No.790946

九番目の熾天使・外伝 ~短編⑱~

竜神丸さん

タカナシ家の休日 その3

2015-07-21 16:15:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1983   閲覧ユーザー数:904

「タカナシ家長男の婚約者…?」

 

「えぇ。リディアと申します、よろしくね」

 

「…よろしく」

 

ユウナに連れられたスノーズはタカナシ家の自宅に到着した後、ソラの婚約者である女性―――リディアから改めて自己紹介をされていた。リディアから握手を求められ、スノーズは彼女の事を不思議そうに見ながらも、それに応じて握手を交わす。ちなみに…

 

「…えっと、スノーズさん」

 

「ん、何かな?」

 

「…足元のそれ、良いんですか?」

 

「良いの良いの。彼の自業自得なんだから」

 

「ゲフゥ…」

 

今現在も、シグマはスノーズに踏みつけられたままなのは言うまでもない。そんなシグマを見て苦笑いしか出来ない刀奈を他所に、ユウナは久しぶりに再会したリディアと楽しく会話をしていた。

 

「ところで義姉さん、今日は帰って来るのが早いですね。仕事の方は良いんですか?」

 

「えぇ。旅団の皆さんから、今日はキー君やアー君の二人も休暇を貰ってると聞いたものだから、久しぶりに日本に帰って来ましたの。ソー君もいてくれたら、私としてはもっと嬉しかったのだけれど…」

 

((ソー君…?))

 

「ソラ兄さんは今も忙しいみたいです。二人と同じで休暇を貰ってる筈なのに、ここ最近は帰って来る様子がまるでなくて」

 

「そう、残念ですね……でも、いない以上は仕方ありませんね。それに今回は、兄妹達以外にもたくさん人がいるみたいですし」

 

「「!」」

 

リディアは再びスノーズと刀奈の方へと振り返る。

 

「前にソー君との通信で聞きましたわ。ユウナちゃんを守ってくれて、本当に感謝しています」

 

「…自分に出来る事をやったまでです。そこまで感謝されるような事では…」

 

「そう謙遜しないで。あなたがやった事は、本当に立派な事なのですから」

 

「…そうですか」

 

「あら、あなたは確かユウナちゃんの教え子でしたね。初めまして、私の義妹とは仲良くしてるかしら?」

 

「は、はい! 初めまして、湯島刀奈と申します…!」

 

「ふふふ、そんなに緊張しないで。いつも通りの接し方で良いのよ?」

 

「は、はい…」

 

「あら、そこに倒れているあなたも初めまして。怪我は大丈夫かしら?」

 

「お、おぅ……だ、大丈夫だ、ぜ……ガクッ」

 

「まぁ大変、傷の手当てをしなくちゃいけませんね!」

 

((…ほんわか過ぎて逆に接し辛い!!))

 

リディアがシグマを介抱しようとしているのを見て、スノーズと刀奈は二人して同じ思想を抱いていた。そんな事など露も知らないリディアは、シグマを居間のソファに寝かせてから両手を合わせる。

 

「あなたの力を貸して……“アブラクサス”」

 

「「!?」」

 

するとリディアの足元に大きな魔法陣が出現し、彼女の背後から翼を生やした天使のような女性が姿を現した。両手を拘束している手枷、両足の足枷、胸部や腹部に巻き付いたベルト、その細い首に付けられた首輪、そして両目を覆っている目隠し。厳重に拘束された姿をしているその天使“アブラクサス”は、手枷で拘束されたその両腕を突き出し、そこから淡い光を放出してシグマを包み込む。

 

「ぐぅぅ…………ん? お、おぉ!? 全然痛くねぇ!!」

 

すると、先程まで瀕死状態だった筈のシグマは起き上がり、その場でピョンピョン飛び跳ねながら身体の調子を確認し始めた。これには見ていたスノーズと刀奈も驚きを隠せない。

 

「な、何なの……この、天使のような…!?」

 

「あれはアブラクサス。義姉さんの守護天使だよ」

 

「守護天使…?」

 

「分かりやすく言えば、義姉さんを守るボディーガードみたいな物かな。ソラ兄さんと出会う前から、義姉さんと一緒だったんだって」

 

「守護天使、か…」

 

