ガンレオンと応龍皇が戦っている最中でリンディ・ハラオウンはモニターに映し出された通達に苦い顔をしていた。
地球で活動しているアパートのロビーで通達内容を読み直しが、内容は変わらない。
『八神はやてとその守護騎士の強制送還。高町なのはの療養地移送。フェイト・テスタロッサ執務官補佐の強制送還』
事実上、この世界地球からの完全撤退だった。
リンディは考えないでも分かる。使徒という怪物を相手に将来有望な彼女達をこの世界にとどめておくのはあまりにもリスキーな判断だ。
それでも未だに大人と子供の彼女達がこの世界。友人や家族達がいるこの世界を見捨てられるはずがない。
自分の義理の娘フェイトの初めてできた故郷ともいえる世界を見捨てたくはない.という母心でリンディは管理局本部に上告しようとして思いとどまった。
こんな死が近くに存在している場所に自分達はいても大丈夫なのだろうか。と、
あの使徒というのはジュエルシード事件と違い、危険となる存在への対処方法が厳しすぎる。
あの使徒というのは闇の書事件と違い被害に遭う場所や状況が違いすぎる。
果たしてこの世界に留まる事がフェイトの為に。管理局の為になるのだろうか。
しかも並行世界からやって来たというプレシア・テスタロッサの存在は否応が無くフェイトに影響を与えてくる。
今のフェイトとプレシア。正確にはこの世界にいたプレシアと向こうの世界からやってきたプレシアの差異はあのガンレオンの操者と関わったという点以外ほぼ同じ行動を取ってきた。それ以降は紆余曲折しながら深すぎた溝を埋めてきたようだが、こちらのフェイトは未だにプレシアに対する畏怖。もしくは愛情を欲しているのかもしれない。
リンディは悩んでいた。この世界を出ていくべきかどうなのかを。
そんな時だった。
新たな使徒が現れてコクボウガー。そしてガンレオンが出撃したことを知らされた私は慌てて自分の目の前に新たなモニターを表示する。
そこには新たな使徒と思わしき物体を海のある方へと押しやる獅子の姿があった。
それを確認すると同時に新たな通達が来た。
ガンレオンのデータ収集。可能であるのならばその操者と関係者の懐柔。協力を取り次ぐこと。
その為の手段は択ばない。この件に関してのみ八神はやて。ヴォルケンリッター。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの滞在を認める。
高町なのはに関しては本人の意志も尊重するが、可能な限り管理第一世界ミッドチルダへ戻るようにとの指令だった。
今のところガンレオン。そしてあるグランツ研究所と関係しているのはフェイトと八神一家だ。彼女らを通してあの巨大兵器の情報を探ろうという腹だろう。
系統は違えどガンレオンはバリアジャケットと同じ魔力で出来た物だ。その上、プレシアは魔力を失っているとはいえ、グランツ・フローリアンとともに共同制作しただろうD・エクストラクターなる物を作り出した。いや、グランツ自信を調べた所彼と共同でというよりもプレシア達が元から持っていた技術かもしれない。
ここよりも少し未来。並行世界から来たと言うだけあって無償でカートリッジシステムの改良点を提示してきてくれた彼女の技術力。情報を得たいのだろう。
ガンレオンという戦力。プレシアの技術力を得られるならこの世界に居ても言うというある意味脅迫にも似た指令だ。
しかもフェイトに対する親心。フェイトが守りたいと思う人間が住む世界を守り続けたいというのであれば、彼等から何らかの情報。利益になる物を入手してこいという事だ。
正直に言うのであればこちらの指令は受理したくはない。だが、今まで大変な目にあって来たフェイトの思い出の地を破壊されたくもない。
リンディは複雑な心境のまま地球で起きている異常事態。使徒の襲来の対応に追われることになった。
少し時を遡って、海鳴市第七シェルター。
なのはやシンジ達が通う.中学校の下に建設されたシェルターで自分の義母でもあるリンディから一度、管理局の駐在所兼アパートに来るように指令を受けたフェイトは退院したてのなのはに対して小さな子どもに言い聞かせるように話しかけていた。
