No.788944

ちょっとだけ予告編! 第2回「記憶喪失」

Studio OSさん

五年後の世界に放り出されたことが確実になった、わたしは…

2015-07-11 21:49:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:403   閲覧ユーザー数:403

オープニングミュージックhttps://soundcloud.com/ryo-inui/our-future-short-ver

 

 

 西暦2018年5月4日金曜日

 わたしは部屋の真ん中で座り込み、途方に暮れていた。

 確かに今この時間はわたしの知っている西暦2013年ではない。

 

 あれからわたしは彼の制止を振り切って、自分のアパートへ向かった。彼の

言うことがとても信じられなかったのだ。

 

 (ブランコから落っこちたくらいで5年も時間がぶっとんでたまるかっ!)

 

 弱気だったわたしにそんな自信を取り戻させたのは、ポケットに入っていた

アパートの鍵。スヌーピーのキーホルダーを握りしめ、わたしは見慣れたドアの前に

立った。

 

 ところが。

 

 わたしのアジトの扉の上には知らない人の表札が「なんだこのやろう」

とばかりに見下ろしていたのだ。

 

 「納得しました?君の家はここじゃないんだよ」 

 

 呆然としているわたしに追いついた彼が言った。

 

 「でも、あたし、鍵持ってるのよ!」

 

 必死の思いで鍵穴に差し込もうとするわたしの右手をあわててとどめると、彼は

ぐいぐいわたしの腕を引っ張って、アパートの影へ連れてゆき、真剣な顔で言った。

 

 「いい?多分鍵は変えられているから開かないと思うけど、万一、開いたとしたら

君は完全に不法侵入で警察のやっかいになりますよ」

 

 「でも、でも!」

 

 泣き出しそうなわたしに彼は優しい顔に戻る。

 

 「おちついて。大丈夫。今度はボクについてきて」

 「...」

 

 あたしはべそをかきながら彼の後ろについてゆく。

 緑ヶ森を出、桜橋へ。見慣れない建物がいくつも建てられていて、ますますわたし、

不安になる。

 連れてこられたのは新しく建てられたばかりの小綺麗なアパート。花壇なんかが

あって赤いツツジが花を付けている。その部屋の郵便受けにはしっかりとわたしの名前

“野坂”。間違いなくわたしのきちゃない字で。

 

 ドアの前に立つ。

 

 「ここが君の家」

 「で、でも、わたしこの家の鍵、持ってません!」

 

 彼はポケットからじゃらじゃらとキーホルダーを取り出すと鍵の一つを外し、

わたしに握らせた。

 

 「ちょ、ちょっとまって!もしここがわたしの部屋だとしてよ、どうして

 あなたがわたしの部屋の鍵を持っているの?わたしとあなた、どういう関係?」

 

 「では、赤の他人ということにして、ここでさよならしましょうか?」

 

 「あっあっ!待って、待って!さよならはもう少しあと!!」

 「冗談ですよ」

 

 必死に引き留めるわたしに、彼はおどけて笑う。

 わたしは促されるまま鍵を開ける。

 

 「あっ!」

 

 玄関に入ると、直感した。

 そう。わたしのもの。わたしの生活感がある。

 

 無意識に靴を脱ぎ、部屋に入る。 

 お気に入りのロックウェルの絵。ゴジラのぬいぐるみ。サボテンの“ちよみちゃん”。

 間違いない。

 

 あたしは座り込んだ。

 

 「記憶喪失だよ」

 

 彼は言った。

 

 「ブランコで頭を強く打ったせいで記憶をなくしたんだろうね」

 

 そうなのかもしれない。そう考えれば、筋が通る。鍵だって、引っ越したあと返すの

忘れたスペアキーをたまたま持っていただけだったのだろう。そう思ったら、後頭部が

またジンジンしてきた。

 

 

 それからわたしは20分ほどこうして見知らぬ自分の部屋で膝を抱えている。

 

 病院へ行こうと勧める彼に一人にしてほしいと頼むと、心配しながらも

わたしの言うとおりにしてくれた。

 閉まる、玄関のドア。

 遠ざかる足音。

 あの人、いい人なのかもしれない。

 

 そして、あたしはひらめいた。

 

 (バチが当たったんだ)

 

 そう。「人生めんどくさい~」なんて思っていたから、こんな事になったんだ。

 おまけに大変なことに気がついた。

 

 「あ~っ!あの人の名前と連絡先聞くの忘れたっ!」

 

 なんて事だ。わたしはホントにひとりぼっちになっちゃった。

 

 (えーん!神様ごめんなさい~、わたしがバカでしたぁ~)

 

 あたしが海より深く反省していたとき。

 

 電話のベルが鳴った。

 

              次回「女神様からの電話」につづく

 


 
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