元気に飛び跳ねているシグマを見てスノーズが呟く中、アブラクサスは呆れたような口調でリディアに語り掛けていた。

 

『リディア、またこんな事で我を呼び出すのはやめてくれ。治癒魔法だって、一回使うたびに魔力が馬鹿にならないんだ』

 

「あら、困っている人を見過ごすなんて私には出来ませんよ? 私の守護天使として付いて来てくれると言ったのは他でもないあなたじゃないですか」

 

『それ以前にそいつが怪我したのは自業自得な訳なんだが……いや、それはもう良い。用が済んだのなら、私はもう戻るぞ』

 

アブラクサスは溜め息をついてから魔法陣へと沈んでいき、魔法陣も消滅。リディアはふぅと息を吐いてから、未だ身体の調子を確認しているシグマに声をかける。

 

「お身体はもう大丈夫ですか? 無事に治って良かったです」

 

「んあ? お、おう。何か悪いな、けど治してくれてありがとよ。スノーズの奴、また痛ぇ事してくれちゃってさぁ」

 

「まぁ、そうなの? いけませんわよスノーズさん、お友達は大事にしなくちゃ!」

 

(いやそもそも、彼の所為で僕の財布は空になった訳なんだが…)

 

「たく、本当に酷ぇんだよコイツは。俺という存在が可哀想に思わねぇのか? ん?」

 

「…OK、何かイラッと来た」

 

「ギャァァァァァァァァ嘘です嘘です俺が悪かったですマジですんませんしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「あぁ、駄目ですよ!? せっかく治したのに!!」

 

シグマの挑発にイラッと来たのか、スノーズの関節技が再びシグマに炸裂し、それをリディアが必死に止めようとする。そんな彼等をユウナは苦笑しつつ眺め、刀奈はあまりのテンションに唖然とする始末。

 

そんな時…

 

「は~い、エロくて美しい私が参上!」

 

「葵さんよぉ、今回は割とマジで自重してくれ頼むから」

 

「ん? リディア義姉、いつの間に来てたの?」

 

『ふむ、彼女はいつもあぁなのか?』

 

「なっはっは、面白ぇ人だろ? お馬ちゃん!」

 

『騒がしいの間違いでは? それからその名で呼んで良いのはルイ殿だけだ』

 

「「こんにちは~!」」

 

「ほぉ~…また個性的なメンバーと知り合ってんなお前等」

 

「まぁ、とても楽しそうな人達ですわね」

 

「…人間じゃねぇのも一人いるけどな、そこの馬面」

 

『馬面と呼ぶな、ジンバと呼べ』

 

「おぉ~いっぱい集まったね~♪」

 

その後、ロキやルカだけでなく葵、ジンバ、ハルト、アリサ、すずか、ユーマ、ルナ、エヴァといったメンバー達も次々と集まり始めていた。役者が揃っていく中、ハルトはある事に気付く。

 

「ん? そういやルイちゃんやリリィちゃん、それに咲ちゃんはまだなのか?」

 

「ルイなら、今頃リリィを迎えに行ってる最中だろうよ。ルイから迎えに行くついでに、二人で今日の夕食の買い出しも済ませるって連絡あったしな。咲もさっき連絡があって、もうじき到着するってさ」

 

『そうか。早いところ、ルイ殿とも顔を合わせたかったが…』

 

「ま、仕方ないね。まぁこれだけ人数が揃って来たんだ、まずはこの休暇中のプランでも立てて―――」

 

その時だった。

 

「…!」

 

スノーズが何かに気付き、開いている窓の外を睨み付ける。

 

「? スノーズさん、どうしたの?」

 

「…一瞬だけ、何かおかしな気配を感じ取れた」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

-ブゥゥゥゥゥゥゥン-

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

直後、タカナシ家の家にも衝撃波のような何かが襲い掛かってきた。同時に一同の身体の動きもスローになり、思うように身体を早く動かせなくなる。

 

「な、何だこれ…!?」

 

「身体が、遅く…」

 

その数秒後、またも衝撃波のような何かが発生し、同時に一同の動きも元のスピードに戻った。再び自由に動けるようになった一同の中、戦闘手段を持つ者達は周囲を警戒する。

 

「な、何だったのでしょうか? 今の…」

 

