の屋敷前で昴は鼻血を流して森三姉妹を出迎えていた。

 

「初めまして♥私は昴よ♥殺されてもいいからちょっと舐めさせて♥」

「何を馬鹿な事を言ってる。ほら、鼻血を止めるぞ。」

 

 祉狼に首の後ろをトントン叩かれながら昴は蘭丸坊丸と握手をしている。

 

「ああやって鼻血を止める姿を見ると、稟の鼻血を止めてた風を思い出すぜ。」

「はあ、そうなんですか………」

 

 頭の上の宝譿に相槌を打ちつつ、エーリカは森三姉妹の言動に戸惑っていた。

 

「(ひよ、ころ、あの子達が雹子の主のご息女なのですか?)」

 

 『ご息女』という表現がとことん似合わない三姉妹を見て転子が苦笑いを浮かべ、ひよ子に至っては本気で卒倒し掛けていた。

 二人は祉狼が森親子と出会った時は美濃調略に出ていたのでまともに挨拶もしていない。

 特にひよ子は清洲城で森親子を出迎える門番をやらされた事が有り、その時の事がトラウマになっていた。

 

「おいっ!そこの金柑頭っ!」

 

 小夜叉に呼ばれてエーリカが振り向く。

 似た様な髪の色なのにこの呼び方はどうかと思うがエーリカは気にしていない様である。

 

「てめぇ、ウチの各務と昨日殺りあったそうだな♪異人のくせに根性あんじゃねぇか♪」

「あんじゃねーか♪」

「ねーかー♪」

 

「え、ええ………」

 

「エーリカさん、褒められてるんですよ♪」

 

 昴の通訳でやっと意味が判り、これも方言なのだろうと曖昧ながら納得する。

 

「お初にお目にかかります。我が名はルイス・エーリカ・フロイス。日の本の名は明智十兵衛。エーリカとお呼び下さい。」

「おう♪オレは森勝蔵長可!森の小夜叉とはオレの事よ!こいつらは妹の蘭丸と坊丸だ♪」

「ふふ♪可愛らしい妹様ですね♪」

 

 エーリカが膝を折って顔の高さを合わせて微笑むと、蘭丸と坊丸は恥ずかしそうに小夜叉の後ろへ隠れてしまった。

 

「かわいいーとかいってんじゃねー!ぶっころすぞー!」

「ぶっころすぞーー♪」

 

「………………………………」

「可愛いって言われて嬉しいそうですよ♪」

 

 日の本の方言は難しいとエーリカは内心唸った。

 

「昴!てめぇ今からウチ来いや!」

「うちこいやー!」

「こいやー♪」

「うん♪それじゃあみんな、いってきま~す♪」

 

 昴は一瞬の間も置かず森三姉妹と一緒に行ってしまった。

 

「何か、嵐の様な人達でしたね………」

「織田衆最凶の戦闘集団ですからねぇ……」

 

 転子は大きく深呼吸をして緊張を解いた。

 

「ほら、ひよ♪もう大丈夫…………わあっ!お頭あっ!ひよが引きつけ起こしてますぅっ!!」

 

 ひよ子はトラウマに勝てなかった様である。

 

 

 

「ねえ、小夜叉ちゃん。桐琴さんは?」

「知らねー。どっかで酒でもかっくらってんだろ。」

「ねえ、小夜叉ちゃん。蘭丸ちゃんと坊丸ちゃんは?」

「槍振り回して各務と遊んでる。」

「ねえ、小夜叉ちゃん。この部屋って何で入口に太い木の格子が有るのかな?」

「そりゃここは座敷牢だからな。」

「ねえ、小夜叉ちゃん。何で私達は座敷牢の中に居るの?」

「ここが一番邪魔が入らねえからだよ。ごちゃごちゃ細けえこと気にすんな!」

 

 森屋敷の座敷牢には布団が敷かれてあり、小夜叉が顔を赤くして所在無げにウロウロしている。

 昴はこの状況から小夜叉なりに誘っているのだと結論着けた。

 普通の人間ならここで殺されるとパニックを起こす所だが、小夜叉が殺すのにそんな回りくどい事をしないと昴には判っている。

 

