ごちゆり8~シャロ誕生日SS~2015
「ありがとうございました~」
私の勤務時間内の最後のお客さんに声をかけてから、従業員にも一声かけて
更衣室で着替える。気のせいかいつもより体がだるくて頭があまり働いていないように
思えた。
そんなちょっとした違和感を持ちながら外へ出ると強い日差しが私に注がれる。
眩しくてちょっと目の上に手を当てると少し離れた場所からリゼ先輩が歩いてくるのが
確認できて私は先輩の元へ小走りで近づいて声をかけた。
「リゼ先輩!」
「あぁ、シャロ。今バイト終わったところか、お疲れ様」
「あぁぁ・・・!私には勿体ないお言葉です・・・!」
「ちょっと大げさだぞ。・・・ん?」
「どうしました?」
笑顔から少し真剣な面持ちになって少しドキッとしたその時、
スッと私の額に手を当ててくる先輩。
「リ、リゼ先輩?」
「あ、いや・・・。何だかいつもと様子が違うなと思って」
熱はないよな・・・と呟くように言うリゼ先輩。私はいきなりのことで何がなにやら
わからない状況で驚きを隠せないでいた。ただ、先輩の手の感触と温もりが
額越しに伝わってすごくドキドキしていたのだけはわかっていた。
「い、いつも通りですよ・・・」
「そうか・・・それはすまなかったな」
「い、いえ・・・」
ただ・・・。私はふと頭に浮かんだのはこのまま何もしないと普通に別れて帰る
だけになってしまうだろうと考えると、少しでも長く先輩と一緒にいたいという
気持ちが湧いてきた。
「あ、あの!」
「ん?」
「この後、お暇があったら私の家に来ませんか!?」
「いいのか?」
「ひゃ、ひゃい!」
これまでの人生の中で1、2を争うくらい緊張してなおかつ勇気を出したのではないか
って思うくらい自分でも驚くほど、スッと言葉が出てきた。
その後二人で一緒に歩きながら私が誘った理由を探していると、ふと浮かんだのは
あの強面のウサギの姿だった。そうだ、ワイルドギースを使って先輩ともっと
お近づきになろう!という考えが浮かんだ直後、リゼ先輩が少し驚いたような反応をして
私に声をかけてきた。
「大丈夫か、シャロ?」
「ふぁ、ふぁい!? 何がですか!?」
「いや・・・何だか怖い笑い方してたから」
「え、私そんなことしてました!? はずかしいい~・・・」
「そういう問題じゃない気もするが・・・まぁ、いいか」
危ない危ない。私の脳内が外に漏れていたんじゃないかって本気で不安になったけど。
そこは何ともなくて良かったけれど、変な笑い方聞かれて先輩に変な子だって
思われちゃったんじゃないかって別の方向で凹んでしまった。
甘兎庵の隣にある小さい建物。私の家に辿り着いた時、私は外に置いてあった
小屋を覗いてみたらあの子の姿はなかった。もしかして・・・。
ガチャッ。
「ど、どうぞ先輩。小さな場所ですが・・・」
「そんなことはないぞ。私はこういう空間は好きな方だからな」
家の中を簡単に見回すと何かに気付いたリゼ先輩は私の使ってるベッドの近くに
行って何かを持ち上げてきた。
それは大人しく抱き上げられているけれど、すごく怖そうな顔をしている
ワイルドギースの姿だった。ワイルドギースは先輩の手から抜け出ると私の足元に
擦り寄ってくる。
「ひぃ・・・!」
「どうだ、最近二人仲良くしてるか?」
「ひゃ、ひゃい!してまふ!」
「そうは見えないが・・・」
私の反応を見て少し苦笑気味に笑っていたが、苦手なものがすぐに良くなるわけは
ないよなって言いながら丸テーブルの近くに腰を下ろした。
「あ、先輩飲み物何がいいですか?」
「? 別に気を遣わなくてもいいぞ」
「そうじゃなくて、私が先輩に淹れてあげたいんです」
「そうか・・・ならシャロのオススメのがあれば」
「はい・・・!」
ここまでスムーズに話が出来てる。ワイルドギースのおかげかもしれないかな。