「俺達、今スローになってたよな。身体が」

 

そこへ、咲が慌てて飛び込んで来た。

 

「皆さん、大変です!!」

 

「咲、どうした?」

 

「ここへ来る途中、ルイちゃんのカバンを見つけたんです!! なのに、肝心のルイちゃんが見当たらなくて…!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

咲のその言葉に、一同は確信した。

 

自分達はまた、厄介な事件に巻き込まれてしまったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前…

 

 

 

 

 

「―――ぅ、ぅん…」

 

シュトルヒの襲撃を受け、気絶させられてしまったリリィ。意識を取り戻した彼女は倒れている状態から起き上がろうとしたが、両手と両足が鎖で縛られている為にそれは叶わなかった。リリィはまず周囲を見渡し、自分のいる場所がボロい部屋である事から廃墟らしき建物だと確認。そして自身のすぐ近くに、同じように縛られたまま未だ意識を失っているルイを発見する。

 

「ルイちゃ…」

 

「ふん、目が覚めたようだな」

 

「!」

 

リリィの前に、バリアジャケットを纏ったシュトルヒが姿を現した。リリィが睨みつける中、シュトルヒはクククと余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「私達を人質にして、旅団の仲間を誘き寄せようって魂胆かしら? そう上手くいくとは思えないわね」

 

「口の減らん女だな……まぁ良い。調べてみたところ、お前はあの白黒の傭兵の身内だそうじゃないか。そしてそこで未だ眠っている娘は、その白黒の傭兵の妹である事も調べはついている。人質としては、充分な役目を果たしてくれよう」

 

「そんな事をして、ただで済むと思うのかしら?」

 

「もちろん、正面から挑んで勝てると思うほど私だって馬鹿ではない。だからこそ……私はこの力を使わせて貰うのだよ」

 

シュトルヒは再び例の小道具を取り出し、リリィに見せつける。それは蝙蝠と自動車が組み合わさったミニカーのような形状をしていた。

 

「! それは…」

 

「説明しても無駄だろうが、教えてやろう。これはバイラルコアと言ってな。これを所持しているだけで、いとも簡単に重加速を引き起こす事が可能になる」

 

「重加速……さっきの、あの妙な能力の事ね」

 

「そう。だがこれは、ただ重加速を引き起こすだけが取り柄ではない。こう使うのだよ……フンッ!!」

 

「!?」

 

シュトルヒは小道具“バイラルコア”を、自身の胸部に捻じ込むかのように押し付ける。すると彼の身体が突然変異を起こし、蝙蝠の羽を模した角を生やした機械生命体のような姿に変化した。その胸部にはプレートのような物があり、そこには『PRT』という文字が刻み込まれている。

 

『クククククク……クハハハハハハハ!! 力が漲って来る……これが“ロイミュード”の力か…!!』

 

(ロイミュード…?)

 

『ハァッ!!』

 

「ッ!?」

 

機械生命体“ロイミュード”としての怪人態を手に入れたシュトルヒは、再び重加速を発動。またしてもリリィの身体の動きがスローになり、シュトルヒだけが普段通りの速度で動けていた。

 

『いくら白黒の傭兵と言っても、重加速で動きを遅くされてはどうしようもあるまい。やり方次第では、他の連中も安全に始末出来よう』

 

「ッ…!!」

 

そして重加速が収まり、リリィの動く速度がまた元に戻る。シュトルヒはそんなリリィの頭を掴み、無理やり彼女の身体を起こす。

 

『どうだね? 大人しく、私の駒として利用されてくれると助かるのだが』

 

シュトルヒの右手がリリィの顎をクイッと上げ、彼女の胸元を人差し指で触れる。そのまま指が下方向へと厭らしく移動する中、リリィはゴミを見るかのような目でシュトルヒを見据える。

 

「…お断りね。あなたのそんなやり方で、あの人達が負けるだなんて到底思えないもの」

 

『……』

 

-バキッ!!-

 

「ッ…」

 

その言葉が気に食わなかったのか、シュトルヒは怪人態のままリリィの顔を裏拳で殴りつけ、リリィの身体が再び床に倒れ伏す。

 