「ねえ、小夜叉ちゃん。私はどうしたらいい?」

 

 小夜叉は雹子に言われた通り、自分のしたい事を言い放つ。

 

「オレと子作りしろっ!!」

「うん♪いただきまーーす♥」

 

 昴はまたしても一瞬の躊躇いもなく返事をした。

 

 

…………

……………………

…………………………………

 

 

 昴と小夜叉は布団の中で抱き合っている。

 

「まったくよう、子作りがこんな痛ぇとは思わなかったぜ………」

「初めの内は仕方ないのよ。でも気持ちよくなったでしょ♪」

「そりゃまあ…………そうだけどよぉ…………あそこから血が出るなんて初めてだぞ!」

「そんなに怖い顔しないで♪………………ちょっと待って!小夜叉ちゃん、月のものは!?」

「はあ!?…………ああ、母や各務が毎月出すあれか?オレはまだだけどそれがどうした?」

「……………小夜叉ちゃん、それだと小夜叉ちゃんはまだ赤ちゃん出来ないわよ………」

「そうなのか?まあいいじゃん♪子作りの練習をしたと思えばよ♪」

 

 小夜叉はショックを受けた様子もなく無邪気に笑っている。

 

「小夜叉ちゃんがいいなら、それでいっか♪」

 

 昴と小夜叉の甘い時間はこの後も暫く続いたのだった。

 

 

 

 

 祉狼と雹子が結ばれてから五日。

 昴と小夜叉が結ばれてから四日が経った。

 

「お~い、昴♪鬼退治に行こうぜぇ♪」

 

 小夜叉がゴットヴェイドー隊の屋敷にやって来た。

 

「小夜叉!お誘いするのは昴殿だけではありませんよ!」

「祉狼は各務が誘えばいいだけじゃねえか。」

「それもそうですね♪って、違います!」

 

 雹子のノリツッコミが終わった所でゴットヴェイドー隊の面々が屋敷から出て来た。

 

「小夜叉!雹子!鬼が出たのかっ!?」

 

「おう、孺子!ワシもおるぞ!」

 

 小夜叉と雹子の後ろに桐琴の姿も在った。

 

「おう♪桐琴さん、久しぶりだな♪」

「お前もな、孺子♪ウチの各務が世話になったな♪この礼はしっかり返してやるぞ♪」

 

 セリフがまるでお礼参りみたいだが、桐琴は祉狼に本気で感謝しているのだ。

 祉狼も笑って応えているので問題ないのだが、祉狼の後ろでひよ子が既に気絶していた。

 

「それで北美濃か?それとも西美濃か?」

 

 祉狼は越前か江南から侵入したと思い訊いたのだが、雹子から意外な答えが返って来た。

 

「いいえ、尾張の東。三河との国境に近い長久手の近くの山中です。」

 

「なんだってっ!?」

 

 美濃と尾張の鬼は森一家が尽く狩っているので琵琶湖の北、西、南の鬼が織田領内を抜ける事は不可能な筈だ。

 普通ならば見落とした鬼がそこまで流れ着いたかと思うが、先日まで雹子が欲求不満の虐殺モードだったのでそんな獲物を見逃す訳が無い。

 その鬼が何処から現れたか調べる為にも長久手には出向く必要が有る。

 事に因っては上洛の最中に後ろを脅かされる可能性も出て来たのだ。

 そして何より三河には詩乃が久遠の名代として向かっており、何も知らない詩乃が鬼に襲われる可能性だって有る。

 

「少しだけ待ってくれ!久遠に長久手へ行く許可を貰ってくるっ!」

 

 祉狼も流石に学習して、直ぐに飛び出す事は我慢出来た。

 しかし、聖刀が祉狼の肩を掴んで止める。

 

「祉狼、久遠ちゃんには僕が許可を貰って来てあげる。祉狼はみんなを連れて直ぐに出発するんだ。」

「聖刀兄さん………」

「大丈夫♪僕も直ぐに追いかけるよ♪」

「ありがとう、聖刀兄さん♪それではゴットヴェイドー隊!出動っ!!」

 