「なのははここに居てね。魔法が使えるとはいっても浮遊魔法も満足に使えないんだから。援護射撃を使用しても駄目。それから」
「にゃはは。フェイトちゃん心配しすぎだよ。それに今の私が行っても足手まといなだけだし・・・」
「え、ええっ。そ、そんなつもりじゃないんだけど」
若干落ち込んだ表情を見せる親友にあたふたと慌て始めるフェイト。
そんな二人のやりとりを見て呆れているのは幼馴染のアリサとすずかだった。
「だめだよ、なのはちゃん。フェイトちゃんは純粋なんだからそんなふうに言ったら心配されちゃうでしょ」
「なのはの事は私達が見ているからフェイトもフェイトでしっかりやってきなさい。それがなのはを。私達を守ることにつながるんだから」
少女達が戯れているように見えても状況は変わらない。
だが、少女達が死地に赴かなくても希望は残されている。
ガンレオン。エヴァ。コクボウガー。
三機のスーパーロボットがあるんだから大丈夫だとアリサ達を含め、全員が希望は残されていると楽観的にとらえていた。
使徒の砲撃で地震が起こるまでは。
「地震っ!地下にいるのに地震とかシャレにならないわよっ」
アリサの言う通り、地下にいる状態で生き埋めとなれば食料や水よりも先に酸素が無くなってしまう。
先程まであてにしていたスーパーロボット達のうち二つが既に戦場となっているだろう港付近から姿を消したという連絡を受け取ったフェイトは愕然としながらもシェルター内に設置された個人トイレに駆け込んで転移魔法を使い、自分の義母であるリンディの元へと向かった。
そこには既にはやてとその騎士シグナムとシャマルがモニターに映し出された使徒の絵像を憎らしげに見ていた。
「・・・空飛ぶ怪物。一度は海に追い出したのに巨大な海龍が邪魔さえしなければ事は収まっていたのに」
「管理局の監視魔法でも捉えられない。あれほど巨大なのに魔力も熱源も感知させずにガンレオンに接触するなんて・・・。それともガンレオンから発する魔力と熱で探知できなかった?」
「ここで問答しても状況は変わらない。…どうなされますかリンディ提督」
シグナムがリンディの方に目を向けると彼女は目を閉じて熟考しながらもこれからどう動くべきかを考える。
「・・・クロノ。そっちの方で採れたデータ内容はどう?」
『師匠達のジャミングが効いているお蔭で結構なデータが取れました。・・・最悪なデータがね。奴のバリアを破るにはなのはの黎明期だった頃のスターライトブレイカー三発分を圧縮しないと打ち破れない事が分かりました』
使徒の攻撃が来ても避けられる。もしくは転移で逃げ切れる位置にクロノ・ハラオウン。そして彼の師匠であるリーゼアリア・ロッテがデータを送る。
『正直に言うとあの黄色のロボットじゃないと無理。使徒がNERVを目指して進行しているならその射線上軸から逃げた方がいいね』
自分達に勝つ手段は残されていない。そう伝えられたフェイトはまぶたが熱くなりそうだった。
「私とはやての。ううんっ、ここに居る全員で魔法を放てば」
「それは無理よフェイトちゃん。私達にはなのはちゃんが。『収束』特化の魔導師がいないとアレを倒すことは出来ないわ」
シャマルは悲しげに首を振りながら説明する。
固さが1000ある壁があるとしよう。
その壁を打ち破るには1001の威力があるものをぶつけなければならない。
確かに自分達の持つ最大戦力を投入すれば1000を超えることはできる。
だがそれは1001の力に圧縮できればの話だ。
1000の壁に900近くの攻撃を何度打ちつけても破る事は出来ない。
それが可能にすることが出来る魔導師。それは『収束魔法』を得意とするなのはだけだ。
「そのなのはちゃんも未だにリンカーコアが不安定。今だって浮遊魔法どころかシューター一発も打てない状況。私達には使徒の時間稼ぎくらいしか出来ないの」
しかも一度でもミスを犯せば死に直結する文字通り命がけの足止めだ。
「じゃあ、あのロボットはっ。ガンレオンは何をしているの!」
フェイトは声を荒げながらモニター越しのクロノに問いかける。
『ガンレオンは今、巨大な龍と戦っている』
何をしているの!