後であの子の好きなものでもごちそうしてあげようかしら、特売で買ったものだけど。
それからしばらく二人で談笑をしていると、先輩はジッと私の顔を見ていることに
気付くと、少し心配そうな表情で私との距離を縮めてきた。
「やっぱりいつもより疲れてないか?」
「あ、そ、そうかもしれませんね・・・」
言われてみればいつもより肩も凝ったりだるさが抜けなかったりしていたけど
今先輩といるのが幸せすぎてあまり気にならなかったのだけど。
「今日はもうゆっくりしたらどうだ、ほらここに頭乗せて」
「はい・・・って・・・!ここって先輩の膝じゃないですかー!?」
「嫌か?」
「嫌じゃないです!ありがたすぎてもう一生頭洗えなくなります!」
「いいからさっさと横になれ」
「ふぁ、ふぁいいっ・・・!」
強めに言われて私は先輩の膝の上に頭を乗せるとほどよい感触が頭から伝わってくる。
そして何だかいい匂いがしてくるような気がした。これって先輩の匂い・・・!?
何だか体調とは別に眩暈がしてくるような気がしてきた。
クラクラしてきて、でも全然嫌な気持ちなんかしなくて。それどころかすごく幸せで
ずっとこうしていたいという思いがずっと思考の中を支配していた。
だけどそんな風に思えるほど時間が経過するのが早すぎて・・・。
「じゃあ、また学校でな」
「はい・・・」
「ワイルドギースにもよろしく言ってやってくれ」
「はい・・・」
「・・・そんな顔をするな。私も今日シャロと二人でいて楽しかったんだぞ。
普段しないようなこともして、すごく気分が良かったのは私だけだったのかな?」
「え・・・?」
リゼ先輩の言葉にやや俯いていた私は頭を上げると、少し頬を赤らめて目を
潤ませた先輩がいて。その瞬間。
チュッ
私の額に軽く口付けをして振り返った。少しうわずったような声で。
「こ、今回だけだからな! 次はもうないからな・・・」
「は・・・はい・・・!」
そう言って私の前から逃げるように去っていった先輩を見送ってから私は柔らかい
感触のした額に指を当てて、遅れてきたドキドキが爆発しそうなくらいに私の中で
高鳴っていた。
「先輩・・・!」
もはや頭を洗わないどころではない、一生分の運を使ってしまったんじゃないかって
くらいに驚きと幸せな気持ちが入り混じる。
いや・・・。運で済ますのは先輩に失礼だ。
もう私の視界には先輩の姿はないけれど何もない空間に先輩の姿を見て小さく頷いた。
「私・・・がんばります!」
バイトも学業も、先輩のことも・・・!
いつか振り向いてもらって、きちんと二人で向き合えるように。
強い決意を持って空を見ていると、ちょこんと頭の上に何かが乗っかってきた。
このモサッとしてズシッとするものは・・・。
「きゃあああああ!」
ワイルドギースが私の上に乗って私の悲鳴によって地面に降りて私を見上げてきた。
まるで私を応援するかのような眼差しで。多分違うかもしれないけど今の私には
そう感じられた。
「・・・ありがとう」
そうだ、特売のにんじん一本をこの子にあげよう。そう思い立って私は家の中に
入っていった。
こんなことがあって次の日先輩と顔を合わせるのはちょっと照れくさいけれど、
とりあえずは今まで通りの私で、それから少しずつ近づいていければいいなと
思った。
お終い。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
表紙とは関係なくリゼシャロ。基本千夜シャロが好きですが、この作品誰とくっついてもすごく可愛いと想うのです(*´﹃`*)とか考えながら書いた品。楽しんでもらえたら幸いです。ちなみに自分はチョー楽しめました(*´ワ`*)←
イラスト→http://www.tinami.com/view/789559