 祉狼の掛け声に昴、貂蝉、卑弥呼、転子、エーリカ、美以、宝譿が声を上げて応えた。

 ひよ子は気を失っているので返事はない。

 

 

 

 気を失っていたひよ子は身体に伝わる振動で目が覚めた。

 

「……………あれ?…………ここはいったい………」

「ひよ、目が覚めたか♪」

 

 祉狼の声が極近い所から聞こえた。

 

「……お頭…………お頭あっ!?」

 

 祉狼の横顔が視界の左にドアップで有る。

 ひよ子は祉狼の背中におぶさり馬上に居た。

 しかも馬から落ない様に縄で祉狼に括りつけられているのだ。

 

「おう、目が覚めたか♪」

 

 馬を寄せて声を掛けて来たのは小夜叉だ。

 ひよ子は小夜叉を恐れるよりも、祉狼に密着していてしかも離れる事が出来ない状態にパニックを起こしている。

 

「お前、殿の小者頭をやってたヤツだろ♪今は祉狼の嫁なんだってな♪昴がお前の事を友達だって言ってたから、これからはヨロシクしてやんぜ♪」

「へ?は、はいっ!ひよ子ですっ!よろしくお願いしますっ!」

「昴がオレの旦那になったの知ってるだろ♪ウチの各務も祉狼の嫁になったし♪これからは森一家がお前らゴットヴェイドー隊を守ってやんぜ♪って言うか、お前らはもう森一家の一員だ♪」

 

 ひよ子は目の前が真っ暗になった。

 ゴットヴェイドー隊は、味方は勿論、敵であっても傷ついた者は助ける事を明言した救助隊である。

 対して森一家と言えば、敵は勿論、味方でさえも戦場で目に入れば首を刈る最狂戦闘集団だ。

 これほど水と油な部隊は他に無いだろう。

 それなのに両部隊の指揮官同士の馬が合うのだからひよ子には不思議でしょうがない。

 ひよ子は顔を巡らせて助けを求めるが、最初に目に入ったのが雹子の嫉妬が篭った顔だった。

 

「ひっ!」

 

 慌てて反対側を見ると、今度はエーリカが氷の様な眼差しでこっちを見ている。

 

「(ゴクリッ!)」

 

 背筋に冷たい物が走り身体が強張る。

 幼馴染である転子の姿を求めて錆び付いたブリキ人形の様に首を動かすと、転子もムスッとした顔で自分を睨んでいた。

 

(ひ~~~ん!私がお願いしたんじゃないのにぃ~~~!一体何がどうなってるのぉ~~~~!!)

 

 針の筵状態で唯一の慰めは胸に感じる祉狼の背中の温かさだけである。

 最も、そうやって身体をくっつけているからこうなっているのだが。

 

「ん?向こうの丘から馬が駆けて来るぞ。」

「へ?どこですか?」

 

 ひよ子は祉狼の肩越しに前を見るが遠すぎて良く判らなかった。

 

「何か小さな女の子が槍を持ってるな。」

「小さな女の子………」

 

 嫌な予感がして昴に振り返る。

 

「きゃあ♪可愛い幼女だわ♪鹿の角みたいな飾りの帽子が可愛いっ♪」

 

 既にロックオン済みで萌えモードに入っていた。

 しかし、問題は昴では無く、その横で不機嫌な顔をしている小夜叉だ。

 

「このワシに喧嘩を売りに来ようとは、見上げたクソガキじゃっ♪相手になってやるっ♪」

 

 ひよ子の予感の遥か上を行って桐琴が駆け出した。

 

「ひよっ!しっかり捕まれっ!」

「へ?」

 

 祉狼の言葉を理解する前に馬が走り出し、ひよ子は慌てて祉狼に抱きついた。

 その瞬間周りから殺気が湧き上がる。

 

(うわぁああああああん!おっかあたすけてぇええええええっ!!)