フェイトはそう叫びたかった。
違う世界の人間だと分かっていても、いつの間にかプレシアの傍にいたロボットが何暢気に龍と戯れているのかと、問い詰めかけた直前にシグナムにかたを掴まれ、次に出た言葉と共に止められた。
「使徒以上の攻撃力を持つ化け物と戦っている。使徒を町から突き放した後にその龍に襲われたのだ。まるで使徒を守るように。そして、ガンレオンを元から狙っていたようにな」
複数のモニターが浮かび上がっている中で端にあったモニターをシャマルが操作し、拡大する。
そこには鋼鉄の獅子に食らいつく青い龍の姿があった。
ガンレオンより巨大で威圧感があるその姿に先程まであった怒りが収まるほどの映像だった。
海中の映像までは拾えなかったが、空から映し出された映像からもその龍の巨大さと力強さが伝わった。それに対抗するために足掻くガンレオンに文句を言うのは筋違いという物だ。
そして、使徒と相対する以上にこの龍に対しての対抗策が見えない。それほどまでの力。
成す術も持たない自分の脆弱さにフェイトは絶望しかけていた。
『リンディ提督っ、NERVより入電っ。使徒への援護要請が出されましたっ、どう対処しますか!』
別のモニターからはアースラのオペレーターのエイミィからどうしようもない応援要請の報せにリンディは項垂れるしかなかった。
「・・・アルカンシェルの準備を」
「義母さん?!」
超重力を持って対象を圧潰させる魔導の砲撃。
その威力はリンディが知る中で最強を誇る兵器の名前。
その威力故に爆心地になった周辺数十キロ内にあるもの全てを破壊しつくすだろう。
「・・・奇襲攻撃は取られないのですか?」
「今一番攻撃力のある攻撃を出せるのは誰?」
「・・・恐らく私でしょう」
「では、改めて聞くわ。シグナム、貴方は一撃であの使徒を屠る事は出来る?」
「無理ですね。ヴィータならともかく。私の攻撃では奴の心臓。核とも言えばいいのか、それに達する前に反撃。もしくは防御されて終いでしょう」
「そもそも私達は管理局本部からリミッターを受けている受刑者ですからね」
シャマルの言葉にはやては表情を暗くした。
闇の書事件。そして、過去に侵した罪により守護騎士達はリミッター付きという保護観察を受けているような物だ。
そして、それは前回の使徒襲来時に強いものとなった。
いくら非常事態とはいえ、
八方ふさがりとはこの事だ。
「だからって、アルカンシェルを撃てば」
「今の距離ならなのはちゃん達がいるシェルターまでギリギリ被害は及びません。他の住人も各シェルターに逃げ込んでいます。人災は極力避けられます。最少出力で放てばの話ですが・・・」
自衛隊とグランツ研究所の働きもあり、海鳴の地上にはほとんど人はいない。
だが、今もどうにかしようと自衛隊の面々。そして、NERVのスタッフ達が地上でまだ活動している。
彼等を無視してアルカンシェルを撃つなど人道的に反する。
「最終的にはこの町を犠牲にしてでもアルカンシェルを撃ちこみます」
「義母さん!」
リンディの苦渋の表情に内心を察しながらもフェイトはすがるように願いを請う。
「ここにはなのはが。アリサが、すずかが、私の思い出がたくさん詰まっている場所なんだよっ、それを!」
「・・・フェイトちゃん」
必死にリンディを止めようとしているフェイトの姿を見てはやても泣きそうになった。そんな時だった。
『邪魔するぞ』
『ディ、ディアーチェ。駄目ですよ、通信に割りこんじゃ・・・』
銀髪の少女と緩いウエーブの掛かった金髪の少女を映し出したモニターが浮かび上がった。
「え、あ、わ、私?」
『ふん。我と瓜二つとはいえ、中身はまるっきり違うな。獅子から我と同じように臣下を揃えていると聞いていたが、もう諦めるとは情けない』
呆れた表情を見せる銀髪の少女ディアーチェはポカンと口を開けたはやてを見て嘆く。
「管理局の通信に割り込み?!どれだけの技術力を持ってるの?!」
『あ、あの~、一応知らせているとは思うんですけど、グランツ研究所から反攻作戦を立てているので出来れば御助力をお願いしたいんですけど・・・』
ウエーブの少女、ユーリはおどおどと手を上げながらリンディ達に願い出た。
並行世界とはいえ、あちらは十年先の技術。いや、D・エクストラクターを作り出したプレシアの技術を使った通信技術があれば可能だと簡単に説明もしておく。
「何か手段があるの!」
フェイトはその言葉に飛びついた。
彼等に使徒を。この町を守れる手段があるのかとユーリに問いかけた。
『ひゃ、ひゃいっ。そ、その為にも皆さんのご助力が必要なんです』
『これ、そこの黒ひよこ!ユーリを怯えさせるでない!』
黒ひよこと呼ばれたフェイトはそれを気に留めずユーリとディアーチェの言葉を待った。
『まあ、こちらもNERVとかいう胡散臭い連中と同じような事を頼むのは癪なのだが足止め。そして、人員を貸してほしい。出来るだけ精神力が高い。いや、根性がある奴をな』
ディアーチェとユーリから反攻作戦。それは、
D・エクストラクター七号機『紫天の書』による収束砲撃という、魔力ではなく想いを束ねた一撃を使徒へ放つ作戦だった。
おまけ。またの名を次回予告。
決行!!「パワーをメテオに!」「いいですとも!」作戦!!
はやて「失敗フラグ?!」
流石にシリアスな状況でボケをかますのはいけないと思ったんで・・・。
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第十七話 D・エクストラクター七号機