『本当にイラつかせてくれる……まぁ良い。君が私の言う事を聞かないのであれば、代わりにそちらの娘を利用するまでの話だ。君とて、それは都合の悪い話じゃないのかね?』

 

「ッ…貴様、彼女を巻き込むな!!」

 

『それは君の協力次第だ。自分が今どうするべきかは、言わずとも分かってるな?』

 

「く…!!」

 

シュトルヒは右腕を機関銃のように変化させ、リリィの眼前の床に銃弾を撃ち込む。銃弾の撃ち込まれた床から煙が吹き上がるのを見て、リリィは悔しげな表情で歯軋りする。

 

(悔しいけれど、私一人じゃ確かにどうしようもない。せめてキリヤさん達が来てくれれば…)

 

『では、これも使わせて貰うとしよう』

 

「…!」

 

シュトルヒは何処からか取り出したスーツケースを開く。その中に入っていたのは、先程シュトルヒが取り込んだバイラルコアとは違い黒色ではなく、赤色のカラーリングが施された特殊なバイラルコアだった。

 

『こちらはネオバイラルコア。これは非常に特殊でね。本来は悪人にしか使えない代物だが、マウザーの研究のおかげで、善人相手でもこれを使う事が可能になったのだよ……とはいえ、それでもまだごく僅かな数しか完成はしていないようだが』

 

「何…?」

 

『さぁ、リリィ・マッケージよ。私の復讐の為、存分に役立って貰おうか』

 

シュトルヒはその手に持ったネオバイラルコアを、リリィの身体に近付けていく。手足を拘束されてしまっている以上、今のリリィには反抗の術が無かった。

 

(キリヤさん…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、別の場所では…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか、重加速反応があったって場所は…」

 

okakaもまた、重加速の反応を感知して海鳴市へと到着していた。

 

(反応は、ここから遠い東にある森の中……その先に廃墟があるな。人の出入りが少ない場所のようだが……何故こんなところにロイミュードが…?)

 

到着したばかりである為、シュトルヒがロイミュードの力を手にしている事や、彼がリリィとルイを人質に取っている事をokakaはまだ知らない。彼はレーダーの反応を追いながら、重加速が起こった廃墟まですぐに移動しようとした……その時だった。

 

-ズキュンッ!!-

 

「!!」

 

彼の足元に、一発の銃弾が撃ち込まれた。立ち止まったokakaが振り向いた方向にある街路樹……その陰から、髑髏のマークが付いた海賊帽子を被った黒コートの男が、右手に持っていたハンドルグリップ型のガジェットをokakaに向けながら姿を現した。男は仮面を付けている為、その素顔は見えない。

 

「…貴様、OTAKU旅団の一員だな?」

 

「そういうお前は、恰好からして海賊のようだな。ただの次元犯罪者ではなさそ……ッ!?」

 

言いかけたところで、okakaは男が構えているガジェットに気付いた。

 

「お前、それを何処で…!!」

 

「知る必要は無い」

 

男は構えていたガジェット“カトラスガンナー”の銃口を、自身の左掌に押し付ける。するとパイプオルガンのような音楽が鳴り響き、男はカトラスガンナーを再びokakaに向ける。

 

「変身」

 

≪CAPTAIN OF PIRATES!≫

 

「!? ぐぅ!!」

 

カトラスガンナーの銃口から大型の髑髏状エネルギーが発射され、okakaが両腕で防御すると同時にそれはバラバラに砕け散る。そして砕け散ったエネルギーがパーツとして男の全身に纏われていき、男は変身を完了した。海賊帽子のような形状の頭部、仮面の髭のような意匠、海賊の服装を模したボディ、額に刻み込まれた髑髏のマーク、そして背中に装備されている黒いタイヤ状のパーツ。その姿を見たokakaは内心では驚きつつも、それを表情に出す事は無い。

 

「…お前、何者だ?」

 

『俺はルイス・カトラー……かつては“黒ひげ”と呼ばれていた』

 

「!? 黒ひげだと…!!」

 

『だが、今は違う。俺は生まれ変わった…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は仮面ライダーティーチ……時空管理局の“処刑人”だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュトルヒ・アークライト。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーティーチ。

 

 

 

 

 

 

二つの脅威が、OTAKU旅団へと牙を剥く。

 


 
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