 

 ひよ子の心の叫びとは関係なく、騎馬の幼女との距離はあっと言う間に近くなった。

 

「やあやあ綾那こそは、三河の本多平八郎忠勝なのです♪そこにおわすは田楽狭間の天人、孟興子度さまとおみうけするのです♪」

 

 馬を駆りながら名乗りを上げる綾那。

 しかも昴を名指しした事に小夜叉がキレた。

 

「このクソガキッ!ひとの旦那にちょっかい出そうなんざこのオレがゆるさねえっ!!ぶっ殺してやらあっ!!!」

 

 和奏達が聞いたら『お前が言うな!』とツッコミを入れるセリフと共に小夜叉は『人間無骨』を綾那に向かって突き出した。

 

「なんですかお前は?綾那は子度さまにお話があるのです!邪魔するななのですっ!」

 

 小夜叉の突きをヒョイと躱して綾那も応戦を始めた。

 

「ガキィ!そのクソガキはワシの獲物じゃ!横取りすんじゃねぇっ!!」

 

 桐琴も加わり二対一の戦いになったが、綾那は小夜叉と桐琴を相手にしても互角の勝負を繰り広げた。

 

「お頭っ!早く止めないとっ!」

「いや、大丈夫だろ。本当に拙くなったら俺と昴が止めるよ♪」

「そんなっ!あの子は三河の方なんですよ!万が一何か有ったらっ」

 

 ひよ子は三河との外交問題になると気が気では無い。

 しかし、祉狼は気にせずに笑って眺めるだけだった。

 

「そんな事よりも、ひよ子さん。」

 

 口調は静だが殺気を孕んだ雹子の声に、ひよ子は恐る恐る振り返った。

 

「何時まで祉狼さまに括り着いているのでしょうか?」

「そうですね。意識が戻ったのなら、その縄は無用でしょう。」

 

 エーリカが閃光の様な剣捌きで祉狼とひよ子を結ぶ荒縄を切断した。

 

「ひっ!」

「ひよ、馬が無いから私の馬を貸してあげるね♪で、次は私がお頭の後ろに…」

「お待ちなさい、転子さん!ひよ子さんには私の馬を貸して差し上げます!」

「雹子!メィストリァには私の馬に乗って頂きます。ひよはそのままその馬を使って下さい。」

 

 転子、雹子、エーリカの三人に詰め寄られてひよ子は身体が竦んでしまう。

 ひよ子は屋敷で桐琴の姿を見た所から記憶が無く、気が付いたら祉狼に括り付けられていたのだから攻めるのは酷と云う物だ。

 尤もひよ子を括り付ける事を決めたのは祉狼本人なので、彼女達の行き場のない怒りの矛先が巡り巡って結局ひよ子に向けられたのは仕方の無い事なのかも知れない。

 

「お、お頭ぁ!たすけてぇええええええ!」

 

 追い詰められたひよ子が最後に頼るのはやはり祉狼しか居なかった。

 

 それが彼女達の嫉妬の炎に油を注ぐ結果になったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

あとがき

 

 

今回最も活躍したのは荒縄かもw

 

刃傷沙の修羅場が遂に勃発w

普段から刃物を振り回している人達ですからねぇ。

一刀の場合は矛先が全て一刀自身に向けられていたのでこういう事は無かったですよね。

あれが一刀の嫁管理能力だとすれば、祉狼はまだまだ伯父の足元にも及ばないのでしょう。

祉狼が一刀みたいになったら二刃が発狂すると思いますけどw

雹子の得物の太平広とは刃幅の広い作りの刀で、段平の事です。

太平広が本来の呼び方で「だびらひろ」が「だんびら」に音変化したそうです。

 

 

ザビエル于吉:遂に登場しました。こいつは徹底的に下衆にします。当然ホモですw

 

蘭丸&坊丸:久遠の小姓になる前に昴が食べちゃうでしょうねw

 

綾那:最初から昴に興味を持っています。理由は原作と同じですが祉狼でも聖刀でも無く昴なのは次回作中で説明します。昴にとっては完全にカモネギw

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5585338

 

 

次回は長久手での鬼退治~上洛出発までの予定です。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
12
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択